朝食を食べ終わり。
旅立ちの準備をします。
薬草に。
食料に。
お手当セット。
必要なモノをリュックへ。
3ヶ月ぶりの旅立ちです。
昨日の飛竜との戦闘。魔物の群れ。
あれらが非にならない旅へ行くのです。
できるだけのモノを詰め込み。
道具の点検をします。
そうやって準備を進めていると手が止まりました。
ふむ。
さて。どうしましょう。
「エール?それも持っていくのですか?」
「マキア様…少し考えていただけです。
きっと荷物になってしまうので…
きっと置いていくでしょう」
わたしの手元には昨晩のお祭りで町の皆様に頂いたモノが。
可愛らしい髪飾り。
キレイな石細工。
指輪や。花や。その他いろいろ。
すこし思考します。
もし持っていったなら。
移動中に失くしたり。
戦闘時に邪魔になったり。
飾り物は戦闘のときに外れて。
パーティーの皆様を傷つけてしまう可能性も十分考えられます。
むむむ。やはり。
やはり置いていきましょう。
失くして後悔するより。
いまここでサヨナラする方が良いです。
サヨナラといっても勇者様がこの後回収して。
勇者様の謎空間に収納して。
いざという時の資金源となるのです。
ただちょっと目に止まっただけですから。
この町に長くいたからでしょうか。
昨日のお祭りが楽しかったから。
パン屋さんの旦那様が優しかったから。
らしくないことを考えてしまっただけです。
「良いんじゃないか?ひとつくらい持っていても」
カルテ様はそう言いました。
「そうですよエール。
ひとつくらい持っていっても大丈夫ですよ!
さもないと可愛らしいそれらは昨日の大量の魔物の死骸…は飛竜に渡しましたが、その他歴代の諸々とご一緒することになります」
「そうだ!そうだぞ!勇者の謎空間は入れたら最後!
中々取り出せないからな!」
お二人に脅されました。
ふむ。むむむ。
考えなおしてみました。
ちょっとの間。考えて。
「………それでは。お言葉に甘えて。
ひとつだけ持っていこうと思います」
「おう!折角だからな!」
カルテ様は私の隣に座り。
マキア様も準備を止めて一緒に選んでくれるようです。
これかわいいですね
こっちの小さい人形なんかどうだ
この髪飾りエールに似合いそうです
少しの時間。
お二人に付き合っていただき。
ひとつを選び。
荷物にいれました。
「折角選んだのにしまっちゃうんです?」
「む!そうだぞ!折角選んだのに!装備しないと意味ないぞ!」
「すみません。失くしてしまうのが恐ろしいので。
今日の移動で私自身ついて行くのがやっとかもしれません。
様子を見て。
大丈夫そうだったら今日の夜営の時に装備しようかと」
「むぅ…なら、しょうがないな」
「えー折角かわいいのにぃ~
野営までお預けですかぁ…?
…今ちょっとだけ装備しませんか?」
マキア様がじりじりとこちらへ寄ってきます。
そうでした。
マキア様はかわいいに目がありませんでした。
前の町で服を新調したとき。
かわいい服を色々着せ替えられました。
あの時は丸一日使いました。
もしかしてまずい状況でしょうか。
にじり寄るマキア様と距離をとります。
「町を出るまでの間だけでも~!
ほら!こっちは勇者さまに渡す方ですから!
こっちも絶対かわいいですから!
絶対かわいいですから!」
「こらマキア!エールを困らせるな!
それに前もそうやって一日エールを着せ替えて遊んでただろ!
日が暮れる!野営まで我慢しなさい!」
「ちょっとだけ!ちょっとだけでいいですからぁ!」
久しぶりのかわいい。に反応したマキア様。
それを抑えるカルテ様。
準備が終わるまでもう少し時間がかかりそうです。
「…エール、遅かったな。…二人はどうした?」
「お二人は…あー。
もう少し時間がかかる。とだけ」
「マキアさんが暴走したんすよね。
声、俺の部屋まで響いてましたよ」
後ろからゾル様の声が。
ゾル様のいったとおり。
あの後カルテ様に逃がしていただき。
1階の広間へ来ました。
ダン様とゾル様。
準備を終えているようです。
「盗み聞いてたのか…趣味が悪いな」
「いやいや、隣の部屋ですよ?
聞こえちゃっただけですよ。人聞きの悪い」
「女子の声は探るもんじゃないぞ」
「んぇ~お説教とか勘弁でー」
あのやりとり聞かれていたのですね。
なにか変なこと言ってないでしょうか。
ちょっと不安になってきました。
「マキアさん。ほんっとかわいいもん好きですよねぇ~
最初はキャッキャと可愛らしいのに、最後タガが外れるからなぁ
ツラ良しスタイル良し飯も旨いのに、すぐ暴走するの。
ホント残念ですよねあの聖女サマ」
「あら?誰が残念なんですか?」
「ひっ」
マキア様が降りてきました。
後ろにカルテ様もいます。
ちょっとやつれてるような。
「ふふふ。だれが。どこが。残念なんですかぁ~?」
「あ、は、はは、やだナ~。盗み聞きですか聖女サマ~。
冗談です冗談。残念なのは面白くない冗談しか言えないこの頭でさぁ」
「あは。笑ってあげますよ面白くない冗談でも。
勇者さまに聞きましたよ?
