アイシールド21 Reset the game   作:アリスとウサギ

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矛と盾

「何しに行ったんだ! このバカ者どもがー!!」

 

 私立王城高校アメフト部。簡古素朴でありながら、歴史の重さと誇りに恥じない立派な内部装飾が施された室内にて、庄司監督による落雷が直撃した。

 

「練習を抜けてまで偵察に行ったくせに、カメラだけを壊して帰ってきただと!? 本当に何しに行ったんだ!」

「ひっ! そ、それが監督。いきなりファンの女の子たちに追いかけられて……」

「誰が言い訳を話せと言った、桜庭ぁ?」

「す、すみません」

 

 びくびくしながら、隣にいる桜庭が謝罪の言葉を口にする。だが、桜庭だけの罪ではない。その咎を背負うべきなのは自分も同じだ。

 

「監督。責任は自分にあります。自分が現場を放棄しました」

「……進」

 

 監督は一度目を閉じた後、自分に処遇を下した。

 

「ならば進! お前は次の泥門戦、スタメンから外させてもらう」

「……わかりました」

 

 進は反論もなくうなずく。

 

「他の者たちもだ! お前たちは最近、どいつもこいつもたるんどる! そういう精神的な隙が失点に繋がるんだ! アメフトは0点に抑えれば、1点だけでも勝てる。アメフトで大切なのは防御(ディフェンス)だ! 今年こそ、ディフェンスの王城ホワイトナイツが制する年! 必ず優勝旗を掴んで帰れ!」

「「「はい!」」」

 

 監督の言葉に、ホワイトナイツの面々が力強く応える。

 そうだ、今年こそ王城が優勝する年。にもかかわらず、自分はスタメン落ち。

 

「己の心に隙があったからだ」

 

 じっとなどしていられない。トレーニングルームに向かい、ベンチプレス(140kg)を持ち上げる。下ろして、息を吐きながらもう一度持ち上げる。甘ったれた己の身体を鍛え直すために。

 

「ばっはっはっは! 140か、ついに抜かれてしまったわ」

 

 豪快な笑い声とともに入ってきたのは、王城ホワイトナイツのラインマン、大田原誠(大田原さん)だった。

 

「アメフトは力だけの世界ではありません」

「お前は力だけじゃないだろ。高校最速の脚(40ヤード走4秒4)もある。ただのタックルが(スピア)と呼ばれてるぐらいだ」

「……不遜な言い回しになりますが、自分はこれまで、自分より速く動く人間を見たことがありません」

 

 ゆっくりと腕を下ろし、上体を起こす。

 

「ですが、もしそんな男が実在するのなら。触れもしないスピードには、どんなパワーも通じない」

 

 「そんな奴、哺乳類にいるのか?」と、鼻くそをほじりながら屁をこく大田原さんに、進は返せる解答を持ち合わせてはいなかった。

 

▪︎

 

「ヒル魔、あのアイシールド誰なんだ!? 陸上部にも紹介してくれ」

「ケケケケケ」

 

 恋ヶ浜戦の帰り道、電車の中で石丸さんがヒル魔さんに詰め寄っていた。他の助っ人メンバーもアイシールドの正体に興味があるらしく、こっそりと聞き耳を立てている。

 

「奴はうちの秘密兵器だ。簡単には正体を明かせねぇな。アイシールド21、アメフトの名門ノートル大に飛び級留学し、日本人でありながらその名を轟かせた、世界最強のランニングバック……とだけ言っておこう」

「…………」

 

 僕の正体を知っている栗田さんとまもり姉ちゃんが、なんともいえない視線でこちらを見てくる。ごめんなさい、こんなインチキヒーローでごめんなさい。

 

「アメフトで大事なのは攻撃(オフェンス)だ! 99点取られようが、100点取りゃあ必ず勝つ!」

 

 僕たちを見回しながら、続けてヒル魔さんが言った。

 

「オレらはブロックで走行ルートを確保。そうすりゃ、あとはアイシールド21、奴が必ず──その手で100点(勝利)を掴み取る!」

 

 拳に力が入る。心臓が熱く燃える。

 そうだ、それだけは嘘にしてはいけない。勝たなくちゃ。アイシールド21の名を背負う限り、僕に敗北は許されないのだから。

 

▪︎

 

 泥門高校アメフト部室。春大会の二回戦を控えて、僕、ヒル魔さん、栗田さん、まもり姉ちゃんの四人は小さな作戦会議を行っていた。

 

「コイツがボールを持って走る。以上だ」

 

 そして作戦会議が終了した。話し合いもクソもない。

 

「ちょっとヒル魔くん! なんでセナだけに走らせるのよ!」

 

 いや、まもり姉ちゃん(悪魔に逆らえる人物)がいてくれたおかげで、話し合いにはなるかも?

