アイシールド21 Reset the game   作:アリスとウサギ

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宣戦布告

 モン太の加入から数日後。

 僕たち泥門デビルバッツのメンバーは来るべき日に備え、各々がグラウンドで汗を流しつつトレーニングに励んでいた。

 柔軟の後は、地獄のような筋トレとポジション別練習。他の三人は元々運動をやっていた側の人間だが、僕はこの身体ではほとんど鍛えたことなどなかったので、なかなか辛いメニューを強いられていた。

 

「お疲れ様。はい、ドリンク」

「ありがとう、まもり姉ちゃん」

 

 渡されたスポーツドリンクを受け取る。

 ちなみに、モン太には僕がアイシールド21の正体であることをすぐに話した。正式にアメフト部へ加入したこともあって、ヒル魔さんも口止めはしなかったのだ。これで秘密を打ち明けた人数は、合計で四人となる。

 

「モン太くんも入ってくれたおかげで、泥門(うち)もついに五人になったんだ。姉崎さんはマネージャーだから試合には出れないけど、やっぱり人が増えると嬉しいね〜」

「こんなところで喜んでんじゃねえ、この豚まん! メンバーが足りねえことに変わりはねーんだ」

 

 人数が増えて嬉しい気持ちは僕も栗田さんと同じだが、ヒル魔さんの言う通り、まだまだ人数が足りないのも事実。

 アメフトで試合をするには、最低でも1チーム11人が必要となる。しばらくの間は、助っ人頼りの状況が続きそうだった。

 

「テレビにも映ってたし、部活自体は結構有名なはずだけど、なんで誰も来ないんスかね?」

「うーん? そもそもみんな、アメフトのことをよく知らないんじゃないかしら? ほら、日本だとあまり馴染みのあるスポーツじゃないし、イメージが湧きにくいのかも」

 

 首をひねりながら疑問を口にするモン太に、まもり姉ちゃんが憶測を立てる。

 アメフトは、日本ではそこまで有名なスポーツではない。それこそ、名前すら知らない人がいてもおかしくないレベルで。

 

「……なるほど、一理あるな」

 

 すると、それを聞いていたヒル魔さんが携帯を取り出し、どこかに電話をかけ始めた。

 通話はものの一二分で終了する。そして言った。

 

「テメーら、今週末に泥門(うち)のグラウンドで試合を組んだぞ」

「「「早っ!?」」」

 

 僕らは口を揃えて驚きを発した。まあ、ヒル魔さんならこれぐらいのことはするよね。

 泥門(うち)で試合をするということは、生徒のみんなに試合を観られるということだ。宣伝としては、確かにうってつけかもしれない。

 

「つーわけで糞チビ糞猿、ランニング&用具の買い出しに行ってこい!」

 

 どういうわけかわからないが、この人に命令されて逆らえるわけもない。僕とモン太の二人は買い出しのメモを受け取り、ダッシュで校門の外に出た。

 たわいもない会話を交わしながら脚を進める。

 

「やー、でもいきなり試合か。ワクワクするような、ちょっと怖いような……」

「……そっか、モン太にとっては初試合になるのか」

「おうよ! オレがキャッチのヒーローになれるかが懸かった、大事な一戦だぜ」

 

 そうだ。僕からすれば、モン太はずっと一緒にフィールドで肩を並べてきた仲間だが、本人からすれば、次の試合がデビュー戦となる。緊張するのも無理はない。

 と──、その時だった。こちらに向かって、ある人影が近づいてきたのは。

 遠くからでもその独特な雰囲気を測り違えることはない、進さんだ。

 

「…………」

「…………」

 

 無言になる。無視するのは違うけど、話しかけるのも違うような……

 だって、試合中はずっとアイシールドで顔を隠していたから、向こうからすれば、僕はまったく面識のない人物になるだろうし……

 だが、互いがすれ違うその瞬間。進さんは脚を止めた。

 

「アイシールドか?」

 

 投げられた言葉に、僕も脚を止める。横で並走していたモン太も同じように。

 

「進さん……」

「…………」

 

 過去(以前)もそうだったが、なんでバレたのだろう? 

 頭に疑問を浮かべてる間、進さんは隣にいたモン太のことを一瞥し、すぐこちらに視線を戻した。

 

「ようやくレシーバーを見つけたか」

「「!?」」

 

 驚きが重なる。いや、一目見ただけなのに、なんでわかるの!?