こういった冗談にはツッコミが必要だって。
ゾルさま知ってらして?」
「いやはは初耳なんですケド。握りこぶしで迫ってくるツッコミとか初耳なんすけどッ!」
「これが!ツッコミ!よ!」
「痛っ!イタイイタイ!
せめて握った拳使ってくださいよぉ!
すね蹴らないで!」
脛を守るゾル様。
襲いかからんとするマキア様。
両者共に間合いを取り。
不思議な光景ですね。
「…あーマキア。もういいだろう。
これから出発なんだ。
足を狙ってやるな…」
「そうだぞマキア、ダンの言うとおりだ!
あまりゾルをいじめてやるな!もう怒ってないだろ!」
「…ちぇ。バレてましたか」
ダン様とカルテ様に止められ。
マキア様はいたずらっ子のような笑みを浮かべます。
どうやらおふざけだったみたいです。
カルテ様。すごいです。
よくわかりますね。
「お前が口をつぐむのは笑いを堪えるためだろ?
口角があがってたぞ!」
「カルテさん…ッ!
ちょっとそうゆうのきもちわるいです」
「へぁ!?なんでそうなるんだ!!
毎日一緒なんだから仲間の癖ぐらいわかるに決まってるだろ!!?
怒ってるときは右手が出るし笑う時は口元に「やめてください!やめてください怖いです!キモいです!
人のことそんなにジロジロみてたんですかヘンタイ!
近づかないで!しばらく私に近づかないで!」
「なッ!?~ッ!エールぅ!!!」
「…はぁ。…出発したい」
カルテ様に威嚇するマキア様。
私の陰に隠れマキア様の様子を伺うカルテ様。
脛の痛いゾル様に。
ため息が止まらないダン様。
旅立ちの準備ができても勇者パーティーの出発はまだできそうにないです。
あれ。
肝心の勇者様はどこへ?
「勇者なら調理場にいるぞ」
ダン様に教えられ。
まだ騒がしい広間を抜け。
調理場に向かいます。
勇者様はもぐもぐしながら旅の準備を終わらせ。
調理場に行ったきり戻ってきていなかったようでした。
まだもぐもぐしているのでしょうか。
なんとも言えない勇者様のあの表情が思い浮かびます。
調理場の仕切りを押し開け。
中に入ります。
「勇者様?」
一目では勇者様を見つけられませんでした。
ですが視線を滑らせれば見つけました。
床に倒れた勇者様を。
「勇者様!?」
血の気が一気に引き。
最悪な想像をしてしまいます。
勇者様に駆け寄ります。
うつ伏せになった体は呼吸をしているのでしょうか?
近くにはカップと散った水?
水を飲もうとして倒れた?
勇者様に触れ。
呼吸を確認します。
よかった。
息をしています。
浅いですが呼吸をしています。
生きてます。
引いた体温が戻ってきました。
心臓がバクバクと鳴っています。
びっくりしました。
よかった。
死んでしまったのかと。
はやる鼓動を落ち着かせ。
勇者様を見ます。
うずくまり床に伏している勇者様。
ですが苦しんでいる様子はありません。
表情は苦しげなものではありません。
気絶?眠っている?
なら。
起こさないと。
自然とその考えに至りつき。
勇者様を癒します。
「勇者様。起きてください勇者様」
「!!!う゛ぇっぢッん!!?」
ごほっごほっと。
言葉を発したと同時に咳きこむ勇者様。
そうです。そうでした。
勇者様は水を飲みにここへ来たハズです。
水を。
水を渡さないと。
落ちたカップを手に取り。
カップの水を勇者様の口へ。
数度の嚥下をして。
咳は治まります。
「えっちゃん!ありがとう!!!
はー!!!びっくりした!!!
いきなりえっちゃんが目の前にいたからさ!!!
びっくりしてむせちゃった!!!」
明るく勇者様は言います。
「勇者様。倒れていたので。びっくり。しました」
明るい勇者様は言います。
「わ!ごめんごめん!!!
心配させちゃったよね!!!
お水ありがとうね!!!
めっちゃ助かったー!」
おかしい。
おかしい。
「朝ご飯も飲み込めたみたいだし!!!
今日は最初からフルスロットルで出発できるね!!!
広間に戦士いたでしょ?
えっちゃんがきたってことは皆もう集まってたり!?
はやく戻んなきゃ!!!」
おかしい。
なにかおかしい。
足早に広間に向かおうとする勇者様。
倒れていた勇者様。
眠っていた勇者様。
背筋が凍るような。
違和感が。
見落としが。
「勇者様…大丈夫ですよね…?」
口をついて出た言葉に。
自分で言っておきながら驚きます。
ちがう。
ちがう。
こんなことじゃない。
言いたいことはこんなんじゃなくて。
「えっちゃん…
わー!!!ごめんなさいー!!!!!
