勇者が病んだ!   作:氷華枦

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癒者は記憶した。

 

「おいアンナ~!どこに行くんだぁ?泣き虫ー!」

 

「うるさいわねぇ!心配いらないわよ!

また刺されたいの!?チビ!」

 

「チビっ!!?チビって言うなぁっ!!?」

 

 

 

「あらアンナ!こんな夜中にどこいくの!?

泣き虫のあんたじゃ泣いて帰ってくるのが落ちさね!」

 

「あらおばさま!いつの話をしているのかしら!

夜中に出歩くなんていつものことでしょう?

いやね年だわきっと!今度からはおばあさまと呼んだ方がいいかしら?」

 

「まぁ酷い!わたしはまだまだお姉さんよ!」

 

「クソババア!」

 

「クソガキ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンナ様に記憶を造りにいくわよ!と。

あの部屋から連れ出され大きな道へ。

 

居住区と聞いたとおり。

大きなその通りには人の住まう場所が点々とありました。

住まう場所があるならば。

勿論そこに住む人間もいるわけで。

 

初めは背の高い男性。

次に妙齢の女性。

男性。

女性。

男性。

男性。

男性。

女性。

男性。

 

おいアンナ。やいアンナ。

 

通りすぎるたび。

目があうたびに。

幾度となく声をかけられます。

 

 

 

「アンナどこに行くんだ?泣き虫ドブスぅ」

 

「ちょっとぶらぶらするだけよ!太っちょ!」

 

 

 

声をかけられるのはいいのですが。

いいと思いますが。

 

なんといいますか。

なんといえますか。

会話の内容がどれもこれも。

 

うーん。

酷いです。

 

暴言?と言いますか。

貶しあう?と言えますか。

耳を疑うような会話に私の思考は止まります。

 

朗らかに話しかけ。

瞬きすればケンカのようなやり取り。

軽い雑談も蓋を開ければ酷い言葉ばかりで。

 

穏やかではありません。

異常でないでしょうか。

私の耳がおかしいのでしょうか。

頭がおかしくなってしまったのでしょうか。

 

 

 

「ブスブスブスブス」

 

「デブデブデブデブ」

 

 

 

また一人。

アンナ様とお話をして去っていきました。

 

 

 

「ふぅ…って、あれ?エッチャン?

どうしたのそんな顔して…?

あ!そっか!びっくりした?」

 

「えぇ。びっくりしました。

 

びっくりして。

 

…びっくりしています」

 

 

 

あははゴメンね。と笑うアンナ様。

アンナ様の敵は多いのでしょうか。

 

ですが話しかける皆様は。

親しみをもって話しかけ。

怒り心頭で去っていきます。

 

なんでしょう。

なんででしょう。

不思議です。奇怪です。

 

やはり私の耳が。頭が。

おかしくなってしまったのでしょうか。

そう考えた方が納得できます。

 

 

 

「ほら、ここだと記憶が大切だからさ?

わざと怒らせてるのよ」

 

「わざと。ですか?」

 

「ほら、考えてみて?

怒る時って記憶じゃないところからこう…

ぶわぁってこない?

それがここだと都合がいいのよ。

 

さっきから皆が私に色々言ってくるけど。

そんな心配することじゃないわ。

 

だからそんな不服そうな顔しないで?」

 

 

 

顔。

指摘されて。

顔を触ってみます。

 

不服そうな顔。していたのでしょうか。

困惑はしていました。

そう。困惑していたのです。

 

理由があるのです。

意味があったのです。

アンナ様も笑っています。

不満など…

 

 

 

「ふふ!エッチャンはカイトに似てるわね!」

 

「え?」

 

 

 

カイト様に?

 

 

 

「だってあの子もそうだもの!

怒るのは他人のことだけ…

 

エッチャン。私のために怒ってくれているんでしょう?」

 

 

 

あの人たちに。

私が怒ってる。

怒ってる?

 

 

 

「不思議よね!

幸せな記憶は戻ってこないのに、怒りは自然と取り戻せる。

 

私は逆だって思いたかったけど。

きっとそれが人間ってヤツなのよ」

 

 

 

幸せな記憶は戻ってこない。

 

アンナ様も。

記憶を失っているのでしょうか。

忘れてしまった。

幸せな記憶があるのでしょうか。

 

 

 

「でもダメよ!エッチャン!

怒りだけじゃそこらの魔物と変わらないわ!

だからほら!はやく行くわよ!」

 

 

 

再び引かれる手元。

 

ふと。思いました。

 

もしかして。

地下街道の入り口で言い合っていたのは。

カイト様のため。だったのでしょうか。

 

アンナ様が殴ったのもカイト様のため?

カイト様の振る舞いも皆様のため?

 

考えすぎでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

連れられたのは。

地下街道の何処でしょう。

 

通りを抜けて。

地下の壁の小さな穴。

その中を進んできました。

 

人一人が歩けた道も。

今では這って進んでいます。

 

上へ。上へ。

 

よじ登った先。

高い見晴らしのいい場所。

そこに目的の場所があるようなのですが。

 

 

 

「エッチャン!ついたわよ!」

 

 

 

到着したみたいです。

 

前を這っていたアンナ様が視界から消えます。

少しの空間があるようです。

 

私もアンナ様と同じ様に穴から這い出ます。

見張り台。のようなものでしょうか。

くり貫いたようなこの場所は。

下に覗く地下街を一望できます。

 

 

 

「じゃあ一個目ね!ここが地下街道!

 

地下街道ウェンテル!

