勇者が病んだ!   作:氷華枦

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雪人形

 

 

 

部屋を飛び出し。

アンナ様を追いかけます。

 

なにかが爆ぜる音。

怒号に悲鳴。

音の中心には炎が伸び。

地下街は赤く。赤く。

 

走って。走って。走りきって。

漸く辿り着いたウェンテルの大穴。

広間のそこには。

そこにあったのは。

 

 

 

「一体、なにを…ッ!

なにをしているのですか…ッ!!!」

 

 

 

己の目を疑います。

目の前の光景を。現実を。

 

 

 

「女の子…ッ!?」

 

 

 

わたしを見つけた青年は。

必死にそう言って。

駆け寄って。

 

 

 

「良かった!無事だね!

ほら!はやくこっちへ!」

 

 

 

手を伸ばす。

 

わたしだけに。

手を伸ばす。

 

何故。何故。

なんで。どうして。

 

 

 

「大丈夫!バケモノは俺達が殺すから!」

 

 

 

その言葉を聞き。

私は指し伸ばされた手を振り払います。

 

だって。だって。

彼がバケモノと呼んだのは。

 

彼等が殺しているのは。

 

 

 

「エッチャン…!なんで…!

どうして来ちゃったのよ…ッ!!」

 

 

 

地下街の住人たちなのですから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

髪の乱れた。

足のないアンナ様。

 

 

 

「エッチャン!!!来ちゃダメ!!!」

 

「死ねェバケモン!!!」

 

 

 

 

アンナ様に剣を振り下ろす。

その人の前に割って入り叫びます。

 

 

 

「止めてください!

彼女は!この人達は人間です!」

 

 

 

剣は寸でのところで逸らされ。

剣に撫でられた頬は血を滴らせます。

 

 

 

「どけ!ガキィ!!!殺されてェのかッ!!!」

 

「お頭ぁ!その娘は!!!」

 

「分かってるッ!!!」

 

 

 

剣を片手に怒鳴る男は私を睨み付け。

そこを退けと。目で訴えます。

 

引きません。

引けません。

 

男はわたし態度を見て痺れを切らし。

 

 

 

「邪魔すんならよォ!終わるまで寝てろやァ!!!」

 

 

 

わたしを気絶させようと。

男は剣を振ります。

 

どうしてわたしを殺そうとしないのか。

どうしてアンナ様たちを殺そうとするのか。

 

直情的なその剣をいなし。

軌道の逸らされた男は僅かに身体が傾きます。

 

 

 

「どうして…ッ!」

 

 

 

傾いた身体に手を添え。押し。

男を転ばせ。武器を奪い。捨て。

背に踏み乗り動けなくしても。

 

それでも。それでもと。

 

殺してやるというその目がわからない。

 

 

 

「どうしてッ!!

わたしが人間だと分かるなら…ッ!!

どうして分からないのです…ッ!!」

 

「ッ!…お頭ぁ!!?」

 

 

 

わたしがお頭と呼ばれるこの男を抑えると。

襲撃者たちはわたし達を囲み始めます。

 

 

 

「お頭を離せ小娘…ッ!!!

ぶち転がされてぇのかッ!!?」

 

「なんで女の子がお頭を…ッ!!?」

 

「何やってんスかお頭ァ!」

 

 

 

全部で17人。

街への攻撃は止んだようです。

ですが炎は広がり続けています。

あまり時間はかけられません。

 

 

 

「要求します!攻撃を止め「お前ら構うなァ!!!殺し尽くせッ!!」

 

「~ッ!お頭ぁ!でもよぉ!」

 

 

 

被せられた言葉に襲撃者たちは戸惑っています。

これでは要求は通らない。

あと数秒もすればこの人達はまた攻撃を始めてしまう。

殺戮を始めてしまう。どうして、どうしてッ!

 

 

 

「どうしてそこまで殺そうとするのですか!?

この人達は人間です!!!

人間同士で殺し合うなんて!!」

 

 

 

わたしの言葉に。

男は笑います。

 

 

 

「はっ!!!人ォ!??人間だってェ!??

目が腐ってンのかァ!?よく見ろガキィ!!!

ソイツ等の死体をッ!血のない死体をよォ!!!」

 

 

 

男の怒号は私を貫きます。

避けていた現実を突きつけます。

 

メラメラと燃える炎が照らすのは。

 

赤く赤く照らすのは。

 

住人の崩れた死体。

 

雪の欠片。

 

いつか見た雪像の。よう。で。

 

 

 

「魔物だ!!!バケモンなんだよ!!!」

 

 

 

涙のように見ていたのは溶けた水。

 

血のように見ていたのは赤く照らされた。

 

雪の死体の溶けた水。

 

 

 

 

 

「エッチャン…どうして…

 

 

 

どうして来ちゃったの…?」

 

 

 

 

 

でも。

 

でも。

 

それでも。

 

たとえ雪であったとしても。

 

 

 

「それでも…!この人達は…ッ!」

 

 

 

言葉を操り。

 

意思を持ち。

 

平和を望むなら。

 

生きることを望むなら。

 

 

 

 

 

「人間です!!!」

 

「~ッ!

