勇者が病んだ!   作:氷華枦

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癒者は戸惑った。

 

 

 

わたしは兄妹で旅をしている。

いえ。今は姉弟でしょうか。

兄か弟か定かではありませんが。

背の高いその人と旅をしているユシャ・ノエールです。

 

攫われて?助けられて?

連れられた地下通路の先の先。

自分の状況も理解できないまま。

修羅場へ身を投じていました。

 

 

 

「なぜその者たちをここへ連れてきたッ!!!」

 

「バケモノを刺激してどうする!!!我々を殺す気か!!!」

 

「ここがバレたらどうする!?お前のせいで皆死ぬぞ!!」

 

「アイツがくる!!またいっぱい殺される!!」

 

「その者たちを今すぐに追い出せ!!!」

 

「いや殺せ!!!殺せ!!!口封じだ!!!

この場所をバケモノに話すかもしれない!!!

殺して死骸を遠くへ捨てろ!!!」

 

 

 

わー。言葉も出ません。

どうやらわたしたちは招かれざる客と言うわけです。

 

脅され。脅して。

拐われ。連れられ。

 

たとえ記憶があろうとも。

この状況は容易く呑み込めないでしょう。

 

 

呑みこめない?

 

 

 

「だまれだまれ黙れ!うるせぇ!腰抜けどもがッ!!!

お前らの言うことなんていちいち聞いてられるかッ!!!!」

 

「うわーんカイトぉ!!!怒らないでよぉ!!!」

 

 

 

話の種はわたしと弟ですが。

わたしたち姉弟は話に参加できていません。

 

 

わたしは棒立ち。

弟に意識はなく。

眠っています。

 

烈火の如く怒り怒鳴る。

人攫いの男性に担がれています。

 

人攫いの男性はカイト。カイト様。

大人たちと話をしています。

わたしたち姉弟をここまでつれてきた男性です。

わたしの弟を担いでくれている男性です。

 

ついさっきお姉様に殴られ泣かれ叩かれて。

現在進行形で抱きつかれ号泣されているにも関わらず。

完全に無視しています。

まったく気にせず大人たちとお話をしています。

 

凄い泣いてますけど。

カイト様のお姉様凄い泣いてますけど。

いいんですか放置で。

放置でいいんですか。

 

 

 

「俺は俺の行きたいとこに行く!!!

したいことをする!!!

お前らがどうなろうが知ったこっちゃねぇ!!!

とっとと退きやがれ!ザコどもがッ!!!」

 

「バカイトのバカぁ!!!」

 

 

 

姉だからですか。

姉とはそう言うものなのですか。

だからわたしも空気なのですか。

 

暫く口論が続きます。

追い出せ。殺せ。生け贄。投獄。

あまり聞きたくない言葉が飛び交います。

 

ここへ来ない方が良かったのでしょうか。

弟はおいてきた方が良かったのでしょうか。

バケモノとはなんでしょう。

イヴ様のことなのでしょうか。

わたしは何か発言した方が良いのでしょうか。

 

 

 

「おいテメェッ!!!舌噛むなよ!!!」

 

「え?」

 

 

 

グッと前へと引っ張られる感覚。

胸元を捕まれ。

感じる風。

感じる既視感。

 

ウッ

 

お腹に衝撃が。

肩に担がれましたね。

力持ちですね。

三人ですよ。

 

 

 

「おいザコども!!!腰抜けども!!!

コイツらに手ぇだしたら許さねぇかんな!!!」

 

 

 

小悪党の様な言葉を吐きながら。

カイト様はわたしたち姉弟を奥へ奥へと運んでいきました。

腹にお姉様を付けたまま。

 

あの。やっぱりこれって。人攫いでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぇ」

 

 

 

投げ出されて変な声がでました。

 

 

 

「だぁあ!!!クソ重ぇ!!!!!」

 

「!」

 

 

 

わたし同様投げられた弟をキャッチします。

おっふ。重い。

 

キャッチした弟を見ます。

ああ。無事ですね。

よかった。

 

 

 

「姉ちゃん!!!いつまで引っ付いてんだよ!!!邪魔!!!」

 

「びぃえええ!!!」

 

 

 

あ。お姉様も投げ飛ばそうとしています。

容赦ないですね。

でもなかなか引き剥がせないようです。

 

