問題だらけで草ァ!! -Under the Flag-<2nd Season>   作:白鷺 葵

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【諸注意】
 1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
 2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
 3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
 4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
 5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
 9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。

 10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」、『◆』が「特殊な意味合いが含まれている」場面転換、及び視点切り替えになります。
 11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
 12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。

 13.この小説は2023年の10月時点で明らかになっている情報をベースにして執筆しているため、後の公式作品で発表・開示された情報とは矛盾が発生する可能性があります。

上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。



22.僕らがやりました

 

 マザー・リリアンを沈黙させた際に入手できた情報は、メメントモリ――軌道エレベーターの低軌道リング上に設置された『自由電子レーザー砲』――に関するものの()()()()。設計された意図や運用用途に関する情報(もの)が中心で、製造された数や設置されている詳細な場所までは掴み切れていない。

 予備端末でしかないマザー・リリアンの権限で入手できる情報は限りがあるし、彼女が撃破されたことを察してネットワークを切り捨てたマザーコンピュータ『テラ』の迅速な判断と行動に追い縋って情報を引き出せただけでも儲けものであろう。問題があるとするならば、『自分たちが一歩遅かった』ことか。

 

 メメントモリ以外の情報で有力そうだったもの――思考プログラムを施されたイノベイドが()()()()スイール王国へ送り込まれている――は、つい数時間前に発射されたメメントモリによって価値を失っている。

 スイール王国は連邦政府のやり方に対して反抗的であり、その方針から『カタロンとも一定の繋がりがあるのでは』という疑いをかけられていた。そのため、アロウズはメメントモリのお披露目会場、及び見せしめの対象として件の国を選んだ。

 王族や政治家が文字通り『一掃』されてしまった今、スイール王国は事実上の無政府状態となっている。『スイール王国の混乱を治めるため』というお題目が成立し、地球連邦政府が介入するための口実が出来上がってしまっていた。

 

 MSや軍部諸共消し飛ばされた首都は、文字通りの丸裸だ。地球連邦軍が占拠するのも簡単だったろう。

 

 

(手駒を割く必要がなくなるという点も、他国に対する牽制や見せしめに使えるという点も、兵器として100点満点なんだよなぁ)

 

 

 つい先日、目の当たりにした光景――メメントモリによってスイール王国の首都が消し飛ばされた――を思い返し、ノブレスは()()()()()()()()()

 

 

『ソレスタルビーイングの面々は“アロウズが所持する衛星兵器・メメントモリの破壊”ミッションを自分たちに課したわ』

 

『メメントモリに関する情報もそうだけど、今のあたしやあの子たちには、圧倒的に情報が足りないのよ』

 

『他の子たちもマザーネットワークを構築している子機端末探し、及び破壊を試みてはいるけど、端末探しの時点で頓挫してるみたいで……』

 

 

 つい数時間前に、ベルフトゥーロから届いた思念波の内容を思い返し、ノブレスは()()()()()()()()()()

 アロウズのジンクスやMDのセンチュリオらを見下ろすのは、女性らしいフォルムが特徴的な深紅の機体だ。

 イデアが持っていた虚憶(きょおく)のデータベースの中に登録されていた機体(ソレ)――クイーンアメリアスが、寸分違わず再現されている。

 

 アロウズが再現したのは“ドレスが装備されていない”タイプらしく、足を覆いつくすような下部の装飾はない。お供となる自立型兵器の1つ――ガーディアンが搭載されていないようだ。

 この場合の武装はビームウィップとサーヴァント・ファンネルくらいだが、機体性能は(ワン)留美(リューミン)が駆るハルファスベーゼと同等である。油断はできない。

 

 

「『この施設の最高責任者は思考プログラムを受けていた』という情報が提示されたときから、嫌な予感はしていたが……」

 

「人間のこと、全く信頼してないんだな。でなきゃ、()()()()()()()()()()()()()なんて真似しないだろ」

 

「――思念増幅師(タイプ・レッド)に、堅牢なる守り手(タイプ・グリーン)苛烈なる爆撃手(タイプ・イエロー)、そして――荒ぶる青(タイプ・ブルー)か」

 

 

 クイーンアメリアスに搭乗しているであろう()()に関して、ヨハンとミハエルは感想を零した。そんな2人――否、この場にいるチーム・トリニティとノブレスを見下すようにして、()()が口を開く。

 

 

「ミュウは秩序を乱す。お前たちは存在してはならない」

 

「口を開けばそればっかり! 他に何か言うことあるんじゃないの!?」

 

「バカミテー、バカミテー!」

 

 

 同じことを繰り返す()()に辟易しているのは、ネーナやHARO。勿論、ノブレスも同じことを考えている。

 

 S.D.体制――及び、マザーネットワークに関わる連中はみんな『こう』なのだ。定められたプログラムを定められたとおりに執り行うことを至上とし、時代の流れや状況の変化、人々の意識や在り方の変容を認めようとしない。最も、『認める』と言う思考回路がないと言われればそれまでなのかもしれないが。

 『Toward the Terra』では、マザーコンピューターに介入できる唯一無二の存在がいた。地球連邦の国家主席であるキース・アニアンである。だが、彼はその権限を行使する間もなく、マザーコンピューターの判断によって処分されてしまった。結局、実質的に、マザーコンピュータを止める方法は『物理的破壊』しかなかったワケで。

 

 

<ハッキングの調子はどうだ?>

 

<アクセス権の奪取と情報の引き出しを試みてるけど、妨害が酷くて……>

 

<流石は天下のテラズ・ナンバー12(トゥエルブ)……! 勿論、こっちも諦めるつもりはないけどね! 行くわよサクラ!>

 

<勿論! 全力でやろう、ユノ姐さん!>

 

 

 フェニックスの問いかけに答えたのは、つい先日の補給時に合流した疑似人格AI――黒髪のショートカットが特徴的な少女、サクラ・スラッシュと茶髪のショートボブとヘアバンドが特徴的な少女、ユノ・アスタルテ。双方共に支援特化型のAIで、フェニックスにとっては後継型/後輩にあたる。

 どちらも刃金宙継の有していた虚憶(きょおく)を下地にし、“S.D.体制下や体制崩壊後、及び、それらの発展形”を集めて生み出された疑似人格AIであり、世代は最新型。フェニックスをノブレスの補助に回すための追加人員であるが、この2人なら充分やってくれるだろう。やる気満々の後輩たちの姿を見たフェニックスは、満足げに笑った。

 彼らのやり取りを見守っていたノブレスは前を向き直る。このネットワーク施設の中枢を司るテラズ・ナンバー12を宿した緋色のMS・クイーンアメリアスがビームウィップを指揮棒のように動かした。それに呼応するかの如く、アロウズのMSやMDたちがノブレスたち目掛けて殺到してきた。

 

 勿論、ノブレスは黙って殺されてやるつもりはない。

 

 こうして中東最大のネットワーク施設に乗り込むのだ。切り札を切るのは今しかなかろう。

 散々教え子におんぶにだっこをして貰ったわけだし、そろそろ頑張らなければなるまい。

 

 

「――ガンダムマイスターとして、久々の戦いだ。……しっかりしないといけませんね、()()()()()

 

 

 ノブレスの呟きに応えるかの如く、愛機――ガンダムコンラートのカメラアイが煌めく。コンラートの周辺に展開した自立兵器たちの群れは総勢15基。この場にいる機体の中で一番多いだろう。

 

 

「対MD用のアンチウイルス、散布開始します!」

 

「これで少しは戦いやすくなるだろう」

 

「但し、過信は出来ないから気を付けて!」

 

 

 エラ、ゼル、ヒルマンの3人から通信が入った。一定の効果は出ているようで、MDたちの動きに不具合が現れる。彼らの援護に感謝の言葉を述べながら、光の監査官たるラグエルたちと異端審問官が飛翔した。それぞれの得意な戦法を駆使し、敵機を撃墜していく。

 ノブレスもまた、ベルナールで戦っていた頃と同じくファンネルを展開した。ビームを打ち放つだけでなく、複数機を合体させて砲撃にしたり、或いは組み合わせた複数機をドリルのように回転させながら貫いたり、合体していたファンネルを切り離してファングのように穿ったりと使い分ける。

 

 クイーンアメリアスは降り注ぐ攻撃を起用に避けつつ、サーヴァント・ファンネルを展開して差し向けてくる。ノブレスはそれを縫うようにして回避し、同じようにファンネルを差し向けた。

 

 勿論、攻撃を仕掛けたのはノブレス/コンラートのファンネルだけではない。ネーナ/フルールとミハエル/フィオリテのビットとファングも飛び交い、逃走経路を潰しにかかる。そこへヨハン/フォルスが砲撃を撃ち込んだ。MSもMDも分け隔てなく消し飛ばされる。

