問題だらけで草ァ!! -Under the Flag-<2nd Season> 作:白鷺 葵
1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。
10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」、『◆』が「特殊な意味合いが含まれている」場面転換、及び視点切り替えになります。
11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。
13.この小説は2023年の10月時点で明らかになっている情報をベースにして執筆しているため、後の公式作品で発表・開示された情報とは矛盾が発生する可能性があります。
上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。
ノブレス・アムの本来の派遣先はJUDAであり、仕事内容は“加藤機関の崩壊を防ぐこと”である。業務関連のアレコレが複雑化しているため、表では『加藤機関へ派遣された』扱いだ。アンノウン・エクストライカーズに合流した教え子たちにとっては、『教官であるノブレスが加藤機関に味方している』という状況である。
トリニティ兄妹にとっては寝耳に水であったろう。加藤機関に所属してから初めて教え子たちと相対峙した際、派手に狼狽していた姿は記憶に新しい。その場に居合わせた菅原マサキがトリニティ兄妹とノブレスをしきりに見つめていたのも、何故かノブレスの印象に残っている。
『お前は彼らとどのような関係なんだ?』
『僕の自慢の教え子です。あの子たちは――』
マサキの問いかけに対して教え子自慢トークを3時間程かましてしまって以後、何故かマサキや加藤からの風当たりが厳しくなった。
戦場でトリニティ兄妹と対峙する度、その話を彼らに報告する度、戦場で対峙するノブレスとトリニティ兄妹の姿を加藤やマサキが目の当たりにする度、八つ当たり沁みた眼差しを向けられるのだ。
マサキは常日頃から『感情を殺した』と言っているが、トリニティ兄妹がノブレスと対峙して複雑な心境を吐露する度、彼ら側に肩入れしている節がある。
加藤も似たようなもので、マサキの強化版と言っても過言ではない。ノブレスを見る彼の眼差しは、今は別の道を往く“誰か”へ対する並々ならぬ憎悪と絶望があった。
思念波を使った情報収集を行ったが、2人の深層心理を暴くまでには至れなかった。特に加藤の心は本来の派遣先の社長・石神以上に固く閉ざされており、ノブレスに対する強い拒絶を示していたためだ。
それと同じくらい、加藤とマサキはトリニティ兄妹たちに対する親近感を抱いていた。と言うより、“トリニティ兄妹たちの姿に何か別の出来事を重ねて見ている”ような雰囲気を感じた。
(その答えが、これかぁ……)
業務終了のアナウンスを受け、マリアンヌに仕事を引き継いでJUDAへ戻ってきてから暫く後。刹那の理念を顕現したガンダムの持つ力――その副産物で、加藤久嵩の過去が流れ込んでくるのを感じながら、ノブレスはため息をついた。
眼前に広がる光景は、第二次世界大戦の一幕――マキナの裏切り者・ジュダから情報を引き出すためのファクターとして、加藤が石神を見出したときのものだ。加藤にとって石神は一番信じられる腹心であり、一番頼れる相棒だったのだろう。
けれど、ジュダを手にした石神は、何も言わずに加藤たちの前から姿を消した。それだけでは飽き足らず、加藤機関の方針に対して横槍を入れてくるようになったのだ。
<何故だ石神! 何故、我々を裏切ったんだ……!>
<石神さん……どうして……?>
愕然とする加藤の後ろで、マサキが途方に暮れたような顔をしているのが《視えた》。石神が加藤を裏切り去っていったとき、菅原マサキは既に加藤機関に籍を置いていたらしい。
彼は親を亡くしており、石神に面倒を見て貰っていたようだ。傍から見た2人の様子は『親子』と称しても過言ではないだろう。けれど、石神はマサキに対しても、何も言わなかった。
加藤とマサキの姿に既視感を覚えたのは、ノブレスが石神側の人間として加藤やマサキ側の人間であるトリニティ兄妹を見ていたことが理由だ。ノブレスもまた、教え子に何も言わず加藤機関へ来たのだから。
“自分たちの組織に、自分たちを置いていった男とよく似た経緯を持つ野郎が所属している”という図式故、加藤とマサキは大変複雑な気持ちでノブレスを見ていたのだろう。
味方がジェネリック石神、敵側にジェネリック加藤&マサキがいるという図故に、“僚友たるノブレスへの風当たりが強く、敵であるトリニティ兄妹を気にしている”という形で態度に出たらしい。
最も、ノブレスがJUDAに戻った――加藤たちから見れば“加藤機関を裏切ってトリニティ兄妹に合流した”ように見えるのだろう――姿を目の当たりにした途端、どちらにも風当たりが強くなったけれど。閑話休題。
『教官、これだけは言っておくね』
『あたしたち、教官のこと、信じてるから』
『アンタが加藤機関にいるのは、何か理由があるんだろ? 俺たちにも言えないような何かが』
『あのときの貴方もそうでしたね。……私たちのことなど捨て置けば楽だったのに、そうしなかった。そうしないで、真っすぐに向き合ってくれた。私たちを救うために無茶までした』
『そのとき、私は思いました。“貴方を信じることが出来なかった自分が恥ずかしい”と。……だからこそ、今度は最初から最後まで、貴方を信じ抜くと決めたのです』
(……彼らはどんな気持ちで、あの子たちの言葉を聞いていたんだろう)
石神と袂を分かった加藤機関は、石神が立ち上げた組織――JUDAを強く敵視し、激しい戦いを繰り広げている。JUDAに対する敵意は、石神に対する信頼が裏返った結果の産物だった。『安心して待っていてください』という言葉を信じて待った結果が裏切りだったが故に、信頼はそのまま敵視へ変貌してしまった。そうして彼らは、石神の行動の真意を追及することを止めてしまう。
彼らの行動は、丁度、トリニティ兄妹たちとは正反対だ。ヨハンも、ミハエルも、ネーナも、ノブレスが加藤機関に身を置く真意を追及し続けた。何度袖にされても諦めずに食い下がり、ノブレスの真意を汲み取ろうと努力し、何度も揺らぎながらも、最後は『ノブレス・アムを信じる』と告げた。その言葉を体現し続けたのだ。ノブレスが彼らの元へ舞い戻るまで。
けれど、ノブレスとトリニティ兄妹に対して注視し続けた理由は、ジェネリック加藤・マサキとジェネリック石神のような関係性だっただけではないのだろう。加藤にも尊敬できる師がいて――けれど、彼の魂を宿したマキナは、自分のやり方と反目する少年・早瀬浩一を後継者として選んだ。遺志を受け継ぎ、実質孤軍奮闘していた加藤のやり方と努力を全否定する形で。
「加藤くん」
「せ、先生……!」
ノブレスは眼下に目を向ける。ラインバレルの中に宿った城崎天児の思念と対面を果たした加藤久嵩が、大きく目を見開いていた。
加藤はふらふらと恩師の元へ歩み寄り、感極まりすぎて膝をつく。そのまま恩師に縋りつくような形で天児を見上げた。
「ありがとう。キミは僕の代わりに、たった一人で戦ってくれていたんだね」
「先生、僕は……」
そんな教え子を天児は労わる。加藤の努力と頑張りを認め、礼を述べた。加藤は何かを言おうと口を開いたが、結局何も言えないままだった。
ラインバレル越しではあるものの、天児は加藤の戦いぶりを見守っていた。加藤が自分を生贄にするような形で人類を守ろうとして、実質1人で傷ついてきたことも知っていた。そのやり方が正しくないことを伝えたくとも、加藤に生贄になってほしくないと願っていても、彼に対して直接伝える術を持たなかった。
浩一が天児の代わりに彼の遺志を伝えたが、それは加藤のトラウマ――石神に裏切られた――をフラッシュバックさせるだけでしかなかったのだろう。故に、彼は“尊敬する恩師にも裏切られて、見捨てられてしまった”ような気持になってしまったのだろう。刹那のガンダムが無ければ、加藤は天児の想いを知らないまま、誤解したままになっていたのかもしれない。
「でも、もういいんだ。キミはもう、充分に戦った」
「し、しかし……!」
交わした言葉は少ないが、意識共有領域は彼らの想いを余すところなく伝え合う。天児は加藤による人類への献身を正しく理解し、加藤は天児の思いやりを正しく理解していた。
天児の言葉は、“加藤久嵩を生贄にして人類を守る”という戦いを繰り広げた加藤を慮るものだ。“加藤1人が生贄になるようなやり方を続けなくていい”という想いが込められている。
