問題だらけで草ァ!! -Under the Flag-<2nd Season>   作:白鷺 葵

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【諸注意】
 1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
 2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
 3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
 4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
 5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
 9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。

 10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」、『◆』が「特殊な意味合いが含まれている」場面転換、及び視点切り替えになります。
 11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
 12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。

 13.この小説は2023年の10月時点で明らかになっている情報をベースにして執筆しているため、後の公式作品で発表・開示された情報とは矛盾が発生する可能性があります。

上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。



20.関係 -つながり-

 

 絶無僅有、開口一番、非難轟々、阿鼻叫喚。

 

 2000年代に存在した四字熟語の出てくるアニメソングのリズムが頭の中でガンガンと鳴り響く。どうしてかこの曲調が頭から離れなかった。

 終いには、色々と酷い替え歌まで作ってしまう始末である。“今の状況がクーゴにとって蚊帳の外であるから”なのかもしれない。

 イアンの妻――リンダの若さを間近で見た面々が次から次に叫ぶ。ちょっとしたお祭り状態だ。年の差婚は老若男女ともにセンセーショナルな話題らしい。

 

 

「い、意外と若い……!」

 

「犯罪ですよ」

 

 

 沙慈は目を丸くし、感嘆の息を吐く。アレルヤは咎めるような眼差しをイアンに向けていた。

 

 特に後者は“世間から犯罪者(テロリスト)とみなされる者がモラルを語る”という異様な光景が成立していた。それを突っ込む人間はいない。

 しかし、沙慈とアレルヤのリアクションの方がまだ優しい方だった。世の中、上には上がいる。勿論、それは感情の振り幅にだって言えることだった。

 

 

「何かが間違ってる!」

 

 

 そう言って激しい怒りをむき出しにしたのは、ザフトレッドのシン・アスカだ。これが『彼女いない歴=年齢』の少年であれば、彼の叫びの悲痛さはよく分かる。若者にとって“年下の女性と結婚する”というシチュエーションは憧れるものがあるためだ。

 シンの言葉に素直な賛同者がいなかった理由はただ1つ。“シン・アスカには、ルナマリア・ホークという同年代の可愛い彼女がいるため”である。2人の関係は良好で、清いおつき合いを続けていた。ルナマリアがシンと恋人関係に漕ぎつけるまで色々あったらしいが、割愛する。

 自分の恋人が血涙を流す勢いで怒りを露わにしている姿を目の当たりにしたルナマリアは「何でそこでシンが怒るのよ!」とつっこみを入れた。気のせいでなければ、ルナマリアも怒りをあらわにしているように見える。気持ちはわからないでもなかった。

 

 シンの発言は、「“自分よりも若い女性を恋人にしたかった”という邪な欲望を持っていました。今も持ってます」と言ったも同然なのだ。

 彼の言葉を悪い方面に発展させれば、「ルナマリアに対し、(彼女の努力では改善不可能レベルの)不満を抱いている」と思われても仕方ない。

 

 

「イアンさんに嫉妬してるんだよ」

 

「解説しなくていいです!」

 

「むしろ、解説してはいけなかったヤツだよ」

 

 

 いい笑顔で解説したキラにルナマリアが目くじらを立てた。やり遂げたと言わんばかりの笑みを浮かべるキラに、クーゴはひっそりと突っ込みを入れる。これ以上、彼にシンの思考回路を解説されてしまったら、シンとルナマリアの間に亀裂が入りそうだ。

 

 一歩間違えば修羅場が発生しそうな赤服の恋人たちを脇目に、ルイスがひょっこりと顔と口を出す。

 彼女の瞳は、好奇心に満ち溢れていた。恋愛話を根掘り葉掘りするイデアと似通っている。

 

 

「ってことは、イアンさんが猛烈アタックしたんですね!?」

 

「いや、その……」

 

「違うわ。アタックしたのは私なの」

 

 

 ルイスの質問に視線を逸らしたイアンに代わり、リンダがいい笑顔で親指をサムズアップした。それを聞いた女性陣から黄色い声が上がる。

 夫婦の様子からして、イアンはリンダのアプローチに押し切られるような形で結婚したらしい。しかも、かなり強引な手段だったのだろう。

 クーゴはちらりとリンダの横顔を覗き見る。彼女の横顔はアッシュフォード学園で見かけた肉食系女学生を彷彿とさせた。寒気を感じたのは気のせいではない。

 

 

「でも、よくもまあゴールインできたわよね。年齢差のことで色々言われたんじゃない?」

 

「そうね。たまーに、私たちの年齢差について、悪いように言う人もいるのよ」

 

 

 葵の問いに、リンダは困ったように苦笑した。確かに、年の差(四捨五入で)約20歳となれば、色々言う方が出てくるだろう。

 大半が年齢差を咎める者だったり、年若い妻を娶ったイアンを羨む者だったりする。あるいは、リンダの趣味に対してか。

 

 しかし、世の中には「上には上がある」という言葉があるのだ。たかだか2桁程度の年の差で大騒ぎしすぎなのでは――と思ってしまうあたり、クーゴは色々麻痺してしまったのだろう。これもミュウとして覚醒した弊害であろうか。

 

 

「最近は、胸を張って言い返せるようになったの。こんな風にね」

 

 

 リンダはいい笑顔を浮かべた。

 

 

「大丈夫よ、問題ないわ。世の中には“外見年齢20代/実年齢200歳のお姉さまが、14にも満たない少年に対して『私にキミの子どもを孕ませてくれ』なんてプロポーズする展開がある”んだから」

 

「諸君、それは私だ」

 

 

 一瞬、この場が水を打ったように静まり返った。

 

 補給部隊の船から、車椅子に乗った女性が出てくる。ベルフトゥーロだ。彼女もまた、先程のリンダ以上に晴れやかな笑みを浮かべて親指を立てた。

 そういえば、ベルフトゥーロはこの地球にやって来た時点で200歳を超えていた。イオリアとの年齢差は驚異の3桁代である。イアンとリンダの年の差なんて大差ない。

 いや、そもそも、彼女は何故、ソレスタルビーイングの補給部隊と一緒にいたのだろう。クーゴが思考回路をそちらにチェンジした瞬間、再び阿鼻叫喚が巻き起こった。

 

 

「それなんてエロゲ!?」

 

「羨ましい……羨ましすぎるぞ、イオリア・シュヘンベルグ!!!」

 

 

 健全な青少年や下心たっぷりの大人が全力で吼えた。間髪入れず、彼らは恋人/保護者に張り倒される。

 現実的な事象として、「事実は小説よりも奇なり」なのだ。

 

 

「えろげ?」

 

「何でもないよ、宙継」

 

 

 クーゴは薄く笑いながら、宙継の耳を抑えた。10にも満たぬ子どもが目の前にいる状況の会話ではないだろう。情報教育は徹底せねばなるまい。クーゴはひっそり心に誓った。

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 人間の寿命は100年程度が限度である。それ以上生きる者は、人間という括りから外れてしまうのだろう。クーゴはミュウとして『目覚め』ており、とうに人間を卒業していた。

 最古参のミュウであるベルフトゥーロが500歳程だ。もしかしたらかもしれないが、クーゴも3桁代まで生きるのだろう。人間からしてみれば、気の遠くなる時間を生きていく。

 

 

『この銀河系にやって来てから、ミュウはここに合わせて適応してきたわ。おそらく、今後も平均寿命は延びていくんじゃないかしら』

 

 

 ベルフトゥーロがけらけら笑っていたことを思い出したのは、目の前で繰り広げられるちょっとしたお祭り騒ぎが原因なのだと思う。どこかで《視た》光景とよく似たものが展開した結果だ。

 

 

「でも、年齢差のことで色々言われたんじゃないですか?」

 

「そうね。たまーに、私たちの年齢差について、悪いように言う人もいるのよ」

 

 

 アニューの問いに、リンダは困ったように苦笑した。確かに、年の差(四捨五入で)約20歳となれば色々言う人々が出てくるだろう。大半が年齢差を咎める者だったり、年若い妻を娶ったイアンを羨む者だったりする。あるいは、リンダの趣味に対してか。

 しかし、世の中には「上には上がある」という言葉があるのだ。たかだか2桁程度の年の差で大騒ぎしすぎなのでは――と思ってしまうあたり、クーゴは色々麻痺してしまったのだろう。これもミュウとして覚醒した弊害であろうか。

 

 

「最近は、胸を張って言い返せるようになったの。こんな風にね」

 

 

 リンダはいい笑顔を浮かべた。

 

 

