アイシールド21 Reset the game 作:アリスとウサギ
40ヤード走の後、三人でできる簡単な練習を終えてから片付けに入る。
用具を押し入れに詰め込んで、ユニフォームから制服に着替えた頃には、空はすっかり暗くなっていた。
「部員が三人になるなんて創部以来だね。今年は結構いいとこまでいけるかも」
「いけるかもじゃねえ、勝つんだよ。春大会はすぐそこまで迫ってるんだぞ」
「そうだね。日程いつだっけ?」
気軽に訊ねる栗田さん。そして、そこで僕も思い出す。確か春の大会は……
「明後日」
「「もうすぐだーー!」」
僕と栗田さんの驚愕が重なる。
いや、僕は未来の知識で知っていた。前も入部していきなり大会だった。
普通こういうのって、もう少し余裕があるものなんじゃ……とは思うけど、本当に二日後には大会が始まるのだ。
「仲間を集めなきゃ」
僕が呟くと、待ってましたと言わんばかりに、ヒル魔さんがクリップボードを叩く。
「糞チビの言う通りだ。大会までに助っ人最低8人、手分けして集めんぞ!」
3+8で11。アメフトの試合を行う上でルール上、最低限揃える必要のある人数だ。
「ノルマは1人3人! どんな手を使ってもかまわねえ。とにかく運動できる奴を集めてこい!」
「わかった」
「はい」
ヒル魔さんの司令に、僕たちは首を縦にする。
幸い、僕には心当たりがあった。未来で得た記憶を使うのは卑怯かもしれないけど、でも、泥門デビルバッツのメンバーは彼らしかいない。
そう意気込んで、その日は帰路についたのであった。
▪︎
次の日の放課後。
僕はすぐさま動き、ターゲットたちを捉える。同じクラスの不良組、
「
当然のように三人を誘う。こんないかにも不良ですといった風貌をした三人だが、僕は知っている。
十文字くんたちは栗田さんと並んで、デビルバッツには欠かせない五人のラインマンのメンバーであるということを。
しかし……
「ハ?」
「はァ!?」
「はぁぁあぁあ!?」
返ってきたのは「はあ?」の三段活用だった。あまりにも息ぴったりで、そのさまは未来のデビルバッツの面々からハァハァ3兄弟と名付けられるほど。
「オレらが!」
「アメフトなんか!」
「やるわけねーだろ!」
“アメフトなんか”
僕の知っている三人なら、絶対に口にしないセリフを聞いて、頭をがつんと殴られた気分になる。
そうだ。ここは過去の世界だ。十文字くんたちだって過去のままで、まだアメフトをやったことがない不良組のままなんだ。
「じゃ、助っ人なら誰か別の奴にでも頼んでくれ」
ショックを受けている間、相手が待ってくれるわけもなく、三人組はそのまま教室の外へと出て行ってしまった。
切り替えよう、同じクラスなんだ。誘う機会はまだある。それにまだ心当たりもあった。
決断した僕は教室を飛び出し、次の目的地へ向かった。
▪︎
次に僕が訪れたのは泥門高校野球部。ここに来た目的はただひとつ。デビルバッツの
探し人はすぐに見つかった。
「モン太!」
と、その人物のあだ名を呼ぶ。すると、僕と同じく小柄で、鼻に貼りつけたテープと猿を連想させる個性的な顔作りをした少年、
「オイ! そのモン太ってのはまさかオレのことか?」
「え? そうだけど……」
何を当たり前のことを? そう首を傾げる僕に、モン太はさらなる怒りのエネルギーを発散する。
「オレの名前は
「ええええ!!」
いや、未来では自分から『オレのことはモン太と呼んでくれ』って言ってたじゃないか……とは口にできないが、やっぱりええええ? あんなに気に入ってた呼び名なのに。
とはいえ、今重要なのはメンバーを集めること。ここで機嫌を損ねるわけにはいかない。
「ええーと、じゃあモン太……じゃなくて、雷門くん? 今アメフト部の助っ人を探していて……」
が、僕のセリフは最後まで続かなかった。
「おっと、悪いなアメフト部。オレはプロ野球選手になるって決めてんだ。オレのキャッチングセンスに目をつけて誘ってくれたのは嬉しいが、他のスポーツに浮気はできねえ。悪いが他の奴を探してくれ」
と言って、モン太は野球部員とともに消え去っていった。
まさかの二連続で勧誘失敗。想像ではモン太に十文字くんたちを加えて、一気にデビルバッツを強化して春の大会を勝ち進む予定だったのだが……
「現実って、そう上手くいかないようにできてるんだね」
わかっていたことだが、改めて思い知らされた。時間もだいぶ経った。もう四の五の言ってられない。