 

 

観察します。

 

 

 

人攫いの男性。カイト様。

先程までは顔が見えませんでしたが。

お姉様との攻防でフードが外れています。

 

焦げ茶の髪。

一部をかきあげた前髪からは。

瑠璃色の瞳が見え隠れします。

髪が少し長いのか。短い三つ編みで束ねてあります。

 

武器は銃剣。

外套に吊るされたナイフ。

弾薬。薬瓶。小道具たち。

 

数々の発言を思い出します。

殺されるからと連れ出されましたが。

先程の話し合いを聞いている限りでは。

ここにいる方が殺されてしまいそうな。

 

庇ってくれていた様ですが。

情報はまだまだ足りず。

敵か味方か判断はつきません。

 

もし敵であるならば。

わたしは勝てるでしょうか。

 

逃げるにしても。

途中で捕まってしまいそう。

 

 

 

視線をずらし黒髪の女性。

 

カイト様のお姉様。

華奢な身体に合わず怪力の様です。

 

カイト様がなんとか引き剥がそうとやっていますが。

お姉様も負けず引っ付いています。

 

髪を2つに結ってあり。

背はわたしよりも高いでしょうか。

 

ここにたどり着くまでは。

馬鹿馬鹿とカイト様に言っていましたが。

今は泣きすぎて話す言葉は言葉として捉えられません。

 

凄い泣いていますので。

涙で顔が凄いことになっています。

 

ふふ。まるで…

 

まるで…?

 

 

 

何か例えようとしましたが。

何か思い出せないですね。

忘れてしまったのでしょう。

 

こんなに泣いている誰か。

知っていたのでしょうか。

知り合いだったのでしょうか。

 

もしかしたら。わたしが泣き虫で。

そのことを忘れてしまっていたり。

 

それは都合がいいかもしれませんね。

 

あ。弟が。

この人が泣き虫であった可能性もありますね。

 

そんなことを考えていると。

 

 

 

「おいザコ!!!テメエ!!!」

 

 

 

お姉様を引き剥がすのに成功したようで。

カイト様がこちらを見やり問いかけます。

 

お姉様。投げ飛ばされてますね。

しくしく泣いています。

かわいそうです。

 

 

 

「どこまで覚えてやがる!!!」

 

 

 

どこまで…と言われましても。

名乗れということでしょうか。

 

 

 

「…わたしはユシャ・ノエール。

 

この人はわたしの弟で。

 

弟と旅をしていた。

 

覚えているのはそれだけです」

 

 

 

こう言葉にしてみると。

覚えていることが少ないですね。

確かイヴ様にも同じように聞かれましたね。

 

そうだ。

そうだ。

イヴ様に教えていただいたのでした。

 

名前も。

旅のことも。

この人のことも。

 

 

 

あれ?

 

 

 

これだと名前も旅も。

覚えているといえるでしょうか。

忘れていたと言った方が正しかったでしょうか。

 

そしたら。

そしたら。

 

わたしはなにを覚えているのでしょう。

 

 

 

「…おい!ソイツの名前は!?」

 

 

 

名前?

弟の名前は。

この人の名前は。

 

 

 

「ユ…ユーシャ…さま…」

 

「…チッ」

 

 

 

あれ。

イヴ様は確かユシャと。

そう言っていたハズです。

 

なんで。

なんでユーシャ?

 

それに敬称?

 

 

 

「テメエ、なんも覚えてねぇのかよ…」

 

 

 

カイト様は先程とは打って変わり。

強い語気でなく。

 

なんだか。

 

なんだか悲しんでいるような。

 

カイト様は腰を下ろすと。

静かにわたしに言いました。

 

 

 

「…おいザコ。

 

テメェの名前はそんなんじゃねぇ…

 

テメェの名前はエッチャンだ」

 

 

 

瑠璃色の瞳はわたしを見て。

わたしの名前を告げました。

 

 

 




???   ユーシャさま
      兄か弟か旅仲間か
      
???   ユシャ・ノエール?
      エッチャン?
      もう訳がわからないね

カイト   焦げ茶の髪 瑠璃色の瞳
      粗っぽい口調
      敵か味方かどちらだろう

姉ちゃん  黒髪ツインテール 泣き虫
      華奢な体にあわず力がある
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