アイシールド21 Reset the game   作:アリスとウサギ

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最初の一歩

 高校へ進学し、アメフト部に入って早二ヶ月。

 ここしばらく、我らが泥門デビルバッツはさらなる部室の増築に勤しみ、休日の日でも午前中は土木作業による基礎トレーニング。午後からはグラウンドを利用した、個々の実力向上を図った鬼のような練習に励んでいた。

 数週間後。工事を請け負ってくださった武蔵工務店の方々と一緒に汗水流した甲斐あって、ついにアメフト部にて個人使用可能なロッカールームが完成する。

 

「YAーーHAーー!!」

「「「完成だァーー!!」」」

 

 さっそく中へ入る。自分たちで苦労して造ったこともあり、その感動はひとしおだった。

 貼りつけられた名札を見る。僕、モン太、ヒル魔さん、栗田さん、小結くん、雪光さん、石丸さん、そして……

 

「「「なんでオレらは一緒なんだよ!」」」

 

 ハァハァ3兄弟(十文字くんたち)のロッカーが三人一組というハプニングも残しつつ、全員が床に倒れこむよう息をついた。

 自分たちが使うもの、体力アップや筋トレ代わりという名目があったのも頭の中では理解していた。が、やはり土木作業はキツかったのだ。そこから解放されたとなると、心身を休めたくもなる。

 と──

 床に置いてあった一冊の雑誌を、栗田さんが拾い上げた。

 

「あ、これ今月の月刊アメフト。まだ見てなかったや」

 

 パラパラとページがめくられる。

 

「月刊アメフト杯? へー、創刊20周年を記念して、アメリカの高校と試合を組むんだって。申し込み用紙から抽選か。いいなー」

 

 羨ましそうにつぶやく栗田さんに、モン太が顔を寄せる。

 

「でも、来週にやるってなると、まだ関東大会中っスよね? 日本で負けたチームが本場アメリカに挑むのは、ちと無謀すぎるんじゃ……」

 

 うん。モン太の言うことは正しい。

 大会を勝ち進んでいるチームが余計な試合を組めるわけもなく、そうすると必然的に申し込みのできるチームはトーナメントで敗退したチームだけとなる。

 日本の大会ですら勝ち進めなかった選手たちが、アメリカと対戦だなんて普通はありえない。だけど……

 

「ああ、先週の間に申し込んでおいたぞ」

「「「無謀ーー!!」」」

 

 ヒル魔さんの口からあっさりと述べられた事実に、僕以外のメンバーが口をそろえて叫んだ。

 すると、次の瞬間。びっくりするぐらいいいタイミングで、ヒル魔さんの内ポケットから携帯の着信音が鳴り響いた。

 

「…………」

「うわっ!?」

 

 一瞥後、その物体がこちらに投げつけられる。思わず落としそうになりながらも携帯をキャッチして、メール画面に目を落とした。

 

「えーと、『ご応募ありがとうございました。厳正な抽選の結果、対戦校は太陽スフィンクスに決まりました』だって」

「あー、ホッとしたような。ちょっと残念なような」

「抽選で選ばれなかったんなら、仕方ねーよな」

 

 みんなに聞こえるよう内容を音読する。結果を聞いた栗田さんとモン太の二人は、口惜しそうに心情を吐露した。

 しかし……

 

「……厳正な抽選というわりには、随分と無難すぎるチームだな」

 

 懐疑的な口調でヒル魔さんが独白する。

 太陽スフィンクス。神奈川県代表のチームで、その超ヘビー級重量ラインは、(ライン)だけの力で強豪校と呼ばれるほど。

 もっとも、神奈川にはそれ以上に恐ろしいチームが存在するのだが……

 

「よーしィ、豚まん。明日、月刊アメフトに乗り込むぞ」

「ええええ!?」

 

 いつの間にやら、雑誌を作っている本社に突撃することが決まっていた。

 優しく常識人の栗田さんが止めようとしているが、こうなったヒル魔さんは誰にも止めることなどできやしない。

 それに僕も、アメリカの高校とは闘いたいし……

 

「ははは、頑張ってください」

 

 だから、陰ながらエールを送ることにした。

 

▪︎

 

 翌日。ヒル魔は嫌がる栗田を無理やり引き連れ、月刊アメフトへと乗り込んだ。

 数分前にアポも取ったおかげか、相手も快くこちらを迎え入れる。

 