だが、それでも加藤が言い募ったのは、『それ以外に道はない』と思い込んでいるから。『とうに覚悟を固めて身を捧げてきた自分には、新たな道を選べない』と思い込んでいるから。
そんな加藤に対して、天児は優しく笑いかける。
途方に暮れる教え子に、道を指し示すかのように。
「忘れるな、加藤くん。人は何度だって、自らの運命を選ぶコトが出来る」
天児の姿が希薄になっていく。意識共有領域を展開できる限界時間が近いのだろう。
加藤が大きく目を見開いた。天児も加藤と話せる時間に終わりが迫っていることを悟ったらしい。
彼は教え子に語り掛ける。恐らくこれが、天児が加藤に残す“新たな遺言”。託す願い――或いは、遺志。
「壊してくれ。マキナたちの創った、かりそめの未来を……。早瀬くんや、絵美たちと共に――」
「先生ぇぇぇぇぇーッ!!」
まるで夢から覚めるように、意識共有領域を展開していたGN粒子の光が消えた。
世界は東京へと戻り、各機の様子を視認できるようになったらしい。
アルティメット・クロスはおろか、敵である加藤機関の機動兵器も沈黙を保っている。
「……人は、何度でも、運命を――」
囁く様な調子で加藤が呟いた声が聞こえる。
怒涛の展開に頭を殴られ続けたのか、加藤機関は更なる攻撃を行わなかった。どこか危ういような調子で全機撤退していく。
ノブレスを始めとしたアルティメット・クロスは、その背中を見つめることしかできなかった。
◆◆◇
ヴェーダが第3者からの介入を受けていたことは、以前から既に把握している。ただ、介入している相手に関しては、長らく尻尾を掴めずにいたのだ。
『キミのサイオン波が作用した場所を調べてみたんだけど、該当地区にはアロウズのネットワークシステムに関する施設があったよ』
『……と言っても、大分前に“別の地域に移転することになったみたいで、既に破棄されて跡地になっていた”みたいだけど』
『唯一掴めたのは“ネットワークシステムに関する技術がS.D.体制由来である”くらいかな』
今回の一件――何かを中継地点にして、カテドラルにいたノブレスに対して何者かが干渉してきた――もまた、相手の尻尾を掴むまでには至らない。ノブレスの報告を聞いたリボンズが情報を洗い出してくれたが、こちらが望むような情報は何一つ出てこなかった。
“アロウズのネットワークシステムに関連する施設”という字面は非常に魅力的であったが、“移転に伴い、施設は既に破棄された”という要素の方が強かった。アロウズは情報統制に優れている組織故に、情報漏洩対策が徹底しているのだろう。
最も、S.D.体制下では“公には『破棄された』と公表されていたが、実は施設内部のメインシステムは休眠状態だった”という例もある。該当者、もとい端末名はマザー・イライザだ。
公では『ミュウ因子を持つ生徒が紛れ込んでいたため、ステーションE-1077は廃棄処分が決定した』とされており、『マザー・イライザもそれに伴って破棄された』ことになっていた。
しかし、奴は【無垢なる者】――人類側の指導者として産み落とされたキースを育英するための端末であり、『いずれキースが真実を求めてE-1077にやって来る』ことを想定して機能を残されていたのだ。
真実を知ったキースによる凶行、及び、マザーネットワークから“役目が終わった”と見なされたことでイライザはネットワークから切り離され、ステーションE-1077の大気圏突入によって施設ごと崩壊している。
『S.D.体制下で使い潰されたマザー・イライザという例もある。もしかしたら、キミが吹き飛ばしたあの一角にも、アロウズのネットワークシステムから切り離された生贄の端末があったのかもしれない』
リボンズの見解を聞く限り、それは“トカゲのしっぽ切り”と言えるような運用方法だ。そうして恐らく、トカゲのしっぽ切り――今回の一件の様な運用を行うために生み出され、張り巡らされた生贄用の端末が世界中に点在しているのだろう。何/何処を中継地点にしているかは分からないが、中継地点には一切被害が起きないような仕組みやプログラムが組まれているのかもしれない。
ヴェーダに対する介入がある以上、アロウズのスーパーコンピュータ関係はアプロディアに任せるしかない。普段の状況であれば“双方を活用することで情報精度を上げることが出来た”だろう。状況は相変わらず厳しいままだ。ソレスタルビーイングも、悪の組織/スターダスト・トラベラーも、ギリギリの綱渡りが続いている。
総帥たるベルフトゥーロが無事に戻ってきたとはいえ、リボンズが多忙であることは変わらない。ヴェーダに介入を行う存在やアロウズの動向を追いかけるだけではなく、ヴェーダのブラックボックス内部で進行中の
『ちゃんと休憩取ってますか?』
『倒れない程度には』
『目の下のクマについては何と申し開きしたんです?』
『『仮面付けてた頃の
茶化すような調子で声をかけた結果、割とガチトーンで返答された。しかも、ノブレスにとって痛いところを突くような内容で。
おかげでトリニティ兄妹たちからは散々苦言を呈されたし、カテドラルのクルーたちからも窘められたし、プトレマイオスと合流予定の面々からは心配された。閑話休題。
「……だろうと思ったんですよねェ」
飛来するMS、及びMDの群れ――センチュリオの一般機・アウジリアスシリーズを画面越しに睨みつけながら、ノブレスは深々とため息をついた。
機体の所属はアロウズではあるものの、機体に搭乗している人物に関するデータはみんなデタラメだ。相変わらず“情報収集型のイノベイドが行方不明になっている”一件が解決していないことを鑑みると、今回のパイロットも“思考プログラムを施されたイノベイド”である可能性が濃厚である。
“ヒトと共に歩む存在”としてイノベイドの在り方を定めたリボンズ一派にとって、このケースは胸糞悪い出来事であることは容易に想像がつく。だってこんなの、コーナー家やハーヴェイ家の先祖が企てた計画――イノベイドをマイスターにして使い潰す――と何も変わらないためだ。
蛇足だが、リボンズ曰く『“ガンダムマイスターをイノベイドで構成し、彼らを使い潰す”以外の理由で“ガンダムマイスターをイノベイドにする”ことを提唱した人物がいた』とのことだ。
該当者はビサイド・ペイン。イノベイドの
彼は予てから度重なる
「センチュリオ・アウジリアス、真っすぐこちらに向かっています!」
「本当、ご都合悪い主義並みにタイミングいいんだから……!」
「ハラタツゼ、ハラタツゼ!」
エラの報告を聞いたネーナが舌打ちする。隣にいたHAROも体を弾ませた。機械音声からも分かるレベルには、怒りや苛立たしさを感じているようだ。
どういう経緯で漏れたのかは知らないが、アロウズは『ソレスタルビーイングがカタロンを逃がすための囮になった』ことを察したらしい。
だが、奴らは敢えて“本体をソレスタルビーイングに差し向け、カタロンには思考プログラムを施した寄せ集めとMDの混成部隊を差し向ける”ことにしたようだ。
「随分と舐められたものだ」
「だが、今のカタロンにとっては、あの部隊でも充分脅威だ」
「理解しているさ。“非戦闘員だろうと皆殺しにする”――それが奴らのやり方だからな」
ゼルとヒルマンは眉間の皴を深めつつ、アロウズの采配に潜む悪意を分析する。彼らに機動兵器を扱う適性があったら、迷うことなく飛び出していきそうな気配があった。
最も、彼らの得意分野はMSパイロットではないため、カテドラル艦長の采配を待っていた。カテドラルが奴らとの交戦に入れば、砲撃手としてすぐ動ける体勢である。
「使わないでいられたら良かったのだが、致し方ないな」
「備えていりゃあ嬉しいな、ってか。心配してた通りだぜ」
ヨハンとミハエルは真顔で呟く。
「僕も出ますか?」
「いいや。ソラは伏兵に備えて待機してくれ」
「分かりました」
廃棄された基地、及び
“宙継本人にもやる気がある”と言うのも加味した上でハーレイは指示を出し、宙継は二つ返事で頷いた。
ノブレスはトリニティ兄妹たちに視線を向ける。彼や彼女たちはノブレスの意図を汲んでくれたようで、何も言わずに頷き返してくれた。
刃金蒼海や
データを漁ると“生きていられた例外枠”がいたらしいが、あちらは特殊な事情が作用している。片方はその場に居合わせた機体に庇われたことで致命傷を免れ、もう片方は
そういう経緯もあって、“ノブレスが生きており、大破した愛機の後継機が既にロールアウトされている”ことはギリギリまで秘匿しておきたい。相手がこちらに無関心になっている間にどれだけの下準備や隠蔽工作が出来るかも戦術のうちである。