「大丈夫よ、問題ないわ。世の中には“外見年齢20代/実年齢200歳のお姉さまが、14にも満たない少年に対して『私にキミの子どもを孕ませてくれ』なんてプロポーズする展開がある”んだから」

 

「諸君、それは私だ」

 

 

 一瞬、この場が水を打ったように静まり返った。

 

 施設の奥の方から、車椅子に乗った女性が出てくる。ベルフトゥーロだ。彼女もまた、先程のリンダ以上に晴れやかな笑みを浮かべて親指を立てた。

 そういえば、ベルフトゥーロはこの地球にやって来た時点で200歳を超えていた。イオリアとの年齢差は驚異の3桁代である。イアンとリンダの年の差なんて大差ない。

 いや、そもそも、彼女は何故“ソレスタルビーイングの補給部隊と一緒にいた”のだろう。クーゴが思考回路をそちらにチェンジした瞬間、再び阿鼻叫喚が巻き起こった。

 

 

「それなんてエロゲだよ!?」

 

「むしろエロゲなんて目じゃないッス……!」

 

「あんた何してるんだよ……」

 

 

 ロックオン(ライル)が素っ頓狂な声を上げた。リヒテンダールやラッセも戦慄する。

 現実的な事象として、「事実は小説よりも奇なり」なのだ。

 

 

「えろげ?」

 

「何でもないよ、宙継」

 

 

 クーゴは薄く笑いながら、宙継の耳を抑えた。10にも満たぬ子どもが目の前にいる状況の会話ではないだろう。情報教育は徹底せねばなるまい。クーゴはひっそり心に誓った。

 

 

「たかが2桁程度の年の差でグダグダ言うのは、そいつの器が小さい証拠よ。3桁でも同レベルだけどさー」

 

 

 ベルフトゥーロは鼻で笑いながら、年の差婚について談義していた者たち――特に、年の差婚に否定的な面々――を見上げた。

 “当時14歳のイオリアに一目惚れし、その場で「私にキミの子どもを孕ませてくれ」とプロポーズした人物”の言うことは伊達じゃない。

 ……因みに、女性が一定年齢以下の少年に手を出した場合も犯罪になる。逆のケースが当然すぎて、あまりコメントされないが。

 

 

「それ、多分、“人間卒業して長寿命を手に入れた種族”か“元から長命である種族”しか言えない理屈ですよ」

 

 

 この場にいる人間にとっての暴論をぶち上げたベルフトゥーロに対し、クーゴは思わず肩を竦ませた。

 

 異種族コミュニケーションは数多の虚憶(きょおく)で出てきたし、その度に様々なトラブルが発生している。“一方の種族が相手を一方的に脅威認定した結果、敵対し戦闘が泥沼化した”り、“異種族同士の戦闘に鉢合わせた結果、双方から敵認定されて三つ巴の争いに発展した”り、“相手種族の特異性と人類の特性が事故を起こした結果、戦闘に発展して泥沼化した”り、“そもそも相手側が対話できるだけの知性や特性を有していなかった”りするなど、挙げればキリがない。

 実際、ミュウも“人類側から一方的に脅威――或いは駆除すべき突然変異種とみなされたことが理由で、判明次第即刻殺処分される”という極限状態にあった種族だ。だが、S.D.体制が構築されたばかりの頃の人類にはミュウを進化の可能性と見出すか否かで議論が行われていたらしい。しかし、当時の彼らではその最終結果を出すまでには至らず、『後世の研究結果、及び、後世に生きる人々の判断に委ねる』という判断を下している。その間、グランドマザー含むコンピューターのプログラムは“S.D.体制が崩壊するまで一切の変更が加えられていなかった”のだ。

 

 当時の研究者は寿命で軒並みお陀仏となり、S.D.体制の構造的な問題で件の情報は歴代の国家主席――或いは、グランドマザーが生み出した無垢なる者以外には開示されなかった。

 結果、グランドマザーに組み込まれた命令――『ミュウ及びミュウ因子の抹殺』という社会体制及び体制方針を打ち出しながらも、ミュウ因子の発生を敢えて見逃す――は延々と実行され続けている。

 マザーたちにとっての最高傑作であるキース・アニアンが誕生し、彼が国家主席の地位に就き、ミュウとの会談――ひいてはミュウとの共存/グランドマザーへの反逆を選ばなければ、ミュウも人類も抹殺されていたことであろう。

 

 キース・アニアンがグランドマザーを『貴女は時代遅れのシステムだ。もういい』と断じたのは、自身が欠陥品であると自覚しつつもその在り方を変えることなく、外部からの要請を受け入れるつもりもなく、嘗てプログラムされた行動を実行し続けるだけの存在で在ろうとした一連の行動だったのかもしれない。閑話休題。

 

 

「というか、貴女はなんでここにいるんですか」

 

 

 クーゴは思わず、ベルフトゥーロへ問いかけた。悪の組織/スターダスト・トラベラーの第一幹部とその配下たち――リボンズ・アルマーク率いるイノベイドたちによってザナドゥに送り届けられたはずのベルフトゥーロが何故ここにいるのだろう?

 しかも、リンダととても仲が良さそうである。2人には“夫とは年の差婚をした”という共通点があった。リンダは2桁年上の紳士、ベルフトゥーロが3桁年下の若いツバメという差異があったが、それは些細ごとに過ぎないのだ。

 

 バリバリの女社長が若いツバメを籠の鳥にした――なんてスキャンダラスな文面だろうか。最も、今更300年前の事案を引っ張り出したところで意味はないだろうが。

 

 

「内緒」

 

 

 ベルフトゥーロは悪戯っぽく微笑んだ。そうして、彼女は何かに思いを馳せるようにして天を見上げる。

 視線の先を辿れば、そこからは宇宙(そら)がよく見えた。星を探す子どものような、キラキラした眼差し。

 “彼女は何かを見たくてここに来た”――漠然と、クーゴにはそんな予感がした。

 

 

「ああそうだ、そこの若いの」

 

「なんでしょう?」

 

「あたしの用事は秘密だけど、『あんたの機体に用事がある人がいる』から、関係ある荷物ごと届けに来たの」

 

 

 宇宙(そら)を見ていたベルフトゥーロが振り返り、クーゴを見た。彼女の発言に目を丸くしていると、背後から足音が響く。

 

 

「いやあ、この年齢(トシ)になって“お姫様抱っこされて運搬される”ことになるとは思わんかったよ。人生は何が起こるか分からんものだな」

 

「「エイフマン教授!?」」

 

 

 振り返った先にいたのは、レイフ・エイフマン。ユニオンフラッグの生みの親である技術者にして、ビリー・カタギリやリーサ・クジョウ/スメラギ・李・ノリエガの師にあたる人物だ。表向きには“ガンダムの秘密に迫ったため、ソレスタルビーイングのガンダムによって殺害された”とされている。

 クーゴはザナドゥで分かれて以来の再会に、スメラギは自身の立場や表向きの情報から“もう二度と会うことが出来ない人物”と思い込んでいたが故に、思わず驚きの声を上げていた。それを見たエイフマンは愉快そうに笑う。

 

 

「久しぶりじゃのう、ハガネくん。クジョウくんも」

 

「教授……あ、あの、私――」

 

「語りたいことは沢山あるのは、きっとお互い様だ。……だが、我々には成すべきことがある。積もる話は“全てが終わってから”になりそうじゃな」

 

「……そうですね。お互い、生き延びましょう。その機会が得られるまで」

 

「うむ」

 

 

 恩師と教え子が交わした会話は非常に短かったが、万感の思いが込められていることは《理解(わか)る》。

 

 エイフマンとスメラギはお互いを見返して微笑み合う。何も言わずとも通じ合い、分かり合えることはあったようだ。2人のやり取りを静かに見守っていたクーゴだったが、エイフマンが向き直ったことで中断させられる。

 彼がソレスタルビーイングの秘密基地にやって来たのは“はやぶさの新武装が完成したので、それを搭載するため”らしい。目的地が同じだったベルフトゥーロに便乗する形で同行したようだ。エイフマン個人はベルフトゥーロの『秘密』に関しては全くのノータッチとのこと。

 クーゴの脳裏によぎったのは、ザナドゥに居候していた頃――テストパイロット時代やはやぶさのデータ収集関連のアレコレである。直近で『機体に搭載する武装についての話し合い』をしていたのは――クーゴが覚えている限り――自立型兵器関連だった。

 

 しかし、クーゴは自立型兵器と相性が悪かった。イデアやテオドアを筆頭とした荒ぶる青(タイプ・ブルー)やトリニティ兄妹たちのようなMSパイロットをやっているミュウたちと比較しても、クーゴがぶっちぎりの最下位となる。唯一それなりの成果を叩き出せたのはロングレンジ・フィン・ファンネルくらいだ。