僕は確実に助っ人になってくれるだろう人物のところへ脚を進めた。
▪︎
僕が次に訪れたのは陸上部。泥門デビルバッツ最強の助っ人がいる部活だ。
扉をノックして入ると、お目当ての人物がそこにいた。
「石丸さん、すみません。アメフトの大会に出場するのにメンバーが足りなくて……一緒に出てもらえませんか?」
「アメフト部? ああ、いいよ。出よう」
こちらの事情もほとんど聞かず、そう応えてくれたのは
ポジションはランニングバック兼コーナーバック。時には僕とともに走り、時には僕の走行ルートを切り拓き、時には相手のパスをカットする。ほとんどアメフト部みたいな助っ人だ。
「大会日はいつ?」
「明日です」
「明日!?」
日程を聞いた瞬間、石丸さんの表情が申し訳なさそうにうつむく。
「あー、すまん。まだバイトの配達が残っていて……」
「あ、あの! 配達僕も手伝います!」
「え、いやそれは……」
「昔、似たようなバイトをしたことがあるので戦力にはなります。お金もいりません。その代わり試合に出てもらえませんか?」
必死に頼み込む僕に、石丸さんは驚いた顔を見せる。そして、やはり詳しいことは何も聞かず、こちらの意思を汲み取ってくれた。
「わかった。そこまで言われたら応えないわけにはいかないな。さっそく配達の仕事手伝ってくれるか?」
「任せてください!」
それから僕は夜の街を走り回り、なんとか助っ人を一人確保することができた。
ちなみに、足りない人数は全てヒル魔さんが集めてくれた。きっと多くの運動部員が涙を流したことだろうが、ごめんなさい。僕も試合に出たいので許してください。
▪︎
翌日。休日にもかかわらず、僕は制服姿で家を出る。アメフトの大会があるからだ。泥門デビルバッツの初戦、負けるわけにはいかない。
と、意気込んだところで、思わぬ人物と鉢合わせした。
「あれ? セナどこに行くの?」
僕にそう訊ねてきたのは、近所に住んでるまもり姉ちゃんだった。まさかこんなタイミングで出くわすとは……
でもいい機会かもしれない。
「今日、アメフト部の大会があるんだ」
「え! セナ、アメフト部に入ったの!?」
うん。驚くのはわかるよ、まもり姉ちゃん。以前の僕なら絶対に自分から入ろうだなんて思わなかっただろうし。でも……
「ヒル魔くんには近づいたらダメって、あれだけ忠告したのに……まさか脅されたの?」
まもり姉ちゃんの目がスッと細まる。たまに見せる怒ってる時の仕草だ。僕の返答次第では、あのヒル魔さんと闘うことも辞さないオーラを漂わせている。
だからこそ、自分の口で告げた。
「違うんだ、まもり姉ちゃん。僕、自分からアメフト部に入ったんだ」
「嘘よ、絶対。セナは虚弱で、ひ弱で、へっぴり腰で、弱虫で、最弱なんだから!」
「…………」
あれ? 大会前なのに、心が折れそうなんだけど、なんでだろう?
でも、時間はない。ここでいくら言葉を尽くしてもまもり姉ちゃんを説得できるわけがない。彼女を納得させるには、プレーで
だって、僕は……
「大会は午後一時から天界グラウンドで。僕はヘルメットの上にアイシールドまで着けてるから顔とかはわかんないかもだけど、背番号は21番だから。もし時間があったら見に来てくれないかな?」
「セナ?」
不安そうな表情をするまもり姉ちゃんを振り切り、泥門駅へ向かう。僕にできることは、最高のプレーで応えることだけ。
だって僕は──ひとりのアメリカンフットボールの選手なのだから。
アメフトクリニック。
Q.ラインって、どんなポジションなの?
A.実はラインと一口に言っても、その役割は様々なんだぜ。人数の多いチームとかだと、オフェンスやディフェンスでメンバーを入れ替えたりもするが、この物語ではそこまで攻撃と守備でメンバーを入れ替えたりはしねーから、重要なところだけ説明してやる。
オフェンス。パスプレーの時は屈強な身体で時間を稼いで、クォーターバック(ボールを投げる人)を守れ! ランの時は敵のラインに風穴をこじ空け、ランニングバック(走る人)の通る道を切り開け!
ディフェンスの時は逆だ! 敵のラインを吹っ飛ばして、相手のパスやランを止めろ!
ライン。つまり壁は基本的にボールに触れることはねーが、攻撃でも守備でも重要なポジションだ。ここが弱けりゃ、そもそも試合になんねーからな。
アメフトの原点。パワーで全てをねじ伏せろ! Yaーhaー!