呪術廻戦~暴と星と酒…遅延の春~   作:スペル

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答え合わせ。
この世で最も無責任な呪いは――――秤奏


第十二話 終焉の青い春…

東京新宿の一角。多くの行き来がある大通りを五条悟は立ち尽くしていた。視界がぼやける。動くべき足は、地面に縫い付けられたように動かない。話さなければ成らない口は文字通りの役立たずと化した。

足を動かせない。何も言葉が分からない。何も変わらなかった筈だ。いつも通り下らないがかけがえも無い日常を送っていたはずだ。

それなのに何故、何故という言葉が脳裏から離れない。

 

――――君になら出来るだろう、悟。

 

親友だったはずの友は、私欲が為に非術師を虐殺した。それが意味のない事だと散々、自分に言っていたにも関わらず。

 

――――君はあの日の事を覚えてないかも知れないが、私は覚えているよ。

 

目の前に居るのが本当に自分の知る夏油傑(しんゆう)なのか。そんな疑問を抱いてしまった自分が赦せない筈なのに…

 

――――私は猿の為に仲間(かぞく)死ぬのが我慢ならない。醜悪な者の為に、大切な者が当然のように傷ついて欲しくない。

 

その言葉の意味を理解できない。その顔を知らない。何もかもを理解する事を頭が魂が拒む。

 

――――だからこれは大義ある行為だ。生き方は決まった。後は精一杯自分に出来る事をやるだけさ。

ああ、そうだ…

 

本能が止めろと叫ぶ。その先の言葉を無意識に理解してしまった。だから…今すぐ耳を塞げと叫ぶが、五条悟は、夏油傑のその表情から目を意識を反らせない。

 

――――悟。今から私は君の敵だ

 

明確な拒絶。約三年の青い春が、共に歩んだ親友に否定される。それがトドメとなった。背を向けて歩く夏油に五条は形だけの掌印(かまえ)を取るだけで。去りゆく背を見続けることしか出来なかった。

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

高専の一角。グラウンドと校舎を繋ぐ階段。夕暮れを背負い、五条悟はそこに座り込んでいた。校舎側から夜蛾が近づいてくる。

 

「…どうして追わなかった」

 

「…本気で聞いてます?」

 

「…いやいい。

悪かった」

 

その心情は察するに余りある。それでは形式上は問わねばならないのが教師という立場だが、それでも夜蛾は口を閉ざした。

しばしの沈黙が両者の中に流れる。最初に口を開いたのは五条だった。

 

「ねぇ、先生」

 

「なんだ?」

 

「俺さ、強いよね?」

 

「ああ。生意気なほどに強いな」

 

「そうだよね。

俺さ。自慢じゃ無いけど、大抵のことは何でも出来るし知ってるんだよね。

でもさ…俺、どうすれば良かったのか…全然分かんないんだよね」

 

「……そうか」

 

「…ねえ、先生なら分かる?」

 

「………情けないが、俺にも分からん」

 

「そっか…そうだよね」

 

無念が、後悔が、場を呑み込む中でふと、五条の脳裏をある言葉が脳裏に過ぎった。

 

――――呪いだな

 

「――――悟?」

 

急に立ち上がった五条に夜蛾は声を掛けるが全く耳に入っていない。五条の脳裏をしめるのは、忌々しい敗北の記憶。その中で呟かれた一言。

意味など分からない。それでも五条は、そこに一つの覚悟を決めた。

 

「先生。お願いがあるんだけど聞いてくれない」

 

「なんだ?」

 

「会いたい奴らがいるんだ。

手を貸してくれない」

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

その日、時雨は仲介者として依頼人との顔合わせのために指定された場所で待っていた。時計を確認し、予定の時間までまだ少し時間がある事を再度確認して、煙草をくわえて火を付ける。

ストレスである接待であろうと仕事である以上、逃げる事は許されない。ましてや自分がしている仕事はある意味で表以上に信用が重要になってくる。だから、例え名前を明かせないという相手であっても要望には応えなくてはならない。特にこんな業界では名前も素顔も明かしたくないという客は多い。そういう意味では対面で会うと言っている今回の客はまだマシなんだろう。

 

――――はあ。憧れはしないが、偶にあいつらが羨ましく思えてくるな

 

天に昇る紫煙を眺めながら時間を潰していた時雨は、近づく足音に依頼主が来たと判断して、勿体ないと思いながらも煙草の火を消して捨てる。丁度そのタイミングで、扉が開かれて依頼人が入ってきた。

その姿を見た瞬間、時雨は諦めた様な達観したような笑みを浮かべた。

 

――――あー。悪い、最後に一服する時間ぐらいはくれるか?