(ラグエルがスローネの発展形であることを掴むのは至難の業でしょう。何せ、ラグエルは
格納庫へ向かう教え子たちの背中を見送りながら、ノブレスはため息をついた。作戦行動で割を食うのはいつもトリニティ兄妹たちだ。だのに彼や彼女は2つ返事で頷き、「ノブレスを信じている」と笑う。それが嬉しい半面、申し訳なく思う。
ならばせめて、教え子たちの戦いを最後まで見届けなければ。ハーレイが各所に指示を出す声を聞きながら、ノブレスはモニターを見つめた。カテドラルのハッチが開き、MSが飛び立つ。
真っ先に飛び出したのは、ヨハンのガンダムラグエル-フィオリテだ。続いてミハエルのラグエル-フォルス、最後にネーナのラグエル-フルールが戦場へと躍り出る。
眼下からカタロンの構成員たちの声が上がった。期待と不安に満ちた眼差しを受け止めながら、ラグエルたちはセンチュリオ・アウジリアスの群れと対峙する。カタロンが別の支部に辿り着くまで、教え子たちは奴らと戦わなくてはならない。
おそらく、思考プログラムを受けたイノベイドやMDたちは殲滅戦の用途で投入されているだろう。彼や彼女らはキルモードのオートマトンと同じく、“対象物が完全に沈黙するまで攻撃を続ける”のだ。つまり、人間相手だと、人間の生体反応が無くなるまで攻撃し続ける。
<思考プログラムを受けたイノベイドとMDで構成された部隊ですが、油断は禁物です。カタロン、及び非戦闘員を守り抜くことを最優先に動いてください>
<了解しました。……それと、これは我々の独断なのですが>
<?>
<思考プログラムを施されたイノベイドも、出来る限り救出を試みます>
思念波で《聲》を届けてきたのはヨハンであるが、彼が言う『我々の独断』にはミハエルやネーナの意志も込められているのだと思う。教え子たちの成長を実感したノブレスは、思わず口元を緩めた。
思考プログラムを施された人々はみな、例外なく“命を落とす”か“廃人と化している”の二択。例え彼らの命を救えたとしても、思考プログラムを受けた後遺症でまともな状態ではいられない。
だとしても、彼や彼女たちもまた、無辜の人々の1人だ。本来ならば人間社会に溶け込み、ヒトとして一生を終えるはずだった一般人。彼や彼女たちが生まれたのは、こんな形で使い潰されるためではないはずだ。
現時点では、思考プログラムを受けて廃人化したイノベイドたちを救う手立ては見つかっていない。悪の組織/スターダスト・トラベラーの面々――特に第1幹部とその配下が調べまわっている最中だ。
生まれたルーツが違えど、トリニティ兄妹は人間である。人間がイノベイドのことを慮る姿を見たら、何を思うだろう。特に、“人間に使い潰される未来を拒み、イオリアに喰ってかかった最初のイノベイド”は。
<……許可します。但し、最優先事項を忘れないこと>
<はい>
教え子の成長と、“自分には勿体ない子たちだ”という気持ちを改めて噛み締めながら、ノブレスは口元を緩める。
<お前たち、油断するな>
<分かってる! 兄貴とネーナも気を付けろよ>
<了解! ぱぱっと片付けちゃおう>
<トーゼンダ、トーゼンダ!>
3人と1機は顔を見合わせ、頷き合う姿が《視える》。そうしてラグエルたちは、眼前の敵へと挑みかかった。
◆
ノブレスやアプロディアから齎された情報を精査していたリボンズは、思わず眉間に皺を寄せた。心の奥底がざわめき始める。
ざりざり、がりがり、ざりざり――何処からか不快な音が《聴こえてくる》。ラジオのチューニングを合わせる際に聞こえる砂嵐を連想したのは何故だろう。
程なくして音は《聴こえなくなった》。表示される情報は“特に問題なし”とされているが、痛烈な違和感が拭えない。リボンズは眉間に皴を寄せる。
「ヴェーダに、何かが起きた……? ――ハッキングか?」
通常、ヴェーダはハッキングに対して非寛容だ。大半が防衛プログラムによって防御されるし、仮に成功できたとしても、書き換えられるのはアクセス権くらいである。それも、閲覧制限にはあまり影響が出ない程度でだ。
アロウズが“ヴェーダと同レベルのスーパーコンピュータを有している”ことは知っていた。その力が未知数だということも分かっていたし、注意だって払っていた。
まさか、“アロウズが所持するスーパーコンピュータが、ヴェーダをハッキングし書き換えるほどの力を手にした”というのか。「厄介だ」とリボンズは歯噛みする。
誰のアクセスなのかを探ってみる。出てきたのは、『Grandmother “Terra”』というアクセスコードだ。そのコードの出どころを探ろうとし――何かに弾かれた。
防御機構が働いたのか、相手がそれを察知したのか。いずれにせよ、これ以上の追跡はできそうにない。
リボンズは盛大に舌打ちしたい気持ちを堪えた。頭が痛くなってきそうな状況である。
「リボンズ、大丈夫?」
「ヒリング」
心配そうに顔を覗き込んできたのは、ヒリングだった。彼女の手には、彼女お手製の料理が湯気を立てている。作り立てだろうな、と、リボンズはぼんやり考えた。
それを皮切りに、リヴァイヴが、リジェネが、ブリングが、デヴァインが、ひょっこりと顔を出す。リボンズの憂いやストレスを察知したせいだろう。
(僕はお兄ちゃん、僕はお兄ちゃん)
長男坊がこんなのでどうするんだ、と、自分自身に言い聞かせる。これだと、弟や妹たちに余計な心配をかけてしまいそうだ。
「大丈夫、なんでもないよ」
リボンズは穏やかに微笑んでみせる。それを見た面々は、それでも心配そうに顔を見合わせた。彼らの憂いをどうにかしたいと思うのだが、いかんぜん、うまくいかない。
家族を守るのが自分の務めだ。後から生まれた|イノベイド『同類』たちや、ヒリングやリヴァイヴらをはじめとした面々を見ていると、強くそう思う。
いつか訪れるであろう、“来るべき対話”。そのために必要なのは、人類やイノベイド、ミュウやイノベイター、それらが共に生きる世界だ。
互いの命が互いを尊重し合う世界。即ち、ヒトがヒトらしく生きられる世界。リボンズが両親と慕う、イオリアとベルフトゥーロの理想。
その成就のためにも、アロウズの存在を赦すことはできなかった。――……そうして、アロウズの後ろに潜む黒幕の存在も。
「『Grandmother “Terra”』……」
このアクセスコードを、何としても辿らねば。
その前に、ヒリングが作った夕ご飯を食べて、腹ごしらえをしなければならないだろう。
リボンズが立ち上がれば、面々がぱっと表情を輝かせた。
――願わくば、この中の誰一人として、欠けることのないように。
リボンズは、心の中でひっそりと祈った。
◇◇◆
連邦を蛇蝎の如く嫌っているジオンにも、『ジオンと連邦が戦争を続けたら禄でもない
クーゴ・ハガネが所属する和平工作部隊・オルトロス隊の直属上司であるキシリア・ザビもまた、『外宇宙からの脅威が迫ってんのに人類同士で潰し合いとかやってられない(意訳)』と思っている人物だ。彼女が率いる派閥はジオン国内だけでなく、『旧連邦の腐敗体勢を許せない』と思った連邦のエースらが合流している。
このままジオンと連邦が泥沼の争いを続けていては、地球も人類もダメになってしまう――そんなこと、ジオンの軍人たちは内心理解していた。だが、表立って和平路線を打ち出すには、積み重ねられてきた怨嗟を無視できなかった。
ジオンのお偉いさんは、和平路線を打ち出して活発に動き回るキシリア派の動きを黙認している。クーゴたちオルトロス隊の面々が自由に動き回れたのは、キシリアのネームバリューや求心力以外にも、ザビ家の偉い人たちが彼女を静観、或いはバックアップに回ってくれたからだと言えよう。
(――それでも、ジオンは一枚岩になりきれない)
踊り狂う議会を見つめながら、クーゴはひっそりため息をついた。
自分たちの眼前では、キシリア派の連中がやんややんやとヤジを飛ばしあっている。
「話が進まないな……。これでは無駄に時間を浪費するだけではないか」
シャアが苛立たし気にぼやくが、幸か不幸か、踊り狂うのが忙しいお偉いさん方には聞き取れなかったようだ。故に、シャアを咎めようとする者は誰もいない。
「仕方ないだろう。ジオンにはジオンの事情があるし、あそこで語らっている上官たちは“旧連邦の体制で煮え湯を飲まされた者も多い”と聞く。私個人としては、彼らの気持ちは分からなくもない」
「我々と秘密裏に繋がっている連邦のコネクトに対しても、連邦との癒着疑惑を捨てきれないのだろう。……最も、一番の理由は別の所にあるようだが」
赤い彗星のぼやきを引き継ぐようにして、“武士道”とゼクスが肩を竦める。クーゴも頷いた。
