問題だらけで草ァ!! -Under the Flag-<2nd Season>   作:白鷺 葵

20 / 46
【諸注意】
 1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
 2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
 3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
 4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
 5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
 9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。

 10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」、『◆』が「特殊な意味合いが含まれている」場面転換、及び視点切り替えになります。
 11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
 12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。

 13.この小説は2023年の10月時点で明らかになっている情報をベースにして執筆しているため、後の公式作品で発表・開示された情報とは矛盾が発生する可能性があります。

上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。



11.虐殺者のエントリーだ!

 

「反政府勢力収監施設がガンダムの襲撃を受けたことは、間違いのない事実です」

 

 

 記者会見を開いた代表代理が、淡々と事実を報告する。

 彼女の話を遮るように、記者たちは手を上げて次々と質問をぶつけた。

 

 

「彼らはソレスタルビーイングなのでしょうか?」

 

「反政府組織がガンダムを独自開発したという噂もあります」

 

「それらは憶測の域を出ていませんが、どちらにせよ、現政権を脅かすテロ行為であることは明白です。政府はテロ組織撲滅のため、直轄の治安維持部隊の派遣を決定しました」

 

 

 女性は淡々と話を続けた。

 

 記者会見は滞りなく行われ、終了する。報道者たちはぞろぞろと会見場から出て行った。絹江が隣に座っているシロエに視線を向ければ、彼も目配せで答えた。マツカもアイコンタクトで了承の意を伝える。

 3人の報道陣たちは、殿役のようにして部屋を出た。そのまま街へ繰り出して、とある喫茶店の前で足を止めた。桃色の花を鈴なりに咲かせた、特徴的な花が風に揺れている。扉にはclauseの文字。それが自分たちにとっての()()()()()()()()だ。

 ナスカの花は、悪の組織及びスターダスト・トラベラーに所属するミュウに関する目印だ。ここが、絹江・シロエ・マツカら3人の拠点であった。政府から公式発表された情報と、組織が掴んだ情報を組み合わせる。

 

 世界を歪ませる者たちが何を企てているのか、この情報から判断するのは難しい。しかし、真実を集めて繋ぎ合わせていけば、きっと真実にたどり着けるはずだ。

 思考回路を巡らせていたとき、絹江の眼前にカフェラテが置かれた。泡にはナスカの花が描かれている。顔を上げると、スオルがお茶目に笑ったところであった。

 

 

「ありがとうございます、スオルさん」

 

「いやいや、サービスだよ。ちょっと待っててくれ」

 

 

 スオルはひらひらと手を振って、カウンターへと戻っていった。シロエは口元を緩ませてチョコレートドリンクを口に運び、マツカが緑茶を飲んでほうと息を吐いた。

 厨房から甘い匂いが漂ってくる。スオルがケーキを焼いてくれているのだろう。それを楽しみにしつつ、絹江はコーヒーを啜った。

 

 

「ソレスタルビーイングの復活を予見し、アロウズの権限拡大を図る……。その集大成が、もう少しで形になろうとしているのね」

 

「でも、“反政府組織を叩き潰す”だけにしては、ちょっと大げさな気がします。もしかしたら、本命は別なところにあるんでしょうか?」

 

 

 マツカが神妙な顔で問いかけてきた。シロエは眉間に皺を寄せ、顎に手を当てた。

 

 

「いずれにしても、ソレスタルビーイングや悪の組織()及び()スターダスト・トラベラー()が頑張らなきゃいけないってことですね」

 

 

 絹江も頷いた。そのことは、絹江だってわかっている。だから、沙慈とルイス夫婦がソレスタルビーイングへ出向し、頑張っているのだ。

 戦いとは無縁だった沙慈とルイスが、この4年間で随分様変わりしたように思う。自分にできることを探し、できることを全力で行っている。

 沙慈はもう絹江に守られる必要もないし、ルイスだって立派な淑女だ。まだまだ子どもだと思っていた2人の成長に、絹江は複雑な気持ちになった。

 

 結婚して夫婦になった2人に対し、絹江は未だに独身である。伴侶? そんなもの、どこにいるの状態だ。

 

 イケメン2人を侍らせていて何を申すかと言われそうだが、シロエとマツカは戦友だ。それ以上の感情は、ないったら、ない。多分。

 絹江をゲイリー・ビアッジの魔の手から救ってくれたときの2人は、本当に格好良かった。防壁を展開するマツカや、思念波でゲイリーの足を止めたシロエとか。

 

 

「いや、そこらへんに積まれていた資材や石を大量に投げつけたり落下させたりした絹江センパイの方が格好よかったと思いますよ」

 

「傭兵の不意を突きましたからね。前や後や横だけならまだしも、上からも振ってきた訳ですし」

 

 

 絹江の思考を《読み取った》ようで、シロエとマツカがのほほんと答えた。居たたまれなくなり、絹江はそっと目を逸らす。ゲイリーの魔の手から逃れる際、絹江は思念増幅師(タイプ・レッド)のミュウとして『目覚め』を迎えたのだ。

 その際、能力を盛大に暴発させ、路地裏にある資材や石を投げつけたり、建物の屋上に置かれていた資材や石、鉄パイプ等を上空から大量に降らせたりしたのである。流石の傭兵でも、四方八方と上空から飛んだり落ちたりした資材や石には対応できなかったらしい。

 

 

「『金盥が奴の脳天に直撃した』ってのは傑作でしたね。古典的なドッキリ番組、あるいはコントみたいで」

 

「『鉄パイプと資材を、対象物の足元目がけてピンポイントで降らせる』ってのも、凄いコントロールがいるんですよ。絹江さん」

 

「……やめましょう、その話。どんどん脱線してきたから」

 

 

 2人からの賛辞に居たたまれなくなった絹江は、情報収集に集中しようとペンを握った。

 

 次の瞬間、絹江の背中に悪寒が走った。ノイズまみれの光景が広がる。鮮血を思わせるような赤いMSに歩み寄る男の後ろ姿が《視えた》。口元には特徴的な無精髭を生やしている。あの傭兵だ。

 ゲイリー・ビアッジ――或いはアリー・アル・サーシェス。偽名をいくつも使い分けており本名は不明。絹江は思わず顔を上げる。シロエとマツカも先程の光景を《視た》ようで、険しい表情を浮かべていた。

 

 

「……一筋縄ではいかないわね」

 

 

 地獄の底から這いあがってきた悪魔の権化に、絹江は頭を抱えたくなった。ゲイリーおよびサーシェスは、4年前から姿を消していたという。そういえば以前、4年前に行われた国連軍とソレスタルビーイングの最終決戦で、ゲイリー・ビアッジというAEUの軍人が参戦していたというデータを見つけた。

 彼はそこで“体の半分を失う重傷を負った”という記載があったものの、行方までは分かず仕舞いだった。五体満足で立っていたのだから、おそらく、彼は再生手術を受けたと思われる。この4年間は、再生手術とそのリハビリのために潜伏していたのかもしれない。

 では、一体誰が、ゲイリー/サーシェスに再生手術の費用を出したのだろう? 体の半分を再生させるとなれば、時間は当然、費用だって莫大な額が必要になる。傭兵稼業で羽振りが良かったとしても、そんじょそこらの小金持ちが出せるような金額ではない。

 

 今回手にした情報から仮定するに、アロウズの背後には、相当な財力を持つ人間が背後にいることは明らかだ。参考までに、アロウズの最大出資者は刃金蒼海である。次点で、(ワン)留美(リューミン)が挙げられた。

 後者はソレスタルビーイングのエージェントである。何故、彼女は敵組織にも援助を行っているのだろう。エージェントとして情報収拾するにしても、留美(リューミン)とアロウズの関係はかなり密接である。

 

 

「何だろう。物凄く、嫌な予感がします」

 

「その予感、間違いじゃないかもしれませんね」

 

 

 マツカが不安そうに目を伏せ、シロエが苦々しい顔をしてホットチョコレートを煽る。

 

 とにかく、確証を得なければ始まらない。しかし、情報は少なかった。

 絹江は情報を見直しながら、深々とため息をついた。

 

 

「ここは、懐に飛び込むしかないかもしれないわね」

 

「懐?」

 

「密着取材よ。アロウズの軍人に、ね」

 

 

 絹江の言葉に、シロエとマツカが顔を上げた。2人は目を瞬かせ、即座に真剣な眼差しになって頷く。

 そうと決まれば、早速下準備だ。手にした人脈と情報を再び広げて、3人は議論を交わし合う。

 何か忘れてしまったような気がしたが、絹江たちにとって、そんなことは些細なことであった。

 

 

 

「……ケーキ、できたんだがなぁ……」

 

 

 スオル・ダグラスがそう小さく呟いたことに気づくのは、外が真っ暗になった後のことだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「あ、ミヤサカさん! お久しぶりです、沙慈ですー!」

 

「沙慈のお嫁さんのルイスですー! お元気でしたかー?」

 

「う、うわああああああああああああああああああ! リア充だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 歓迎ムードのカタロン基地に足を踏み入れて、コンマ数秒後のことである。

 

 沙慈とルイスに声をかけられた男が、2人の姿を視界に入れた瞬間発狂した。彼の悲鳴を皮切りに、一部のカタロン構成員が悲鳴を上げ、ダッシュで逃げ出し始める。

 あまりの展開に、ティエリア、アレルヤ、ロックオン(ライル)が、ぽかんとその光景を静観していた。かくいうクーゴも、この状況についていけていない。

 イデアはのほほんとした顔つきを崩さないでいた。この中でただ1人、何かを察した刹那が天を仰ぐ。こめかみには沢山の青筋が刻まれていた。

 

