問題だらけで草ァ!! -Under the Flag-<2nd Season>   作:白鷺 葵

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【諸注意】
 1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
 2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
 3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
 4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
 5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
 9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。

 10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」、『◆』が「特殊な意味合いが含まれている」場面転換、及び視点切り替えになります。
 11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
 12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。

 13.この小説は2023年の10月時点で明らかになっている情報をベースにして執筆しているため、後の公式作品で発表・開示された情報とは矛盾が発生する可能性があります。

上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。



21.煌めく光

 

 “6人の仲間集め”――第3者からのハッキングを受けているヴェーダのブラックボックス内で進行している謎の計画である。

 ソレスタルビーイングの活動再開を皮切りに発生したこのミッションは、リボンズたちの与り知らぬところで進行中だ。

 件の情報をリボンズが把握できている理由はただ1つ。“イノベイドの中でアクセス権が1番高いのがリボンズだから”に他ならない。

 

 “6人の仲間集め”の進行度は“4人目の追加”。『仲間を見つける力』を有する情報収集型イノベイドの学生/戦闘型の特性を有する訳アリの1人目――レイヴ・レチタティーヴォ、『仲間を目覚めさせる力』を有する情報収集型イノベイドの医者である2人目――テリシラ・ヘルフィ、『仲間を繋ぐ力』を有する情報収集型イノベイドの少年である3人目――ブリュン・ソンドハイム、『機械を操る力』を有する元情報収集型イノベイドである同類殺し(イノベイドハンター)の4人目――ラーズ・グリース。

 

 しかし、計画の進行中に()()()()()()()()()()らしく、『仲間を見つける力』を担当するレイヴと『仲間を目覚めさせる力』を担当しているテリシラが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()らしい。

 ヴェーダ内部に残っている行動記録(バックログ)を確認する限り、トラブルが発生する可能性が高い行動をしていたのはレイヴの方だった。3人目であるブリュンを“仲間”に加えた直後、彼は外出している。目的地はとある無人島――曰く付きのガンダムが封印されている、ソレスタルビーイングの秘密ラボ。

 

 

(イノベイド限定とはいえ、S.D.体制下における思考プログラムとほぼ同じ力を行使できるイノベイド――ビサイド・ペインと深い関りがある場所だ。何か起きたとするならば、十中八九ビサイドが関わっている)

 

 

 件のビサイドは“リボンズと同じE.A.レイの遺伝子配列で生み出されたイノベイド”であり、一時は“アレハンドロ派の協力者”として暗躍していた同類だ。リボンズから見た彼は“腹に一物抱えている問題児”だったが、彼から見たリボンズは“いつか蹴落とそうと思っている邪魔者”でしかないのだろう。

 そういう経緯もあって、自分たちの仲は『()()()()可もなく不可もない、イオリア計画に賛同する同類として協力関係を結んでいた』仲だった。――最も、その関係は“ビサイドの独断専行が「原因で『処分』された”一件で途切れてしまったのだけれど。

 

 

『“6人の仲間集め”について、ちょっと気になることがあるんだ』

 

『今回は、僕自身の力で向き合ってみたいんだよ』

 

『大丈夫だよ! ちゃんと成果を挙げて帰って来るから、安心して待っててね!』

 

 

(――リジェネ、大丈夫かな)

 

 

 アロウズのパーティ会場への潜入任務が終了して以降、行方の分からないリジェネに思いを馳せる。彼が上記の言葉を言い残して消息を絶ったのは、ソレスタルビーイングとの情報交換を行った後。

 以降の行動記録(バックログ)を辿ろうにも、正確な行動記録(バックログ)を辿ることが出来ない。挙句の果てには現在地点も開示されないのだ。『()()()()()』と考えるのが普通であろう。

 ただ、それは“悪の組織/スターダスト・トレイマーの第1幹部としてのリボンズ・アルマーク”の見解である。“長兄としてのリボンズ・アルマーク”は、全く別な見解を出していた。

 

 リジェネ・レジェッタは、リボンズが『兄弟』と定義した同類(イノベイド)の中でも“自発性が強く、柔軟性に富んだ思考をする個体”だった。但し、思い浮かんだものは片っ端から実行・検証しようとするきらいがあるため、道徳や人権等を投げ捨て独断専行で動くのが玉に瑕である。

 それでもリボンズや周囲の人々がリジェネの発想に耳を傾けるのは、『その発想で一定の成果を挙げてきた』という実績があるためだ。リジェネはリジェネなりに、リボンズやマザーの利になる――イオリアの理想実現に近づくための突破口を探し求めているのだろう。

 

 

(弟離れ、か……)

 

 

 弟妹達の成長は喜ばしいことだ。――ただ、少しばかり、寂しいだけで。

 

 

(最近は、マザーやアプロディアと何やら話し込んでたな。僕はてっきり、アニュー専用の支援機開発の話かと思ってたんだけど)

 

 

 尊敬する母と悪の組織/スターダスト・トラベラーのバックアップを勤める頭脳にして疑似人格AIの2人が、悪戯っぽく笑って沈黙していた姿を思い出す。リボンズは思わずため息をついた。

 

 リジェネ主導で行われている秘密の話し合いに関して、他の兄弟妹たちは何も知らないようだった。把握していた内容を要約すると、“アニュー専用の支援機開発”――最近、機体の名前が『ガッデス』に決まり、能力的に類似性が高いリジェネがテストパイロットをしていた――程度。

 彼が動かしているのはその試作機にあたる機体(もの)だ。リジェネのパイロット適性評価は“ガンダムマイスターとしての水準を満たす程度の適性はあれど、純粋な戦闘型と比較すると押し負けがち”である。思念増幅師(タイプ・レッド)の能力を使った支援や連携の他に、自立兵器の扱いに長けていた。

 リボンズ率いる第1幹部に所属する面々――リジェネ、ヒリング、リヴァイヴ、ブリング、デヴァイン、アニュー――の6人の中で、純粋な戦闘型はヒリング、リヴァイヴ、ブリング、デヴァインの4名だ。それ故、リジェネがMSで戦線に出る機会は非常に少なかったりする。

 

 “6人の仲間探し”の構成員の大半が情報収集型イノベイドであり、疑惑と訳アリのレイヴ以外の面々は非戦闘員だ。尚、ラーズは“元・情報収集型イノベイドが紆余曲折の末に、自力で戦闘技能(銃の扱いや狙撃能力)を獲得した”だけで、MSを用いた戦闘能力は皆無。故に非戦闘員として括られている。MSを用いた戦闘が必要になった場合、現時点で彼らは無力であると言えよう。

 仲間の候補に選ばれたイノベイドの中にはMSを用いた戦闘技能を有していた者がいたようだが、該当者はラーズによって殺害されていた。“仲間”にまで適応されているかは分からないが、仲間()()()()()()()らしい。数多のイノベイドの中からレイヴが該当者を見つけ、テリシラが覚醒させることで初めて“仲間”として認められるシステムだ。

 

 

(僕が採用担当(ヴェーダ)なら、そろそろ戦闘に適性を持つ人材を引き入れたいところだけど――)

 

<――リボンズ!>

 

 

 そんなことを思案していたときに割り込んできたのは、ノブレスの思念波であった。

 どこか切羽詰まった様子に身を竦ませながらも、リボンズは彼の《聲》に耳を傾ける。

 

 

<どうしたんだい? そんなすごい顔して>

 

<緊急事態なんですよ! 今、秘匿通信経由でデータ送ります!>

 

 

 ノブレスの鬼気迫った形相と勢いに気圧された直後、秘匿通信で何かのデータが送りつけられてきた。リボンズはそれに目を通す。

 

 

<……は? え? ちょ、何これ? ()()()()()()?>

 

<わあ奇遇ですね。僕も一目見たときは()()思いましたよ。――でも、違うんです!>

 

 

 送られてきたのは図面である。一目見たリボンズは、思わず感想を零した。

 期せずして、それはノブレスの第一印象及び感想と同じだったらしい。

 一時は同調する姿勢を見せたノブレスであるが、即座に本題へと戻って来た。

 

 

<アレハンドロの奴、刃金蒼海や(ワン)留美(リューミン)と結託して、僕らに内緒で衛星兵器(こんなもん)の開発や出資に手ェ出してやがったんです!!>

 

 

 ノブレスの言う衛星兵器(こんなもん)――メメントモリを一言で表すなら『自由電子レーザー砲』である。軌道エレベーターの低軌道リングに設置した衛星兵器で、国際条約で攻撃や破壊が許されないオービタルリング上に存在している関係上、諸外国――特に半地球連邦政府を掲げている国では手が出しにくい。

 国際条約という法律の守り――『条約違反の罰則』と言う名目を行使して、報復と見せしめが可能――が万全なら、勿論、武力による迎撃手段――地球連邦軍の軍勢を配備することによる堅牢の守り――が揃っているのは当然だろう。地球連邦軍、及びアロウズにとって、報復や粛清が正当化されるというわけだ。

 

 メメントモリへのエネルギー供給源は太陽光発電システム。まさしく、軌道エレベーターは最高の立地条件であると言えよう。

 