 尚、フィン・ファンネルと銘打たれてはいるけれど、実際の使用感覚は『大型ビームサーベル』や『高出力大型ビーム砲』に近い。技術屋であるノブレスやエイフマン曰く『ファンネルとしての性能は既存のものより劣るものの、大型ビームサーベルや高出力大型ビーム砲の欠点である“取り回しの悪さ”を解消したという意味では画期的な武装』とのこと。

 

 

「今回追加する予定の武装がコレじゃ」

 

「ベースが“ロングレンジ・フィン・ファンネル”なんですね……」

 

「キミの持つ荒ぶる青(タイプ・ブルー)の力を最大限に引き出すための補助装置みたいなものじゃ。キミの持つ力や既存武装と組み合わせることで、『大型ビームサーベル及び実体剣』や『高出力大型ビーム砲』方面での運用を想定しておる」

 

「ああ成程。最初からそっちの運用に振り切ったと」

 

 

 テストパイロットとデータ収集時のアレコレ――特に、ロングレンジ・フィン・ファンネルの運用方法――に関する話を思い出しながら、クーゴは納得して頷き返した。

 自立兵器の扱いが得意なミュウだった場合、『本体を囮に使い、ロングレンジ・フィン・ファンネルを別行動させて敵艦を一掃する』なんて運用も可能だったろう。

 随分と贅沢な使い方だ。自立型兵器はオールレンジ攻撃用の武装として使われることが多いのに、近接戦闘の適性が高いクーゴに合わせた運用方法に調整するとは。

 

 武装の説明がひと段落した後、クーゴはエイフマンに頭を下げた。エイフマンも頷き返した。

 

 

「私たちもこんな見た目ですが、娘がいるんです」

 

「もうすぐ初孫が生まれるんですよ! いやー、楽しみだなあ!!」

 

「きゃー! おめでとうございますぅ!」

 

 

 クーゴがイデアたちの方に向き直ったのと、アスカ夫妻の話を聞いていたミレイナが目を輝かせた。話題のおめでたさにつられて、何人かが感嘆の声を上げる。

 それを見ていたアレルヤが何か合点がいったかのように手を叩き、イデアの方に向き直った。金と銀の瞳には、純粋な好奇心があった。

 

 

「そういえば、イデアもミュウだよね。もしかして、キミの年齢も3桁かい?」

 

「アレルヤ。女性に年齢を聞くのはマナー違反」

 

「250年以上生きてるのに、まだ年齢のことで意地を張るの? まだまだね、イデア」

 

 

 イデアはむくれるように唇を尖らせた。が、ベルフトゥーロがあっけらかんと笑い飛ばす。実年齢を暴露されたイデアは不満そうにベルフトゥーロを睨むも、彼女はけらけらと笑い飛ばすのみであった。

 

 彼女の実年齢を知ったスメラギが凍り付く。

 にひゃくごじゅう、と、スメラギは掠れた声で唱える。

 まるで異国の言葉を鸚鵡返ししているようだ。

 

 

「……ってことは、“意中の人”との年齢差は――」

 

 

 そこまで言いかけて、クリスティナは何かに気づいたように息を飲んだ。

 

 「イデアの答えが是であった場合、何かとんでもない事案が発生してしまう」――クリスティナの瞳はそう叫んでいた。

 それを悟ったのは彼女だけではなかったようだ。刹那をはじめとした面々が、弾かれたようにイデアを見る。誰も彼も彼女も、表情が危機迫っていた。

 イデアに集中砲火していた視線が、ゆっくりとクーゴに向けられる。意味が分からなくてクーゴは首を傾げた。4人はまたイデアに視線を戻す。

 

 イデアは笑っていた。綺麗な笑みを浮かべていた。……しかし、顔の陰が普段よりも濃くなったように見えるのは何故だろう。

 クリスティナの首が軋んだ音を立てて動いた。彼女の眼差しの先には、笑みを浮かべるイデアが佇んでいる。

 

 ベルフトゥーロとアニューは何かを察したようで、薄い笑みを浮かべた。そのまま、2名は沈黙を守り続けていたが。

 

 

「ねえ、イデア」

 

「何?」

 

「イデアは、“意中の人”が何歳のときに――」

 

 

 クリスティナの問いは、きちんとした問いかけになる前に遮られた。

 彼女がその問いを完成させる前に、イデアが先手を打ったためだ。

 

 

「それはあなたのセキュリティクリアランスには開示されていません」

 

「え」

 

「市民。即刻抹殺です」

 

 

 いきなりパラノイアが始まった。しかも、PCが問答無用で死亡するシーンからである。パラノイアはPL同士の騙し合い、進行役のGMから齎される理不尽な死が特徴的なTRPGだ。これも理不尽な例だといえるであろう。

 

 己の発言をトリガーにしたのか、イデアは刹那たちの方に向き直った。マイスター一同および操舵士と通信士が表情を青ざめ、クロスロード夫婦は他人事のまま面々を眺める。

 イデアは奇妙な威圧感(オーラ)を身に纏っていた。それ以上の発言は言語道断、問答無用の粛清が待っている――イデアは一切言葉にしていないが、そんな気迫があった。

 彼女の気迫で凍り付いた者がいたように、彼女の気迫によって現実に戻ってきた者もいる。にひゃくごじゅっさい、と唱え続けたスメラギが弾かれたようにイアンへ向き直った。

 

 

「冗談と茶番はそれくらいにして、本題に入るわ」

 

 

 ソレスタルビーイングの面々が身を寄せているのはラグランジュ3にある秘密基地であった。ダブルオーの支援機オーライザーが完成し、それを受け取るためにここに来たのだ。他にも、アリオスの支援機GNアーチャーというのも完成したらしい。

 ラグランジュ3の秘密基地は、ぱっと見た程度では小惑星にしか見えない。他にも“似たような偽装を施した秘密基地”をいくつも所有しているのだろう。秘匿事項が多い組織なら考えていることだ。幸い、この基地はまだアロウズに察知されていない。

 

 

「悪の組織の技術者だけでなく、社長が直々に協力を申し出てくれたからな。機体の整備は早く終わりそうだ」

 

 

 イアンはそう言ってベルフトゥーロを見た。車椅子の女性は「任せなさい」と言わんばかりに胸を張る。

 会社社長が整備をするなんて話は前代未聞だろう。ソレスタルビーイングの面々が驚いたように目を見開いた。

 

 

「あんた、整備できるのか!?」

 

「当たり前じゃない。嘗て起こった人類との対戦では、優秀なメカニックに弟子入りして、ミュウ用戦闘機の設計開発と整備に関わってたんだから」

 

 

 「ついでにテストパイロットもやってたんだよ! 自分で設計開発して、整備もやったんだよ!」――ベルフトゥーロは自慢げに笑った。

 

 

「しかも現役ですよ。総帥(しゃちょう)に整備されたMSは、恐ろしい程高い結果を叩きだしてくれるって評判ですし」

 

「マジかよ……。500歳凄いな」

 

 

 アニューがうっとりとした口調で感嘆をこぼす。恋人の様子に動揺しながらも、ロックオン(ライル)も大きく息を吐いた。どうやらイデアGMのパラノイアは幕を下ろしたようだ。

 周囲がベルフトゥーロを見つめる中でも、スメラギとイアンは業務会話を続けている。むしろ、本題に入っているのはこの2人だけだった。

 

 

「どれくらいで終わるの?」

 

「最短で4日あればいいか」

 

「なるべく早めにお願い。アロウズの襲撃や追撃がなかったとはいえ、早いに越したことはないわ」

 

 

 スメラギは深刻そうな表情でそう言った。イアンも頷き、早速作業に取り掛かると返事を返す。その言葉に嘘はないようで、彼は技術者たちに声をかけた。

 クロスロード夫妻とベルフトゥーロが2つ返事を返し、アニューもサポートに名乗りを上げてついていく。その背中を見送った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ガンダムの整備に要する時間は、最短で5日」

 

 

 端末をいじりながら、蒼海はゆるりと笑みを浮かべる。

 

 

「アロウズの部隊がラグランジュ3にたどり着くまで、あと4日」

 

 

 そうして、と、蒼海は付け加えた。

 

 

「ソレスタルビーイングの面々は、アロウズが既に秘密基地の場所を割り出していることなんて知らない」

 

「そうなれば、多少は危機感が緩むかもしれませんわね」

 

 