 

「あっ、待ってくださいよミヤサカさーん!」

 

「なんで逃げるんですかミヤサカさーん!」

 

 

 逃げる男性を追いかけて、クロスロード夫妻は基地内へと駆け出していった。施設の奥から阿鼻叫喚の悲鳴が響き渡る。反響していた複数の声は、やがて遠くなり、聞こえなくなった。

 悲鳴が聞こえなくなってから幾何かの間をおいて、金髪の男がこちらへ姿を現した。彼はしきりに廊下の奥を気にしていたけれど、ソレスタルビーイングを迎えることにしたようだった。

 

 クラウス・グラード。彼が、このカタロン支部を取り纏めるリーダーらしい。彼は簡単な自己紹介を行った。

 

 クラウスの自己紹介が終わった後、彼に先導されるような形で施設内に足を踏み入れる。通路の至るところに、座り込んでガタガタ震えている人々を見かけた。

 奥の方から再び阿鼻叫喚の悲鳴が聞こえてきた。それに混じって、クロスロード夫妻の声が聞こえる。2人はミヤサカという男と追いかけっこをしているらしい。

 時折「リア充怖い」というか細い声が、座り込んでいる人々のあたりから聞こえてきた。異様な空気に痺れを切らしたロックオン(ライル)がクラウスに問いかけた。

 

 

「なあ、何が起こってるんだ?」

 

「彼らはコロニー・プラウドに捕らわれていたんだ。その際、アロウズから酷い尋問を受けたようでね。そのPTSDに、今も苦しんでいる」

 

 

 クラウスが沈痛な面持ちで語った。その横で、刹那が何とも言えない微妙な表情を浮かべている。何か言いたいのだが、どう言えばいいのか分からない――彼女の渋面は、密やかにそう訴えていた。

 

 刹那の表情から何かを察知したスメラギとティエリアが「あっ」と小さく呟き、彼らからそっと視線を逸らした。口は真一文字に結ばれている。

 イデアはニコニコ笑みを浮かべ、何も語らない。クーゴとアレルヤとロックオン(ライル)の3人は、相変わらず状況を理解できないままであった。

 

 そのまま部屋へ通される。扉が閉じる直前、ひときわ大きな悲鳴が響いたが、扉が閉まると同時にかき消された。

 クロスロード夫婦は職場の先輩だった人物――カタロンの構成員を気にかけており、その人物へ言伝を頼もうとしてここへ同行したのだ。

 先程悲鳴を上げて逃げた人物こそ、2人が心配していた相手なのだろう。しかしその人物は、夫婦を目の当たりにした途端に逃げ出した。

 

 あれがPTSDだと言うのなら、引き金はもう少し別なところにありそうな気がする。さしずめ、“リア充恐怖症”か。ここの医療関係者は大変だろう。閑話休題。

 

 

「会談に応じてくださり、ありがとうございます」

 

 

 カタロンの面々が会釈した。スメラギたちも会釈し返す。ソレスタルビーイング側は自己紹介をしなかったが、カタロンの面々は事情をくんでくれたようだ。寛大な心で流しつつ、マリナ・イスマイールの保護を引き受けてくれた。

 彼女はアザディスタン方面の非戦闘地区にいる人物を頼るつもりだったらしいが、どうするのだろう。彼女はカタロン構成員の女性――シーリンと、旧知の中にあるらしい。しかし、顔を合わせない間に、2人の間には何とも言い難い溝ができていたようだ。

 互いの立場に関する言及を続けたマリナとシーリンの間には、微妙な空気が漂っている。戦争や戦いというものを好まないマリナからしてみれば、武力で道を切り拓こうとする選択を選んだシーリンが信じられないのだろう。

 

 

「シーリンさま、マリナさまを苛めないでください。彼女の笑顔は、こんな世の中にこそ必要なんです」

 

 

 背後から声がした。この場にいる全員の視線が、1点に集中する。

 

 そこにいたのは、ローラー付きの椅子に座って大きく足を組んだ女性がいた。黒髪をお団子にまとめ、青い瞳を持つ女性――ベルフトゥーロ・ティアエラ・シュヘンベルク。彼女を視界に捉えたクーゴたちは目を剥いた。

 ベルフトゥーロはプトレマイオスで待機する、留守番組だったはずだ。輸送船やガンダムに忍び込んでいた様子もないし、はやぶさのコックピットにだっていなかった。要約すれば、『彼女はここに居るはずがない』部類になる。

 

 

「ちょっと待て! あんた、どうしてここにいるんだ!? 母艦で留守番してたんじゃなかったのかよ!?」

 

 

 それを頭の中ではじき出し、いち早く動いたのはロックオン(ライル)であった。ベルフトゥーロは煩そうに耳をふさいでそっぽを向く。

 勢いよく椅子がぐるぐる回転した。「お前の意見など聞いちゃいないんだよ」と言いたげに、頬を膨らませる。聞き分けの悪い子どもみたいだ。

 一歩遅れて、アレルヤがロックオンの意見に同調した。どうやってここに来たのかと問われたベルフトゥーロは、回転を止めて、いい笑顔で答える。

 

 

「《飛んで》きた」

 

「はぁ!?」

 

「だから、《飛んで》きたんだってば」

 

「い、意味が分からない……!」

 

 

 ベルフトゥーロの答えに、ロックオンとアレルヤが表情を戦慄かせる。そういえば、この2名はベルフトゥーロのサイオン波が牙を向いた現場を見ていないし、サイオン波に関する能力がどれ程のものかを知らない。いや、後者はソレスタルビーイングの面々にも言えることだった。

 ミュウが“外宇宙からやって来た、異なる人類の辿った異なる進化の果てにいる者”であることは知っているだろう。アロウズの部隊が水中を航行していたプトレマイオスに攻撃を仕掛けてきたことで、会話および情報は中断されてしまっていたが。

 

 『《飛んで》きた』という言葉から、ミュウであるクーゴが連想したのは2つだ。1つはサイオン波を使ってこの場へ転移したこと、もう1つはサイオン波を駆使して文字通り“空を飛んで来た”かである。

 後者だった場合、あの椅子はカタロン施設内のどこからか拝借したということになるだろう。だが、彼女が座っている椅子は、カタロンの施設で使われているものではない。逆に、プトレマイオスでなら見かけたことがあった。

 そうなると、後者ではない。ベルフトゥーロは“あの椅子ごと、この場へ転移してきた”のである。荒ぶる青(タイプ・ブルー)の思念波を駆使し、クーゴたちの思念を辿り、この場所を見つけて《飛んで》きたのだ。

 

 随分とまあ、アグレッシブなグラン・マ(おばあちゃん)である。エルガン代表がこめかみを抑えた理由が分かる気がして、クーゴはそっと目を逸らした。

 

 

「相変わらず、悪の組織の総帥さんは行動力に溢れているのですね」

 

 

 シーリンが苦笑しながら眼鏡のブリッジに手を当てた。シーリンの言葉を聞いたクラウスが、ほんの少しだけ目を見開いた。

 クラウスは何かを考えているかのように、顎へ手を当てる。ベルフトゥーロは目敏くそれに気づいたようで、鋭い視線を向けた。

 

 

「武装面での協力なんてしねぇからな」

 

 

 地の底から轟くような声だった。チンピラのような口調と獣を思わせるような眼差しが、容赦なくクラウスに突き刺さる。

 

 

 ばっさりと言い捨て、ベルフトゥーロは再び椅子を回転させた。クラウスがぎょっとした表情でベルフトゥーロを睨んだが、彼女は「あーあーあー、何も聞こえませーん」と言いながら、椅子を回転させる速度を倍にあげた。

 おそらく、クラウスは悪の組織に協力を取り付けようとしたのだろう。“ガンダムの戦力を当てにしている”ということは“自分たちでは手の届かない技術を有する悪の組織の力”だって欲していてもおかしくない。

 『あわよくば、トップの協力を得て戦力増強を』と考えていたらしいクラウスの表情が歪む。人に対しては誤魔化しが効いても、人の心や感情を機敏に察知するミュウには彼の思考は丸わかりであった。イデアもムッとした顔でクラウスを睨む。

 

 クラウスは取り繕うように咳払いした。カタロンの構成員たちが目を逸らし、シーリンが落胆したようにため息をつく。そのとき、扉が開いた。

 無邪気な顔した子どもたちが、カタロンの構成員に纏わりついた。子どもたちの姿を見た刹那が眉をひそめる。掌が、強く握りしめられた。

 

 

「まさか……カタロンの構成員として、育てているのか……!?」

 

 

 その言葉と同時に、頭の中で誰かの記憶がリフレインする。身の丈に近い大きさの機関銃を構えた少女が、戦場の中を駆けていた。

 人が死に、人を殺し、少女は戦い続ける。――幾何かの間をおいて、クーゴは、その少女が刹那であると気がついた。

 

 ならば、今のが刹那の過去なのだろう。彼女の過去はざっくりと聞いていたが、やはり、戦争によって傷を負った人間であった。記憶の中の少女は10代の前半だったように思う。日本生まれのクーゴからしてみれば、程遠い世界のように思えた。閑話休題。

 

 

「勘違いしないで。身よりのない子どもたちを保護しているだけよ」

 

 

 間髪入れず、シーリンが厳しい表情で刹那の言葉を否定した。連邦の政策によって、あの子どもたちは皺寄せを喰らったのだという。彼らもまた、連邦の被害者なのだ。

 

 

「予算の関係上、すべての子どもたちを保護するとまではいかないが……」

 

「――逆に言えば、予算と設備が整えば、あの子たちのような子どもたちを保護することができるってことでしょうか?」

 