 逃げ延びたMSやMDの元へビットやファングをけしかけ、ファンネルを展開して追い立てていく。クイーンアメリアス/テラズ・ナンバー12はビームウィップやサーヴァント・ファンネルを応用して攻撃を遮断したり、MDを盾にするようにして逃げおおせていた。

 ただ、四方八方から飛び交うファンネル、ビット、ファング、砲撃、対MDアンチウイルスの除去等を同時に処理し続けたため、オーバーフロー気味になりつつあるのだろう。心なしか動作が遅くなっているように感じる。

 

 

<もうちょっとでアクセス権奪取できそう!>

 

<みんな、このまま負荷をかけ続けて!>

 

「任せて!」

 

 

 サクラとユノの言葉を受けて、ネーナ/フルールがビームウィップとビットを同時展開する。

 クイーンアメリアスはMDを盾にして攻撃を防ごうとした。

 

 

「だろうと思ったさ!」

 

 

 普段は砲撃役として動くことが多いヨハン/フォルスがビームサーベルを構えて突撃する。オーバーフロー気味だったクイーンアメリアスは虚を突かれたような仕草を見せたが、即座にビームウィップを振るった。

 

 

「ファンネル、1番から3番をフォルスのシールドとして展開!」

 

 

 ノブレスの指示に呼応したファンネルが飛び出し、ヨハン/フォルスとミハエル/フィオリテを囲むようにして展開する。ビームウィップが迫っていたフォルスのシールドは問題なく機能し、クイーンアメリアスの攻撃を軽減した。

 勢いそのまま、フィオリテがクイーンアメリアスに肉薄してサーベルを振るった。クイーンアメリアスは手痛い一撃を喰らうも、即座に対ミュウ用兵装を展開してフォルスを屠ろうと動く。だが、フォルスを守っていたファンネルによってそれは阻まれた。

 一歩遅れて、ネーナ/フルールの攻撃がクイーンアメリアスに降り注ぐ。その隙を突いて離脱したヨハン/フォルスの安全を確認し、ノブレス/コンラートは彼らの守りを解いて、新たなファンネルを追加してクイーンアメリアスへと差し向けた。

 

 攻撃用ではない。本来ならそれは、フォルスを守るために張ったシールドと同じものだ。唯一違うのは、シールド内部にいるのが()()()()()()()()()であることだろう。

 要は、シールドを『クイーンアメリアスの動きを封じる』ために張り巡らせたという話である。それを察したクイーンアメリアスが武装を展開して暴れ出した。

 

 対ミュウ用兵装が展開されるが、それによってシールドが破壊されるよりも、バスターソードを構えたフィオリテが突っ込んでくる方が確実に早い!!

 

 

「チェストォォ!」

 

 

 堅牢なる守り手(タイプ・グリーン)の防壁を転用し、バスターソードそのものの強度を上昇させた一撃がクイーンアメリアスの脳天へ叩き込まれる。

 それと入れ替わるようにサクラとユノの歓声が響いた。クイーンアメリアスの脳天に叩き込まれた一撃が引き金となり、アクセス権を奪い取ることが出来たらしい。

 2人は意気揚々とアクセス権を分捕り、引き出せるだけの情報を引っ張り出す。制限時間は“グランドマザー『テラ』が子機のリンクを切る”まで。

 

 文字通り、時間との勝負だ。

 そうして、グランドマザー『テラ』が動き出す。

 

 

<あっ、リンク切れた!>

 

<時間切れってことね……。でも、12の権限で閲覧可能な情報(モノ)はすべて回収したわ!>

 

「それなら長居は無用です! 撤退しますよ!」

 

 

 MD共々完全に沈黙したクイーンアメリアスを残し、ガンダムたちは一気に撤退する。一部のMSたちが追い縋ろうとしてきたが、最後は立ち止まったまま狼狽するので留まる。

 

 思念波で詳細を探ると<グランドマザー『テラ』がテラズ・ナンバー12のネットワークを切り離したのとほぼ同じタイミングで、施設の最高責任者が不審死を遂げた>という連絡が施設中を駆け巡っていたらしい。

 クイーンアメリアスを駆っていたテラズ・ナンバー12を『不必要』と判断したことが理由だろう。恐らく、テラズ・ナンバー12が再建されることもない。故に、テラズ・ナンバー12の忠実な私兵と化した施設の最高責任者を生かす理由もなくなった。

 

 

(文字通り、使い潰されたということか……)

 

 

 S.D.体制下の人間たちも、似たような調子で使い潰されていたのだろう。本人の与り知らぬところで役目を与え、それが終われば、該当者を廃人に追い込んだり殺処分にしたりする。

 『Toward the Terra』の登場人物――S.D.体制下でグランドマザーの被害者となったのは、ミュウ因子を有していたセキ・レイ・シロエと、ジョミーとキースとの接点があったサム・ヒューストン。

 恐らく、この施設の最高責任者の死因は自殺か病死になるだろう。場合によっては、死の遠因としてスターダスト・トラベラーが槍玉に挙げられるのかもしれない。そこは向こうの出方次第か。

 

 何とも言えない後味の悪さを噛み殺しつつ、ノブレスたちは基地を後にする。次にやるべきことは、テラズ・ナンバー12から入手した情報の解析だ。なるべく早く終わらせたい。

 

 

(――少しでも、目覚めるであろう革新者(イノベイター)の力になれば良いのですが)

 

 

 ノブレスはそんなことを考えつつ、コンラートの操縦桿を握りしめる。

 周囲の安全を確認したカテドラルが着陸したのを確認し、地上へ降り立った。

 

 

 

***

 

 

<そういや、お前たちの同期はどうしたんだ? もう1人いただろ? 確か、虚憶(きょおく)持ちの疑似人格AI。あだ名がジーニアス赤眼鏡の――>

 

<あの人なら、マザーと一緒に宇宙に向かったよ。なんでも『見たいものがある』とか>

 

<見たいもの?>

 

<――確か、『()()()()()の活躍を見に行く』って言ってたかな>

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 どこからどう見ても戦況は不利。指揮官の読み合いも、投入された戦力も、アロウズの方が圧倒的に上だ。

 

 ソレスタルビーイング関係者を逃がすための護衛として輸送船と共にこの場を離れたアリオスは、無事に任務を遂行中。しかしそれは、裏を返せば『戦力として当てにすることは出来ない』ことを意味していた。プトレマイオス側が自由に動かせるガンダムは、ダブルオー、パハリア、セラヴィー、ケルディムの4機となる。

 一応補助役としてはやぶさとちょうげんぼうが加わっているが、アロウズ側の作戦によって砲撃や攻撃に邪魔が入っている。誰も彼も、己の身を守り、戦線を保つので手一杯らしい。先の戦闘で投入された刃金3兄弟専用の新型――センチュリオ・レガートゥスが投入され、先の戦闘データを反映させたこともあり、動きが洗練されているようだ。

 この宇宙域には、刃金蒼海の駆るバルバトロや(ワン)留美(リューミン)の駆るハルファスベーゼ、サーシェスの駆るアルケーガンダムの姿は無い。前回同様、(ワン)紅龍(ホンロン)のマスターフェニックス・フオヤンと、刃金3兄弟が搭乗するセンチュリオ・レガートゥスを中心にして暴れまわっている。

 

 アロウズの連中もなりふり構っていられないのか、MDを盾にするような形で利用している者もいた。中には、刃金3兄弟のいずれかの盾になるような動作をして打ち取られたMSもある。

 データに照らし合わせてみれば、その多くが“思考プログラムの影響を受けた”という判定が出てきた。あまりの胸糞悪さに顔が歪んでしまったのは、きっと致し方ないことだろう。

 

 

<やーい、やーい、出来損ないー! お前、不意打ちじゃないとまともに戦えないくらい弱っちいままだなー!>

 

<だからみんな死んじゃうんだよ! お前が出来損ないだから、そんなお前を選んだから、こうなるんだ!>

 

<最期くらい、母さんの言うことを聞いて死んでおけばよかったんだ。お前が兄弟であることに反吐が出る>

 

 

 ――その中でも腹立たしい光景は、ちょうげんぼうを率先して嬲りにかかるセンチュリオ・レガートゥスの群れだ。

 

 他のガンダムに攻撃を仕掛けながらも、奴らは末弟である宙継を一方的に攻撃することが楽しいらしい。先の戦闘で醜態を晒したことと、母親から『出来損ない』と呼ばれていた宙継に撤退させられたことが気に喰わなかったようだ。その鬱憤を晴らそうとしているのだろう。

