問題だらけで草ァ!! -Under the Flag-<2nd Season>   作:白鷺 葵

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【諸注意】
 1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
 2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
 3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
 4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
 5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
 9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。

 10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」、『◆』が「特殊な意味合いが含まれている」場面転換、及び視点切り替えになります。
 11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
 12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。

 13.この小説は2023年の10月時点で明らかになっている情報をベースにして執筆しているため、後の公式作品で発表・開示された情報とは矛盾が発生する可能性があります。

上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。



24.スクロースに濃硫酸

 

「アニュー、大丈夫?」

 

「ドクター・ユウイに聞いたら『ここにいる』って聞いたから」

 

「あ……」

 

 

 不意に聞こえた声に顔を上げれば、ヒリングとリヴァイヴが心配そうな顔でこちらを見つめている所だった。

 彼女や彼の問いかけに返答しようとしたアニューだったが、ここ――医療関連フロアに来たのか、直前直後の記憶が曖昧だ。

 

 ……はて、自分は()()()()()()()()()()()()()?

 

 

「イアン・ヴァスディのことが心配なの?」

 

「え……ええ。重症だって聞いたから……」

 

 

 ヒリングの問いかけを聞いて、アニューは()()()()()()()()()()。ガラス戸1枚隔てた向こう側では、先の襲撃によって重傷を負ったイアンが医療カプセル内部で眠っている。命に別状はないが、治療が終わるまではカプセルの中で要安静だ。

 娘のミレイナは父親の容態を気にしてはいたものの、父親の代打として機体整備や調整に精を出していた。協力者として共に行動しているスターダスト・トラベラーの技術者たちも手を貸している。故に、彼が抜けた穴を埋めることに支障はない。

 ソレスタルビーイングとスターダスト・トラベラーによる共同戦線――メメントモリ破壊作戦の開始まであと数時間。現在、プトレマイオスは作戦宙域に向けて移動を始めていた。その間にもメメントモリは次弾が発射され、更に被害を拡大させている。

 

 ここに集った誰もがメメントモリの存在を許容できないし、もう1基のメメントモリに強襲をかけようとしている面々だって同じはずだ。

 

 『S.D.体制下の技術を応用して詰め込めば、小型化されたメギドシステムを造ることが出来る』というミュウの地雷をぶち抜くような情報が入ってきたのが理由である。

 地球クラスの惑星に対してエネルギーを全照射した場合、数時間足らずで崩壊・滅亡することだろう。実際、S.D.体制下の宇宙ではミュウ殲滅のために投入されていた。

 

 

(何がきっかけで、メメントモリ開発に使われた技術が別の兵器開発に転用されるかも分からない。……みんなが憂うのも、当然よね)

 

 

 アニューはそんなことを考えつつ、雑談に興じるヒリングとリヴァイヴの横顔を見つめて――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

(――あれ?)

 

 

 ()()()()()()()()()()()()ような感覚に、アニューは思わず目を白黒させた。ブリングとデヴァインがここにやってきてヒリングたちと会話を始めるまでの記憶が()()()()()()()()()()。途切れた時間はほんの僅かだが、何かおかしい。

 得体の知れない悪寒に背中が震える。何も異常がないはずなのに、どうして嫌な予感が拭えないのだろう。『自分の身に何かが起こっている』という強い確信と、『何も起こっていない』という認識が頭の中をぐるぐる回っていた。

 

 “自分の確信や認識に大きな矛盾が発生している”――その事実に、得体の知れない恐怖を覚えた。それと同じくらい、頭の片隅に痛みが走る。アニューは思わず頭を押さえた。

 

 

「どうした、アニュー? 元気がないな」

 

「体調が悪いのか? ドクター・ユウイを呼んでくるか?」

 

「い、いいえ。私は大丈夫です! それより、そろそろ作戦準備に移った方がいいかもしれませんよ」

 

 

 アニューの異変に気付いたブリングとデヴァインが声をかけてきたが、アニューは咄嗟に()()()()()()()()()。何故だかよく分からないが、『()()()()()()()()()()()()()()』と思ったのだ。

 ブリングとデヴァインはあまり納得していなかったけれど、アニューの指摘通り“作戦開始時間が迫っていた”のは事実。ヒリングとリヴァイヴはアニューをハグし、ブリングとデヴァインは小さくハイタッチを交わす。

 

 

「それじゃあ行ってくるね、アニュー!」

 

「僕たち、頑張って来るから!」

 

「武運を祈る」

 

「作戦終了後にまた会おう」

 

「はい! いってらっしゃい、みなさん!」

 

 

 兄弟たちの背中を見送り、アニューも自身の持ち場へ向けて歩き出す。

 状況が状況だったせいか、いつの間にか、アニューは自分の中に芽生えた違和感のことをすっかり忘れてしまっていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 今より4年以上、昔の記憶。薄氷の上に成り立つ穏やかな日々――その一幕。

 どうして“そんな話題”になったのかまでは思い出せないが、印象に残っている話題があった。

 

 

『なあグラハム』

 

『俺の親戚に、官能小説家がいてさ』

 

 

 公私ともに付き合いがあり、信頼があり、友情がある副官――クーゴ・ハガネが、しわしわの電気ネズミみたいな表情を浮かべて言葉を紡ぐ。

 

 

『そいつが頻繁に使う隠語というか、表現で、“■■■”っていうのがよく出てくるんだ』

 

『そりゃあ、海外進出する程メジャーではないよ。寧ろマイナーだし、全くもって一般的な表現ではないよ。……ないんだけど、さ』

 

 

 しかし、彼はそこで言葉を切った。正確には、言い淀んだ。何か言おうと口を開いては、言いづらそうな顔をして口を閉ざす。それを延々と繰り返していた。

 グラハムは元来我慢弱い男であり、腹芸や人の感情を察することは不得手な部類に入る。更に、育った国の文化的に、ハッキリと言われなければ分からない。

 空気や人の感情を機敏に察し、相手が望むことを的確に成すことを求められる文化で生きてきた副官の態度を『まどろっこしい』と感じてしまったのは、致し方ない話であった。

 

 当時のグラハムからしてみれば、躊躇っては言い淀むクーゴの対応に苛立ちを覚えてしまうのは当然の反応である。

 だが、今なら、件の話題を口に出せなかったクーゴの気持ちがよく分かるのだ。こんな発言をすれば最後、ひどいレッテルを張られかねない。

 

 

『そこで言い淀むくらいなら、ハッキリ言ったらどうだ?』

 

 

 “当時のグラハムを擁護し、当時のクーゴを非難する”ような形になるが、何度でも言おう。

 

 グラハム・エーカーは人一倍我慢弱い男だった。加えて、『ハッキリとした物言いが好まれる』文化圏の出身であり、日本文化に造詣と理解はあれど『ハッキリと言わない』文化や態度にヤキモキしてしまうタイプの人間であった。更に言えば、腹芸や感情の機敏を察することは不得手な部類に入る。

 クーゴ・ハガネは人一倍他者の思考回路を察し、相手の望みに対して的確なサポートやアシストを行うことに長けていた。同時に、『他者や自身の発言が、周囲に対してどう受け取られ、その結果どのような影響を及ぼすのか』というある種の未来予測をする力を有していたのだ。

 

 故に、彼は言い淀んだ。当時のクーゴには、『確実に悪影響を及ぼす』という回答(みらい)を回避する手立てを持っていなかったから。

 けれど、当時のグラハムにはそれが通じなかった。クーゴが言い淀んだ理由も、回答を迫った自分に待ち受けているであろう風評被害も、全く分からなかったから。

 

 

『…………した、…………』

 

『何だって? 聞こえないぞ、クーゴ』

 

 

 散々追求した結果、クーゴは意を決したように口を開いた。

 1度目は控えめな声量故、グラハムは聞き取ることが出来ず再度促す。

 クーゴは暫し躊躇った後、覚悟を決めたように眦を吊り上げ、再度口を開いた。

 

 

『“ピー(規制)(■■)”した“ピー(規制)(■■■)”』

 

 

 ――詳細を描写すると大変なことになるため、とりあえず、“スクロース(糖/C12H22O11)を濃硫酸で脱水した際に出来上がる生成物(化学式はC12H22O11→12C+11H2O)”の画像で代用させて頂く。

 

 因みに、日本にある学校の生徒たちが行った“スクロースを濃硫酸で脱水した実験”の動画では、出来上がった生成物――炭素の塊――を見た関係者たちが気まずそうな顔をして互いを見つめ合っていた。言葉にしづらいレベルの物体が出来上がってしまったのだ、致し方ない。

 形状に関して口に出した瞬間、件の動画はお蔵入りになっていたことだろう。実験していた生徒たちも、実験を見守っていたギャラリー(撮影者含む)も、動画の編集者も、誰1人何も指摘しなかった結果、件の動画は無事に投稿された。以後、特に問題なく残っている。

 生成物の出来栄えがあまりにも『ご立派』に『いきり立っている』ことも、頑なに感想や関連する話を口に出さない生徒たちの苦笑いも、動画から漂ってくる「口に出してはいけない」という圧力じみた空気も、何もかもが絶妙に噛み合った結果の産物であった。