 

――――こんな商売だ。いつかはこんな日が来るかも知れないとは思っていた。

だが、勘違いするなよ。別にあいつらに立てるべき義理も恩もない。

 

――――何でか…。まあ、簡単言えば仕事だからだな。

俺たちは、確かにクズで外道といえる存在だが、前提として大人なんだよ。

ガキであるアンタには分からないかも知れないが、大人には皆、生きる上で重要なものがある。そして俺がが重要としているのは責任だ。こんな生き方しか出来なく成ったが、それでも最低限の責任は果たすそれは優先している事だ。

 

――――仮に俺が、金に重要を置いてたなら、俺は喜んで情報も渡したし、命乞いも靴だって舐めたさ。

でもな今回は俺があいつらを斡旋した。なら、その責任は俺が取るべきものだ。こんな仕事だと案外信用はバカにならない。此処で命惜しさに情報を教えた時点で、この業界での価値はなくなり、結果的に殺される。

 

――――分かるか。どっちを取ろうとも結末は同じなんだよ。

なら俺は、大人としての責任を果たすことにする。

だから、教えられないが答えだ。

 

人生最後の一本を吸い終えた時雨は逃げない事を表すように両手を挙げる。その姿に依頼人は苦虫をかみつぶしたような顔を見せ、ひとしきり地面を蹴ると

 

「安心しろよ、おっさん。

今回は依頼をしに来たんだよ!」

 

何処か覚悟を含んだ瞳でそう告げた。

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

突然、時雨に呼び出された甚爾と暁の二人は、待ち合わせの場所を決めていたファミレスで時雨を待っていた。

 

「ったく、時雨の奴。

人を呼び出しておいて、待たせすぎだろ?」

 

「別にいいだろ?

どうせ、家に居たところで照恵さんの役に立たねぇんだしよ。

寧ろ居ない方が助かるかも知れねぇぞ」

 

「あ゛?なんか言ったか、実験動物」

 

「おいおい、図星を突かれて焦ってんじゃねぇぞ!このニート」

 

退屈しのぎの口喧嘩。普段から言い合っているからこそ、本気では無い。しかし明らかに一般人とは違う雰囲気を纏っている二人のやり取りは、ファミレスという空間では浮いてしまう。徐々に二人の周りから人が人が離れ始め、空白が出来はじめる。

そんなタイミングで丁度、時雨が現れる。片手を上げながら掛けた声に反応して二人は口論を止めて、同時に時雨の方を振り返り「遅い」と文句をたれる。

 

「悪い悪い。

客の説得が思ったより長引いてな」

 

「説得?」

 

「何だ?お前がいるのに依頼人直々に来てんのか?

どんな酔狂な奴だよ」

 

てっきり時雨が新たな太客からの依頼を持ってきたものと思っていた二人は、まさかの依頼人が来ている事に驚く。呪術の世界の中でも血みどろの闇である呪詛師界においては異例すぎる。

二人の言葉に時雨は何処か視線を彷徨わせている。

 

「あー、二人ともよく聞け」

 

「「あ?」」

 

「焦ると思うが、落ち着け。

縛りで相互の安全は確保済みだ」

 

「「……」」

 

時雨の忠告と取れる言葉に二人の警戒心が上がる。しかし逃げる素振りは見せない。それは時雨という男の腕を信用しているから。それでも対策は怠らない。それを見た時雨は了承と判断し、ケータイからメールを送った。

メールの送信から直ぐ、ダンダンと地面を強く蹴る足音が聞こえる。二人がその足音の方を振り返れば…

 

「…マジかっ」

 

「…なんで?」

 

そこには苦虫をかみつぶしたような顔以上に端正な顔を歪めた五条悟と夜蛾正道そして家入硝子の三人が立っていた。

甚爾と暁の驚愕の表情に少しだけ表情を戻した五条が先に口を開いた。

 

「大の大人が昼間っからこんな所でたむろってんじゃねえよ!」

 

「…はっ!

こいつはありえねえ客だな!!

