勇者が病んだ!   作:氷華枦

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雪と少女

 

 

 

灯った暖炉に水をかけ鎮火し。

 

勇者様を暖炉の下の隠れ穴に押し入れました。

 

 

 

急いで荷物を背負い部屋を出ようとして。

 

割れた暖炉を見やり逡巡。

 

仕方ありません。

 

仕方ありません。

 

腹をくくるのです。

 

 

 

…わたしは勇者様のお供えっちゃん!

 

 

 

覚悟を決めました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年が雪道は走って兵隊に殴りかかる。

 

 

 

兵隊はそれを軽く避けて。

 

少年の首根っこをつかみ雪貯まりに放り投げる。

 

 

 

放り込まれた少年は雪にすっぽりと埋まって。

 

ようやく顔を出したと思ったら。

 

兵隊に雪玉を投げつけられた。

 

 

 

兵隊と少年は雪玉を投げ合って。

 

なんだかとても楽しげに見えた。

 

 

 

あんな風になれたらなって。

 

あんな風になれればなって。

 

私もあんな風にって。

 

 

 

ずっと窓の外を見ていた。

 

 

 

 

 

「巫女様。お身体に触りますので、暖炉のそばへ」

 

「わかっています。少しくらい、良いじゃない」

 

 

 

召使いに咎められ、少女は渋々と窓から離れる。

 

召使いはそんな少女を見て優しく告げる。

 

 

 

 

「貴女に何かあればお父様が悲しみますよ」

 

「お父様はすでに悲しんでおられるわ。

 

出来の悪い娘だと」

 

「巫女様…!」

 

 

 

召使いは否定しようと。

 

言葉を続けようとして、主人との誓いを思い出す。

 

主人の残酷な願いを思い出す。

 

 巫女の世話は任せる。だが関わるな。

 

 あれはただ居るだけでいい。

 

思い出して。

 

何も言えなかった。

 

 

 

 

「巫女なんて呼ばないで、名前で呼んでよ」

 

「…申し訳ございません。規則ですので」

 

 

 

召使いは歯痒く思いながらも。

 

決められた言葉を少女に告げる。

 

告げられた少女は諦めた目をしていた。

 

 

 

「…いいわ。もう下がって」

 

「用があればお声を、控えておりますので…」

 

 

 

召使いはそう言って部屋から出ていく。

 

 

 

召使いのあの人も。

 

お父様も。

 

誰も名前で呼んでくれない。

 

お母様に頂いた名前を呼んではくれない。

 

 

 

暖炉に身を寄せても。

 

無駄だと知ってしまった。

 

分かってしまった。

 

 

 

それでも窓の外を見てしまった。

 

あの2人に暖かなものを見て。

 

少女はより一層思う。

 

 

 

ここは寒いわ。寒い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さむーい!!!寒い寒い寒いですぅうぅう!!!」

 

「マキア!!薬を飲めっていってるだろ!!!」

 

「カルテさんのバカ!

バカバカバカ!嫌ですぅ!!拒否しますぅ!!

あんなくっそ不味い薬なんて飲めません!

粗悪品ですよ粗悪品!!!

味!効果!量!価格!!!

すべてぼったくりですぅう!!!

あんな店潰れてしまえ!!!ぅさむっ!!」

 

「こらぁあ!マキア!!!

シターにはあそこしか薬屋がないんだ!!!

あの薬屋が潰れたらシターが患者で溢れるだろ!!!」

 

「絶対なんか裏ありますゥ!!!

あの大きさの国で薬屋が1つしかないなんて怪しさぷんぷんぷんプンぅ!!!ゥさヴム!!」

 

「マキアさん魔法かければ良いじゃないッスか。

語尾がおかしなことになってますって。

何意地はってんスか…」

 

「ゾルさんに寒さでどうこう言われたくありませんね!!!

その頬についた氷柱見苦しいですよ!!!

見てるこっちがさむさむさむさむさむ!!!」

 

「このアマァッ!!!これは勇者様たちがはぐれてッ…!!!どうしようもねぇだろうがよぉ…ずびっ…エール、勇者様ッ!!

うあ~~ん!!!」

 

「あー。ゾルまた始まっちゃったか」

 

「マキア…折角治まってたとゆうのに」

 

「んな!こんな脆弱性でどうしろと!!!」

 

「…そっとしろ」

 

「んあ"~!目がぁあ"あ"~!!!」

 

 

 

涙で目が開かなくなったゾルは完全に前が見えなくなった。

ダンはそっとゾルの手を引いてあげた。

ゾルはダンに心から感謝し、泣いた。

泣くな馬鹿。とダンは思った。

 

ゾルのダンへの好感度はアップした。

ゾルのダンへの涙腺は脆くなった。

ダンのゾルへの信頼度はダウンした。

 

 

 

マキアとカルテは言い合いをしながらも、しっかり頂上へと進む。

 

ダンはそろそろ止めるか…?と考えたが。

言い合いを止めたところで数分もすればまた言い合いになる。

 

ダンは何も言わずゾルの手をそっと引き、そっとついていくことに決めた。

体力の使いどころはここではないのだから。

 

そんなこんなで山頂についた頃。

マキアは怪訝そうな顔をしていた。

 

 

「んー?」

 

「どうだマキア!

勇者たちは見つけたか!!?」

 

「ん~~??」

 

「~どっちだ!見つけたか!?見つけたのか!?無事か!!?」

 

「~ッ!!!

ちょっとカルテさん近いですうるさいです!

