勇者が病んだ!   作:氷華枦

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癒者は痛がった。

 

 

 

 

「アタシはアンナ。

よろしくねエッチャン」

 

 

 

差し出された手をとると。

嬉しそうに手を握られました。

 

 

 

「カイトったら乱暴でゴメンね!

根は良いやつなのよ。

ただちょっと暴走しがちでさ」

 

 

 

カイト様のお姉様。

アンナ様は明るく話を続けます。

 

わたしはその話を聞きながら。

名乗るべき名前を考えていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エ・チャン…ですか???」

 

「ちげぇ!テメェはエッチャン!

エ・チャンじゃねぇザコ!」

 

「す、すみません」

 

「チッ…アイツに色々吹き込まれただろうが全部信用すんな。

テメェは覚えてることが少なすぎるから、はやく思い出すか作るかしろ。

 

おい!姉ちゃん!

コイツのこと見とけ!俺はでかける!」

 

「うぅ…バカイトォ」

 

「頼んだかんな!コイツのこと!!!」

 

「わかったよぉ…」

 

 

 

衝撃です。

わたしの名前はエッチャンだったみたいです。

 

確かに。ノエール。

にはない何かを。

エッチャンには感じます。

 

これは既視感?

でもちょっと。

ほんのちょっぴり違和感が。

 

 

 

「おいザコ!

 

逃げたら殺す!死んでても殺す!

 

わかったなッ!?」

 

「わ、わかりました」

 

 

 

カイト様はそう言い残すと部屋の外へ。

ああ。逃げられませんね。

 

逃げたら殺す。

死んでても殺す。

なんて言い残されては。

 

 

死んでても?

死んでても殺されるなんて。

そんなのは御免です。イヤです。

 

言葉としておかしいハズなのに。

死んだあとも殺されるイメージができてしまうのは。

 

これは。

 

これが恐怖というモノでしょうか。

 

違和感を感じながら。

カイト様のお姉様の涙が枯れるまで。

部屋で時を過ごしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずは!そうね!

 

命取りになるから!

 

ここの説明からね!」

 

 

 

 

暫しの時間がたった時。

アンナ様は一打入魂と頬を叩き。

立ち上がり。お話をしてくれました。

 

話を聞くところによると。

ここはヴィンテルという場所の古い地下街道。

竜の血脈とも言われる複雑な構造は…

とここは良いでしょう。

 

地下街道は居住区。

ヴィンテルにいる人間はすべて。

この地下街道で暮らしている様です。

 

地下で暮らす理由には。

イヴ様が関わっているようで。

 

曰く。記憶を奪われる。

曰く。なぶり殺される。

曰く。バケモノに変えられる。

 

と評判は散々です。

イヴ様のいる地上は危険視されていて。

イヴ様の率いる魔物。そして常闇は非常に厄介で。

地上へ行くと二度とかえってこれないとまで脅されました。

 

 

 

 

 

イヴ様。悪いお方だったのでしょうか。

わたしにはそんな極悪人のようには見えませんでした。

 

それに魔物?常闇?

覚えていないだけでしょうか。

忘れてしまっているだけでしょうか。

 

わたしが思い出せるのは。

先導の赤に照らされた彼女。

ひとり前を歩き導いてくれた彼女です。

 

魔物も常闇も。似合わないような。

 

 

 

 

 

記憶についても聞きました。

 

地上を覆う常闇にいると。

徐々に記憶を奪われてしまうこと。

 

もし名前を奪われでもしたら。

廃人になってしまうこと。

最後には死んでしまうこと。

 

奪われた記憶を取り戻すには。

ヴィンテルの外にでるか。

正しい記憶を辿るか。

この2つである。

 

 

 

と。軽く流しましたが。

 

 

 

わたし。名前。忘れてましたよね。

危なかったのでは。

廃人一歩前だったのでは。

 

名前を教えてくれたイヴ様。

そしてカイト様に感謝します。

 

そして困っています。

わたしには只今2つの名前があります。

 

ユシャ・ノエール

エッチャン

 

この2つ。

どちらも少しちがうような。

そんな違和感があります。

 

試しにアンナ様に名前を呼んでいただきました。

 

アリス。コナー。ジェシカ。トール。

 

アンナ様の思いつきの名前と教えていただいた2つの名前。

やはり教えていただいた名前の方がピンと来ます。

来ますがなにかが違います。

 

うーん。

 

 

 

「わかるわ!モヤモヤするわよね!

なんか、あとチョット!て感じなんだけど。

あと少しが掴めないってカンジ!」

 

「はい。アンナ様。違和感があります。

あるのですがなんなのか。まったく分かりません。」

 

「エッチャン、しょうがないのよ今のところは!

なにが正しいのかなんて思い出せなきゃわからないもの!

名前はエッチャンにしときましょう!

アイツから教えてもらった名前なんて危なすぎるわ!

 

それに、こんなことしてる場合じゃないしね!