「ふざけるなっ! 代表は厳正な抽選の結果、太陽スフィンクスに決定したとメールで送っただろ!」

「ほほー、厳正な抽選ねぇ」

 

 なぜか激怒している月刊アメフトの編集長をおざなりに、ヒル魔は長い脚を机の上にどかりと乗せた。

 なめ腐ったその態度に、当然編集長も頭皮のヅラをズラしながら怒りのボルテージを上げていく。

 

「ヤラセの間違いじゃないんですか?」

「フン! 何を根拠に。言いがかりをつけたいのなら、証拠も一緒に添えてもらおうか。もっとも、貴様にそんなことができるとは到底思えんがね」

 

 突き詰めるヒル魔に、しらを切る編集長。

 応接室に暗雲が立ち込める。

 

「まあまあ、落ち着いてくださいよ」

「そ、そうだよヒル魔。揉めるのはよくないよ」

 

 隣に座る記者の熊袋(くまぶくろ)と栗田の二人が、殺伐とした空気をとりなそうとする。

 しかし、そんな甘言に耳を傾けるぐらいなら、最初から殴り込みなんて手段を選んではいない。やるからには徹底的にだ。脅迫手帳を取り出す。

 

「編集長。あなたは最近、薄毛に悩みがあるそうですね」

「なっ!?」

 

 慌てて頭を押さえる編集長。頭部の一部分がズレた。

 さすがのヒル魔もそこにつっこむことはせず、周りに合わせて気づいていないフリに徹する。栗田と熊袋も全力でその存在を無視していた。

 

「成人男性が薄毛に悩む原因。昔は遺伝子だと一蹴されていましたが、最近の研究者によって、ある仮説が立証されたのをご存知ですか?」

「ある、仮説?」

 

 ごくりと唾を飲み込み、編集長が身を乗り出してきた。

 

「その原因は……ストレスです」

「……ストレス」

 

 はっとした表情で目が見開かれる。

 

「編集長、貴方は多大なストレスに身を蝕まれてはいませんか? たとえば……そう、仕事のストレス。特に人間関係などで」

「そ、それは……」

 

 心当たりがあるのか、編集長は言葉を濁した。

 ヒル魔はカンニングペーパー、もとい。脅迫手帳に視線を落とし、言葉の先を紡いでいく。

 

「『HAHAHA。すまないね、Mr.編集長。来週の予定はキャンセルさせてもらうよ。ああ、もちろん費用はそちらで払っておいてくれ』」

「…………!」

「月刊アメフトの編集長ともなればアメフトの本場、アメリカとの交流機会も増えるでしょう。そして、日本人をなめ腐っているアメリカ人様は、猿どもと交わした約束なんざ簡単に反故にする。さて、Mr.編集長。貴方はこれまでいったい、どれだけ似たようなセリフを聞いてきたのかな?」

「あ、あ、あ、あ……」

 

 編集長の顔色が信号機のように点滅する。赤から青へ。青から赤へ。

 どうやら想像以上に、いろいろと溜め込んでいるらしい。右往左往するトラウマの数々が、文字通り目に見えて読み取ることができた。

 口角を上げる。たたみかけるなら今だ。

 

「そこでものは相談だ! 来週行われる代表戦、泥門に譲れ!」

「なっ!?」

「太陽なんざ闘わせても、観客の見せ物にされて終わるのがオチだ。泥門(うち)なら、奴らに一泡吹かしてやれる」

「……お前たちなら、アメリカに一矢報いれると?」

「一矢なんて目じゃねえ。テメーが失った髪の毛と同じ数だけ、奴らの鼻を明かしてやる」

 

 慇懃無礼な口調へと変貌したヒル魔に、編集長は戒めの言葉すら吐かず、まるで同士を見つけたかの瞳で決断を揺れ動かす。

 あと一歩で殺れる。そう確信した瞬間だった。

 

「随分な物言いだな。余のチームが見せ物だと」

「は、原尾くん!?」

 

 突如、話し合いの場に現れたのは、三名の太陽スフィンクスの選手たち。

 その中心に立つ男。ストレートパーマに容姿端麗な顔立ち。太陽のクォーターバック、原尾王成(はらおきみなり)の姿に熊袋が驚きを発した。

 