これだからガキは嫌いなんだ!!!

なにヤってるテメェら!!!はやく殺ッ「させません!要求は変わりません!!!

殺戮を続けるならこちらも相応の態度を取ります!!!」

 

 

 

 

 

男の言葉を阻止し。

襲撃者たちに脅すように男の頸に触れます。

 

何人かは私に殺意を向け始め。

何人かは戦意が揺らいできています。

 

わたしに向かって攻撃をしてくれれば。

わたしはいなせるでしょう。

躱せる事が出来るでしょう。

 

イヴ様の言葉を思い出します。

 

 忘れても 身体は覚えてるってやつかしら

 

きっとわたしは。

人生の大半を逃げて。

 

逃げて逃げて。

逃げて過ごした。

 

感謝します。前のわたし。

あなたのお陰でわたしは。

 

わたしのすべき事は。

 

 

 

「この人達がなにかをしたというのですか!!?」

 

 

 

無理矢理でもいい。

情に訴えてもいい。

揺らぎを捕らえて。

 

 

 

「この人達はこんなッ!!!一方的に殺されるような!!!なにかをアナタ達にしたのですか!!?」

 

 

 

ヘイトを買え。対象を変えろ。

煩いヤツだと。邪魔なヤツだと。厄介なヤツだと。

 

殺意の的の第一を。己に向けさせろ。

 

 

 

「悪いことをしたというのですか!!?」

 

 

 

揺らぎの1人が口を開く。

わたしに手を差しのべた青年でした。

 

 

 

「依頼があったんだ」

 

「…依頼?」

 

「5年前からこの洞窟は、この洞窟に入った人達は消えるって噂があったんだ。

実際に何人もの人が消えてる。

何人も何人も…居なくなってるんだよッ」

 

「そ、んな…」

 

「俺達が来た道はこの場所までは一本道!

その道にどれ程の数の罠があったと思う!?

全部が全部戦争で使うようなモンばっかりだ!!

ここまで来るのに!4人死んだッ!」

 

 

 

まさか。まさか。そんな。

アンナ様が?住人が?

カイト様が?イヴ様が?

 

だめ。迷うな。わたしが。

揺さぶられてどうする。

 

 

 

「それに依頼の内容は君だッ!

 

愛娘が洞窟の魔物に拐われたから、助けて欲しいって!

危険な魔物を討伐して欲しいってッ!

 

浅い茶髪で青玉の瞳!

年も容姿も服装も!

教えられた通り君なんだよ!」

 

 

 

愛、娘、

わたしを、助ける、ため…?

 

 

 

「依頼と一緒に聞かされた情報にはね、こんなのもあったよ。

 

雪の魔物は記憶を奪い、改竄して、

自分たちに都合の良いエサを作る。

 

きっと娘も洗脳されているから。

力付くで連れ帰ってくれってね。」

 

 

 

記憶は奪われた。

正しくない記憶を教えられた。

 

地下街になかった食料庫。

食料と言い焦るアンナ様。

 

納得。

できてしまうかもしれない。

 

でも分かりました。

理解しました。

 

 

 

「その依頼はおかしいです。」

 

「なに…?」

 

「だってわたし。この服は先ほど。

アナタ達が来る直前に着替えたのです」

 

「そんなの…ッ!」

 

「それにッ!」

 

 

 

それに。

そうです。

違うのです。

間違っているのです。

 

わたしは1人じゃない。

 

 

 

「依頼があったなら。それが、本当なら…

この人も含まれていなければおかしいのです。」

 

 

 

背負っていた荷物を。

袋の閉じ口を開けます。

 

わたしが1人じゃない理由。

1人だとおかしい理由。

 

お頭と呼ばれた男が動けない。

重さの理由。

 

 

 

「その依頼に勇者様がいないのはおかしい…!