 

「疑問に思うことはない。防具や服などといった装飾品は、あくまでも人体を守るためのもの。眼を凝らせば、身体についた筋肉や骨格から、その人物の情報を読み取ることは不可能ではない」

「す、すごすぎMAX……」

 

 思わずといった様子で、モン太が感嘆の息を漏らす。そして、それは僕も同じだった。

 進さんのすごさは十分に理解していたつもりだったが、どうやらまだまだ想像の上を行くらしい。

 

「秋大会までに、全てを整えてこい。王城もさらなる成長を遂げる」

「はい」

 

 ──決勝で待つ。

 

 約束の言葉を残して、進さんはその場を去っていった。

 

▪︎

 

 買い物を終え、両手に紙袋を携えたまま部室へと帰還する。

 扉を開けた僕たちを出迎えたのは、世にも恐ろしい光景だった。

 

「ほーう、泥門(うち)に勝つつもりでいんのか? なら五百万賭けるか?」

「上等だ! 吐いた唾は飲み込めねーぞォ!」

 

 悪魔と番長がメンチを切り合っていた。

 ヒル魔さんを相手に一触即発の喧嘩腰で対面しているのは、賊学カメレオンズのクォーターバックにして、エースラインバッカー。葉柱ルイ(葉柱さん)だった。

 まあ、この時期に泥門が対戦を組んだと聞いた時点で、僕には予想できた事態だったが……

 

「カッ! 雑魚王城に負けた泥門ごときが賊学(うち)になめた口を利いたこと、必ず後悔させてやる! 週末までに覚えておけ。今や最強のラインバッカーは、進なんてゴミじゃねえ。この葉柱ルイだってことをな!」

 

 椅子を蹴り飛ばし、葉柱さんが外に出てきた。

 だが、モン太が道を譲る仕草をした瞬間、僕は逆に塞ぐよう回り込む。

 

「あ? なんだチビ?」

「王城は、進さんは雑魚なんかじゃありません」

 

 過去(未来)では、僕たち泥門は葉柱さんたちに色々とお世話になった。大会の試合に遅れた時だって、わざわざバイクで駆けつけに来てくれて、試合会場まで運んでくださったりしたぐらいだ。

 でも、だからといって、進さんをバカにするのは許せない。

 

「はっ……」

「セナっ! 危ない!?」

 

 まもり姉ちゃんの悲鳴と同時に、葉柱さんの長い腕が伸びてくる。けれど遅い。進さんのタックルは、これまで僕が闘ってきた強敵たちは、みんなもっともっとすごかった。

 

「チッ! すばしっこいチビめ!」

「…………」

 

 攻撃を躱した僕は、一対一で葉柱さんと向き合う。

 

「……葉柱さんがすごいラインバッカーなのは、この場にいる誰よりも僕が知っています。でも、最強のラインバッカーは進さんです! そこだけは譲れない」

「カッ! 譲れないだと? 一丁前な口を利くが、譲れなかったらなんだ? まさか、テメーがオレを倒すつもりか?」

「……僕は選手じゃないから、試合には出られないけど」

 

 僕がそう言うと、葉柱さんは鼻で笑って上から見下してきた。

 

「はっ、試合にも出れねえ奴が、しゃしゃり出てんじゃねえ」

「……確かに僕は試合には出れないけど、その代わり、僕に代わって進さんが最強であることを証明する選手が泥門にいます」

「大口叩いておいて結局人頼みか、情けねえ。で、誰だ、そいつは?」

「アイシールド21」

 

 僕がそう応えると、モン太とまもり姉ちゃんが息を呑んだ。まあ、正体を知ってるから当然なんだけど。

 

「はっ、アイシールドか。ちょっとテレビに取り上げられたぐれぇで、天狗にでもなったつもりか。いいか……」

「フィールドに立ったら、アイシールド21は誰が相手でも絶対に手は抜きません」

 

 セリフを遮って、告げる。

 

「だから葉柱さんも──全力できてください」

「!?」

 

 一瞬、まるで何かに怯えるように葉柱さんが後ろへ退がった。が、次の瞬間にはいつもの気迫を取り戻す。

 

「……もう一度言う、最強はこの葉柱ルイだ」

 

 そう言い残して、葉柱さんは部室から出て行った。

 

▪︎

 

「うひゃ、うひゃ、うひゃひゃひゃひゃっ!」

「セナ! なに危ないことをやってるのっ!」

 

 ヒル魔さんの爆笑が鳴り響く中、現在僕はまもり姉ちゃんのお叱りを受けていた。

 

「ご、ごめんなさい。その、進さんをバカにされたと思うと、つい……」

「もう! 友達思いなのはいいことだけど、時と場合ぐらいは考えて!」

「……はい、おっしゃる通りです」

 

 いや、友達って。僕と進さんの関係は……ん? 改めて言葉にすると難しい。

 本当はライバルだって言いたいけど、さすがに恐れ多いというかなんというか。

 

「す、すごいねセナくん。あんな怖い人と向き合えるなんて……」

「相手はあの葉柱ルイだぞ!? まあ、一瞬だけセナの方がちょびっとだけ怖かったけど……」

「はははは……」

 

 栗田さんとモン太の所感に対し、僕は苦笑いで誤魔化した。

 葉柱さんと向き合えた理由は、度胸や自信などではなく、ただ未来の記憶があったからだ。葉柱さんが見た目通りの悪いだけの人ではないことを、僕は知っていたから。ただそれだけのこと。

 

「やるじゃねーか、糞チビ」

「えーと、ははは……」

 