エッチャン記憶が少ないんだから記憶を造らなきゃ!」

 

 

 

明朗快活。

そんな言葉が似合いそうなほど。

ニコニコと笑い接してくれるアンナ様。

 

アンナ様のお名前を伺う前。

うっかりお姉様と呼んでしまってから。

アンナ様はニコニコと懐っこく。

お話を沢山してくれます。

なんでしょう。

幻視でしょうか。

アンナ様の髪型も相まって。

先程からアンナ様が子犬のように見えます。

 

 

 

記憶を造ろう。と部屋を駆けたアンナ様。

何かを持って帰ってきました。

あれ。

 

ナイフ?

 

え?

 

 

 

「エッチャン!痛いけど、しょうがないの!

記憶がなさすぎるんだもの!

大丈夫!痛いは痛いけど一番早いわ!」

 

 

そう言って寄ってくるアンナ様。

 

そんな。

 

殺生な。

 

 

 

「さぁ、チクっと!ザクッと!」

 

「アンナ様アンナ様?

躊躇いとか心の準備とか。

ほかに手段は…!?」

 

「ないわ!」

 

 

 

 

振られたナイフ。

すんでのところで躱しきれず。

切られる手。

 

あー。

 

折角手当てしてもらったのに。

 

痛いです。

 

 

 

「あれ。反応薄いわね?」

 

 

 

 

呆然としていると。

二度目のナイフが。

 

今度はより深く。

切傷ができてしまいました。

 

痛いです。痛いです。

 

 

 

「ちょっとエッチャン…!?大丈夫!!?」

 

 

 

端から見ると。

おかしな光景でしょう。

 

切られたというのに。

切ったというのに。

わたしはこんなに落ち着いて。

アンナ様が慌てていて。

 

なんだかおかしくて微笑ましいです。

 

 

 

「…え?は?こんなの初めて…

 

切られたのよ?

傷つけられたのよ?

 

痛くないの?

痛まないの?

 

痛いってのはもっとこう。

 

いったあああー!とか

ぐぁあああー!とか

コノヤロー!とか

 

なんかこう!反応があるハズなのに!

 

これじゃたいした記憶にならないじゃない!」

 

 

 

切られ損だったということでしょうか。

 

 

 

「痛い?痛いわよね!?

 

痛みはあるのよね!??」

 

 

 

いた。いたたたたた。

切ったところを弄らないでください。

そんな開いたってなにもでてきませんよ。

 

アンナ様はナイフで刻んだ場所を覗き込みます。

巻いていただいた包帯がズタボロです。

 

 

 

「…これ。この手どうしたのよ…」

 

 

 

アンナ様?

 

 

 

「痛いでしょう。痛かったでしょう。

なんで…この手…血だらけで」

 

 

 

ああ。あんなに弄ったから。

傷が開いてしまったのですね。

血が流れ始めています。

 

痛いです。

 

痛いですよ。

 

 

 

「アンナ様。痛いです。痛いですよ」

 

「…これじゃ意味がないわ」

 

「アンナ様?」

 

「エッチャン。この傷を見てもなにも思わないでしょう?」

 

「痛い。と思います」

 

「痛いなんてどうでもいいの。

私に切られた。って。

思い出さなきゃ意味がないもの」

 

 

 

そんな。

 

ホントに切られ損ということですか。

 

 

 

「痛みに強い?のかしら?

 

それとも慣れてる?

 

慣れるってどうゆうことよ」

 

 

 

ぶつぶつと何かを呟くアンナ様。

 

痛いのはイヤです。

苦しいのもイヤです。

でもイヤなだけで。

 

それらは当たり前のことではないのでしょうか。

 

鮮烈に記憶に残るような。

特別なことなのでしょうか。

 

 

 

「エッチャン!ごめんなさい!

 

無駄に傷つけてしまったわ!

 

でも大変!

 

これじゃエッチャンはすぐ廃人になっちゃう!」

 

 

 

廃人。

 

 

 

「だからエッチャンの記憶!

王道に造りにいくわよ!」

 

「王道…?」

 

「そう王道!!」

 

「王道」

 

「ほら!早速いくわよ!

 

こんな部屋じゃ、きっかけが少なすぎるわ!

 

地下街道を練り歩くわよ!」

 

 

 

そう言ってアンナ様は私の手を取り。

部屋の外へ連れ出されます。

 

イヴ様にカイト様。

それにアンナ様。

ユーシャ様のことも。

 

考えたいことが沢山ありますが。

後になりそうですね。

 

 

 

繋いだ手は血だらけで。

踏み出した一歩は明後日で。

なにが正解かわからない。

自分の名前もわからない。

痛みでは覚えられないわたしは思い出造りへ。

アンナ様とともに地下街道へ繰り出しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ。ユーシャ様。

置いてきぼりにしちゃいました。

 

 

 




ユーシャ  兄か弟か旅仲間か
      カイトの部屋に置き去りにされた
      
エッチャン ユシャ・ノエール?
      エッチャン?
      怪我ばっかしてる 痛いは痛い

カイト   焦げ茶の髪 瑠璃色の瞳
      粗っぽい口調
      お出掛け中

アンナ   黒髪ツインテール 泣き虫
      華奢な体にあわず力がある
      子犬系バイオレンス
      エッチャンとともに
      夜の地下街道へ!
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