 

 そういうわけで、グラハム・エーカーはまたひとつ賢くなった。多分、『賢くなった』と言っていいような知識ではないし、どちらかと言えば役に立たない無駄知識の部類だろうけれど。

 周囲に胸を張って広めることが出来るタイプの知識ではないし、知っていたら足枷になるようなタイプの無駄知識でしかない。だけれども、それでも1つ学びを得たのは事実なのだ。

 

 

『……その官能小説家が比喩表現として使っていたのは――』

 

 

 ――刃金蒼海の傀儡になる道を選んだ影響か、そこから先の言葉は、よく思い出せないのだけれど。

 

 

 

***

 

 

 

 現状を一言で表すなら、『弱い者いじめ』が相応しかろう。アロウズのMS部隊――ジンクスたちがカタロンの旧式MSを一方的に撃ち落とす図はぴったりである。

 

 メメントモリという大量虐殺兵器、及びそれを使って地上の国々を押さえつけようとする連邦政府のやり方を黙認できない団体は2つある。カタロンとソレスタルビーイングだ。そして、今回メメントモリに攻撃を仕掛けてきたのがカタロンである。

 彼らは圧倒的な物量戦でメメントモリを破壊しようと企てたようだが、部隊の過半数がメメントモリの砲撃によって殲滅されてしまった。そこへさらに追撃を与えたのが、メメントモリに搭載されたマザーネットワークの子機/マザー・ウルリカが駆るMA――プネウマ・ブル。

 本来のプネウマ・ブルは陸戦艦型のMAで、蜘蛛のような4つ脚で大地を移動するのが特徴的だ。だが、今回の戦場は宇宙。脚を広げず、戦車のような形状で移動し、連射砲撃やミサイルを撃ち続けていた。メメントモリよりも早いスパンで打ち放たれる攻撃により、カタロンの艦隊はさらに数を減らす。

 

 

「体制に反旗を翻す者――【落伍者(Falls)】もまた、秩序を乱す。ミュウ同様、抹殺しなければならない」

 

 

 プネウマ・ブルを駆るマザー・ウルリカは、先程からその発言を繰り返し、カタロンの部隊に砲撃とミサイル攻撃の動作を続けるだけ。なのに、メメントモリに迫っていたはずのカタロンの大艦隊()()()()()は、ついに艦隊数が一桁へと突入した。

 カタロンの艦隊がしたかった戦術(こと)は物量に物を言わせた破壊攻撃。“大艦隊でメメントモリへ接近し、近距離から攻撃を叩き込む”予定だったのだろう。だが、艦隊の大半がメメントモリによって消し飛び、残る戦艦もプネウマ・ブルによって破壊されている真っ最中だ。

 

 指揮官は『これ以上距離を詰めることは不可能』と断じたのだろう。残っていた戦艦に搭載されていた武装――ミサイルを全弾発射した。

 

 残っていた戦艦に搭載されていた分だけでもかなりの弾数だが、アロウズの艦隊は難なくミサイルを撃ち落とす。レーダーを確認する限り、9割がたが撃ち落とされた計算となるだろう。

 カタロンの目論見/戦術はこれで潰された形となった。追い打ちとばかりに、アロウズのMS――ジンクス部隊が飛び出し、カタロンの生き残りへ向かって襲い掛かる。

 迎撃のために飛び出した旧式MS部隊であるが、疑似太陽炉搭載型の機体に叶うはずもない。そうして、冒頭の場面へと戻ってくるというワケだ。

 

 

(刃金蒼海は『ソレスタルビーイングとスターダスト・トラベラーがメメントモリを破壊するために攻め込んでくる』と言っていた)

 

 

 カタロンを嬲りものにするジンクスやプネウマ・ブルの暴れっぷりを静観しながら、ブシドーは戦況を見守る。脳裏に浮かんだのは、少し前に届いた刃金蒼海からの通信だった。

 

 

『つい先程、情報が入ったわ。ソレスタルビーイングとスターダスト・トラベラーが手を組み、メメントモリの破壊作戦に打って出たみたい』

 

『奴らは合流後、二手に分かれて、子機のみが陣取っているメメントモリに強襲をかける手筈となっているわ』

 

『こちら側への到達時間はおよそ■■■■。先発として来るのは、“貴方の恋人”が駆るガンダムよ。手筈通りに動いて頂戴』

 

 

 あの女が齎した情報が正しければ、ソレスタルビーイングとスターダスト・トラベラーの混成部隊は、もうすぐメメントモリに到達するだろう。

 情報の正確性は嫌が応にも《理解さ(わから)せれている》が、もしもその情報が事実だとして、あの女はどこから情報を得ているのだろうか。

 

 ――りぃん、と、音がした。視界の端に、青い光が舞う。

 

 次の瞬間、ブシドーは“少女”の気配を感じ取っていた。温かくて優しいソレに目を見張れば、丁度そのタイミングで戦場に変化が起きる。

 カタロンの艦隊に攻撃を仕掛けようとしたジンクスが撃ち落とされ、到達時間を把握していたジンクスたちが動きを変えたのだ。

 空軍パイロットとしての視力は、愛おしい天使(ガンダム)/“少女”の姿をはっきりと捉える。思わずブシドーの口元が緩んだ。

 

 

(会えた……!)

 

 

 そう思えたのは、ほんの一瞬のこと。

 次に脳裏を過ったのは、疑念。

 

 

(情報収集能力が高いにしても、ここまで()()()()()()()()と言うのは異常だ。……もしや、内通者か?)

 

 

 嘗て交流を重ねた相手――“少女”の姿が脳裏によぎる。4年前の“彼女”は組織に関する情報を漏らしたことは殆ど無い。恐らく、組織の人間たちの殆どは“少女”同様、機密保持に厳しいのだろう。そうして組織に所属する当人も、決して組織を裏切るような真似はしない。

 しかし、刃金蒼海が手に入れた情報は()()()()()()()()のだ。まるで『組織の内部情報に詳しい人間から提供されている』かのように。……ただ、ブシドーは知っている。『組織を裏切る人間がいなくとも、組織内部の関係者から情報を引き出すことが可能な手段が存在している』ことを。

 

 

(あり得るとするなら、思考プログラムだろうな)

 

 

 自身に施されたソレを思い返し、ブシドーは思わず歯噛みする。刃金蒼海ならやりかねない。

 

 ブシドーは詳細は知らないが、“ソレスタルビーイングの関係者に接触し、該当者と目を合わせる”ことが出来れば、思考プログラムを施すことが可能であることは知っていた。実際、自分もそれを施され、副次効果として記憶の一部が滅茶苦茶になっている。

 思考プログラムを施された人間の殆どが、本人には無自覚のまま刃金蒼海の忠実な人形として働いていた。使いどころがないと判断されれば、事故や自殺や突然死で片付けることが出来る。場合によっては廃人化させるというのも手段の1つとして在り得た。

 件の情報提供者も、“自分が刃金蒼海の思考プログラムによって、無自覚のまま内通者/刃金蒼海の忠実なしもべとして情報提供を行っている”のだろう。……ブシドーがこんな有様でなければ、“彼女”に警告の1つでも流してやることが出来たか、“彼女”のことを憂う余裕があったかもしれないが。

 

 アロウズからは“2個付き”の名前で呼ばれる天使(ガンダム)は、的確にアロウズ側の機体を撃退していく。ソレスタルビーイングの援護が入ったカタロン側が沸き立つ《聲》が《聴こえた》。

 迷いも躊躇いもない、美しい太刀筋。戦場で相対峙する度に、どうしようもなく胸が高鳴るのだ。嘗ては積極的に手を伸ばしていた眩い輝きは、最早手を伸ばす資格を失った今でも変わらないまま。

 

 

(カタロンの艦隊はオービタルリングの下部へと移動したようだな。メメントモリの破壊は、事実上、ソレスタルビーイングとスターダスト・トラベラーの合同部隊に託されたというワケか)

 

<ガンダムは、マザー・ウルリカのプネウマ・ブルに任せましょう。万が一の保険として、ミスター・ブシドーもそちらに回ってもらいましょうか>

「ミスター・ブシドー。貴方はマザー・ウルリカのサポートに回ってください。良いですね?」

 

「……承知した」

 

 

 此度の指揮官であるアーバ・リントの《聲》が《聴こえた》直後、間髪入れずに当人からの指示が飛んだ。断る理由がないので、ブシドーは二つ返事で頷く。リントが満足げに笑う姿が《視えた》。

 プネウマ・ブルは相変わらず「秩序を乱す者は排除する(意訳)」という文言を繰り返しながら、砲撃やミサイルを撃ち放っている。大型ゆえの大火力攻撃が“少女”/2個付きの天使(ガンダム)に襲い掛かった。

 