「ようやくのご登場か。だが、話はもう終わった。代表戦はオレたち泥門が出てやる。テメーらはとっとと地元に帰って、バックギャモン大会でも開催してな」

「何をー!? 泥門なんて無名校が出ても勝てるわけないにー」

 

 にー、にー、という独特な口癖を持つ太陽ラインマンのひとり。笠松新信(かさまつにいのぶ)がヒル魔の挑発に非難をあげる。

 

「貴様らが国の代表では、日本中に恥をさらすことになるのがわからぬか」

「ケケケケ、結構なことじゃねーか。せっせとアメリカ様の見せ場を作り、ゴマをすることしかできねぇテメーら太陽(日の丸)よりは億倍マシだ」

「余の太陽スフィンクスを愚弄するかっ!?」

 

 激昂する原尾。

 しかし、ヒル魔は口撃を止めずに弾丸を放ち続ける。

 

「確かに泥門は春大会の二回戦で負けた。だが、今も勝ち続けているあの王城に4タッチダウンを決め、最終スコアは24対30の接戦にもつれ込んで、だ。で、地区大会の準決勝まで勝ち進んだ自称日本代表の太陽スフィンクスは、どんな輝かしい成績を残したのかな?」

「くっ……」

 

 唇を噛む原尾の顔に影が差す。

 太陽スフィンクスの最終成績。対戦相手は関東最強を冠する神龍寺ナーガ。試合の内容は、ヒル魔も動画で見ていた。

 結果は41対0の惨敗。まるで手も足も出ていなかった。

 太陽は決して弱いチームではない。まだまだ弱小の泥門と比べるどころか、全国を相手にしても十二分に闘える力を有している。それぐらいヒル魔にもわかっていた。

 その太陽が、神龍寺の前ではボロ雑巾にしかなりえない。

 

「…………」

 

 そこまで考えて、思考を断ち切る。

 今重要なのはそこではない。今重要なのは泥門に一試合でも多く経験を積ませること。

 頭をこねくり回す。ハッタリでもなんでも構わない。泥門にとって少しでも利となる結果を導き出す。

 

「……泥門と王城の試合。オレも観させてもらった」

「ほうー、それは勉強熱心なことで」

 

 ここまで発言を控えていた男が割って入ってきた。

 2m近い高校生離れした体躯。スキンヘッドが特徴的な全国屈指のラインマン──番場衛(ばんばまもる)の言動に、ヒル魔は全神経を集中させる。

 

「いい試合だった。素直に称賛しよう」

 

 そこで一度区切られ、次の瞬間。

 決定的な一言が放たれた。

 

「あのアイシールド以外にもまともな選手がいれば、泥門の勝利もあり得ただろうな」

 

 番場は泥門を称賛したのではない。こき下ろしたのだ。セナ以外の選手を。

 

「…………」

 

 そしてヒル魔は、その評価に異を唱えることはしなかった。

 負けた奴が何をほざいても無価値でしかない。アメフトはそういう世界だ。

 だけど……

 

「…………」

 

 横に座る栗田に視線を送る。番場の醸し出す空気に当てられ、自慢の巨体が完全に縮こもっていた。目線を戻す。

 

「ケケケケ、注目するのはアイシールドだけか。ま、否定はしねぇ。だが、そのセリフはそのままテメーらにも跳ね返ることを忘れてやがる」

「……どういう意味だ」

 

 番場の眉の部分が吊り上がる。ヒル魔は脚を組み替え、煽るように放言した。

 

「どうもこうもねェ。テメーら太陽もライン以外は見るところのねぇカスチームだっつってんだよ」

「…………」

「あわわわわわ」

「ひ、ひ、ひる、ヒル魔ぁ〜〜」

 

 ど直球な侮蔑に、熊袋と栗田が狼狽する。

 だが、対称的に番場は口をつぐみ、こちらの真意を探ろうとしていた。わかり易い挑発を放ってみたが、乗ってこないなら意味がない。

 分が悪いと悟ったヒル魔は、すぐさまターゲットを変更する。

 

「特にクォーターバックの……誰だったか? 印象が薄すぎて名前も顔も覚えてねーが、太陽の穴だって有名な奴がいんだろ」

「なっ……」

「太陽のラインマンは全国でも通用する。それだけデカい図体してりゃバカでもわかる。なら、なんで太陽が中堅どまりなのか……バカでもわかるよな?」

「痴れ者が! 余を愚弄するか!」

 