 <何をやっているんだあいつらは!? 作戦遂行に支障が出るというのに!!>――指揮官であるカティ・マネキンが言うことを聞かない3兄弟に苦言を呈している《聲》が《聴こえた》が、聡明な彼女のことだ。刃金3兄弟が思った通りに動かないという点も加味して作戦立案しているはず。

 

 

(()()()()()……)

 

 

 思わず零したのは、“自分”が持つ虚憶(きょおく)の中で出会った()()を指す言葉。()()()()()()()()()で邂逅し、狂った管理システムの野望を打ち砕くために戦った旅路――その欠片を有する者としてのものだ。

 

 この世界に生まれ落ちた“自分”が特異な存在であることは自覚済み。自分と関りがあった面々を再現した疑似人格AIたちとも顔を会わせたが、()()()()には“自分”と同じような特異性は一切備えていないようだった。

 あくまでも()()()()は『刃金宙継の有する虚憶(きょおく)のデータから再現された疑似人格AI』でしかない。適性や性格を再現できていようと――あの戦いに関する記録を有していたとて――記憶や感情までは辿れないのだ。

 同時にそれは、この世界に存在する刃金宙継にも言えること。彼は、“自分”が有する虚憶(きょおく)の『()()()()()』の平行存在だ。“自分”が認めたライバルであり、戦友であり、命の恩人であり、特異性を宿した疑似人格AI――“自分”が生まれてしまうくらいの存在だとも言える。

 

 勿論、この世界に存在する刃金宙継にとって、“自分”は“虚憶(きょおく)で出会った戦友の1人”でしかないのだろう。

 そんなことはハナから承知している。だとしても尚、()()()()()()選択肢を“自分(みずから)”の意志で選び取ったのは――

 

 

<ミセス・ベルフトゥーロ。近隣に駐留しているミスター・リチャードたちに合流の進言を。彼の艦隊には()()()()が――>

 

<熱くなりすぎだよ、ハーメス>

 

 

 “自分”――ハーメス・マーキュリーを、ベルフトゥーロが制する。彼女はエイフマンと共に、非戦闘員というカテゴリで身を置いている。

 後者はアスカ夫妻の手伝いに駆り出されており、当の夫妻は重症患者――イアンの手当てで大忙しだ。

 患者のイアンはしきりに「オーライザーは1人乗りなんだ。1人乗りだったはずなんだ」等と呻いていた。閑話休題。

 

 

<ですが――>

 

<トランザム! ――サイオン、フルバースト!>

 

 

 尚も言い募ろうとしたハーメスであったが、次の瞬間、ちょうげんぼうのトランザム、及び、ESP-Psyon・フルバーストが発動した。高速移動したちょうげんぼうが各機体の()()()()()()()()()()を穿ち、撃ち落とし、貫き、切り裂いて無力化させていく。彼の動きには一切の無駄がない。

 例えるならそれは洗練された“解体ショー”。()()()()()()()()()のハーメスや、システムの介入によって襲い掛かって来た敵たちに対して『()()()()()』が散々披露してきた戦闘技能だ。アロウズの機体が文字通りの達磨にされ、宇宙を漂った。

 

 宙継を馬鹿にしていた兄たちも、もれなく解体ショーの被害にあう。それでも、武装の1つ――厚陽と星輝が射撃武器であるランチャー・ジェミナス、海月が格闘戦用の武器であるブレード・ルミナリウム――をギリギリで守り抜いたあたり、奴らの戦闘能力も伊達ではないのだろうが。

 

 

<クソ! ナノマシンが利かない……!>

 

<腹立たしいヤツめ……!>

 

 

 星輝と海月が不満げに叫ぶ《聲》が《聴こえる》。そのずっと後ろの方で、指揮官たるマネキンが深々とため息をついた姿も《視えた》。戦力として重要な存在たるセンチュリオ・レガートゥスが事実上の『お荷物』になったわけだから、匙を投げたくなる気持は頷ける。

 MSの武装解体ショーが繰り広げられたこともあってか、力関係に若干の影響が出始める。そこへダメ押しとばかりに飛来するのは、オーライザー――刹那・F・セイエイの搭乗機であるダブルオーの支援機だ。イアン・ヴァスティの代打で操縦するのは、沙慈とルイスの新婚夫婦。

 

 通信越しにソレスタルビーイング関係者を混乱の渦に叩き落しながらも、逆転の布石が打たれようとしていた。

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

「……ん?」

 

「どうかしたのですか?」

 

「いや、なんだか違和感が……」

 

 

 オーライザーを装備したダブルオーの勇士を見届けたイアンの声が、通信越しから響く。クーゴのサイオン能力は、彼が今どのような表情を浮かべているかを鮮明に映し出していた。

 イアンの脳裏に浮かぶ光景を共有する。勿論許可は取っていないし、半ば無自覚なものであった。普通なら叱られそうだが、申告さえしなければ気づかれないであろう。閑話休題。

 

 イアンは、オーライザーが敵機を退けるまでの一連の流れ――特に起承転結に関してを思い出しているようだった。

 

 起。敵として出現したミスター・ブシドーおよびグラハムの搭乗する機体がトランザムを起動。直後、西側に敵増援が出現し、ZEXISの攻勢に歯止めをかけられてしまう。

 承。そこへ援軍としてウィングガンダムゼロを駆ったゼクスが現れ、ヒイロと機体を乗り換えた。それと同時に、ルイスと沙慈がダブルオーの支援を申し出る。

 転。イアンは沙慈とルイスにオーライザーを託すことを決める。クロスロード夫婦は二つ返事で機体に乗り込む。

 結。オーライザーがダブルオーの元へ到達。最大威力のトランザムで、ブシドーの搭乗する機体を退けた。

 

 

「どうされました? 何か、オーライザーに関する懸念でも?」

 

「それはない」

 

 

 技術者の威信をかけて、と言わんばかりに、イアンは返答した。自信満々の表情からして、オーライザーに対して心配事があるようには見えない。

 

 何かあったら刹那たちをフォローしようかと思っていたが、その心配はなさそうだ。

 ……では、何故。クーゴは思わず首を傾げた。イアンは再び顎に手を当てて考え込む。

 

 再び流れ込んできた光景は、一連の起承転結。だが、イアンは何か違和感の正体らしき光景に気づいたようだ。起承転結の転にクローズアップする。

 クロスロード夫妻は2人でオーライザーに乗り込んだ。その光景が、何度も何度も浮かんでは巻き戻され、再上映される。何度見直しても、おかしなところは何もないはずだ。

 しかし、イアンにとって、()()()()()()()()()2()()()()()()()()()()()()()()()というシーンは重要なことだったらしい。イアンの顔は真顔である。

 

 

<……なあ、ミレイナ>

 

<なんです? パパ、顔色が悪いです。何かあったのですか?>

 

<あの夫婦は、2()()()オーライザーに乗り込んだのか?>

 

<はいです! クロスロード夫妻は、2人でオーライザーを発進させたです>

 

 

 父親(イアン)の問いに対し、(ミレイナ)は当たり前のように答えた。

 まるで、沙慈とルイスが一緒にいることが当たり前であると言わんばかりに。

 

 

<……2()()()?>

 

<2人で>

 

<……本当に2()()()?>

 

<はい! 2人でです>

 

 

 イアンはミレイナに確認し終えた後、顎に手を当てた。イデアが思わず問いかける。

 

 

「……イアンさん?」

 

「――変だな。()()()()()()()1()()()()で設計したはずなんだが」

 

 

 ぼそり、と、イアンは呟く。

 ……そうして、数秒程の沈黙の後。

 

 

「ちょっと待てェェェェ!!」

 

 

 声高らかに咆哮した。

 

 

「そんなバカな! 何故あの夫婦は、さも当たり前のように()()()()()()()2()()()()をしてるんだ!?」

 

「でも、オーライザーは普通に動いてますよ?」

 

 

 発狂寸前のイアンに対し、イデアがオーライザーの様子を指示す。彼女は細かく気を使ったのだろう。イアンの頭の中には、サイオン波によって映し出された光景が広がっていた。

 1人乗り設計のはずのオーライザー内部。そこには、当たり前のように2人乗りをする沙慈とルイスの姿があった。コックピント内部には2人乗り様の椅子が見える。

 しかし、元々は1人乗りだったものを無理矢理2人乗りに改造したような構造になっていた。内部の狭さといい、搭乗者の体勢といい、突貫工事であるということが丸わかりである。

 

 設計者であるイアンは唖然呆然としていた。眼鏡の遠近を何度も調節したり、自分の頬をつねったりして、夢か否か/見間違いか否かを確認し始める。

 彼の願いは叶うことなく、“目の前に広がる光景は夢ではない”と嫌でも理解させられてしまった。イアンは崩れ落ちるように膝をつき、天を仰ぐ。

 