 プネウマ・ブルは正面にあるレーザー砲と側面に配置された無数の砲門で構成されている。本来なら蜘蛛を思わせるような四つ脚歩行型となることで多角的な攻撃が可能なのだが、戦場が宇宙/本来の適性戦場が地上ということもあり、戦力的には『やや弱体化している』と言えよう。……とはいっても、カタロンの艦隊やMSを遠距離攻撃だけで一方的に嬲る程度の戦力はあるけれど。

 

 中途半端に距離を開ければ砲撃の餌食になるため、プネウマ・ブルを相手取る場合は“被弾覚悟の白兵戦”か“遠距離からの攻撃”で攻め込むのが定積となる。カタロンの艦隊やMSでは後者が推奨されたが、地力の違いで返り討ちに合ったパターンだ。

 ブシドー/新型機のマスラオがマザー・ウルリカ/プネウマ・ブルのフォローに回されたのは、ソレスタルビーイングとスターダスト・トラベラーが“被弾覚悟の白兵戦”を挑んできた場合の対策としてだろう。指揮官自身の考えか、刃金蒼海の息がかかったのか、ブシドーには判断がつかなかったのだが。

 

 

「複数のミュウ反応を確認。優先撃破順位に変更有り」

 

 

 ブシドー/マスラオが動き出そうとしたとき、突如、マザー・ウルリカ/プネウマ・ブルはそう言って方向変換した。次の瞬間、奴目掛けて砲撃が撃ち込まれる。

 プネウマ・ブルは巨体に合わず俊敏な動作で砲撃を回避したが、やはり巨体がネックだったのだろう。側面の一部に軽く被弾したようだった。

 反撃として主砲をお見舞いしようとしたプネウマ・ブルへ、青い光を纏ったMSと黄色い光を纏ったMSが突っ込んでくる。――彼らが選択したのは、被弾覚悟の白兵戦。

 

 

<出力がダンチなのは、こっちだって同じよ!>

 

<あの機体の弱点は把握している。行けるな、小隊長くん?>

 

<勿論です!>

 

 

 いつかのデータベースで見かけた機体――スターダスト・トラベラー側の新型MSたちが強襲をかけてきたらしい。カバーするために飛び出したジンクスたち――名前を思い出せなくなってしまったが、グラハムにとっては大切な元・部下たちだ――であったが、先陣を切った白縁(びゃくろく)の機体によって手早く無力化(ダルマ)にされていた。

 迷いや躊躇いのない太刀筋が煌めく。4年前の旧ユニオン基地襲撃では殆ど攻撃行動を取らなかった少年の姿からは想像が出来ない。少年の『空の飛び方』は“クーゴの飛び方を下地にして、オーバーフラッグス隊全員の飛び方を適宜融合させたようなモノ”へと昇華されていた。頑なに不殺を貫くソレが、少年の見出した答えなのだろう。

 

 マザー・ウルリカ/プネウマ・ブルが何を思ったのかは分からないが、奴の狙いは『“少女”/2個付きの天使(ガンダム)』から『ミュウなる存在(モノ)と判定した強襲部隊』に変わったらしい。そちらに攻撃を集中させたためか、“少女”/2個付きの天使(ガンダム)への注意がなおざりとなる。

 元々ブシドー/マスラオはそれをフォローするために配置されているのだ。ここで動かない方が不自然であろう。何かを言われたとしても、ライセンサーとしての権限がある。先の任務放棄の一件で、リントもそれを把握しているはずだ。文句の1つや2つがあっても黙認するしかない。

 本丸、及び指揮官からの指示を待たず、ブシドー/マスラオは“少女”/2個付きの天使(ガンダム)の元へと飛び出した。後ろから指揮関係者が苦言を呈する《聲》が響いたが、最終的にリントの判断によって見逃されることとなったらしい。……『完璧な一方的な殲滅戦(ワンサイドゲーム)を好む』指揮官にしては、少し甘いのではなかろうか。

 

 

<あれは……新型? ――まさか、グラハム……!?>

 

 

 自分の元へ真っすぐ飛んでくるブシドー/マスラオを、“少女”/2個付きの天使(ガンダム)も視認してくれたらしい。

 

 “彼女”の《聲》に喜色が混じったのは、あのパーティ会場で別れた後のブシドー/グラハムの身を案じていたためか。“彼女”の優しさに胸が締め付けられる心地になった。……今の自分など、“少女”が心を砕くに値しない存在に成り果てたというのに。

 恐らくは、その逆も然りなのだろう。ブシドー/グラハムの様な悍ましいナニカが、“少女”の無事を祈り、願い、案じることなど許されるはずもない。だとしても――この命が燃え尽きるまで、グラハムはそれを諦めることだけは出来ないのだ。

 

 ブシドー/マスラオの2刀流ビームサーベルと“少女”/2個付きの天使(ガンダム)の実体剣がぶつかり合う。派手な火花が飛び散った。

 鳴り物入りで投入されたとはいえ、機体の基礎スペックは“少女”/2個付きの天使(ガンダム)がやや有利か。そこまでは予測出来ていることだ。

 剣戟と鍔迫り合いを何度も繰り返した後、互いの剣で弾かれる。亡くしたものを取り戻せた――或いは、4年前の自分に戻れたような心地がしたのは、きっと。

 

 

<……すまない、“少女”>

 

<――!?>

 

 

 “少女”が息を飲んだように《視えた》のは、きっとグラハム/ブシドーの願望だ。だってこの謝罪は口に出していないし、通信だって繋がっていない。故に、“少女”に伝わるはずがないのだ。

 

 

<もう少し……>

 

 

 届かないと《理解し(わかっ)て》いて尚、手を伸ばさずにはいられない。夢見た明日に己の居場所がないことくらい、とうの昔に《理解し(わかっ)て》いたのに。

 今までもこれからも、沢山迷惑をかけるのだろう。『世界の歪みを生み出す者たちに与し、“少女”の理想を穢し、使命を邪魔するだけの傀儡』として。

 或いは、『ソレスタルビーイングに関わったことで歪んでしまったモノの象徴』として、“彼女”の道を阻む障害物という役割を与えられて差し向けられるのだろう。

 

 ならばせめて、最後は。

 

 前へ進む“少女”の姿を目に焼き付けて、終わることが出来たらいい。

 そうして、ほんの少しでも長く、“彼女”の魂に、自分の姿を焼き付けて貰えたら――それはきっと。

 

 

<もう少しだけ、私の私情(わがまま)に付き合ってくれ>

 

 

 惚れた女の過去になろうとも、いつか忘れ去られる日が来ても、その日が来る瞬間まででいい。1分1秒でも長く、グラハム・エーカーのことを覚えていて欲しい。

 “少女”にとってのグラハム/ブシドーが最愛の相手でなくなっても、運命の相手ですらなくなっても、排除した歪みのひとつに成り果てても構わない。構わないから――

 

 

「――今この瞬間、“キミ”の視線を釘付けにしてみせよう!」

 

 

 多くのことを諦めて手放してきた自分の、最後の私情(わがまま)を振りかざす。

 刃金蒼海たちが掲げる悍ましい『革新』と何ら変わらないモノ。

 “少女”にとっては、“破壊するべき『歪み』の1つ”でしかない。

 

 

「とくと見るがいい! いきり立て! 私の――」

 

 

『なあグラハム』

 

 

 不意に、グラハム/ブシドーの脳裏に浮かんだのは、遠い昔の記憶。

 

 今より4年以上、昔の記憶。薄氷の上に成り立つ穏やかな日々――その一幕。

 どうして“そんな話題”になったのかまでは思い出せないが、印象に残っている話題があった。

 

 

『俺の親戚に、官能小説家がいてさ』

 

 

 公私ともに付き合いがあり、信頼があり、友情がある副官――クーゴ・ハガネが、しわしわの電気ネズミみたいな表情を浮かべて言葉を紡ぐ。

 

 

『そいつが頻繁に使う隠語というか、表現で、“益荒男(ますらお)”っていうのがよく出てくるんだ』

 

『そりゃあ、海外進出する程メジャーではないよ。寧ろマイナーだし、全くもって一般的な表現ではないよ。……ないんだけど、さ』

 

 

 しかし、彼はそこで言葉を切った。正確には、言い淀んだ。何か言おうと口を開いては、言いづらそうな顔をして口を閉ざす。それを延々と繰り返していた。

 グラハムは元来我慢弱い男であり、腹芸や人の感情を察することは不得手な部類に入る。更に、育った国の文化的に、ハッキリと言われなければ分からない。

 空気や人の感情を機敏に察し、相手が望むことを的確に成すことを求められる文化で生きてきた副官の態度を『まどろっこしい』と感じてしまったのは、致し方ない話であった。

 

 当時のグラハムからしてみれば、躊躇っては言い淀むクーゴの対応に苛立ちを覚えてしまうのは当然の反応である。

 だが、今なら、件の話題を口に出せなかったクーゴの気持ちがよく分かるのだ。こんな発言をすれば最後、ひどいレッテルを張られかねない。

 

 

『そこで言い淀むくらいなら、ハッキリ言ったらどうだ?』

 

 

 “当時のグラハムを擁護し、当時のクーゴを非難する”ような形になるが、何度でも言おう。

 