 リボンズとノブレスは“アレハンドロを騙し、諸々出し抜いて完全勝利した”と思っていたが、そういうわけではなかったらしい。

 こんな厄介な置き土産を残していくとは、本当に腹立たしい野郎だ。しかも、ネーミングセンスは最悪の極みである。

 

 

<ラテン語で“死を想え”、“死を忘れるな”か……。脅しの道具として、これ程までに似合う名前はないだろうね>

 

<本当にクソすぎませんかこれ? 更にクソなのが、『S.D.体制下の技術をガン積みすれば“コンパクト化したメギドシステム”、主要部品だけぶっこ抜いて.D.体制下の技術をガン積みすれば“戦艦に搭載可能なメギドシステム”として運用可能になる』ってところなんですよね>

 

<バカかな? バカなのかな??>

 

<バカなんでしょうねぇ! 『気持が分からんでもない』ってのが本当に悔しいんですけど!!>

 

 

 あんまりにもあんまりな分析結果を聞いてしまったせいか、リボンズとノブレスの口から暴言が飛び出す。この場に地球連邦の関係者がいた場合、2人は即刻ブラックリストに入れられて監視されることになるだろう。この場に誰もいなくて本当に良かった。

 

 “『可能か不可能か』を主軸にして物事を考えるタイプ”は研究者や技術者気質に多い傾向がある。存在意義や価値を追い求めて迷走していた頃のリボンズ本人やリジェネを筆頭に、“自身の周囲にいる身近な研究者”及び“自身の周囲にいる身近な技術者”――ベルフトゥーロやノブレス等が該当していた。

 こういう気質の持ち主が抱える大きな問題点は“『それを可能にしてしまった場合、どのような事象――特に悪用された場合に発生するであろう悪影響――が起きるのか』に目を向けない”という点だろうか。技術が生まれる理由は様々だが、その大半が善意や好奇心である。

 だが、邪な欲望を抱く者の行動力は計り知れない。ソレを満たすためならば、技術の在り方や使い方をおかしな方へと捻じ曲げてしまうこともある。善意と好奇心で産み落とされた画期的な技術が“数多の人々を不幸にし、命を奪いつくす”ものに変質――或いは魔改造されてしまい、本来の用途とは別物に成り果ててしまうことは日常茶飯事だ。勿論、その逆も然り。

 

 ひとたび戦争が起きれば、戦いに使うための技術が次々と産み落とされた。戦争が終結して平和な世の中になった後、兵器のための技術が日常生活を支える画期的なモノとして転用されることも在り得る。

 勿論その逆の事象――平和な時期に開発されたときは生活に役立つ画期的なモノとして迎え入れられたが、戦争が発生したことで軍事転用され、敵味方双方に死傷者を出す存在に化けたこともあった。

 

 ――要は、『どんな時代にもバカはいる』という話だ。

 

 

<っていうか、このデータ、どこから持ってきたんだい?>

 

<マザーネットワークの子機端末の1つからぶっこ抜いてきました。フェニックスのお手柄です>

 

<もうちょっと詳細なデータを引き出せたらよかったんだが、端末が破壊されたことを察知したグランドマザー『テラ』によってネットワークが切り離されちまってな……>

 

 

 ノブレスに名前を呼ばれたフェニックスが申し訳なさそうに肩を竦める。

 しかし、彼が子機端末から引き出した情報はそれだけではなかったらしい。

 

 

<実は、コイツに関しては“反連邦を掲げる国を標的にして使用する”プランがあるらしい。他にも、“思考プログラムが施されたイノベイドが、()()()()()()をもってスイール王国に送り込まれた”という情報もあったな>

 

<<バカだろ>>

 

<バカなんだよ>

 

 

 男3人、満場一致の意見である。閑話休題。

 

 

<僕たち、今、丁度スイール王国の郊外にいるんですよ。その間、現地の様子を調べてみますか?>

 

<いや、いいよ。キミたちは本命を落としに行くんだろう? そっちに集中してくれ>

 

 

 友人からの申し出はありがたいが、リボンズはそれを丁重に断った。

 

 ノブレス率いるチーム・トリニティ、及びその支援艦・カテドラルは“次の大仕事”の下準備をしている真っ最中だ。余計な気を遣わせるわけにはいかないだろう。メメントモリに関するデータが手に入っただけでも充分な成果なのだから。

 彼らの“次の目的地”――中東各地に点在させていた施設の親機になる形で建設されたばかりの、アザディスタン内で一番大きなネットワーク関連施設――は、中東のマザーネットワークの統括を担当している親機であり、マザーネットワークを形成する子機でもある。

 “廃棄された施設に点在する予備用の子機より重要度が高い”ということもあって、連邦軍の守りは勿論、統括役を担っている子機本体も堅牢であることは間違いない。予備用の子機を守っていた戦力を上回っているのは当然のことであろう。

 

 ノブレスはリボンズの気遣いを受け取ってくれたらしい。彼が苦笑しつつも礼を述べた姿を《視て》、リボンズは小さく笑った。

 世界は相変わらず混沌としていて不透明だけれど、希望を信じられる理由は確かに息づいている。それを絶やすことなく次に繋げるのが自分たちの役目だ。

 

 

(――え?)

 

 

 そんなことを考えた直後、リボンズの背中に悪寒が走った。

 脳裏にフラッシュバックしたのは、いつかの昔、ベルフトゥーロが見せてくれた地獄絵図。

 惑星破壊兵器メギドの砲撃()が、彼女の故郷・ナスカ目掛けて降り注いだときのもの。

 

 フラッシュバックした光景の意味を問いかけるよりも先に、ノブレスやフェニックスの思念波越しに何かが《視える》方が早かった。

 

 カテドラルのブリッジからはスイール王国の全景を臨むことができる。丁度その真上から、白い光が降り注いだのだ。それは凄まじい熱量と轟音を伴い炸裂する。光が晴れた先に――スイール王国の姿はない。焦土と化した街だけが一面に広がっていた。

 混乱、恐怖、困惑――数多の感情が思念波越しから飛び交うのを《感じた》リボンズは眦を吊り上げる。嘗てベルフトゥーロが《視せて》くれたメギドと比べれば威力も範囲も何もかもが劣るけれど、『連邦政府の体制を受け入れられない、或いは体制に合わない命を対象にした殺戮兵器』であることは揺るぎないからだ。

 

 

<あの熱源反応、出所は軌道エレベーターの低軌道ステーション・オービタルリング付近だ!>

 

<条件に合致する兵器なんて、ついさっき話してたメメントモリ以外あり得ませんね!>

 

<幾ら何でもタイムリー過ぎるだろう!!>

 

 

 “反連邦を掲げる国を標的にして、メメントモリのお披露目をする”――つい十数分前にフェニックスが教えてくれた情報が現実になってしまった。事実上の後手に回ったことを悟り、3人は頭を抱える。――世界は未だ、刃金蒼海の掌の上にあるらしい。

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 戦場は文字通りの大混戦。四方八方から特攻兵器が飛来し、争い続ける人類に見切りをつけたイマージュの群れが攻撃を仕掛け、操られたバジュラ達がZEXISに集中砲火してくる。

 

 

「バジュラとの戦いで疲弊したところを狙うなんて……!」

 

「流石は世界の影……しかも、元がつく連中だな」

 

 

 アレルヤとロックオン(ライル)が苦々しい表情を浮かべた。気持ちは分からなくもない。

 4つ巴とは名ばかりで、実際はZEXIS対イマージュ・バジュラ・特攻兵器という酷い構図だ。

 

 

「ZEXIS。これはね、一方的に嬲られるだけの簡単なお仕事よ。そのまま死んでくれれば完璧なんだけど」

 

「姉さん! あんた、一体どこにいるんだ!?」

 

 

 蒼海の笑い声が聞こえてきた。クーゴの問いに、彼女は言葉を返さなかった。代わりに、宇宙艦近辺に隠れていた“何か”がここへ姿を現す。

 例えるならそれは、20世紀に日本で行われた万国博覧会でお披露目された太陽の塔だ。塔の最上部に覗く顔は、いつぞや対峙したテラズ・ナンバーと雰囲気がよく似ている。

 その姿を確認したベルフトゥーロが、仇敵を見るような眼差しになった。彼女の口が動く。《視》間違いでなければ、ベルフトゥーロは「グランドマザー」と言った。

 

 グランドマザー。嘗て、人類とミュウを殲滅するために地球を滅ぼそうとしたスーパーコンピュータにして、S.D体制を造り上げた存在そのもの。

 ミュウからしてみれば“一族の怨敵”に当たるだろう。その遺伝子は次世代のミュウたちにも刻まれているようで、クーゴの本能が戦いていた。

 

 

<沙慈、沙慈! やだ、やだよ……返事をして、沙慈ィィ!>

 

 

<スミルノフ少尉……どうして……?>

 

<――絹江さん?>

 

 