 

ようこそ!エッチャン!」

 

 

 

開かれた両の手。

振り向き様になびく黒髪。

小さな灯りに照らされた笑顔。

 

目に焼きつけます。

 

 

 

「どう?覚えた?」

 

「地下街道ウェンテルですよね?」

 

「そうそう!って、ちょっと!

私のこともちゃんと一緒に覚えてよね!」

 

「はい。アンナ様。

アンナ様のことも覚えます」

 

「いーい?楽しいとか!嬉しいとか!

綺麗だとか!かわいいとか!

全部大事な記憶よ!

 

忘れやすいけど、エッチャンにはそれくらいしか記憶を作れないわ!」

 

「はい。アンナ様。綺麗です」

 

「へ!!?」

 

「アンナ様。かわいいです」

 

「ちょっ!ちょっと!

 

う~!

 

嬉しいじゃない!!」

 

 

 

照れてます。

かわいい。

 

 

 

「こうやっていろんな場所で、色んなものを見て!私を見て!

どんどん記憶を増やしていくわよ!」

 

「はい。アンナ様」

 

 

 

次に行くわよ!と。

アンナ様が穴へ再び入ります。

私は地下街道を見下ろします。

 

見下ろした地下街道。

出入口のような。

比較的大きな穴は2つ。

側面の壁にはここと同じ様な見張り台が複数。

街の灯りは80程度。

 

もし逃げるなら。

どう逃げられるでしょうか。

 

走り抜けるには広すぎますね。

きっと途中で見つかってしまいます。

 

 

 

「エッチャン!はやく!

時間が立てば立つほど忘れてっちゃうんだから!

はやくいっぱい記憶を作らなきゃ!」

 

「はい。アンナ様」

 

 

 

逃げる逃げないにしても。

逃げられるかどうかは重要だと思い。

街を見ましたが。

無理そうですね。

 

一人ならまだしも。

二人ならすぐ捕まってしまいそうです。

 

はーやーくー!と急かすアンナ様。

アンナ様の元へ行きます。

お待たせしてしまいました。

 

 

 

「エッチャン!いくわよ!

ここ来るのは大変だけど帰りは楽よ!

楽しいわよ!

 

2個目ともいっていいわ!」

 

「え?」

 

 

 

いくわよ!と声がして。

穴へと引きずり込まれます。

え。怪力過ぎませんか。

 

キャー!と。

登った道を滑り落ちるアンナ様と私。

ああ。ツルツルでしたね道。

登り辛かったですねこの道。

 

滑落。登った道を歓喜の声と共に。

 

背中で地面を感じながら。

首を痛めるのは少し先の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

色々な場所へ行きました。

 

地下街道の水路を辿り。

水面を跳ねるアンナ様。

 

枯れた噴水の前で。

様々なポーズをとるアンナ様。

 

廃屋を探索して。

鼠に驚くアンナ様。

 

ちょっとした広場だったり。

時鐘の塔だったり。

荒れた畑。

大きな滑車。

捻れた鉄路。

文字の擦れた小さな石碑たち。

 

 

 

「ふぅ!いっぱい回ったわね!」

 

「はい。アンナ様。

ありがとうございます」

 

「ふふふっ!これで暫くは安心よ!

忘れちゃったらまた連れてきてあげるわ!」

 

 

 

沢山歩きました。

沢山見て回りました。

沢山のアンナ様の表情を見ました。

 

沢山の記憶が私にあります。

 

 

 

「疲れたでしょう?今日はもう戻って休みましょう!」

 

「はい。アンナ様」

 

 

 

記憶をつくり終え。

体を休めるためカイト様の家へ。

アンナ様は私を先導してくれます。

 

考えます。

 

私はこれからどうすればいいのでしょう。

なにをすればいいのでしょう。

 

記憶がないと。

ふとした疑問に。

答えがでません

答えられません。

 

自問。自答。

自問。自問。自問。

 

出ない答えを考えながら。

 

アンナ様の後をついていきます。

 

 

 

「はー、ついた~。

2階で寝てるから、何かあったら私を呼んでね~」

 

 

 

カイト様の家に着き。

答えがでました。

 

視界に写ったその人。

黒髪のその人。

 

そうだ。

わたしの。

わたしの記憶。

 

 

 

「…ユーシャ様」

 

 

 

これだけ。

一個だけ。

それだけは覚えていたのです。

大切なのを覚えていたのです。

 

 

 

大切なこの人が誰なのか。

 

わたしには思い出せません。

 

記憶を取り戻さなければいけませんね。

 

この人が起きたときびっくりしてしまわないように。

 

 

 

横になり。目を瞑ります。

疲れていたのか。

数秒と持たず意識を手離しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閃光を見た

 

 

 

轟音と光

 

彼方空にあいた穴から光が射した

 

落ちてきたモノを見る

 

見覚えのある閃光は

 

わかっていたことだ

 

わかっていたことだった

 

 

 

 

 

最悪の答え合わせ

 

呪いであれば良かったのか

 

魔法であれば良かったのか

 

 

 

 

 

落ちてきたモノを見る

 

男は俺を見ていた

 

 

 

 

 

「えっちゃんを頼みます」

 

 

 

 

 

おちる雪にのまれた

 

ふたりを俺は見ていた

 

 

 




ユーシャ  黒髪 白っぽい肌
      まだまだスヤってる
      
エッチャン ユシャ・ノエール?
      エッチャン?
      暴言村へようこそ!
      カルチャーショックをうけた

カイト   焦げ茶の髪 瑠璃色の瞳
      粗っぽい口調
      お出掛け中 なにしてる?

姉ちゃん  黒髪ツインテール 泣き虫
      華奢な体にあわず力がある
      エッチャンと夜の地下街道を
      遊びまくった 疲れて寝てる
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