【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ   作:ガルカンテツ

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Part-C

 『オハイオ』の艦長が汚い言葉を連呼していた頃。帝国軍UボートVⅡC型『U-5051』の艦長席で、小柄な人影がほくそ笑んでいた。

 

「あははは! オバサンたちの慌てようったらないね。愉快、愉快!」

 

 艦長席に座っていたのは、灰色のローブを纏った少年だった。この艦の指揮官のみならず、艦橋要員は全員が12、3歳の少年たちで構成されている。

 

 帝国において、戦は男の役割であり、女は家庭を守るものという伝統が根強い。そのため霊電子戦の要員としても女性を用いず、代わりに霊力のピークが高い少年兵を抜擢していた。彼らは「祭司」と呼ばれ、幼少期から厳格な魔術教育を施されている。今回の作戦には、建造された百隻以上のUボートの大半が投入されていた。

 

「艦長! U-5055が連邦艦を捕捉。霊紋解析の結果、SSGN-1738『フロリダ』と特定しました!」

「よし、『ミシガン』という餌に見事に掛かったね。もう一隻仕留めるよ。全艦、包囲ポイントへ!」

「「「ヤヴォール(Jawohl)!!」」」

 

 連邦軍の『オハイオ』が700m、皇国軍の『そうりゅう』が400m級であるのに対し、このUボートは全長わずか300m。その小ささを活かした集団運用こそが彼らの真骨頂だ。

 

「U-5051からU-5055まで、全艦配置完了しました!」

「よろしい。では、群狼作戦(Wolfsrudeltaktik)を開始せよ!」

 

 通常、SS(シャーマンシップ)と呼ばれる霊電子戦艦は、その名が示す通り霊電子戦を主眼とした艦であり、直接的な打撃能力は持たない。また、徹底したエーテルステルス外殻は防御力を犠牲にしている。

 しかし、帝国のUボートは対艦戦闘をも視野に入れ、集団での飽和攻撃を行うよう設計されていた。

 

8.8cm魔道平射砲(アハト・アハト)、起動!」

「方位、距離、霊探(Aether Radar)同調完了!」

「艦長、他艦も次発装填完了です!」

「了解。HFR攻撃態勢へ移行。総員、対ショック姿勢!」

 

 少年艦長は既に人型出力炉(HFR)と神経同調を済ませていた。通常、HFRは艦のエネルギー供給と制御にのみ用いられるが、Uボートではこれを攻撃プログラムの媒体として使用する。

 

「炎神ローゲよ、我に勇気を与えたまえ。愚かな敵に神なる炎を……KANO(カノ)!」

 

 普段は沈黙を守るHFRが、艦長の詠唱に応えて巨大な右腕を掲げ、空中に文字を刻むように指を動かした。空間に赤く輝く文字が浮かび上がる。古の魔術文字、ルーン。「炎」を象徴する『カノ』だ。

 

 刻まれたルーンが赤光を放ち、艦橋に微かな衝撃波を残して消える。同時に、Uボートの甲板に据えられた唯一の重兵装、8.8cm魔道平射砲(アハト・アハト)から圧縮霊子を纏った炎の砲弾が放たれた。

 

 少年たちが操るのは、形態そのものに魔術的意味が封じられたルーン魔術。

 各艦から放たれた炎の弾丸はほぼ光速で空間を裂き、SSGN-1738『フロリダ』へ殺到する。

 激しい霊電子攻撃(AEA)に晒され、感覚を奪われていた『フロリダ』は回避叶わず、5発中3発が直撃。脆弱な船体は一瞬で爆沈した。

 

「『フロリダ』に命中! 轟沈を確認!」

 

 戦果報告に艦橋が沸き立つ。艦長も満足げに頷き、次なる命を下す。

 

「よし。U-5055は残骸を確認し、生存者がいれば救助。他艦は引き続き霊電子攻撃(AEA)に集中。連邦軍のさらなる侵入を全力で捕捉せよ」

「「「ヤヴォール(Jawohl)!」」」

 

――

 

 地球自由連邦、ポリネシア星系州第五惑星ワイキキ。連邦軍第七艦隊の主要基地が置かれたこの惑星は、常夏の観光地としての顔も持っている。

 

