勇者が病んだ!   作:氷華枦

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癒者は考える。

 

 

 

 

ずびずびとすすり泣く音が聞こえなくなるまで。

わたしはずっと考えていました。

カイト様が出ていく前。

わたしに言った言葉です。

 

 

 

 テメェのことはテメェで思い出せ

 

 エッチャンにはやってもらわなきゃならねぇことがある

 

 

 

やってもらわなきゃならないこと。

それはやってほしいことなのでしょうか。

やらなければならないことなのでしょうか。

 

記憶のあるわたしには出来ること。

記憶のあるわたしに出来ないこと。

 

記憶のないわたしには出来ること。

記憶のないわたしに出来ないこと。

 

思考します。

 

 

 

 お前のこと 俺は知らねぇ

 

 名前を知ってたのはたまたまだ

 

 

 

名前を偶然知ったとはどういった意味でしょう。

偶然とは。意図せず?意に削ぐわず?予想と外れた?

 

むむ。

思考が散らかります。

 

こうじゃありません。

ここじゃありません。

始めに考えるべきはここではありません。

 

頭を冷やして考えるのですエッチャン。

 

そう。

 

例えば。

 

 

 

例えば名前を知るきっかけは?

 

 

 

自分で名乗ることです。

アンナ様。

アンナ様はわたしに自己紹介をして教えてくれました。

 

教えてもらうことです。

イヴ様。

イヴ様の名前は自己紹介で教えてもらいましたが。

わたしの名前とユーシャ様。

これは教えてもらったのでした。

 

盗み聞くことです。

カイト様。

アンナ様がカイト様と呼んでいたから。

わたしはカイト様の名前を知りました。

 

 

 

まずはここから考えましょう。

 

カイト様はどうやって。

わたしの名前を知ったのか。

 

ここから考えるのです。

 

 

 

 

 

パターン1。名乗る。

 

記憶のあった時のわたしはカイト様に出会い。

そして名前を告げます。

 

いまのところ出会った理由はわかりません。

わたしが名前を告げる理由もわかりません。

 

ですがそこでカイト様はわたしの名前を知り。

わたしにして欲しいことが出来るのです。

 

 

 

わたしが名乗るのはどんな場合でしょうか。

前の私は聞かれれば素直に答えるのでしょうか。

 

カイト様にわたしの名前を告げた時。

 

カイト様はわたしの名前を聞いて。

わたしの名前を聞いて。

 

ノエールではなくエッチャンであると。

そう教えてくださいました。

 

つまり前のわたしの口調や仕草は覚えていないということ?

 

こじつけでしょうか。

でも。それでもいい。

もっと考えましょう。

 

 

 

 

 

パターン2。教えてもらう。

 

カイト様はわたしの名前を知る人物に出会い。

わたしの名前を教えてもらいます。

 

わたしの名前を知る人物。

それはどんな人でしょう。

わたしを知っている人。

 

…イヴ様?

 

ですがイヴ様とカイト様は敵対しているように感じました。

カイト様はイヴ様を化物と呼んでいましたし。

そんなカイト様がイヴ様からわたしの名前を教えてもらうことなど。

想像できません。

 

 

あれ?

 

ちょっと待ってください。

思い出すのです。

 

地下街の過激な発言は。

そう不思議なものではないはずです。

 

記憶のため罵り合う。

アンナ様と地下街の皆様のやり取り。

あれはカイト様とイヴ様にも当てはまるのではないのでしょうか?

 

化物と言っても本心では仲良しとかあるかもしれません。

 

カイト様はイヴ様にわたしの名前を教えてもらった。

その可能性はあるのかもしれません。

思考します。

 

 

 

 

あ。だめです。

 

イヴ様はわたしの名前をノエールと教えてくれました。

カイト様はそれを聞いてエッチャンだと訂正しました。

 

カイト様がイヴ様から教えてもらったのなら。

訂正なんかしないです。出来ないです。

 

無理やりに考えるのであれば。

イヴ様はわたしにユシャ・ノエールと教えて。

カイト様にはエッチャンだと教えることになります。

わたしにエッチャンと教えない理由がわかりません。

不自然に感じます。

 

そもそもカイト様は イヴ様の言うことを信用するな と。

そうわたしに言っていたのでした。

 

あぁ。少し残念です。

これだとイヴ様とカイト様が実は仲良しとかもなさそうですね。

 

 

 

イヴ様でないとなれば。

人ではない。

物とかはどうでしょう。

 

わたしの名前を記した何かをカイト様は見つけ。

わたしの名前を知り。

わたしにして欲しいことが出来るのです。

 

こうなるとエッチャンと言う名前には。

なにか大きな意味があることになるでしょう。

名前を見て。覚えて。してほしいことができる。

 

わたしの名前が有名で。

なにか芸があったとか?知恵があったとか?

 

思考します。

 

 

 

 

 

パターン3。盗み聞く。

 

記憶のあったわたしは誰かに名前を呼ばれ。

カイト様はそれを聞きわたしの名前を知る。

 

名前を呼ばれるとなると相手が必要です。

カイト様よりも前にあった人物は記憶の限りだとイヴ様だけ。

ですがそれはエッチャンという名前ではないでしょう。

ほかに考えられるのは。

 

 

…ユーシャ様?