 蒼海の言葉を聞いた留美(リューミン)はくすくすと微笑んだ。彼女はロゼワインを注ぎいれる。紅玉を思わせるような透き通った赤が綺麗だ。

 ふと、留美(リューミン)は蒼海のワイングラスに目を留めた。「どうぞ」と、白ワインを注いでくれる。蒼海は視線で礼を述べて、ワインを煽った。

 

 

「オーライザーの調整や機体の整備が終わる前に、ソレスタルビーイングを叩く……。オーライザーさえ使用不可になれば、刹那・F・セイエイが革新者(イノベイター)に目覚めることはない」

 

 

 オーライザーはダブルオーの切り札。ダブルオーの持つ、ツインドライヴシステムの力を最大まで引き出す。その力が、刹那を革新者(イノベイター)へと導いた。

 ならば、オーライザーさえ使用不可に――最良の結果は完全破壊なのだが――させてしまえば、ソレスタルビーイングの戦力は一気に削げる。革新者の出現も阻止できるだろう。

 刹那が革新者として目覚める機関が遅くなればなる程、事態(こと)は蒼海たちにとって有利に運ぶ。自分たちが夢見た世界の実現へと近づいていく。考えるだけで心が弾んだ。

 

 理想郷の到来を夢見て、女2人は談笑に花を咲かせる。

 歪んだ少女たちの理想もまた、蕾を膨らませていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ソレスタルビーイングを迎え撃つために展開していたアロウズの部隊にちょっかいを出し、その後は問題なく戦線から離脱した後。

 チーム・トリニティ及びカテドラルのクルーたちは、ブリーフィングルームに集っていた。件の部隊と交戦した際に手に入れたデータを展開し、エラが分析結果を説明する。

 

 

『思考プログラムが施されたパイロットが搭乗していると思しき機体を分析したところ、彼らに指示を出していたと思しきマザーコンピューターの子機があると思しき地点を割り出しました』

 

『アザディスタン領土中に複数個所ありますが、『アロウズが関わっていた施設がある』または『アロウズが関わっていたが、現在は既に廃棄されている施設』という条件で絞り込んだ結果が次の通りです』

 

 

 アザディスタン領土内に散らばったマーカーの数が一気に減った。現在稼働中の施設と既に廃棄された施設の来歴が表示される。

 

 

『第1候補地はアザディスタン内で一番大きなネットワーク関連施設です。去年、中東各地に点在させていた施設の親機になる形で建設されたばかりですね』

 

『第2候補地はスイール王国郊外にある施設跡地ですね。小規模の軍事演習用施設だったようですが、公式からは『テロリストからの襲撃を受けて廃棄せざるを得なくなった』と発表されています。……その割には、警備システムとして自律稼働しているMDが巡回しているようですが』

 

 

 何か所か提示された候補地の中で、カテドラルの現在地に近い場所はスイール王国郊外にある施設跡。1番狙い目なのは勿論第1候補なのだがだが、アロウズの主要施設と言うことで手堅い警備が敷かれていた。当然、件の施設に襲撃を仕掛けることは決定事項である。

 ただ、エラから提示されたデータの反応にもある通り、第2候補を放置することは出来ない。何せ『公式発表では『諸事情により既に廃棄されている』はずなのに、未だ警備システムが起動している』のだ。裏があるとしか思えない。

 勿論、このデータが“悪の組織/スターダスト・トラベラー関係者、及びソレスタルビーイングを釣るための疑似餌”の可能性もある。しかし今は、とにかく情報が足りない。“虎穴に入らずんば虎子を得ず”を地で行くような状況だ。

 

 チーム・トリニティ及びカテドラルの次の目的地――もとい襲撃先が決まったのは、ごく自然のことだった。

 作戦開始時間は深夜帯。増援の可能性も充分考慮した上で、作戦は決行の時間を迎えた。

 

 

<敵性反応出たよ。MD部隊、全機センチュリオ・アウジリアスで構成されてる!>

 

<みなさん、作戦行動に移ってください!>

 

 

 ブラウの報告を聞いたノブレスが合図を出せば、チーム・トリニティとカテドラルクルーが動き出した。

 

 間髪入れずにラグエルたちが空に飛び立ち、MDを惹きつけにかかる。元々S.D.体制下の技術が下地に在ることもあって、MDたちは迷うことなくラグエルたちやカテドラルに向かって殺到した。

 フルールのビットやフィオリテのファングによって動きや逃げ場を潰されたところを、フォルスのバスターキャノンによって粉砕する――やり慣れたコンビネーションによって、多くのMDが消滅する。

 施設付近のレーダー反応がごっそり減ったことを確認し、ノブレスはサイオン波を使って《飛んだ》。座標は件の施設前である。転移は問題なく成功し、眼前には廃墟となった施設があった。

 

 

「フェニックス、施設内のシステムにハッキング出来そうですか?」

 

<情報を引き出すことは無理だが、警備システムを弄繰り回すことくらいなら問題ないな! 但し、そんなに長い時間は誤魔化せないぞ!>

 

「上等! 手早く片付けますよ!」

 

<よっしゃあ! オレのコードが火を噴くぜ!>

 

 

 威勢よく返事を返したフェニックスが施設内のシステムに攻撃を仕掛けた。警備関係のアレコレに異常が発生したようで、ノブレスが施設内に足を踏み入れても通報や増援要請が出される気配はない。仕事のついでと言わんばかりに、相棒は端末に施設内部の地図を転送してくれた。

 施設内部の電源は既に落とされており、警備及び防衛に関するアレコレは必要最低限の予備電源で賄っていたらしい。『Toward the Terra』のE-1077同様、マザーコンピューター『テラ』の子機に繋がるまでの道を切り拓くには“電源を復旧させる”必要があるようだ。

 

 端末の地図を参考にして電源に関わるフロアへ向かい――施設内部は崩落が酷かったので瓦礫を移動させたり吹き飛ばしたりするのは大変だった――、部品を揃えて主電源のスイッチを操作する。

 

 程なくして、施設全体の電源が復旧した。ノブレスは端末に表示された施設の地図情報を確認する。次の目的地は、フロアの中で唯一“用途不明”となっていた区域だ。

 件のフロアに関する情報は()()()()()()()()()()抹消されていた。施設の建設に関わった者も、施設の利用者も、施設内の各業務に従事していたであろう人々も、全ての情報が秘匿されていたであろう。

 フェニックスはなかなかに健闘しているらしく、警備システムがノブレスを発見し排除へ動き出すような様子はない。一番の問題は、件のフロアに侵入するためのアレコレだろうか。

 

 

(フェニックスに協力を仰ぐことが出来ない以上、自力でハッキングしてこじ開けるか、サイオン波で突破するかの2択になりそうですね)

 

 

 地図を参照にして施設内を駆けまわり、ようやく目的地のフロアへ出入りするための扉に辿り着く。早速扉を開ける算段を立てようとし――

 

 

「――お兄様」

 

「!」

 

 

 扉の前に立っていた少女の姿を見て、思わず息を飲んだ。

 

 そこにいたのは、朝焼けを思わせるようなプラチナブロンドの髪に自分と同じマルベリーの瞳を持つ少女――イングリット・アンネ・ライヒヴァイン。今から60年以上前に、コーナー家とハーヴェイ家によって無理心中に見せかけられて殺された、テオドア・ユスト・ライヒヴァインの妹だった。

 あれから60年以上の時間が流れたと言うのに、彼女の姿は当時のまま。当時の時点でミュウとして覚醒していたのだから、種族の特性という点では何らおかしいことではない。問題点があるとするなら、“当人は既に亡くなっており、遺体は墓で眠っている”ことだろうか。

 

 

「――テオドアお兄様」

 

 

 あの子の声は、もう二度と聞くことが出来ないと思っていた。『故人に関する記憶で、一番最初に忘れてしまう記憶(モノ)は“相手の声”である』という話題がある。

 人間に比べれば体感時間の経過が緩やかなミュウであっても同じこと。ノブレス/テオドアにとって、家族の声は既に忘却の彼方になりつつあった。

 テオドアの名を呼ぶイングリットのそれは、確かに、過去で何度も聞いたものを同じだった。一抹の懐かしさを感じてしまったのは、長く生きる種族故の特徴か。

 

 唯一違うことがあるとするなら――イングリットと言う少女は“温度を感じない、平坦な調子で喋るようなタイプじゃなかった”ことだろう。

 

 

「――ここから先に立ち入ってはなりません」

 

「……イングリット」

 

「――お引き取りを、テオドアお兄様」

 

 

 イングリットは淡々とした調子でテオドアへ警告する。微動だにせず睨みつけ返したテオドアの反応が答えだと理解したのか、少女が手をかざした。

 青い光が舞い、激しい雷光が迸る! テオドアはシールドを展開することでそれを防いだ。兄に攻撃を仕掛けていると言うのに、妹は冷淡な表情を崩さない。

 

