アイシールド21 Reset the game   作:アリスとウサギ

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最強の証

 合格発表(あれから)から数日後。見事? 高校デビューを果たした僕は、まもり姉ちゃんと一緒に通学路を歩いていた。

 

「セナ、今度はちゃんと友達作んなきゃダメだよ」

「ははは、大丈夫だよ。まもり姉ちゃん」

 

 苦笑ながら返事を返す。結局、寝ても起きても現実は変わらず、時間は過去のままだった。

 最初は誰かに相談しようかと考えたのだが、こんな与太話、誰も信じてくれるわけがない。未だ自分でも信じられないぐらいなのだ。

 だから僕は、この件に関して口をつぐむことにした。

 

「そうだ、部活に入りなよ」

「部活……」

「あ、でも一人だけ絶対に関わっちゃいけない奴がいるの。ヒル魔っていうんだけど、風紀委員でも手を焼いてて、目をつけられたら最後。他人の弱みを握る悪魔みたいな奴で、セナなんか簡単に……」

「イヤぁぁぁぁぁぁあああ!!」

「オレの黒歴史をばら撒かないでくれぇぇ!!」

 

 まもり姉ちゃんがヒル魔さんの名前を出した瞬間、通学路のそこらかしこから高周波レベルの悲鳴が響き渡った。

 まあ、ヒル魔さんの悪行を考えれば当然だと、そう冷静に考えられるようになった事実が我ながら恐ろしい。

 

「まもり姉ちゃん、実は入りたい部活は決まっていて……その……」

「あ、ここからはお別れね。もう高校生なんだから、パシリとかしちゃダメよ」

 

 入りたい部活、というより入る部活は決めてある。だが、それを告げる前にまもり姉ちゃんは自分の教室へと向かっていった。

 仕方ない、学年も違うし、言える機会はこれからいくらでも存在する。まあ、説得には一苦労かかりそうだけど……

 扉を開け、慣れた席に着席する。自分以外の同級生からすれば、新しい出会い、新しい学園生活なのだろうが、僕からすれば通い慣れた教室で、見慣れた顔立ちばかりだ。新入生特有の胸を膨らませる期待もなければ、不安もない。当たり前のように座り、暇つぶしに教科書を開く。

 数分後、担任の先生が教室に入ってきて、自己紹介の時間となった。以前の自分はどんなことを話したんだっけ? そんなことを考えていたら、出番が回ってきた。席を立ち、声を発する。

 

「小早川瀬那です。これからよろしくお願いします。好きなことはアメフトで、将来の夢は──仲間たち全員で全国大会決勝(クリスマスボウル)に行くことです」

 

 場が静まり返った。みんなが僕のことを驚いた表情で見ている。何かおかしなことを言っただろうか? 

 が、疑問は口にする間もなく自己紹介が次の人に移る。何か「かっけー」とか「かっこいい」とか聞こえた気がするが、さすがに僕のことではないはずだ。

 その後、これまた過去に一度受けた説明やらなんやらを過ごして、放課後となる。

 ここからだ。僕は気持ち的には新入生でもなんでもないにもかかわらず、期待と高揚を胸に教室の外へ出た。

 

▪︎

 

 まだ建て替え(リフォーム)していない、懐かしさを感じさせる部室の扉を開ける。

 間取りは狭く、お世辞にも綺麗とは呼べない状態だったが、それでもここは僕にとって夢のはじまりの場所。泥門高校アメフト部の部室だった。

 二年生は授業が長引いているのだろうか? ただ待っているのももったいないので、軽くだが部室の掃除をすることにする。

 約十分後。扉は再び開かれる。現れたのは190cm以上の巨漢、栗田さんだった。

 僕を見つけるや否や、その目がカッと開かれる。

 

「も、もしかして入部希望者!?」

「はい、そうです」

 

 迷うことなくうなずく。

 

「ほ、本当に? やったぁー! 今年初の入部希望者だよ。あ、おもてなししなくちゃ」

 

 そう言って、栗田さんはほがらかな笑みを浮かべながら、ケーキとコーヒーを用意し始めた。

 

「砂糖は何十個?」

「……一つで大丈夫です」

 

 目の前で注がれる砂糖の山々。もう、コーヒーと言うより、砂糖を飲んでいるようなものだ。

 当の栗田さんは美味しそうに飲んでいるので、たぶん問題ないのだろうが。

 

「あ、名前教えてもらってもいいかな? 僕のことは栗田って呼んで」

「小早川瀬那です。これからよろしくお願いします、栗田さん」

「うん、よろしくねセナくん。それでセナくんはアメフト経験者? 希望のポジションとかあるかな?」

「はい、僕は……」

 

 ぐいぐい迫ってくる栗田さんに、僕が応えようとした、直後。騒々しい物音が後ろから襲ってきた。

 

「ったく、扉がガタついてやがる。また校長脅して、建て替えてもらうか? 部室ごと」

 