「今まで連邦にしてやられてきた分、今回の件ではジオンが主導権を握りたい。それが無理ならせめて、
議会の中でも活発に発言している壮年の軍人たちは特に、旧連邦との戦争やイザコザで戦場を駆けた――若しくは煮え湯を飲まされ続けた生き残りたちである。今回の和平交渉は、今までの溜飲を少しでも下げるチャンスだと考えているのだろう。妥協はできない。
その怨嗟が続く限り、キシリア派の和平路線は進まない。せっかく正統ジオンとして独立し、新たな風を吹かせようと奔走しているというのにだ。怨嗟と腐敗が斜め上の方向に絡みついたが故の停滞である。クーゴは外部からやって来た人間故に、旧い軍人たちのプライドは理解できそうになかった。
正直に言う。話し合いを眺めているのはもう飽きた。かといって、自分の立場は迂闊な発言など許されないワケで。
過去の因縁や蟠りが事態を停滞させている。過去はもう変えることは出来ないし、戦いで失われた命が戻ってくることは無い。変えられるのは未来だけ。
あそこで議論する軍人たちは、良くも悪くも“過去の犠牲を悼むというところで歩みを止めてしまった”人々だ。
過去負った傷の痛みを覚えているからこそ、踏み出すことに臆病になっている。そんな彼らを一方的に責めるというのは、何か違う気がした。
「みんなが納得する方法、かぁ……」
クーゴが考え込んだ、丁度そのとき。
『行くぞ! ガンダムファイトォォ……レディー……!』
『えっと……勝敗はMSの――って! ちょ、ちょっと!? 待ってくださいー!!』
『ってことは、僕が立会人!? 待って! 規格揃えないと勝敗決められないんですけど!?』
――今一瞬、何か《視えた》ような気がする。
片方では世界規模での流行、もう片方が少女の通っている学校内でのトップを決める仕組みとして『決闘』が執り行われていた。
双方共に厳格な規格を有しており、『自分の勝敗結果を厳粛に受け止める』という決まりがあったか。
最も、ガンダムファイトで決着がつくのなら、眼前の議会は踊り狂って停滞するばかりではないのだろうが。
「ガンダムファイトで白黒つけられるんだったら、話は早いんだけどな」
「ガンダムファイト?」
クーゴの呟きを拾ったブシドーやゼクス、シャアが首を傾げてクーゴの方を向く。
クーゴもまた、彼らに向き直って説明を始めた。
「今では試合や娯楽として頻繁に開催されてるけど、元々は“国の威信を賭けた決闘”としての色合いが強かったって話を聞いたことあるんだ」
「“国の威信を賭けた決闘”か。興味深いな」
「しかも、一度試合が行われて決着がついたのであれば、“例え一国家であろうとも、異議申し立てを行うことなく粛々と結果を受け入れていた”らしい」
「なんと!? “国の威信を賭けた決闘”となれば、そう簡単に敗北を受け入れられるはずがないだろうに……」
「場外戦や妨害は頻繁に行われていたみたいだけどな。俺は詳しいことは知らないけど、コネクト・フォースには当代のキングオブハートが在籍してたはずだ」
「成程。ならば、立会人は確保できるな」
「だとしても、どうだろう。ジオンがガンダムファイト終了後の通例通り、『決着がついたのであれば、例え一国家であろうとも、異議申し立てを行うことなく粛々と結果を受け入れる』ことができるか否かって点があるしなぁ……」
オルトロス部隊の有力者4人が顔を見合わせ語らいを始めてから暫くして、ふと違和感を覚え前を向く。踊り狂っていた議会はいつの間にか静かになっており、先程まで議論を戦わせていた軍人たちがこちらを凝視していた。派閥のトップたるキシリア・ザビも、目を大きくかっ開いてクーゴを凝視している。
誰もがみんな真剣な面持ちである。何度瞬きを繰り返してみたが、夢でも幻でもない、現実の光景だ。彼や彼女らの目も本気である。ついうっかり「嘘でしょ?」と素で零してしまったが、お偉いさんたちはまったく気にしていなかった。本気の目のまま、弾かれたように動き出す。
「今すぐ、ガンダムファイトに関する情報や見解をジオンの有識者に問い合わせろ!」
「内容次第では、徹底抗戦派の連中を納得させられるかもしれない!」
「その際のプレゼンは私に任せてくれないか?」
「ならば、ジオンの代表は我々オルトロス隊に任せて頂きたい! どうしても決着を付けたい相手がコネクトにいるのです!」
踊り狂っていた議会が圧倒的な力でまとまっていく。誰も彼もがその案を称賛し、あれよあれよと話が進んでいった。そのどさくさに紛れるような形でブシドーが『ガンダムファイトの代表になりたい』と主張する。他の仮面たちもそれに続き、上官が満面の笑みを浮かべて親指を立てた。
その間にジオン側の有識者がやって来たようで、ガンダムファイトの成り立ちから現在に至るまでの歩み、過去に“国の威信を賭けた決闘”として行われたガンダムファイトに関する背景及び参加国・優勝国の事情やその後などが語られる。絵面は完全にギャグなのに、誰も彼もが真面目な顔をしていた。
程なくして、評決がとられることとなった。鳴りやむことのない、割れんばかりの勢いで響き渡る拍手。
反対派は1票。問答無用で
いや、実際、クーゴは完璧に置いてけぼり状態である。反対に1票投じたのは他でもないクーゴだからだ。本当にどうしてこうなってしまったのか。
満面の笑みを浮かべる親友・“武士道”を皮切りに、オルトロス隊の僚友たちがクーゴの肩に手を置いた。「言いだしっぺの法則発動」と、奴らの眼差しが叫んでいる。
「誰か。嘘だと言ってくれ」
クーゴは茫然自失のまま、そう呟くので精いっぱいだった。
◆
目の前では、両団体の代表者――刹那/ダブルオー、ヒイロ/ウィングガンダムゼロ、アムロ/ガンダム、ブシドー/“須佐之男”、ゼクス/トールギス、シャア/ジオングらが握手を交わしていた。
「会いたかったぞ、ガンダム」
ブシドー/“須佐之男”は、どこまでも静かな面持ちで刹那/ダブルオーを見つめていた。彼の眼差し/須佐之男のカメラアイが“愛しい相手を見つめている”ように輝いているように見えたのは、決して気のせいではないだろう。
刹那/ダブルオーもまた、同じようにブシドー/“須佐之男”を見返す。2人がこんな表情を浮かべて向かい合うだなんて、とても久しぶりの光景だ。何かある度に2人の様子を見てきたクーゴにしては、目を細めたくなるような眩しさがあった。
ゼクスとヒイロ、シャアとアムロとは一線を画す空気が漂う。勿論、それはひとえに刹那とブシドーの“本当の”関係性にあるのだが、それを暴露するような無粋な真似はしない。クーゴは素知らぬふりをすることにした。
全員、準備ができたようだ。
それを確認したドモンは厳かに頷く。
「それでは、ガンダム・ファイト! レディィィ・ゴォォォォォォッ!!」
開戦の狼煙が上がった。ドモンの言葉に、両陣営の、各MSたちは動き出した。
各々宿命の相手の元へ、わき目もふらず向かって行く。アムロがシャアと、ヒイロがゼクスと戦い始める。
その脇で、ブシドーと刹那は対峙していた。こうやって、2人が静かに向かい合うのは久しぶりのように思えた。
「生きてきた……。私はこのために生きてきた」
ブシドーは、ため息をつくようにしてそう呟いた。彼の眼差しはどこか遠い場所を見つめているように《視える》。連邦の闇で、手を/身も心も汚し/汚され続けた日々を思い出しているのだろうか。
「たとえこの身を闇に浸そうとも、キミのことを忘れさせられても、黒幕の元から逃げ出すという無様な行動を選んだとしても……この想いだけは、貫きたかった」
「ミスター・ブシドー……」
どこか噛みしめるようにして呟いたブシドーの言葉に、刹那は苦しそうに目を伏せた。
その様子を察したのだろう。ブシドーは苦笑した。
「キミが責任を感じる必要はないよ。キミ自身にその覚えはないのかもしれないが、私はずっとキミに救われてきた。だから、私はここにいる」
仮面越しに《視えた》その笑みは、彼が殺した『グラハム・エーカー』その人だ。刹那/ガンダムと再び相見えるため、蒼海の手から逃れ生き延びるために、名誉の戦死を遂げたクーゴの親友。そして――刹那・F・セイエイが愛した人。
この戦いが終わったとして、蒼海との決着をつけたとして、ミューカスとの戦いが終わったとして、きっと、彼は戻らないような気がする。『ミスター・ブシドー』という名を背負い、この世界を歩んでいく――そんな予感があった。
多分、これは、『グラハム・エーカー』の未練だ。そして、本当の意味での『ミスター・ブシドー』としての第一歩となる。彼は、刹那との宿縁に区切りを付けたいのだろう。過去を抱え、未来を見て歩んでゆくために。