 

『お兄様。貴方が夢を追いかけると言うなら、お父様も、わたくしも何も言いません。“異端審問官”当主の役目はわたくしが引き受けます』

 

『……ですが、もしも。もしもお兄様が、“同胞”のコミュニティ内で、技術者としての道を選ぶのであれば――』

 

『私が駆るであろう機体の設計を、お兄様に任せたいのです』

 

『お兄様とのつながりがあるのなら、わたくしは安心して戦えますから』

 

 

 遠い昔、イングリットと交わした会話が脳裏によぎる。

 

 イングリットは才色兼備を地で行くような少女だった。学校は普通に飛び級していたし、誰も彼もが妹を“才女”と褒め称えていた。MSパイロットとしての才能を開花させたことで、軍や民間軍事企業から引く手数多だった。特に格闘戦では無類の強さを誇っていた。

 “常に知的でクールな立ち振る舞いをする才女が格闘戦を得意としている”というギャップにつられた野郎どもが、呆気なく袖にされていた現場を何度見てきたことだろう。狼藉に走ろうとした連中が秒で鎮圧された光景だって何度も見てきた。

 

 あの子がドリル関係の機体が大好きだったことを知っているのは、両親と自分だけだろう。MSの好みは父親譲りだった。

 『お兄様が技術者の道を選ぶなら、わたくしの機体を設計開発してほしい』と語っていた彼女が、武装の好みを語ってくれた。

 グーパン・キック・ドリルに拘り、同じようなものを好んでいた父と激論を繰り広げていた現場は今でも忘れられない。

 

 

『わたくし、“カクテルが似合う女”を目指します。社交界は情報の宝庫ですから』

 

『“異端審問官”としての役目を全うする中には、潜入も避けては通れないでしょう』

 

『お父様たちが『社交界に慣れておけ』って言ったのは、そういう部分もあったからですよ』

 

 

 遠い昔、イングリットと交わした会話が脳裏によぎる。

 

 家業について話してくれたあの子は、カクテルをよく飲んでいた。年齢が未成年のため、ノンアルコールカクテルが主だったけれど。

 特に彼女が気に入っていたのがシャーリーテンプル。カクテル言葉は“用心深い”だった。

 

 

『……お兄様』

 

『わたくしと同年代の女の子にそのカクテル(シンデレラ)は、色々な意味で劇物ですよ』

 

『その子が若ければ若いほど、問題になるかもしれません。気を付けてくださいね』

 

 

 遠い昔、イングリットと交わした会話が脳裏によぎる。

 

 妹にシンデレラを奢ったら、女遊びが激しい野郎を見るような目を向けられた。あの頃の自分はカクテル言葉なんて知らなかったし、意識すらしていなかったっけ。因みに、シンデレラのカクテル言葉は“夢見る少女”である。

 イングリットとそんな雑談をしてから60年以上の月日が流れたけれど、若い女の子にシンデレラを勧めたのは、人生でたった1度だけだ。鮮やかなワインレッドの髪と琥珀色の瞳を持つ、そばかすがチャームポイントな教え子の少女の姿が鮮明に思い浮かんだのは何故だろう。

 

 

『わたくし、フォーリン・エンジェルだけは好きになれそうにありません』

 

『実物を飲んだことは無いのですが、字面がどうしても気に入らなくて』

 

 

 遠い昔、イングリットと交わした会話が脳裏によぎる。

 

 妹がそう言って、近くにいた客が注文したカクテル――フォーリン・エンジェルを忌々し気に見つめていたことがある。当時はその理由は一切分からなかったが、“異端審問官”となった今ならよく分かる。家族を死に追いやり、自分のことも殺そうとした連中たちの妄執と執念そのものだった。

 “イオリア・シュヘンベルグの計画を乗っ取って私物化する”だけでなく、“イノベイドと呼ばれる人工生命体を使い潰す”という計画を実行しようとした連中は、初代“異端審問官”によって罰せられた。以降、奴らはずっと――200年もの間、復讐と計画の乗っ取りを企て続けてきたのだ。

 その計画名が“天使たちの落日(フォーリン・エンジェル)”であることを知ったときから、自分もフォーリン・エンジェルが嫌いになった。同時に、このカクテルを好んで飲む“マッチポンプ野郎”を見ていて、時々嗤ってやりたくなることが増えた。

 

 だって、フォーリン・エンジェルのカクテル言葉は――

 

 

「“叶わない願い”」

 

 

 テオドアはぽつりと小さく呟いた。シールドを展開し続けながら、こちらに攻撃を続けるイングリットを睨み返す。

 

 『死者との再会』なんて願い、絶対に叶うはずがない。だってテオドアは、炎に包まれる家を目の当たりにした。原形を留めない程に焼け爛れた家族の死体を目の当たりにした。その中に妹がいた。

 テオドアに攻撃を仕掛けてくるイングリットの正体など、とうに理解している。マザーネットワークに属する子機が、テオドアの記憶を読み取って()()()()幻影でしかない。

 

 

「僕、イングリットと直接思念波で喧嘩したこと、一度も無いんですよ」

 

 

 迸る雷電をシールドで防ぎながら、テオドアは一歩、距離を詰める。

 イングリットは無言のまま攻撃を続けていた。

 

 

「でも、そんな僕にだって、分かることがあります」

 

 

 迸る雷電をシールドで防ぎながら、テオドアはまた一歩、距離を詰める。

 イングリットは無言のまま攻撃を続けていた。

 そうして――テオドアは、サイオン波の力を攻撃へと転用した。

 

 

「――あの子の思念波は、こんなモンじゃなかった!」

 

 

 テオドアの放ったサイオン波は、イングリットの幻影諸共扉を吹き飛ばした。彼女の幻影は悲鳴を上げることなく土煙に飲まれ、ノイズと機械音を響かせながら沈黙する。

 それを確認し、ノブレスはフロア内部に踏み込んだ。廃棄された施設の奥に広がっていたのは、小奇麗なフロア。中央に佇むのは1人の成人女性――それを模しただけの立体映像(ホログラム)

 

 

「やはり来たか、忌まわしきミュウよ」

 

 

 朝焼けを思わせるようなプラチナブロンドの髪に自分と同じマルベリーの瞳を持つ女性――大人の女性として成熟したイングリットのIFみたいな姿を象った立体映像(ホログラム)は、淡々とした調子で口を開いた。

 

 

「“対話する人間にとって、親しみのある女性の姿を象って現れる”――成程。S.D.体制下におけるマザー・イライザと同系列ですか」

 

「いかにも。我が名はマザー・リリアン。ステーションL-2066の管理、及びマザーネットワーク構築のための子機端末としての役目を担っている。最も、現在は専ら、後者専用の予備端末であるが」

 

 

 女性――マザー・リリアンは淡々とした調子で話を続けた。『Toward the Terra』に出てきたマザー・イライザは()()()()()()誰に対しても敬語で接していたが、ミュウ相手の言動については一切触れられていない。ミュウ相手に対して敬語を使った子機や親機端末が皆無だったことを考えれば、マザー・リリアンの態度は合点がいく。

 必要最低限の説明を終えたマザー・リリアンは、即座に対ミュウ兵装を展開した。成人検査による深層チェックを下地にしたそれは、ミュウの繊細さや過敏さを逆手に取った“ミュウ専用の殺傷兵器”と言っても過言ではない。脳と深層心理に対して多大な負荷をかけつつ、ノブレスの周囲に電磁パルスを展開する。

 ノブレスはシールドを展開して攻撃を受け止めたが、全てのダメージを防ぎきるには至らなかった。体全体に凄まじい疲労感がのしかかり、迸る電流の熱や痛みに思わず呻いて膝をつく。それを見たマザー・リリアンは、ここで初めて人間らしい動きをした。――満足げに高笑いしたのだ。

 

 

「ぐ……!」

 

「この世界の秩序は、マザーコンピューター『テラ』とそれを擁する人類によって成り立っている。ミュウは秩序を乱す者――よって、排除は決定事項だ」

 

<ノブレス!?>

 

 

 マザー・リリアンは楽しそうに嗤いながら、対ミュウ兵装の出力を上昇させる。施設の一部に影響を出す程の威力に達したのか、フロアのあちこちからも紫電が迸った。

 施設の異常を感知したのか、フェニックスがこちらに意識を向けたらしい。だが、彼の声はあっという間に聞こえなくなった。気配は途切れていないあたり、防衛機構から逃げ回っているのだろう。

 