 そんな悪魔の所業を口にしながら入ってきたのは、逆立った金髪、特徴的な長い耳にピアスを付けた男。

 泥門デビルバッツの司令塔、ヒル魔さんだった。

 

「あ、ヒル魔〜。聞いてよ、ついにデビルバッツに新しい仲間が。名前はセナくんで……」

「あ? 泥門(うち)にやる気のねぇ雑魚はいらねーぞ」

「ちょ、ちょっとヒル魔。せっかく来てくれたのに」

 

 ヒル魔さんと栗田さんは、このデビルバッツの創設者の二人。その性格は対極と言っていいほどで、どちらが飴でどちらが鞭かは語るまでもないだろう。

 空いたパイプ椅子に、ヒル魔さんがどかりと座る。

 

「糞チビ、アメフト経験はあんのか?」

「はい、あります」

 

 僕がうなずくと、ヒル魔さんは疑心の眼差しを向けながらパソコンを開いた。

 この見た目だ。僕の身体は平均的な高校生と比べても小柄で、とてもスポーツをやっているようには見えない。疑うのは当然だし、仕方ないが、それでも嘘はつけなかった。

 ここで嘘をつけば、今まで経験してきたその全てに嘘をつくことになる。タイムスリップのことはとても言えないけど、ここだけは泥門デビルバッツのメンバーとして、曲げるわけにはいかなかった。

 

「小早川瀬那。中学の体力テストは反復横跳びだけ一位。アメフト経験はなし」

 

 パソコンを叩いていたヒル魔さんが、僕の個人情報を読み上げる。

 とても色んな意味で高校生のやることとは思えないけど、これがヒル魔さんだ。今さらつっこんでも遅い。

 

「えーと、公式とかには載ってないかもですけど、経験があるのは本当です」

「……ポジションは?」

ランニングバック(RB)です」

 

 今もなお疑いの視線を向けるヒル魔さんに、僕は自分のポジションを告げる。

 ランニングバック。走ってボールを前に運ぶのが役目で、脚の速い僕にはピッタリなポジションだ。

 答えを聞いたヒル魔さんの目が一瞬こちらを見定めるものへと変わり、そしてすぐさま挑発的な色を帯びる。

 

「ほぉー、ランニングバックねぇ。随分と自信があるみてーだが、実力の方はどうなんだ? そんなナリで試合に出たら、その若さであっけなく殺される(おっちぬ)かもな? なんせ、高校のアメフトには化け物みてーな連中がごろごろいやがる。さっきも言ったが泥門に雑魚はいらねーぞ」

 

 明らかにこちらを試す問いかけ。栗田さんが横であわあわしているが、僕の覚悟はとっくの昔……いや未来? で決まっている。

 

「僕は力もないし、作戦とかも立てれない。ルールもまだ全部は把握しきれていないし、背も小さいです。でも──スピードなら誰にも負けません」

 

 言い切った。でも、嘘を言った覚えはない。仮にもし嘘だったとしても、今度こそその嘘を本当にしてみせる。

 小早川瀬那の唯一の武器であるスピード。スピードでは誰にも負けるわけにはいかない。いや、負けることは許されないのだから。

 

「ケケケケケ、スピードでは誰にも負けないか」

「せ、セナくん……」

 

 爆笑するヒル魔さんに、なぜかおろおろし続ける栗田さん。もしかして信じられてない? 

 が、しかし。ヒル魔さんはおもむろに立ち上がると、栗田さんに向かって指示を出した。

 

「面白え。なら、テメーの脚を見せてもらおうか。おら豚まん、久しぶり 40ヤード(約36m)をやんぞ。さっさと準備しやがれ!」

「わ、わかったよヒル魔」

 

▪︎

 

 グラウンドに出る。今さらながらの疑問だが、なぜこの時期だと部員数すらままならない泥門のアメフト部が、こんなに広々とグラウンドのスペースを使えるのだろうか? 湧いた疑問はその瞬間に消えた。ヒル魔さんがいるからだ。それで全ての説明がつく。

 きっと生徒や先生の弱み(脅迫手帳)を握って、無理やり黙らせたのだろう。

 深入りすると身を滅ぼすことになりそうなので、僕は疑問をゴミ箱に捨てた。

 

「いつでもいいよ〜」

「おっし、始めんぞ」

 

 準備万端の三人。栗田さんは走る構えを取り、僕はストップウォッチを構えて、ヒル魔さんはバズーカを構えた。

 

「よーい」

 

 ドン!!! 凄まじい音が空気を震撼させた。

 どすどすと効果音が聞こえる勢いで、栗田さんがグラウンドを走り抜ける。線を踏み越えたところでタイマーを止めた。

 

「何秒だ?」

 

 ヒル魔さんに6秒5と記されたストップウォッチを見せる。すると、血管をはち切れさせながら栗田さんの方へ向かっていき、その長い足で蹴りを入れた。

 

「この糞デブ! 朝練してるくせになんで遅くなってやがんだ!」

「ご、ごめんよヒル魔〜」

 

