えぐい体調の壊し方をしました。皆様もこの季節は体調を崩しやすいと思うので気をつけてください。
意識がゆっくりと点滅するかのような感覚だった。
全身の水分が涙として流され、謝罪の言葉は呼吸を忘れて紡がれる。
水分と酸素不足になれば意識が朦朧するという極めて当たり前の事実で、
「ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
少しでも気を抜けば意識が消滅する。
今まで何人も見捨ててきた。何人も見殺しにした、何人も助けられなかった。何人も
なぜ自分が死ぬのか理解できないという顔。
何をされたか分からないという顔。
なぜ助けてくれないのかと問いかける顔。
なぜお前が生きているんだと恨む顔。
考えないようにしても、どうしても考えてしまう。
「──────ごめんなさい」
ふと、前世のことを思い出した。
初めは両親の仇だった。
一秒でも早く銃を握って、両親を殺したクソ野郎共を殺してやりたかったんだったか。
けれど、恨みなんて10年もすれば風化する。
気がつけば殺す以外の生き方を知らなくなり、殺すことが当たり前になっていた。人が死ぬことなんて当たり前だと自分に言い聞かせて、人を殺してきた。
人を殺した金で美味い食事もした。
たくさん遊んだ。けれどそれは、それが一般的な人々が言う
それらを幸福だと思えることは、残念ながら俺には一度も無かったのだが。
他人を慈しむことも、自分を尊ぶことも、俺には出来なかった。ただ殺して、金を稼いで、遊んで、殺して。そうすることが幸せなんだと思い込んで。
それで背後から撃たれて脳漿をぶちまけながら最後に思ったことは、「死にたくないな」だったんだ。
だから今度は誰かを守れるように戦った。
愛して、愛されて。そういった関係の中で誰かを守ることが正解なんだと。そういう生き方が幸福なんだと定義して、必死に戦ってきた。
それでも
結局積み重ねたのは死体の山。大切なものを守るために幾つも犠牲を重ねて、そこまでしても結局大切な人達は
自分は優秀だと自惚れていたけれど、結局
だから戦うことでしか、殺すことでしか答えを出せなかった。そういう生き方しか、想像が出来なかった。
だって仕方ないじゃないか。
前世だって今世だって、
本当に?
◆
平時の彼女達の状態の監視と管理。戦闘中は彼女達が戦いやすいようにサポートしながら、搭載火器の遠隔操作によるサポート。
求められる能力は知識、知能、肉体の頑強さ、同調の相性、性格の良さなど様々。基本的に戦場の最前線に出ることはなく、限られた人数しかその席に座ることが出来ないエリート職。
そんなオペレーターになる為にまず必要なことは、
幾ら華人形を通してと言えど、拡張魔導装甲に干渉することは人間の肉体、精神構造では不可能。故に全てのオペレーターはまず、華人形の因子を肉体に埋め込めみ、同時に脆弱な肉体の一部を機械と置換する。
現代の技術力では、人間の内臓と同じだけの働きを同サイズの機械で補わせることは不可能。だが、華人形の因子を埋め込み魔力を増大させることによって、魔力というエネルギー源を得れば部分的に可能というラインに到達する。
そこまでしてようやく華人形と同じ世界で戦える。彼女達の戦いを支えることが出来る。
人体改造とでも言うべき施術は、オペレーターの心身に多大な影響を及ぼす。そうでなくとも華人形の戦闘は高速かつ苛烈な代物であり、精神は鑢で削るなんて代物ではなく、ナイフで切り落としていくかのように削れていく。
行われる身体改造も、全て明日の戦闘で最善の動きをする為であり決して長く生き残ることを考えていない。
そこまでしてようやくだ。
ようやく俺達は、彼女達と並ぶことが出来るんだ。
ほんの一瞬だけでも、彼女達の苦しみを理解することが出来る。
リリィは既に言語による意思疎通は不可能。
拡張魔導装甲も動かすことができず、バイタルは少しづつだが全生命維持が停止に向かっている。
「同調リミッター、解除。オペレーター、レガン・シュロウの全神経を《
オペレーターの一番の役割は、精神攻撃により華人形が行動不能になることを防ぐこと。
頑強な肉体をもつ彼女たちが行動不能になる要素で、最も不安なのが精神への影響だった。特に、初期の拡張魔導装甲は機動性が低く、
元々はその際に、華人形への精神負担を代わりに受け持ち、最高の動きを継続させる為の生贄こそがオペレーターの役割。
ただそれが戻ってきただけだと、レガンは覚悟を決めてリリィの精神との同調率を急上昇させる。
小さな水風船に、ダムの水全てが流し込まれたらどうなるか。
その答えが、レガンの精神を引き裂いた感覚だった。
「ぁ、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああッ!?」
華人形が感じている痛み、苦しみ、疲労に人体が耐え切れる理由はない。
全身の血管が裂けたと脳が認識し、その認識に合わせて血管が自ら裂ける。穴という穴から血が吹き出し、臓器が捻れ脳が沸騰する。
準備していた安定剤、鎮痛剤、拮抗剤を機械が首に打ち込むが、それすらも気休めにすらならない。
