【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ   作:ガルカンテツ

8 / 292
Part-C

 人類がまだ、母なる太陽系という揺りかごの中で、その翼を広げようともがいていた頃の記録だ。

 

 太陽系第七惑星、天王星。その極寒の星を巡る軌道上に、わずか三十名ほどが暮らす小さなスペースコロニーが存在した。居住者のほとんどは辺境の地を愛する変わり者の研究員たちであり、そこは本来、静かな観測の場であるはずだった。

 

 事態が動いたのは、その研究所で一人の子供が産声を上げた時だ。

 

 宇宙放射線が絶え間なく降り注ぐ過酷な環境。地磁気の盾に守られた地球とは異なり、そこでの出産は未知のリスクを孕んでいた。胎児への影響を懸念した大人たちの心配を他所に、産み落とされた女の子は、まるであらかじめ星の海を走るために誂えられたかのような、異質な強靭さを備えていた。

 

 無重力下であっても、彼女の筋力は衰えるどころか、地上のアスリートを凌駕するほどに発達した。骨密度の低下もなく、宇宙線に対する耐性すら備えていたのだ。

 

 人類はこの特異な新人類に驚愕し、その源を突き止めるべく総力を挙げた。その結果、少女の「魂」と呼ぶべき領域から湧き出す未知の素粒子が発見されたのである。十九世紀以前の物理学者が空想した「光を伝える媒質」の名を冠し、それは霊子(エーテリオン)と名付けられた。

 

 魂の開放(オープン)を果たし、無限のエネルギーをその身に宿す者たち――開魂者(Openian)

 

 彼らは自らの意識で物理法則を書き換え、さらには霊子の性質を利用して、高次元を弾道飛行する次元弾道跳躍(Dimension Ballistic Leap)という超光速の翼をも手に入れる。人類が銀河の覇者として君臨するための切符は、天王星という辺境の地で、一人の赤ん坊の手の中に握られていた。

 

――

 

 護衛艦『かが』は数回の次元弾道跳躍を経て、本州と呼ばれる星系の外縁部へと到達した。

 

 本州はこと座デルタ星団付近に位置する、正式名称を「ヤマト州」という星系だ。大八洲(おおやしま)の首都である皇都が存在する、国家の心臓部である。

 

 大八洲皇国(United Empire of Great Yamato and Seven states)。

 その名の通り八つの星系州から成るこの国は、人口十二億を抱える。銀河国家群において地球自由連邦、汎ペルセウス帝国に次ぐ第三位の国力を持つ巨大国家だ。八つの星系の君主を(みかど)と仰ぐ、連合皇国(United Empire)という独自の国体を有している。

 

 『かが』の目前には、直径60kmにおよぶ巨大な球状宇宙ステーション『沖ノ鳥ベース』が鎮座していた。本州の玄関口であり、軍民共用港としての機能を持つ軍事基地。そして『かが』が所属する第04護衛隊の母港である。

 

 長期の練習航海と実戦を終えた『かが』は、ドック入りしての検査と修理を必要としていた。年明けに行われる観艦式に備えた「化粧直し」も控えている。

 

 そうした事情により一週間ほど艦を空けることとなり、当直員を除く乗員には休暇が言い渡された。

 

 当然、第401人型機動戦闘飛行隊の少年少女たちも休暇となる。実家へ帰る者、宿舎で羽根を伸ばす者、過ごし方は様々だ。

 

「ええー!? レイ、実家に帰らないの?」

「うん。どうせクソ親父の挨拶回りに付き合わされるだけだからね。宿舎で寝正月するよ」

 

 今日は地球標準歴で12月27日。

 皇国においても年末年始を跨ぐ休暇は定例となっている。特に三が日は国を挙げた祝賀行事が目白押しであった。

 

 星菱レイの父親は、巨大企業・星菱重工の社長である。レイはいわゆる御曹司であったが、幼い頃に母を亡くして以来、父とは距離を置いていた。軍人への道を選んだのも、父の反対を押し切ってのことだ。

 

 その事情を汲んでいるユイは、深くは踏み込まない。代わりに、別の提案を口にした。

 

「あ! じゃあウチに来る? お父さんもきっと歓迎するわよ」

「えー……」

 

 横田ユイの実家は、五大武家の一翼を担う由緒正しき名家だ。本州に広大な屋敷を構えている。

 

「いいじゃない。おじい様も会いたがってたし」

「師範か……。会いたいな……」

「はい決まり! じゃあ連絡しておくね!」

「え?」

 

 ユイは一度決めたら一直線だ。あれよあれよという間に、外堀が埋まっていく。

 

 そして数時間後。レイはいつの間にか、旅客機の人となっていた。

 

『皆さま、本日もヤマト航空三五〇便、ヤマト州第四惑星カントウ行きをご利用くださいまして、ありがとうございます。まもなく離陸いたします。シートベルトを腰の低い位置で、しっかりと、お締めください。ハネダ空港までの飛行時間は三時間三十分を予定しております……』

「どうしてこうなった……」

 

 優雅なキャビンアテンダントのアナウンスを聞きながら、レイは座席で頭を抱えるのだった。

 

続く

 




【完結】NGチルドレン もよろしくお願いします
https://syosetu.org/novel/323311/
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。