それで何しに来やがった、ガキ」

 

五条の言葉にいち早く反応したのは甚爾だった。喧嘩腰の甚爾の言葉に否応なしに五条の殺意が高まる。それに呼応するように場の空気が張り詰め時雨が慌てるが…

 

「やめな、バカ!

戦いに来たわけじゃ無いでしょ」

 

「甚爾もだ。

理由は分からねえが、時雨を仲介して縛りまで結んで来てんだ。

気持ちが分からないわけじゃ無いが、一旦落ち着け」

 

五条を家入が、甚爾を暁が抑える。両者ともに不満はあるが渋々と言った様に空気が緩まる。

そうして思うところがあれど、全員が席に着く。そうして重い沈黙を破るように

 

「はぁ…それじゃあ、会談を始めるとするか」

 

時雨が目的を告げた。

 

 

「会談だぁ?」

 

時雨が告げた言葉に甚爾は眉をひそめる。言葉には出さないが、暁もまた疑うような視線を向けている。そんな二人の姿に時雨はまずはそこからだなと口を開く。

 

「昨日、五条悟から接触があってな。

要望は一つ。お前達二人と話をさせろだ。

俺は相互の安全を縛りとして結ぶ事を条件にそれを了承した」

 

「…話ねぇ―――――夏油傑か?」

 

時雨の説明を聞いた暁がふと唯一の思い当たる節を声に出した。その名を聞いた瞬間、五条の顔が歪み、暁は自分の考えがあながち的を外れていないと確信する。

そして暁の言葉を聞いた甚爾は少し考える素振りを見せた後、思い出したばかりに手を叩いた。

 

「ああ!

聞いたぜ、あいつ呪詛師になったんだってな!!

あんだけ綺麗事吐いてたのに笑えるよな!!

話ってのは、あのガキの暗殺依頼か?まあ、そうだよな。トモダチは殺したくねぇわなっておい、手離せよ」

 

「フー。フー」

 

全てが不愉快だった。縛りのことも忘れて五条は甚爾に掴みかかる。目に見える挑発。事実甚爾はヘラヘラと笑っている。怒り心頭の五条を夜蛾と家入が何とか抑えている状況だ。そんな状況を変えたのは時雨だった。時雨は甚爾に「話が進まないから止めろ」と告げる。時雨の言葉を受けた甚爾はしばしの沈黙の後、分かったと告げる。そして甚爾の言葉を聞いた時雨は、今度は五条の方を向けば「五条の方は落ち着け。今までのコイツの暴言は俺が謝罪する。あんたもこんな事のためにわざわざ来たわけじゃ無いだろ」と諭す。

時雨の言葉に続けて夜蛾と家入からの言葉もあり何とか椅子に腰を戻し気分を落ち着かせる。

 

「流石だな」

 

「冗談きついぜ。寿命が縮んだよ。

お前もサボってないで、向こうみたくあいつの手綱を握ってくれ。

これじゃあ、話がいつまで経っても進まない」

 

「分かってるよ。

次からは俺も働くさ」

 

「頼むぜ全く…」

 

そこから五条が落ち着くまで約5分の時間がかかり、改めて沈黙が漂いかけた頃を見計らって改めて暁が口を開く。

 

「それで改めて聞くが俺たちに何のようだ?

悪いがお前が俺たちに依頼する意味が分からない。

怒らないで欲しいが、夏油傑の殺しで無いとするなら尚更だ」

 

暁の言葉に五条の眉が上がるが、家入からのエルボーのジェスチャーがあり何とか堪える。五条の暴走が無いと判断した暁は更に口を開く。

 

「お前からすればどんな相手だろうが雑魚だろ。

そんなお前が、俺たちに何を依頼する」

 

それは当然の疑問。そう五条悟は自他共に認める最強だ。誰の手も借りずとも独りで全て解決するだけの力を持っている。

そんな存在が、呪術の世界における汚点と言える存在に力を乞う理由が無いのだ。

暁の問いかけに対して五条は口を開かない。応えないのでは無く、上手く言葉にできなのだろう。その場にいる全員が五条の言葉を待つ。

しばらくして漸く五条がその重い口を開いた。

 

俺は(・・)な最強だからな。

いちいちおまえらみたいな雑魚の手を借りる必要はねえよ!!」

 

「なら何しに来たんだよ」

 

「これ以上話の腰を折るなよ」

 