 

 

もし記憶のあるわたしが。

ユーシャ様と会話をしていたのならば。

それをカイト様が聞いていたのならば。

わたしの名前を知ることができます。

 

わたしにして欲しいことも。

その会話の中で見つけ出したと。

そうも考えられます。

 

 

 

眠り続けているユーシャ様が。

もしも起きていたのなら。

 

わたしの名前を教えることもできるのでは?

 

 

 

思考します。

 

思考します。

 

思考。

 

 

 

「エッチャンごめんなさい…お洋服よごしちゃったわ」

 

 

 

停止。

 

 

 

「アンナ様。気にしないでください。慣れています。」

 

 

 

とめどなく流れていた涙は止まり。

アンナ様は抱擁を緩めわたしから離れます。

落ち着いたようですね。

よかったです。

 

 

 

「力いっぱい抱きついちゃったわ!

エッチャン抱き心地がいいから!」

 

 

 

アンナ様が離れて四肢に熱が戻ります。

アンナ様の力が強かったのか。

血がとまっていたようです。

からだが痺れて動けません。

 

頭が妙に冴えたように感じたり寒気がしたのは。

これが原因だったようです。

 

 

 

 

「バカイトのヤツ!

少しでいいからお姉ちゃんの言うこと聞いて欲しいわ!」

 

 

 

もう!と床を踏み鳴らすアンナ様。

元気みたいです。よく知るアンナ様です。

 

 

 

「帰ってきたら寝床に縛り付けてやるんだから!

エッチャンもやる!?」

 

「いえ遠慮します」

 

「あらそう?」

 

「…わたしではお力になれないと思いますので」

 

「それもそうね!エッチャン弱そうだものね!」

 

 

 

縄の準備は万端なのよ!と。

針金のようなものを見せてくれるアンナ様。

針金はよくしなり。よくのび。

そして切れ味が良さそうです。

 

 

 

「これはダストコイルって言ってね!

昨日地下街をまわったでしょう?

あの時の廃屋で前に拾って~」

 

 

 

嬉しそうに針金の話をするアンナ様。

アンナ様。それで縛るのですか。

カイト様。怪我しませんか。

血だらけにならないでしょうか。

 

 

 

「スノウコイルってやつもあってね!…って!

 

あ!こんなことしてる場合じゃなかったわ!」

 

 

 

 

アンナ様は話を切り上げ。

わたしを見て言います。

 

 

 

 

「エッチャンずぶ濡れのままだったわ!

 

はやく服着替えないと!顔色が悪いわ!」

 

 

 

 

ああ。そうでした。

アンナ様の涙で服が濡れていたのでした。

だから身体が寒いのでした。

 

 

 

 

「それに食事!

 

怪我をしてるのに連れ回してそのままだったの忘れてたわ!

 

はやくからだを暖めて!ご飯食べて!

 

エッチャンの服あったかしら!?」

 

 

 

アンナ様は食べ物~!服~!と歩き回ります。

 

 

 

「アンナ様。

 

カイト様がわたしの荷物を持ってきてくれたので「え!ほんと!?」

 

「え、えぇ。

 

ですので着替えも食料も当分は心配いらないかと」

 

「そ、そう!よかったわ!」

 

 

 

焦ったわ!と暖炉に薪をくべるアンナ様。

昨日。地下街をまわった時。

工場のような建物は多く見かけましたが。

食料庫のようなものはみなかったですね。

食糧不足なのでしょうか。

 

 

 

「ほらエッチャン!はやく着替えて!

 

あ!アタシいない方がいいわよね!2階にいるから!」

 

 

 

はやくね!とアンナ様は2階へいきます。

アンナ様に言われた通り着替えないと。

涙で冷えきった服を脱ぎます。

 

厚着をしていたわけではないですが。

3枚は着込んでいるというのにここまで濡れるとは。

人の涙とは不思議です。

 

 

 

薄い外套を脱ぎ。

表着と下着を床に置きます。

 

カイト様が持ってきてくれた荷物を漁り。

目的の衣類を手に取り着替えました。

 

冷えきった服は肌に当たると徐々に暖かくなり。

ぬくもりを感じます。

 

 

 

脱いだ服はどうしましょう。

そう考えて。

 

思い出しました。

 

この荷物のなかに。

わたしの名前を記したものがあるかもしれません。

 

確認は2回目ですが。

見逃しがあるかもしれません。

 

もう一度です。

確認しましょう。

 

 

 

薬瓶。薬草。携帯食。水袋。包帯。

文字のようなものはありません。

 

続いて煙筒と銀のバレッタ。

記号。紋様のようなものはありますが文字ではないですね。

バレッタには何かが刻まれていますね。

ですが古い傷のようです。解読できません。

 

最後にさきほど脱いだ服たち。

念のためです。確認します。

 

外套に文字。

なし。

表着に文字。

なし。

下着に文字。

なし。

 

あ。

あります。

ありました。

下着に。名前が。

 

下着に…?! 名前がッ?!?

 

 

 

「エッチャン着替え終わ…てえぇえ!!?

エッチャン!!?なんで下着をそんな一生懸命見つめてるの!!?

えっ抱き締めるの!!?この状況で!?エッチャン!!?」

 

 

 

 





エッチャン ユシャ・ノエール?
      エッチャン?
      名前をみつけて
      下着を抱き締めてる人

アンナ   黒髪ツインテール 泣き虫
      華奢な体にあわず力がある
      号泣してエッチャンを
      ずぶ濡れにした人
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