アイシールド21 Reset the game   作:アリスとウサギ

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Bad Bat Bad

 暖かな春風が、室内に花の香りを運び込む。

 そんな穏やかな昼休み、泥門高校に恐怖の悪魔が襲来した。

 

「YAーHAー!! 爆烈重大臨時ニュースだ!!」

 

 ヒル魔さんだった。どうやら放送室を占拠したらしい。校内放送が拡散する。

 

「今週の土曜、校庭でアメフト部の試合をやるぞ! 敵は賊学カメレオンズ。賭け金五百万の大勝負だァ! これまで賊学に泣かされてきた泥門生の諸君、オレたち泥門デビルバッツがキミたちに代わって、あの不良集団をコテンパンのギッタンギタンにのしてやるぜ! もちろん話題のデビルヒーロー、ノートルダム大のエース・アイシールド21もやってくる! 見物料は無料! 見なきゃ漢じゃねえーー!!」

 

 ぶつりと音が切れた。途端、校内は放送の話題で持ちきりになる。

 

「すげぇ、あの賊学と試合だってよ」

「五百万ってマジ?」

「興味はあるけど、賊学が来るんだろ? 怖くね?」

「でも、アイシールドは一度見てみたい!」

 

 好奇心が関心を呼び、関心が意識を引き出していく。

 以前、テレビにあげられた効果も相まって、生徒たちからちらほらと試合を観に行く話が出始めた。

 

「……絶対、負けられなくなっちまったな」

「ははは、そうだね……」

 

 モン太の意見に同意する。これで負けたら、残りの学園生活は生き恥をさらすようなものだ。

 残りの数日、僕たちは必死の覚悟で訓練に励んだ。

 

▪︎

 

 そして当日。賊学との練習試合の日。

 僕、モン太、まもり姉ちゃんの三人は、こぞって上を見上げていた。そこにある、大それた看板を。

 

「一応訊くけど、セナの仕業じゃねーんだよな?」

「……うん、僕じゃないよ」

「はぁ……ヒル魔くんね」

 

 泥門vs賊学を宣伝するための看板。だが、問題なのはその内容だった。

 賊学の番長──葉柱さんの隣で、アイシールド()が中指を突き立てている。おかしい。こんな写真、少なくとも今回は撮られた覚えがないのに……

 僕だってバカじゃない。過去(前回)の経験を活かして、警戒はしていたのだ。まあ結局、無意味に終わったのだけど。

 

「何がアイシールドだッ! なめやがって!」

 

 僕の顔、というか看板の方に、トマトのジュース缶が思い切りぶつけられた。賊学の生徒が投げたものだ。意外と健康に気を遣っているらしい。

 滴るトマトジュース(血痕)から目を逸らしつつ、そそくさと部室へ向かう。

 道中、僕たちがアメフト部であることを察した賊学生から襲われそうになるも、ケルベロス(最強の番人)に助けられ、無事に部室へと到着。手早く着替えを済ませた僕らは、ダッシュでグラウンドに出た。

 

「お! テレビに出てたアイシールドだ!」

「頑張れ泥門!」

「賊学を倒してくれーー!!」

 

 周囲は泥門の生徒(見物人)でいっぱいだった。予想以上に、アメフト部は注目を集めていたらしい。どこで呼び寄せたのか、審判まで用意されている。

 

「間もなく、泥門デビルバッツ 対 賊学カメレオンズの練習試合を始めます」

 

 両チームのメンバーが、フィールドに出揃う。

 賊学の僕らを見る目は、明らかにスポーツマンのそれではなかった。ヒル魔さんとは別の意味で、どんな手を使ってでも勝つという邪な意思が感じられる。

 だけど、負けられない気持ちはこちらも同じだった。

 

「キャッチのヒーローを目指すからには、最初の一戦からコケるわけにゃーいかねえ。必ず勝とうぜ!」

「うん!」

 

 その通りだ。たとえ練習試合でも負けるつもりはない。全力でプレーするだけだ。

 時間も迫ってきた。互いのチームがフィールドに輪を描く。

 