「…分かってら」

 

「ただ…」

 

「ただ?」

 

「おまえらに聞きたいことある」

 

今までの怒りの感情を極限まで抑え付けて発せられた一言。その言葉の重みに先程まで興味無しという態度を取っていた二人もずっと五条に視線を向けた。

 

「聞きたいことだぁ?」

 

「…悪いが、呪具師は紹介は無理だ。諦めろ」

 

「的外れな事言ってんじゃなねえよ。

聞きたいのは、あの時(・・・)の言葉だ」

 

「あの時?」

 

「なんか言ったか、俺ら??」

 

五条から投げかけられた本題。しかし肝心の二人は全く覚えが無いのか頭に?を浮かべている。自分の言葉が伝わらないことに苛つきを隠せず、五条は頭を乱暴に掻きながら言葉を続ける。

 

「お前あの時、俺に言ったよな呪いだって。

あれはどういう意味だ」

 

「……何でそれだけで辿り着ける(・・・・・)だよ。キッショいな!」

 

「あ゛?」

 

そこまで言われて暁は納得がいったという表情を見せると共に発せられた言葉には言いようのない嫌悪感を含んでいた。暁の言葉に五条はドスの利いた声を零すが、我関せずで口を開いていく。

 

「あ~。別に馬鹿にしたつもりは無いぞ。

あんだけハイになった状態で、そんな細かい事を覚えていたことが、純粋に気持ち悪い…いや」

 

続けて告げられる言葉にやっぱり馬鹿にしてんじゃねえかと怒りマークを何個も額に見せる五条だったが…

 

「夏油傑の件における本質に結びつけられる事の方が怖いな」

 

「ッ!!」

 

その言葉を聞いた瞬間、怒りは消え失せ急激に頭が冴えてくる。そしてそれは今までのチンピラのやり取りを呆れて見ていた夜蛾と家入も同じなのか視線に真剣さが帯びてくる。

 

「先に答えだけ言おうか。

五条悟は、お前は夏油傑見てなかったんだよ」

 

――――夏油君の事ちゃんと見てあげなよ

 

「ッ!?」

 

告げられた言葉。夜蛾と家入は意味が分からず首を傾げるが、五条は聞き覚えのある言葉に息を詰まらせる。そしてその反応を見た暁は何処か憐憫の感情を五条に向ける。

 

「…その反応を見るに一度釘を刺されてたみたいだな。

ますます、夏油傑が不憫で成らないな」

 

「…どう言う意味だ」

 

「そのままの意味だ。

五条悟。お前が見ていたのは、夏油傑じゃなくて、お前にとって(・・・・・・)都合の良い(・・・・・)偶像(げとうすぐる)だ」

 

「そんなわけねぇだろ!!」

 

叫びと共に呪力が暴れる。その圧に周りが騒然となるが、五条の耳には入っていない。得意の呪力操作がおぼつかない。それ程までの動揺。しかし…

 

「掴みかかって来ないところを見るに、無自覚だが思っていたか?」

 

「っ~~~~っ!!!」

 

「五条?」

 

そう。最初の時のように五条は我を忘れて掴みかかるような真似をしなかった。寧ろ、息が早くなり、顔色が青ざめる姿は、決してバレてはいけない秘密がバレてしまって焦る子どもの様だ。

 

「五条悟。お前は最強だ。

お前からしてみれば、俺たちみたいな弱く壊れやすい存在は同列の存在とは思えないだろう。

そして五条家(まわり)もそれを肯定した。

そんな中で出会った自分の視野に近い存在は、さぞお前の世界を彩ってくれただろうな。

まあ最も、一般家庭で普通とは異なっていた夏油傑も似たような事を感じてたんだろうが…ま、おまえらが仲良くなるのは必然だって事だ」

 

そこまで言い切った暁は口休めするかのようにジュースを口に含む。そして横目で甚爾に視線を向ける。肝心の甚爾は心情を察しさせない無表情でただ五条悟を見ている。

これは自分が話を続けるしか無いと判断した暁は、動揺が消えない五条に向かって再び口を開く。

 

「そこまでなら良かったが、お前は浮かれすぎた。

自分を一人としない存在。何があろうとも離れない存在。そう言った願望を纏め上げて、お前は最強という呪いを夏油傑に掛けた」

 

「違う…俺は傑を信頼して!!」

 