 最も、今のノブレスにフェニックスを案じる余裕は無かった。服はあちこち破け、皮膚のあちこちには裂傷や火傷が走る。心なしか、何かが燃えるような嫌な臭いが鼻を衝いた。

 

 マザー・リリアンはこのままノブレスを焼き殺すつもりでいるのだろう。ノブレスは確かにミュウの中でも最強と謳われる荒ぶる青(タイプ・ブルー)だが、無敵という訳ではない。対ミュウ兵装からの集中砲火を受けてしまえば、一方的に追い詰められて嬲り殺しにされることもある。

 他にも、自身のサイオン能力やサイオン波による攻撃を突破されて動揺したところを狙い撃ちされた場合や、サイオン能力の暴走を人為的に引き起こされたことで周辺諸共吹き飛んだ場合もあるらしい。尚、この例は荒ぶる青(タイプ・ブルー)に限った死因ではないのだけれど。

 

 

「さあ、このまま焼け死ぬがいい! 荒ぶる青(タイプ・ブルー)、テオドア・ユスト・ライヒヴァイン!」

 

 

 どこからどう見ても万事休す。逆転の一手など存在しない。だって今、ノブレスは奴の攻撃に対して防戦一方を保つので手一杯だ。――いや、防戦にすらなっていない。

 

 このままだと、いずれノブレスはシールドを展開することが出来なくなる。そうなってしまったら、マザー・リリアンの言葉通り焼き切られてお陀仏だ。そんなことは分かっている。

 どうにかする手段を模索したいのだが、そちらに思考を割く余裕(リソース)がない。文字通りの絶体絶命。平時であれば舌打ちの1つや2つしているような状況だ。

 

 

<――教官!>

 

 

 不意に、《聲》が《聴こえた》。普段から聞き慣れていた少女のものだった。体全体を蝕むような倦怠感も、迸る雷撃の熱や痛みも、ぐっと楽になる。

 思わず視線を動かせば、鮮やかな黄色の光が舞う。淡い燐光は1人の少女――教え子であるトリニティ兄妹の末妹・ネーナの姿を象っていた。

 目を丸くしたノブレスの手に、ネーナの手が重ねられる。一歩遅れて、再び誰かの《聲》が響き、赤と緑の燐光が舞う。ネーナとノブレスの手に手を重ねたのは、長兄のヨハンと次兄のミハエル。

 

 

『あ、ああ、あああ……っ』

 

『な、何も出来なかった……。俺たち、ガンダムマイスターなのに……!』

 

『こんな……こんな、ことが――!』

 

 

 ノブレスの脳裏によぎったのは、トリニティ兄妹たちと共に過ごした日々。

 

 1番最初に彼女や彼らと顔を会わせたとき、持ち掛けられた勝負を覚えている。長兄のヨハン以外――ミハエルとネーナは、ノブレスを教官として受け入れることを拒否した。『勝てば教官に就任、負けたら彼らの前から去る』という条件で行った模擬戦の結果は、ノブレスの圧勝であった。

 今後のことも考えて容赦なく叩きのめしたが、今から見直しても『一方的ないじめ』という例えがぴったりな有様だった。だが、この圧勝がなかったら、ノブレスは3人の教官として就任することはできなかっただろう。アレハンドロの手駒として産み落とされたトリニティ兄妹たちの未来がどうなっていたのか、今となっては想像がつかない。

 

 

『教官ー、ヨハン兄ー、ミハ兄ー。差し入れ持ってきたよー!』

 

 

『どれもおいしそうな野菜だね!』

 

『ミハエルがつまみ食いしようとするのを止めるのが大変だったのでな。花の収穫に回らせた』

 

『兄貴だってちょっと揺れ動いてたじゃねーか』

 

 

 ノブレスの脳裏によぎったのは、トリニティ兄妹たちと共に過ごした日々。

 

 彼らの教官に就任して以降、ノブレスが真っ先に行ったのは3人の情操教育であった。ガンダムマイスターの負の面として効率よく使い潰すことをコンセプトにして『調整』されたためか、3人の性格はなかなかにひん曲がっていた。特に、弟妹の嗜虐性や残虐性が目に付いたのは今でも忘れられない。

 そこでノブレスは“悪の組織が運営に関わっている孤児院や農場等に連れて行き、職場体験をさせた”のだ。嘗て家族を亡くし、世間から死んだとみなされた直後のテオドアが総帥たちにされたことを、そのまま3人に返す形となったのである。

 ヒトは“誰かが自分にしてくれたこと”――特に“自分がされて嬉しかったこと”を相手に返すことが多い。拙いながらも、ノブレスはそれに倣ってみた。人々との交流で人並みの感性や善性を獲得したトリニティ兄妹たちは、出会ったときよりもいい表情(かお)をするようになったと思う。

 

 その度に、ノブレスは3人に待ち受ける末路を憂慮せずにはいられなかった。“アレハンドロの手駒として使い潰される”という末路を、黙って見ていることなど出来るはずがない。

 『自分が彼らの前から立ち去ることになったとしても、自分の腕で生存を勝ち取れるようになって欲しい』という願いや祈りを募らせるようになるのは、当然のことである。

 

 

『来てくれた……! 教官が、助けに来てくれた!!』

 

『教官は、俺たちを見捨てなかったんだ……!』

 

『教官……! ……ほんの一瞬でも、貴方を疑ってしまった自分が恥ずかしい』

 

 

 ノブレスの脳裏によぎったのは、トリニティ兄妹たちと共に過ごした日々。

 

 (ワン)留美(リューミン)が駆る告死天使(ガンダム)――ハルファスベーゼに一方的に嬲られていた彼や彼女たちの元に間一髪で割って入ったときのことを覚えている。あと少し遅かったら、3人は絶望したまま死んでいったのかもしれない。

 希望に満ちた眼差しを向けられたとき、どうしようもなく『嬉しい』と思ってしまった。それと同じくらい、思ったのだ。『トリニティ兄妹の教官として、相応しい自分でありたい』と。……(ワン)留美(リューミン)相手に善戦した直後、乱入してきた本職の傭兵(サーシェス)に嬲られると言う醜態を晒してしまったけれど。

 

 

『『ずらかる』とは、どういうことですか』

 

『勝手にいなくなろうなんて、俺たちが許すと思ってんのか!?』

 

『どうして何も言ってくれないのっ!!』

 

 

『貴方が何者であろうとも、我々の尊敬する教官であることには変わりありません』

 

『あんたに比べれば俺たちはダメダメかも知んねーが、それでも聞き役になることくらいならできるっての。……だから、その……だーもう、言わせるなぁ!!』

 

『教官は、あたしたちに真っ直ぐ向き合ってくれたでしょ? ……そりゃあ、教官みたいにできるわけじゃないけど、そこまで人間できてないけど……どんなに時間がかかっても、絶対に受け止めるから。……だから、聞かせて。全部聞かせて』

 

 

 ノブレスの脳裏によぎったのは、トリニティ兄妹たちと共に過ごした日々。

 

 200年にも渡るコーナー家の悲願を叩き潰し、テオドア・ユスト・ライヒヴァインとしての私怨諸共清算を終えた後。

 当時のノブレスは『あの子たちはもう自分がいなくとも大丈夫だろう』と思い、3人の前から立ち去ろうと画策していた。

 その企てはリボンズとフェニックスの裏切りによってご破算にされ、最後は教え子たちからの詰問を受けることになる。

 

 それでも尚、トリニティ兄妹はノブレスのことを受け入れてくれた。『これからも自分たちの教官として、色々享受してほしい』と頭を下げて希ってくれた。

 教え子たちの成長に感嘆し、己の矮小さを恥じたのはここだけの話である。教官としても、人間としても、ノブレスはまだまだ未熟だと痛感したものだ。

 

 

『教官が兄兄ズに頼んだカクテル、色合いが2人にそっくりだよね!』

 

『じゃあ、あたしのカクテルは赤いヤツですか?』

 

 

 ノブレスの脳裏をよぎったのは、目をキラキラと輝かせるネーナの姿。

 

 ノブレスは依然、社会勉強の一環として“高級ホテルの最上階にあるレストランに3兄妹を連れ出した”ことがあった。年甲斐もなく狼狽していたヨハン、スーツに着られていたミハエル、緊張からドキマギしていたネーナの微笑ましい姿は何度思い出しても目を細めてしまう。

 

 あの日、ノブレスは3人にせがまれるような形で“彼/彼女個人に似合うカクテル、又はモクテル/ノンアルコールカクテル”を注文した。咄嗟のことだったので、長兄と次兄は“髪や瞳の色”からカクテルを連想したっけ。ヨハンにはキール・ロワイヤル、ミハエルにはブルーラグーンを選んだ。