 グラハム・エーカーは人一倍我慢弱い男だった。加えて、『ハッキリとした物言いが好まれる』文化圏の出身であり、日本文化に造詣と理解はあれど『ハッキリと言わない』文化や態度にヤキモキしてしまうタイプの人間であった。更に言えば、腹芸や感情の機敏を察することは不得手な部類に入る。

 クーゴ・ハガネは人一倍他者の思考回路を察し、相手の望みに対して的確なサポートやアシストを行うことに長けていた。同時に、『他者や自身の発言が、周囲に対してどう受け取られ、その結果どのような影響を及ぼすのか』というある種の未来予測をする力を有していたのだ。

 

 故に、彼は言い淀んだ。当時のクーゴには、『確実に悪影響を及ぼす』という回答(みらい)を回避する手立てを持っていなかったから。

 けれど、当時のグラハムにはそれが通じなかった。クーゴが言い淀んだ理由も、回答を迫った自分に待ち受けているであろう風評被害も、全く分からなかったから。

 

 

『…………した、…………』

 

『何だって? 聞こえないぞ、クーゴ』

 

 

 散々追求した結果、クーゴは意を決したように口を開いた。

 1度目は控えめな声量故、グラハムは聞き取ることが出来ず再度促す。

 クーゴは暫し躊躇った後、覚悟を決めたように眦を吊り上げ、再度口を開いた。

 

 

『“ピー(規制)(■■)”した“ピー(規制)(■■■)”』

 

 

 ――詳細を描写すると大変なことになるため、とりあえず、“スクロース(糖/C12H22O11)を濃硫酸で脱水した際に出来上がる生成物(化学式はC12H22O11→12C+11H2O)”の画像で代用させて頂く。

 

 その光景に頭を殴られたような心地になったのと、おぼろげな記憶が鮮明に浮かんだのはほぼ同時。

 刃金蒼海の傀儡になる道を選んだ影響で思い出せなかった言葉の続きが、はっきりと《聴こえた》のだ。

 

 

『……その官能小説家が比喩表現として使っていたのは――『益荒男をいきり立たせる』っていうんだ』

 

 

 ――さて。

 

 Q1.ミスター・ブシドー/グラハム・エーカーは今、何と言ってトランザム発動へ繋げようとしたか?

 Q1-A.『いきり立て、私のマスラオ』。

 

 Q2.今、ミスター・ブシドー/グラハム・エーカーは、その台詞の何処までを発言したか?

 Q2-A.『いきり立て、私の』まで。

 

 Q3.『益荒男をいきり立たせる』という比喩表現の詳細を述べよ

 Q3-A.『“ピー(規制)(■■)”した“ピー(規制)(■■■)”』 。

 ※“スクロース(糖/C12H22O11)を濃硫酸で脱水した際に出来上がる生成物(化学式はC12H22O11→12C+11H2O)”の画像で代用。

 

 

「…………」

 

 

 ――以上の問いから、結論を述べよ。

 

 

「…………」

 

 

 益荒男は。

 いきり立たせては。

 いけない。

 

 『益荒男をいきり立たせた』ら最後、己は“とんでもない変態野郎”のレッテルを張られてしまう!!

 

 

「――――!!!」

 

 

 ミスター・ブシドーは考えた。顔を赤くしたり青くしたりを繰り返し、視線をぐるんぐるんとせわしなく動かしながら、口から出しかけてしまった台詞を撤回しようと試みる。

 しかし、一度でも口から出してしまった言葉(もの)は取り返しがつかない。それでも何とかしようと考えた。考えて、考えて、考えて、そうして――

 

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………とくと見るがいい! 盟友が作りし、我がマスラオの奥義を!!」

 

 

 ――先程の言葉を“なかったこと”にした上で、仕切り直すことを選んだ。

 

 しかし、世界はブシドー/グラハムに優しくない。

 相対峙していた“少女”が、こちらの異変に気付いたためだ。

 

 

「おいちょっと待て。何だこの異常な間は!? いや、そもそも何故言い直した!?」

 

「そこは突っ込んではいけない! それ以上突っ込まれたら、その……私が破廉恥なことになってしまう!!」

 

「待ってくれ! あんたは一体何を思い至ったんだ!!?」

 

「ナニ!? ナニって、“キミ”……っ、“キミ”も相当破廉恥だな“少女”!!?」

 

「おい待て! 字面がおかしいぞ!? あんた本当にどうしたんだ!? 大丈夫なのか!?」

 

 

 ミスター・ブシドー/グラハム・エーカーは、刃金蒼海/世界に歪みを生み出す存在に与する者である。嘗ての元部下や年上の親友、そうして最愛の“少女”の安全と引き換えに、最愛の恋人である“少女”に対してとんでもない裏切り――不貞と不義理――を働いた最低野郎だ。

 挙句の果てには、刃金蒼海によって施された思考プログラムによって事実上の傀儡となり、“いつ何とき、自分が他者――特に“少女”に対して――へ害を成すか分からない”という悍ましい存在に成り果てている。きっと最後は、記憶だけでなく意志も亡くしてしまうのだろう。

 『“少女”/天使(ガンダム)と戦うのに相応しい自分でありたい』という矜持や心意気は既に汚れ、叩き折られてしまったのは事実。今更、無様を1つ積み重ねたところで、“少女”から見たブシドー/グラハムへの最終的な評価に大した影響は出ないはずだ。

 

 ――だけど、諦めきれない想いを抱える自分が叫ぶ。

 

 “惚れた女の前で格好つけたい”と考えている1人の男が、顔を真っ青にして首を振るのだ。

 「“とんでもない変態野郎”のレッテルを張られ、挙句、その弁明も弁解もできぬまま死に逝くのは御免被る」と。

 

 

「では改めて――とくと見るがいい! 盟友が作りし、我がマスラオの奥義を!」

 

 

 故に。

 

 ミスター・ブシドー/グラハム・エーカーは、敢えて『勢い任せにごり押しする』ことを選んだのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「えっ? 何? 何が起きてるんだこれ?」

 

 

 『“スクロース(糖/C12H22O11)を濃硫酸で脱水した際に出来上がる生成物(化学式はC12H22O11→12C+11H2O)”の動画が延々と倍速で流れたと思ったら、フラッグとよく似た新型機がトランザムを発動した』――大分訳が分からない状況である。それを《視て》しまったクーゴは、思わず呟いた。

 あまりの落差に混乱してしまったものの、気を取り直して思念波を張り巡らせる。刹那/ダブルオーと剣戟を繰り広げる機体が発動したトランザムは、ソレスタルビーイングの技術を用いて造られたものではない。それが下地になっているだけで、細かい部分が違うようだ。あくまでも『連邦軍側の技術のみで辿り着いた』ものらしい。

 だが、件の機体のトランザムは純正のトランザムと比較した場合、機体やパイロットに対する負荷が段違いのようだ。トランザムによる剣戟を繰り返す度に、パイロットが吐血するのが《視える》。狂気の沙汰を突っ走っているのは機体の開発者か、それともパイロットか、もしくはその双方か。

 

 次にフラッシュバックしたのは、狂気的な笑みを浮かべる技術者だ。顔は見えないけれど、ポニーテールに眼鏡が特徴的な知人をクーゴは知っている。

 振り返った際に、彼の顔が見えた。旧ユニオン軍の技術顧問にして年上の親友――ビリー・カタギリ。ならば、あの機体に乗っているのは――!!

 

 

(あのおばか……!)

 

 

 フラッグファイターだった頃なら、クーゴはそう叫んで彼の元へすっ飛んでいっただろう。だが、『衛星兵器の破壊ミッション』という重要事項故、勝手に動き回ることは出来ない。

 

 

「アメリアス。マザー・ウルリカ、ハッキングできそう?」

 

<まだガードが堅いみたい。ハーメスがハッキングに加わってくれたら楽なんだけど……>

 

<レディ・アメリアス。こちらも努力はしているが、もう少し奴に対して負荷をかけないと厳しいようだ……! 今はとにかく、決定打が足りないと見る!>

 

 

 イデアの問いにアメリアスとハーメスが渋い顔で返答した。これで、今回の戦闘で、イデア/パハリアはアメリアスによる援護を受けられないことが確定する。自身が不利な状況でミッションに挑まなければならないことを察したイデアであるが、御空色の瞳はやる気で満ちていた。

 思念波越しで《視る》に、アロウズの主戦力と思しき連中――マザー・ウルリカ、及びメメントモリ防衛のために派遣されたライセンサー/ミスター・ブシドーは、こちら側が差し向けた先遣隊――宙継とハーメス/ちょうげんぼう、ヒリング/ガラッゾ、リジェネ/ガデッサ、ブリング/ガラッゾ、デヴァイン/エンプラスらに釘付けとなっている。

 