「そこだ。

そこがお前の最大の間違いなんだよ。

信用と信頼は似ている様で違う。信用とは、過去に。信頼は未来に期待する」

 

「何が言いたい」

 

「さっきから言ってただろう。

お前が信頼していたのは、お前が望む未来を作ってくれるお前の未来にしか居ない夏油傑だ。

俺と肩を並べられるんだ。必ず、こうなれるとお前はそこしか見なかった。

直ぐ隣にいる見るべき親友の姿を見ずにな。

だから俺は呪いと言ったんだ」

 

聞きたいことはこれで全部だ。そう言って暁は再びジュースを口に含む。しばしの沈黙、破ったのは今まで無言を貫いていた甚爾だった。

 

「哀れだなな、五条悟。

俺たちは最強か…ああ、認めてやるよ。お前達は最強だった。

夏油傑がいたから、お前は善悪の指針を得た。お前がいたから夏油傑は戦えた。

だが、俺らに負けた後お前達は一人になっちまった。二人で最強裏を返せば、一人で最強には成れない…お前を除いてな」

 

「何が言いたいの?」

 

甚爾の言葉に反応したのは五条では無く家入だった。鋭い目線を甚爾に向けて、その言葉の真意を問う。

 

「簡単な話だ。

呪霊を取込み操る呪霊操術。歴代、その術式を持った奴らは、大半が呪詛師になるか術師を辞めてる。

理由は分かるか?まあ、分かんねぇわな。

考えれば直ぐ分かるだろ。呪霊は、人間の身体から流れた負の感情が澱り重なって生まれたものだ。それを身体の中に含むんだ。人類が出す負の感情の一端を独りで受け止めるんだ。病む奴や折れる奴が出て当たり前だろう」

 

「…そうかも知れないけど、つい最近まで夏油はそんな素振り」

 

「だから言ってんだろ。

夏油傑は五条悟が居たから戦えた。二人の背筋が痒くなるような思い出があるから、負の感情を受け止めれていた。

だが、五条悟が最強になる。肩を並べる事が出来なくなった。そうして独りになってしまえば、呪霊の負の感情に引きずられて負の方向に傾いていったんだよ」

 

「普通なら五条悟に相談やらすれば良かった。

だが、五条悟他でもないお前が与えた最強という肩書きが弱音を吐くことを許さなかった」

 

「何より、補あっていたものが違いすぎる。五条悟(おまえ)は善悪の指針だが、そんんもんは夏油傑がいなくても成長する中で得る事が出来る普遍的なものだ。ましてや、お前は環境にも恵まれているからな」

 

「だが夏油傑は違う。お前がいたから真っ直ぐ進めていた。

だが、お前が振り返らず、見もしない。だが、信頼だけは向けてくる」

 

「そうなってしまえば、自壊するのは必然だな」

 

甚爾と暁両者の言葉に誰も言葉を返さなかった。それは受けた衝撃の大きさだけで無く、何処かで思い当たる節があるため、正論で叩き付けられたような痛みが三人にはあった。

 

「まあ、実際。

夏油傑しかり、後輩達の件も、きちんと五条悟が見ていれば対処できたかも知れないしな」

 

「…それはどういうことだ」

 

独り言のように呟いた暁の言葉に反応したのは頭を抱えていた夜蛾だった。夜蛾の問いかけに暁は「なんだそこにも気がついてなかったのか」と呆れたた表情を見せた。

 

「七海と灰原の任務だが、あれは意図的に情報が抜かれていた」

 

「ありえない!!

あれは上層部からの正式ものだ!!」

 

「その上層部が黒幕なんだよ、タコ助」

 

「つか、普通に考えれば分かるだろ。

地方で土着の信仰が根強く残る土地での任務。良し悪しは別にしても確実に、信仰からの土地神がいて当然だろうが」

 

「原因では無いとしても、確実にそれは任務においては大きな障害になりゆる。

それなのに任務の詳細に記されていないなんて、意図的に隠した以外にあり得ないだろう」

 

「ッ――――!!」

 

二人の言葉に夜蛾は何故そこに思い当たらなかったと更に頭を抱える。その中で僅かに理性が落ち着いた五条が「何のために上層部(クズども)がそんな事をするんだよ」と問いかけた。

五条の問いを聞いた瞬間、今度こそあきれ果てた顔を見せる。

 

「本当に周りを見ていないんだな。

お前への嫌がらせに決まってるだろう」

 

「は?