 遠くから《聲》が聞こえてくる。瓦礫に潰されて動かなくなった沙慈に泣きつくルイスの姿と、頭から血を流した満身創痍の女性――絹江・クロスロードがなけなしの力を振り絞って、自分たちを襲撃してきた機体のパイロットを見上げる姿が《視えた》。絹江の《聲》は確かにパイロットへ届いたのだろう。だが、彼女は力尽きるように倒れてしまう。

 一歩遅れて、青年が呆気に取られた声を漏らした。夢から覚めたような声色の彼だが、眼前に広がる光景を目の当たりにして動揺しているらしい。クロスロード夫妻や絹江たちを襲撃したのは、この場に乱入した独立治安維持部隊のアヘッドである。GNアーチャーに搭乗していたピーリスは、そのパイロットが誰であるかを察した様子だった。

 

 

「アンドレイ、貴様……! 大佐を手にかけただけでは飽き足らず、非戦闘員の一般人まで!!」

 

「ち、違――」

 

「問答無用! 許せるものか……許せるものかァァ!!」

 

「違う! 誰か、私の――僕の話を聞いてくれ……! ピーリス中尉っ、絹江さん! 沙慈くん、シロエくんっ、マツカくん! ハーキュリー大佐っ、――父さん……!!」

 

 

 怒りを燃やしたピーリス/GNアーチャーがアンドレイ/アヘッドへと迫る。アンドレイもまた、錯乱しながらもピーリスへ攻撃を仕掛けて――否、()()()()()()()()()()のだ。2機は激しく鍔迫り合いを繰り広げた。

 

 

「ほら、ごらんなさい。人間は己の感情を制御できない生き物。だからこそ、革新者(イノベイター)による導きが必要なのよ」

 

「テメェがそれを言うのかよ……!」

 

 

 高みの見物をしているのは蒼海だけではない。彼女をはじめとした革新者(イノベイター)たち――(ワン)兄妹、蒼海の息子たち――が、ZEXISたちを嘲笑った。

 奴らの物言いが琴線に触れたのか、ZEXISの隊列から1機が飛び出した。ホランド・ノヴァクが操る機体だ。余命幾何もないホランドは、世界を守るために特攻しようとしているのだ。

 勿論、最前線に飛び出すわけだから、イマージュたちはホランドの機体へ狙いを定める。機体に攻撃が命中し、その度にホランドのうめき声が聞こえてきた。レントンが彼を呼び止めようとするが、止まらない。

 

 

「聞けよ、イノベイター! それにイマージュ!」

 

 

 ホランドの叫びに呼応するかのように、ほんの一瞬だけ、イマージュが動きを止める。

 

 

「俺は自分だけが不幸だと思いこんで、周りに毒を撒き散らかしたクズ野郎だ! あそこにいる“自称”新人類と同レベルの、身勝手なドアホウだ!」

 

 

 その言葉は懺悔のようでもあるし、自身に対する嘲りのようにも思える。

 

 

「だがな、俺は変われた! ここにいる奴等と、俺の愛する奴らのおかげで!」

 

 

 だから自分は戦うのだと、ホランドは叫ぶ。

 

 

「俺の愛する奴らと世界を、俺やテメェ等みたいなクズの好きにさせないために!!」

 

 

 だから命をかけても惜しくないのだと、ホランドは叫ぶ。

 

 彼の気迫に、ホランドを制止しようとしていたレントンが止まる。彼もまた、エウレカのために命を賭けたことがあったからだ。

 勿論、命を賭けているのはホランドだけではない。次の瞬間、プトレマイオスがトランザムを発動した。

 事実上、グランドマザーの支配下に置かれたヴェーダを取り戻しに行ったのだろう。彼らが戻るまでの戦線の維持――ZEXISの役目。

 

 

(――!?)

 

 

 しかし、物事はうまくいかないというのが常識であった。クーゴの脳裏に、突如ヴィジョンが映し出される。スメラギと対峙するビリーの姿だ。

 

 

<クジョウ! はやく、僕を撃って!>

 

<ビリー!? 貴方、何を言っているの!>

 

<このままじゃ、僕はキミを殺してしまう……! 僕は嫌だ、キミを殺すなんてできない! 殺したくなんか……>

 

 

 顔を真っ青にして叫ぶビリーの表情とは裏腹に、彼の手には銃が握られている。銃口は、スメラギの心臓に向けられていた。

 引き金を引けば簡単に彼女の命を奪えるだろう。ビリーの意志を反映しているのは、彼の表情と震える腕であった。

 

 

<クジョウ、僕はキミが憎い……違う、違う! 僕はキミを憎んでなんかっ……! ああ、殺したい、殺してやる……ッ、違う……違うよ、僕は、僕はぁぁぁぁぁぁッ!>

 

 

 引き金が引かれた。銃弾はスメラギの頬を掠めて壁にめり込む。ビリーの目は虚ろになったり光が戻ったりと目まぐるしく変化していた。“スメラギを守りたい”一心で、グランドマザーの支配に逆らっているためだ。

 完全に操られていて、尚且つ相手が外道ならば、躊躇うことなく撃ち殺せる。でも、目の前にいるビリーにはまだ正気が残っているのだ。しかも、ビリーは必死になってスメラギを守ろうとしている。そんな相手を撃ち殺せるだろうか。

 万に1つほどの可能性ではあれど、助けることができる人間を、殺すことができるだろうか。命を賭して自分を守ろうとしている昔なじみを、自分に危害を加えるという理由だけで、躊躇いなく殺せるだろうか。

 

 スメラギの答えは否だった。彼女は小さく首を振る。

 

 刹那、ビリーの瞳から光が消えた。悲鳴が止み、彼は虚ろな表情のまま銃を構える。今度は、銃を持つ手に震えはない。

 グランドマザーに意識を支配されてしまったのか。クーゴがハッとしたとき、はやぶさに衝撃が襲い掛かった。

 

 

「ぐ……!」

 

 

 機体損傷は軽微だが、攻撃は次々に降り注ぐ。あちらこちらで悲鳴が響き、光がちらついた。戦艦かMSに被弾したのだろう。

 

 

(くそ! このままじゃあ、完全にジリ貧だ!!)

 

 

 どうする。どうすればいい。

 このまま仲間の命が散っていくのを、自分は見ていることしかできないのか。

 

 そのとき、クーゴの視界にダブルオーの姿が目に入った。カメラアイの光は昏く、呆けてしまったように見える。まるで――“取り返しのつかない過ちを犯し、途方に暮れている”かのようだ。

 

 

「俺たちの生んだ歪みが、広がっていく……」

 

 

 弱々しい刹那の声が聞こえた。今にも泣き出してしまいそうな声だった。

 

 

「みんなの命が、消えていく……!」

 

 

 爆発音が遠くから響いた。また悲鳴が聞こえる。命を燃やして戦う者たちの声が、小さくなっていく。

 希望は絶望に飲まれた。憎しみの声が延々と《聴こえてくる》。ZEXISは、延々と続く怨嗟の中に沈んでいるのだ。

 

 

「――そんなことを……」

 

 

 刹那の想いが伝わってくる。不器用だけれど、本当は深い愛情を持って相手を思いやれる優しい女性(ひと)だ。世界のことを誰よりも憂い、理想を掲げて戦う強い女性(ひと)だ。どこまでも温かい心を持つ女性(ひと)だ。

 ダブルオーの機体が淡く発光した。GN粒子の輝きがどんどん強くなっていく。まるで、刹那の心に呼応するかのようだ。その温かな輝きを、クーゴは《識っている》。これは――『人の心の光』だ。世界に指し示す希望の道しるべ。

 

 

「刹那!」

 

「――させるかああああああああああッ!!」

 

 

 アムロがはっとしたように声を上げた。ニュータイプの直感で、彼は何かを感じ取ったのだろう。次の瞬間、ダブルオーの太陽炉が一際強い輝きを放った。刹那の瞳がくすんだ金色に輝いたのが《視える》。あれは蒼海たち――純粋なイノベイターの特徴と一致していた。

 

 

「目覚めさせるものですか!」

 

「いけない!」

 

 

 留美(リューミン)/“告死天使”が砲門を撃ち放つよりも先に、イデア/パハリアが割り込んでシールドを展開する。宝石を思わせるような防御壁が、放たれたレーザーを防ぎ切った。シールドには傷一つ付いていない。

 間髪入れず、ダブルオーの太陽炉から発生した輝きが、この場一帯を包み込む。どこまでも温かな光の中に、仲間たちの声が響き渡る。今まで以上に、彼らの近くで戦っているのだと実感した。

 

 

(これが、真の革新者(イノベイター)が有する力。人と人とが分かり合うために必要な力なのか)

 

「――()()()()

 

 

 次の瞬間、蒼海が嗤う気配がした。

 

 

 

 

 

 

「舐めて貰っては困るな」

 

 

 “奴”の言葉と感情に呼応するかのように、青い光がぶわりと舞い上がる。

 

 晴れ渡った蒼穹を思わせる色の光は、刹那に襲い掛かって来た数多の悪意を無力化していく。彼女を害するために張り巡らされた罠を完膚なきまでに破壊し、彼女を害するはずの悪性情報を遮断し、時には己の身を削るような形で肩代わりしていく。時折苦悶の声を上げながらも、“奴”は力の行使をやめようとしない。