 

「どうしても、こうしてもねえ。それ以外に選択肢がねーんだよ」

「パスがあるでしょ! ランだってセナ以外にもいるじゃない」

 

 至極当然のツッコミだ。ただ、今回ばかりはまもり姉ちゃんの想定が甘かったかもしれない。

 

「相手が恋ヶ浜みてーな雑魚なら、それもありだったかもな。だが、次の対戦相手はあの王城だ」

「王城?」

 

 一夜漬けでプレーブックを読み、複雑なアメフトのルールを全て理解するという意味不明な偉業を成し遂げたまもり姉ちゃんでも、さすがに高校のアメフト事情までは把握していなかった。

 

「王城ホワイトナイツ。都内最強チームで、全国の高校を合わせても間違いなく最強に近い力を持ったチームなんだ」

「東京最強……」

 

 栗田さんの説明に、まもり姉ちゃんが息を呑む。

 

「オレはクォータバック(QB)、糞デブは(ライン)、コイツ以外攻め手がねーんだよ。素人の寄せ集めじゃ、王城には歯が立たねえ」

「でも、さすがに全プレーは厳しいっていうか、スタミナ持たないというか、無理というか……」

 

 遠慮がちに抗議を入れるが、ヒル魔さんは意にも介さず説明を続ける。

 

「本当に全プレーテメーで行くわけじゃねえ。だが、勝負所では必ずテメーで行く。泥門(うち)が王城に勝てる可能性がゼロコンマ数%でもあるとしたら、それしか道はねぇんだよ」

 

 会話を打ち切るようにヒル魔さんが立ち上がった。

 

「よし、筋トレに行くぞ。個々の能力も把握しておきてぇ」

 

 そう言って、こちらの返事も待たず部室から出ていってしまう。

 

「もう! セナ、本当に大丈夫なの? 最強チームが相手だなんて」

「ごめんね……本当は姉崎さんが言ったように、キャッチできる選手が一人でもいてくれたら話は違ったんだけど……」

 

 心配そうな顔で、まもり姉ちゃんと栗田さんがこちらを見つめてくる。正直、ものすごく不安だ。でも……

 

「大丈夫だよ、まもり姉ちゃん。どの道全国大会決勝(クリスマスボウル)に行くには、いずれ王城にだって勝たなくちゃいけないんだから。どこまでやれるかわかんないけど、やれるだけやってみるよ」

 

 そう。勝てるか、勝てないかは関係ない。相手が誰でもそれしか道はないんだ。

 すると僕の言葉に共感したのか、栗田さんがうむりとうなずき。

 

「そ、そうだよ。全国大会決勝(クリスマスボウル)に行くためには、それこそ王城より強いチームとだって闘う必要があるんだ! ビビってばかりじゃいられないよ!」

「はい!」

 

 栗田さんの決意に僕もうなずく。まもり姉ちゃんからはバシッと背中を叩かれた。

 

▪︎

 

「セナ!? セナが死んじゃう!!」

「うぎ、ぎぎぎぃぃ」

 

 場所は移って、トレーニングルーム。僕は現在、ベンチプレスに挑んでいたのが、一番軽い20kgの重りに生命を絶たれようとしていた。

 すぐさま栗田さんが救助してくださったことにより、なんとか一命を取りとめる。

 

「このォ糞チビ! 20kgも持ち上げられねぇとか、今までどんな人生を送ってきやがったんだ!」

「まあまあヒル魔、人には向き不向きがあるし……」

「向き不向き以前の問題だろーが! ミジンコかテメーは!? 死ね! チワワと争って死ね!」

 

 お、おかしい。つい数週間前まで、40kgは持ち上げられていたのに……

 

「ヒル魔くん! セナはひ弱なの! トドメを刺すような真似はやめて!」

 

 うん。今まもり姉ちゃんに刺されたよ。

 

「チッ! テメーのパワーには期待しちゃいなかったが、まさかここまでとはな」

「あははは、あのこれから筋トレ頑張ります」

「王城戦は二日後にあんだよ! 間に合うわけねーだろ、このォ糞チワワ!」

 

 さすがの僕もチワワには負けないような……いや、やめておこう。負けるかもしれない。

 

「しゃーねえ。練習変えっぞ。柔軟の後はグラウンドでパス練をやる」

「パスの練習?」

「ボールの受け渡し、受け取ったフリ、ショートパス、バックパス、全部だ!」

「はい!」

 

 過去に戻って身体は小さくなり、体格も元に戻ってしまった。でも、嘆いていても仕方ない。やれることを全部やるんだ。

 

「糞デブ、テメーはいつも通りラインの練習。糞マネ、テメーは王城のデータを頭に叩き込んでおけ」

 

 こうして、泥門は王城との決戦に向けて、少しずつ力を蓄えるのであった。

 




 アメフトクリニック。
Q.ヒル魔くんのポジション、クォータバックってなに?
A.クォータバック(QB)は、オフェンスの司令塔だ! 作戦を考えること以外にも、パスを投げたり、ボールを渡したり、時には自分でボールを持って走ったり、その役割は多種多様。チームの攻撃時はクォーターバックを中心にプレーが進むんだぜ! 
 走力、腕力、判断力、瞬発力、統率力、その全てが要求されるクォーターバックは、まさにアメフトの花形ポジションだ! チームの勝利を思い描け! Yaーhaー!
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