アイシールド21 Reset the game   作:アリスとウサギ

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ONE 時を超えるアイシールド

「5分も待ってやんねーよ! コイツは今この場で、二度と立ち上がれなくしてやる!!」

 

 来る! 阿含さんの手刀。

 ダメだ。ここでファンブルしたら(ボールをこぼしたら)、試合が終わる。

 

「ボールごとぶっ壊してやんよ」

 

 恐ろしく、悪意に満ちた声が僕の耳に届く。後ろからは仲間たちの不安げな声が。

 怖い、でも逃げちゃダメだ。ただのボールじゃないんだ。みんなで約束したんだ。

 絶対に全国大会決勝( クリスマスボウル )に行くって。だから……

 

「これでめでたく、GAME OVERだァ」

 

 死んでもボールだけは渡さない。両手でぎゅっと抱え込む。攻撃権さえ向こうに渡さなければ、まだ逆転のチャンスは残ってる。だから……

 

「あがっ……!」

 

 しかし、そんなチャンスはどこにもなかった。

 視界が暗転する。

 光が遠のく。

 フィールドは戦場だ。闘いから逃げた臆病者に、敵に立ち向かうことを選ばなかった敗者に、勝利の女神は決して微笑みなど浮かべない。

 ヒル魔さん、モン太、まもり姉ちゃん……仲間たちの悲痛な叫びを最後に、僕の意識は完全に途絶えてしまった。

 

▪︎

 

 アメリカンフットボール。

 それはパワー、スピード、タクティクス。三拍子揃った地上でもっとも熱いスポーツ。

 この物語は、長年パシリ生活を送っていた少年。

 小早川 (こばやかわ)瀬那(せな)が、ひょんなことからアメフト部に入り、地獄のような練習に励み、そしてなんのイタズラか時をさかのぼり、また戦場 (フィールド)走り抜け(かけぬけ)、仲間たちとともに全国大会決勝 (クリスマスボウル)を目指す。

 その一大青春物語である。

 

▪︎

 

 朝のまどろんだ日差しが、カーテンの隙間から燦々と差し込む。

 

「まもりちゃんが迎えに来てくれたわよ。早く起きなさい!」

 

 下の階から、いかめしい声が飛んできた。長年の習慣から身体 (からだ)は無意識に動き、制服に着替えて階段を降りる。

 角を生やした母さんからのお小言を最小限に抑えつつ、玄関の扉を開けた。

 

「おはよう、セナ」

「……おはよう、まもり姉ちゃん」

 

 笑顔で僕──小早川瀬那 (セナ)を迎えたのは、幼なじみの姉崎まもり(まもり姉ちゃん)だった。紅髪碧眼のアメリカ人のクォーター美女。年は1つしか違わず、血も繋がっていないが、小さい頃からいじめられていた僕をいつも助けてくれた、面倒見のいい本当に姉のような幼なじみ。

 しかし、そんなまもり姉ちゃんに対し、僕は笑みを返すことができなかった。

 記憶が少々曖昧だが、負けたのだけは覚えている。そう、試合に負けたのだ。関東大会に敗者復活戦は存在しない。つまり、泥門 (でいもん)デビルバッツの全国への夢は終わってしまったのだ。

 僕に負担をかけさせないためか、いつも通りの明るい口調で話しかけてくるまもり姉ちゃんに、最低限の相槌だけを打って通学路を歩く。

 これまで何度も利用してきた道を沿って進み、目的地にたどり着いた。

 私立泥門高校。門の前はなぜか異様な人だかりで賑わっていた。

 

「セナ、受験番号の用紙は?」

「……受験番号?」

 

 まもり姉ちゃんの問いに首をかしげる。すると、僕の反応に何を思ったのか、目の前の幼なじみは「仕方ないなぁ」と、ため息を吐いた。

 

「また忘れ物したんでしょ? 021番よ、セナの番号」

 

 そう言いながら大きな掲示板に指を向け、こちらの視線を誘導してきた。特に逆らうこともなく、僕はそちらに顔を向ける。

 そこにあったのは様々な数字が羅列した白く大きな紙。というか、どこか見覚えのある紙……というか、どこか見覚えのあるシチュエーションだった。

 

「あった! あったセナ (021)の番号!」

 

 まだ事態を飲み込めない僕の代わりに、大喜びするまもり姉ちゃん。「えらい、よく頑張ったね」と満面の笑みを浮かべる顔はとても演技には見えなかった。

 だけど、セナ本人にはわけのわからない状況だった。これは自分が泥門高校に入学した時の光景。よく見れば服装も普段の高校のブレザーではなく、中学の頃の制服で……

 

