【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
無数のナノボット・メディアボールが浮遊し、記者席からは絶え間なくフラッシュが焚かれている。
大会見場には大勢の人々が詰めかけ、先日就任したばかりの新地球自由連邦首長、アビィ・ウェストミンスターの発表を固唾を飲んで見守っていた。
連邦首長は、「選挙侯」と呼ばれる特権貴族による選挙で選出される。12貴族は常任選挙侯として必ず参加し、首長選出に決定的な影響力を持つ。その結果は毎回、ほぼ12貴族の意向通りとなる出来レースであった。
サミットテロから2週間。ようやく連邦政府から、事件の全容に関する公式発表が行われた。
爆発物となったテーブルの入手ルートを追跡した結果、ある過激派テロ組織に行き着いたという。
テロ組織「ミルザム解放戦線」。彼らは早くから地球緑化プロジェクトの総責任事務官に接触していた。
サミットでの成果アピールに躍起になっていた事務官に対し、組織の息のかかった商人が「最高級の屋久杉テーブル」を提案。事務官はこれに飛びつき、賄賂を受け取ったうえで導入を決定した。
搬入は日程ギリギリに行われ、事務官の強権発動により検査もろくに受けず会場へ持ち込まれた。そして時限式の発火用ナノボットが起動し、あの大惨事を引き起こしたのである。
「我々は、テロ組織ミルザム解放戦線の指導者、サーマ・ビンラーデを首謀者と断定した」
新首長が犯人名を告げると、会場からどよめきが起きた。
「サーマ・ビンラーデの背後にはクイラ共和国が存在する。我々は48時間以内にクイラ大統領ダーム・イフセンに対し、犯人の引き渡しを含む査察受け入れを強く要求したが、クイラ政府はこれを拒否した。よって、地球自由連邦は軍事行動を開始する」
以前、ミルザム湾戦争で干戈を交えたばかりのクイラ共和国との再戦だ。
また、戦争が始まる。
――
「これで良かったのかしら……」
皇国女帝ミヤコは、執務室で小さく呟いた。小柄な彼女には、重厚な執務机と椅子はあまりに大きすぎる。
広い室内には、女帝のほかに二人しかいない。その一人、若くして侍従長に就任した佐世保シズカが反応する。
「賢明なご判断だと思います、陛下」
連邦がテロ首謀者確保のため、クイラ共和国との開戦を決定した。それに伴い皇国にも多国籍軍への参加打診があり、皇軍の派遣が決定されたのだ。
「先帝暗殺の犯人を放置しておくことはできません。皇国民の総意としても、多国籍軍への参加は不可避でしょう」
「そうかしら……」
「まあ、テロの証拠は連邦が握っていますので、本当に犯人が連邦の発表通りなのか、こちらでは検証しようがありませんが」
「そうなの?」
初耳だと言わんばかりに目をぱちくりさせる女帝。シズカは冷静に解説を加える。
「はい。情報本部が調査中ですが、どうやらクイラの背後に、さらに真犯人がいるようです」
「真犯人?」
「連邦の12貴族の一部が関与している疑いがあります」
「ええ!?」
地球自由連邦を裏から支配すると言われる12貴族。彼らが関わっているとなれば、自国の首長を暗殺したことになる。
「連邦首長は、すげ替えの利くお飾りに過ぎませんから。余程都合が悪いことがあったのでしょう」
「そんな……」
「もっとも確たる証拠はありませんので、公には何も言えませんが。連邦との外交関係もありますし」
「そう。国際政治は難しいわね」
頬に手を当て、女帝は深いため息をつく。そして部屋にいたもう一人、百里モミジにも声をかけた。
「モミジのお父様も参加するのよね」
「はっ。近衛師団長ですので当然であります。必ずや先帝陛下の敵討ちを果たすと確信しております」
「敵討ちって……時代劇じゃないんだから……」
近衛師団所属のモミジだが、彼女の父もまた近衛師団長を務めている。
正式に多国籍軍への参加が決まり、皇軍からは第01護衛隊群と近衛師団が派遣されることになった。
特に近衛師団は、帝を護衛すべき立場にありながら暗殺を許してしまったという汚名がある。その意気込みは凄まじく、護衛隊群司令の横田ハジメ武将補から「少し落ち着くように」と通達が出たほどだ。
多国籍軍にはほかにフランクス王国、ローマリア共和国、ミルザム湾周辺国が名を連ねた。しかし、皇帝自身が被害に遭ったはずの汎ペルセウス帝国は参加を見送り、不気味な沈黙を貫いている。
主力となる連邦軍は、3個空母打撃群、総勢50万人の大兵力を派遣。「クイラ自由作戦」と称し、侵攻を開始した。