「「「ぶっ殺す! YAーHAー!!」」」

「「「ぶっ潰す! ボッコボッコ!!」」」

 

 かけ声とともに、選手たちが散っていく。

 賊学のキックオフから、試合が開始した。

 

「カッ! 王城戦のデータは調べてきてんだよ。アイシールドにリターンはさせねえ。爆竹キックだッ!」

 

 普通、最初のキックは敵陣深くに蹴り込むのがセオリーだ。なぜなら距離が伸びれば伸びるほど、それだけ相手の攻撃難易度が跳ね上がるから。

 しかし、賊学のキッカーが選んだのは、地面を跳ね回るキック。僕にボールを取らせないことを最重視したキックだった。

 

「キッショーー!」

「こんなん取れるわけねーだろ!」

 

 泥門の面々もボールを追いかけるが、難解な軌道を描くボールを掴むことができない。

 が、今の泥門には一人、それをあっさりとキャッチできる選手がいた。

 

「なっ!?」

 

 向こうから驚きの声があがる。モン太の加入は、王城戦の後だ。データを取れていなかったのだろう。

 僕はすぐさま方向転換し、ボールをキャッチしたモン太のもとへ。ノーコンなのはよく知っているから、自分から取り行かなくちゃ。

 しかし、僕の思いは半分しか伝わらなかった。

 

「よーし、アイシールド!」

「いいいい!?」

 

 まさかのパス。案の定ボールはあらぬ方へ飛んでいき、プレーが止まった。

 

「何やってやがんだ、この糞猿ゥ!!」

「まあまあ。あのボールをキャッチできただけでも、十分すごいよ」

「うおー! オレの初プレーが……」

 

 怒るヒル魔さんを栗田さんがなだめる。モン太の方は頭を抱えて悔しがっているけど、もしあの場でキャッチできなければ、ボールはもっと遠くにいっていた。やっぱりレシーバーがいるだけで、チームの安定感が全然違う。

 その後、まもり姉ちゃんや観客の声援のおかげで復活したモン太に続き、泥門は攻撃陣形についた。

 

「SET! HUT!」

 

 栗田さんからヒル魔さんにボールが渡る。そのまま流れるような形で、後ろから突進する僕にボールを手渡す仕草を見せた。

 

「テメーら泥門の攻撃パターンは読めてんだよ!」

「王城戦でも、パスの成功率はゼロだったからな!」

 

 賊学のメンバーが僕の(ラン)に備えて、(ライン)を中央に固める。しかし、ボールを託されたのは僕ではなかった。

 さっきのハンドオフは、ヒル魔さんお得意の渡したフリ。本命はランプレーじゃない。

 

「受け取れ! 糞猿!!」

「何っ!?」

 

 ディフェンス陣の間をかすめて飛ぶ、回転(スパイラル)のかかったパス。唯一、葉柱さんだけが反応するが、その手がボールに触れることはなかった。

 強烈な勢いで放たれたボールは敵をすり抜け、レシーバーの手の中へ。キャッチしたのは泥門のエースレシーバー──モン太だ。37ヤードのビッグ前進(ゲイン)が成立する。

 

「泥門に、パスだと!?」

「すごーい! モン太くん、ナイスキャッチ!」

 

 賊学からは驚きが、観客からは歓声が飛ぶ。

 王城戦では実質、僕のランプレーしか攻撃パターンがなかった。けど、今は違う。

 モン太が入ってくれたおかげでパスが増え、パスが増えたことにより、ヒル魔さんのトリックプレーが活き、相手がパスを警戒すれば、僕に割かれる守備が減る。泥門の攻撃パターンは、一気に何倍にも膨れ上がっていた。

 

「SET! HUT!」

「ぐっ……次こそアイシールドの(ラン)だ!」

 

 そして、僕の(ラン)に過剰な警戒をみせている賊学には、後ろへの攻撃──ロングパスへの対抗手段がない。

 先ほどと同じくヒル魔さんの投げたパスが宙を裂き、敵陣を深く駆け抜けるモン太のもとへ。

 