 常人であれば良くて廃人化――いや、そうでなくとも、嘗て似たような状況に陥って散々苦しんで『壊れる』寸前までいったと言うのに。もっと言えば、つい先日その地獄から解放されたばかりだというのに、“奴”は再び似たような――或いはそれ以上の――地獄に足を踏み入れていた。何の躊躇いも迷いもなく、即断即決で行動に起こしたのだ。

 

 “奴”の姿を唖然と見守ることしかできない機械の申し子たちなど目もくれず。

 予期せぬ乱入に目を丸くしていた刹那に対し、蕩けるような微笑を浮かべた後。

 己の在り方を――或いは己が掲げるモノを誇るかのように、盛大に叫んだ。

 

 

「私の愛は、()()()だ――!!」

 

 

 

 

 

 

「今です! 人と人を繋ぐのが、僕たち(ミュウ)の仕事ですよ!」

 

 

 不意に声が聞こえた。振り返れば、ZEXISとは別行動をしていたノブレス/“2代目異端審問官”の姿があった。

 彼の言葉は、嘗てミュウの少女が残した名言そのものである。ミュウの力は、ヒトとヒトの心を繋ぐためのものだった。

 クーゴはイデアと顔を見合わせて頷く。前に向き直り、自分たちは武装とサイオン波を展開した。

 

 クーゴはミハタテンサイを掲げる。青い光を纏った旗が輝いた。仲間たちの心を繋いでいく。彼らが抱える想いを、この場全体に広げていく。

 

 死の淵にいた人々が生還し、互いの無事を喜び合っていた。アンドレイを一方的に粛清しようとしていたピーリスは、アンドレイが蒼海の毒牙にかかってしまったせいで“ある程度意識を保った状態で、指定された人間の殺害や攻撃行動を行うように『調整』されていた”ことを知った。

 自分が傷つけた人々から“『アンドレイの意志によって殺された/傷つけられた』と認識されたまま別れることになってしまった”と思い込んでいたアンドレイは、“相手は最後の最期に、アンドレイの無実を知った上で、彼のことを慮りながら散っていった/散りかけていた”ことを知って泣いていた。

 

 友人が何を思い、何のために戦ったのかを知って和解したルルーシュとスザクの笑顔があった。ようやく高嶺の花に「好きだ」と告げることができたビリーが、「クジョウを殺さなくてよかった」と泣きわめいていた。

 

 

(ああ、なんて綺麗な光なんだろう)

 

 

 真っ暗闇に光がともるような心地になり、クーゴはゆるりと目を細める。限界で悲鳴を上げていた体が、嘘のように軽い。

 仲間を助けたいと願う刹那の想いを、GN粒子――イオリアの遺産が叶えて/応えてくれたのだろう。

 そうして、クーゴたちや“彼”が持っていたミュウの力は、イオリアが見出した革新者(イノベイター)の力になった。

 

 

「どうなってやがるんだ? 体の痛みが全くない。まるで、細胞の1つ1つが生まれ変わったみたいだ……」

 

「どうしてだろう。お腹が熱い……。それに、さっきまでの頭痛が完全に消えてる」

 

 

 満身創痍だったホランドとシェリルが、何事もなかったかのようにぴんぴんしている。片や寿命が目前に迫り、片や死を待つしかない病を患っていたというのにだ。

 間髪入れず、イマージュたちが攻撃の手を止めた。しばしZEXISの方を見つめたのち、くるりと向きを変えて去って行く。人類に攻撃を仕掛ける意図はないらしい。

 

 

「よかった……。みんな、分かってくれたみたい」

 

「イマージュは俺たちのこと、もう1度信じてくれたんだね」

 

 

 レントンとエウレカが安堵したように微笑んだ。GN粒子は、人だけでなく、知的生命体ともわかり合う力を持っていたようだ。

 もしかしたら、これが“来るべき対話”の鍵を握っていたのだろうか。クーゴがそれを問いかけるより先に、仲間たちが湧き立った。

 真の覚醒を成したイノベイターと、驕り高ぶる支配者が激突する。世界の明日を決める戦いは、もうすぐ決着を迎えようとしていた。

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 クーゴは思わず目を見開いた。周囲を見回すと、心なしか、周囲に煌めくものが漂っているように思う。この光を、クーゴはどこかで目にしたことがあった。遠い虚憶(きょおく)で、奇跡を起こした優しい光。

 件の光は、ラグランジュ3中に漂っている。確か、今、ツインドライヴに関する実験が行われていたか。今、ラグランジュ3のなかに漂うこの輝きは、イオリアが残した遺産に秘められた真価なのかもしれない。

 GN粒子を浴び続けることで、人間はイノベイターに革新するという。……もしかして、今、この一帯を包み込む光こそが、刹那を革新者へ誘う鍵なのだろうか。

 

 談話室に舞い散る光を目の当たりにし、宙継とイデアが感嘆の息を吐いた。

 

 

「綺麗な光……」

 

 

 宙継は目を輝かせてその光を見つめていた。

 光から伝わってくる感情を読み取るように、ゆっくり目を細める。

 

 そんな宙継を見ていると、なんだかとても微笑ましく思うのだ。彼が年相応の子どもとして振る舞う姿を見ると、安堵感がじんわりと湧き上がってくる。

 

 

(当たり前のことを当たり前に……それが一番難しいんだよな。特に、俺たちみたいなのは)

 

 

 心のどこかに薄暗い影を持つ人間は、当たり前とか平穏とかいう言葉がどれ程尊いか、身を持って体感していた。遠い昔に負った傷は、未だ癒えることなく血を流し続ける。表面上、何事もないように装いながら。

 真正面からそれと向かい合いながら生きる者。傷に背を向けながらも、時折振り返りながら生きる者。その傷をなかったように振る舞いながら生きる者。人の数だけ、傷との向かいあい方がある。折り合い方があるのだ。

 

 

「……声が聞こえる。これは、刹那?」

 

 

 イデアは少し驚いたように目を見張ったが、すぐにゆるりと目を細める。その姿はまるで、母親が我が子の成長を喜んでいるようだった。

 

 

「優しい光。これが、あの子の想いなのね」

 

 

 光を見つめるイデアの眼差しは、どこまでも優しい。御空色の瞳は慈しみで満ちている。

 彼女は、こんな綺麗に笑うのか――クーゴの脳裏に、漠然とそんな思考が浮かぶ。

 不思議なことに、宙継を見ているときとは違う微笑ましさが湧き上がってきて、口元が緩む。

 

 

<クリス……ッ!!>

 

<ちょ、何!? いきなり抱きしめてくるなんて……う、嬉しいけど……>

 

 

 不意に、感極まったリヒテンダールがクリスティナをぎゅうぎゅうと抱きしめている姿が《視えた》。<クリスティナの声が聞こえて嬉しくなった>とリヒテンダールは笑う。それはクリスティナの方も同じようで、2人ははにかんだ笑みを浮かべていた。

 

 

<沙慈……>

 

<ルイス……>

 

 

 別の場所では、沙慈とルイスが顔を真っ赤にして照れ照れしている。この夫婦もまた、お互いの声が聞こえて嬉しくなったらしい。そういえば、似たような光景を虚憶(きょおく)で目の当たりにしたような気がするが、どこだっただろう。思い出せない。

 

 また、光景が切り替わる。そこにいたのは、ダブルオーの実験を見ていた面々だ。

 その中でも、一際クーゴの目を惹いたのは、ベルフトゥーロの横顔だった。

 

 

<――嗚呼>

 

 

 地球を思わせるような青い瞳が、歓喜に打ち震えている。

 

 

<これが、あの人が待ち望んだ光。私たちが夢見たもの。私が見たかったもの>

 

 

 ベルフトゥーロの眼差しは、ツインドライヴの実験結果と周囲を漂う緑の光――GN粒子に釘付けであった。

 彼女はきっと、数世紀前の仲間たちと夫の姿を《視て》いたのかもしれない。青い瞳がゆっくり細められる。

 

 

<300年、待ち続けた甲斐があった>

 

 

 ベルフトゥーロは幸せそうに微笑んだ。ミュウとしての長命だからこそ、彼女はツインドライヴが最大限の力を発揮する瞬間に居合わせることができた。

 300年越しに、夫の英知が使われる姿を見たのだ。嬉しくないはずがなかろう。それまでの300年間、彼女はソレスタルビーイング創設に関わった第1世代のメンバーとして、ずっと見守ってきた。

 ……どんな気持ちだったのだろうか。仲間たちが次々と寿命で去って行く中、見知った顔に――大切な人たちに置き去りにされていくというのは。きっと、どんなに長生きしたとしても、忘れられるものではない。

 

 クーゴが目を伏せかけたとき、不意に、気配を感じた。

 

 覚えのある(覚えのない)――覚えがない(覚えがある)、どこか懐かしい気配。思わず視線を向けた先には、うすぼんやりとした青い燐光と()()の輪郭が漂う。

 肩まで伸ばした黒髪をサイドテールに結んで、真っ赤なリボンを付け、シンプルな無地の着物を着た女の子。彼女の姿を見て真っ先に()()()1()4()()だと断定できたのは何故だろうか。

 

 

『弟を連れて行かないで』

 

 

 彼女を見ていると、胸が潰れるように痛むのは何故だろう。手を伸ばしたくなるのは何故だろう。

 『あの日()()()()()()()()()()()()()()()()』と叫びたくなるのは何故だろう。

 そんなことを言っても彼女は聞き入れてくれるはずがないと《理解(わか)っている》のに。

 

 

『代わりに、あたしを連れて行って』

 

 

 ――そうだ。

 

 何一つ、奪われたくなかった。何一つ、譲りたくなんか無かった。けれど、自分の願いを叶えるには、1()4()()()()()()()()()()()()()クーゴは無力過ぎた。

 だから『持っていかれてしまった』のだ。忌まわしき“てんしさま”と、“てんしさま”に連れられて行った少女の手によって。

 

 

『大丈夫。お姉ちゃんが、守ってあげる』

 

 

 本当は、忘れたくも、離れたくもなかったのに――!