 

 クラウスの言葉を遮ったのは、つい数秒前まで“『あーあーあー、何も聞こえませーん』と言いながら、椅子を回転させ部屋の端から端に移動する”という奇行を繰り返していたベルフトゥーロであった。

 彼女は丁度クラウスと向き合う位置で椅子の動きを止める。先程までいた聞き分けの悪い子どもや、チンピラ口調の獣はどこにもいない。凛とした佇まいの――それこそ、女社長という肩書がよく似合う。

 悪の組織は技術の提供や技術者の派遣を行っているだけではない。子どもたちの支援教育やボランティア、更には慈善事業にも力を入れている。子どものことになると見捨てることはできなかったようだ。

 

 やる気満々で臨むベルフトゥーロの様子に、カタロン構成員やソレスタルビーイング勢が表情を引きつらせる。ギャップについていけないのだろう。彼らの気持ちはよく分かった。

 その脇で、マリナを見つけた子どもたちが彼女に纏わりつく。子どもたちにとって、マリナは憧れの存在のようだ。嬉しそうに笑う子どもたちの様子に、マリナも表情を綻ばせた。

 

 

「あれ?」

 

 

 そのうちの1人が、何かに気づいたようにベルフトゥーロの横顔を覗き込む。ベルフトゥーロもそれに気づいたのか、その子へと視線を向けた。

 

 子どもはじっとベルフトゥーロの顔を見つめていたが、ややあって、合点がいったように手を叩いた。

 他の子どもも、その様子に連鎖したように手を叩く。彼らの表情がぱっと明るくなった。

 

 

「おばさん、クサナギさんのお友達でしょう? クサナギさんがおばさんと仲良く写ってる写真、見せてもらったんだ!」

 

「前に来てた悪の組織の第一幹部の人が言ってた! 自慢のお母さん(マザー)なんだって! 写真も見せてもらったよ!」

 

 

 意外なところでそんな繋がりができていたらしい。誰もが目を見張る中で、ベルフトゥーロだけがニコニコ笑っていた。女性が反応しそうな単語――「おばさん」という単語にも動じない。……まあ、500歳ほどの年齢になれば、「おばちゃん」や「おばあちゃん」など痛くもかゆくもないだろうが。

 子どもたちに人気なマリナとベルフトゥーロは、そのまま子どもたちの相手をすることにしたようだ。子どもたちに引っ張られるような形で、2人の背中が部屋の向こうへと消えていく。その背中を見送って、面々は前を向き直った。長らく脱線したが、ようやく本題に入ることにしたらしい。

 

 そうして、ソレスタルビーイングとカタロンの会談が始まった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 トリロバイトを失った責任を取るような形で、リントにあった指揮権はカティへと移行した。モニターに映し出されていたアーサー・グッドマンは、深々とため息をついた。

 そんな会話を、ブシドーはぼんやりと見つめていた。最近は、目の前で何かが起きていても無感動でいることが増えたような気がする。蒼海の傀儡として“躾”られている際の弊害だろうか。

 

 唯一、激情を露わにできるときがあるとするなら、それは――。

 

 脳裏に浮かんだのは、刹那が駆るガンダムだ。そうして、クーゴが駆るフラッグの面影を宿した機体。ブシドーが地獄の底から見上げ続けた希望だった。

 胸の奥に鈍い痛みを覚える。息が詰まりそうになる衝動をどうにか堪えながら、ブシドーは静かに目を閉じた。今は、それを露わにするときではない。

 

 

「ああ、そういえば」

 

 

 通信を切ろうとしたグッドマンが、何かを思い出したように手を打った。彼は手元にあった資料を引っ張り出す。

 

 

「今度の作戦から、ジャーナリストが同行するそうだ。最前線で戦う軍人を取材したいと言ってな」

 

「『民間人を同行させろ』と?」

 

「かいつまんで言えば、な。まあ、アロウズのイメージアップに繋がるということで、宜しく頼むよ」

 

 

 カティが何かを言い返そうとしたが、それよりも前に、グッドマンからの通信が切れるほうが早かった。民間人を同行させることをカティは反対したいのだろう。しかし、それは“上層部の決定事項で覆らない”と察したようだった。

 良識派の軍人が肩身の狭い思いをする場所――それが、アロウズという名の檻である。ここに集められた良識派の軍人は、自由に飛ぶための羽と思考を奪われてしまうのだ。ブシドーは無感動の表情を崩さぬまま、漠然と考えた。

 

 深々と息を吐いたカティがブシドーへ振り返った。

 

 

「……という訳だ。今後、私の指示にも従ってもらう。宜しいな? ミスター・ブシドー」

 

「…………断固、辞退する」

 

 

 どこまでも平坦な声が出た。“昔の自分が聞いたら驚くだろうな”――ブシドーは漠然と考える。

 カティの眉間に皺が寄った。彼女の気持ちも分からなくはないが、これだけはどうしても譲れない。

 

 

「私は司令部より、独自行動の免許を与えられている。つまりはワンマンアーミー……たった1人の軍隊なのだよ」

 

「そんな勝手な……!」

 

「免許があると言った」

 

 

 勝手な行動を咎めるカティの言葉を叩き切る。彼女の隣で、リントがひっそりとほくそ笑むのが見えた。ブシドーはリントへ向けて睨み返す。「お前のための行動ではないし、この意見はお前にも該当するのだ」と。

 まさか睨まれるとは思わなかったリントは、怯えるように身を竦ませた。釘はしっかりと刺さったらしい。それを確認した後、ブシドーは壁から背中を離した。そのままさっさと部屋を出ていこうとして――足を止める。

 

 

「もう一度、敢えて言わせてもらおう。私には独自行動の権限がある」

 

 

 ブシドーは振り返った後、確認するように言葉を紡ぐ。カティは「訳が分からない」と言いたげに眉をひそめた。

 

 

「……勿論、その権限には、私の発言行為も含まれる」

 

「貴殿は、何を……」

 

「司令部からは秘匿とするようにと言われたが……私個人で、秘匿にしておくには危険すぎる情報(モノ)だと判断した。よって、指揮官である貴殿らに連絡しておく」

 

 

 ブシドーの言葉を聞いたカティとリントが目を瞬かせた。

 アロウズの情報体制のせいで、指揮官でもまともに情報が入ってこないのだ。

 

 部隊によって、入ってくる任務の内容や情報も全く違う。「治安維持任務だと思って取り組んでいた任務が、実質的にはただの虐殺だった」――なんていう話は、よくあることだった。

 

 幸か不幸か、その事実を知ってしまう人間もいる。知っていて協力し続ける者、知ったが故にアロウズに反旗を翻し反政府組織へ鞍替えする者、すべてから逃げ出すためにアロウズを辞める者など、対応の仕方は様々だ。最悪の場合だと、知ったが故に口封じされたり、ブシドーのように薬漬け等の手段によって傀儡にされることもある。閑話休題。

 

 

「――“1つ目の天使たち”も、次の作戦に参加する」

 

「!」

 

「この情報をどう使うかは、貴殿らに任せよう。……有効に活用してくれることを、願うばかりだ」

 

 

 今度こそ、ブシドーは部屋を出た。

 

 先程の戦闘で、2人はあの天使を――センチュリオシリーズの機体を目にしている。そうして、2人を含んだアロウズの面々は、あの天使によってガンダム諸共消し飛ばされそうになった。一応助かったものの、次も助かるとは限らない。

 センチュリオに搭乗する海月、厚陽、星輝が参加するということは、またあの広範囲兵器が使用される可能性があるということだ。部屋を出る間際、カティが戦慄し、リントが何とも言い難い表情を浮かべていた。

 次の作戦は、どうなるだろうか。ブシドーはぼんやりと空を見上げた。嘗て仲間たちと一緒に飛びまわった、美しい空だ。太陽の光はどこまでも眩しい。青はどこまでも深く、目に突き刺さってきそうだ。

 

 

虚憶(きょおく)で出会った人たちがいてさ。……その人が言ってたんだ、『空で待ってる』って』

 

 

 クーゴがそう言って笑っていたことを、思い出す。彼は、「待っていると言った相手に会えた」と笑っていた。

 自分も、それにあやかりたいものだ。『還りたい』と願う場所に『還れない』代わりに、目指す場所へたどり着けたなら。

 

 ブシドーは静かに目を閉じた。少女の後ろ姿が《視える》。振り返った少女の口元は――どんな形を、描いていたのだろうか。それを知る前に、彼女の顔は闇へと消えた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 カタロンの拠点内部を当てもなく歩き回っていたとき、刹那の後ろ姿を見つけた。彼女の視線は、部屋の中へと向けられている。

 部屋の内装は、外から見ても「子ども用の遊ぶ部屋」だとすぐにわかる作りになっていた。中では、マリナとベルフトゥーロが子どもたちと遊んでいる。

 楽しそうに笑う子どもたちを見つめる刹那の目は、何かを諦めているかのように見える。――その眼差しは、どこかで見たことがあった。

 

 『還れない』覚悟を固めた、人の目だ。

 刹那もまた、ミスター・ブシドーと同じ瞳をしている。

 

 

「キミも、諦めたような目をしているんだな」

 

 

 クーゴの言葉に、刹那は振り返った。彼女は静かな目でクーゴを見返したが、居心地悪そうに視線を逸らす。

 

 

「俺は二度と、あの中に入ることはできない」

 

「キミを見ている限り、俺はそうとは思えない。思わないよ。――キミとグラハムは、あんなにも幸せそうだったのに」

 

 