「本庄さん、オレ、野球じゃダメだったけど──約束します。今度こそこのアメリカンフットボールで、キャッチのヒーローになってみせます!!」

 

 ボールを掴み取ったモン太のところへ審判が駆け寄り、両手を上げた。

 

「タッチダーゥゥン!!」

「YAーーHAーー!!」

 

 直後、ヒル魔さんの蹴りがモン太を襲った。

 

「痛えっ!? え? なんで蹴られたんだ?」

「……黙ってキックは、褒めてる証だよ」

「うん。パスで泥門(うち)が点取ったの、これが初めてだから。ヒル魔も嬉しいんだよ」

 

 僕と栗田さんが、疑問を掲げるモン太に答える。

 その後、僕たちはハイタッチを交わして、スコアボードに記された6点の文字を見た。モン太の初得点だ。

 ボーナスゲーム(トライフォーポイント)は失敗するも、これで6対0。泥門のリードとなる。

 そして、攻撃権は泥門から賊学へ。しかし、勢いに乗った泥門は見事賊学の攻撃を防ぎきり、再び攻撃のチャンスを得ることに。

 

「今度こそアイシールドの(ラン)だ!」

 

 賊学のメンバーが目を血走らせ、僕の(ラン)を止めようと躍起になる。

 だが、僕はボールを持っていないことを見せ、それに気づいた相手が数秒遅れでパスに反応するも……

 

「タッチダーゥン!!」

「キャッチM〜AX!!」

 

 モン太の快進撃は止められず、賊学は二度目のタッチダウンを許すことになる。

 これで点差は泥門12点。賊学0点となった。

 

「いいぞー! さるぅーー!!」

「モン太くん、ナイススーパーキャッチ!」

「ナイスプレーだ! 雷門!!」

 

 試合開始早々、八面六臂の大活躍を見せるモン太に、観客たちから称賛の言葉が降り注ぐ。

 よく観察してみれば、野球部の面々までもがモン太の応援に駆けつけにきていた。

 

「あ……」

 

 感動に浸るモン太の尻に、ヒル魔さんから無言のキックが蹴り込まれる。決してモン太本人には見せないけど、その顔には間違いなく喜びの笑みが浮かんでいた。

 

「すごいよモン太くん! 泥門(うち)がこんなにパスで点を取れるなんて〜」

「あ、あざっス!」

 

 栗田さんからも激励を受け、モン太も照れくさそうに返事を返す。

 僕とも手を叩き合って、そこで第一クォーター終了。

 続く第二クォーター。悔しくも賊学にタッチダウンを決められた泥門は、気を取り直して反撃に出る。

 両チームのメンバーが、自陣で二十五秒の作戦会議を始めた。

 

「どうしましょ? あの猿にはパスがありますよ?」

「チッ、仕方ねえ。猿のマークに二人を回せ。残りはアイシールドの(ラン)を警戒しろ! 相手に合わせて闘い方を変えんのがカメレオン流だ! 作戦は後出しした方が勝つ!」

「テメーら、こっからは今までとは逆に、糞猿を囮にしたプレーパターンも混ぜていく。敵に合わせても遅え。作戦は先出しした方が勝つ!」

 

 作戦会議(ハドル)が終わり、プレーが再開する。

 

「SET! HUT!」

 

 スナップされたボールがヒル魔さんの手に渡り、そこに僕が駆け込む。手を出し、ボールを受け取るフリ──ハンドオフフェイクを見せる。

 だが、何度も同じ手に引っかかってくれるほど、賊学も甘くはなかった。

 

「バカが! もう騙されるか! アイシールドにボールは渡してねえ、パスだァ!!」

 

 葉柱さんの指示に従い、賊学のディフェンス陣がモン太を集中マークする。さすがにこれではパスが通せない。

 

「なら、石丸に走らせるだけだ」

 

 突如、パスを投げるフリから、今度は石丸さんへの手渡し。ボールを受け取った石丸さんが敵陣を走り抜け、当然のように連続攻撃権(ファーストダウン)を獲得する。

 石丸さん。陸上部なのに、ヒル魔さんからの咄嗟のハンドオフにも対応できるなんて……昔は当然のように感じていたけど、よくよく考えればすごいことなのでは?