 

 

<――だめ!!>

 

 

 少女に思いっきり突き飛ばされたような感覚に見舞われる。彼女の姿が掻き消えたのと入れ替わりに、ベルフトゥーロが弾かれたように息を飲んだのが《視えた》。

 

 ベルフトゥーロのいた光景が切り替わる。

 どこかに、光が落ちた。次の瞬間、大地が炎に飲み込まれた。

 

 

(――!?)

 

 

 思わずクーゴは目を見張る。砂漠の都が、一瞬で焦土と化した。

 あの場にいた人間は、自分に何が起きたかを理解する間もなく死んでいったのだろう。

 沢山の命が、一瞬のうちに奪われた――その喪失感に、恐怖すら覚えてしまいそうだった。

 

 今の光景は、クーゴだけに《視えた》ものではなかったらしい。イデアと宙継も、危機迫った表情を浮かべている。

 

 

「今の……」

 

「メギドの火? ……いいや、威力はアレの足元には及ばないけど、でも……」

 

 

 宙継がぞくりと身を震わせる。沢山の命が尽きたのを感じ取ったためであろう。先程の光景からミュウの遺伝子に刻まれた恐怖を連想したのか、イデアは顎に手を当てて不安そうに目線を彷徨わせる。

 嘗て、ナスカを滅ぼす際に使用された衛星破壊兵器――それが、メギドシステムと呼ばれるものであった。先程の光景はメギド照射よりも被害は少ないけれど、ミュウの悲しみと恐怖を抉るには充分すぎた。

 

 丁度そのタイミングを待っていたと言わんばかりに、フェルトからの通信が入る。彼女の焦った様子に、何とも言えぬ予感が鎌首をもたげた。

 

 

「観測システムが、地球圏で異常な熱源反応を捕らえた模様。至急ブリッジに集合してください!」

 

 

 彼女の言葉から連想したのは、先程の光景だった。砂漠の都に落ちた光が、街1つを――ひいては国1つを消し飛ばす。

 フェルトの言う熱源反応は、十中八九、先程の光/兵器が出どころだ。クーゴの予感は、悪い方向に動き始めている。

 

 

(……姉さん。貴女は一体、何を考えているんだ)

 

 

 袂を分かった姉の姿を思い浮かべる。記憶の中の姉は、どこまでも歪んだ笑みを浮かべていた。クーゴに――あるいは世界に対する憎しみを、惜しみなくぶつけてくる。

 『気に食わない相手は容赦なく潰す』のが姉のやり方だった。あの光はまさしく、姉のやり方を具現化したようなものだ。また、誰かが姉によって傷つけられたのだ。

 クーゴは確かに蒼海の弟で、蒼海の家族だ。母亡き後、蒼海の肉親と言えるのはクーゴだけである。しかし、いくら家族といえど、自分は彼女のやり方を肯定することはできない。

 

 

(常に血縁者の味方でいることが家族だというなら、俺はねえさんとは家族になれなかったってことか。……そうして、それこそが、俺が一生背負って行かなくてはならない業なんだろう)

 

 

 クーゴはひっそりと自嘲する。

 

 自分は彼女の一番近くにいながら、そこから遠ざかった人間だ。蒼海の暴走を眺めるだけだった臆病者だ。彼女が周囲の人間たちから否定されても、クーゴだけは彼女の味方でいなければならなかったのに。

 蒼海の歪みを知りながら、その歪みを正そうとせず、歪みの根底にある思いから目を逸らし、彼女の想うがままに振る舞わせた――だから、クーゴは蒼海の家族になり得なかったのだろう。

 

 

(俺にできることは、あの人を止めることだけだ。――家族になれなかった他人として)

 

 

 意を決して顔を上げる。イデアと宙継が、クーゴを見つめてきた。互いに頷き合い、ブリッジへと向かう。

 いつもと同じルート、同じ距離。なのに、どうしてブリッジまでの距離が遠く感じるのだろうか。

 もどかしさを抱えて走る。ブリッジはすぐ見えてきた。扉を開ければ、クルーたちが険しい面持ちで集っている。

 

 目の前に提示された画像には、大きなクレーターが出来上がっていた。画面に表示された地図には、中東のスイール王国が指示されている。

 

 

「なあ、これって……」

 

「太陽光エレベーターの技術を応用した衛星兵器です」

 

「国1つを消し飛ばす威力だなんて」

 

 

 クーゴの問いに、アニューが険しい表情で答える。クリスティナが握り拳を振るわせた。彼女の隣にいたリヒテンダールの表情も硬い。

 

 

「太陽光発電に関する紛争が起きたときは、こんな兵器ができるなんて思わなかったッスよ」

 

 

 「よりにもよって」とリヒテンダールは肩をすくめる。その言葉を聞いたクリスティナが、心配そうにリヒテンダールを見上げた。

 リヒテンダールはぎこちなく微笑むと、無言のままクリスティナを制した。気にしなくていい、と、彼の眼差しは告げていた。

 

 あの衛星兵器を、このままにしてはおけない――。

 

 クルーたちの意見は一致したようで、みなが顔を見合わせて頷き合う。

 仲間たちの言葉を代弁するかのように、スメラギが口を開いた。

 

 

「補修が終わり次第、トレミー出向。連邦の衛星兵器破壊ミッションを行います」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 星の命が終わる瞬間を、《視た》。

 

 ベルフトゥーロの目の前に広がるのは、衛星破壊兵器メギドシステムによって崩壊していく自分の故郷だった。大地はバキバキとひび割れていく。惑星そのものが自壊していくのだ。

 幾何かして、ベルフトゥーロの故郷――惑星ナスカは、悲鳴にも似た轟音を残して爆散した。宇宙(そら)にキラキラと輝く光は、嘗てナスカを構成していた塵たちである。いずれ、その塵も消えてなくなるだろう。

 

 

(どうして)

 

 

 消えてしまった故郷。

 踏みにじられた命の数々を想う。

 未来を切り開くために散った命を想う。

 

 

(どうして人間は、こんなことができるの)

 

 

 親友の両親が眠る大地も、ナスカの崩壊に殉じた両親の『存在した証』も、ソルジャー・ブルーの存在も、何1つすら残っていない。何1つとして、人類は残してくれなかった。すべてを滅ぼした断罪の光を、ベルフトゥーロは魂に刻みつける。

 あんなもの、この世界に存在させてはいけない。ミュウたちがつかみ取る勝利の先に――ミュウたちが生き残るという願いのために、メギドシステムは存在してはならないのだ。すべての命が、脅かされることなく生きる未来のためにも。

 

 安息の地を、仲間を奪われた同胞たちがすすり泣く声が聞こえてくる。ベルフトゥーロもまた、悲しみに涙をこぼす者の1人に過ぎなかった。ナスカを命からがら脱出したシャングリラもまた、長い流浪生活に旅立つのであろう。嘗ての旅がそうであったときのように。

 

 

「俯くな、仲間たち!」

 

 

 不意に響いた声に、ブリッジがざわめきはじめた。あちこちから同胞たちが驚きの声を上げる。彼らはみな、口々にブルーの名を呼んだ。

 先代指導者(ソルジャー)のブルーは命を落としたはずだ。何故、同胞たちは死んだ人間が生きているのを目の当たりにしたかのような声を上げたのか。

 恐る恐る顔を上げてみると、ベルフトゥーロの予想に反して、そこにブルーはいなかった。立っていたのは、ベルフトゥーロが敬愛する相手――ジョミー・マーキス・シン。

 

 彼の耳には、嘗てブルーが身につけていた補聴器がつけられていた。

 そこから、ブルーの想いが伝わってくる。嗚呼、と、ベルフトゥーロは息を吐いた。

 

 

(想いは、受け継がれたんだ。そうして、いつか私も、同じように受け継いでいく)

 

 

