「わたし、この景色が好きよ」
街を見下ろして彼女は言った。
街には夕焼けの赤い光が射し込んでいた。
ゆっくりと落ちる白い光は幻想的で。
「雪は好き。白くて。ふわふわしてて」
彼女は狭い足場を器用に舞い踊る。
微笑みは聖母の如く。
その笑顔を見ていると勘違いしそうになる。
この雪が本物だと。
嘘を信じそうになる。
「あなたはどう?」
俺は知っている。
俺はこの国の生まれじゃないから。
だから、知っている。
これは雪なんかじゃないって。
これはただのゴミだ。
「雪は好き?」
それでも。
笑顔をそのままにしておきたくて。
何も知らないままでいて欲しくて。
「俺も好きだよ」
また嘘をついた。
兵隊は嘘をついた。
まだ兵士だった頃の兵隊は。
そうやって嘘を吐き続けた。
死ぬまでずっと。
嘘だらけだった。
「何度目かしら?貴方と会うのは」
暗闇の中、イヴは立ち塞がる男にそう言った。
「黙れ化物」
男は、カイトはそう言ってイヴを睨んだ。
化物、その言葉にイヴは眉間に皺を寄せた。
しかし落ち着けと腕を擦った。
「何度も何度も懲りないのね?」
「この先には行かせねぇ」
カイトは銃の剣先をイヴに向けた。
殺気を向けられている。
その事実にイヴはまた眉間に皺を作った。
「無駄だって分かってるでしょう?」
「そっくりそのまま返してやる。
無駄だ。この先には、行かせねぇ」
「ワタシに勝てると思ってるの?」
そう言ったイヴの両腕は変形する。
禍々しく。
恐々しく。
まさに化物の名に相応しい竜の腕に変貌した。
イヴは挑発するように1歩、また1歩とカイトに近づいた。
足を踏み鳴らし。挑発する。
笑みを張り付け。やってみろと煽り立てる。
しかしカイトは引き金に指をかけたまま動かない。
後数歩というところで立ち止まった。
暫しの静寂が訪れ、暗闇はより一層2人を包んだ。
「はぁ…
ノエールを連れていったのも貴方ね?
おもしろくない人」
「…お前の好きにはさせない」
「貴方ってほんと初めから、ワタシの邪魔ばかりするわ。つまらない」
「いい加減、諦めろ」
諦めろと言われイヴは悲しげに言った。
「最期だって分かるでしょう?
もう時間がないのよ。
ワタシにも。貴方達にも。」
カイトはその言葉の意味を考えた。
己の知る情報と擦り合わせ。
そして。
思考を捨てた。
己のすることは考えることじゃない。
思考することじゃない。
ただ怒りのままに。
「関係ねェ…オレは化物のテメェを止める。
それだけのためにここにいる」
「…そんな…悲しいわ」
怒りの目を見てイヴは悲しんだ。
悲しくて哀れんだ。
可哀想で。
可愛そうなカイトを哀れんだ。
「悲しいわ…つまらない。
また引き金を引かないのね。
だからそうなるのよ」
イヴがそう言うと。
閃光がカイトを貫いた。
カイトは崩れ落ち。
雪のように。容易く。
いつかの雪像のように砕け散った。
「暗闇にいれば…ワタシに近づけば…
こうなることぐらい知っているでしょう…?」
イヴの問いかけに、雪は答えない。
答えなどくれない。
「…いつまでも人形遊びはしてられないのよ」
イヴはその場を後にした。
砕けた雪は閃光の名残を持ち。
明滅は怒りの形をしていた。
「わたしは勇者様のお供をしているえっちゃんです…!」
「う、うん。何回も聞いたわエッチャン。
思い出せたの凄いわ!良かったわ!
でも嬉しいからってそう何度も言われると、、
なんだか頭が痛くなってくるわ…!」
「…む。アンナ様。
まだなんかしっくり来ないのです。
後何パターンか練習させて下さい。」
「んにぃいい」
折角勇者様のことを思い出せたのです。
最期まで綺麗に名乗りたいものです。
ですが何度やってもなんだかしっくり来ません。
「エッチャン、きゅ、休憩をしましょう!?