 前者はS.D.体制下の技術を悪用して優先攻撃対象をミュウたちへ切り替え、後者は彼が求めてやまない刹那の方へ向かっていた。

 特に後者/ブシドー及びマスラオは、純正のトランザムより欠陥と出力不足が目立っていると言うのに、刹那/ダブルオーのトランザムと互角に対応している。

 アロウズのパーティに潜入した際、刹那から『ブシドー/グラハムと再会したが、心身ともにボロボロだった』という話を聞いていたが、奴は更に自分を追い込んでいるようだ。

 

 思念波で得た情報を指揮官たるスメラギに引き渡せば、彼女は今この瞬間を攻め時と判断したらしい。作戦案から“強行突破”を選び、ミッション開始を宣言した。それに合わせて、クーゴとイデアは顔を見合わせて頷く。

 

 

「「サイオンバースト、展開!」」

 

 

 クーゴのはやぶさがミハタテンサイを、イデアのパハリアが自立兵器が合体して形成された盾を掲げて叫ぶ。機体位置はプトレマイオスの真上。輸送戦艦の周囲に発生した緑色の光に、サイオンバーストで発生した青い光が混じり合った。

 4年前、イデアのハホヤーが蒼海の駆るバルバトロの砲撃を防ぎ切ったときのようなシールドが展開し、プトレマイオス全体を包み込む。クーゴの思念波、及びミハタテンサイは、イデアが展開したシールドの強化及び補強を行うのが役目だ。

 オービタルリングに沿って、わき目も降らずに突っ込んでいく。視界の端で、激しい剣戟を行う刹那/ダブルオーとブシドー/フラッグベースの新型が通り過ぎていった。心なしか、ブシドー/新型機の視線がミハタテンサイを見ていたような気がしたが、定かではない。

 

 新たな荒ぶる青(タイプ・ブルー)の出現を察知したマザー・ウルリカ/プネウマ・ブルがこちらへ方向変換したが、次の瞬間には再び別方向を向いていた。視線の先には、パイロット不明のまま待機状態だったはずの機体――ガンダムラトレイアが飛翔する。それを見たスメラギが目を剥いた。

 

 

<嘘でしょ!? あの機体、誰が動かして――>

 

<――私はミュウの『牙』、赤い星(ナスカ)の子どもたち(チルドレン)と呼ばれた女! 舐めるなよ、人類どもォォォォォ!!>

 

<発言内容が人類の敵すぎる……>

 

 

 搭乗者――ベルフトゥーロの《聲》が響き渡った瞬間、プネウマ・ブルの下部が爆発した。ラトレイアはグラハムが見せる変態機動とよく似た動きを繰り返し、マザー・ウルリカを翻弄しにかかる。心なしか、プネウマ・ブルの動きが鈍くなったように見えた。

 彼女につられたのはマザー・ウルリカ/プネウマ・ブルだけではないようで、一部のジンクスが群がるように殺到する。だが、ベルフトゥーロ/ラトレイアは縦横無尽に飛び回り、同士討ちを誘発しながら敵機をきっちり処理していった。

 

 スメラギが頭を抱える気持ちは分からんでもない。ベルフトゥーロの発言は、声のトーンからして完璧な悪役である。

 

 現役時代はこうやって、人類側の戦闘機や戦艦を容赦なく沈めてきたのであろう。すべては尊敬する先代指導者(ソルジャー)、ジョミー・マーキス・シンの悲願を叶えるために。

 或いは、ミュウの生存権を頑なに認めようとしなかったS.D.体制を打ち砕き、次世代のヒトとミュウが手を取り合う未来を勝ち取るために。

 

 

<デヴァイン! マザーがMS戦してるの久々に見たぞ!>

 

<ブリング! カメラ、カメラ持ってこい! 録画だ録画!>

 

<あー格好いい! あー、だけど無理しないで!!>

 

<待って待って待って! 情緒イカれるんだけどォ!?>

 

 

 ――息子や娘たちの反応を見る限り、“授業参観日に張り切る保護者”みたいになっているのかもしれないけれど。閑話休題。

 

 

<ああ、こら! 持ち場を離れるな!!>

 

<一体どうしたと言うんだ……!>

 

 

 敵本丸から苦言を呈する《聲》が《聴こえてきた》あたり、敵指揮官にとって『ジンクスの一部がベルフトゥーロ/ラトレイアに殺到する』のは想定外の事態だったのだろう。その理由が分からず困惑しているようだ。

 執拗に執着している様子からして、『荒ぶる青(タイプ・ブルー)のミュウを優先的に狙え』という思考プログラムを施された兵士たちなのであろう。とはいえ、物量的にはメメントモリを防衛しているアロウズが有利である。

 相手の指揮官は物量を活かして攻撃を仕掛け、プトレマイオスをメメントモリの攻撃可能範囲に押し出す作戦に出たらしい。イデアとクーゴの思念波やリヒテンダールとラッセの操舵技術でどうにか踏み止まってはいるものの、進路は徐々に右側へ逸れていく。

 

 それでも、出来る限り踏み止まる。武装を握る手に力が籠ったような気がしたとき――

 

 

<――ハイメガキャノン、発射ァ!>

 

<――ターゲットロック……発射>

 

 

 どこかで《聴いた》ことのある《聲》がした。間髪入れず、クーゴのすぐ後ろから砲撃の発射音が響き、鮮やかな色合いの光が敵艦隊と敵機を焼き払った。

 思わず視線を動かせば、青い影――ZZガンダムとウィングガンダムゼロを象ったモノだ――が解けるように消え去る。後ろ髪を引かれるような気持になったが、クーゴはまた前へ向き直った。

 

 プトレマイオスが踏み止まろうとしている間にも、メメントモリのチャージは進んでいく。相手側の目論見は『プトレマイオスをメメントモリの射線上に押し出し、次弾発射に巻き込む』ことだ。

 

 勿論、こちらはそれを想定済み。押し出された場合は『ギリギリまでひきつけ、タイミングを見てアリオスのトランザムを使ってプトレマイオスを急加速させることで攻撃範囲から離脱する』プランを想定している。そのための下準備や根回しも、スメラギはきっちり行っていた。

 メメントモリの守護者、その要たるマザー・ウルリカ/プネウマ・ブルとミスター・ブシドー/マスラオは足止めされているものの、どう転ぶかは分からない。危険度の高さは前者が圧倒的だ。後者は『ブシドーの命』が危険なので、放置していいわけでもないけれど。

 

 プトレマイオスが右へ右へと押し出されていく。その最中に、幾つかの青い影が飛び出して、アロウズの艦隊を的確に処理していった。

 メメントモリの照射が失敗した場合、“再び類似の戦術――物量で射線へ押し出す――を取ろうとすれば決定打を欠く”ように、じわじわと。

 今だって、見覚えのある青い影――操/マークニヒトがワーム・スフィアーを展開し、一部の艦隊が虚無に飲み込まれていった。

 

 

(これ、相手からしてみたらホラーだろうなァ)

 

 

 グレンラガンのギガドリルブレイクがど真ん中にぶち当たり、爆発炎上する戦艦を視界の端に捕らえて、クーゴは内心苦笑した。

 

 思念波同士を重ね合わせているせいか、イデアが展開する防壁やクーゴのミハタテンサイによる力がより一層強くなっていく。前回武装を使ったときは力を使い過ぎて体調不良に陥ってしまったが、これなら作戦行動中は問題なく済みそうである。

 そんなことを考えている間に、プトレマイオスはついにメメントモリの有効範囲内に押し込まれてしまう。スメラギのプランニングは『アリオスのトランザムを使った急加速で、メメントモリ発射のタイミングを狙って攻撃範囲外へ離脱する』段階へ移行した。

 丁度そのタイミングで、メメントモリの次弾装填及び掃射準備が完了したらしい。じれったそうに脱出を促すクルーの《聲》が《聴こえた》が、スメラギはそれに対して「待った」の指示をかける。敵は勝利を確信しているような気配を放っていたが、プトレマイオスへの攻撃は止まなかった。

 

 敵の指揮官は念入りでしつこい気質らしく、メメントモリの有効射程内から脱出できない位置まで押し込もうとしていた。

 メメントモリの発射口に光が充填していく。クーゴの心情を反映するかのように、ミハタテンサイを握る機体の手に力が入ったような気がした。

 

 

「機体損傷率、80%を突破。敵艦、メメントモリへの接近を確認。機密情報秘匿のため、機体を自爆させ、バックアップデータを転送します」

 

<コイツ……!>

 

「転送先は軌道エレベーター内部のMA、ヒュイオス・スカイ。データの転送を開始します。完了まで、あと……」

 

<レディ・スメラギ、緊急事態だ! マザー・ウルリカがネットワークを駆使し、別の機体へ移動しようとしている!>

 

<メメントモリ発射時の有効射程範囲に押し出すことで沈黙を狙うよ。出来る限りのことはするけど、最悪の事態も想定しててほしいかな……!>

 

 

 ハーメスとアメリアスから通信が入る。ベルフトゥーロ/ガンダムラトレイアを始めとした面々が抑え込んでいたマザー・ウルリカは、プネウマ・ブルに見切りをつけたらしい。本来の業務であるメメントモリの守護者として適切なモノへと戻るために、軌道エレベーター内部に配置されていた新たなるMAへ乗り換えを試みているようだ。