 クーゴは刹那をまっすぐ見返した。こうして見ると、刹那だって、どこにでもいる普通の女性と変わりない。ただ、歩んできた道が過酷だったが故に――人一倍優しかったが故に、茨の道を選択することしかできないでいる。それが己の償いなのだと信じているのだ。

 だから、茨の道のほかに存在する道を選べない。選ぼうとする自分を赦せない。そんな道があるという事実に、見ないふりをしている。その頑なさは、現在のブシドーと似通ったものがあった。そう考えると、クーゴは何とも言えない気持ちになる。

 

 刹那はバツが悪そうに俯いた。無言の時間がしばらく続いたが、意を決したようにして彼女は言葉を紡ぐ。

 

 

「俺には、そんな資格はなかったんだ。……それでもあいつは、俺を選んだ」

 

 

 彼女の手は、パイロットスーツの襟元を握り締めた。金属が擦れる音が響き、天使が刻まれたシェルカメオが姿を現す。グラハムが刹那へ贈ったものだ。

 刹那は愛おしげにシェルカメオを握り締める。気のせいか、青い光が舞いあがったように見えた。サイオン波を発現させたときに発生する光と、どことなく似ている。

 その輝きは、晴天の空を連想させるような晴れやかな光であった。グラハム・エーカーが愛してやまない色である。何とも言えない懐かしさが去来した。

 

 

「だから、あいつを幸せにしてやりたかった」

 

 

 刹那は噛みしめるように言葉を紡いで、シェルカメオを再度握り締めた。

 

 クーゴの頭の中で、ノイズだらけの映像がフラッシュバックした。屈託のない笑みを浮かべる、金髪碧眼の男性の姿だ。金色の髪は太陽に照らされて輝き、眩いばかりの光を宿した翠緑の双瞼は、ただ真っ直ぐに刹那だけを見ている。

 なんて、蕩けたように笑うのだろう。幸せそうに笑うのだろう。目に眩しいだけでなく、仲間内に対する笑みとは一線を画していた。仲間へ対する笑みが明るさや不敵さを全面的に押し出したようなものならば、刹那に対してのそれは、愛しさを惜しみなく滲ませていた。

 

 間違いない。あの金髪の男は、グラハム・エーカーその人だ。

 それを確認したクーゴは、思わず噴き出した。刹那が怪訝そうに眉をひそめる。

 すまない、と謝った後、クーゴはむずがゆさを堪えながら笑った。

 

 

「充分、幸せそうに笑ってるじゃないか。あいつのあんな顔、見たことないぞ」

 

「そんなことはない。俺はいつも、あの男から貰ってばかりだった」

 

 

 彼女の口元が、かすかに戦慄く。刹那にとって、グラハムはとても大切な相手だったようだ。

 恋人同士というのも、それらしきことを言葉にしなかっただけであって、実質的にはちゃんと結ばれていたのである。

 

 グラハムも、刹那も、互いのことを大切にしていた。おそらく、今この瞬間も、2人はお互いのことに思いを馳せているのだろう。なんとなく、クーゴはそう思った。

 

 

「あんたは、あいつに何があったかを、知っているんだな」

 

「……ああ」

 

 

 刹那の問いに、クーゴは小さく頷いた。

 

 こちらを見つめる赤銅の瞳は問いかける。

 「あいつに何があったのか、教えてくれ」と。

 

 クーゴはわざと勿体ぶるように顎に手を当てて、呟いた。

 

 

「1つだけ、条件がある」

 

「条件?」

 

「――あのおばかを連れもどすの、手伝ってくれ」

 

 

 愛情を込めて、クーゴは親友を“おばか”と称した。

 刹那も納得したように、ゆるりと目を細める。

 

 クーゴの脳裏に浮かんだのは、『還れない』覚悟を固めたブシドーの横顔。地獄の底から希望を見出したように、彼は目を細める。万感の思いを抱えて、ブシドーは破滅への道を突き進もうとしていた。

 いつか見た虚憶(きょおく)で見た満面の笑みを/すべてが始まる前に、そうして終わる前に見せた満面の笑みを、もう一度グラハムが浮かべられるようにするためにも、刹那の力は必要不可欠になる。

 グラハム/ブシドーにとって、刹那・F・セイエイとガンダムは、希望そのものなのだ。彼が生きる理由にして、彼が目指す道の果てにいるであろう相手。傍迷惑な奴め、と、クーゴは苦笑した。

 

 

「あいつ、昔から本当におばかな奴だからさ。多分、自分がどうなろうとキミを追いかけ続けるんだと思う。……あいつの目指す終着点(ばしょ)には、確実に、キミがいるはずなんだ」

 

 

 だから、と、クーゴは言葉を続けた。

 

 

「あいつをとっ捕まえて、言ってやってほしい。『『還って』来い』って。『お前の『還る』場所は、ちゃんとここにあるぞ』って」

 

「当たり前だ」

 

 

 刹那は間髪入れずに答えた。赤銅色の瞳には、強い決意が宿っている。

 

 

「俺は、あの男に生きろと言ったんだ。生きてくれと。……だから、死ぬなんて真似はさせない。死ぬために生きるなんて、絶対に許さない」

 

 

 気のせいか、刹那の口元が緩く弧を描いた。凛とした空気は変わらないけれど、ほんの少しだけ、柔らかい気配を感じる。

 彼女が真顔になったのを確認して、クーゴはようやく、あれが刹那の微笑みだったのだと気がついた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「アニュー。ここで何してるんだ?」

 

 

 背後から聞こえてきた声に振り替えれば、ライルがこちらに近づいてくるところだった。彼に応えようと口を開いたアニューだが、ほんの一瞬、痛烈な違和感に襲われた。

 

 アニューが今いる場所(フロア)はカタロンの本拠地(アジト)の中でも人通りが少ない場所だ。立地的な問題で共同スペースに適さないため、一時的な物置として使われている。

 悪の組織/スターダスト・トラベラーの関係者としての仕事は、ソレスタルビーイングへの出向と同組織のサポートである。だが、今の自分には“このスペースに足を踏み入れる理由”がない。

 

 

(……私、どうしてここに来たんだろう?)

 

「もしかして、迷子か? ここ、結構広いからな」

 

「……そうね、ライルの言う通りかも。ぼうっとしてたら、こんなところに迷い込んじゃった」

 

 

 返答に窮してしまったアニューの態度をどう解釈したのか、ライルは茶化すような調子で笑った。

 そんな恋人の姿が可愛らしくて、アニューもつられて微笑んだ。顔を見合わせて笑い合う。

 暫しの後、ライルはわざとらしい所作と共に、アニューとの距離を詰める。

 

 

「知ってるか? ここ、人通りが殆ど無いんだ」

 

「ええ。カタロンの人から聞いたけど……」

 

 

 顔を近づけてきたライルが、悪戯っぽく、密やかに笑った。

 それに込められた意図に気づいたアニューは苦笑する。

 

 

「……悪いヒトね」

 

 

 「少しだけよ?」と笑って受け入れ態勢を取れば、ライルもこちらの意図を察してくれたらしい。柔らかに目を細めた。

 

 思い返せば、こうして昼間から2人きりで過ごす時間は久しぶりのように思う。ライルの転職で連絡が取れなくなり、転職終了後はやり取りが復活したものの会う頻度がめっきり減って、新しい派遣先では“戦争幇助企業に所属する技術者”として身柄を拘束され、ソレスタルビーイングに再々転職したライルと再会するまでは怒涛の日々であった。

 ソレスタルビーイングに救助され、そこでライルと再会して以降、アニューはソレスタルビーイングの協力者として同行していた。正式にソレスタルビーイングに派遣されたのは、対先日のことである。尚、業務内容は協力者の頃から何も変わっていない。ここ最近は、ソレスタルビーイングが本格的な活動を再開したため、多忙な日々が続いていた。

 

 自分たちが所属している組織は不安定だ。いつ何とき、何が起きるか分からない。仕事が終わったフリーな時間は貴重である。

 “少しの間なら、恋人同士の時間を過ごすことくらい許してもらえるだろう”――なんて馬鹿みたいな言い訳をしながら、アニューはライルと手を絡めた。

 

 

 

 

 

 

 端末の情報を見つめ、蒼海は笑みを深くする。

 

 

「――さあ、狩りの時間よ」

 

 

 蒼海の言葉に反応するかのように、画面に映像が表示された。

 3体の天使が飛び立っていく。――獲物である、カタロンの支部へと向かって。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 そこに乙女がいた。

 

 アンドレイの思考回路はそれだけに支配されていた。

 目の前には、大嫌いな季節に出会った麗しい乙女が、アンドレイに対して微笑みかけている。

 

 

「今回、アロウズの前線を密着取材させて頂くことになった、絹江・クロスロードです。お久しぶりですね」

 

「は、はい! 本当に、お久しぶりです」

 

 

 麗しき乙女――絹江・クロスロードが会釈した。彼女は自分を覚えていてくれたのだ。アンドレイもそれに続いて頭を下げる。絹江の立ち振る舞いは洗練されていて、けれどどこかエキゾチックな雰囲気を漂わせていた。例えるなら、そう、大和撫子。

 アンドレイは日本文化に詳しくはない。ただ、この艦にいる侍かぶれによる日本文化講習が(嫌でも)耳に入ってくるせいで齧らされた程度である。しかし、そのおかげで、アンドレイの頭の中では美しい着物を着た絹江の姿が想像されていた。

 着物の柄についても、侍かぶれのライセンサーによる日本文化講習で齧っている。どの柄物も素晴らしかったが、アンドレイは百合の花が気に入っていた。ちなみに、今、自分の頭の中にいる絹江が身に纏っている着物の柄も百合である。

 