 

「すごいすごいっ! パスがひとつ増えただけで、こんなにも変わるだなんて!」

 

 ベンチからまもり姉ちゃんの声が届く。そうだ。パスだけで、こんなにチームが動けるようになるなんて。

 やっぱりアメフトは面白い!

 と──

 何かイヤな気配を感じた。賊学のメンバーが、明らかに何かをしようとしている。

 

「ヒル魔さん……」

「……配置につけ、糞チビ」

 

 進言しようとするも、ヒル魔さんから返ってきたのは素っ気ない返事だった。僕は仕方なくポジションにつく。

 

「SET! HUT HUT!」

「潰せ」

 

 スナップされたボールをヒル魔さんが受け取った瞬間、賊学のディフェンス陣が、泥門のラインマンを襲った。

 アメフトにおいて、攻撃側の選手と守備側の選手がぶつかり合うのは当然のことだ。でも、本当になんでも許されるわけじゃない。いわゆる反則と呼ばれるプレーも存在する。

 今、賊学のメンバーが行ったプレーがそれだった。硬く握り締められた拳が、泥門のライン陣の顔面に向かって放たれる。

 だが……

 

「ハ?」

「はぁ?」

「はああああ!?」

 

 その拳が彼らに届くことはなかった。それどころか、賊学メンバーのラフプレーを正面から受け止め、自ら反撃まで繰り出している。いや、相手も相手だが、こっちもこっちで思いきり反則なんだけど。

 良くか悪くか、土煙で審判には見られず、総崩れとなった賊学の壁を通り抜け、またも石丸さんが連続攻撃権(ファーストダウン)を獲得する。

 

「おお!? 思わぬ掘り出しものだな」

 

 目をキラキラと輝かせながら、ヒル魔さんは賊学の攻撃を防いだ三人組──十文字くんたちを見ていた。

 うん。試合が開始する前から気づいてはいたのだが、どのような手を使ったのか、泥門の助っ人メンバーにいつの間にやら十文字くんたちが加えられていた。

 三人の様子を見る限り、今のところアメフトの楽しさに目覚めたのではなく、ヒル魔さんに無理やり連れてこられただけみたいだが……

 

「チッ、役立たずどもが」

 

 こちらに暴力が通じないと悟ったのか、賊学によるラフプレーでの襲撃は、その一回きりで終わった。

 その後、石丸さんのランプレーも交えつつ、モン太の猛攻が続き、点差は泥門が24点、賊学が10点で第二クォーターが終了する。

 油断はできないが、泥門の圧倒リードであった。

 

「おーし、いい感じに場もあったまってきやがった。糞チビ! 後半からはテメーの出番だ!」

「はい!」

 

 二つ返事で応える。

 

「今回の試合は、新入部員の宣伝も兼ねてる。テメーの走りを見せてやれ!」

「はいっ!」

 

 僕が返事をしたところで、ハーフタイムが終了。後半戦へと突入する。

 爆竹キックから変わって、弧を描く賊学のキックオフからプレースタートだ。

 フィールドの半分より手前付近から、泥門の攻撃が始まる。

 

「SET! HUT!」

 

 ヒル魔さんからボールを受け取る。本日初となる、僕のランプレーだ。

 

「来やがった!? アイシールドだッ!」

「「「ぶっ潰してやらァーー!!」」」

 

 賊学の皆さんがすごい表情で迫ってくる。

 でも、モン太のパスを警戒して守備を割り振っているおかげか、王城戦の時とは比べものにならないぐらいマークが緩い。いける!