 ビリー・エドワーズの所属する第四機動騎士団もここに宿舎を構え、非番の日は穏やかな時間を過ごしていた。

 

「取り寄せたばかりの新茶のアールグレイです」

「うむ」

 

 宿舎の優雅な庭園。ビリーはミリィ・メイポートと共にアフタヌーンティーを楽しんでいた。

 

 ミリィは手慣れた手つきでメイドとして振る舞い、スコーンと紅茶のセットを給仕する。

 彼女は使用人ではなく、ビリーの副官であり同僚だが、休日であっても「これは趣味ですので」とメイド姿を貫いており、ビリーも既に説得を諦めていた。

 

 ミリィの淹れる紅茶は、エドワーズの本家で供されるものよりも格段に香りがいい。没落貴族の館を改装したというこの宿舎は、手入れの行き届いた庭園も含め、休息には最適だった。

 

 自分用のカップに注ぎ終えたミリィが、テーブルを挟んで対面に座る。

 

「お茶会の他愛ない世間話ですが……」

「うむ」

「連邦軍のオハイオ級二隻が、帝国軍によって撃沈されたようです」

「ブフーーーーーーッ!!!」

 

 飲みかけた紅茶を豪快に噴き出した。全然、他愛なくない。

 

「あらあら、汚い」

「あらあら、じゃないだろう! 大変なことじゃないか! 初耳だぞ!」

「ええ、軍当局はまだ秘匿していますから。霊電子戦艦部隊の内部では、既に蜂の巣をつついたような大騒ぎですが」

「……なぜミリィがそんな機密を知っているんだ」

「お友達がおりますので」

「そういう問題か?」

 

 もしそれが事実なら、事態は極めて深刻だ。以前から不穏だった情勢は、今や連邦と帝国の全面衝突を招きかねない臨界点に達している。

 

「それに、即戦争という訳ではなさそうです。公表しないのは、連邦側にも非があるためです」

「どういうことだ?」

「はい。ババァ……いえ、魔女たちが操る霊電子戦艦とは、往々にしてそういうものです。『オハイオ』級の二隻は、秘密裏にローマリア共和国内へ侵入していました。そのため、治安維持活動の名目で入国していた帝国軍の方に、国際法上の利があります。もっとも、向こうも事を荒立てるつもりはないのか、沈黙を守っているようですが」

「そんなものか……。いや、それでも直ちに出動準備をすべきだろう」

「いえ、共和国国境付近は第二艦隊の管轄。第七艦隊に下るべき要請は、まだ先になります」

 

 連邦軍の各艦隊には担当宙域があり、第七艦隊は連邦の東側、大八洲皇国もある局所泡(ローカルバブル)エリアが担当だ。

 

「もちろん、戦火が拡大すれば増援として送られるでしょうけれど。ちなみに円卓の騎士団(Knights of the Roundtable)では、ヒルダとユースティアが第二艦隊です」

「女性たちが戦場へ向かうというのか。……心配だ」

 

 その二人は、交流戦の剣術大会でビリーと肩を並べた戦友でもあった。

 

「心配、ですか? リムロックの試合後、彼女たちに完膚なきまでに叩きのめされたと聞き及びましたが」

「あんなものはじゃれ合いのようなものだ。女性を案じて何が悪い」

「ヒルダは悲鳴を上げていたと言っておりましたが。……まあ、貴方ならそう仰るでしょうね」

 

 ミリィはしみじみと言った感じで答え、紅茶を一口飲む。

 

「共和国との国境は守りが固い。戦闘になったとしても、連邦が有利に進められるはずです」

「そうか……。だが円卓の騎士団(Knights of the Roundtable)に欠員が出るなど、想像もしたくないな」

「そうですね。私も友人が傷つくのはイヤです」

 

 二人は示し合わせたように空を見上げた。高く澄み渡ったワイキキの青空。しかし、その向こう側には、血生臭い戦争の足音が確実に迫っていた。

 




【完結】NGチルドレン もよろしくお願いします
https://syosetu.org/novel/323311/
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