そもそもこれは、本来ならば禁止されている行為なのだ。
同調率は普段はせいぜい10%、最大でも50%。人間では華人形の感覚に耐えられない以上に、50%を越える同調を他の知性体に対して行うことは自己の喪失、感覚の相違による生命維持の変調等の致死のリスクが伴う。
だが、レガンがリリィの受けている苦しみを味わうのと同じ理論で、リリィはレガンの心に同調する。
オペレーターの精神状態が健全であるならば、華人形の精神状態もそれに同調して一時的にであるが正常な状態に戻される。
ただし、この方法はあくまで一時的に華人形が受ける悪影響を50%だけカットするのみ。
それでも動けないほどの負荷が華人形にかかっていればただ無駄に死ぬだけ。かつオペレーターの正気の代わりに華人形の負担を減らすという方式の都合上、オペレーターが死ねば効力は終わる。
かつて最も恐れられた特異個体、
それでも、レガンが同調率の急上昇に踏切った理由はただ一つ。
リリィという華人形は無意味なことをしない。
そう信じているのではない。
彼女は、そんな自分であることを決してやめられない。俺だけは彼女の選択を、苦しみを、無意味なものにしてはならない。
そうしなければ、彼女はきっと永遠に前に進めないのだから。
◆
沈んでいく意識の果て。
罪悪感と後悔の海の底。
朦朧とする意識がはっきりとしていくのが感じられる。ここまでめちゃくちゃに振り回されて、ぐちゃぐちゃに押し潰れた心が辿り着いた場所。
向き合ってしまえばきっと耐えられずに壊れてしまう、奥底に秘められたその扉が開かれる。
そんな時、
何人も殺してきた。
自分の無能を言い訳に、何人も。
今だって、
レガンはきっと、
でも、それをやればレガンは無事では済まないはずだ。
華人形の肉体がまともに動かなくなるような精神ダメージを人間が受ければ、半分だけでもまず助からない。
また
「──────リリィはどうしたいの?」
「え?」
意識の奥底から、声が響いてきた。
「リリィが何をしたいか。それが一番重要じゃないの?」
文字通りに、言葉を失ってしまった。
だって、目の前にいるのは、目の前で喋っているのは此処にいるはずのない相手だった。
彼女の死だけは、
「なんで、ルリさんが……?」
「まぁ……お姉ちゃんだからね」
『……よぉ、ようやく目を覚ましたか、眠り姫様』
「───どれくらい、経った?」
通信機越しではなく、頭の中に響いてくるかのようなレガンの声。
掠れていて、口の中には自分のものでない血の味、全身には自分のものでない痛みが走る。
なのに心だけはすごく楽で、さっきまで罪悪感で押しつぶされそうだった体が何とか動く。
レガンが何をやったのか、すぐにわかった。
「通信切って、もう休め。死ぬぞ」
『ダメだ。解析の結果原因はわかった。だが、対処法がねぇ。アンタ以外の華人形は同調率上げての肩代わりも無理なくらい症状が深刻だ』
やはり
対処法がないということは、現状華人形では
『俺が負担を引き受ける。アンタが
「それは、命令か?」
『命令だ。アンタ以外にできない。これを果たすためになら、喜んで死ね』
繋がった心は、言葉に込められた思いも包み隠さず伝えてくる。
こんなに心のこもっていない死ねなんて、生まれて初めて言われたかもしれない。
『リリィ』
「……なんだよ」
『終わったら、何がしたい』
さっき死ねと言った部下に、レガンは生きて帰ったらの話をしてきた。
意図が読めず困惑する。
困惑がレガンに伝わり、それに対するレガンの感情が直接伝わってくる。
『俺が思っていたより、アンタはずっと華人形で、子供だよ』
「……なんなんだよさっきから。お前らしくないぞ! そんな、最期みたいな言い方!」
きっとレガンは、同調を通してそれを知ったのだ。そう思うと怒りとも羞恥とも違う、表現のできない感情が湧いてくる。
「
『アンタって、
……そんなの。
そんなの、当たり前じゃないか。
生まれてきたんだ。
出会ってきたんだ。
このクソッタレな世界で、それでも
そこに生まれてきたのなら、幸せになりたいに決まっている。
幸せになって欲しいに、決まっているだろう。
「そう願うことは、やっぱり間違いなのかな」
『間違ってはねぇよ。ただ、アンタはやり方は間違えていると思うってだけだ』
「……これ以外のやり方なんて、知らねぇよ」
『そうじゃねぇっての。だったらさ、ちゃんと考えてみろ。これでもわかんねぇなら、もう知らん。一応地獄にまではついて行ってやるがそこまでだ』
自分の生き方を今更他人に諭されて変えるほど、生半可な覚悟で生きてきたつもりは無い。
だからこれは、レガンに言われっぱなしなのが気に入らないという、極めて個人的な理由での返答。
自分のことはただの死にたがりのバカだと思わなくもないけれど。
それはそれとして、死にたがりのバカだと思われたままでいるのは癪だから。
「──────に、行きたい」
『はっ。いいじゃねぇか。それくらいなら連れてってやるよ』
「1人で行ける。いいから、行くぞ」
再び拡張魔導装甲全体に力を込め、
ポイント9奪還作戦の成否。
その全てを背負って、《