 40ヤードの平均タイムは、大体5秒台だ。それを考えると確かに栗田さんは遅いのだけど、でも栗田さんのポジションは(ライン)だ。

 敵を倒し、仲間を守るアメフトにおいて縁の下の力持ちであり、もっとも過酷な場所である。そして、そこでもっとも重要となる(パワー)を栗田さんは誰よりも持っていた。

 だから、なんの心配もないはずなのだが、ヒル魔さんはお気に召さなかったらしい。まだ栗田さんを蹴っている。が、こちらが待っていることに気づいてか、今度は自らスタートラインに手をついた。

 

「スタートの合図を出しやがれ!」

「は、はい!」

 

 さすがにバズーカを放つわけにはいかず、普通に合図を出し、タイムを計測した。

 

「何秒だ?」

「5秒1です」

「YAーHAー! 自己ベスト更新!」

 

 ビシッとポーズを決めるヒル魔さんに、僕と栗田さんは「おおーー!!」と、称賛の声を上げる。

 そして、次の番がやってきた。

 

「さーて、セナくん。あれだけ大口を叩いたんだ。せめて、4秒8ぐらいは出してもらわなきゃなぁ?」

「4秒8って、普通にエース級のスピードじゃ……」

「コイツの体格で試合に使うなら、それぐらいのスピードは必要なんだよ。中央からじゃどうしても限界があるからな」

 

 話し込むヒル魔さんと栗田さんから離れ、スタートラインに立つ。すぐさまバズーカが構えられた。

 

「よーい!」

 

 集中する。雑音を消す。過去に来てから走り込みの練習は欠かさなかった。まだまだ鍛え足りないけど、でも、40ヤードぐらいならなんとか走れるのは既に実証済みだ。だから……

 ドン!!! 発砲音と同時に飛び出した。ゼロから一気にトップスピードで駆け抜ける。タイム計測は誰よりも速く終わった。脚はガクついているが、動けない範囲じゃない。

 横を振り向き、ヒル魔さんたちの方を見ると……

 

「YAーーHAーー!! おい見やがれ!」

「う、うそ……これって」

 

 記録は見なくてもわかる。

 40ヤード走、4秒2。

 

「高校記録なんて目じゃねぇ。 NFL (プロ)のトップスピードだ! こんなもん誰にも止めらんねぇ! 黄金の脚だ!!」

 

 興奮冷めやらぬ二人。「凄いよセナくん〜」と、こちらを踏み潰さん勢いで迫ってきた栗田さんをなんとか躱すと、ヒル魔さんが近づいてきた。

 

「テメー、なんで泥門に入りやがった?」

「へ?」

 

 予想もしなかった質問に首を傾げる。

 

「この脚だ。いくらでも選択肢はあっただろ」

 

 いえ、ありません。そもそも僕が自分の脚に気づいたのはアメフトを始めたからであって、半年前までスポーツすらまともにやったことがなかったのだ。

 

「その……成績がよくなくて、まもり姉ちゃんに勉強を教わって、なんとか入れたのがこの高校だけで……」

「まもり姉ちゃん?」

 

 聞き慣れない単語に、ヒル魔さんが頭をひねる。

 

「なら、その俊足はどこで身につけた? 記録にも残らねーほど少ない試合経験じゃ、どうやったって身につくもんじゃねえ」

「パシリです」

「……あ?」

「その、昔から怖いのとか、痛いのがイヤで。いつも人のいうことを聞いて何年もパシらされていたら、自然と身につきました……」

 

 うう……改めて口にすると、自分でも情けない。栗田さんだけでなく、あのヒル魔さんまでもが可哀想なものを見る目でこちらを見つめてくる。やめてくださいそんな目で見ないでください。

 

「せ、セナくん。頑張ったんだね」

「ケケケケケケケケケ。バカだ、とびっきりのバカがここにいるぞ」

 

 栗田さんは悲壮な顔で、ヒル魔さんは……元に戻った。そして悪魔のような笑みを浮かべながら、僕にヘルメットを投げつける。

 

「パシリだろうが、なんだろーが構やしねえ。試合で使えるなら文句はねーよ。その黄金の脚でフィールドをねじ伏せろ! 今日からテメーのコードネームは“アイシールド21”だ!!」

 

 受け取ったアイシールド付きのヘルメットを見る。

 最強の証(これ)をつけるからには、誰にも負けることは許されない。その、重い覚悟を背負って。

 

「はい!」

 

 僕は力強くうなずいた。

 




 アメフトクリニック。
Q.セナのポジション。ランニングバックってなに?
A.ランニングバック(RB)は、相手陣地に攻め入るオフェンスポジションのひとつだ! アメフトの攻撃の大半はランプレーか、パスプレーに分けられ、ランニングバックはその大役を担う重要なポジションなんだぜ!
 この物語では黄金の脚を持つ小柄なセナがそのポジションについているが、実際のところは脚の速さだけじゃなく、身体で無理やりボールをねじ込んでいける体格や、敵を躱す足捌きなんかも求められることを覚えておいてくれ。Yaーhaー!
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