 魂はここに。生きた証も、ここに。ベルフトゥーロは、無意識に手を組んだ。魅せられるような心地で、ジョミーの演説に耳を傾ける。

 

 

「本船はこれより、アルテメシアへ向かう」

 

「っ!?」

 

「なんですと!?」

 

 

 威風堂々としたジョミーの言葉に、ハーレイとゼルが驚愕した。眉間の皺が普段より深くなったように思う。

 普段はジョミーの意見に反対するゼルも、ジョミーを見守りつつも時折嗜めるハーレイも、圧倒されたかのように二の句が継げない。

 どこまでも荘厳な響きを持って、ジョミーは言葉を紡ぐ。揺るぎなき意志の強さが、ベルフトゥーロの心に伝わってきた。

 

 

「我々は、決して人間たちを憎むものではない」

 

 

 彼ははっきりとそう言いきった。何故、と、ベルフトゥーロは問いかけようとして止まる。

 ベルフトゥーロもまた、ジョミーの立ち振る舞いに圧倒されていたためだ。

 

 ぴりぴりとした何かが肌に突き刺さってくる。思わず、ベルフトゥーロは生唾を飲んだ。どこまでも透き通った翡翠色の瞳が同胞たちを射抜いていく。

 

 

「ナスカに降りて、別種の生き物として生きようともした。だが、人間はそれを赦さない。……いや、彼らの『システム』がそれを赦さないのだ」

 

 

 ジョミーの言うシステムは、S.D.体制そのものを指しているのだろう。ミュウの生存権を認めようとしない、グランドマザー/機械たちによって構成された社会体制だ。

 ミュウがこうして宇宙を流浪しなければならない原因を――故郷を奪われるという悲劇を推奨する体制そのものを、ジョミーは敵だと認定しているのだ。

 

 

「我々の目標は、青い星(テラ)に行きつくことだけではない。テラのシステムを1つ1つ破壊し、人間たちに生き方を問う」

 

 

 機械によって支配された人類は、自分で考えることを放棄している。考えて、選択して、行動することを是としない。提示された選択肢がすべてだ。

 今回、ナスカを崩壊させた連中だって、『グランドマザーがミュウ抹殺の命令を出したから』、衛星兵器メギドシステムを投入したに過ぎないのだから。

 人類では機械が指示した選択肢にはっきりと「No」を突きつけることができない。突きつけることは死を意味しているし、それは悪しきことであると彫り込まれているためだ。

 

 その認識を壊さなければ、青い星(テラ)にたどり着いたとしても、迫害は続くだろう――。

 ジョミーの憂いは最もである。S.D.体勢がある限り、ミュウに安息は訪れない。

 

 

「……そこで、我々を生み出し、S.D.体制を支える教育の要、育英惑星アルテメシアを制圧する」

 

 

 いきなりの言葉に、仲間たちが困惑の声を上げる。

 

 以前のジョミーならば、何かを始めるときは仲間たちに相談を持ち掛けたものだ。

 その姿を、ベルフトゥーロはいつも目にしていた。

 

 

「これは相談ではない。命令だ!」

 

 

 ざわめく仲間たちの不安や動揺を押し込めるが如く、ジョミーが声を張り上げる。思えば、ジョミーが誰かに命令するのは、これが初めてだったのではないだろうか。

 反論しようとした人もいたのかも知れないが、ジョミーから発せられる気迫がそれを赦さなかった。すべての反論は、二代目ソルジャーの意志の前に屈したのだ。

 誰もが、ジョミーに釘付けであった。心優しい青年から雄々しき指導者となった青年の姿を、目に焼き付けているかのように。そうして、ソルジャー・シンが号令を出す。

 

 

「戻ろう。アルテメシアへ! ――そして、青い星(テラ)へ」

 

 

 その言葉を皮切りに、シャングリラが進路を変更する。

 目的地は、指導者の故郷である惑星――アルテメシアだった。

 

 

 

***

 

 

 

「倒すべき敵を見誤ってはいけない。倒すべきは、敵対する人間ではなく、人間を争いへと駆り立てる『システム』そのものだ」

 

 

 誰に言って聞かせるわけでもなく、ベルフトゥーロはぽつりと零した。眼下には、衛星兵器によって滅ぼされたスイール王国の跡地が映し出されている。

 いくら、嘗てこの映像よりも惨たらしい光景を見たとはいえ、平気のへいざでいられるはずがない。スイールを焼いた光は、ナスカを滅ぼしたメギドの火とよく似ていた。

 

 誰かの答えを期待したわけではないけれど、ベルフトゥーロの言葉はしっかり届いたらしかった。

 

 

「そして、そのシステムを存続――あるいは完成させようと画策する者たちこそ、僕たちが倒すべき歪みだ」

 

「存じています。そのために、私たちは戦うことを選んだのですから」

 

 

 振り返ると、状況を確認していたスメラギとティエリアが立っていた。2人とも、その横顔は決意に満ちている。まるで、いつか目にしたソルジャー・シンを彷彿とさせた。

 思わず、ベルフトゥーロは息を飲んだ。イオリアが望んだ子どもたちが、敬愛するジョミーと同じような眼差しを持っていたのだから。受け継がれていたのは、イオリアの想いだけではないらしい。

 

 

(世代を、時代を、種族を超えて、グラン・パの想いも受け継がれていくんだ)

 

 

 ああ、胸がいっぱいになる。

 ちょっと泣きそうになったけれど、堪えた。

 若いものにばかり、カッコイイ真似をさせられない。

 

 S.D.体制が存続していたとき、ベルフトゥーロにとっての世界の歪みはグランドマザーだった。機械仕掛けの神こそが、歪みを生み出す原因そのものだった。

 しかし、この地球には、『システム』を形成する要となるモノの後ろに、『システム』を形成するニンゲンが控えている。言い換えるならば“グランドマザーを使って世界を支配しようとする黒幕がいる”図だ。

 

 

「おそらく、貴女の尊敬する人物が打ち倒した敵より厄介なものを、僕たちは相手取ることになるだろう」

 

 

 「覚悟はしている」とティエリアは言った。紫苑の瞳には一切の揺らぎがない。

 

 

(若者の成長は、こういうときに実感するんだろうなぁ)

 

 

 ベルフトゥーロの涙腺が少々緩んだが、500年生きてきた意地で堪えた。

 

 

「うん、ありがとう。……長生きって、してみるものね」

 

 

 感慨深く呟けば、ティエリアは何かを察したように目を伏せる。察したのは、スメラギも同じだったらしい。もう戻らないものを想うように、彼女も静かに目を閉じた。

 前者は行方不明となってしまった初代ロックオンを、後者は自分の采配ミスによって失ってしまった恋人を思い浮かべているようだ。500年生きると、取りこぼしたものは数知れなくなる。

 両親、故郷、親友、敬愛すべき指導者たち、最愛の伴侶――今なら守れるのに、と、嘆きを叫ばずにはいられない。けれど、今のベルフトゥーロには、未来へ向かって歩き続けることしかできない。

 

 

『何が正しくて、何が間違いなのかなんて、終わってみなければわからないさ』

 

 

 遠い昔、ソルジャー・ブルーが零していた言葉を思い出す。ソレスタルビーイングも、悪の組織及びスターダスト・トラベラーも、戦争根絶と恒久平和のために暗中模索の日々を送っている。

 世界の裏側で暗躍し、表舞台で華麗なる敗者となって去るまでに、沢山の命が犠牲になった。勿論、こちら側だって多くの犠牲を払っている。結果を突きつけられるたび、いつも後悔がやって来るのだ。

 

 

(それでも、進み出してしまった以上、止まることはできない。たとえ、取り残され、置いて行かれ、置いて行くことになっても)

 

 

 取り残され、置いて行くのが人生だとばかり思っていた。『長生きはするものではない』とぼやく同胞の意見も、間違いではない。

 

 でも。自分たちの想いが受け継がれていく姿を見る度に、この光景を見れたことを幸いだと思う。

 その場に居合わせたことが幸いだと思うのだ。その度に、長生きも悪くはないと実感する。

 

 

<グラン・マ。アロウズの艦隊が補給を終えて出発したようです>

 

 

 スメラギとティエリアに背を向けたのと同じタイミングで、ラ・ミラ・ルナからの思念波が届いた。予測到達時間は3日程度らしい。

 

 

<この基地に、今の情報を送って頂戴。信頼するしないに関わらず、時間との勝負だと>

 

<了解です>

 

<……ところで、初代くんの様子はどうなの?>

 

<作戦可能時間は、最大で4時間程度が限界ってとこです。それ以上戦うとなると……>

 

<ああ、目隠しと亀甲縛りね>

 

<あまり言わないでください。私と兄の、精神衛生上の問題ですので>

 

 

 ベルフトゥーロの思念波に応えたのはエイミーであった。思念増幅師(タイプ・レッド)の力に振り回され気味だったスナイパーは、ようやく己の能力を調節できるようになってきたらしい。尚、現役時代と同等のパフォーマンスを求めた場合、絵面は最悪の極みになってしまうけれど。

 

 

<こっちは問題なさそうね。それじゃあ、ノーヴルたちの方は?>

 

