【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ   作:ガルカンテツ

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第二十話 前夜
Part-A


「レインボータワー。こちらブルーリボン02。艦後方、アプローチ・フィックス。着艦許可願います」

『ブルーリボン02。こちらレインボータワー。飛行甲板2番、スポットBへの着艦を許可します。重力波影響なし。艦方位、速度は霊網術(Aether Network)で共有』

「ブルーリボン02了解、2番、スポットBに着艦します」

 

 HFがDDHから発艦する場合は加速霊符を使用するが、着艦の際には母艦と等速まで減速し、甲板に降り立つ繊細な操作が要求される。

 

 星菱レイの乗る『ブルーリボン02』が、DDH-5184『かが』の後方からアプローチを開始した。

 DDHとHFの相対速度を合わせ、指定のコースに乗る。甲板上の光学誘導灯を確認し、吸い込まれるように接近した。甲板では人工重力が発生しているため、接地した瞬間、膝で衝撃を吸収して降り立つ。

 

「ブルーリボン02。2番、スポットBに着艦しました」

『レインボータワー了解。5番エレベータを使用してください』

「ブルーリボン02了解」

 

 誘導に従い、飛行甲板を歩いてエレベータに乗り、格納庫甲板まで降りる。さらに整備員の誘導を受け、指定のケージと呼ばれるHF固定設備へと機体を滑り込ませた。

 

 『かが』は全長800mを誇る巨艦だが、40m級のHFを35機も搭載し、さらに整備点検エリアや武器・弾薬庫も確保しているため、格納庫内は常に手狭だ。

 

 搭乗用デッキが固定されるのを確認し、レイはHFのシステムを停止した。機体の胸部装甲の左側、心臓にあたる位置の装甲が幾重にもスライドして開く。すると内部から、操魂球(Cockpit Sphere)と呼ばれる赤い球体が露わとなった。

 

 赤い球体の表面が波打ち、パイロットスーツ姿のレイが吐き出されるように浮き出てくる。閉じていた目を開き、デッキへと降り立った。

 

「レイ、おかえりー!」

 

 顔を上げると、幼馴染の横田ユイが満面の笑顔で目の前にいた。

 

(近いっ)

 

 レイは、珍しくユイを直視してドキリとした。

 

 今年16歳になり、特に最近は少女から大人の女性に向けて成長し、美しさに磨きが掛かっている。レイもいつの間にか背が伸び、ユイを見下ろすようになり、体つきもガッシリしてきた。だが、ユイはそれ以上に女性らしい柔らかな体つきへと変化している。

 

 いつもなら思ったことを率直に「綺麗だよ」と伝えていたが、今は言葉に詰まってしまった。

 

「ん? どしたの?」

 

 コテンと小首を傾ける仕草も可愛い。レイは思わず目を逸らす。

 

(なんか最近ちょっとおかしいな、ボク。とりあえず落ち着かないと)

 

 高鳴る鼓動を鎮めるように、軽く深呼吸する。

 

「ふう、いや、なんでもないよ。ただいま。そしておかえり」

「うん! ただいま!」

 

 一歩下がって、ユイの全身を見る。髪型はいつも通り、細く青いリボンで結んだ金髪のポニーテールだ。だが服装が違う。いつもの艦内服ではなく、士官用制服を着用していた。

 

 常装第三種夏服。制帽に白い半袖の開襟シャツ、そして白いタイトスカート。足はストッキングに包まれている。顔にも薄く化粧を施しており、いつもの活発な印象とは違った、大人びた雰囲気を醸し出していた。

 

 まだちょっとドキドキが収まらない。そういう素振りを見せないように、レイは努めて平静に話題を変えた。

 

「そういえば、群司令部の会議に出ていたんだっけ」

「そうなの。ついさっき『ちょうかい』から戻ってきたところ。肩凝った~」

「お疲れ様」

 

 第04護衛隊群は、今後の方針を決定するため、群司令部のあるDDG-5176『ちょうかい』に幹部を招集していた。群司令、幕僚、各艦長、飛行長などが集まる中、現場の意見を聞きたいとのことで、ユイは三沢ナユと共に参加を要請されていたのだ。

 

