【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
「表敬訪問……ですか?」
横田ユイが訓練リポートを提出するため、飛行長である春日ツクモの部屋を訪れた際に伝えられた。
このところユイは目が回るくらい忙しい。
もう一人の中隊長三沢ナユが、弟のゴウガと共に星菱重工に短期出向しており、第二中隊の面倒も見ているためだ。
出向の目的は零式HFの新装備の開発と試験。当初星菱重工への出向は99式2号250mm連装機銃の提案者である星菱レイが候補に挙がった。しかし本人が嫌がったのとゴウガが積極的に手を上げたので、他隊員の意見も入れた方がよいと飛行長が三沢姉弟の短期出向が決めた。
「そうだ。赤壁戦争から大体一年経つからな。自分が戦闘した国がどうなったか見て来るといい」
表敬訪問先はホーロー国。ユイ達が地上戦に参加した場所だ。確かに気にはなっていた。あの戦場になった都市がどうなったのか。あのとき助けた少年はどうしているか。
「了解ですが、いいんですか?こんな時期に」
「ああ、帝国はフランクス側へ行ったしな。まだ分らんが皇国へはしばらくはないだろう。二正面作戦は愚策だしな」
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皇国は汎ペルセウス帝国の侵攻を警戒していたが、皇国側でなくローマリア共和国とフランクス王国に向かった。
結果として共和国は帝国側の政権となり、王国は侵攻を受け、休戦協定の結果、首都星系ヴェルサイユ州を含む王国南部は帝国の占領下に置かれる。北部はフランクス政府の主権が認められたが、王政は廃止され、帝国の傀儡政権が誕生。首都はシヴィー星系に移された。
帝国がフランクス王国に侵攻し、王国軍南方艦隊が降伏した段階で、国王シャルルⅢ世が首都惑星パリーヌの無血開城を決定した。
南方艦隊が降伏したスンラ州は首都の直ぐ隣。あまりに帝国軍の侵攻速度が速く、他の艦隊が間に合わず首都防衛の戦力が少なかった。一方的な戦闘になってしまうため、犠牲を最小にするため降伏を選ぶ。
若き国王は自分の首を差し出すつもりだったが、周囲がそれに反対し最終的には重臣に薬で気絶させられ、無理やり国外に脱出させられた。
王国の戦力では唯一局所泡艦隊が、地球自由連邦側に撤退。この時の撤退戦はケンダルク包囲戦と呼ばれる。
脱出した国王と局所泡艦隊は連邦ではなく皇国に亡命し、亡命政府自由フランクスを樹立。以前より、皇室と王室の交流があったため、皇国は自由フランクス政府を受け入れた。
皇国の女帝と謁見したとき、自責の念からシャルルⅢ世は涙を流したという。しかし女帝は国王が無事であればフランクス王国の再建は可能であり、帝国を打倒し首都惑星パリーヌへの凱旋を使命とすべきと説得。皇国の助力も明言する。若き国王は感謝し王国開放を誓う。
帝国は共和国と王国の占領を進め、体制を固めることに注力し、連邦への侵攻は未だ行っていない。ただ宣戦布告はしているので時間の問題と思われる。連邦との国境では熾烈な霊電子戦が展開されていて、侵攻への下準備を着々と行っているようだ。
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ユイはツクモの説明に理解はしたが、ちょっと納得しかねた。
「いいんでしょうかね?のんびり訪問とかしてて」
「まあ、ホーロー国はもし帝国が侵攻してきた場合、ルートになるかもしれないからな。その下見も目的の一つさ。後で向こうの軍との共同訓練も行う」
「なるほど」
確かに、もし戦場になるのであれば確認は必要だ。後、零式の新装備の確認も予定に入れることができれば無駄にはならなそう。
「それに横田のためでもあるんだぜ?」
「アタシですか?」
「最近忙しかっただろう?ちょっと息抜きも兼ねて行ってくるといい」
「はぁ」
自分ではただ責務をこなしているだけで、無理をしているつもりはなかったが、確かに時間に追われてできていないことが多かった。ちょっと気分転換をしてもいいかもしれない。
「了解しました。表敬訪問のメンバーはどうしましょう?」
「第一中隊で行ってくれ。向こうにもそう伝えてある」
「了解です」
レポートも提出し、ユイは飛行長室を退出した。通路を歩いていた所、レイが迎えに来たようだ。
「どうしたの?レイ」
「もう用事は終わった?」
「ええ、飛行長への報告は終わったわよ」
「じゃあ、お腹空いてない?」
そういえば、まだ昼食を取っていなかった。意識したらお腹が空いているような気がして来たユイ。レイの目の前でお腹が鳴らないかこっそり警戒する。
「チャーハンの残りがあるんだ。食べる?」
「食べる!!」