集中できません!あっちいってて下さい!」

 

 

 

カルテをシッシと手で追い払い。

マキアはもう一度山を注意深く観察した。

 

(まさか、ここまで瘴気がとどまり続けているなんて…)

 

マキアはヴィンテルの簡単な歴史は知っていた。

だからこそ不思議に思う。

 

(たとえあの話が本当だとしても、この禍々しい魔力…)

 

マキアは結論を出し。

注視を止め、カルテ達の元へ向かう。

 

 

 

「マキア!聞いても良いのか!?聞いて良いんだな!?」

 

「あーもう!うるさいですねぇ!

話は歩きながら!!!引き返しますよ!!!」

 

「な、なんでだマキアぁあ!!?」

 

「またですよ!!!また厄介事ですよ!!!」

 

「まさか…マキアよ」

 

「えぇ!!また勇者様が厄介事に首を突っ込んだんです!!!もしくは巻き込まれたんですよ!!!ホント厄介ですよねぇ!!!」

 

 

 

こういった時。

行動は早ければ早いほど良い。

経験が警鐘をガンガンと鳴らしまくって頭がいたい。

マキアは少し迷ったが、編み出したばかりのその魔術を使うことにした。

 

 

 

「時間が惜しいです!一気に戻りますよ!」

 

「走るのか!」

 

「いえ、ちがいます。」

 

「わ、急にとまるなバカ!?イテ

ッ…!」

 

「あら、カルテさん。

まさか忘れてしまったとはいいませんよね?

折角編んだんです。テストもなにもしてないですが大丈夫。私、天才ですから…!」

 

「な、なんか!こわいぞ!!!」

 

「…あ"ッ!ダンさん逃げて!俺連れて逃げて!」

 

「もう無駄だろう…」

 

「簡単に飛行魔術を所望したこと、後悔させてやります…うふふふふ」

 

「え!まさか!!!もう出来たのか!!!」

 

『我が背には朽ちた翼。

愚かな私に女神の慈悲を!』

 

 

 

編み出したばかりの飛行魔術。

浮遊の未知の感覚にマキアとゾルは悲鳴を上げる。

だがマキアは詠唱を続ける。

 

 

 

「ほらこっちですよ!しっかり捕まっててくださいね!!!超限定的!」

 

『ふぁ!い!やぁあ!』

 

「「うあああぁああぁあああ!!!!!」」

 

 

 

爆風が背を押し、4人は道を引き返させられる。

カルテとゾルの悲鳴を聞きながらマキアは考えた。

 

 

 

(歴史が本当なら。

本当に一匹の竜に、竜の死体に…国が出来たというの?)

 

 

 

マキアは知っている歴史を。

寝物語のような無根滑稽な話を思い出していた。

 

冬の国ヴィンテルは雪が降らない。

その国は倒れた竜の双翼の間にあるから。

 

竜の大きな肢体は山脈を覆い。

2つの大きな翼は凍える大地と、凍てつく空から国を守る。

 

竜に住み着き竜を資源として生活する。

そんなあり得ない、嘘のような話。

 

だがマキアは見てしまった。

だから認識を改めた。

 

 

 

(竜の死体は時間と共に大地へと。

 

ただ魔力が高まった土地に変貌する筈。

 

でもまだ…まだ生きてるなんて)

 

 

 

滅んだ筈の国。

未だ死んでいない竜。

澱みとどまり続けている竜の瘴気。

見つけた禍々しい魔力。

 

 

 

(奴等が関わってる)

 

(上手く誤魔化したつもりですか?

私は誤魔化されてあげません。

絶対に阻止してみせます…魔王軍!!!)

 

 

 

山を滑る様に降りる。

はやく。はやくと。

見つけられなかった2人を想って。

 

 

 

(エール!癒者のエール!

勇者様を頼みますよ…!)

 

 

 

聖女は少女に望む。

頼もしい少女に。

あの可愛らしいお供に。

 

 

 

(魔王はきっと…竜を狙っている…!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンナが駆けつけたとき。

もう遅かった。

手遅れだった。

 

火蓋は切られ。

見慣れた地下街は怨嗟の炎に焼かれていた。

 

怒号に愛はなく。

泣き叫ぶ声に応じてやる者はいない。

 

 

 

「ば、化け物…!!!」

 

「ひ、ひぃ!!本当に化け物だ!!!」

 

「うぁあああ!!!殺せぇええ!!!」

 

 

 

また1人。

また1人と殺され続ける。

 

アンナは襲撃者の前に立ち塞り己を鼓舞する。

 

 

 

もう壊させない。

 

もう殺させない。

 

もう大事なものを失くしたくはない。

 

 

 

「アタシの家族にッ!手を出すなッ!!!!」

 

 

 

ナイフを片手に吠える。

 

震える手を押さえつけ刃を向ける。

 

 

 

アンナの姿を見て。

 

襲撃者は醜く笑う。

 

 

 

 




えっちゃん ユシャ・ノエールでも
      エッチャンでもねぇ!
      我が名はえっちゃん!
      急ぎすぎて暖炉に
      水をぶっかけた人
      何か覚悟をきめたらしい

アンナ   黒髪ツインテール 泣き虫
      華奢な体にあわず力がある
      ナイフ1本で襲撃者に
      立ち塞がった

巫女    あんな風になれたら
      あんな風にできたら
      この寒さは消えるのか

傭兵ゾル  頼れるクール兄貴だった人
      面影はもうない
      勇者と癒者が心配すぎて
      涙が止まらない

弓兵カルテ 勇者パーティーのリーダー
      始めての空を飛んだ
      聖女に首根っこ捕まれて
      首がいたたた

戦士ダン  寡黙な筋肉ムキムッキマン
      泣いた傭兵を介抱することに
      慣れてきた

聖女マキア あまり聖女しない聖女
      いざというときのために
      魔力を温存していた
      予想はあたった
      みんなを連れて帰路爆走中
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