 

アナタ達は嘘の依頼を受けたのです!!!」

 

 

 

「コイツ!?こんなん背負ってお頭とッ!!?」

 

「荷袋に男を詰めて…ッ!?」

 

「あ、アタマ狂ってんのかッ!!?」

 

 

 

良かった。

 

水をかけて火を消したせいで。

ヒビのはいった暖炉を見た時。

 

勇者様をそこに隠すのはあからさますぎると。

もしもがあってはいけないと連れてきていて良かった。

 

きっと1人ならアンナ様を。

皆様を信じきれなかった。

 

ああ。勇者様。感謝します。

 

 

 

「エッチャンの頭がまたおかしくなっちゃったぁ…」

 

 

 

感謝を捧げ。勇者様を見ると。

勇者様に光を見ます。

後光でしょうか。

神?ありがたや。

 

 

 

「お、おい。なんかあの男うっすら光ってねぇか…?」

 

「なんだよあれ、どうゆうことだよ…

わけわかんねェよ…」

 

「黒い髪だし、あれも雪の魔物か…?」

 

「で、でもヴィンテルの服装じゃねぇしよぉ…ッ!」

 

 

 

よし!動揺していますね!

流石勇者様です!

 

それに今。聞き逃せない事を聞きました。

わたしはその言葉を発した襲撃者に尋ねます。

 

 

 

「そこの方。いま黒い髪と仰いましたか?」

 

「あ、あぁ。

雪の魔物は、かつてここにあった冬の国…ヴィンテルの亡霊が形取られてる。

だから…最後まであの国にいた黒い髪の大人。

ヴィンテルの服を来た奴等はみんな雪の魔物で違いねぇって…

そう言われてる」

 

「そうですか。

ですがわたしは黒髪でない人も知っています。」

 

「それはおかしい!あの国には黒髪しかいない!!!

いる筈がねぇ!!!」

 

「確信があるのですか?」

 

「ここらじゃ常識だったんだ!!!

あの国が色で差別をするのが!!!

あそこには黒髪の大人しかいない!!!」

 

「ですがその人はこの街の確かな一員でした。」

 

「なに…ッ?」

 

「それにやはりおかしいのです。

何故これまで沢山の人が消えたと。

いなくなったというのに。

そんな詳細な情報があるのか。

あってしまっているのか」

 

「…ッ!!」

 

「おかしいとは思いませんか?

罠だとは思いませんか?」

 

 

 

悟られぬよう。

浅い呼吸を繰り返し。

 

少しずつ。少しずつ。

あと少し。あと少し時間が稼ぎ切れば。

 

そう考えて会話を続けようとして。

 

 

 

「関係ねェ!」

 

 

 

踏み伏していた男に力の限り押し上げられ。

体勢を崩してしまいます。

 

 

 

「関係ねェんだよ…んなことぉよお?」

 

 

 

勇者様を抱え前方に避け。

避けた先のアンナ様を持ち。

襲撃者たちの輪から抜け出ます。

 

ですがやはり。

力が足りなかったのでしょうか。

 

それとも先ほどまで待っていた。

アレのせいでしょうか。

 

着地は失敗してしまいました。

幸いにも御二人の下敷きにはなれたようです。

 

 

 

「…エッチャンッ!

アタシのことは!アタシ達のことはいいからッ!!」

 

「いえ。アンナ様。皆様を殺させません。」

 

「なんで!どうしてッそこまで…!」

 

 

 

理由を聞かれて。

答えはひとつ。

 

信じるは唯一。

 

 

 

「勇者様はハッピーエンドが好き。」

 

「…ッ!」

 

 

 

勇者様はハッピーエンドが好き。

 

わたしじゃ全てを救えなくても。

例え無駄だったとしても。

 

わたしは勇者様のお供だから。

 

 

 

「だからわたしは…ッ!

 

わたしもッそうしたいと!

 

そう在りたいとッ!」

 

 

 

あなたを守る。

 

アンナ様を守る。

 

地下街の皆様を守る。

 

願い。言葉にして。行動する。

 

 

 

剣を構える踏み伏していた襲撃者の男。

殺意の的はやっとわたしに。

 

 

 

 

逃げて。逃げて。

 

逃げてばかりだったであろう。

 

わたしの人生。

 

 

 

立ち向かえる様になったのは。

 

立ち上がれる様になれたのは。

 

 

 

 

 

勇者様。

 

きっとあなたのお陰なのでしょう。

 

 

 




勇者      えっちゃんに袋詰めにされた人
        襲撃者に見せびらかされたうえ
        発光してみせた
        寝ててもサービス精神豊富だね

えっちゃん   前話で覚悟を決めていたのは
        勇者を袋に詰めるか否か
        逃げて逃げて逃げた先で
        癒者にはナニかがあった

雪人形 アンナ 黒髪ツインテール 泣き虫
        華奢な体にあわず力がある
        ナイフ1本じゃ襲撃者に
        さすがに勝てなかった

襲撃者 お頭  口が悪い男 剣を扱う
        仲間には慕われてたり
        嫌われてたり
        襲撃者たちの中で
        一番強くはある

襲撃者 青年  正義感を持った好青年
        バケモノ 魔物の退治に
        躊躇いはなかった人

襲撃者 その他 傭兵 魔法使い 剣士
        色々いるけど
        比較的若い奴はいない
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