 マザー・ウルリカのデータ転送/プネウマ・ブルの自爆を止めるには、時間も威力も足りないはずだった。だが、プネウマ・ブルを破壊できそうな武装はこの場に1つある。発射準備が整ったメメントモリだ。今からプネウマ・ブルを射程範囲に押し出すことを試みた場合じゃ『プネウマ・ブルを破壊できたとしても、データ転送を阻止できるか否かは保証が出来ない』という。

 

 データ転送を阻止できなかった場合、プトレマイオスがメメントモリの攻撃を回避できても、新手のMA/ヒュイオス・スカイから強襲を受ける可能性が出てきた。

 プトレマイオス――格納庫内に残っているキュリオス――がトランザムを発動した場合、メリットはプトレマイオスの推進力強化。デメリットは、守りの要たるGNフィールドの使用不可。

 もしもヒュイオス・スカイの出撃を許し、且つ、奴からの攻撃をプトレマイオスが食らってしまった場合、メメントモリ撃破に支障が出ることに繋がってしまう。

 

 

<――分かったわ。ベルフトゥーロ女史、お願い!>

 

<了解!>

 

 

 スメラギからの要請に二つ返事をしたベルフトゥーロだが、即座に<ああでも>と付け加える。

 

 

()()()の方が早いな。――ハーメス>

 

<――了解だ。この俺が、彼らの力になってみせよう!>

 

 

 次の瞬間、ラトレイアのデータに変化が起きる。パイロット名がベルフトゥーロ・ティアエラ・シェイドから、本来の持ち主のものへと切り替わった。

 ガンダムラトレイアの本来の持ち主(パイロット)は――紛れもない、ハーメス・マーキュリー。虚憶(きょおく)を有する疑似人格AIが操る機体だ。

 

 それと入れ替わるようにして、ベルフトゥーロが近隣宙域へ《転移》してきた。そして――

 

 

「スメラギさん!」

 

「今よ!」

 

 

「――さあ、こっちだ! アンタたちが滅ぼすべきミュウの長が、ここにいるぞォ!!」

 

 

「「――サイオン・フルバースト!!」」

 

 

「――データ転送、完了。プネウマ・ブル、自爆シークエンスへ移行――」

 

 

 

<――いきます……!>

 

 

 あちこちから、3者3様の声が響き渡った。

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 この場にいる誰もが、覚悟を持って立っている。

 

 地球連邦政府と火星及び木星連合による、天下分け目の大決戦。すべての始まりは『コロニーによる宇宙移民政策を推し進めた地球の人々が、諸々の諸事情により、火星や木星に入植した人類を見捨てた』ことが起因している。火星や木星に棄てられた人々は地球人に対する憎悪を滾らせ、ヒトとして生きる権利の獲得、及び先祖の無念と地球人への復讐のために立ち上がった。

 しかし、火星や木星の人々が攻撃した地球人たちは、自分たちの先祖が犯した罪を全く知らなかった。地球を牛耳るろくでなしどもの暗躍により、地球連邦の罪は闇へと葬られたのである。それ故、地球人の大半が『火星や木星に住まう謎の敵が、突然、何もしていない地球人へ襲い掛かって来た』と認識。異星に住まう人々に対し、憎悪を滾らせるに至る。

 

 多くの人々が先祖からの憎悪をその身に注がれ、無念と嘆きに浸されて、自らの意志で復讐の輪に飛び込んでいく。そうして連鎖は積み重ねられ、また次の時代へ引き継がれていくのだ。地球連邦軍側でソレを次世代へ受け継がせようとしていたのが、我らがフリット・アスノ総司令官。彼は自分の関係者をヴェイガンによって悉く亡くしていた。

 ヴェイガンの殲滅を掲げて邁進し続けた総司令も、軍部の規定――特に年齢――に引っかかって退官せざるを得なかった。いや、その前から、『自分が生きているうちに、ヴェイガンを殲滅することは不可能である』と察していたのであろう。故に、彼は“自分が滾らせてきた憎悪を、目の当たりにしてきた地獄を、自分へ託された数多の悲嘆を受け継ぐ『器』”を求めた。

 フリット・アスノの憎悪や悲嘆を受け継ぐに相応しい『器』として見出されたのは、子息であるアセム・アスノと孫のキオ・アスノ。しかし、彼の試みは様々な理由で頓挫するに至り、“もしもフリット・アスノの憎悪と悲嘆を引き継いだ『器』が完成していたら”という悪夢のような成功例を目の当たりにしたことで、燻りつつも止まることはできた(?)らしい。

 

 『憎しみを受け継ぐことを拒否し、共に手を取り合う未来を創るために行動する』というのは、難しいことだ。S.D.体制崩壊直後のミュウと人類がぎくしゃくしたのも、お互いの戦闘で同胞を亡くしていたためである。

 

 それでも、指導者たちが再び種族同士の争いを行わなかったのは、偏に“先代指導者の遺言を果たすため”。ジョミー・マーキス・シンとキース・アニアンが命を賭して切り開いた“ヒトがヒトとして生きるための権利”を守るため。

 今までも、これからも、地球と異星の移民たちが戦いを繰り広げたのは、きっと『この戦いで最後にするため』だったはずだ。そうしてこの戦いも、『異なる星に住まうヒト同士が争う、最後の戦いにするため』のもの。

 

 

『ゼハート様への誓いは、この身に代えても必ず果たしてみせるッ!』

 

『この戦いが終われば、ゼハート様は優しいゼハート様に戻れる!』

 

『私はあの人を……! あの人の優しい心を守りたい……!』

 

 

 フラム・ナラ/フォーンファルシアが吠える。本丸で指揮を執る最愛の総大将、ゼハート・ガレットのために。

 

 

『チェックメイトにはまだ早い!』

 

『ディーヴァを――やらせるものか!』

 

 

 セリック・アビス/カスタムクランシェが吠える。此度のブライティクスにとっての精神的主柱たる旗本艦・ディーヴァを守るために。

 ……もしかしたら、他にも“彼が守ろうとした相手”がいたためなのかもしれないが、それを指摘するのは野暮というものだろう。

 

 

『そうだフラム! このまま射線上にディーヴァを留めろ!』

 

 

 自分との誓いを果たさんとする最愛の部下――フラム/フォーンファルシアの想いを汲み取ったが故に、ゼハート・ガレットは指示を出す。

 砲撃の発射は目前。このままディーヴァを留めれば、射線上にいるフラム/フォーンファルシアも吹き飛ぶことになる。

 泣き叫ぶ己の心すら押し殺し、ゼハートは火星の指導者の意志を受け継ごうとしていた。100年単位の慟哭と未練、そうして悲願のすべてを。

 

 砲撃の発射準備が刻々と迫る中、ディーヴァの艦長たるナトーラ・エイナスは選択を迫られた。

 『最年少のお飾り艦長』と揶揄された未熟な少女は、震える声で作戦を告げる。

 

 

「――こうなれば、充電中のフォトンリングレイを使って、マネキン准将と同じことをやります!」

 

「出来るのかね!?」

 

 

 ナトーラが建てた作戦を聞いたジェフリーが目を見開く。艦長としての大先輩が驚く姿を目の当たりにしても、ナトーラははっきりと頷き返した。「ディーヴァが狙われている以上、対応できる方法はこれしかない」と。

 

 ナトーラの指示を聞いた機動部隊は狼狽した様子を見せたが、即座にフォトンブラスターの射線から対比する。

 だが、フラム/フォーンファルシアのすぐ傍にいたセリック/カスタムクランシェは微動だにしない。ナトーラは慌てて呼びかける。

 

 

「フォトンブラスターの発射準備が整いました。今すぐそこから退避してください!」

 

「……駄目だ。フレームが歪んだらしい。脱出装置も動かない」

 

 

 それを聞いたナトーラが息を飲む。このままフォトンリングレイを打ち放てば、射線上から逃げることが出来ないセリック/カスタムクランシェは跡形無く消滅するだろう。

 ブライティクスが狼狽している間にも、敵要塞の主砲にエネルギーが装填されていく。焦るクルーの姿が《視え》、狼狽する数多の《聲》が《聴こえてきた》。

 機動性の高い機体のパイロットがセリックの救援に動こうとするが、該当者たちをセリックは一喝する。彼は努めて淡々と、自身の機体についての状況を説明した。

 

 

「動力系統も不安定になってきてる……。それに、どの道緊急離脱には耐えられそうにない。だから――俺に構わず、フォトンブラスターキャノンを撃て!!」

 

 

 戦場のホームズが見出した、最良の手。動揺するディーヴァのクルー――或いは、艦長たるナトーラに対し、彼は懇切丁寧に説明する。

 

 ディーヴァの存在や挙動は、この戦場ではかなり重要な要素になるだろう。相手側の砲撃の発射を許せば、地球連邦軍側は甚大な被害を被る。此度の旗本艦にして精神的主柱であるディーヴァを失ってしまったら、戦況は一気にヴェイガンと木蓮に傾いてしまう。