「……あれ?」
「どうしたの? 沙慈」
「なんだろう。うまく言えないけど、ブシドーさんが誰かに似てるような……?」
オーライザーに乗り込んでいたクロスロード夫妻の片割れが、何かに気づいたように首を傾げる。
試合を観戦していた面々や2人の周辺で鍔迫り合いを繰り広げる面々は、「2人の間に漂う空気がおかしい」という疑問を抱いたようだ。鍔迫り合いの手が止まり、刹那とブシドーをまじまじと見つめた。
沙慈は通信越しにいるブシドーの顔を確認し、何度も何度も首をひねり唸った。そうして、何か、合点がいったように手を叩く。ルイスも同じだったようで、「あー!」と、かん高い声を上げた。
「誰かに似てると思ったけど、そうだよ! グラハムさんだ!」
「確か、刹那を愛してやまなかった人! 刹那の恋人さんよね!?」
「えええ!?」
爆弾が落ちた。戦闘中の面々含んだギャラリーが騒然となる。
「な、ばか、やめろ」と、刹那が慌てた様子で声を上げた。
それを皮切りに、ひまりとネーナが大声で問いかける。
「じゃあ、ブシドーさんと刹那は恋人同士ってこと!?」
「2人とも、どこまで進んだの!?」
「おいやめろ! 今はそんなこと、どうだっていいだろう!?」
ざわめくギャラリーを制そうと刹那が叫ぶが、顔が赤らんでいるところや狼狽えぶりのせいで、説得力は皆無である。
以前からの付き合いで、クーゴは“グラハム(現:ミスター・ブシドー)と刹那が恋人同士である”ことは知っていた。本人たちは口に出していなかったが、2人の間には確かな絆があった。
しかし、不思議なことがある。普段はあまり感情を表さない刹那が、必死になって話を逸らそうとしていた。まるで、2人の間に「何かあった」とでも言いたげである。とても、言葉にできない“何か”が。
「私個人の見解としては、自然消滅……と言うべきところなのかもしれん」
ブシドーはどこか寂しそうに笑った。もう終わってしまったのだと、その表情は語っている。――けれど、次の瞬間、開き直ったように不敵に笑う。翠緑の瞳に祈るような想いを孕ませながら、彼は盛大に叫んだ。
「だが、ここは敢えて言わせてもらおう! ――私と彼女は、もう既に一線を超えていると!!」
「ええええええええええええええええええええええええええええええ!!?」
恐ろしい爆弾発言に、この場一体が悲鳴に飲み込まれた。
……別に、そんなこと、知りたくなんてなかったのに。
*
「貴ッ様ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
「ははははははは。羞恥に悶えるキミも魅力的だな!」
ブシドー/グラハムとの関係を暴露された刹那は、羞恥心からか顔を真っ赤にしていた。彼女の怒りを反映させたかのように、2つのゼロを冠する機体がグラハム/ブシドーの機体に攻撃を仕掛ける。対するブシドーは問題発言をしながら、彼女の機体と鍔迫り合いを演じていた。
クーゴ含んだ大半のギャラリーは、ただただ驚きに声を上げることしかできない。「お前らいつの間にそんなことになってたんだ」と、言葉にするので精一杯だった。ひまりが目を輝かせ、言葉の意味を理解できなかった征士郎が首を傾げる。スオルは何を思ったのか、妻に連絡を取り始めた。
審判役を買って出ていたドモンは顔を真っ赤にしてうろたえ、ボビーが「見かけによらず熱いじゃない!」と口笛を吹き、「ブシドーが言った言葉の意味について教えてほしい」という子ども組の質問に大人組が真っ青になり/頭を抱え、テオドアに想いを寄せるネーナが「そこのところ詳しく!」と身を乗り出す。相当なカオスだ。
その中で、にこにこ笑っているイデアは強者と言えよう。
「は、『犯罪だけには走るな』って言ったのに……。いや、厳密的に、法律的に考えれば問題はないのかもしれないけど……でも……」
イデアの隣にいたビリーが崩れ落ちた。余程ショックだったようで、変なオーラを背負い、「ははははは」と力なく笑っている。
ビリーの瞳は酷く濁っていた。ブシドーと彼の愛機の勇士を見に来ていただけだというのに、とんだとばっちりである。
騒然となったのはギャラリーだけではない。代表者として戦っていたアムロ、シャア、ヒイロ、ゼクスたちも度肝を抜かれた様子だった。
「な、なんて恥ずかしい奴!! シャア、お前まさか知っていたのか!? 知っていて、刹那さんとブシドーを!? だとしたら卑怯だぞ!!」
「知らん! 今初めて知ったぞ!! 知っていたら絶対に、こんな組み合わせなど考えなかった!! 我が同僚ながら、なんてうらやま――けしからん奴だ!!」
「本当にうらやま――けしからん奴だな、ミスター・ブシドー!」
思春期の
「エピオンシステムのテスト中に見えたので、まさかとは思っていたのだが……」
額に手を当てて、ゼクスが深々と息を吐く。未来の可能性を見せることでパイロットを勝利に導く――ゼロシステムと同等の力を持つ演算システム、それがエピオンシステムだ。
ゼクスはそのテスト中に、刹那とグラハムの関係を垣間見ていたらしい。彼が困惑していたのは、この場でそんなことを悪意なく言い放ってしまったブシドーの行動だろう。
しかし、あらかじめ知っていたことが幸運だったのか、彼は立ち直りが早かった。
「と、とにかく! 今はそんなことをしている場合ではない! 我々は我々で、決着をつけるぞ、ヒイロ!」
「……にんむ……りょうかい……」
ライバルに促され、ヒイロは半ば呆然とした表情で頷いた。驚きすぎたせいで、何か間の抜けたような響きの声。流石のヒイロにもショックが大きかったらしい。
茫然とするしかない周囲の状況など何のその、刹那とブシドーは派手な剣裁を繰り広げている。2人の周囲だけが闘技場に見えてきた。クーゴは相当疲れているらしい。
周囲は相変わらずざわめいたまま。おかしな方向に転がり始めた『コネクト・フォース代表VSジオン軍オルトロス隊代表のガンダムファイト』の決着は、まだつきそうになかった。
***
雨降って地固まるという諺がある。
今回の一件は、(固まり方には難があるが)文字通りの結末だと言えた。
(ガンダムファイトが議会を通ってしまったときは、どうなることかと思っていたが……)
しかも、その戦犯にして言いだしっぺは、まさかのクーゴ自身である。踊り狂う会議に飽き飽きしてぽつりと零した言葉が、ここまで発展してしまうとは思わなかった。
何の気なしに零した言葉は、クーゴを含んだオルトロス隊のメンバー――ブシドー、ゼクス、シャアの4人だけの雑談の範囲で終わるはずだった。真面目に踊り狂っていた議会の面々とは違い、やや不真面目、且つ、突拍子もない話題でしかなかったはずなのだ。
そんな自分たちを、議会で議論を交わしていたお偉いさんたちは凝視していた。勿論、派閥の長であるキシリアも、目をかっ開いてクーゴを凝視していた。「嘘でしょ?」というクーゴの問いに対し、彼や彼女らは即行動で答え――「本気。採用!」――を示したのである。
どこぞの誰かが『想像しろ』とやたら連呼していた気がするが、クーゴは叫びたい。「お前はこれを想像できたのか」と。
程なくして誰かが『こんなもん想像できるか』と匙を投げ、『俺も想像力が足りなかったのか……』と項垂れた姿が見えた。満足した。
言いだしっぺの法則が適用され、コネクト・フォースの元へ“見届け人”として向かう羽目になったときの気持ちなど、決して貴様にはわかるまい。
つい耐えきれなくなって、コネクト・フォースの面々に土下座してしまった。「俺のせいなんだ」と洗いざらい報告した。ヒイロと刹那がポンと肩を叩き、イデアが飲み物を差し入れてくれた。涙が出た。
仮面3人組による仮面舞踏会につき合わされたアムロ、ヒイロ、刹那も災難である。一番の災難は彼女であるが、アムロも大変だったとクーゴは思った。
アムロは全然乗り気じゃなかったのに、『負けたら私の同志になってもらおう。キミの仮面も手配済みだ』なんてシャアから持ち掛けられていた。よかった、仮面なんかつかなくて済んで。
「まさか、一緒に戦える日が来るとは思いませんでした」
クーゴを真正面から見上げ、イデアは微笑んだ。
「俺もだ。前の一件以来、この面々が顔を揃えることはないと思っていた」
遠い日を思い出す。あの日、自分たちはお互いの譲れないものをかけて戦った。その結果、たくさんのものが失われてしまった。
歌い手仲間の夜鷹とエトワール、その付き人であったグラハム・エーカーと少女。戦いが始まる前に紡がれていた平穏は、もう戻ってこない。
