【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
橋頭堡を確保した多国籍軍は、揚陸艦を着陸させ、大量の物資を展開した。
巨大なコンテナ群や戦車などの車両が並び、瞬く間に前線基地が構築される。基地は住民のいない荒野に設置されたが、乾燥した砂漠地帯のため、砂埃がひどい。
「連邦軍第3歩兵師団、第1遠征軍、第1機甲師団、皇軍近衛師団、王国海軍第3コマンド旅団の展開完了」
「了解した。各部隊の兵站担当を招集。補給計画の再確認を行う」
「ラジャー」
連邦軍統合作戦本部では、全体の進行状況が確認されていた。特に兵站は生命線だ。
惑星揚陸した戦力だけで約13万人。この大軍を維持・運用するためには、食料、弾薬、消耗品など膨大な物資が必要となる。
だが、兵站の厚みこそ連邦軍の真骨頂だ。他国の追随を許さない圧倒的な物流能力で、自軍のみならず多国籍軍全体の補給を一手に引き受け、大規模部隊を十全に機能させていた。
この大軍をもって攻略すべき目標はただ一つ。クイラ共和国首都バグーに潜む大統領ダーム・イフセンの確保。彼を捕らえ、テロ組織ミルザム解放戦線の情報を吐かせることだ。
クイラという国家そのものの破壊が目的ではないため、攻撃対象は政府・軍事施設に限定し、一般市民の犠牲を最小限に抑える必要がある。
単に首都を破壊するだけなら、制空権を握った軌道上から爆撃すれば済む話だが、都市への無差別軌道爆撃は地球条約で禁止されている。ゆえに、地上軍による制圧が必要だ。
クイラ軍もそれは百も承知で、首都周辺を要塞化していた。何重もの防衛線、迷路のような塹壕、対戦車障害物、広大な地雷原、堅牢なトーチカ群。
通常の地上軍であれば、突破に数ヶ月を要する難攻不落の要塞だ。
しかしクイラ軍は見誤っていた。HFという規格外の存在を。
『では、これよりオペレーション『
統合作戦本部から指令が下る。
前線には、第二機動騎士団を中心とした約30機のHFが横一列に並んでいた。
『進撃せよ』
第二機動騎士団長マクスウェル・アンドルーズのHFA-10CサンダーボルトⅡが、一歩を踏み出す。
ズンっ、と大地が震えた。40mの巨人が歩き始める。他のHFたちもそれに続く。
三十体の巨人が一斉に行進する様は圧巻。HFは大きさの割に軽量化されているとはいえ、重力制御を切れば凄まじい重量となる。強固な岩盤さえも踏み砕く質量兵器だ。
巨人の集団は、ただ歩くだけだった。
それだけで、クイラ軍が心血を注いで構築した障害物も、地雷原も、塹壕も、すべて踏みならされていく。
トーチカからの必死の砲撃も、HFの重装甲には傷一つ付けられない。なす術なく踏み潰され、コンクリートの塊と化した。地雷が爆発しても足裏が煤ける程度。塹壕は崩落して埋まり、歩兵たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
巨人たちが通り過ぎた後には、障害物が一掃された、広く平坦な「道」が完成していた。後続の地上軍は、そこを悠々と進むだけでいい。
HFは確かに、重力下では宇宙空間ほどの機動性を発揮できない。だが、それでも既存の地上兵器とは隔絶した強さを誇る。「HFに対抗できるのはHFのみ」という鉄則は、地上においても変わらない真理だった。
クイラ軍はパニックに陥った。正規軍はもちろん、精鋭を謳われた共和国防衛隊も戦意を喪失して逃走。民兵に至っては武器を捨てて次々と投降した。
まるで無人の荒野を行くが如く、巨人たちの行進は止まらない。
開始から半日足らずで500kmを突破し、首都バグー南方約80km地点にまで到達した。
第3歩兵師団長は、後の会見でこう述べている。
「史上最も短期間で達成された、最長距離の敵陣突破である」
――
さすがに民間人の多い首都バグーをHFで踏み潰すわけにはいかない。ここからは地上軍の出番だ。
戦車や歩兵戦闘車が、確保された空路と陸路を使って市内へ突入する。
バグー市内において大規模な抵抗は見られず、懸念された泥沼の市街戦も発生しなかった。その日を境にクイラ政権首脳部は逃亡し、首都バグーは陥落した。
その後の展開も早かった。
首都近郊での捜索の結果、民家の地下シェルターに潜伏していた大統領ダーム・イフセンを確保。この作戦で活躍したのが皇国軍であり、軍用ナノボットによる索敵が功を奏し、生け捕りに成功。
元大統領の自白情報から、テロ組織ミルザム解放戦線の指導者サーマ・ビンラーデも逮捕され、組織は壊滅した。
後に「クイラ戦争」と呼ばれるこの紛争は、開戦からわずか2週間でクイラ政権が崩壊、テロ首謀者確保という目標を完遂して終結した。
これにより、連邦政府はサミットテロ事件の解決を高らかに宣言する。
しかし、汎ペルセウス帝国は、それを認めなかった。
続く