 躊躇う生徒を促す教師か、或いはもっと別の意味を込めたのかは分からない。けれど、確かなことは、セリックが『ナトーラに対して選択を促した』ことと、『何かを諦めたみたいな顔をしていた』ことくらいだ。――先の大戦で、愛する人と共に生きる未来を諦めていた相棒みたいに。

 

 

「――うるせぇ」

 

 

 それは、何の気なしにぽろりと零れた言葉だった。

 通信を聞いていた/特殊な力で《聴き取った》誰かが驚く声が、どこか遠い。

 

 

「――綺麗ごとはいいんだ。そんなもん、どうでもいいんだ」

 

 

 ふつふつと湧いてきた激情(モノ)を、何と例えよう。

 

 

「――どいつもこいつも、格好つけて、嘘と綺麗ごとばっかり並べやがって……!!」

 

 

 嘗て何もかもを諦めて生きてきたクーゴ・ハガネだからこそ、何もかもを諦める人間の姿を見ていられない。

 自己犠牲の上で成り立つ人生であると思い知らされたクーゴだからこそ、自己犠牲で誰かの人生を繋ごうとする相手を見ていられない。

 いつか届かなかった手が、いつか選ばせてしまった運命が、無自覚のまま引き換えにしてしまった“あの人”への後悔が、今の自分を突き動かす。

 

 クーゴ/“勇者”はミハタテンサイを掲げる。機体にマウントされた自律兵器――否、サイオン波の増幅装置が展開し、蒼穹(あお)い光を放ち始めた。

 

 

「サイオン、フルバースト」

 

「お、おい、クーゴ!? キミは一体何をするつもりなんだ!?」

 

 

 近くにいた相棒が何かを言った気がしたが、そんなもんどうでもいいのだ。

 普段から誰かの暴走にぶん回されている身である。

 

 ――たまには、みんなもクーゴに付き合ってくれなきゃ割に合わないだろうが!!

 

 

「――お前らみんな、本当(ホント)のこと言え!!」

 

 

 

 

 

 

『フォトンリングレイに座標送信!』

 

『――但し、エネルギー誘導はフォトンブラスターではなく、ラ・グラミスの主砲で行わせます!』

 

 

 ナトーラ・エイナス艦長が下した判断は奇策中の奇策。難易度の高さは勿論、ハイリスクハイリターンを地で行くものだ。

 

 件の奇策を打ち出した理由は、第2射が“本来のチャージ時間よりも短時間で発射しようとしている”こと。フルチャージして撃ち放った初撃とは違い、威力を捨てて速射を優先していることを指している。ナトーラはそれを前提にして、フルチャージよりも威力の落ちた砲撃なら扱いきれると判断した。

 成功すれば、砲撃の射線上にいる機体――フラムのフォーンファルシアとセリックのクランシェカスタムが砲撃の巻き添えを喰らわずにすむ。敵本丸でべしょべしょに泣いているゼハートの心も、フラムとセリックを含んだ多くの兵士たちの命を救うことが出来るのだ。

 ただし、失敗すれば射線上にいる敵味方、及びBXにとっての精神的主柱である旗本艦・ディーヴァのクルーは死一択。誰もがどよめきながらも、最終的にはナトーラの策――“フォトンリングレイのエネルギー誘導を利用し、敵主砲の射線を曲げる”――に己の命運を委ねることにしたらしい。

 

 

『一艦長として、フォトンブラスターを撃つことが最良の選択なのでしょう』

 

『ですが、これが私と言う艦長! ここまでやってきた上での決断です!』

 

 

 どこか自信なさげにしていたお飾りの艦長はもういない。震えながらも、悩みながらも、仲間と共に戦場を乗り越えてきた、立派な指揮官だ。

 生徒に言い聞かせるような調子でナトーラに呼びかけていたセリックを黙らせ、クルーたちの肝を座らせたその姿は、どうしてか酷く眩しく見えた。

 

 ディーヴァのクルーたちが一蓮托生となったのと、ゼハートがひと際激しい自傷行為――仲間を犠牲にするという選択を選んだのは、ほぼ同時。

 

 

「ディグマゼノン砲、撃てぇぇぇぇぇぇぇッ!」

 

「――いきます……!」

 

 

 白い光が爆ぜ、ディーヴァクルーの《聲》が響き渡る。ナトーラの奇策は、問題も滞りもなく実行された。

 敵の主砲はフォトンリングレイの放射リング内へ命中し、クルーたちは放射リングの座標を徐々に調節していく。

 そうして――光が晴れたそこに、ブライティクスの旗本艦・ディーヴァは健在であった。

 

 

「そ、そんな……! ここまで追いつめておきながら……」

 

<――――>

 

「!? ……あ、ああ……ゼハート様……! ……私……私が、間違っていたの……?」

 

 

 愕然としていたフラムだが、Xラウンダーとしての彼女は何かを感じ取ったらしい。悲痛な表情を浮かべる。

 直後、彼女は指揮官たるゼハートから指示を受けたのだろう。程なくして、戦場から撤退していった。

 

 

「まさか、本当に射線を逸らすとは……。『名鑑ディーヴァの艦長に凡人なし』か……」

 

 

 敵本丸からも、味方本丸からもざわめきが《聴こえる》。その中でも、背後で戦況を見守っていたカティ・マネキンの言葉が、やけにはっきりと響いていた。

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 メメントモリのチャージ時間は、初撃同様フルチャージである。そのため、今回の虚憶(きょおく)――『名鑑ディーヴァの艦長に凡人なし/BX』でナトーラが披露した奇策は再現することが難しいはずだった。本来なら、クーゴ個人がこの虚憶(きょおく)を引っ張ってきた場合、出力が足りずに呼び出すことが出来なかったはずなのだ。

 だが、今回はソレスタルビーイングの秘密基地強襲時とは違い、ミハタテンサイへ思念波を注いでくれる仲間たちがいる。それ故に、“フルチャージ状態で発射されたメメントモリの砲撃を誘導し、射線をずらす”ことに成功したのだ。ずれた射線の先には、ラトレイアの操縦権をハーメスへ手渡し、生身で宙を飛ぶベルフトゥーロがいる。

 

 そんな彼女に狙いを定めて飛び出してきたのは、プネウマ・ブルを乗り捨てて新たなMA――ヒュイオス・スカイに乗り換えたばかりのマザー・ウルリカ。

 誘導されたメメントモリの砲撃は射線を変えて、ヒュイオス・スカイへと降り注いだ。プネウマ・ブルとは違って機動性が高いのか、ヒュイオス・スカイは難なく砲撃を回避する。

 しかしながら、マザー・ウルリカ/ヒュイオス・スカイは自身の目的を果たせなかったようだ。ベルフトゥーロへの追撃はおろか、プトレマイオスにも逃げられてしまったらしい。

 

 加速したプトレマイオスへ追い縋ろうとしたヒュイオス・スカイだが、眼前をベルフトゥーロが横切ったことで優先順位が変わってしまったようだ。そのまま彼女を追いかけ、待ち構えていた宙継/ちょうげんぼうたちに取り囲まれていた。

 

 

「よし! あとは手筈通りに!」

 

「私が防壁、クーゴさんが加速と機動性ですね!」

 

「「――せーのっ!」」

 

 

 ディーヴァの奇策を再現するために回していた思念波を、すべてプトレマイオスのために費やす。ミハタテンサイと盾から青い光が舞い上がった。ヒュイオス・スカイをいとも簡単に振り切って、GNフィールドの代わりに展開したシールドという鉄壁の守りを得たプトレマイオスがオービタルリング上へと戻る。

 ヒュイオス・スカイは何度か追い縋ろうと試みたようだが、メメントモリとの距離やベルフトゥーロにつられがちになってしまうという問題点を悪用される形で妨害を受けている。防衛の要――その片割れだったはずのブシドー/新型機は、相変わらず刹那/ダブルオーと剣戟を繰り広げていて戻ってくる様子がない。

 相手指揮官はメメントモリの射線がずらされたことに驚いていたようだが、即座に物量戦を仕掛けてきた。四方八方から降り注ぐ艦隊砲撃とMS部隊の攻撃が、イデアの展開したシールドを削り取っていく。アリオスのトランザムも切れそうなのか、心なしかプトレマイオスの速度が下がって来たような気がした。

 

 振り返れば、プトレマイオスへ追い縋ろうとするヒュイオス・スカイ。奴は巨大なビームサーベルを振り回しながら突撃せんとしているようだ。射程圏内に入れば、大打撃を受けることは確定だろう。

 

 

「――っ、ごめんなさい……!」

 

「次は俺たちの番だ! ――トランザム!」

 

 

 苦悶の声を上げたイデアの謝罪と共に、パハリアが崩れ落ちた。鉄壁の守りを誇っていたシールドが砕けるようにして解除される。入れ替わるように展開したのは、ケルディムのシールドビットだ。