けれど、すべてがなくなったわけではなかった。夜鷹はクーゴ・ハガネに、エトワールはイデア・クピディターズに、グラハム・エーカーはミスター・ブシドーに、少女は刹那・F・セイエイになり、形は違えどコネクト・フォースに集っている。
ここからもう一度、笑いあうことはできるだろうか。前と同じにはなれなくとも、前と同じように笑いあう日々を築きたい。クーゴは心からそう思う。イデアを見れば、彼女も頷き返してくれた。薄緑の髪がさらりと揺れる。御空色の瞳は、いつ見ても宝石のように美しい。
前の方に視線を戻す。仮面2人組がライバルたちと打ち解けあっている姿があった。ちなみに、もう1人は「機体を返しに行ったっきり帰ってこない」と見せかけて、もう1つの姿を使ってクルー内に溶け込んでいる。アムロとセイシロウが何も言わなければ/気づかなければ、あとは問題なさそうだった。
「これで、人々も戦いの愚かさに気づいてくれればいいのだが」
うむ、と、クワトロが頷いた。相変わらず大きなグラサンだ。
事情を知る人間からしてみれば、「いけしゃあしゃあと」としか言いようがなかったりする。
もっとも、クーゴも似たようなことをやった経験があるため、あまりクワトロのことを悪く言えないのだが。
「まあ、世界中へ向けた放送だからな。みんな、わかってくれるはずさ」
「そうだな。これは、地球にも宇宙にも放映されている」
クワトロの言葉にゼクスが頷いた。その言葉に、クーゴはハッとする。
まずい。これは本当にまずい。
慌てて刹那の方を見れば、顔を真っ赤にしてわなわなと震えていた。今にも湯気が出てしまいそうである。気のせいか、瞳が金色になっている気がした。
対して、ブシドーは『この戦いが全国放送されていた』ことを今更思い出したようで、「ああそうだったな」と笑った。清々しい、爽やかな笑みを浮かべている。
見ていて可哀想なくらい羞恥に震える刹那が、湧き上がる感情に任せてブシドーへと突っかかった。対して、ブシドーは誇らしげに胸を張る。「自分には何の後ろめたいこともない」と言い放った。不敵で不遜な所はグラハム・エーカーの頃から何も変わらない。
彼女はますます顔を赤らめてしまう。本当に湯気が漂ってきた気がした。そこは、刹那が“少女”であった頃と何も変わっていない。おそらく、この後に待ち受ける出来事も、あの頃と同じものなのだろう。クーゴには見当がついた。
聡い者たちは頭を抱え、朴念仁どもが首を傾げ、おちゃらけ担当どもが茶々を入れる。次の瞬間、ブシドーの体が宙を舞い、床に思いっきり叩きつけられていた。柔道の投げ技である。しかしブシドー、寸でのところで受け身を取ったらしくピンピンしていた。
「いきなり何をするのだ、少女! 私はただ、キミに、全力で愛を語ろうとしただけではないか!」
「人のプライドやその他諸々を叩き折っておいて何を言うんだお前はァァァァ!!」
ブシドーが、今度ははるか彼方へと吹っ飛んだ。運悪く近場に居合わせたアムロとクワトロを巻き込み、彼ら共々壁に激突する。
他の面々が慌てて止めに入るが、先程の「全国放送」で人一倍恥ずかしい思いをしたのは刹那なのだ。彼女を止めつつ、さりげなくブシドーをとっちめる者が続出した。
「そんな大人、修正してやる!」やら「アンタって人はァァァァ!」やら「任務了解。ターゲット、ミスター・ブシドー」やら「誰か警察を……ああそうか、自分が警察だった」やら、様々な声が聞こえたような気がする。
幼い子どもたちには、良識ある大人たちが対応してくれていた。彼らの目と耳をふさぎ、教育上に悪い情報すべてをシャットアウトする。さりげなく“理想への憧れ”もそれに協力してくれたようだった。年齢制限は大事である。
ガンダムファイトは終わったはずなのに、新しい争いの火種(……火種?)は身近に転がっていたらしい。またブシドーが宙を舞い、近くにいたケロロ軍曹と甲児を巻き添えにした。そろそろ収拾がつかなくなりそうだ。
「ああもう滅茶苦茶だよ、このおばか」
クーゴはため息をつき、ブシドーの首根っこをひっ掴む。
「俺の相棒がすみませんでした」
参事になりかけているクルー全員に対して、クーゴは深々と頭を下げた。
いつかと変わらない、いつもの出来事だった。
“どっと押し寄せた疲労感に動く気力が湧いてこなくて、傍観することしかできない自分が情けなくて、でもそれ以上に懐かしいやり取りをまた見ることが出来たという安堵が大きくて、苦労するのが自分だけではないんだなあと言う達観で満たされて、ついついこっそり笑ってしまった”ことは、一生の秘密にしておこう。
◆◆◇
「じゃあ、あのアヘッドのパイロットさんとセイエイさんは恋人同士ってことですかぁ!?」
ミレイナの悲鳴によって、クーゴは
いいや、それ以前に、何がどうしてそんな会話になってしまったのか。クーゴの意識が断線している間に、プトレマイオスはアロウズとの交戦状態に入っていたらしい。
デジャヴだ。逃れようのないデジャウを感じる。つい数秒前まで、クーゴが見ていた
刹那とグラハム/ブシドーの関係性を知らなかったのは、ソレスタルビーイングの中でもミレイナと
自分が仲間外れだと思い知ったミレイナが、不満そうに頬を膨らませた様子が《視えた》。“恋愛とゴシップが大好きな彼女に
アロウズとの交戦中だというのに、戦場には変な空気が流れている。アヘッドやジンクスのパイロットたちの一部が盛大に困惑し、ガンダムマイスターの面々は乾いた表情を浮かべながら状況に対応していた。
状況を読めず掴めていない敵指揮官機は、別な方向に困惑していた。どの道、敵機は困惑する運命にあるらしい。
アリオスと対峙するアヘッドの女性パイロットは頭が痛そうに眉をひそめた。恋人、という言葉が引っかかるようだ。
状況が状況だが、それでもミレイナの興味は尽きなかった。ブシドーに届くはずがないのに、それでも大声で問いかけた。
「ちなみに、おふたりはどこまで進んだのですか!?」
「おいやめろ! 今はそんなこと、どうだっていいだろう!?」
ざわめくミレイナを制そうと刹那が叫ぶが、顔が赤らんでいるところや狼狽えぶりのせいで、説得力は皆無である。
以前からの付き合いで、クーゴは“グラハム(現:ミスター・ブシドー)と刹那が恋人同士である”ことは知っていた。本人たちは口に出していなかったが、2人の間には確かな絆があった。
しかし、不思議なことがある。普段はあまり感情を表さない刹那が、必死になって話を逸らそうとしていた。まるで、2人の間に「何かあった」とでも言いたげである。とても、言葉にできない“何か”が。
不意に、アヘッドのコックピット内部の様子が《視えた》。まるでミレイナの声が《聴こえた》のか、ブシドーはどこか寂しそうに笑う。
「私個人の見解としては、自然消滅……と言うべきところかもしれん」
もう終わってしまったのだと、その表情は語っている。――けれど、次の瞬間、開き直ったように不敵に笑った。
「ちょっと待て!!」
クーゴは弾かれたように飛びあがった。クーゴのデジャヴが正しければ、この後、大変なことにならなかったか。
この場にいる人間たちではどうしようもないことが起こった気がする。ダメだ、ブシドーにこの先を言わせてはいけない。
慌てて制しようとしたクーゴを振り切るが如く、翠緑の瞳に祈るような想いを孕ませながら、ブシドーは盛大に叫んだ。
「だが、ここは敢えて言わせてもらおう! ――私と彼女は、もう既に一線を超えていると!!」
「ええええええええええええええええええええええええええええええ!!?」
恐ろしい爆弾発言に、この場一体が悲鳴に飲み込まれた。
「貴ッ様ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
「ははははははは。羞恥に悶えるキミも魅力的だな!」
ブシドー/グラハムとの関係を暴露された刹那は、羞恥心からか顔を真っ赤にしていた。彼女の怒りを反映させたかのように、ダブルオーがグラハム/ブシドーの機体に攻撃を仕掛ける。対するブシドーは問題発言をしながら、彼女の機体と鍔迫り合いを演じていた。
大半のギャラリーは、ただただ驚きに声を上げることしかできない。「お前らいつの間にそんなことになってたんだ」と、言葉にするので精一杯だった。ミレイナが目を輝かせ、ラッセとスメラギが魂を飛ばしたような表情で呆けている。
アレルヤとアヘッドの女性パイロットは顔を真っ赤にしてうろたえ、クリスティナとリヒテンダールが絶叫した。
その中で、にこにこ笑っているイデアは強者と言えよう。
……ここまでデジャヴに忠実にしなくていいじゃないか。
クーゴは椅子に座りこみ、天を仰いだ。
(――あれ?)