 どの着物も素晴らしいのだが、特に、緑系の色が良く似合っていた。

 アンドレイは頭の片隅で、ぼんやりとそんなことを考えていた。

 

 

「この前貰ったキャンディ、とても美味しかったですよ。宝石みたいに綺麗なヤツを貰ったのは初めてです。入れ物の瓶も可愛かったんで、ペンスタンドとして使っています!」

 

「そうですか……気に入って貰えて何よりです。こちらこそ、日本酒味のチョコレート菓子というものを食べたのは初めてで――」

 

 

 絹江からの報告を聞いたアンドレイは、思わず表情を綻ばせた。“チョコレート菓子に対する返礼に瓶詰キャンディを選んでしまった”己のセンスを疑問視したのだが、今回はいい方向に転がってくれたらしい。中身も瓶も気に入って貰えたようで何よりだ。

 

 次の作戦に備えて抹茶味の菓子をキメていたこともあってか、絹江との会話が弾む。素面のアンドレイだったら酷い有様になっていたことだろう。

 麗しい乙女との雑談に熱中していたアンドレイだったが、ふと視線を感じて向き直る。そこには、ニコニコ笑顔の男性が2名。

 

 

「あ、いいですいいです! もうちょっとくらいなら、僕ら、空気でいますから……!」

 

「御両人、続けて続けて! もうちょっとくらい雑談してても大丈夫ですよ!」

 

「変な気を回さなくていいから!」

 

 

 顔を真っ赤にした絹江が怒鳴ったのは、彼女の同行者であるセキ・レイ・シロエとジョナ・マツカだ。彼らはアンドレイの苦手な季節――バレンタインで出会った頃から、絹江の同行者として旧知の仲だったと聞く。絹江が中華風の洋服を身に纏った男に拉致されかけたときは、彼らも同じような風貌の連中から襲撃を受けて逃げおおせていたらしい。

 ホワイトデーでも彼らとは顔を合わせたが、その頃にはアンドレイと絹江のやり取りを生暖かい目で見守るようになっていた。絹江と親しい仲であることは予想できてはいたものの、異性間のアレコレより戦友としての結びつきの方が強いようだ。……ちょっとだけ安心したのはここだけの話である。

 アンドレイは咳払いし、私人としての自分をさっさと片付ける。抹茶味のお菓子をキメていたおかげか、“軍人としてのアンドレイ”への切り替えは非常にスムーズだった。素面のアンドレイだったら、私人としての自分が名残惜しく覗き見していただろうから。そんな情けなくて女々しい姿を麗しい乙女に見られるのは、ちょっとアレだ。

 

 アンドレイが咳払いしたタイミングで、絹江たちは雑談を終えたようだ。何の話をしていたかは不明であるものの、彼女の顔の赤みが引いていない。何故か、それが酷く気になった。

 

 不意に絹江と目が合ったアンドレイは一瞬動揺したが、それをどうにか押し留める。

 抹茶味の菓子をキメていなかったら、もっと酷い有様になっていたことだろう。

 

 

「では、船内を案内します」

 

 

 ドキマギし続ける自分をねじ伏せたアンドレイは、ジャーナリストたちを案内するために歩き出した。

 

 

 

*

 

 

 

「…………」

 

 

 端末に映し出された任務を確認し、アンドレイは目を伏せた。“オートマトンをキルモードで使用する”ということが何を意味しているのかなんて明白だからである。

 アンドレイはちらりと背後を伺い見た。絹江たちジャーナリスト3人組は、戦艦内の談話スペースに座って話し込んでいる。本部からの連絡だと言って、距離を取っていて本当によかった。

 作戦内容には守秘義務がある。当然、ジャーナリストたちに作戦の全貌を話すというのは言語道断だ。それ以上に、このことを知った絹江がどんなことをするか、分かったものではない。

 

 作戦内容の下部の方に、絹江たちへ流す用の情報が書かれていた。どこからどう見ても、“過激的な活動を行う反政府組織の鎮圧”である。勿論、“オートマトンをキルモードで投入する”なんて話は、完全に秘匿とされていた。

 更に情報を確認すれば、『もし、ジャーナリストたちが深入りしそうになったら適宜処理を行え』とあった。つまり、アンドレイは実質的な“3人の監視役”として、アロウズの闇を覆い隠せということである。

 

 

(絹江さん)

 

 

 アンドレイは強く手を握り締めた。凛とした笑みを浮かべた絹江の姿が脳裏にちらつく。自分は、彼女を手にかける日がきてしまうのだろうか。

 

 軍人としての任務の中で、もしかしたら、親友や恩人、血縁者または配偶者、および恋人を見捨て/手にかけねばならなくなる――なんてことは、よくあることだ。軍人としての務めを果たすために、アンドレイの母を見殺しにした男のことはよく知っている。

 しかも、そいつはアンドレイのことを放置した上に、よりにもよって“アンドレイと同年代の女性”――ソーマ・ピーリスを養子として迎え入れようとしているのだ。彼女をアンドレイの代替えにすることで、自身の心を慰めようとでもしているのだろうか。

 

 なんて裏切りだ。アンドレイは強く拳を握り締めた。ピーリスは、父――セルゲイをとてもよく慕っている。奴の行動は、彼女にとっても失礼なことではないのか。

 母を見殺しにしたときからつくづく思っていたのだが、セルゲイが何を考えているのか分からない。いや、あんな奴のことなど、分かりたくもなかった。

 セルゲイに背を向けて家を飛び出してから、アンドレイはずっと、父親を見ようとは思わない。奴の言葉を聞こうとすら思わなかった。

 

 

「スミルノフ少尉、大丈夫ですか?」

 

 

 不意に、絹江の声が間近で響いた。目を瞬かせれば、彼女の憂い顔が間近に迫っている。

 乙女とは、憂い顔すら絵になるらしい。アンドレイはそれを深く思い知った。

 

 

「あ、ああ、平気です」

 

「……本当にですか?」

 

「はい」

 

 

 ぎこちない会話のキャッチボールを繰り返した後、絹江は眉に皺を寄せて周囲を見回す。談話スペースで情報を纏めているシロエとマツカも、どこか険しい面持ちでいた。

 絹江はどうしたのだろう。アンドレイが彼女の様子を疑問に思ったのと、絹江がアンドレイを見返したのはほぼ同時だった。彼女の口が動く。

 

 

「作戦が、始まるんですね」

 

「!!」

 

 

 確証を持った物言いに、アンドレイは思わず目を剥いた。

 

 

「どうしてそれを……!」

 

「やっぱりそうなんですね!」

 

 

 合点がいったように絹江が食いつく。彼女の物言いは、鎌をかけたような感じだった。

 目を見張って唖然とするアンドレイに対し、絹江は顔の影を深くさせながら、表情を曇らせる。

 

 

「艦内がざわめき始めたような気がしていたから、もしかして……と思ったのですが」

 

「……守秘義務があるため詳しくはお答えできませんが、作戦が行われることは確かです」

 

 

 絹江は不安そうに周囲を見回していた。アンドレイは彼女の不安を和らげようと、勤めて笑みを浮かべてみせる。なるべく声に力強さを出して、言葉を紡いだ。

 

 

「けれど、大丈夫です。貴女が心配するには及びません。私は作戦に参加するのでここには居られませんが、他の方々の指示に従って、待機していてください」

 

 

 アンドレイは真っ直ぐ絹江を見つめた。ヘイゼルの瞳が静かにアンドレイを映し出している。

 

 

「……分かりました。スミルノフ少尉も、お気を付けて」

 

 

 幾何かの沈黙の後、絹江は頷き返した。彼女は何を思ったのか、鞄の中を漁って何かを取り出す。以前、絹江がアンドレイに手渡したチョコレート菓子と同じものだ。

 抹茶や日本酒味とは違い、全体的にブラウン系の色合いで纏まった小袋。最近学び始めた日本語の知識では、これが何味なのかを判断することは難しかった。

 パッケージを凝視するアンドレイを見ていた絹江が「ほうじ茶味です。お茶の仲間なんですよ」と補足してくれなければ、答えに辿り着かなかったであろう。

 

 

「――ご武運を」

 

「――はい!」

 

 

 絹江はチョコレートを持ったアンドレイの両手を包み込むように握りしめてくれた。

 淡く色づいた唇が言葉を紡ぐ。アンドレイは迷うことなく返事を返した。それを聞いた絹江は、ふわりと微笑んだ。

 

 何処までも真っすぐで純真な乙女の祈り。アンドレイの無事を、そうして武運を祈る絹江の姿に、アンドレイは思わず息を飲む。胸の奥に火が灯る様な気持ちになった。

 乙女の微笑みは眩しい。アンドレイは人知れず、目を細めてそんなことを考えた。胸の奥底に甘美なときめきが広がる。今なら、いくらでも武勲を挙げられそうな気がした。

 絹江に背を向け、アンドレイは着替えに向かった。部屋に入り、パイロットスーツに着替える。余韻に浸りながら格納庫へ足を踏み入れれば、ピーリスが憂い顔でアヘッドを見つめていた。

 

 どうかしたのだろうか。アンドレイが声をかける前に、ピーリスは独白のように言葉をこぼした。

 

 

「このような作戦が……。大佐が転属に反対した理由が、ようやく分かった」

 

 

 セルゲイがピーリスの転属を反対していた――その言葉に、アンドレイの胸の奥がざわめいた。幼い頃から蓋をしてきた怨嗟の感情が声を上げ始める。

 アンドレイがアロウズにいることに関しては何も言わなかったくせに、どうしてピーリスのことには口を出したのだろう。どうして、ピーリスを心配したのだろう。

 