 追い打ちとばかりに、イアンは受信させられてしまった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を。

 

 そこに映し出されたのは、オーライザーのコックピットを突貫工事する2人の技術者の姿。

 つい先程、イアンがオーライザーを託した張本人――沙慈・クロスロードとルイス・クロスロード夫妻であった。

 

 イアンがすべてを察したのと、オーライザーからイアン宛に通信が入ったのはほぼ同時。クロスロード夫婦が申し訳なさそうな表情を浮かべ、爆弾を落とした。

 

 

「ごめんなさいイアンさん! オーライザーのコックピット、無許可で改造しちゃいました!!」

 

「事後報告ですみません! でも、私たち、片時も離れたくなかったんです!!」

 

「ばんなそかなァァァァァァァァァッ!!?」

 

 

 「まるで意味が分からんぞ!」と、イアンの絶叫が響き渡る。

 彼の悲鳴は、ダブルオーが最後の敵機を屠った音によってかき消された。

 

 

 

 

 

 

「ふたりのこの手が真っ赤に燃える!」

「幸せ掴めと轟き叫ぶ!」

「せきぃっ!」「はっ!」

「ラァァァッブラブゥゥゥッ! 天っ驚ぉぉぉ拳っっっ!!」

 

 

 うら若き青年と乙女は手を取り合う。彼らの目には一切の迷いがない。2人の手が真っ赤に燃える。生きて幸せ掴むと轟き唸る。夫婦は同じ場所を見て、同じ未来を見ているのだ。クーゴにはその姿がはっきりと《視えた》。

 

 次の瞬間、シャトルの内側から凄まじい光とエネルギーが発生した。それらが収まったのと同時に、シャトル内部に送り込んだオートマトンの反応はすべて沈黙している。

 シャアもゼクスもブシドーも、その他の部下たちも、誰も何も言わなかった。クーゴも何も言えぬまま、眼前に広がる現象を眺めていた。沈黙が痛い。

 似たような光景を、クーゴは間近で目にしたことがある。そのときは平和な観光地で、夫婦と対峙していた若い恋人たちが撃っていた。

 

 現在、その恋人たちは様々な悲劇を乗り越えた果てに、悪の組織に所属する技術者兼おしどり夫婦となっていた。

 件の夫婦は、エクシアの後継機をコネクト・フォースに届けるため、シャトルに搭乗している。

 

 

「いくよルイス!」

「いくわよ沙慈!」

 

「せきぃっ!」「はっ!」

「ラァァァッブラブゥゥゥッ! 天っ驚ぉぉぉ拳っっっ!!」

 

 

 今度はシャトルの前方から、凄まじいエネルギー砲が撃ち放たれた。慌てて総員散開の指示を出したが、回避が遅れたザクとゲルググが吹き飛んだ。

 どの機体も大破はしていないが、戦闘続行は不可能だろう。部下たちが動揺する声が《聴こえて》くる。その中で、クーゴは深々とため息をついた。

 

 

「……だから、やめとけって言ったのに」

 

 

 クーゴの脳裏によぎったのは、『エクシアの後継機を奪取せよ』という任務を自分たちに与えた上層部の人間だ。彼らはクーゴの進言を聞かず、この作戦にGoサインを出したのである。……まあ、その理由を『勘』としか言えなかったクーゴも悪いのかもしれないが。

 沙慈・クロスロードとルイス・クロスロード。この名前を見たときに感じた悪寒の正体は“これ”だったのだ。今ならば、『エクシアの後継機を乗せたシャトルを襲ってはいけない』理由を事細かに説明できるのに。そんなことを思っても、もう後の祭りであった。

 オルトロス隊の中に動揺が走る。輸送船に護衛役がついていなかったのは、“夫婦が石破ラブラブ天驚拳の使い手だから”だろう。あの攻撃は、使い手の技量およびサイオン波によるブースト効果によっては一騎当千の破壊力と化す。

 

 ――丁度、今みたいに。

 

 

「なんだあれは」

 

 

 幾何かの間をおいて、シャアが弱々しい声で問いかけた。

 彼の言葉を皮切りに、ゼクスも同じようにして呟く。

 

 

「なんだあれは」

 

 

 精神状態が崖っぷちなシャアとゼクスの問いかけに反応したのはは、凍り付いていた空気から復活を果たしたブシドーであった。クーゴが説明する間もなく、ブシドーが声を上げる。

 

 

「あれは……!」

 

「知っているのかミスター・ブシドー!?」

 

「石破ラブラブ天驚拳だ。日本では“真の愛で結ばれたカップル、および夫婦のみが放てる”とされる、伝説の奥義……!」

 

「なんと……!」

「あれが、伝説の奥義……」

 

「…………俺は突っ込まんぞ。もう、何も突っ込まんからな」

 

 

 ブシドーの説明を受けたシャアとゼクスが戦慄する。以前のクーゴならこの説明に突っ込みを入れたのだろうが、クーゴは日本を離れて久しい身である。日本の観光地で初めて石破ラブラブ天驚拳を見たときもそうだった。

 “久々に日本に帰って来たら、いつの間にやら日本文化に石破ラブラブ天驚拳が増えていた。その説明をグラハムから聞き、否定しようとしたら実物が目の前に現れた”――そのときのクーゴの気持ちなんて、きっと誰もわからないだろう。

 

 

「――…………私も、撃ってみたかったなぁ」

 

 

 ややあって、ブシドーはぽつりと呟いた。今にも泣き出してしまいそうな横顔が《視えた》気がして、クーゴは何とも言えない気持ちになる。

 ブシドー/グラハムは、連邦の闇から命からがら逃れた後――蒼海の支配から逃れた今も、その眼差しは刹那だけを見つめていた。

 彼が抱える想いを察したのか、シャアとゼクスも俯く。女性関係が大炎上気味の2人(特にシャア)だが、だからこそ、ブシドーのことが心配なのかもしれない。

 

 元々、ブシドーは刹那のガンダム――エクシアの後継機を奪うという任務には乗り気ではなかった。納得だってしていない。しかし、ジオン優勢の講和条約を結ぶための戦力として、ガンダムが注目されていることは理解している。だから、彼は何も言わなかった。

 

 「自分は我慢弱い」と豪語するという言動からして、ブシドー/グラハムは自分勝手な男だと思われやすい。だが、彼は良識派の軍人であり、優先順位はきちんと心得ている。そうでなければ、ブシドーはこの戦場にいない。

 どこか諦めたように微笑むブシドーは、迷いを振り払うように目を閉じた。再び目を開けた彼の双瞼には、爛々とした光が宿る。彼の口元が不敵に微笑んだ。何か、強い確証を持ったかのように。

 

 

「――来る」

 

 

 嬉しそうに、ブシドーの口元が緩んだ。

 

 

「ゼクス特尉!」

 

「どうしたのだ?」

 

「こちらに急速に接近する熱源を補足しました! おそらく、コネクト・フォースかと!」

 

 

 間髪入れず、部下たちから連絡が入った。

 

 

「フハハハッ! そうこなくてはな!」

 

 

 ブシドーはそれを予期していたのだろう。刹那を求めてやまぬ彼の表情が、久々に恋人と逢瀬をするように見えたのは気のせいではない。

 ……まあ、実際に、ブシドー/グラハムと刹那の関係はそういうものなのだが。クーゴは遠い目をしながら苦笑した。本当に、しょうがない奴だ。

 

 彼の言葉を肯定するかのように、ガンダムたちが姿を現した。エクシア、ウィングゼロ、パハリア、エグザート――コネクト・フォースの先遣部隊だろう。

 

 

「間に合ったか」

 

 

 刹那が表情を緩めた姿が《視えた》。エクシア/刹那の隣には、当たり前のようにウィングゼロ/ヒイロとパハリア/イデアが陣取っている。

 それを目にした“須佐之男”/ブシドーが悲しそうに目を伏せたように《視えた》のは気のせいではない。代わりに、ゼクス/トールギスがムッとしたようにウィングゼロ/ヒイロを睨む。

 ヒイロとリリーナの関係についてアレコレ文句を言うゼクスであるが、2人の仲に何かあっても――或いは何もなくても怒りを爆発させる。そういう意味では、彼も難儀な人であった。

 

 ゼクスの怒りは、リリーナを放置して同僚(ブシドー)の恋人――刹那と良い仲になっているヒイロに向けられていた。残念ながら、ヒイロ本人は恋愛に疎めな部分があるため、なかなか進展しないようだ。