 レイの視線が、ユイの肩にある階級章に留まった。黄色の線が、太い線二本になっている。

 

「ああ、昇進おめでとう!」

「ありがと。まあ、向こうへ行った時のついでだったみたい。略式だったし」

 

 これまでの2等武尉から、尉官の最上級である1等武尉へと昇進していた。軍人になって2年目での昇進は異例の早さだ。ただ、これまでの実戦での功績を考えれば、当然の評価とも言えた。

 

「それにね、ナユも上がったし、皆も一階級昇進よ。後で通達があるわ。まあ、やることは変わらないけどね」

「そっか。昇進は素直に嬉しいね。給料も上がるし」

「あはは、そうね!」

 

 レイはまだパイロットスーツのままだったので、着替えるために更衣室へ向かいながら話すことにした。

 

「で、どうだった? 99式2号250mm機銃は」

 

 ユイが会議に出ている間、レイは零式HF用の新兵器のテストを行っていたのだ。

 

 環局所泡合同演習で、さまざまな問題点が浮き彫りになった。その分析・評価が進められる中で、特に零式HFの「星間機動戦における火力不足」は致命的であると判断された。

 

 現在の正式装備である89式200mm小銃は、軽くて取り回しは良いものの、連射能力が低く、威力も不足している。重装甲化が進む各国の最新鋭HFには歯が立たないことが明確になった。これまでは旧式の赤壁連合製HFが相手だったため通用したが、この先も通用する保証はない。装備の更新は急務だ。

 

 レイがテストしていたのは、試作99式2号250mm機銃だ。本来単装の銃身を二本束ねることで連射能力を向上させ、さらに口径も200mmから250mmへと大口径化して威力を増強するという、力技の改良案である。

 

 試作はこの一丁のみ。試験運用のデータを開発チームにフィードバックし、改良を経て量産化される予定だ。一から新規開発するよりは、既存技術の改良の方が配備は早まるはずだ。

 

「うん。威力は十分だね。取り回しもききやすいし。ただ銃身のバランスが変わったせいか、近接武器に持ち替える時にワンテンポ遅れる感覚があるかな」

「切り替えか。歩兵の小銃みたいにスリングを付けるとか?」

「HFだと機動時に邪魔になるんじゃないかな」

「なるほど。後でレポートにまとめておいてね」

「了解」

 

 更衣室に到着すると、レイは手早く着替えて出てきた。早着替えは軍人の必須スキルだ。二人は群司令部会議の内容を共有するため、会議室代わりの食堂へと移動する。

 

「そういえば、中隊のみんなは?」

「ああ、例の戦法をHFで試しに出ているよ」

 

 合同演習で判明したのは、火力不足だけではない。HFの運用戦術も、今のままでは通用しないということだ。新たな戦術を検討した結果、白羽の矢が立ったのは、赤壁戦争で『青い稲妻(Blue Lightning)』の異名をとったユイの戦法だった。

 

 敵機HFに肉薄し、一撃離脱を繰り返す。フォローは僚機に任せる。この戦法であれば、敵に囲まれる前に離脱し、次の目標へ短時間で向かえる。

 ただ、誰もがユイのようには動けない。特に近接戦闘で、薙刀一閃で敵を沈めるユイの真似は不可能だ。あれはユイの並外れた霊力があってこそ成立する。

 

 そこで導入されたのが、一撃必殺の剣術だ。ちょうど、第二中隊の高良台ツクミが、サツ・ジゲン流を習い始めていた。近衛の少女から感銘を受けたという。

 サツ・ジゲン流の極意『二の太刀要らず』は、一撃離脱戦法にうってつけだった。ツクミや彼女の先生にも教えを請い、部隊全体で剣術を取り入れることになる。

 

 今、第一中隊の面々が実機でその動きを試している。シミュレーションでも有効性は実証されており、新たな標準戦術として採用される見込みだ。

 

 ただ、長所ばかりでもない。

 

『チェストーーーーー!!!』

『キエーーー!!!!』

『ドリャアアア!!!!』

 

 短所。うるさい。

 




【完結】NGチルドレン もよろしくお願いします
https://syosetu.org/novel/323311/
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