隠れてお酒のんでないよぉおお!!!
ただちょっと眺めてただけっていうかー!!!
ほんとにちょっと見てただけだからぁ!!!!!
ほら魅力的じゃん!!!お酒の入れ物って!!!
フォルムからしてどこはかとなくいいカンジじゃん!!!!!
決してのんでない!!!
のんでないのんでないよ!!!!!」
「お、酒…?」
違います。
違います勇者様。
私が言いたかったのは。
「お酒!!?」
「お酒だと!!!!?」
「ぎゃーリーダー!!!傭兵!!!のんでないってー!!!」
「勇者サマ?その酒瓶はなんですかぁ…?」
「…はぁ。昨日の宴じゃ足りなかったか」
「のんでないヨ!!!見てただけだヨ!!!!!」
「空瓶じゃないか!!!」
「見てただけ見てただけ!!!のんでないから!!!!!
ほら!!!このデザインなんてアリよりのアリよしでしょ!!!」
「何言ってるんですかもう!
ってこれも空じゃないですか!!!
隠れて呑まないでください!
見るにしても隠れてやらないで!」
勇者様の声にパーティーの皆様が来てしまいました。
伝えなきゃいけないことが。
言わなきゃいけないことが。
あるはずなのに。
「これも!これも空!!いくつ隠し持ってるんです!?」
「な!勇者!まさか!あの謎空間に!!!」
「いれてないヨ!!!!!」
「持ってますよこの反応は!!!」
「…全部置いていくぞ」
「そんな戦士!摂政な!」
「ほら全部回収しますよぉ~」
「んぎゃー!!!!!」
違和感に答えを出せず。
言葉をみつけられず。
勇者様はダン様とカルテ様に連れてかれてしまいました。
「エール?どうしましたか?」
マキア様に問われて。
「いえ。なんでもありません」
そう言ってしまったのは。
何故でしょう。
「勇者サマ…お酒そんなに…うぅ」
「もう、ゾルさん。
勇者様が呑んだくれなのはもうしょうがないでしょ」
「うぅ勇者サマぁ…」
「ほら、私たちも行きますよ」
マキア様とゾル様も調理場を後にします。
言えばよかったのに。
何で私は言わなかったのでしょう。
勇者様が倒れていたこと。
勇者様が眠りについていたこと。
酒瓶なんてはじめはなかったこと。
動揺…していたのでしょうか。
倒れていた勇者様を見て。
死んでしまったと。
置かれたカップの水は。
私を嗤う様に揺れ。
取り残された調理場の静けさに。
愚行を責められている様な。
そんな気がしました。
勇者パーティーの旅立ち。
街の皆様は盛大に見送りをしてくれました。
町の皆様からの花吹雪。
酒瓶持ってけと言った店主様と勇者様を引き剥がしたり。
カルテ様を慕う衛兵様に囲まれたり。
見送りに来た町長様の頭頂部をなで回すマキア様だったり。
号泣したゾル様やちょっぴり寂しそうなダン様だったり。
時間は瞬き過ぎて。
私はあれから勇者様とお話することも。
パーティーの皆様に本当のことを言えないまま。
町の門を抜けてしまいました。
「どこ行こっか!!!どっち行くリーダー!!?」
「確か一番近いのは…」
「ヴィンテルだな!でもここはダメだ!!!」
「え!?リーダー!なんでぇ!!!??」
「さっき衛兵から聞いた!もう壊滅してる!!!」
「なっ!??小さいですが国ですよ!!?」
「5年前にな!!!雪に呑まれたらしい!!!
だから次はこの少し先にあるシターだな!!!」
「久々の旅立ちだって言うのに結構な距離ですね」
「…鈍ったかゾル。折角だ鍛えなおせ」
「辛辣ぅ…チクチク言葉やめてくだサーイ」
「シターってどっち!あっちか!!!」
「あっ!勇者さま!!!待ってください!!!」
駈け出した勇者様を追いかけ。
旅は始まりました。
夜営の時。
本当のことを伝えましょう。
勇者様が何故嘘をついたのか。
私には考えがつきません。
勇者様へのこの違和感。
ほっといていいものではないと。
それだけは分かります。
そう心に決め。
遭難しました。
勇者 調理場でぶっ倒れてた
酒瓶をコソコソ見てたらしい
癒者 エール 勇者からの呼び名えっちゃん
違和感に気づいたけど
それが何かはわからない
傭兵 ゾル 苦労人ニキ
見送りのとき泣きすぎて
町の子供に花冠をもらった
弓兵 カルテ 勇者パーティーのリーダー
衛兵に意外とモテた
女衛兵にも告られたらしい
戦士 ダン 寡黙キャラな筋肉ムキムッキマン
見送りの時寂しそうにしていたら
町の人にエールをもらった
聖女 マキア あまり聖女しない聖女
町長の頭頂部になにか囁いてた
本人曰く 励ましのおまじない