 最も、ゼクスは『リリーナに手を出したら、今度開発される新型を駆って強襲しに行く』と豪語している。妹の幸せを応援したいのか邪魔したいのかよく分からない。リリーナの恋愛も大変そうであった。閑話休題。

 

 

「刹那!」

「来てくれたのねっ!」

 

 

 沙慈とルイスが嬉しそうに手を振ったのが《視えた》。

 

 彼らを横目にしつつ、オルトロス隊とコネクト・フォースたちは交渉を始める。しかし、結局のところ、交渉は決裂した。

 オルトロス隊およびジオンは連邦側に近いコネクト・フォースを完全に信じている訳ではない。故に、彼らの指揮下に入ることを拒んだのだ。

 

 ブシドーやゼクスは連邦の闇によってダメージを受けた人間である。特にブシドーは、連邦の後ろ盾の1人である蒼海によって、文字通りの傀儡にされていた時期があった。

 連邦の闇をどうにかできないなら、コネクト・フォースと共に戦うことは不可能だ。かくいうクーゴも、連邦の後ろ盾云々の懸念については同意する。

 下手をすれば、自分たちの情報が流れて大惨事になりかねない。不気味な笑みを浮かべる蒼海の姿を振り払いながら、クーゴは深々と息を吐いたのだった。 

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

「待って。待って! 何かもう色々待って! 何もかもが追いつかない!!」

 

「オーライザーが……オーライザーが、なんか凄いことになってるですぅ!!?」

 

「図面にない機能が追加されてるんだけど!? ッてか、今の何!? どこから撃った!?」

 

「一体何がどうしてああなったッスか!?」

 

「イアンのおやっさん、いつの間にあんな機能を!?」

 

<ワシは知らん……! 何も知らん……! オーライザーに、そんな機能を付けた覚えはないんだ……!!>

 

 

 プトレマイオスのブリッジから響いた面々の悲鳴に紛れるようにして、重傷を負って医務室送りになったイアンのうめき《聲》が《聴こえてくる》。特に後者は“意識不明になる程の重症を負った”はずなのに、現実の光景を目の当たりにしたかのような発言をしていた。

 司令塔がこんな感じなら、現場はもっと大混乱だ。刹那/ダブルオーの元へ真っすぐ飛来するオーライザーからは、以前カタロンで見かけた石破ラブラブ天驚拳(という名の砲撃)が打ち放たれる。その一撃はオーライザーを妨害しようとしていたジンクスのカメラアイに直撃した。

 

 

<しまった! これでは何も見えない!!>

 

<あれ? 今の《聲》、凄く聞き覚えのあるような……?>

 

<姉さんの周囲を飛び回る悪い虫と同じ《聲》がする>

 

<嘘だろ!? なんでこんなときに全機能が停止するんだ!?>

 

 

 真っ暗な目をかっ開いた沙慈がすんと真顔になった途端、ダメ押しとばかりに、襲い掛かって来たジンクスが無力化されていた。愛の力(?)で増幅されたサイオン波による副次効果であろう。

 件のジンクス/パイロットが復旧を試みている傍を素通りし、オーライザーやダブルオーへ妨害しようと遠距離攻撃を試みたジンクスやアヘッドは石破ラブラブ天驚拳(という名の砲撃)で弾き飛ばす。

 体勢を崩して動けなくなったアロウズの機体を唖然と眺めていた刹那/ダブルオーであったが、クロスロード夫妻から「イアンにオーライザーを任された」ことを聞いて、即座にドッキングを試みた。

 

 乗り合わせていた赤いハロのサポートもあって、オーライザーは特に問題を起こすこともなくダブルオーと合体。オリジナルのGNドライヴ由来の緑色の光が、この場一帯に溢れ始める。

 少し離れた位置で紅龍(ホンロン)/マスターフェニックス・フオヤンを相手取っていたクーゴからでも、オーライザーと合体したダブルオーの様子が変わったことが伺えた。

 

 刹那/ダブルオーはアロウズの機体を翻弄するようにして、この宇宙域を自在に飛び回る。先程まで互角に戦っていたはずのアヘッドやジンクスを振り切り、置いてけぼりにしているのだ。非戦闘員であるクロスロード夫妻にはダブルオーの速さがキツいらしく、苦悶の《聲》を漏らす。だが――

 

 

<僕の傍にはルイスがいる。そして、プトレマイオスにはみんなもいるんだ……!>

<私の傍には沙慈がいる。そして、刹那たちがみんなを守るために頑張ってる……!>

 

 

<<――負けてたまるか!!>>

 

 

 歯を食いしばった夫婦の体が淡く光る。沙慈が鮮やかな赤、ルイスが鮮やかな黄色の光を放った途端、ダブルオーの動きが格段に良くなった。

 

 

<破壊する……!>

 

 

 ダブルオーを駆る刹那の言葉は4年前と変わらず物騒だ。何も知らない頃のクーゴが聞いたら、あまりの物騒さに目を剥いて彼女のことを二度見していたかもしれない。危険人物と見なしていただろう。

 

 

<破壊する……!>

 

 

 刹那やソレスタルビーイングに所属する人々は、世間一般から見ればテロリストだ。彼女たちの行いによって世界は一度破壊されたのは事実。彼女たちが討たれたことで、世界が統一されたのも本当のこと。彼女たちが関わったことで、多くの人々が犠牲になったことだって否定してはいけないことだ。

 けれど、彼女たちが動かなかったら、世界はどうなっていたのか。嘗ての青い星(テラ)でS.D.体制が敷かれていたときのように、踏み躙られる少数の悲嘆を黙認した地獄が形成されていたであろう予感がする。ヒトは己の意志や考える力すらも亡くし、人形のような存在になっていたのかもしれない。

 

 それがどれ程の歪みを生み出したのか、どれ程の悲劇を生み出したのか、クーゴは――いや、ミュウたちはよく《識っている》。

 第3者から勝手に役割を与えられ、それを果たすまでの間は適当に養育され、役目を果たせば即廃人化か殺処分。

 不適合者は記憶からも記録からも消去され、大切な人を失ったという事実や悲しみすら奪い取られて、それでも何も知らぬままみんな笑っている。

 

 ヒトとしての権利を奪われた世界を否定するのなら。箱庭に閉じ込められて飼い殺しにされる世界を否定するのなら。

 “ヒトがヒトとして生きていけない世界を作り出すシステム”を破壊しなければ、世界は前に進めない!!

 

 

<破壊する! ――俺たちの、意志で!!>

 

 

 刹那/ダブルオーの一撃が、指揮官機と思しきジンクスを真っ二つに叩き切る。勢いそのまま、次の獲物――はやぶさと相対峙していたマスターフェニックス・フオヤンの元へ向かおうとし――

 

 

(――え?)

 

 

 世界が、鮮やかな光に包まれた。

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 ソレスタルビーイングとそれに与する面々にとって、優先すべき行動(こと)は『輸送艦(トレミー)の救出』らしい。以前からソレスタルビーイングと同盟を組んで行動していた黒の騎士団の長・ゼロ曰く、『輸送艦を失うと、自分たちは地球へ帰る術を失ってしまう』とのこと。

 元三代国家陣営、及びブリタニア帝国の将校たちをキリキリ言わせた名指揮官は、重力に囚われてしまった輸送艦(トレミー)を救出するためのプランを打ち出す。それは、“黒の騎士団の機体が有するスラッシュハーケンを輸送艦に撃ち込み、輸送艦を固定。それを、ソレスタルビーイング製のガンダムが有する能力を使って引っ張る”というものだった。

 

 そのプランを実行するためには、黒の騎士団を構成するナイトメアフレームとソレスタルビーイング製のガンダムたちが戦線から離脱する必要がある。

 現在進行形で、彼や彼女たちはスプリッターと呼ばれる異形の機動兵器に襲われている真っ最中。しかも、奴らは国連軍を瞬く間に全滅まで追いやった強敵だ。

 正直言って、新たに表れたスプリッターと奴らを率いる親玉は“この場の全戦力を投入してすら勝てるかどうかも怪しい”相手。戦力を割くことは、ジリ貧が更に酷くなることを意味していた。

 

 クーゴやグラハムも輸送艦を引き上げる側に加わったが、ぶっちゃけた話、それでも焼け石に水程度の誤差しかない。不安そうな眼差しをしている面々を見ていられなくて、クーゴは敢えて声を上げる。

 

 

「大丈夫大丈夫、いけるいける! ()()()()()()()()()()()()、輸送艦の1つくらい!」

 

「クーゴ!? キミ、こんなときに一体何を言ってるんだ!? それはあくまでも虚憶(きょおく)の話だろう!」

 

<<なんか、いつもと逆だな……>>

 

 