 キール・ロワイヤルのカクテル言葉は“品格”、ブルーラグーンのカクテル言葉は“誠実な愛”――どちらも後から調べて把握したことなので、カクテル言葉に関しては後付けやこじつけの色合いが強い。けれど、2人はそれをいたく気に入ってくれたらしい。

 ヨハンは「キール・ロワイヤルに相応しい男になる」と微笑み、ミハエルは「ブルーラグーンが似合う男になる」と誓いを新たにしていたか。前者が順調な滑り出しで、後者は前途多難に見えたのはノブレスの気のせいではないのだろう。

 

 だけど、ネーナのカクテルに関しては()()()()で選んだ。髪や瞳の色ではなく、自然と『これだ』と思ったものを選んだのだ。

 “遠い昔、妹に奢って睨まれた曰く付きのカクテル”であり、“妹以外の女性では唯一ネーナに勧めたカクテル”、シンデレラ。カクテル言葉は――

 

 

「……“夢見る少女”」

 

 

 ぽつりとノブレスは呟く。あの日の少女の面影を宿した乙女が、力強く微笑み返してくれたのが《視えた》。

 黄色、赤、緑の光が瞬く。それに呼応するように、体の奥底から力が湧いてくる。心が奮い立つのだ。

 手足に力を込めて体を起こし、ノブレスはマザー・リリアンを睨みつける。そして――

 

 

「――教え子の前で、これ以上、醜態を晒すわけにはいかないんですよッ!!」

 

 

 ――ありったけの思念波を、マザー・リリアンに叩きつけてやった。

 

 ホログラムの向こう側に張り巡らされていた巨大な機械群が吹き飛ぶ。マザー・リリアンの断末魔の悲鳴は、轟音に飲み込まれるようにして消えてしまった。それと入れ替わるようにして、フロア中に展開していた対ミュウ兵装が機能停止に追い込まれる。自分の周囲に散らばった兵器を眺めながら、ノブレスはへたり込んだ。

 施設のメイン電源は今も健在。マザー・リリアンが増援要請をした様子はない。彼女が沈黙した以上、施設の防衛機構も機能停止したと考えるのが普通だろう。カウンタートラップが起動する様子もない。程なくして、音信不通だったフェニックスから連絡が届いた。彼は防衛機構との追いかけっこから無事生還し、マザー・リリアンが機能停止したことに便乗して情報をハッキングしていたという。

 

 

<マザー・リリアンの権限を使って手に入れられたのはこれくらいだな。けど、マザー・リリアンが機能停止したことを察したグランドマザー『テラ』からネットワークを切り離されちまって、これ以上は……>

 

「収穫としては充分です。各地に張り巡らされた子機の中でも、重要度が高い端末の位置が把握できたんですから」

 

<お前がそこまでボロボロになったのに、その程度しか手に入れられなかったんだ。普通罵倒するもんじゃないのか>

 

「僕じゃあ脳みそ焼き切られて死んでますよ。他にも色々情報手に入ったんでしょう? これを成果と言わずして何と言うんです」

 

 

 相棒と軽口を叩き合いながら、ノブレスは立ち上がった。体中のあちこちから痛みが走り、思わず呻いてしまった。

 トリニティ兄妹やカテドラルの面々に思念波を送って現状を確認すれば、MD部隊を含んだ防衛機構の停止を確認したらしい。

 「今から戻ります」と一言告げて、ノブレスはカテドラルへ《飛んだ》。作戦終了に和気藹々していた仲間たちが動きを止め、阿鼻叫喚の悲鳴を上げる。

 

 

「コマンダー……貴方、なんて無茶を……!」

 

「「あばばばばばばばば」」

 

「ゼルくん、ヒルマンくん! 正気に戻って!」

 

「それよりも医療班だよ! 早く手当てしないと!」

 

 

 苦言を呈するハーレイの傍で、パニックに陥ったゼルとヒルマンが機能不全を引き起こしていた。そんな2人をエラとブラウが 責して、ようやく2人は正気に戻ったらしい。慌てて思念波を飛ばしていた。

 カテドラルのブリッジが大騒ぎになったことはトリニティ兄妹たちにも伝わったらしい。ひっきりなしにノブレスを案じる思念波が飛び交った。ノブレスは思わず口元を緩ませる。

 

 

<笑い事ではありませんよ、教官!>

 

<そーだそーだ! 帰ったら説教してやるからな!!>

 

<本当に心配したんだから……!>

 

<あはは、面目ない。――でも、キミたちがいたおかげで、僕は生きて帰って来れました。……ありがとう>

 

 

 ノブレスの思念を受け取った3人が顔を見合わせた後、照れ臭そうに口元を緩めた姿が《視えた》。

 

 トリニティ兄妹と初めて出会ってから、今年で4年が経過している。ミュウにとっての4年間は瞬きにも満たない体感時間だけれど、彼や彼女たちが成熟するには充分な時間だったらしい。

 4年前は3人に対して『初めからやり直しだ』と叫んだノブレスだけれど、その言葉は4年の時間をかけて自分の方に返って来たようだ。人生80年を超えたが、まだまだ自分は未熟者のようだ。

 改めて、3人の教官として『やり直す』必要があるらしい――そんな決意と展望を胸に抱きながら、ノブレスはクルーの怒声と医療班の拘束を甘んじて受け入れたのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ソレスタルビーイングのメカニックと悪の組織/スターダスト・トラベラーのメカニックが共同戦線を張っている。

 

 夢の共演というのはこういうことを指すのだろう。ヴァスティ家の面々と何かを語り合いながら整備を行うベルフトゥーロと宙継の様子を眺めながら、クーゴはそんなことを考えた。そろそろ、時間的に休憩が欲しいだろう。

 差し入れ片手に格納庫へ入れば、丁度面々も休憩しようとしていたらしい。クーゴの来訪は喜ばれた。差し入れを差し出すと、面々は感嘆の声を漏らして手に取っていく。綺麗な狐色に焼けたフィナンシェだ。甘い匂いが漂う。

 

 

「疲れたときには甘いものって言うからね」

 

「おいしいですぅ」

 

 

 リンダとミレイナが幸せそうにフィナンシェを頬張る。その脇で、イアンはコーヒーを飲みながらフィナンシェを味わっていた。ふと、リンダが何かに気づいたようにイアンを見た。彼の口元には、フィナンシェの食べかすらしきものがついている。

 彼女は迷うことなくイアンの口元に手を伸ばした。食べかすを掬い取り、口に運ぶ。目を丸くするイアンを横目に、リンダは楽しそうに微笑みながらフィナンシェを食べ進めた。じわじわと羞恥が来たのだろう。イアンは視線を彷徨わせていた。

 母と父が仲良しなのがうれしいようで、ミレイナがきゃあきゃあ黄色い声を上げた。ベルフトゥーロが何か言いたげにリンダに視線を向けた。リンダとベルフトゥーロは顔を見合わせると、楽しそうに笑った。2人はそのまま、互いの夫婦間の惚気話へ移行していく。

 

 相変わらず黄色い声を上げる娘を諌めるイアンだが、彼もどこか楽しそうだ。

 幸福を噛みしめるかのように、口元を緩ませる。

 

 

「…………」

 

 

 その中で、1人だけ、家族とその他の交流を眺めている少年がいた。宙継である。

 

 宙継は羨望の眼差しを向けていた。やはり、彼も家族――母親である蒼海が恋しいのかもしれない。なんだかんだ言っても、宙継にとって蒼海は母親なのだ。

 虐待された子どもは、その責任を親ではなく己に向けるという。自分がダメな子だから虐待されたのだと、自分がいい子にすれば愛してもらえると信じている。

 

 

(でも、その兆候は、宙継には無かったはずだ)

 

 

 宙継は蒼海と縁を切っているし、彼女と戦う覚悟を固めたのだ。だからこうして、ソレスタルビーイングと合流したのだとクーゴは思っている。でも、子どもに「母を殺せ」というのはあまりにも酷であった。

 こんなとき、クーゴはどんな言葉をかければいいのかわからない。言葉を向ける代わりに、クーゴは宙継の隣に座った。声をかけてやりたいのに、何も言葉にできない――何てまどろっこしいのだろう。

 それでも伝わってほしいというのは我儘だ。わかっていて、でも、それ以外に、クーゴには語る術を持たない。だから、静かに宙継の頭を撫でる。宙継は驚いたように目を瞬かせたが、嬉しそうに目を細めた。

 

 宙継は頭を撫でられるのを好む。特に、クーゴが頭を撫でると表情をより一層綻ばせるのだ。

 『貴方に褒められるのが好きです』と笑った宙継の言葉を思い返す。普段からも、こうして笑ってくれたらいいのだが。

 