 湧き上がってきた感情の正体がちらつき始める。『それ』を認めるには、アンドレイにとって癪なことだった。すべてを切って捨てるかのごとく、アンドレイはピーリスの元へと足を踏み出した。

 

 

「中尉は誤解しています。スミルノフ大佐は……任務のためなら、肉親すら見捨てられる男ですよ」

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

「ふたりのこの手が真っ赤に燃える!」

「幸せ掴めと轟き叫ぶ!」

「せきぃっ!」「はっ!」

「ラァァァッブラブゥゥゥッ! 天っ驚ぉぉぉ拳っっっ!!」

 

 

 うら若き青年と乙女は手を取り合う。彼らの目には一切の迷いがない。2人の手が真っ赤に燃える。生きて幸せ掴むと轟き唸る。夫婦は同じ場所を見て、同じ未来を見ているのだ。クーゴにはその姿がはっきりと《視えた》。

 

 次の瞬間、シャトルの内側から凄まじい光とエネルギーが発生した。それらが収まったのと同時に、シャトル内部に送り込んだオートマトンの反応はすべて沈黙している。

 シャアもゼクスもブシドーも、その他の部下たちも、誰も何も言わなかった。クーゴも何も言えぬまま、眼前に広がる現象を眺めていた。沈黙が痛い。

 似たような光景を、クーゴは間近で目にしたことがある。そのときは平和な観光地で、夫婦と対峙していた若い恋人たちが撃っていた。

 

 現在、その恋人たちは様々な悲劇を乗り越えた果てに、悪の組織に所属する技術者兼おしどり夫婦となっていた。

 件の夫婦は、エクシアの後継機をコネクト・フォースに届けるため、シャトルに搭乗している。

 

 

「いくよルイス!」

「いくわよ沙慈!」

 

「せきぃっ!」「はっ!」

「ラァァァッブラブゥゥゥッ! 天っ驚ぉぉぉ拳っっっ!!」

 

 

 今度はシャトルの前方から、凄まじいエネルギー砲が撃ち放たれた。慌てて総員散開の指示を出したが、回避が遅れたザクとゲルググが吹き飛んだ。

 どの機体も大破はしていないが、戦闘続行は不可能だろう。部下たちが動揺する声が《聴こえて》くる。その中で、クーゴは深々とため息をついた。

 

 

「……だから、やめとけって言ったのに」

 

 

 クーゴの脳裏によぎったのは、『エクシアの後継機を奪取せよ』という任務を自分たちに与えた上層部の人間だ。彼らはクーゴの進言を聞かず、この作戦にGoサインを出したのである。……まあ、その理由を『勘』としか言えなかったクーゴも悪いのかもしれないが。

 沙慈・クロスロードとルイス・クロスロード。この名前を見たときに感じた悪寒の正体は“これ”だったのだ。今ならば、『エクシアの後継機を乗せたシャトルを襲ってはいけない』理由を事細かに説明できるのに。そんなことを思っても、もう後の祭りであった。

 オルトロス隊の中に動揺が走る。輸送船に護衛役がついていなかったのは、“夫婦が石破ラブラブ天驚拳の使い手だから”だろう。あの攻撃は、使い手の技量およびサイオン波によるブースト効果によっては一騎当千の破壊力と化す。

 

 ――丁度、今みたいに。

 

 

「なんだあれは」

 

 

 幾何かの間をおいて、シャアが弱々しい声で問いかけた。

 彼の言葉を皮切りに、ゼクスも同じようにして呟く。

 

 

「なんだあれは」

 

 

 精神状態が崖っぷちなシャアとゼクスの問いかけに反応したのはは、凍り付いていた空気から復活を果たしたブシドーであった。クーゴが説明する間もなく、ブシドーが声を上げる。

 

 

「あれは……!」

 

「知っているのかミスター・ブシドー!?」

 

「石破ラブラブ天驚拳だ。日本では“真の愛で結ばれたカップル、および夫婦のみが放てる”とされる、伝説の奥義……!」

 

「なんと……!」

「あれが、伝説の奥義……」

 

「…………俺は突っ込まんぞ。もう、何も突っ込まんからな」

 

 

 ブシドーの説明を受けたシャアとゼクスが戦慄する。以前のクーゴならこの説明に突っ込みを入れたのだろうが、クーゴは日本を離れて久しい身である。日本の観光地で初めて石破ラブラブ天驚拳を見たときもそうだった。

 “久々に日本に帰って来たら、いつの間にやら日本文化に石破ラブラブ天驚拳が増えていた。その説明をグラハムから聞き、否定しようとしたら実物が目の前に現れた”――そのときのクーゴの気持ちなんて、きっと誰もわからないだろう。

 

 

「――…………私も、撃ってみたかったなぁ」

 

 

 ややあって、ブシドーはぽつりと呟いた。今にも泣き出してしまいそうな横顔が《視えた》気がして、クーゴは何とも言えない気持ちになる。

 ブシドー/グラハムは、連邦の闇から命からがら逃れた後――蒼海の支配から逃れた今も、その眼差しは刹那だけを見つめていた。

 彼が抱える想いを察したのか、シャアとゼクスも俯く。女性関係が大炎上気味の2人(特にシャア)だが、だからこそ、ブシドーのことが心配なのかもしれない。

 

 元々、ブシドーは刹那のガンダム――エクシアの後継機を奪うという任務には乗り気ではなかった。納得だってしていない。しかし、ジオン優勢の講和条約を結ぶための戦力として、ガンダムが注目されていることは理解している。だから、彼は何も言わなかった。

 

 「自分は我慢弱い」と豪語するという言動からして、ブシドー/グラハムは自分勝手な男だと思われやすい。だが、彼は良識派の軍人であり、優先順位はきちんと心得ている。そうでなければ、ブシドーはこの戦場にいない。

 どこか諦めたように微笑むブシドーは、迷いを振り払うように目を閉じた。再び目を開けた彼の双瞼には、爛々とした光が宿る。彼の口元が不敵に微笑んだ。何か、強い確証を持ったかのように。

 

 

「――来る」

 

 

 嬉しそうに、ブシドーの口元が緩んだ。

 

 

「ゼクス特尉!」

 

「どうしたのだ?」

 

「こちらに急速に接近する熱源を補足しました! おそらく、コネクト・フォースかと!」

 

 

 間髪入れず、部下たちから連絡が入った。

 

 

「フハハハッ! そうこなくてはな!」

 

 

 ブシドーはそれを予期していたのだろう。刹那を求めてやまぬ彼の表情が、久々に恋人と逢瀬をするように見えたのは気のせいではない。

 ……まあ、実際に、ブシドー/グラハムと刹那の関係はそういうものなのだが。クーゴは遠い目をしながら苦笑した。本当に、しょうがない奴だ。

 

 彼の言葉を肯定するかのように、ガンダムたちが姿を現した。エクシア、ウィングゼロ、パハリア、エグザート――コネクト・フォースの先遣部隊だろう。

 

 

「間に合ったか」

 

 

 刹那が表情を緩めた姿が《視えた》。エクシア/刹那の隣には、当たり前のようにウィングゼロ/ヒイロとパハリア/イデアが陣取っている。

 それを目にした“須佐之男”/ブシドーが悲しそうに目を伏せたように《視えた》のは気のせいではない。代わりに、ゼクス/トールギスがムッとしたようにウィングゼロ/ヒイロを睨む。

 ヒイロとリリーナの関係についてアレコレ文句を言うゼクスであるが、2人の仲に何かあっても――或いは何もなくても怒りを爆発させる。そういう意味では、彼も難儀な人であった。

 

 ゼクスの怒りは、リリーナを放置して同僚(ブシドー)の恋人――刹那と良い仲になっているヒイロに向けられていた。残念ながら、ヒイロ本人は恋愛に疎めな部分があるため、なかなか進展しないようだ。

 最も、ゼクスは『リリーナに手を出したら、今度開発される新型を駆って強襲しに行く』と豪語している。妹の幸せを応援したいのか邪魔したいのかよく分からない。リリーナの恋愛も大変そうであった。閑話休題。

 

 

「刹那!」

「来てくれたのねっ!」

 

 

 沙慈とルイスが嬉しそうに手を振ったのが《視えた》。

 

 彼らを横目にしつつ、オルトロス隊とコネクト・フォースたちは交渉を始める。しかし、結局のところ、交渉は決裂した。

 オルトロス隊およびジオンは連邦側に近いコネクト・フォースを完全に信じている訳ではない。故に、彼らの指揮下に入ることを拒んだのだ。

 

 ブシドーやゼクスは連邦の闇によってダメージを受けた人間である。特にブシドーは、連邦の後ろ盾の1人である蒼海によって、文字通りの傀儡にされていた時期があった。

 連邦の闇をどうにかできないなら、コネクト・フォースと共に戦うことは不可能だ。かくいうクーゴも、連邦の後ろ盾云々の懸念については同意する。

 下手をすれば、自分たちの情報が流れて大惨事になりかねない。不気味な笑みを浮かべる蒼海の姿を振り払いながら、クーゴは深々と息を吐いたのだった。 

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

「ふたりのこの手が真っ赤に燃える!」

「悪を赦すなと轟き叫ぶ!」

「せきぃっ!」「はっ!」

「ラァァァッブラブゥゥゥッ! 天っ驚ぉぉぉ拳っっっ!!」

 

 

 うら若き青年と乙女は手を取り合う。彼らの目には一切の迷いがない。2人の手が真っ赤に燃える。虐殺など赦さないと轟き唸る。夫婦は同じ場所を見て、同じ想いを抱いているのだ。

 次の瞬間、凄まじい衝撃波と光が発生し、何もかもを吹き飛ばした。辺りには、粉々に砕け散ったオートマトンの残骸が転がっている。これ、本当に殺傷兵器だったのだろうか?

