【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ   作:ガルカンテツ

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第十九話 困惑
Part-A


「あー、ミヤコ様の十二単(じゅうにひとえ)、綺麗だったなぁ」

 

 『かが』艦内の第二食堂で、横田ユイは恍惚とした表情で呟いた。

 

 帝崩御の喪が明け、第04護衛隊の訓練も再開された。ユイは遅めの夕食を星菱レイと一緒に摂っている。

 

「ユイ、もうミヤコ様じゃないよ」

「そうだった。女帝陛下ね」

 

 服喪期間中はすべての訓練が中止され、完全な待機状態だった。一週間の服喪期間が終わり、腕に巻いていた喪章が外れると、空気も少し軽くなった気がする。

 

 皇国は現在、国を挙げての祝賀ムードに包まれていた。国民に絶大な人気を誇るミヤコ内親王殿下が、女帝として即位されたからだ。先代崩御の悲しみを払拭するため、努めて明るく振る舞おうとする国民感情もあるのだろう。

 

 女帝陛下が即位を公に宣明し、即位礼正殿の儀が執り行われた。皇居の正殿にある高御座(たかみくら)にて、女帝陛下は晴れの装束である十二単を纏い、即位を宣言されたのだ。

 

「あの十二単って、めちゃくちゃ重いのよね。確か総重量20kgくらいあるのよ」

「へー、詳しいね」

「7歳のお祝いの時、着たことあるからね。あれは子供用だけど」

「おお、さすがお姫様」

「単なる見世物と化していたわよ。暑いうえに重くて動けないし。陛下も大変よね」

 

 ミヤコが即位して大変なことは、衣装の重さだけではない。皇国のトップになるということは、国の象徴としての役割だけでなく、国政の最終判断という重責を負うことを意味する。

 もちろん重臣たちが全力で補佐するだろうが、16歳の少女にはあまりに重い荷だ。

 

 そうした事情もあり、皇国民全員で若き女帝を支えようという気運が醸成(じょうせい)されている。可憐な少女が巨大な玉座にちょこんと座っている姿を見て、守ってあげたいと思う国民は多いはずだ。

 

「ユイは即位礼正殿の儀に行ったんだろ」

「うん。でも直接陛下をお見かけすることはできなかったけどね。横田家として末席に参加しただけ。そういえばレイも、実家に帰っていたんだっけ?」

「あー、うん。実家というか、親父に会ってすぐに帰ってきたけどね……」

 

――

 

『社長、ご来客が』

「予定にはなかっただろう。帰ってもらいなさい」

『しかし、いらっしゃったのはご子息のレイ様でして……』

「……分かった。通せ」

 

 秘書に許可を出してしばらくすると、社長室の重厚なドアが開いた。

 

「久しぶりだな。レイ」

「親父……」

 

 服喪期間に思わぬ時間ができたレイは、気になっていたことを実行に移していた。

 父親を問い詰める材料ができたため、それをぶつけに行くべく、星菱家のあるヤマト州第三惑星カンサイまで足を運んだのだ。駐屯地のある第四惑星カントウからは定期便で数時間の距離。行こうと思えばいつでも行けた場所である。

 

 会うのは数年ぶりになる。これまで何の連絡もしていないし、向こうからも音沙汰なし。正月に帰省しなかった時でさえ、何も言ってこなかった。こちらから連絡するのは何だか負けた気がして避けていた。

 

 在室していると思われる時間を狙い、アポ無しで星菱重工本社に直接乗り込んだ。

 受付嬢や社長秘書にも顔を覚えられているため、顔パスでここまで来られた。忙しさを理由に門前払いされることも覚悟していたが、意外にもあっさりと通された。

 

「次の予定が詰まっている。5分だけだ」

 

 しかし、会って早々この態度だ。短い黒髪の男は書類に目を落としたまま、レイの顔を見ようともしない。レイの赤い髪は母親譲りだというのに。

 

「服喪期間じゃないの?」

「一般社員はな。役員などは休んでいられない。社員を食わせるためには、一刻の時間も惜しい」

「そっか」

 

 もう何度も繰り返したやり取りだ。今さら怒る気力も湧かない。レイはさっさと用件を済ませることにした。

 

「母さんに関してなんだけど」

「ん?」

「母さんの死因を知っている人がいた」

 

 父親である星菱ゲンの手が止まった。ゆっくりと顔を上げ、レイを見据える。

 

「どこからだ。まさかネットやメディアの憶測を鵜呑みにしたんじゃないだろうな」

「トロワ・ダッソーナという人」

「ダッソーナ?」

 

 ゲンはその名前に覚えがなかったが、ファミリーネームには聞き覚えがあった。

 

「フランクスの複合企業、ダッソーナ社の一族の者か?」

 

 ダッソーナ社は、航空機や兵器開発も手がける巨大企業だ。分野によっては星菱重工と競合する、文字通りのライバル企業である。

 

「でも、偽名だったんだ。本名はシャルルⅢ世だって」

「は?」

「この人」

 

 レイは手首のリングをタップし、ホログラム画像を表示してゲンに見せた。

 

「この方は?」

「フランクス王国の王子……じゃなくて、新しい国王になったって」

「……」

 

 ゲンは絶句した。息子がなぜ王族と? いやそれ以前に、なぜ他国の王族がカズミのことを知っているのか。

 

「どこでだ」

「内緒」

「くっ……」

 

 レイは父親の困惑した顔を見て、少しだけ溜飲が下がったようだった。

 

「まあ、死因そのものは聞いてないよ。本当かどうかまで分からないし。どうせ教えてくれないんだろ?」

「むむ」

「じゃあ用が済んだから帰るね」

「家へか? ハウスキーパーに連絡しておくが」

「いや、実家には帰らないよ。軍に戻らないと」

「そうか……」

「んじゃ」

 

 数年ぶりの再会だというのに、あまりにあっさりとした幕切れ。スタスタと出ていくレイの背中に、ゲンが声をかけた。

 

「レイ。まだ詳しくは話せない。だが、いつかは教えるつもりだ」

「……」

「そして私はカズミを愛している。それだけは覚えておいてくれ」

 

 レイは振り返らず、無言でドアを出て行った。社長室に一人残されるゲン。

 

「『死因』か……」

 

 机の上にある2つの写真立てを手に取る。そこには5歳のレイと、赤ん坊のレイを抱いたカズミの写真が収められている。ナノボットのデータを実体化(マテリアライズ)したものだ。

 

「カズミ。レイは成人して、口が達者になっていたよ。……真実を告げる時は、いつになるかな」

 

 写真の中のカズミを指でなぞる。

 

「その時は、君が決めてくれ」

 

 




【完結】NGチルドレン もよろしくお願いします
https://syosetu.org/novel/323311/
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