 周りの人々が頭に大量の疑問符を浮かべる。尚、この中にいる多くの面々は、『人の心の光/Z』の虚憶(きょおく)で共に大特異点――アクシズを押し返した者も含まれていた。

 そんな中、グラハムが眉間に皴を刻みながらツッコミを入れてきた。それを見ていた初代ロックオンとアレルヤが異口同音で同じ感想を零したのが《聴こえる》。

 

 いつもと違うポジショニングで漫才(やりとり)が始まったことに困惑しているのか、ゼロが咳払いをして注釈をしてきた。

 

 

「……貴方が何を言っているかはよく分からないが、今回の作戦は“押し返す”のではなく“引き上げる”方だ」

 

「そうだったとしても、アクシズより規模小さいから何とかなるだろ。あれ、直系数十キロから数百キロだぞ」

 

「大特異点は“真っ二つになってない状態の奴”だから、多分一番の最大値ですよね」

 

「破壊したらエタニティ・フラット発動、落下を見送れば地球に衝突して大惨事、押し留めようとすれば次元力ブーストを悪用して邪魔してくる連中もいる」

 

「まさしく地獄絵図でした。でも、あの世界に存在する技術すべてを懸けた総力戦は大迫力でしたよ! 本当に、『人の心の光』はああいう光景を言うんだって――」

 

「――イデア、キミも奴の言葉に同調しないでくれ! 収拾がつかなくなる!!」

 

 

 クーゴの虚憶(きょおく)話に同調したイデアだが、眉間の皴を深めたティエリアの絶叫によって中断させられる。その後ろで、グラハムが「うちのがすみません」と謝り倒していた。

 <<やっぱり、いつもと逆なんだよなあ>>――初代ロックオンとアレルヤが訝し気に零す《聲》は、こういう状況でもはっきりと《聴き取る》ことができた。

 だが、《聴こえた》《聲》は、ソレスタルビーイングやその協力者たちだけではない。スプリッターを率いていた得体の知れない輩も、クーゴに対して視線を向けてくる。

 

 ソレスタルビーイングの協力者がクーゴへ向ける眼差しは困惑一択。

 対して、スプリッターを率いる輩がクーゴに向ける眼差しは嫌悪一択だ。

 

 

「何故だ。何故貴様は、絶望と対極的な感情を抱き続けることが出来る? 何故、その輝きを信じ続けることが出来る? ここでは意味を成さぬと知っていて」

 

「――“その光に、何もかもを焼かれた”から」

 

 

 クーゴは、奴をまっすぐ見返して、胸を張って答えた。

 

 

「何もかもを諦めて生きてきた俺にとって、虚憶(きょおく)は希望そのものだった。『人の心の光』に照らされて、焼かれて、背中を押されたから、ここまで来ることが出来たんだ。舐めるなよ」

 

 

 虚憶(きょおく)の光景が“この世界には存在しえないモノ”であることは百も承知。それでも、“ここではない何処かでは、確かにクーゴの傍に()ったモノ”だ。世界を、地球を、愛する人々を守るために立ち上がった人々の意志だ。――何処かの世界で、数多の奇跡を起こしてきた希望の原材料。

 

 先程から「絶望しろ」と強要してくる仮面の男からして見れば、希望の原材料になった数多の虚憶(きょおく)を有するクーゴは天敵みたいな存在になるのかもしれない。

 奴は再び大量のスプリッターを差し向けてきた。無理を押して戦闘を続行するヴァンアインを始めとした迎撃部隊が、輸送艦とスプリッターの間に立ちはだかる。

 彼らの獅子奮迅の活躍により、こちらにスプリッターが飛来することはなかった。勿論、前線がじり貧であることは変わりない。

 

 疲弊を訴えるパイロットの《聲》がひっきりなしに《聴こえてくる》。その度に、別の誰かが弱音を吐いた面々を叱咤激励する《聲》が響いた。

 この場にいる誰もが諦めていない。勿論、黒の騎士団のナイトメアフレームやソレスタルビーイングのガンダムと協力して、輸送艦を引き上げようとするクーゴやグラハムもだ。

 

 

「アサヒ……」

 

「もう少しだ! トレミーさえ引き上げれば!」

 

 

 黒の騎士団のエースパイロット・紅月カレンが憂うのは、つい先程大破した機体――ヴァンアインのパイロット・アサヒのことだった。この団体の中で一番の精神的主柱を担っているのは、彼とシャッテが駆るヴァンアインらしい。クーゴにとってのグラハムみたいな存在なのだろう。

 輸送艦を引き上げる側に回った面々の表情に焦りが滲む。本当は今すぐにでも前線部隊と合流し、スプリッターを迎撃したいのだろう。<輸送艦さえ引き上げられれば>と悔しそうに零す《聲》が響き渡る。時間が経過すればするほど、彼や彼女たちの表情はどんどん陰りが見えてきた。

 

 『人の心の光』そのものまでもが陰り、枯れてしまいそうな気がする。それを黙って見ていることが出来なくて、クーゴは思案を巡らせた。

 

 

(なんでもいい。なんでもいいんだ。この状況を打破する方法を。消えかけている『人の心の光』を、もう一度灯す方法を――)

 

 

 ――そんなことを思案していたとき、クーゴの視界に飛び込んできた武装(もの)があった。

 

 

『そういえば、悪の組織の技術者が言ってたな。『クーゴのフラッグに新しい武装を追加する』って』

 

『“棒状の武装”ってこと以外、僕らには開示されてないんだよね』

 

 

 いつの間にか、機体に装備されていた兵装の1つが、機体から離れていたらしい。それはくるくる回転しながらクーゴ/GNフラッグの眼前に落ちてくる。

 使用用途、効果共に不明。ビリーでさえ『よく分からない』と言い切ってしまった未知数の装備品。今の今まで、その存在を忘れていた。

 勿論、その武装が搭載されたGNフラッグを駆るクーゴにも、まともな説明がされていない。多分、その話をしたら満場一致で『(作って搭載した人間が)頭おかしい』判定が出ることだろう。

 

 刹那が面々を叱咤激励する声は聞こえてくるものの、どこか遠い。クーゴの視線と意識は、得体の知れない棒状の武装に注がれている。――ソレは何かを主張するように、()()()()を放った。

 

 クーゴは咄嗟に、搭載された新武装――棒状のよく分からないものに手を伸ばす。スラッシュハーケンを手放したクーゴを咎める誰かの声が聞こえたような気がしたが、気にならなかった。

 導かれるように武装を握りしめ、天高く掲げる。武装の使用用途は相変わらず分からないけれど、()()()()()()()と思ったのだ。そのまま息を大きく吸い込んで、口を開く。

 

 

「国連軍のパイロット、頭大丈夫なのか!?」

 

「なんか急に歌い始めたぞ!?」

 

 

 歌うのは、遠い昔に流行った楽曲――『Beyond The Time』。クーゴが有する虚憶(きょおく)――『人の心の光/Z』と紐づくものだ。

 

 クーゴの脳裏に浮かぶのは、大特異点と化したアクシズをZ-BULE全員で押し返したときの虚憶(きょおく)だった。“人の総意の器”を自称する空っぽな男・フロンタルと、“人の総意の器”として未来を求めて立ち上がったシャアの意志がぶつかり合う。

 負ければ時の牢獄に閉じ込められて永遠の停滞に囚われる。失敗すれば巨大隕石の激突によって地球は駄目になってしまう。地球を――愛する人を守るためには、勝利以外に道はない。状況はあちらの方が切迫していたけれど、“勝利以外に道は無い”のはこちらだって同じことだ。

 

 

「――旗?」

 

 

 クーゴが掲げる武装を見て、そんな感想を零したのは誰だったのか。あまりにも遠くから聞こえてきた声のため、判別が出来なかった。

 間髪入れずに響いたのは、()()()()()()()()()()()――けれど、()()()()()()()()()()()()()“誰か”の《聲》。

 そちらはハッキリと《聴こえた》から、該当者の名前はすぐに分かった。ふたご座に関するスフィアの所有者と、その相棒である女性教師。

 

 

<ヒビキくん!>

<分かっています! ジェニオンのD・フォルトも全開で行きます!>

 

「――え?」

 

 

 輸送艦に乗っていたクリスティナが、素っ頓狂な声を漏らした。

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 この場を包み込むような、美しい緑色の光。ぼんやりと揺蕩うような心地よい空間の中に、数多の《聲》が木霊する。数多の想いが《響き渡る》。

 数時間前、ダブルオーの実験をした際に目の当たりにした(モノ)と同じだ。誰かの気配を、想いを、《聲》を、こんなにも近くに感じ取れる。

 

 