 

 いや、それよりも。

 

 

「……なんだあれは」

 

 

 クーゴの疑問を代弁するかのように、ロックオン(ライル)が抑揚のない声で呟いた。

 それも問題かもしれないが、そちらは重要度は低い。もっと大きな問題があるからだ。

 

 

「なんであの2人がここにいるの!?」

 

「あの2人は、プトレマイオスにいたはずではなかったのか!?」

 

 

 ロックオンに続いて、アレルヤとティエリアが驚愕の声を上げた。

 

 そう、問題はこっちである。あの夫婦は、プトレマイオスに残っていたはずだったのだ。カタロンとの会談を終えた後、クーゴたちと一緒に戻ってきたはずなのに。

 プトレマイオスはこの場に来ていない。ガンダムを先行させたためだ。このカタロン支部に到着するとしたら、丁度夕方頃だろう。

 

 

「まさか、サイオン波を駆使して転移したってのか……?」

 

「サイオン波ってのは、そんなことまでできるのか!?」

 

「ば、万能にも程がある……!」

 

 

 クーゴの言葉に、ソレスタルビーイングのクルーたちが目を剥いた。サイオン波の力が、数キロ先の目標地点に一瞬で転移できるものだと知ったためだろう。

 最初からそれを知っていた悪の組織勢は、当たり前のことを確認するように首を傾げている。そっと視線を逸らした例外は、クーゴだけのようだった。閑話休題。

 

 カタロン中東支部がアロウズに発見されたということで、ソレスタルビーイングは彼らの救援に駆けつけたのだ。しかし、眼前に広がる光景は、自分たちの予想していた地獄絵図とは大きく異なっていた。……大惨事であることは変わりないのだが。

 目の前で石破ラブラブ天驚拳無双を繰り広げるクロスロード夫婦の姿は、文字通り圧倒的であった。2人は石破ラブラブ天驚拳で次々とオートマトンを粉砕していく。京都で見た恋人たちを彷彿とさせる光景であったが、威力はあの恋人たちを軽く超えていた。

 クロスロード夫婦の奮闘により、カタロンの構成員たちは我先にと逃げ出していく。気のせいでなければ<リア充怖い>という心の声が四方八方から響いてきたように思った。カタロンは1人身が多い、という言葉が脳裏をよぎったのは何故だろう。

 

 アロウズの部隊は散開し、カタロンの旧式MSを次々と屠っていく。アヘッドやジンクスは、赤子の手をひねるかのように基地やMSを吹き飛ばしていった。オートマトンが使えないなら、MSで直接攻撃をすることにしたようだ。

 

 その中で、特別改造の施されたアヘッドの動きが鈍い。搭乗しているパイロットの女性の思念がクーゴの中に流れ込んできた。彼女はこの作戦に乗り気ではない。アロウズの作戦が文字通りの虐殺であることを知っていて、困惑しているらしい。

 オートマトンを破壊し尽くしたクロスロード夫妻は、自分たちの元へ突っ込んできたMSたちを睨みつけた。2人は迷うことなく拳を構え、ジンクスやアヘッドたちに向き直る。2人の拳が光に包まれた。沙慈の体が赤く輝く! 思念増幅師(タイプ・レッド)の力だ。

 

 

「いくよルイス!」

「いくわよ沙慈!」

 

「せきぃっ!」「はっ!」

「ラァァァッブラブゥゥゥッ! 天っ驚ぉぉぉ拳っっっ!!」

 

 

 虹色の光と衝撃波が発生した。その様は、セラヴィーの砲撃と大差ない。勿論ガンダムよりは劣るが、ジンクスを一撃で戦闘不能にする威力があった。

 その様を間近で目撃したティエリアが、あんぐりと口を開けた。眉間に深いしわが刻まれ、眉の根元がぴくぴく震えている。

 

 

「石破ラブラブ天驚拳。日本では“真の愛で結ばれたカップル、および夫婦のみが放てる”とされる、伝説の奥義……」

 

 

 どこかで聞いたことのある説明文だった。昔のクーゴが聞いていたら、真っ先に否定しただろう。しかし、クーゴは京都でその使い手たちを間近で目撃している。

 今でもあれは間違いだと信じたいのだが、クーゴは日本を離れて久しい身だ。自分が知らないうちに、新しい文化が生み出されていてもおかしくない。

 故に、今のクーゴがその真偽を論じることはできなかった。だから、クーゴはティエリアの言葉に突っ込みを入れる資格は存在していないのだ。

 

 ティエリアはぶつぶつと、石破ラブラブ天驚拳の説明を繰り返し続けた。――そうして、彼は、吼えた。

 

 

「何なんだ、あれは!? いったいどういう原理だ!? 何をどうすれば、連邦の機体が一撃で戦闘不能になるほどの威力になるんだ!?」

 

 

 ごもっともである。すべて、サイオン波という力のせいなのだ。

 大パニック一歩手前のティエリアに、イデアはいい笑顔で言った。

 

 

「あれこそ、サイオン波によってブーストされた一撃――いわば、愛の力!」

 

「愛ィ!?」

 

「いいなあ2人とも。私も、あの人と一緒に撃ちたいなぁ」

 

 

 イデアはうっとりとした口調で、石破ラブラブ天驚拳の光を眺める。夫婦による愛の力は、また別のジンクスのカメラアイを吹き飛ばした。

 カタロンもアロウズも混乱しているようで、様々な思念が飛び交っていた。……彼らの気持ちは、分からなくない。かくいうこちらも困惑している。

 

 

「もう2人だけでいいんじゃないかな」

 

 

 アレルヤが抑揚のない声でそう言った。偶然《視えた》彼の顔は、完全に白目を剥いていた。時折<いいなぁ。僕もマリーとああなりたい>なんて思念が漏れるのは気のせいであろう。

 そうあってほしいと強く願ったのは何故なのか、クーゴは全然わからなかった。脳裏に、クロスロード夫妻やグラハムと刹那らとよく似たような男女が石破ラブラブ天驚拳を撃つ図が《視えた》ような気がする。

 男女の足元には、「もう勘弁してください」と泣き叫ぶ者たちがいた。彼らはみんな1人身だった。エイフマンやトリニティ兄妹の兄たち、ラッセやスメラギ、マリナとよく似た人もいる。エルガンなんて、泡を吹いたっきりピクリとも動かない。

 

 

『もう嫌だ。劣等種もリア充も、大嫌いだ……』

 

 

 銀色の髪を長く伸ばした男性が白目を剥いて呟いた。かすかに見えた瞳が金色に輝いたような気がしたが、それを確認する間もなく彼は失神してしまった。

 

 正直、連想するだけで頭の痛い光景だ。

 クーゴは思わず首を振る。

 

 ――そのとき、それらとは一線を画す思念が流れた。

 

 

<――…………私も、撃ってみたかったなぁ>

 

 

 悲痛な《聲》だった。クーゴが顔を上げれば、武者のような佇まいのアヘッドが隊列の中にいる。

 あの機体に乗っているのはブシドー/グラハムだ。クーゴは反射的に彼の名を呼んだが、反応はない。

 

 ややあって、武者のような佇まいをしたアヘッドが隊列から離れた。別のジンクスに搭乗しているパイロットがブシドーを呼び止めるが、彼は「興が乗らん」とだけ言い残し、空の彼方へと進路を取った。

 武者のアヘッドが向かった方角の先には、アザディスタンの旧クルジス領土地区がある。つい数時間前に、マリナと刹那が向かった方角だ。あのままアヘッドが飛び続ければ、刹那と鉢合わせる可能性だってある。

 『ブシドー/グラハムを一本釣りできる大きな餌』――ベルフトゥーロの例えは酷かったが、言っていることは何も間違っていない。その事実に、クーゴは天を仰ぎそうになった。それだけ、彼は刹那を求めているのだ。

 

 

「すまない。俺は、あの機体を追いかける!!」

 

 

 武者のようなアヘッドの背を追いかけようとしたとき、はやぶさのカメラアイは『何か』を捕らえた。前回の戦いで見かけた『天使の面した悪魔』たちが、徒党を組んでやって来たのである。

 

 

「げ……!」

 

「最悪……!」

 

 

 思わず、クーゴとイデアは悪態をついた。

 

 アロウズとの交戦で見かけたモノアイの天使は3機がMSで、あとは下位互換機のMDで組まれた複数の小隊を連れていた。今回も同じ面々であるが、数が多い。

 そのタイミングを予期していたかのように、アヘッドやジンクスがその場から逃れようと背を向けた。しかし、悪魔たちはお構いなしに布陣を組み始めた。

 奴らの羽が白く輝き始めた。指揮官機である3機は同時に、以前使った広範囲攻撃を打ち放とうとしている。友軍も敵軍も関係なく、カタロンの基地ごと消し飛ばすつもりらしい。

 

 ガンダムたち、およびはやぶさは、それを止めるために即座に方向転換した。

 悪魔たちに攻撃を仕掛けようと武装を展開するが、それらを阻むかのようにMDたちが躍り出る。

 

 

「クーゴさん!」

 

「了解!」

 

 

 MDの欠陥を、ミュウである自分たちはよく知っている。クーゴとイデアは顔を見合わせて頷き合うと、即座にサイオン波を展開した。そのシグナルを受け取ったMDは動きを止め、はやぶさとパハリアへと殺到してきた!