 予想通りの反応が返ってきた。

 ヒル魔は悪魔の妖気を携え、標的を原尾に絞る。

 

「お? なんでテメーが怒ってんだ、余」

「白々しい! 即、穢らわしいその口を閉ざせ! それ以上の背反は、我ら太陽スフィンクスの業火を免れぬと知れ!」

「ほーう、悪魔を名乗る泥門を焼くか。面白え」

 

 席を立ち、義憤の炎で自らを焦がす原尾と真正面から対峙する。

 

「是非とも裁いてもらおうか、やれるもんならな。悪魔が勝つか、太陽が勝つか。勝った方がアメリカと闘う権利を得る──日本代表決定戦だァ!」

「……いいだろう。下々の者に、道理を教えてやるのも一興だ」

 

 原尾の決定に逆らう気はないのか、番場と笠松は不平ながらも閉口していた。

 あとは……様子を見守っていた熊袋たちが口を開く。

 

「ま、両チームに異論がないのでしたらいいんじゃないでしょうか? 確かに対戦校は最初から太陽だと決まっていましたが、僕が引いたくじ引きだと泥門でしたし……」

 

 ここにきてとんでもない爆弾が暴露された。

 横にいる豚まんは「え?」みたいな顔で驚き、編集長は額に手を当てる。

 

「……お前、わざわざバラすな」

「すみません。興奮のあまり、つい……」

 

 そんな謝罪をこぼしつつ、熊袋は続けて話す。

 

「これは決して太陽や他のチームを悪く言うわけじゃないのだけど、僕も一記者として、毎年どうしても贔屓してしまうチームができちゃうんだ。そして、今年の僕のイチオシは泥門デビルバッツ、キミたちのチームだ」

「ほほーう。それはそれはお目が高いようで」

 

 意外な称嘆に、ヒル魔は相手の意図を測ろうとする。しかしその瞳から感じとれたのは、純粋な賛助の気持ちだけであった。

 無論、一番の理由はセナが泥門にいるからだろうが、それ以外のメンバーに対しても大なり小なり期待を寄せている。そのことが伝わってか、萎れていた栗田の目にも微かな気勢が戻っていた。

 

「だから、キミたちの試合を間近で観ることができるのは、僕にとっては嬉しい誤算だよ」

「ケケケケケ。だったら見物料として、しっかり宣伝してもらおうか。来週には泥門(うち)の試合が二試合もタダで観れることだしな」

 

 言外に太陽に勝つと宣言する。

 すると……

 

「どうやら月刊アメフトは、雑誌の中身だけでなく社員の質も落ちたらしい。編集長はまともにスケジュールも組めず、雑誌記者に至っては眼が節穴ときてる」

「王城とマグレでいい勝負ができたからって調子に乗ったこと、絶対後悔させてやるにー!」

 

 そう毒を吐き、太陽の連中は応接室から出ていった。

 

「…………」

 

 視線を横に向ける。なんとか口八丁で代表戦にこぎ着くことはできたが、本番はここからだ。

 相手はあの太陽スフィンクス。次の試合、間違いなく泥門はライン組の真価が問われることになる。

 

「はぁ……」

 

 しかし、ライン戦の要となる栗田良寛は、結局最後までその身を縮こませたままであった。

 

▪︎

 

「いらっしゃいませー」

 

 扉を開け、喫煙席を指定し、店の中へと入る。

 

「うお、でっけー」

「栗田みたいな奴だな」

 

 後ろを歩いていた黒木と戸叶が何やら呟いていたが、十文字は気にも止めず、さっさと席に着いた。

 くだらないことでフゴデブこと小結と張り合い、例の東京タワーの試験に挑んでから今日に至るまで、思い出したくもない地獄の日々が続いていた。

 アメフトの試合に出るだけならまだいい。いや、よくはねえが、数時間我慢すればいいだけだ。

 だが、休日まで返上した拷問じみた練習に強制参加。果ては部室の増築だかなんだか知らねーが、土木作業にまで駆り出される始末。これでは完全に奴隷扱いだ。いくら脅されているとはいえ、我慢の限界がきていた。

 が、ここにきて、厄介なヒル魔が休みときた。

 だったら自分たちがサボっても文句は言わせない。中学の頃からつるんでいた黒木と戸叶を誘い、部活の練習から抜け出した。

 久しぶりの休みだ。正直、心が躍っていた。

 けれど夢の時間は、始まる前に潰されることとなる。

 