「あの、まもり姉ちゃん……」

 

 これってなんのドッキリ? そう訊こうとした僕を置いてきぼりに、彼女は入学案内を取りに行ってくると言って、その場を去っていった。

 あまりの展開に呆然と立ち尽くす。そんな無防備な獲物を、泥門の悪魔は舌なめずりしながら待っていた。

 

次のターゲット(合格者)発見」

 

 土煙を巻き上げ、蛭魔妖一(ヒル魔さん)栗田良寛(栗田さん)が駆け寄ってきた。流れるような動きで腰を担ぎ上げられる。

 

「え? なになに!?」

「合格、おめでとう! Yaーhaー!」

 

 未だ状況を把握できていない僕は、二人に胴上げをされ、ゆっくりと地面に降ろされる。続けざまヒル魔さんが自身の携帯を渡してきて……

 

「さあ、この携帯でご両親に報告してあげるといい」

 

 と、ヒル魔さんを知っている人物なら、誰もが感じる違和感バリバリの親切を押し出してきた。

 あまり頭がいい方とはいえない僕だが、この悪魔が善意で動くことはないことだけはよく知っていた。

 

「ヒル魔さん、今度はいったい何を企んで……」

「チィ! 誰だ漏らしやがった奴は!」

 

 表情は一転、すぐに普段の威圧的な空気に戻る。

 

「ヒル魔〜、やっぱりこの方法よくないよ」

「ごちゃごちゃくっちゃべってんじゃねぇ糞デブ。アメフトは一人でもベンチに数が多い方が有利なんだよ。ま、コイツはしゃあねぇ。次行くぞ!」

「え? あ、ちょっと待って……」

 

 慌てて呼びかける僕を無視して、ヒル魔さんと栗田さんの二人は人混みの中へと消えていった。

 

▪︎

 

 あれからヒル魔さんたちは見つからず、まもり姉ちゃんに腕を引っ張られ自宅へと帰還した。

 家に帰ってきた僕が最初に行ったのは日付の確認だ。

 確かに僕はあまり頭のいい方ではない。だが、異常事態に気づかないほどバカでもない。けれど、それでもこの状況はあまりにも馬鹿げている。だから確証が欲しくて、できれば自分の考えを否定してくれる証拠を見つけるために、現在の日付を確認した。あらゆる方法で。

 新聞、テレビ、カレンダー、両親への聞き込み。思いつく限りの方法で確かめ、出てきた結論は……

 

「時間が戻ってる?」

 

 馬鹿げた、とても現実離れした回答だった。ありえない。誰だってそう思うし、自分でもそう思う。でも、周囲に存在する全ての証拠が逆行(それ)を事実と物語っていた。

 いくらヒル魔さんでも、新聞やテレビの改竄ができるとは思えない。以前、アメフトの中継でデビルバッツのCMを流すことはしていたが……それはそれ、これはこれだ。何より……

 

「筋肉痛がない」

 

 昨日、僕たち泥門デビルバッツは、優勝候補筆頭の神龍寺ナーガと苛烈な激戦を繰り広げたのだ。なのに、酷使した脚どころか、全身のどこにも痛みがない。いや、それどころか身体が明らかに縮んですらいる。

 いくらヒル魔さんが何かを企んでいたとしても、人体に悪影響を及ぼすようなことまではしない。あの人は、悪魔のように見えて、実は悪魔かもしれないけど、でも仲間想いの泥門(ぼくたち)の司令塔だ。それだけはチームの誰もがわかっている。

 つまり……

 

「僕は本当にタイムスリップをしたってこと!?」

 

 いやいやいや、そんなバカな。ありえないでしょ、そんなこと。でも、じゃあ、どういうこと?

 それから延々と悩み続けた結果、僕は思考を放棄して眠りにつくのであった。

 





 アメフトクリニック。
Q.アメフトってどんなスポーツ?
A.アメリカンフットボール。通称アメフトは、日本ではあまり馴染みのあるスポーツじゃねーが、アメリカでは野球やサッカーよりも絶大な人気を博した一大スポーツなんだぜ。
 ルールは複雑で全て説明することはできねーが、要は2チームによる陣地取り合戦だ。パス、ラン、キック。方法はなんでもいい。とにかく相手チームのエンドゾーンまでボールを運んで得点をゲットしろ! Yaーhaー!
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