癒者は遭難した。
歩いてきたこの道は。
どれほどの人がたどった道でしょうか。
曇天にも関わらず。
白銀の光が目を差すのは。
きっとここが空に近いから。
冷たい風は音色を攫い。
細かな粒子は温もりを遠ざけます。
想起
シターを目指し山越えの途中。
山頂に向かうに連れ。
移動は走りから歩きになりました。
はじめに。
冷たい風がはじめに吹き始めました。
肌寒くなり。
空気が冷え。
身体が凍えた頃。
マキア様の支援魔術を施されました。
視界が悪くなる一方なので。
固まって進むようにと。
どなたのお話でしたでしょうか。
パーティーの皆様をカルテ様が先導します。
わたしたちはカルテ様の赤い髪を頼りに。
一歩一歩ゆっくりと前へ進みました。
時間とともに。
視界は酷く狭まり。
音も色も白一色になった時。
境の消えた天地に感覚を奪われ。
道を外れてしまったのは。
きっとわたしの気が抜けていたからでしょう。
油断しました。
「ッ!エール!!!」
風が声をさらい。
わたしをさらい。
「え」
崩れ沈む地面と共に下へ。
わたしの記憶はここまで。
現在
どうしましょう。
どうしましょう。
困っています。
遭難しました。
あー。考え事なんてしているからです。
気が抜けています。猛省してください。
などと。
独りで反省会をしている場合ではありませんね。
まずは現状把握です。
ここはどこでしょう。
はやくパーティーの皆様の元へいかないと。
あと少し。
あと少しで頂上につき。
下ればシターは目前だったというのに。
雪崩に巻き込まれるとは。不覚です。
辺りを見渡します。暗いですね。
パーティーの皆様にご迷惑をかけてしまいました。
皆様は無事でしょうか。無事のはずです。
落ちたのはわたしだけのはずです。
わたしが不注意で落ちてしまっただけです。
ああ。もう。この役立たず。
散らかる思考に苦しみながら。
落ちてきたこの場所を再度見渡します。
わたしが落ちた場所。
先程までいた場所とは正反対。
暗闇に囲まれています。
彼方上に空いた穴からは一筋の光が。
照明としてわたしの周りを照らしてくれています。
足元には大量の雪が積もっています。
わたしとともに落ちてきた雪でしょうか。
この雪たちのおかげで無事だったのだと推測します。
思考します。
はい。わたしの力では。
あの穴から外へ出ることはできないでしょう。
穴は小さく見えますが。
わたしと大量の雪が通ったのです。
穴が硬貨と同等の大きさに見えるということは。
その分わたしとあの穴が離れているからだと考えます。
自力で這い上がって脱出など。
到底叶いそうにありませんね。
それに先程から。
細く雪の粒が落ちてきています。
それに微かに聴こえる沈む重い音。
また雪崩がきそうです。
この場は離れた方が良いでしょう。
幸い荷物はあります。
一緒に流れ着いていました。
灯りをつけて上に行けそうな道を探しましょう。
はやく勇者様と。
パーティーの皆様と合流しなければ。
荷物を手繰り寄せ。
ランプを灯します。
反響する作業音は孤独を強調させます。
寒さで手が悴み。
少し手間取りましたが。
上手く火を灯せました。
明かりがついて安心し異変に気づきます。
これは
「あら~?お客さん?」
暗闇から声が。
女性の声でしょうか。
甘い声が聞こえます。
柔らかな声が聞こえます。
この辺りに人がいるとは。
人が住む場所はなかったはず。
魔族。
魔獣の可能性もありますね。
警戒します。
「落ちてきたのね?かわいそう」
ランプを声の方へかざすと。
うっすらと形が見えました。
人型。…人間?
「なになに?怖がってるの?恐れているの?
怖くなーいよー
こわーくないよー?」
一歩また一歩と少しずつ。
恐る恐る人影に近づきます。
「あとちょっと」
あと少しで顔が見える。
その距離で
「ばぁっ!!!」
「っ!!!」
声とともに崩れ倒れます。
それは私ではなく。
眼の前の人影が。
文字通り崩れたのです。
バラバラと。
欠片はわたしの足元まで転がり。
それが雪であったことがわかります。
「…」
精巧に造られた人の雪像。
その後ろにいた声の主は数度の瞬きのあと。
つまらなそうな顔をしました。
「…えー。なんか反応うす〜い。
ぎゃー!とか爆笑我歓喜!!とかなんかないわけぇ?
傷ついちゃうな〜?くすんくすん」
その人は私に近づきます。
眼前と言って良いでしょう。
近づかれても。
動けない。
「なに?アンタ
ノリわるいね」
五感が逃げろと言っています。
四肢は動くなと言っています。
つたう汗が皮膚を離れ
「つまんな〜い」
地面に触れる僅か前。
「出口を探しています…!」
この口は言葉を発しました。
やめて。
やめて。
これ以上。
「外に、上に行きたいんです…ッ」
情けない声が響きます。
自分の声が。
こんなに弱く。
情けなく聞こえたのは初めてです。
わたしの言葉を聞いた彼女は。
少し驚く様子を見せたあと。
「ふーん? へぇ~?
少しはやるじゃ〜ん!」
少女のようにあどけなく笑い。
私の手を取りました。
雪のような。
氷のような。
凍えた。
冷たい手でした。
癒者 遭難した 穴に落っこちたらしい
灯りをともしてなにかに気付いた
ドッキリにドキドキ?それとも
?? ドッキリ大成功?大失敗?
どちらにしてもビビリすぎてウケる