 おそらくヒル魔さんが言いたいのは、よく逃げずに立ち向かったという感じの意味なのだろう。

 だけど僕は、進さんのことを悪く言われて怒ったのも事実だけど、それと同じぐらい葉柱さんのことが、なんというかもったいないと思ってしまったのだ。

 本当は僕たちと同じぐらい、アメフトのことが好きなはずなのに……

 

「ところでヒル魔先輩、なんで賊学の番長が泥門(うち)のアメフト部なんかに来てたんスか?」

「あ? 週末に賊学と試合すっからに決まってんだろ」

「いいぃ!? あの賊学と!?」

 

 ヒル魔さんの回答に、モン太が悲鳴に近い叫びをあげる。

 

「いや! なんでここら一帯をシメてる不良集団が、アメフトなんてやってるんスか!?」

「ったく、対戦相手のチェックぐらいしとけ糞猿」

 

 毒を吐きながら、ヒル魔さんが月刊アメフト雑誌を机の上に広げた。

 

「『賊学カメレオンズ』エースラインバッカー、葉柱ルイの加入で一躍実力上位チームに!?」

 

 読み上げていたまもり姉ちゃんが、最後の文言に驚きの感想を漏らす。

 

「そうなんだ。さすがに王城とかと比べたら、まだマシだとは思うけど、最近有名になってきたチームのひとつでね」

「で、でも! 今はまだ春大会の期間中なんスよね? 泥門(うち)と練習試合できるってことは、そこまで強いチームじゃないんじゃ……」

「……それが大会は試合で負けたんじゃなくて、賊学の選手が試合中、審判を殴ったから退場になったんだよ」

「マジっスか……」

 

 栗田さんの補足に、モン太は唖然と言葉を失う。

 審判を殴るとか、よく退場だけで済んだよね。

 

「糞猿、賊学戦はアイシールドを囮にして、テメーを主軸に使う」

「セナじゃなくて、オレを!?」

「連中もバカじゃねえ。泥門の闘い方も研究してくるはずだ。十中八九、アイシールドの(ラン)を警戒してくる。さっき、いい感じに糞チビが挑発したのも効いてるだろうからな」

「いや、別に挑発したわけじゃ……」

 

 一応否定するが、ヒル魔さんは気にも止めず会話を進める。

 

「敵はアイシールドの突撃に備え、陣形を整えてくる。そこで新たな秘密兵器の登場だ!」

「!?」

「ランプレーを警戒してる相手に、パスプレーで翻弄し、点をもぎ取る! テメーの見せ場だ」

「オレの、見せ場……」

 

 葛藤が垣間見える。

 相手はあの有名な不良集団、賊学だ。できることなら関わりたくない相手に、あろうことか自分から挑みにかかるなんて、誰だって躊躇するに決まっている。

 それでもモン太は、逃げる道を選ばなかった。

 

「おーっし! 任せてくださいっス! キャッチのヒーローになるって決めたんだ! 賊学が相手でも、ビビってなんかいられねえ! 漢・雷門太郎。次の試合で見事、花道を飾ってみせます!!」

「おお〜〜」

 

 賊学戦。モン太にとっては初めての試合なのに、ここまで言い切るなんて。

 決めるところは、きっちりと決める。泥門のキャッチの達人は健在のようだ。

 

「……えと、うん。頑張ってね、モン太くん」

 

 まもり姉ちゃんも、遠慮がちに応援を送る。

 ん? 遠慮がちに?

 

「デビュー戦で花道を飾ってどうする、花は咲かせるもんだ。誰か、猿でもわかる日本語の教科書を持ってきてやれ」

「い、いいでしょ、ヒル魔くん! 本人がせっかくやる気なんだから!」

「…………」

 

 最後の最後で台なしだった。

 とにかく、試合に向けて頑張るしかない。僕は心の中で、そう締めくくった。

 




 アメフトクリニック。
Q.試合の流れを、もう少し詳しく教えて?
A.アメフトのフィールドは、縦に100ヤード。日本人にもわかり易く換算すると約91mあるんだぜ。
 試合時間は40分。大きな流れで4つに区切り、ひとつのクォーターは10分、前半のことを第一、第二クォーター。後半を第三、第四クォーターと呼ぶんだ。ただ、実際のところは時計を止めたりして進めるから、試合の終了時間は二時間、場合によっては三時間を超えることもしばしばあるぜ。あと、国や年齢によってプレー時間そのものが変わることもあるから、あくまで参考程度に覚えておいてくれ。
 ちなみに、点数が引き分けになれば、サドンデスの始まりだ! 互いに決着がつくまで試合は続くぜ! もっとも、日本だと普通に引き分けで終わることもあるけどな。
 ランやパスでボールを陣地ごと前に進めて、点が入ったり、攻撃を止められたら攻守交代。試合の流れ次第では、大量リードされていても逆転は可能だ! 最後まであきらめるんじゃねーぜ! Yaーhaー!
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