(これが、ダブルオーの……革新者(イノベイター)として『目覚め』を迎えつつある刹那の力なのか)

 

 

 彼女の心根を反映したような優しい光。戦争根絶を夢見た少年兵――傷だらけの少女が、いつか憧れたカミサマに見出した輝きだ。尚、カミサマから飛び出してきたのは“ちょっとポンコツで、格好付かなくて、それでもヒトと共に在りたいと願った単なる青年(ヒト)”だったのだけれど。

 

 数多の出会いを繰り返し、その中で別れを経験したことがある。様々な出来事と直面し、理不尽に拳を握り締めたこともある。陰惨な運命しかないと理解しても尚、手を伸ばすことを止められなかった相手がいる。手を放しても、繋いだ心は離さなかった。

 いつかどこかで、GN粒子の光と同じものを《視た》ことがある。少し形は違うけれど、よく似た緑色の――その中に紛れて瞬く虹色の光を、クーゴは確かに《視た》ことがある。大特異点と化したアクシズを押し返したときに《視た》『人の心の光』。

 

 その輝きとよく似たものを、クーゴは沢山《視て》きた。機動兵器を駆る人々が、地球に迫る侵略者と戦うときに。

 勝機などないと言わんばかりに立ち込める闇を吹き払い、傷ついた体を無理やり起こして、己や仲間たちを鼓舞して立ち上がって来た。

 数多の侵略者を驚愕させ、その計略を瓦解させ、滅亡(ほろび)運命(さだめ)を覆し、未来を勝ち取って来た原動力。

 

 

『――この力は、ヒトとミュウを繋ぐためのものなんだよ』

 

 

 知らない少女の声がした。遠い昔、ミュウの持つ力の意味をそう例えた、古の同胞――レティシア・シン。

 それに導かれるようにして、クーゴの眼前に()()が落ちてくる。

 

 

(――御旗(ミハタ)天際(テンサイ))

 

 

 “遥か彼方からでも見える旗”という意味を込めて名付けた、はやぶさの武装。旗のような形状から棒術や槍術の応用で振るってきたが、詳しい用途は未だ不明。恐らく、クーゴの使い方は“正しい使用用途”ではないのだろう。自分で振るっているくせに、そんな予感を抱いてきた。

 

 そんな有様だから、勿論、今でも“本来の、正しい使用用途”は分からないままだ。正しく使った際にどんな効果が発揮されるのかも、未だによく分かっていない。ただ、今、漠然と《理解し(わかっ)た》ことがある。――「()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()」と。

 不思議な確信に導かれるようにして、クーゴ/はやぶさはミハタテンサイを掴む。荒ぶる青(タイプ・ブルー)としての力を解放すれば、緑色の光と混じり合うようにして群青(あお)の輝きが爆ぜた。つい数時間前に搭載されたばかりのファンネルが飛び出し、ミハタテンサイの周辺を取り囲むようにして展開する。

 

 喧騒が酷く遠い。クーゴの近くで爆発音が聞こえたような気がしたが、そんなことどうでもよかった。

 クーゴの眼差しは、美しく輝く青い光――いつかの虚憶(きょおく)で《視た》蒼穹(そら)を彷彿とさせるような色合いを放つ旗に釘付けだった。

 ()()()()()()()()()ではすぐ傍に感じていた仲間たちの気配を――或いは心を、すぐ傍に感じることができたような気がする。

 

 

「――サイオン」

 

 

 全てを諦めていた少年の心に希望を灯した()()に手を伸ばすかの如く。

 

 

「――フルバースト!」

 

 

 クーゴは、思い切り叫んでいた。

 

 眩いばかりの光が炸裂する。世界が再び染め上げられる。青い光が舞う中で、誰かの《聲》が《聴こえた》。

 ()()()()()()()()()ではすぐ傍に感じていた仲間たちの気配を――或いは心を、すぐ傍に感じることができる。

 

 

<ハガネ中尉。……いいや、ハガネ少佐とお呼びした方がよろしいですか?>

 

 

 響いた《聲》に振り返れば、仮面をつけた男――ゼクス・マーキスがそこにいた。彼は上品に笑った後、仮面を取る。美しい金の髪と端正な顔立ちが露わになった。

 

 

<こういうとき、どんな調子で話せばいいか悩むねぇ。アルティメット・クロスのときは悪戯なんてできるような状況じゃなかったし>

 

 

 響いた《聲》に振り返れば、壮年の男性――石神邦夫がそこにいた。真面目とお茶目の中間を右往左往した後、最終的にお茶目の方に振り切ったらしい。悪戯っぽく笑っていた。

 

 

<キミや宙継が見せてくれた御旗の光、好きだよ。だって、僕が好きな空の色と同じだから!>

 

 

 響いた《聲》に振り返れば、金髪が特徴的なフェストゥムの少年――来栖操がそこにいた。いつかのクーゴが彼の問いに答えたときと同じ、嬉しそうな笑顔があった。

 

 

<久しぶりだな、刃金くん。息災でなによりだ>

 

 

 響いた《聲》に振り返れば、真っ赤な隈取が特徴的なホウジョウの王――シンジロウ・サコミズがそこにいた。怒髪天のオーラを振り払った後のような、穏やかな顔をしていた。

 

 

<よぉ。お前んとこの孝行息子は相変わらずか?>

 

 

 響いた《聲》に振り返れば、金髪碧眼の米国人――トッド・ギネスがそこにいた。母親想いの孝行息子を地で行くためか、その繋がりからクーゴとも話すようになったっけ。

 

 《聲》が《聴こえる》。()()()()()()()()()ではすぐ傍に感じていた仲間たちの気配――或いは心を、すぐ傍に感じることができる。

 《聲》が《聴こえる》。()()()()()()()()()ではすぐ傍に感じていた仲間たちの想い――或いは激励に背中を押された。

 《聲》が《聴こえる》。()()()()()()()()()ではすぐ傍に感じていた仲間たちの心――或いは魂との絆を感じた。

 

 視線を巡らせれば、この空間にいる面々――刹那、イデア、宙継、クロスロード夫妻らがたくさんの人に囲まれている。特に刹那の周辺には老若男女の人が集まっており、様々な激励の言葉を向けていた。

 刹那は暫し目を瞬かせて困惑していたけれど、彼らの姿と想いに既視感を覚えたらしい。奇妙な懐かしさと強い繋がりを噛み締めるように目を細め、面々の言葉を受け止めていた。

 

 

<――俺は、あんたたちのことを《識っている》。いつかどこかで、共に戦い、心を通わせ、世界に破滅を齎す者たちへ挑んだことがある>

 

 

 口元を緩ませた刹那の顔を見て、彼や彼女たちは嬉しそうに笑った。

 それ以上の言葉は交わしていないが、この空間ではそんなものは必要ないのだろう。

 

 

<刹那>

<刹那さん>

<私たち、こんなことしかできないけど>

<俺たち、貴女のこと、応援してるから>

 

<――頑張れ!>

 

<……ありがとう。――どんな形であれ、会えてよかった>

 

 

 ――刹那の礼を最後に、世界が暗転する。

 

 次の瞬間、()()が次々と飛び出していった。青い光で構成されたおぼろげな影――クーゴが虚憶(きょおく)で《視た》ことのある機体ばかりだ――が、プトレマイオスを守るために戦っているガンダムたちの元へ援護に向かう。

 青い影が戦場で猛威を振るった時間はほんの僅か。だけれど、彼らは的確にガンダムたちを援護し、アロウズの機体を撃破していく。誰もが援護に加わったときや消え去る前に、各機体のパイロットやプトレマイオスの関係者に激励の言葉を残して消えていった。

 

 

<――『今度は引き際を誤らぬことだ』と言ったはずだが?>

 

<へ?>

 

<では、な。連邦のスーパーエース・“幸せのマネキン”殿>

 

<はァ!? マママ、マネキンって!? お、おい、どういうこと――あああああああああああああ!?>

 

 

 ケルディムをあと一歩のところまで追いつめていたコーラサワー/ジンクスが、シニカルに笑ったバーン/ズワァースに叩き落されていたのが《視えた》。コーラサワーと連携攻撃を図ったジンクスたちは、他のスナイパー組によってきっちり撃退済みである。

 コーラサワーを撃破したバーンがどの世界からの出身なのかは不明だ。しかし、“幸せのマネキン”発言を把握しているあたり、『UX』あたりが妥当だろう。コーラサワーの平静さを奪い去った――コーラサワーが想いを寄せる相手のファミリーネームがマネキンである――のがその証拠だ。