「なんだ、この下賤な店は?」

「す、すまにー。この辺だとここしか座れる店が……」

 

 女みたいな容姿をした男が、カッパ頭のデカブツを罵っていた。

 

「まったく、困ったものだ。泥門などという矮小な存在が余の威光に歯向かうなど」

「あ?」

「今、泥門って聞こえなかったか?」

 

 席に座ろうとしていた黒木と戸叶が、女男に目を向ける。

 ここまでならよかった。別に泥門高校に愛着なんてねえ。不快には感じるが、無視することもできた。

 だが……

 

「まあよい。先日、葉柱議員の息子が泥門と試合を行ったらしいが、51・52・53のラインマンが絵に描いたクズらしくてな」

 

 は?

 

「はあ!?」

「はぁああああ!?」

 

 誰がクズだって?

 

「しっしっしー! そんなカスがいてくれりゃ、うちも楽できるにー!」

 

 カス。クズ。ああ、否定する気はねーよ。

 自分より弱い奴を脅し、暴力を振るい、タバコまで吸ってる。確かに否定する要素はどこにもねえ。

 だから我慢できた。バカにされたのが──オレだけだったら。

 身体が勝手に動いていた。席を立ち、オレたちを嘲笑ったカッパ頭の肩を掴む。

 

「51番はオレだ。誰がカスだって、黒ガッパ!」

 

 和気あいあいとしていた昼の喫茶店に、ひりついた静寂が舞い降りた。周りの客たちはハラハラした様子でこちらを見守っている。

 

「「…………」」

 

 黒木と戸叶がバッグから金属バットを取り出そうとして、しかし、オレはその手を止めた。

 

「バットはいらねェ。力でコイツらをねじ伏せてやる」

 

 特に理由はなかった。それでもあえて理由をつけるのであれば、コイツらの土俵で、コイツらをねじ伏せてやりたかったから。

 そうすれば二度とオレたちのことを、黒木と戸叶のことをクズ呼ばわりできなくなるから。

 

「……番場、一分だ」

「一分は長すぎる。十秒で十分だ」

 

▪︎

 

 夕暮れ時。

 ヒル魔さんと栗田さんは昼すぎには帰ってきたのだが、十文字くんたちが顔を見せることはついぞなかった。

 

「どうしたんだろ? 三人とも何かあったのかな?」

「フゴ……」

 

 栗田さんが心配そうに漏らす。同じライン組の小結くんも、どこか元気なさげであった。

 

「サボりじゃないスか? だってあの三人、いつもやる気なさそうだったし」

「そ、そんな〜」

 

 歯に衣着せぬモン太に言い分に、栗田さんの表情が不安で歪んだ。

 その時だった。彼らが現れたのは。

 

「──どうやったらライン戦で勝てる」

 

 沈む夕日を背景にして現れたのは、練習をサボったはずの十文字くんたち。その身体は、なぜか全身ぼろぼろだった。

 

「あー! 三人とも来てくれたんだね〜。部活の時間は終わっちゃったけど、今からライン組だけで居残り練習しようか?」

「フゴーー!!」

 

 ナチュラルにとんでもない提案をする栗田さん。弟子の小結くんもやる気に満ちあふれている。

 だけど、今回ばかりは三人の熱量がそれを上回っていたかもしれない。

 

「ああ、何時間でも付き合うぜ」

「このままおめおめ引き下がれるか」

 

 ぼろぼろの身体を引きずって、黒木くんと戸叶くんが前に出る。

 

「教えてくれ」

 

 十文字くんたちが栗田さんに教えを乞う。

 

「負けっぱなしは、趣味じゃねえんだ!」

 

 それは、無理やり練習をやらされてきた三人が、初めて自分たちの意思でアメフトの世界に脚を踏み入れた、その瞬間だった。

 




 アメフトクリニック。
Q.「YAーHAー!」ってかけ声は、どんな意味?
A.ぶっちゃけ意味なんてねえ! だからその意味は自分で決めろ! 
 タッチダウンを決めた時。受験に合格した時。仕事先が見つかった時。ゲームのガチャで最高レアを引き当てた時。彼女ができた時。好きな男子からプレゼントを贈られた時。破局するカップルを見つけた時。
 どんな時でも構やしねえ! 魂が震えたその瞬間、腹の底から叫びやがれ! YAーーHAーー!!
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