 自動制御による攻防一体型のソレは、的確に敵機からの攻撃を防ぎ、時には追い縋って来たMSを迎撃していく。だが、物量は相変わらずアロウズ有利。シールドビットは次々と破壊されていく。

 

 

「このままじゃビットが持たねえ!」

 

「もう少しだけ持たせて!」

 

<あと少し! あと少しで、マザー・ウルリカのアクセス権限を奪取できる……!>

 

<こちらはこのまま畳みかける! レディ・スメラギ、メメントモリは任せたぞ!>

 

 

 朗報なのか悲報なのか、アメリアスとハーメスからよく分からない通信が入った。マザー・ウルリカを追い詰めているという意味では前者だが、援護が望めないと言う意味では後者となる。

 敵艦隊からの一斉攻撃だって――メメントモリの効果射程範囲に押しやられたときよりマシにはなったが――相変わらず雨あられ。アリオスのトランザムが切れる前にチェックメイトを決められるか。

 何もかもが時間との勝負。正直かなりキツいが、今はここで折れるわけにはいかない。クーゴは歯を食いしばりながら、ミハタテンサイの維持に全力を注ぐ。

 

 次の瞬間、大きな青い影が飛び出して敵機の攻撃を防いだ。扇/イカルガとジェフリー/マクロスクォーターが盾になるような形で守ってくれたらしい。相手の戦艦には傷一つ付いていなかったが、彼らはプトレマイオスの無事を確認すると、溶けるように消えてしまった。

 それと入れ替わりで発射されたのは無数のミサイル。クーゴからの目視では、何かしらに着弾したか否かも確認できない。恐らくこのミサイルは、本命の攻撃ではないのだろう。目的地まであと少し。あと少しで、メメントモリの弱点部に辿り着くことが出来る。――だが、ここでアリオスのトランザムが限界時間を迎えてしまった。

 

 悪いことには悪いことが重なるらしく、「ケルディムのシールドビットが全損した」と言う知らせが入る。何もかもが踏んだり蹴ったりだ。猫の手も借りたいとはまさしくこのこと――

 

 

<――任せて>

 

 

 りぃん、と、音がした。透き通った鈴の音色みたいな、綺麗な音。

 それと入れ替わりに響いたのは、聞き覚えの無い(聞き覚えのある)聞き覚えのある(聞き覚えの無い)、誰かの《聲》。

 

 操縦桿を握る手に、小さな掌が重なる。瞬きすれば、無地の着物を身に纏った赤いリボンの女の子。

 

 

<――あたしが絶対、何とかしてみせるから!>

 

「あ、あああああああああああ!!?」

 

 

 彼女が満面の笑みを浮かべた瞬間、背後から女性の悲鳴が響き渡った。振り返れば、ヒュイオス・スカイが滅茶苦茶な動きを繰り広げている。

 

 

<な、なになに!? 何が起きたの!?>

 

<これは……マザー・ウルリカが、ネットワークの上位子機から攻撃を受けてる!?>

 

<アクセスコードは判別不明だが、間違いない……! マザー・ウルリカは、マザーネットワークを介して回路を滅茶苦茶にされているぞ!>

 

 

 突如おかしな挙動を始めたヒュイオス・スカイの様子に目を見開いたヒリングに、アメリアスとハーメスが驚きの声を上げる。

 身内からの裏切り行為に等しいソレは、単なる予備端末でしかないマザー・ウルリカには拒否する権限がなかったのだろう。

 暴走を始めたマザー・ウルリカ/ヒュイオス・スカイはプトレマイオスを追い抜き、ビームサーベルをぶん回しながらアロウズ艦隊を蹴散らしていく。

 

 マザー・ウルリカの絶叫と引き換えに、アロウズの守りは容易に削がれていった。相手側も、まさか防衛の要たるマザーネットワークの子機が牙を剥くとは思っていなかったに違いない。

 その間に、アメリアスとハーメスはマザー・ウルリカのアクセス権限を奪取し、情報をすべて引き出せたらしい。件の報告がスメラギの元に齎される。間髪入れず、ヒュイオス・スカイは明後日の方向へ飛翔した。

 

 ――これで、道は開かれた!

 

 

<――ごめん。これ以上はちょっと無理! だけど、出来る限りのことはしたよ!>

 

 

 りぃん、と、音がした。透き通った鈴の音色みたいな、綺麗な音。

 それと入れ替わりに響いたのは、聞き覚えの無い(聞き覚えのある)聞き覚えのある(聞き覚えの無い)、誰かの《聲》。

 

 

「グランドマザー『テラ』、応答してください! ウルリカが、ネットワークから孤立しています!」

 

 

 背後から響いたのは、つい先程までおかしな挙動を繰り返していたマザー・ウルリカ/ヒュイオス・スカイ。彼女はプトレマイオスやガンダムに攻撃を仕掛けるも、それらすべてがなおざりになっている。彼女にとって、攻撃行動よりも優先されるべきモノがあるらしい。

 マザー・ウルリカは悲痛な声でグランドマザー『テラ』に呼びかけていた。その姿はまるで、迷子になった子どものような有様である。母を求める娘の声は、この場にいる誰にも届くことは無い。繋がりが途絶えてしまった悲嘆の声が戦場に響き渡る。場違いにも程があろう。

 

 

「ウルリカは、ミュウの汚染など受けておりません! どうして、どうして見捨てるのですか!?」

 

 

 ついにマザー・ウルリカ/ヒュイオス・スカイは動きを止めて天を仰いだ。あまりの行動に、アロウズの艦隊が動きを止める。その隙を突くような形で、ティエリア/セラフィムのバズーカが火を噴いた。

 それは見事にメメントモリへと着弾する。セラフィムの砲撃はメメントモリの完全破壊には至らなかったが、攻撃はこれで終わりではない。剥き出しになった弱点部を狙うのは――未だトランザムが切れていないケルディム。

 アロウズ側がその意図に気づくより、陽動用のミサイルが発射される方が早かった。僅かに残されたアロウズ艦隊とMSが慌ててミサイルを迎撃しているが、ケルディムの狙撃を阻止する方に回る戦力は既にない。

 

 狙撃のチャンスはたった1回。作戦の成否は、2代目ロックオン・ストラトス/ライル・ディランディに託された。

 

 クルーたちが彼の名前を呼ぶ。

 それに応えるように、彼も叫んだ。

 

 

「――ロックオン・ストラトス! その名の通り、狙い撃つぜぇ!!」

 

 

 ――放たれた一撃は、メメントモリの弱点部を打ち抜いた。

 

 誘爆したメメントモリの破片が飛び散り、兵器の傍に控えていた旗本艦に直撃する。敵本丸が壊滅したのを目の当たりにした生き残りたちは、蜘蛛の子を散らすようにこの場から離脱していく。残されたのは、マザーネットワークに見捨てられて途方に暮れるマザー・ウルリカ/ヒュイオス・スカイ。

 戦闘意欲を失ったのか、マザー・ウルリカ/ヒュイオス・スカイは微動だにしなかった。奴を相手取っていた面々――宙継/ちょうげんぼう、ハーメス/ラトレイア、ヒリング/ガラッゾ、リヴァイヴ/ガデッサ、ブリング/ガラッゾ、デヴァイン/エンプラスらがプトレマイオスへ合流した。

 

 

「あれ、あのままにしても大丈夫なんですか?」

 

「マザーネットワークから切り離された子機は存在意義を失ったも同然。いずれは自壊するはずよ」

 

 

 微動だにしないヒュイオス・スカイを見つめ、クーゴが思わず問いかける。答えたのは、激動のS.D.体制時代を駆け抜けた張本人たるベルフトゥーロ。

 此度の戦場は、得たものや新たに沸き上がった謎も多い。メメントモリの1基を破壊したとて、問題はまだまだ山積みだ。作戦終了の余韻に浸る暇はない。

 丁度そのタイミングで通信回線が開き、喜色満面の表情を浮かべた別動隊の面々が朗報を持ってきた。「あちらのメメントモリも、問題なく破壊できた」という。

 

 後は、先発隊として飛び出した刹那/ダブルオーが帰投すれば、本来の意味でひと段落――

 

 

「――認めません」

 

 

 背後で声がした。振り返れば、幽鬼のような佇まいをしたマザー・ウルリカ/ヒュイオス・スカイが虚空を仰いでいる。

 

 

「――ウルリカは、ネットワークへ戻るのです」

 

 

 彼女の視線の先には何もない。……何もないはずなのだ。

 なのにどうして、嫌な予感が拭えないのだろう。

 

 

「――『テラ』の元に、帰るのです」

 

 

 怨敵を見つけたと言わんばかりに、ヒュイオス・スカイのカメラアイがぎらつく。

 

 

「――そのために」

 

 

 ヒュイオス・スカイがプトレマイオスの方へと向き直る。

 そうして何を思ったのか――プトレマイオス目掛けて、数多のミサイルを撃ち放った!!

 

 

 

 クーゴ・ハガネ、只今、明日を探して迷走中。




【参考及び参照】
『Youtube』の『hoyuscience』より、『【化学実験】不気味!?スクロースを濃硫酸で脱水』





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