 援護に駆け付けてくれた影の出所はまちまちである。複数の虚憶(きょおく)のことを把握している者もいれば、その中の1つのことしか把握していない者もいた。それでもみんな、ソレスタルビーイングや悪の組織/スターダスト・トラベラーに所属する面々に手を貸してくれたのだ。

 

 

<沙慈、ルイス! 怪我はない!?>

 

<か、カレン!? ……って、なんで僕、キミの名前を……?>

 

<良かった。無事だったんだね!>

 

<スザク!? って、あれ? あたしたち初めて会ったハズなのに、なんで、こんなに懐かしい気持ちになるんだろう……>

 

 

 機能停止によって行動不能になっていたジンクスが突然再起動し、オーライザー目掛けて攻撃を放った。

 それを防ぎ、相手を戦闘不能に追いやったのはカレン/紅蓮聖天八極式とスザク/ランスロット・アルビオン。

 『Z』や『DD』の世界線では夫妻の学友だった人物だ。尚、ゼロはプトレマイオス/スメラギの援護に向かったため不在であった。閑話休題。

 

 いつかどこかで、確かに自分たちの傍に在った数多の想いが、時間や空間を超えて顕現する。

 幼い頃から数多の虚憶(きょおく)を《視続けて》、その想いを受け止めてきたが故の力。

 

 『人間(ヒト)新人類(ミュウ)を繋ぐための力』が、長い年月をかけて――クーゴ・ハガネの人生をなぞるような形で辿り着いた極地の1つだ。

 

 

(多分俺は、この力を、本当の意味で引き出せてはいないんだろう)

 

 

 旗を掲げて思いを馳せるクーゴは、ぼんやりとそんなことを考える。

 

 

(この力の、本当の極致に辿り着くのは、俺1人では無理なんだと思う)

 

 

 旗を掲げて思いを馳せるクーゴは、ぼんやりとそんなことを考える。

 

 

(ミュウとイノベイターと、イノベイドとヒト。或いは――俺たちと分かり合いたいと望んだ、この宇宙(そら)の向こうで生きる数多の命があって、成せることなんだろう)

 

 

 旗を掲げて思いを馳せるクーゴは、ぼんやりとそんなことを考える。

 

 ふわふわとした思考の中、まどろみにも似た心地よさに意識が沈んでいく。何もかもが夢心地で、輪郭もおぼろげだ。

 何だか、酷く疲れたような気がする。このまま眠ってしまえば解放されるような気がした。瞼が重くなり、自然と目を閉じてしまう。

 

 

『“てんしさま”に選ばれたということは、とても光栄なことなのよ』

 

『おまえは“てんしさま”の■行者として、この世界を■理していく役目を担うんだ』

 

 

 そう言った両親は、不気味な笑みを浮かべていた。血の通った表情ではなく、まるで機械と見間違える程に無機質な表情。

 それに異を唱える自分の言葉なんて全く聞いてくれない。この場にいる大人たちはみんなそうだった。

 

 彼/彼女らの様子がおかしいことには気づいていた。だって、いつもはこんな、血の通っていない無機質な表情(かお)なんてしない。負の感情を見ることの方が多かったけど、みんな血の通った表情を見せる人だったし、顔や声を聞けば感情を察することができた。

 

 昨日まで、何もおかしなことはなかった。おかしくなったのは今朝からだ。正確には、自分と片割れの誕生日。

 虚憶(きょおく)に出てきた男の人から『友』と呼ばれて、虚憶(きょおく)に出てきた女の人から『大好き』だと言われて、14歳の誕生祝いに片割れから青い蛇の目傘を貰った、幸せな日だったのに――!

 

 

『あんなくだらない妄想と引き換えに、お前が元気になってくれるなら安いものだよ』

 

『“てんしさま”の祝福を受けて、刃金の当主に相応しい人間になるんだ』

 

『お前はそのために生まれてきた。そうして、そのために生きていくんだ』

 

 

 大人たちの言葉に思わず目を剥く。

 

 自分にとっての虚憶(きょおく)は、心を奮い立たせる大切なものだった。『生きたい』という願いを抱いた大事な理由だった。生きる希望を抱かせてくれた、鮮やかで鮮烈な旅路の物語だった。『空で会おう』という大切な約束を果たすために、自分は今まで頑張って来た。

 多くの大人たちが『長生きできない』と諦めたように零している中、唯一、自分の願いを肯定してくれた片割れ以外で心の支えになっていた希望だった。――それを、大人たちは『くだらない』の一言で切り捨てる。自分の願いを踏み躙り、撃ち落とそうとするのだ。

 嫌がって暴れる自分を無理やり引きずって、大人たちは自分を祭壇まで連れていく。四肢を拘束され、頭を一点に固定される。眼前に浮かび上がったのは、大人たちが“てんしさま”と呼んで崇め讃える存在の端末――マスコットのような楕円形の体に、聖母の彫像を思わせるような顔を持ったナニカの姿。

 

 

■人検査(しゅくふく)を始めます』

 

『一切の記憶を捨てなさい。貴方はまったく新しい人間――■行者として、“地球(テラ)”の上に生まれ落ちるのです』

 

 

 ナニカは平坦な声で言い放った。無数の腕が自分に絡みついてくる錯覚――錯覚にしては、どこかリアルさを伴う感覚(モノ)だった――に、自分の逃げ場がないことを思い知らされる。

 無数の手が自分の目を覆い始める。完全に光が見えなくなってしまったら――再びこの手が視界を解放したら、きっともう、自分は“この世界”から完全に消え失せてしまうのだろう。

 

 

『さあ、行こうか。フラッグファイター――いいや、■■■■■■ズ隊、副隊長』

 

『キミが空を目指すなら、我々は必ず相見えるだろう。……空で待っているぞ、我が友よ!』

 

 

 金髪碧眼の男性の顔がよぎる。

 自分を友と呼び、快活に笑った彼との虚憶(きょおく)を奪われたくない。

 自分はその約束を果たしたいと願ったから、頑張ってきたのだ。

 

 

『――大好きです』

 

『ずっと、ずーっと、貴方に伝えたかった!』

 

 

 ペールグリーンの髪をハーフトップに束ねた女性の姿がよぎる。

 こんな自分を『大好き』だと言って、幸せそうに微笑んだ彼女との虚憶(きょおく)を奪われたくない。

 彼女の言葉に背中を押されたから、“生きたい”という願いを素直に掲げられるようになったのだ。

 

 

『たとえ、今、お前/貴方/キミの傍にいなくとも』

『――それでも、僕/俺/私/あたしたちは“ここ”にいるから』

 

 

 『だから忘れないで』と言って笑った人々の姿がよぎる。

 彼/彼女が強大な敵に立ち向かう姿に、勇気を貰った。希望を貰った。背中を押された。

 彼/彼女と共に戦い抜いた虚憶(きょおく)を奪われたくない。

 

 虚憶(きょおく)でしかないのかもしれないけれど、彼/彼女たちと一緒に過ごした時間はかけがえのないものだったから。

 

 視界が手で覆われていく。比例するように、視界がどんどん暗くなっていく。

 あっという間に、自分の視界は一筋の光が差し込むまでに狭まり、闇に飲まれていた。

 

 

『だれか、たすけて』

 

 

 ――助けを求める声を上げたのは、誰だった?

 

 

『代わりに、あたしを連れて行って』

 

 

 ――その声に応えたのは、誰だった?

 

 その光景の意味など、クーゴは知っている(知らない)。――よく、知らない(知っている)

 肩まで伸ばした黒髪をサイドテールに結んで、真っ赤なリボンを付け、シンプルな無地の着物を着た女の子。

 年齢は14歳。あの日の自分と同じ年齢だ。どうして断定できるのかって? 当たり前だろう。彼女は自分の片割れなのだから。

 

 

『弟を連れて行かないで』

 

 

 彼女を見ていると、胸が潰れるように痛むのは何故だろう。手を伸ばしたくなるのは何故だろう。

 『あの日()()()()()()()()()()()()()()()()』と叫びたくなるのは何故だろう。

 そんなことを言っても彼女は聞き入れてくれるはずがないと《理解(わか)っている》のに。

 

 

『代わりに、あたしを連れて行って』

 

 

 ――そうだ。

 

 何一つ、奪われたくなかった。何一つ、譲りたくなんか無かった。けれど、自分の願いを叶えるには、1()4()()()()()()()()()()()()()クーゴは無力過ぎた。

 だから『持っていかれてしまった』のだ。忌まわしき“てんしさま”と、“てんしさま”に連れられて行った少女の手によって。

 

 

『大丈夫。お姉ちゃんが、守ってあげる』

 

 

 本当は、忘れたくも、離れたくもなかったのに。

 

 

 

 クーゴ・ハガネ、只今、明日を探して迷走中。




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