そうして、ふと、気づく。
本来なら、敵側の通信なんて聞こえてこない。GN粒子のせいで、傍受することすらままならない状態だ。
だが、先程のブシドーの声は、フルオープンでプトレマイオス中に響き渡っている。
「そういえばあいつ、人間卒業間近だった……」
4年前の時点で、グラハム/ブシドーはクーゴと似たような状態――ミュウとしての『目覚め』を迎えかけている途中だった。
思念波を展開して機体を確認すれば、彼のアヘッドが薄く発光している。どこまでも透き通った、綺麗な
まさか、彼もクーゴと同じ
<……こういうとき、なんて言えばいいんすかね?>
<えーと、えーと……おめでとう?>
<いや、リア充爆発しろ?>
<どれもおかしいってことしかわかんねーよ……>
懐かしい声だ。アキラ、ハワード、ダリル、ジョシュア――元
しかも不幸なことに、4人はこの会話を《聴いてしまった》のだろう。その結果、正気度をごっそり持っていかれてしまったようだ。文字通りの混沌である。
いや、それよりも。
(あの4人も人間卒業間近なのか……!?)
4年間の間に、部下も大変なことになっていた事実に気が遠くなった。彼らの機体には、各々赤、緑、黄色の光が瞬いている。
いつか、彼らにも変な会話が《聴こえる》ようになってしまうのではないかと思っていた。正直言って、現実になってほしくない光景だった。
気苦労を一身に背負うのは、自分1人で充分だ――そう思っていたのに。なんだろう、どうしてだか泣きたくなった。
戦場は相変わらず硬直状態である。混沌極まりない空気をまき散らしながら、誰もが一進一退の攻防を繰り広げていた。
特に、刹那/ダブルオーとブシドー/武者のような佇まいのアヘッドと、アレルヤ/アリオスと女性/特殊改造のアヘッドが接戦状態である。
「……僕だって、僕だって……!」
戦況が大きく変化したのは、後者だった。
「な、何!?」
「マリー! 僕はもう、二度とキミを離さない……!」
アヘッドの攻撃を真正面から喰らいながらも、アリオスはアヘッドへと手を伸ばす。アレルヤの叫びに応えるように、アリオスはアヘッドを掴んだ。
何とかして振り払おうとしたアヘッドであるが、アレルヤ/アリオスの意地に「負けた」と言わんばかりにGNドライヴが小規模の爆発を引き起こす。
そのまま弧を描くようにして、2つの機体は眼下の島へと真っ逆さまに落ちていく。木々の生い茂る場所に堕ちたと思ったが、細かい位置を《視る》ことは不可能だった。
丁度そのタイミングで、ダブルオーと武者のような佇まいのアヘッドの勝負も動いた。ダブルオーの機体が輝き、急速に加速し始める。あれは、トランザムだ。
高速戦闘を行うダブルオーに翻弄されながらも、ブシドーのアヘッドは真っ向勝負を挑む。刃が閃き、間髪入れず片腕が吹き飛んだ。アヘッドがたまらず後退する。勿論、刹那は追撃に移った。
ブシドーもただ逃げるだけではない。ダブルオーのピストル連射をギリギリで回避しながら、アヘッドは頭部のショートビームで応戦した。接近戦に特化させすぎたためか、遠距離武装はそれしかないらしい。
だが、圧倒的な劣勢状態でありながらも尚、ブシドーのアヘッドはダブルオーに食い下がっている。あれは、ブシドーの気迫が成せる業だ。
(相変わらず恐ろしいな)
諦めが悪くてしつこい男――それが、グラハム・エーカーの真骨頂である。ミスター・ブシドーとなった後も、根っこのところにあるものは変わらなかったらしい。
コックピットにいた彼は、どこか嬉しそうな笑みを浮かべていた。
しかし、その感情の奥底にあるのは、悲痛なまでの祈り/叫びだった。ブシドーが泣いているように見えたのは――星に手を伸ばす子どものようだと思ったのは何故だろう。
次の瞬間、ダブルオーの動きが止まった。トランザムが切れたらしい。だが、その程度の問題だけではなかったようだ。ダブルオーの体ががくんと傾く。機体はそのまま、海へと不時着した。GNドライヴから白煙が上がる。
文字通りの形勢逆転だ。ブシドーのアヘッドが、刹那のダブルオーを見下ろしている。刀の形をしたビームサーベルが、ダブルオーの首筋にひたりと付けられた。
ダブルオーの危機に気づいた他の機体が、慌てて救援へ駆けつける。逆に、アロウズは天使へ追撃しようとするであろうブシドーを援護するために近寄ってくる。
「違う」
不意に、ブシドーはそう言った。どこか怒りと憤りを感じさせるような声だった。
「キミの力は、そんなものではないだろう。そんなものではなかったはずだ」
「……!?」
何かを確かめるような調子で、ブシドーは言葉を続ける。彼の表情が泣きだしそうに歪んでいるように《視えた》のは何故だろう。
刹那が目を見開いたのと同じタイミングで、ブシドーのアヘッドはビームサーベルを鞘に戻した。そのまま、ダブルオーに背を向ける。
「未完成の機体……ならば、斬る価値もない」
「おい、ミスター!?」
隊長機の制止に耳を貸さず、アヘッドはダブルオーから離れようとして――止まる。その動きに驚いた隊長機が再び声をかけるが、ブシドーは沈黙していた。
次の瞬間、ブシドーのアヘッドが突然振り返った。カメラアイがギラリと光る。まるで、自分たちの邪魔をしようとする乱入者の気配を感じ取ったかのように。
ブシドーのアヘッドの動きに呼応するが如く、ハワードたちが乗っていると思しきジンクスたちもそちらの方向へ向き直った。
無邪気な悪意がこの場に満ちていく。その持ち主を、クーゴはよく《識っていた》。
何度も対峙してきたモノアイの天使たちだ。今回は、MDの群れを引き連れていない。次の瞬間、天使の羽が武装を展開し、実弾とレーザーの雨あられを振らせてきた!