 S.D.体制の系譜を継ぐ技術によって生み出されたのがMDである。OSにはミュウ因子を持つ者やミュウに覚醒した個体を優先的に狙うよう設定されていた。それを利用すれば、奴らの動きを自分たちに殺到させることができる。

 タクマラカン砂漠で、イデアがオーバーフラッグス部隊を守るためにやったことだ。要するに、囮役である。砂糖に群がる蟻のように、MD部隊ははやぶさとパハリアに襲い掛かってくる。それらすべてを迎撃した。

 

 その端で、セラヴィーのバズーカが/変形したアリオスの鋏が/ケルディムのスナイパーライフルが唸りを上げる。たまらず、天使たちは陣形を解いた。

 

 

「――ちぇ。しょうがないや」

 

 

 子どもが、面倒くさそうに呟いた。次の瞬間、はやぶさとパハリアに殺到していたMDが動きを止める。

 モノアイの瞳が青く光ったと思ったとき、奴らは突然この場一体に散開した。何の布陣も組まず、無作為に、天使たちは空を舞う。

 

 アロウズの機体も、カタロンの機体も、ガンダムたちも、彼らの動きが何を意味しているのか全く理解できない。クーゴが訝しげに眉をひそめたとき、背中に凄まじい悪寒が走った。

 その予感を肯定するかのように、天使の羽が白く輝き始める。奴らが広範囲攻撃を放つ際に見せる前兆だ。しかも、この場にいる天使たち、すべての羽が白く光り輝いているではないか。

 

 

「この数値……地上および空中の、半径数キロから数十キロ範囲が焦土と化すです!」

 

「何ですって!?」

 

「あのときの武装と、ほぼ同じ範囲と威力じゃないか!!」

 

 

 ミレイナの声に、フェルトとラッセが表情を戦慄かせた。ミレイナは分析結果を仲間たちに伝える。

 

 

「1機1機の攻撃範囲は、以前の戦いで見た広範囲攻撃にはおよばないです! ですが、これだけのMSおよびMDが、この場で同時に攻撃技を使うと……!」

 

「なんてこった……!」

 

 

 ミレイナの分析結果を聞いたリヒテンダールが弱々しい声を出した。面々は、最悪の結果を頭に思い浮かべる。文字通り、この場が何も残さず消え去る光景が広がっていた。

 今から迎撃しようにも、ジンクスやアヘッドの小隊より倍の数で徒党を組んだMSおよびMDを撃墜することは不可能だ。仮に一部を撃墜できたとしても効果は薄い。

 時間切れによって、数の暴力による広範囲攻撃に晒されるためである。指揮官機たちを叩けば動きを止められそうだが、そこに至るまでの道程は、MDたちがひしめいていた。

 

 それでも、やるしかない。

 自分たちの決意を示すように、6機は各々の獲物を構えて飛び出した。

 

 アロウズの機体が次々とこの場を離脱し始める。その中で、アロウズの作戦に乗り気ではなかった女性の搭乗する機体がぽつんと取り残されていた。特別な改造が施されたアヘッドだ。あの機体には戦意らしきものはない。動揺によって塗り潰されてしまっている。あの様子なら、後回しにしても問題ないだろう。

 

 はやぶさのアマツミソラが/パハリアの自立兵器とブレードが/セラヴィーのバズーカが/変形したアリオスの鋏が/ケルディムのスナイパーライフルが唸りを上げる。それらは天使の群れを薙ぎ払い、切り裂き、撃ち抜き、吹き飛ばした。レーダー上から、多くの反応が消え去る。

 しかし、自分たちの猛攻から辛くも逃れたMDが、カタロンの支部へと突っ込んで行く。その先には、怪我人の避難のために手を貸していたクロスロード夫妻の後ろ姿があった。2人が急襲に気づいて振り返るも、石破ラブラブ天驚拳を撃つには間に合わない。付近にいたケルディムが追いすがろうとするが、邪魔するようにしてMSが攻撃してきた。

 

 

「邪魔するなよ! せっかく楽しく遊んでるんだから!」

 

「ふざけるな! それが、人間のやることか!?」

 

「砂漠の花火も楽しいじゃん! 俺は花火が見たいんだよ!」

 

「――こんの、クソガキがァァァァァァァァァ!!」

 

 

 子どもの笑い声に、ロックオン(ライル)が怒りをあらわにして攻撃を仕掛けた。彼の怒りを代弁するかのごとく、ケルディムが二丁拳銃で天使を迎撃する。

 

 その隙をついて、MDはケルディムを躱して基地へと突撃した。天使の羽が白く輝く。何もかもを焼き尽くし、吹き飛ばす一撃が迫る。

 あんなものを喰らえば、カタロン支部の人間たちは文字通り殲滅されるだろう。誰1人残さず、構成員だろうが子どもだろうが非戦闘員だろうが関係なく、命を刈り取られる。

 基地へ向かうMDを止めに行こうとした面々の前に、他の天使たちが舞い降りた。どの機体も羽を白く輝かせており、このまま放置することはできない。

 

 MDたちの羽の光が、より一層強まった。

 誰かが悲鳴を上げたのと同時に、MDの翼の光が爆ぜる!

 

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 

 渾身の叫びを嘲笑うようにして、MDの天使はカタロン基地を殲滅するための攻撃を仕掛けた。裁きの光が、カタロンの基地に――

 

 

「GNメガランチャー、発射!」

 

 

 ――落ちなかった。

 

 間髪入れず、別方向から、ド派手な黄色の光が炸裂する。ランチャーと言うよりは最早バズーカと言った方が正しいレベルの極太レーザーが、MDがまき散らしかけた光ごと機体を消し飛ばした。

 何事かと砲撃の先を見れば、見たことのないMSたちが天使目がけて突っ込んでくる。そのうちの2機は、ビームサーベルやブレードの代わりに、鋭利な爪を展開して天使の羽を切り落とし、容赦なく貫いた。

 それに続いて、MAに近い風貌の機体が飛び出し、天使たち目がけてアームを伸ばした。その一撃が天使の羽を穿ち、トドメと言わんばかりに雷撃を喰らわせる。衝撃波を伴う余波が、周囲にいた天使の群れもまとめて駆除した。

 

 彼らは一体何者なのだろう。クーゴは思わず機体を見つめ――そこに刻まれていたシンボルに、目を瞬かせた。

 金の翼にナスカの花――それは、スターダスト・トラベラーに所属していることを示すロゴマークである。

 

 そうして、その脇に小さく刻まれた数字は1。第1幹部が率いるMSたちだ。クーゴは彼らとは直接顔を合わせたことはないが、組織の中では信頼が厚い部隊だと聞いている。

 

 

「ガデッサ、ガラッゾ、エンプラス……凄い凄い! 造ったんだね!!」

 

 

 プトレマイオスの通信から、ベルフトゥーロの黄色い声が聞こえてきた。彼女が嬉しそうに目を輝かせる様子が《視える》。

 まるで、我が子が初めて大掛かりなものを作ったことに喜ぶ親みたいな顔であった。

 

 

「いいなぁ。私も、あんな機体に乗って、ライルと一緒に戦ってみたいなぁ……」

 

 

 彼女の後ろにいると思しきアニューもまた、きらきらと目を輝かせている。どこか羨望に満ちた眼差しで、アニューはぼそりと呟いた。

 双子が勢ぞろいした虚憶(きょおく)の中で、弟の婚約者が乗っていた機体が脳裏をよぎる。理由は一切不明であったが、なんだか変な予感がしてならない。

 基地に群がるMDは彼らの機体に任せることにして、はやぶさやガンダムたちは天使たちの迎撃に移った。それを目の当たりにした指揮官機は不利を悟ったらしい。

 

 子どもの癇癪が《聴こえた》直後、天使たちはそのまま離脱した。天使が逃げていくのを見たアヘッドが、我に返ったかのようにこの場から離脱する。アリオスのカメラアイはパイロットの心境を反映したかのように、悔しそうな面持ちでその後ろ姿を見送っていた。

 

 カタロンの基地に視線を向ける。多くの人間が怪我をしていたり、「リア充怖い」と悲鳴を上げていたりしているが、人命関係の被害は少ない様子だった。しかし、基地が基地として機能するには、被害は甚大である。

 機材もMSも失った。壊滅と言ってもいい。幸いなことは、命が刈り取られずに済んだということか。クーゴは大きく息を吐いて、スターダスト・トラベラーのMSたちに向き直った。

 

 

(……あれ?)

 

 

 彼らは、敵がいなくなったはずなのに、武器を構えたままである。MSたちのカメラアイが鋭く輝いた。仇敵を探しているように見えたのは気のせいではない。

 

 違和感に気づいたプトレマイオスのクルーや、ガンダムマイスターたちが話しかけるが、彼らは反応しなかった。仇敵の姿を追い求めるが如く、カメラアイが動く。

 何かを察したイデアが、苦笑しつつ視線を逸らした。ベルフトゥーロは不気味な笑みを浮かべて、許可を出すかの如く、これ以上ないってくらい厳かに頷く。

 それを待っていたと言わんばかりに、向うの通信が開いた。この場にいる人間全員に聞こえるほどの大音量、および異口同音で、彼らの第1声が響き渡った。

 

 

「――こちらに、アニュー・リターナーを泣かせた、最低な二股クソ野郎がいると聞いてきました!! 今すぐ面貸せこの野郎!!!」

 

 

 

 

 クーゴ・ハガネ、只今、明日を探して迷走中。




【参考及び参照】
『ファッションプレス』の『全国ご当地キットカット -お土産にぴったりのコラボフレーバーなど約20種-』より、『キットカット 京都土産 宇治ほうじ茶味』




感想はこちら
1stシーズン編はこちら
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。