 

「なっ……!?」

「コイツ……っ!」

 

 外から回り込み、一人、二人と切り抜け、敵陣エリアに侵入した。

 

「来たァ! アイシールドだ!!」

「すげえ! 明らかにレベルが違うだろ!?」

 

 観客が盛り上がる中、さらに回転(スピン)でディフェンス陣を躱わし、次の瞬間には置き去りにする。

 栗田さんや十文字くんたちがライン組をブロックして、さらにモン太が複数の敵を引きつけてくれていた。走れるルートが一気に拓く。

 敵のディフェンスはラストひとり。完全な一騎打ちだ。

 

「ぶっち切れ!! アイシールド21!!」

 

 刹那、加速する。40ヤード4秒2。光速の世界。

 

「シャーーッ!! 教えてやるぜ! 真の最強は、この葉柱ルイだってことをな!!」

 

 リーチの長い、葉柱さんの手が伸びてくる。けれど、スピードは遅い、鋭さもない、パワーも進さんのタックルと比べたら全然怖くない。

 姿勢を屈める。急に歩幅を縮めて、最後の一歩で踏み切る。

 

「!?!?」

「ハ?」

「はぁ?」

「はぁあああああぁああ!?」

 

 デビルバットゴーストで葉柱さんを抜き去った僕は、十文字くんたちの激励を背中に受け、フィールドを駆け抜ける。

 そのまま最後まで走りきり、ボールを上に掲げた。

 

「タッチダーーゥン!!」

「YAーーHAーー!!」

 

 無言の蹴りが飛んできた。

 これで泥門はさらに6点追加となる。

 

「や、やべえ! 震えが止まんねえ!」

「高校生の、いや人間の走りじゃねーだろ!」

「ノートルダム大のエースって、ヒル魔のハッタリじゃなかったのか!?」

 

 泥門生からの称賛が耳に届いた。正直、大袈裟な気もするけど、自分が認められるのはやっぱり嬉しい。

 

「セナ、お前こんなすごさMAXの奴だったのか!?」

「いや、えーと……」

 

 そんなことはないと言いたいけど、スピードだけは誰にも負けたくない気持ちもあって、少しの間、返答に窮する。

 

「オレも十年間、野球をしてきたからわかっけど、あんな走り初めて見たぞ!」

「あー、ほら! その代わりモン太と違って、キャッチとかは苦手だから」

 

 そうだ。すごいのは僕だけじゃない。泥門デビルバッツは、みんなで強くなるんだ。

 今度は僕の意思がちゃんと伝わったのか、目を見開いてモン太がうなずく。

 

「……なるほど。ああ、オレもキャッチなら誰にも負けないぜ! もちろんセナが相手でもな!」

「うん。わかってるよ、モン太」

「オラぁ! くっちゃっべってねーで、プレーに集中しやがれ糞チビども! まだ試合は終わってねーんだぞ!」

「「はい!」」

 

 ヒル魔さんが来たことにより、僕たちは頭を切り替える。

 点差は、30対10。泥門(うち)の大量リードだが、ここから巻き返される可能性だってゼロじゃない。

 最後まで全力でプレーに集中するんだ!

 

▪︎

 

 試合は第四クォーターに入っていた。スコアボードを見る。

 42対10。誰が見たって、アメフトの素人が見たってわかる。賊学(うち)の負けだ。どうあがいても、勝ち目なんてあるわけがない。

 

「テメーら気ィ抜くんじゃねぇ!! 攻めて攻めて、攻めまくれっ! 攻撃あるのみだ!!」

「「「おう!」」」

 

 向こうから気合いの入った声が飛んでくる。

 いや、あんなことほざいちゃいるが、ヒル魔の野郎も明らかに自分たちの勝利を確信していやがった。

 周りの見物人どもも、それどころか賊学(うち)のチームメンバーですら、完全に泥門の勝利だと決めつけていやがる。

 

「テメーら、なに地面にへばりついていやがるッ!! 試合はこっからだァ! 泥門のカスどもごときに、賊学なめさせんじゃねえ!!」

「「「…………」」」

「聞いてんのか、テメーらァ!! ぶっ殺されてえか!!」

 

 声を張りあげる。脅してでも奮起させる。いつもそうやってチームを纏めあげてきた。

 なのに……

 

