【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
Part-A
「皇帝陛下、申し訳ありません。アルデンヌ州入りの情報が、早くも王国側に漏れてしまったようです」
「構わん。どうせ直ちに公表することだ。それよりも、勇気ある駆逐艦の乗組員たちに報いてやってくれ」
「御意。全員を二階級特進とし、褒章を授与いたします」
未開発の航路空域は、事前に光学観測などで安全を確認してはいるが、実際の状況は跳躍してみるまで判らない。
公募に応じた数名の駆逐艦長たちは、共和国からアルデンヌ州へと至る数カ所の未知の空域へ、命懸けの
「アルデンヌ州の警備隊は既に降伏。州のステーションに係留されていた出航前の補給艦を接収しました」
「ほう、物資は何だ?」
「食料ですな。生鮮の野菜や肉類も相当量ございます」
「それは良い。兵たちの士気も上がるだろう。キミヒトも『腹が減っては戦ができぬ』と言っていたからな」
「はい。本国からも食料は持ち込んでおりますが、どうしても保存のきく戦闘糧食が主体となりますから」
空母『グラーフ・ツェッペリン』の艦橋で艦隊司令から報告を受けていると、一人の士官が歩み寄ってきた。
「失礼します、陛下! 準備が整いました!」
「そうか、分かった」
皇帝はゆっくりと立ち上がり、艦橋要員全員の敬礼に見送られながら艦橋を後にした。
――
護衛艦『かが』の第二食堂。第401人型機動戦闘飛行隊の第一小隊員四名で打ち合わせを行っていたところ、艦内放送が公共チャンネルを視聴するよう指示を飛ばした。
銀河国家群には、
「何が始まるんだ?」
海田ガイが手首のリングをタップし、ナノボットによる空中投影画面を表示した。画面には汎ペルセウス帝国の国旗「鉄血十字旗」が大きくはためいている。
「流れているのは帝国の国歌ね」
横田ユイも同様に映像を映し出した。帝国の公式チャンネルだけでなく、多数のメディアがこの緊急放送を同時中継しており、尋常ならざる事態であることを予感させた。
しばらくして画面が切り替わると、立派な顎髭を蓄えた、傷だらけの顔の男が映し出された。
「ひっ……!」
その圧倒的な威圧感に、信太山ケイが思わず小さな悲鳴を漏らす。
「帝国の皇帝だね」
フランクス国王との縁をきっかけに他国の首脳を調査していた星菱レイが、静かに説明を加えた。しかし、以前の資料にはあのような傷跡はなかったはずだ。おそらくは、あのサミットテロの際に負ったものだろう。
全銀河の視線が、皇帝に注がれた。
――
『余は汎ペルセウス帝国皇帝、フリードリヒⅣ世である』
大八洲皇国の執務室。若き女帝は、画面越しに皇帝を見つめていた。
「生きておられたのですね……」
サミットテロ以降、姿を消していた皇帝には死亡説も流れていたが、こうして健在であることが証明された。あの痛々しい傷跡を見る限り、決して無傷ではなかったようだが。
女帝は直接帝国皇帝と会ったことはない。だが、父である先帝が学生時代に彼と交流があり、その頃の思い出を語る父が、珍しく楽しそうにしていたことをよく覚えていた。
――
『まずは、サミットテロで亡くなった方々の葬儀に参列できなかったことを、深く詫びる』
皇帝は画面の中で深く頭を下げ、黙祷を捧げた。
「ドワーフの皇帝が! もっと他に詫びるべきことがあるだろうが!」
連邦の戦略情報収集艦『オハイオ』の艦長、魔女ブレマー・キトサップが吐き捨てるように言った。
「この放送の発信源は特定できたか!?」
「複数のノードを経由していますが、フランクス王国内からの発信で間違いありません。既に帝国艦隊は王国の深部まで入り込んでいる模様です」
「Fxck! ドワーフどもの狙いは最初からオーク(王国)だったってことか! まんまと騙された!」
二隻の僚艦を失った彼女にとって、この事態は屈辱以外の何物でもない。
「この業界、舐められっぱなしじゃ終われないのよ。絶対に落とし前をつけさせてやるからな、ドワーフども!」
彼女は画面内の皇帝に向けて中指を突き立てた。