 

「僕って、役に立ってますか?」

 

「ああ。お前は偉いよ」

 

 

 フィナンシェを食べながら、宙継はぽつりと問いかけた。クーゴは間髪入れず頷き、より一層、宙継の頭を撫でる。宙継は嬉しそうに頬を緩めた。

 

 宙継はもくもくとフィナンシェを食べ進めていたが、また静かに視線を向ける。視線の先には、黄色い声を上げるミレイナとそれを諌めるイアンの姿があった。

 思い返せば、蒼海には関係を結んでいる男性はごまんといたが“伴侶や恋人だといえるような相手”はいない。故に、父親という存在に馴染みがないのだろう。

 

 

「お父さん、か」

 

「宙継?」

 

「…………僕のお父さんが、貴方ならよかったのに」

 

 

 かすれるような声で、宙継は呟いた。クーゴの耳は、彼の言葉をはっきりと聞き取る。しかし、その言葉を本当の意味で理解するのに、かなりの間/時間を必要とした。

 父親、という単語がぐるぐると頭の中を回る。父親、父親、父親。クーゴは、自分の中で何かが込み上げてくるのを感じていた。咳を切ったように、溢れだす。

 不意に脳裏をかすめたのは、よく似た親子の姿だった。顔は伺えないけれど、父と息子は幸せそうに手を繋いでいる。仲間たちはそんな親子を優しく見守っていた。

 

 息子は書類を周りに見せびらかす。『これを役所に提出すれば、自分たちは親子になれる』――息子は嬉しそうに周りに語った。息子の友人たちは我がことのように喜び、年上の友人たちも祝辞の言葉を述べる。

 父親はそれを見守りつつ、他の仲間たちにも報告した。武骨な男たちが次々に祝辞の言葉を述べながら、父親の肩を思い切り叩く。父親は痛みに苦笑しながらも、彼らの言葉に頷いて決意表明を語った。

 

 次の瞬間、派手な水音が聞こえた。振り返れば、涙目になった息子と顔を真っ青にした仮面の少年。書類には、少年が飲んでいたジュースがぶちまけられている。

 

 息子が半泣きになり、少年は顔面蒼白になって右往左往する。

 親子になれないと口走る息子を、父親は宥めた。同時に、真っ青になっている少年も諌めた。

 

 

『何度だって書き直すよ。お前と親子になれるなら』

 

 

 その言葉を聞いた息子が、父親に抱き付く。2人の横顔にかかっていた影が明るくなった。そこにいたのは――

 

 

「クーゴさん?」

 

 

 宙継に呼ばれ、クーゴはハッと息を飲んだ。

 心配そうな眼差しがこちらに向けられている。

 

 

「なんでもないよ。大丈夫」

 

 

 クーゴは微笑み、宙継の頭を撫でる。宙継は、嬉しそうにはにかんでいた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ソレスタルビーイングの秘密基地――通称ラグランジュ3の場所は、アロウズに知れ渡っている。何事もなければ、アロウズの部隊は今日中にラグランジュ3へたどり着き、攻撃を仕掛けていたであろう。

 アロウズの足止めをし、ツインドライヴの実験を安全に行うための時間を稼ぐことが、エイミー・ディランディ率いるクルーたちに与えられた任務である。首尾は上々と言っていい。

 

 

「相手に与えた損害は、総計で5割強。牽制によるプレッシャーも充分与えたわけだし……」

 

 

 戦果報告を読みつつ、エイミーは相手部隊の様子を確認する。

 

 アロウズの面々は、一端進軍を止めて補給を行うことにしたらしい。部隊はコースを離れ、別の場所にいた小規模の部隊と合流していた。地上からも、宇宙へ向かう部隊が確認できた。

 

 

(これで、見積もりではあと3日程到着が遅れる)

 

 

 ラグランジュ3にいるベルフトゥーロへ、このことを報告する。すぐに了承の返事が返ってきた。

 ツインドライヴの調整やガンダムの整備も順調に進んでいるようだ。エイミーは納得して頷く。

 

 

「マーク隊、ホワイトベースに帰投しました! 全機体、損傷軽微です!」

 

「わかったわ。ケイたち整備班は各機の整備を。操舵のみんなは指定されたポイントへ向けて舵を取って。全速離脱」

 

「了解!」

 

 

 ルナからの報告を聞いたエイミーはてきぱきと面々に指示を出した。指示を受けた面々も、即座に反応して動き始める。ホワイトベースは大きく舵を切り、この区域から離れていった。

 自動扉が開き、帰投した仲間たちがブリッジへとやって来た。アスルを欠いた構成ということで仲間たちはピリピリしていたけれど、その分頑張ってくれたのだ。エイミーは素直に感謝の言葉を述べた。

 

 

「みんな、おつかれさま。ありがとう」

 

「そっちこそ。おつかれさん、エイミー」

 

 

 エイミーの言葉に、アスルの代打で部隊を率いたマークが微笑む。それを皮切りに仲間たちが和気藹々と語り合う。

 

 

「キムが大活躍だったよね」

 

「今回のMVPだな。おめでとう」

 

「褒められると照れるな。嬉しいけどさ!」

 

 

 クレアとマークから賛辞の言葉を受けたキムがはにかむように笑った。彼は勝ち気と負けん気を体現するような性格だし、撃墜すればする程に自身と仲間の士気を上げてくれるムードメイカーだ。但し、感情の振れ幅が激しくて、時折周囲が見えなくなってしまうところがあるが。

 指揮官は作戦を提示するだけではない。MSの性能やパイロットの能力および性格も把握した上で作戦を練る必要がある。ミュウの場合、後者には特に気を使わなくてはならないのだ。調子に乗りやすい相手には冷静な人間からのフォローが必要である。

 

 

「キム。日本には、『勝って兜の緒を締めよ』という諺がある。今回の勝利に驕ることなく、これからも高みを目指すように」

 

「……わかってるよ、エルフリーデ」

 

 

 エルフリーデに釘を刺されたキムはムッとした様子で口を尖らせた。先程の喜びはすっかり失せてしまったらしい。

 

 ミス騎士道と呼ばれるエルフリーデは驕り高ぶることをよしとしない。調子に乗りやすい面々を諌めるのに適しているのだ。

 “清廉潔白な在り方を利用されてしまう”という弱点もあるけれど、何でもありな戦闘に身を置いてきたラナロウたちがそれをカバーする。

 性格が穏やかな面々が、尖っている面々との間を取り持つ形となっているのだ。いいチームだとエイミーは思う。采配は間違っていなかったようだ。

 

 

「アスルさんから通信入りました。すぐに合流できるそうです」

 

「わかった。指定ポイントで合流すると伝えておいて」

 

「了解」

 

 

 さて。エイミーはモニターに映し出された情報を見つめる。今のところはこちらが有利だが、どう転ぶかわからない。

 何せ、相手は軍そのものを動かすことができるのだ。民間私設武装組織はゲリラ戦が関の山である。

 

 カタロンならば、アロウズとの泥試合も厭わないのだろう。彼らのやり方を見ていると、“世界を変えるためならば、カタロンという武装組織そのものが崩壊してもいい”と考えている節がある。そうして、彼らにとっての最大の目標が“地球連邦、及び、アロウズの破壊”だ。

 下の兄――ライルはカタロンの密偵としてソレスタルビーイングに張りついているようだが、今後、彼はどうするのだろうか。イノベイドとイノベイター、およびミュウと人類の関係性について悩むことになるのは決定事項。その果てに、どんな答えを下すのだろう。

 恋人のアニューが誰かに利用される可能性があるとなれば、ライルは黙っていられまい。エイミーだって、自分の義姉になるであろう女性が生物兵器として利用されるなんて可能性を見過ごすことはできなかった。

 

 誰もが当たり前に生きる世界。革新者(イノベイター)とイノベイド、ミュウと人類が手を取り合って生きる世界。その中で、兄夫婦が笑いあう未来があればいい。

 

 

(そのためにも、頑張らなくちゃ)

 

 

 穏やかな時間は短いけれど、確かに存在している。

 和気藹々としたクルーの様子を見つめながら、エイミーは微笑んだ。

 

 

「そういやキャプテン。お兄さんの亀甲縛りの件――」

 

「――ノーコメントで」

 

「アッハイ」

 

 

 ――エルフリーデから釘を刺されてぶすくれていたキムが立ち直った際に向けられた質問のせいで、すぐ真顔になってしまったけれど。

 

 

 

 クーゴ・ハガネ、只今、明日を探して迷走中。




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