同じ言葉ばかりを聞きすぎて頭の中で文字が踊ってるの!
アタシの脳が焼ききれちゃうわ!?」
次の名乗りを試そうと口を動かす前に。
アンナ様から休憩!と距離を取られてしまいました。
夢中になってご迷惑をお掛けしてしまったようです。
「ア、アンナ様。すみません。
嬉しくて夢中になってしまって。
ご迷惑をおかけしてしまいました。」
「い、いいのよ!?そんな顔しないで!?
記憶が戻ったら誰しも嬉しすぎておかしなことしちゃうもんだから!
…このパターンは始めてだけど」
申し訳がありません。
自分の名前を見た時からなんだか暴走がとまりません。
ですが止められません。
止めようとも思えずにいます。
なんでしょう。
空っぽだったのに急に燃料を入れられたような。
ムズムズするような。
そんな感覚がずっとあります。
「休憩、休憩したらまた付き合うから…
それまでちょっと待ってね…?」
「アンナ様…!
ありがとうございます。」
「あはは…?
名乗りもいいけど、ユーシャ様って詳しく思い出せたの?
勇者様ってどんな人…?んー恋人?」
「いえ。勇者様は」
勇者様は…
勇者様は?
「勇者は強いのです」
「ほぉ、強い?」
「そして勇者はよく笑います」
「わ、笑う…? う、うん」
「勇者はたまにおかしな行動をします。」
「します!?」
「ですがそれも世のため人のため。
優しく見守って。
見極めて叱るのです。」
「…エッチャンって、その勇者のせいでおかしなことしちゃうのかな?」
「…?なにか?」
「ん!ン!なんでもないわ!他には!?」
ほか。
ほかには…
「勇者様はハッピーエンドが好き。」
「ハッピーエンド…?
ハッピーエンドってなによ」
「皆が幸せになれる、こと…?」
「そ、れは…」
確か?
そうだったはずです。
だめですね。ちゃんとは思い出せないです。
「難しいことが好きなのね…ユーシャ様って」
そう優しく。
少し悲しそうに笑うアンナ様。
「ユーシャ様のこと!
アタシちょっと好きかも!」
え!?
「ユーシャ様!はやく起きるといいわね!」
「は、はい。そうですね。アンナ様。」
アンナ様。勇者様。
好き。好き…!?
え。あ。あ。
どうしましょう。
どうしましょう。
アンナ様が勇者様を好き。
ちょっと好き…??!
ちょっとてどのくらい…?
ちょっと嫌いがどのくらい?
嫌いの反対が好きだからアンナ様は勇者様が好き。
好き…!?
アンナ様の言葉に。
暫く混乱していました。
すると喧騒のようなものが聞こえてきます。
この地下街では珍しいものではない筈ですが。
耳はその音を聞き取り。
無意識に顔を向けようとした時。
「…! まさかッ!!?
エッチャンごめん!アタシ行かなきゃ!!!」
「アンナ様?」
「ここは安全だと思うから!
危なくなったら暖炉の下へ!
隠れ穴があるから!
家から出ちゃだめだからね!!?」
そう言ってアンナ様は部屋を飛び出していってしまいました。
やはり何かあったのでしょうか。
この喧騒の声は。
異常ということでしょうか?
耳を傾け。
意識を集中させます。
その音を拾った時。
わたしは異常の正体を知りました。
襲撃です。
えっちゃん ユシャ・ノエールでも
エッチャンでもねぇ!
我が名はえっちゃん!
アンナが勇者を好きといって
めちゃ動揺してた人
イヴ 黒髪黒目白い肌 絶世の美女
こめかみの部分白髪が特徴的
両腕は竜に変形できるらしい
時間がない人
カイト 焦げ茶の髪 瑠璃色の瞳
粗っぽい口調
銃剣1丁で挑み砕け散った
怒りの焔は明滅し続ける
アンナ 黒髪ツインテール 泣き虫
華奢な体にあわず力がある
えっちゃんと勇者の2文字が
ゲシュタルト崩壊した人
地下街の危機に馳せ参ず!
兵隊 生涯を嘘で埋めた男