なんで俺への嫌がらせになるんだよ」

 

「あ~。甚爾」

 

「チィ。

お前も上層部の腐敗は知ってるだろ。

その中で自分たちの力すら及ばず、存在も歯牙にも掛けず、好き勝手に振る舞うお前の存在が妬ましいと思わない訳がない。

だが、お前は最強だ。実力ではどうすることも出来ない。殺す事も出来ない。

ならやるなら、嫌がらせだ。

お前のメンタルを削ることに注力するに決まってる。

幸運な事に俺らのせいで任務を失敗している。理由としては十分すぎだ」

 

「加えて震災による呪霊の増加は上によっては最適すぎた。

俺たちは最強と公言する片割れを最も凄惨な現場に多く向かわせ、精神的に疲弊させ死亡する確率を高めさせる…まあ、これは上も考えていなかった形になったが、お前にダメージを与えられたなら、パンピー共が何人死のうがどうでも良いんだろう。

そして後輩らには、明らかに等級以上の任務を与えて事故として殺す。

成功しようがしまいが、最終的にお前が片付けるからな。体良くその強さを利用されてるんだよ」

 

「…疑問なんだけど。

何で私にはそういった事が無いわけ?

それとも気がついてないだけでされてる?」

 

「簡単な話だ。

お前が希少な反転術式をアウトプット出来るからだ。

懐に抑えておけば、何かあった時のセーフティになる。

更に最悪の場合は五条悟に対する人質にもな」

 

「なにそれ、最悪」

 

「はっ!

今更何を言ってやがる」

 

二人が告げた内容を否定する要素が無い。それを想像や妄想として切り捨てるには余りにも的を得すぎている。

五条悟に今まで経験した事の無い絶望であり失意が去来する。

 

「なあどんな気分だぁ?

俺たちは最強だぁ?世界の全てを知った気で言ったんだろうけどな。オマエらは浅すぎるんだよ。覚悟も達観も、決意も、何もかもが浅すぎる!!

お前がもう少しきちんと見てれば、親友も後輩もあんな事にはなってなかったかも知れないのになあ!!

全部全部、お前の――――」

 

パン

 

ガシ

 

畳み掛ける甚爾の口撃が確実に五条悟のメンタルを殺していく最中、甚爾の口を止めたのは家入のビンタと首元に掴みかかる夜蛾だった。

 

「なんだ、どっちかお前の彼氏だったか?

つか離せよ、野郎と抱きつく趣味はねぇよ」

 

僅かな空白の後、甚爾から軽口が発せられる。が、当人達は真っ直ぐ甚爾を見つめる。最初に口を開いたのは夜蛾だ。

 

「勘違いするな。

どれだけ悟が強くとも、奴はまだ子どもだ!!

傑の件も灰原の件も、教師である俺がきちんとせねばならなかったんだ!!

これ以上、悟を苦しめるな!!!」

 

「子どもね…それが許されるだけどれだけ恵まれてやがる」

 

「………」

 

甚爾に啖呵と警告を行った夜蛾が手を離せば、今度は煙草に火を付けた硝子が甚爾に視線を合わせる。

 

「勘違いすんなよ。

あたしはバカな女達と違って、顔が良いだけのクズに惚れるなんて、天地がランバタ踊っても無いし、後輩たちにそんな感情向けねえよ」

 

「だったら、なんだよ?

理由によっては殴り返すぜ、俺は」

 

「ハハ。アンタもなかなかのクズだね。

理由か…そうだね。

私も同級生で先輩だった。

それじゃ駄目」

 

「オーケー分かった十分だ。

大人しく一発は貰っておくぜ」

 

「まあ、話は以上だし。

俺らもそろそろおいとまするか。

飯を食うって空気じゃないし、店でも代えるか

時雨、一杯食わした罰だ。

適当な店で奢れ」

 

「賛成だ!!」

 

「はあ。分かったよ。

話も終わったみたいだし、これでお開きとするか」

 

暁と甚爾の言葉に時雨は仕方が無いと立ち上がる。

話はそこまで。三人が後にしようとした時、五条が待ったを掛ける。

 

「待てよ。

最後に一つ提案がある」

 

 

 玉折_孤独 




――――信頼だよ。
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