<こちらも問題ありません。プトレマイオスがラグランジュ3から発艦後、すぐ合流およびフォローも可能です>

 

<わかった。何かあったらよろしくね>

 

 

 思念波を使い、ベルフトゥーロはノーヴルと会話した。ノーヴルたちの部隊はあくまでも保険だが、準備は入念にするくらいが丁度いい。思念波を駆使して各方々へ連絡と通達を行った後、ベルフトゥーロは車椅子を漕ぎだした。それと入れ替わりに、ラグランジュ3を取り巻く空気に変化が生じる。

 悪の組織からの情報が届いたため、急遽補給を速めることにしたらしい。と言っても、ソレスタルビーイングの面々は、ラグランジュ3の偽装は完璧だと思っている。あくまでも、「アロウズ艦隊が近隣をうろうろしているらしいから、万が一に備えて補給を速める」という認識だろう。それでも、取り合ってもらえないよりはいい。

 

 ラグランジュ3にいた非戦闘員および技術者たちが走り回るのを横目に、ベルフトゥーロは車椅子の向きを変えて漕ぎだした。

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 Dトレーダー。Z-Blueの協力者として同行するAGが営業する、アイテム販売所のことである。

 

 普段は結構な賑わいを見せているのだが、今日は珍しいことに、人っ子1人いやしない。静かだ。

 商売人にとって、閑古鳥が鳴いている状況程嫌なことはない。AGはしょげているように見える。

 

 

「こんにちわ」

 

「! おや、クーゴ様ですか!」

 

 

 声をかけられたAGは、ぱっと表情を輝かせた。今日1番最初の客だ、と、AGの顔に書いて/インターフェイスに表示されている。クーゴは苦笑した後、端末に表示された商品に目を剥けた。

 ……どう考えても手を出せるような額ではない。0の個数が1~3つづつ多いのだ。だから大抵、クーゴは見る専である。眉間の皺を一目見て、AGはクーゴの気持ちを察したのであろう。

 

 

「……なーんだ。ただの見る専(ひやかし)だったんですね。じゃあもういいです」

 

「お客に『その気がない』となると、すぐに掌返すよな」

 

「ああ、閑古鳥が鳴いている……。Dトレーダー開設から、こんなことは前代未聞です……」

 

 

 AGはどんよりとした空気を漂わせた。閑古鳥の店にやって来た客が冷やかしだった、と、どこか恨みがましい感情が流れてくる。

 Dトレーダーの外から、誰かの話声が聞こえてきた。AGはちらちらと扉に視線を向ける。しかし、足音も話し声も素通りしてしまった。

 喧騒はあっという間に遠くなる。AGは肩を戦慄かせた。この場にクーゴがいなければ、思い切り泣き出してしまったかもしれない。

 

 幾何の沈黙の後、AGは深々と息を吐いた。そのまま、Dトレーダーの店終いを始める。

 

 

「あれ? 粘らないのか?」

 

「商売人たるもの、引き際も心得ていますよ。利益獲得のためには、損失を減らすことも重要です」

 

 

 ふふん、とAGは胸を張った。実際、彼の発言は、クーゴの親戚でデイトレーダーを生業にしている人物もよく口に出している。株価の変動によっては、利益ではなく損失がでることもあった。

 親戚曰く「損失が出た時点で、『意地でも利益を取り戻そう』と考えてしまうと、損失が増えてしまう」という。店じまいをするAGの後ろ姿をぼんやりと見つめながら、クーゴはふと問いかけた。

 

 

「ジェミオンって、AGが開発した機体なんだよな?」

 

「ええ」

 

「前々から思ってたんだけど、あの機体のコクピット、ちょっと無理のある設計じゃないか?」

 

 

 クーゴの問いに、AGは目を瞬かせた。そんな質問が飛んでくるとは思わなかったのだろう。開発当時のことを思い出したのか、AGの眼差しは遠い所へ向けられた。

 

 

「わかりますか?」

 

「まあ、大体は」

 

「そうなんですよねぇ。突貫工事だったんですよ」

 

 

 AGは天を仰いだ後、言葉を続けた。

 

 

「元々、ジェミオンは1人乗りだったんですよ。本来のパイロット候補の人数が1人だったためなんですけど」

 

「でも、実際、ジェミオンはヒビキとスズネ先生が搭乗してるんだろう?」

 

「ええ。パイロットを決める際に、ちょっとしたトラブルとイレギュラーが発生してしまったんです。その結果、メインパイロットにヒビキさんが選ばれ、サブパイロットとしてスズネさんが搭乗することになったんですよ」

 

 

 成程。1人乗りだった機体を、突貫工事で2人乗りに改造したのか。

 

 格納庫でジェミオンの前を通りかかる度にアンバランスなコックピットが目についたが、そういう謂れがあったとは。

 成り行きで戦うことになったヒビキであるが、今ではZ-Blueのリーダー格として部隊を率いている。相当努力してきたのだろう。

 クーゴはAGの話を聞きながら、手に持っていた緑茶を啜る。少しだけ苦い。AGは深々と息を吐く。だが、彼の目は爛々と輝いていた。

 

 輝いていたと言っても、AGの表情はインターフェースに表示されているだけである。妙に人間臭い。

 AGの目は、そのイレギュラーを歓迎しているように見えた。クーゴは目を瞬かせた。

 

 

「……その様子だと、ジェミオンとヒビキに起こった想定外の事態も、お前にとっては利益に転じると思ってるのか?」

 

「うーん、どうでしょう。フィフティフィフティってところですかねぇ。現状の結果だけでは、良い方にも悪い方にも転がりかねません」

 

 

 「難しい案件です」と、AGは苦笑した。

 何でも知っていそうなAGであるが、見通せないものもあるらしい。

 

 

「貴方方ミュウに関することだって、私には想定外ですけどねぇ」

 

「?」

 

「いいえ、なんでもありませんよ。ドリンクのおかわりいかがですか?」

 

「ああ、貰う」

 

 

 AGは通常インターフェイスになって、お茶のおかわりを差し出された。クーゴはそれを受け取り、啜る。丁度いい温度のため、うっかり舌を火傷するなんてこともない。

 AGの通常インターフェイスは、正直何を考えているのか察知できない。人のいい笑みを浮かべているようにしか見えないためだ。腹に一物抱えているか否かを判断することはできなかった。

 Z-Blueの面々は、AGという人物(?)の性格をよく知っている。いい笑顔をしていても、その笑顔の裏には、底の見えない“何か”が揺らめき、蠢いているような男(?)であった。

 

 似たようなタイプとしては、イオリア・シュヘンベルグやその妻であるベルフトゥーロが挙げられる。

 2人の盟友だったエルガンもそれに含まれていた。……なんだろう、得体の知れない親近感を感じてしまう。

 

 

(……まさか、なぁ)

 

 

 あまり当たってほしくない予感に、クーゴは眉をひそめる。そんなクーゴを見たAGは、何が楽しいのか、くつくつと喉を振るわせたのであった。

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

(なんだか、騒がしいな)

 

 

 人々の思念がざわめきはじめたのを感じ取り、クーゴは思わず周囲に視線を向けた。ソレスタルビーイングの非戦闘員たちが、ぱたぱたと施設内を駆けまわっている。

 

 

「近くでアロウズのものと思しき機体の反応を補足しました。このままだと、最短では0035でこの基地に到達します……」

 

 

 ざわめきの正体はすぐにわかった。施設内にアナウンスが響き渡る。声の主はスメラギだった。どうやら、敵が近隣をうろついているため、この秘密基地を廃棄することにしたらしい。

 そう簡単に自分の拠点を廃棄していいのだろうか――クーゴは一瞬そう考えかけたが、ソレスタルビーイングは秘密組織だ。自分たちの情報を守るためには、当然なのかもしれない。

 

 軍にも、民間にも、彼らは情報を隠し通している。機密保持のために並々ならぬ努力をしていたのだろう。今までも、これからも、ソレスタルビーイングは情報を隠し通していくのだ。クーゴは目を伏せた。

 

 

「気を付けてね、ミレイナ」

 

「はいです!」

 

「貴方も」

 

「わかっているさ」

 

 

 少し離れた場所で、ヴァスティ一家が別れを惜しむように会話をしていた。3人の眼差しは、互いのことを想っている。

 

 

「それにしても、今回は急な決定ですね」

 

 

 クーゴの隣にいたイデアが、眉間に皺を寄せながら顎に手をあてた。

 彼女の表情は、不穏な気配を察知したと語っている。クーゴも頷いた。

 

 

「基地を廃棄するって、そんなに頻繁にやるものなのか?」

 

「廃棄計画はきちんと立ててますよ。ここまで急だと、想定外の事態が予想されるときくらいだと思います」

 

 

 嫌な予感を感じているためか、イデアの表情は晴れない。それを肯定するが如く、構成員たちが慌ただしく駆け出し始める。データと物資の輸送計画についての話が、四方八方から聞こえてきた。