異変に気づいたジンクスやアヘッドたちが退避行動をとる。ブシドーのアヘッドはどうしてか動こうとしないし、ダブルオーは身動きができない。
<イデア!>
<はい!>
クーゴの思念波に応えるように、刹那/ダブルオーの一番近くにいたイデア/パハリアが飛び出す。トランザムを発動させたのか、パハリアの機体が赤く光り――
「――無粋な」
パハリアが防壁を展開するよりも早く、ブシドーのアヘッドが動いた。
一閃。
サーベルの赤とサイオン波らしき青の光が閃いたと思ったとき、ブシドーのアヘッドが、降り注いだ攻撃を真っ二つに切り裂いた。まるで、誰かの――クーゴの動きを再現したかのような一撃である。片腕でありながらも、見事な一撃だといえよう。
彼の見せた動きは、いつぞや天使たちと対峙したクーゴの居合斬りとよく似ていた。アヘッドの一撃が入ったのに遅れてパハリアが割り込み、防壁を展開した。攻撃の余波がびりびりと響いたが、ダブルオーもアヘッドも無事である。
それを目にしたモノアイの天使たちは、癇癪を起したようだ。再び武装を展開し、身動きの取れないダブルオーを屠ろうとする。イデア/パハリアが迎撃しようとしたとき、ブシドーのアヘッドが天使たちを睨みつけた。
コックピット越しから、ブシドーも天使および天使のパイロットを睨みつけているのだ。肌を刺すようなプレッシャーが、この場全体を支配する。
ダブルオーより離れた場所にいるプトレマイオスでさえそうなのだ。アヘッドの傍にいる刹那やイデア、アヘッドと対峙している天使たちは、どれ程の圧力を感じているのだろう。
「……私は、貴様らのような輩が、大の嫌いときている」
大地の底から轟くような声だった。天使のパイロットはたじろいだが、それでも言い募る。
「何言ってるんだよオッサン!」
「今ここでダブルオーを倒せば、こちらが有利になることは分かっているだろう?」
次の瞬間、殺気が増大した。それに気圧されるようにして、クーゴの体は吹っ飛ばされたような形で崩れ落ちる。壁に背中をぶつけたため、痛い。
自分でさえこれなら、彼の近辺にいる人間たちは一体どんな状態になっているんだろう。不安になったが、縫い付けられたように身動きが取れなかった。
天使たちは武装を展開したまま、身動きできない様子だった。彼らの砲門は、明らかにブシドーのアヘッドを狙っている。奴らはダブルオー諸共、ブシドーを葬り去るつもりだったらしい。
「何人たりとも手出しは無用。あの機体は、私の獲物だ」
<――貴様らのような悍ましい下郎が、彼女に触れるなァッ!!>
ブシドーの声は、勤めて静かであろうとしているように聞こえる。
だが、その言葉には、激しい感情が滲み出ていた。
アヘッドがダブルオーを見下ろす。
「今回は敢えて見逃そう。次は、完全な機体での全力勝負を所望する」
それだけ言い残し、今度こそ、ブシドーのアヘッドはダブルオーから離れていった。幾何か遅れて、アロウズの指揮官機がブシドーを引き留めようと飛んでいく。しかし、引き留めることはできなかったようだ。
ダブルオーを取り囲んでいたジンクスたちの動きも鈍い。おそらく、ブシドーの殺気および気迫が尾を引いているのだろう。さらに遅れて、モノアイの天使が刹那/ダブルオー、およびブシドー/武者のような風貌のアヘッドを葬ろうと動き出す。
だが、奴らはパハリアやセラヴィー、ケルディムらの攻撃によって散開した。3機のガンダムはダブルオーを守るように陣取り、ジンクスやアヘッドたちと対峙する。間髪入れず、船内に魚雷発射を告げるラッセの声が響き渡った。
海中から飛び出した魚雷が爆ぜる。この場一帯に、高濃度のGN粒子が散布されたらしい。ジンクスやアヘッドのパイロットたちが焦る声が四方八方から《聴こえて》きた。
幾何かの間をおいて、彼らの悔しそうな感情が《伝わって》くる。彼らの気配はあっという間になくなった。
どうやらアロウズ側は撤退することにしたらしい。しかし、問題はまだ終わらなかったようだ。
「アリオスの反応、補足できません!」
「ダブルオーを収容後、他の3機はアリオスの捜索に回って! みんなはそのまま、アリオスの反応を探し続けて頂戴!」
フェルトの悲鳴と、スメラギの指示が飛んだ。クリスティナやミレイナが必死になってキーボードを叩く横顔が《視えた》。リヒテンダールとラッセも、心配そうに島の地図を見上げている。
「クーゴさん、出撃できそうですか?」
イデアからの通信に、勿論と言いかけてつっかえる。
言葉を飲み込んだのは、頭の中に
アレルヤが銀髪の女性と抱き合っている姿が《視えた》。長い間会えなかった、遠距離恋愛の恋人を彷彿とさせるような光景である。2人は幸せそうに見つめ合い、ぐっと距離を縮めた。――キス、したのだ。
次に脳裏に映ったのは、女性の加入によってある種のお祝いムードに沸くZEXISだ。アレルヤと銀髪の女性が照れた様子で互いの紹介を始めている。恋愛に首を突っ込む面々が、アレルヤと女性に根掘り葉掘り問いかけていた。
トドメとばかりに《視えた》のは、アッシュフォード学園で行われた恋のキューピット祭りで追いかけっこに興じるアレルヤと銀髪の女性である。どこからどう見ても、普通の恋人同士のキャッキャウフフだ。この追いかけっこが超高速でなければ、だが。
「――お祝いしなきゃ」
その光景を《視》終わったクーゴの口から出てきたのは、自分でも意味が理解できない言葉だった。だのに、異様な使命感がクーゴを突き動かす。がばりと立ち上がったクーゴの足は、迷うことなく厨房へ向かっていた。
「はぁ!?」
「な、何言ってるんスか!?」
クーゴの返答が聞こえていたのだろう。地図と睨めっこしていたラッセとリヒテンダールが眉間に皺を寄せたのが《視えた》。
クーゴの反応が厨房へ向かっていることにも気づいたのだろう。「お前は一体どうしたんだ」という思念が《聴こえて》くる。
クーゴだって捜索に加わりたいのは山々なのだが、何かに乗っ取られたかのように足が勝手に進んでしまうのだ。
「分からん! 俺だって、どうしてこんなことになっているのか分からないんだ!」
弁明している間に、クーゴは厨房に足を踏み入れていた。そのまま、慣れた手つきで材料を取り出し、料理を作り始める。しかも、お祝い用の――かなり手間がかかる料理だ。
尾頭付きの金目鯛を人数分取り出し、沸騰した鍋へ投入した己の行動に戦慄する。他にも、(材料から判断したものだが)ケーキやローストチキン等を作ろうとしていた。
奇行に走ったクーゴの手を借りることは不可能だと判断したらしい。面々が深々とため息をついて、アリオスの捜索に向かう/捜索を続ける様子が《視えた》。
本当に申し訳ない。クーゴは心から謝罪する。その間にも、クーゴの手は慣れた様子で料理を作り続ける。
しかも、その手は休まる様子がないのだ。……なんて不気味な光景だろうか。超常現象もかくやと言わんばかりだ。
1人大パニックに陥るクーゴであるが、どうにかする手立ては見つからない。料理を作り終えるしかなさそうだった。
*
プトレマイオスが阿鼻叫喚になっている。理由は簡単、アレルヤが女性とキスをしている現場をおさえたためだ。
その悲鳴を聞きながら、クーゴは眼前に並ぶ料理を見つめる。尾頭付きの金目鯛と豆腐の煮つけ、丸々1匹の鶏肉を使ったローストチキンーー中にはハーブをふんだんに使ったピラフが入っている――、色鮮やかなエディブルフラワーを使って作ったフラワーハーブゼリーなどが雁首揃えて鎮座していた。
和洋折衷。祝わなければならないという謎の使命感に駆られた結果がこれである。プトレマイオスから響く絶叫から、クーゴはようやく、この使命感の意味を理解した。おそらく、アリオス/アレルヤが回収されれば、ちょっとした宴が繰り広げられるであろう。
「盛り上がってるところ悪いんだが、やっと奇行が止まった」
「ってことは……」
「お祝い仕様のご飯もできた」
「やったぁぁぁぁ! 今日はパーティですねっ!!」
イデアに報告すれば、彼女はガッツポーズを取った。豪勢な食事であると確信した面々も、ぱっと表情を輝かせる。それを聞いた
2人の世界を盛大にぶち壊されたアレルヤたちは狼狽したようだが、「今日はパーティ」「主役はアレルヤ」という言葉に観念したらしい。若い恋人たちは頬を染め、はにかみながらプトレマイオスへと帰還した。
艦内のあちこちから足音が聞こえる。食堂は大変なことになるだろう。クルーたちの和やかな話し声が聞こえてきた。その中には、今日の主役であるアレルヤの声もある。クーゴは苦笑しながら、作り上げた料理をテーブルへと運んだのだった。
クーゴ・ハガネ、只今、明日を探して迷走中。