「いや、無理っすよ、葉柱さん……」

「こんなん勝ち負けどころか、勝負にすらなりませんって」

 

 返ってきたのは腑抜けた言葉だった。

 そうこうしているうちに、次のプレーが始まる。

 

「SET! HUT!」

 

 栗田からヒル魔にボールが渡り、ヒル魔からアイシールドにボールが手渡される。

 

(ラン)だ! テメーら死ぬ気で止めやがれ!!」

 

 大声で指示を出す。

 だが、その動きはとても見れたものじゃなかった。手を抜いてるなんてレベルじゃない。勝とうとすらしていなかった。

 

「クソが!」

 

 無論、そんなディフェンスであのアイシールドが止まるはずもない。数秒後には、自分と一騎打ちの体勢に入る。

 

「ぜってえ、ぜってえ止めてやる!!」

 

 腕を広げる。アイシールド越しに奴と視線が交わる。

 

 ──フィールドに立ったら、アイシールド21は誰が相手でも絶対に手は抜きません。

 

 思い出すのは、泥門のアメフト部室の前でオレに生意気な口を利いたチビの言葉。

 

 ──だから葉柱さんも、全力できてください。

 

 アイシールドは、本気だった。

 誰だってわかる。本当はオレだってわかっている。この試合の勝敗が既に決まっていることぐらい。

 なのに、このフィールドで奴だけが、オレに本気で勝負を挑みにきていた。

 まだ、試合は終わっていない、と。

 だったら、だったら。

 

「負けねえ!! オレは賊学の葉柱ルイだァ!!」

 

 次の瞬間。奴の身体は煙となって消えた。

 なんだ、これは!? これが人間の走りか!? こんなバケモンが存在していいのか?

 気づいた時には、オレの後ろを走り去っていく。

 いや、違うだろ。まだ勝負は終わちゃいねえ!

 

「あああああああああ!!」

 

 急いでアイシールドのあとを追う。自分の脚でこんなに全力で走ったのはいつ振りだ。

 けれど、奴の背中は一瞬で遠ざかっていく。その光景は、残酷なまでに輝いて見えた。

 

「これが、アメリカンフットボーラー」

 

 この試合、オレは一度も奴を捕らえることができなかった。

 

▪︎

 

 泥門デビルバッツ(48)()賊学カメレオンズ(10)

 

「試合終了!!」

「やったぁ〜。デビルバッツの大勝利!!」

 

 新しく参戦したモン太の活躍もあり、練習試合は泥門の勝利という結果に終わった。

 そして、グラウンドの隅では恐ろしい闇取引が行われる。

 

「五百万」

「は、払えるわけねーだろ!!」

 

 笑顔で手を差し出すヒル魔さんに、葉柱さんがバタフライナイフを取り出す。すると、対する泥門の悪魔はありったけの機関銃を取り出し、応戦の意思を見せた。

 刃物と銃。その勝負の行方は、古来より定められている。

 

「……勘弁してください」

「じゃ、身体で払ってもらうしかねえなぁ? 当分の間、パシリ決定!」

 

 善良な一般市民は、こうして悪魔の奴隷とされていく。

 社会の縮図を見せられながら、見て見ぬフリをして、僕たちは勝利の余韻に浸るのであった。

 




 アメフトクリニック。
Q.ファーストダウンって、なに?
A.アメフトは一回得た攻撃権で、実は最大四回まで攻撃が可能なんだ。そして、その攻撃権を連続して得るチャンスもある。自分の陣地から10ヤード前に進むことだ!
 そして、それをわかり易く連続攻撃権獲得=ファーストダウン。と、呼んでいるんだぜ!
 アメフトにおいてダウン=downとは、日本語に直すと止まる、区切りをつけるみたいな意味もある。ファーストダウンを獲得したら、そこから仕切り直してまたプレーが始まるから、そういった意味でもぴったりな呼び名だ!
 ただ、四回攻撃を失敗したら、今度は相手の方に攻撃権が移っちまう。だから、四度目の選択肢は慎重に選んでくれ! だいたいわかったか? Yaーhaー!
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