 プトレマイオスの発艦後、なるべく早いうちに物資と人員の移動を行わなければならないようだ。<一刻も早く準備をしなければ>という人々の思念がざわめいていた。

 誰もがせかせかと走り回っている。まるでタイムアタックに挑戦しているかのようだ。実際――目標とはいえ――0035までに荷物を纏めて脱出しなければならないのだから。

 

 駆け回る構成員たちをかき分けながら、クーゴとイデアはプトレマイオスに乗り込んだ。自分たちが来たことを察知したのか、宙継がひょっこり顔を出す。どこか不安げだった彼の表情は、クーゴを目にした途端拡散した。宙継は安堵したように微笑む。

 

 

「プトレマイオスの補給と補修、終わったようです」

 

「そうか」

 

「……となると、基地にいる面々の脱出が問題ですよね。どう考えても、時間内に全員が脱出する準備なんて整いませんし」

 

 

 イデアはそう呟いて、秘密基地の内部で駆けまわる構成員たちに視線を向けた。

 そうなると、ガンダムマイスターたちは、衛星兵器破壊のミッション以前にすべきことがあるらしい。

 

 

「トレミーのマイスター、およびトレミーに常駐しているMSパイロットたちへ通達。構成員脱出のために時間稼ぎを行います」

 

「みんな、準備して!」

 

 

 フェルトとクリスティナのアナウンスが響き渡る。それに呼応するかのように、マイスターたちが走り始める気配を《感じた》。

 クーゴとイデア、宙継もそれに続く。格納庫に雪崩れ込んだ面々は、何の躊躇いもなくコックピットに乗り込んだ。

 機体の整備は万全。いつでも出れる。クーゴが操縦桿を握り締めたとき、爆発音と振動が襲い掛かってきた。

 

 

<うわあああああああああああ!?>

<やっぱり、0035程度の猶予時間で、脱出準備が整うはずないじゃないか!>

<ムリゲーとクソゲーの合わせ技じゃあないんだから……!>

 

<どうしよう! 開発中の武装がぁ!!>

<諦めなさい、シェリリン! データのバックアップさえあれば開発は続けられるでしょう?>

<えー!!>

 

<何だ!? 一体何が……>

<あわわわ……>

 

 

 職員たちはてんやわんやである。あちらこちらから悲鳴が響いてきた。

 

 

「あまり当たってほしくなかったんだけど……」

 

「いや、そんなことはない。ミス・スメラギの予想が当たってくれてよかったと思う。間に合わなかったら、もっと大変なことになっていただろう」

 

「それは光栄ね。最も、それに関する功労者は私ではないのだけど」

 

 

 ティエリアに肯定されたスメラギは、苦笑しながらため息をついた。スメラギの視線の先には、満面の笑みを浮かべるベルフトゥーロがいた。

 どうやら、アロウズが近隣にうろついているという情報を察知していたのはベルフトゥーロたちだったらしい。彼女たちの助言がなければ、補給は間に合わなかったそうだ。

 

 

「私の情報が役に立ったでしょう?」

 

「ええ。感謝します、ベルフトゥーロ女史」

 

「なら、この一件が片付いたら、約束通り私とデートして頂けますね?」

 

「…………そうね。この一件が片付いたら、ね」

 

 

 スメラギを口説き落そうとしていたのか、ベルフトゥーロの表情は活き活きしている。対して、スメラギは物凄く渋い笑みを浮かべて視線を逸らした。

 

 彼女の眼差しは、「私には女同士でむつみ合う趣味はないのだけど」と訴えている。それはフェルトやクリスティナも同じようで、何とも言えない表情を浮かべていた。

 クリスティナの彼氏であるリヒテンダールは、危機迫る様子でベルフトゥーロを睨んでいた。「クリスは渡さない」と、彼の瞳は必死になって訴えている。

 幸運だったのは、ベルフトゥーロには「カップルを引き裂く趣味がない」という点だろう。不信の眼差しを向けるリヒテンダールに対し、彼女は「恋人を引き裂く趣味はない」と堂々宣言していた。

 

 

(なんて会話だ)

 

 

 この会話が相手指揮官に聞こえていたら、その人物はどんな顔をしているだろうか。

 おそらく、口元が引きつっていることは確実である。

 

 不意に、アロウズの服を着た女性が眉間に深い皺を刻みながら虚空を見上げている姿が《視えた》。知的な眼鏡の女性は、戦慄いた様子で言葉を紡ぐ。

 

 

<そんなバカな……! 今私は何を考えた!? コーラサワーの方が見ていて安心するだなんて、そんな……!>

 

 

 彼女のぼやきを皮切りに、他にも何かを受信してしまった方々がいたらしい。

 <俺、この戦いが終わったら性転換するんだ……>だの<私もう百合でいい>だのとぼやきが《聴こえて》くる。

 クーゴが思わずベルフトゥーロを《視れば》、彼女は得意げに微笑んでいた。成程、原因は彼女らしい。

 

 

「それじゃあ、出撃シークエンスに移ります」

 

 

 これ以上不毛な会話を続ける気はないと言わんばかりに、フェルトが宣言した。それを皮切りに、ガンダムたちが次々と出撃していく。

 イデアのパハリアに引き続き、クーゴのはやぶさが宇宙(そら)へと飛び出した。最後に宙継のちょうげんぼうが飛び出す。

 

 守るための戦いが、幕を開けた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「イアンさん、大丈夫ですか!?」

 

 

 若者2人の声に、イアンの意識は引っ張られるようにして帰還した。途端に体中が軋んだ痛みを訴える。つい先程、己を襲った衝撃と爆発は、アロウズの攻撃によるものだろう。

 部屋をぐるりを見回せば、辺り一面残骸が漂っている。オーライザーは無事だろうか。調整は既に終わっていたとはいえ、破壊されてしまっていては元も子もない。

 

 イアンの心配は杞憂だった。

 部屋は悲惨なくらい破壊しつくされているのに、オーライザーには傷1つついていない。

 爆発に巻き込まれたような形跡もなかった。

 

 

(よかった。あとはこいつを、刹那の元に――)

 

「ひどい怪我……!」

 

 

 ルイスは心配そうにイアンを支える。沙慈も同じように、イアンの背を支えた。イアンは弱々しく呼吸をしながら、言葉を紡ぐ。

 

 

「オーライザーの調整は終わった。こいつを……ダブルオーに……」

 

「そんなことより、早く医務室へ!」

 

「行きましょ!」

 

 

 沙慈とルイスが医務室へと向かおうと踵を返しかける。

 イアンは2人の手を掴んで引き留めた。

 

 

「ワシのことはいい。オーライザーを、届けるんだ。……そうでないと、ワシらは全員やられる……」

 

「イアンさん……」

 

「……守るんだ。みんなを、仲間を……」

 

 

 イアンはじっと2人を見つめる。ルイスと沙慈は暫く黙っていたが、顔を見合わせて頷いた。

 

 

「任せてください! 僕とルイスが、必ずやり遂げて見せます!」

 

「大丈夫! 私と沙慈がいれば、アロウズなんて怖くないんだから!」

 

 

 力強く微笑むクロスロード夫妻の様子を目にして、イアンは思わず微笑んだ。悪の組織に所属しているとはいえ、この2人は非戦闘員である。

 カタロンの軍事基地で色々派手にやらかしていた現場を目撃してはいるけれど、結局のところ、クロスロード夫妻は戦闘に向いていない人員であった。

 本来は後方支援に勤しむはずの人間を、イアンは戦場のど真ん中に送りだそうとしている。申し訳ないと思いながらも、オーライザーを託せる技術者はこの夫婦しかいないのだ。

 

 

「……ああ。頼む」

 

「「はい!」」

 

 

 沙慈とルイスが威勢よく返事をしたときだった。遠くから扉が開く音がする。部屋に飛び込んできたのはマリーだった。

 

 

「私がイアンさんを医務室へ運びます!」

 

「お願いします、マリーさん!」

 

 

 頼りなさげに漂うイアンの体は、沙慈とルイスからマリーへと引き渡された。

 マリーに背中を支えられ、イアンは部屋の外へと連れて行かれる。

 

 クロスロード夫妻に託せたという安堵感に、イアンの意識は急激に落ちていく。あの夫婦なら大丈夫――そこまで考えて、ふと、イアンは気づいた。

 沙慈とルイスは、当たり前のように“2人で”オーライザーを運転しようとしている。動かない首をどうにか動かした先では、夫婦は躊躇うことなくコックピットに乗り込んでいた。

 

 おかしい。朦朧とする頭で、イアンは考えた。

 何かがおかしい。その答えが頭に浮かぶ。

 絶対におかしい。イアンは思わず、声に出す。

 

 

「……ちょっと待て。オーライザーは、1()()()()……――!!」

 

 

 残念ながら、イアンの言葉は最後まで紡がれることはなく。

 違和感の正体を最後まで確認することなく。

 

 イアンの意識は、真っ暗闇に沈んでしまったのだった。

 

 

 

 

 クーゴ・ハガネ、只今、明日を探して迷走中。




【参考及び参照】
『ガンダムWiki』より『メメントモリ』




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