問題だらけで草ァ!! -Under the Flag-<2nd Season>   作:白鷺 葵

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【諸注意】
 1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
 2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
 3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
 4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
 5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
 9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。

 10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」、『◆』が「特殊な意味合いが含まれている」場面転換、及び視点切り替えになります。
 11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
 12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。

 13.この小説は2023年の10月時点で明らかになっている情報をベースにして執筆しているため、後の公式作品で発表・開示された情報とは矛盾が発生する可能性があります。

上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。



27.死を想え

 

 

(状況は未だ変化なし、ね)

 

 

 思念増幅師(タイプ・レッド)としての思念波を駆使し、情報収集を行っていた絹江は小さくため息をついた。

 

 一般人は未だ軌道エレベーターのターミナルフロアに集められており、周囲は武装した軍人たちで囲まれている。施設内外はアフリカタワーを占拠したMSたちが警備兼牽制役として常駐していた。彼や彼女たちの総大将であるハーキュリーは、連邦軍側から派遣されてきたセルゲイと会話しているらしい。

 思念波で読み取った限り、ハーキュリーとセルゲイは旧三代国家陣営――旧人革連時代からの旧知の仲のようだ。セルゲイがハーキュリーの元に派遣されたのは、ハーキュリーとセルゲイの関係をよく知る軍人――恐らく、2人の上司だった人物――からの打診だったのだろう。

 

 

<『旧人革連の関係者が密使を派遣する』、『密使に選ばれた人物は旧知の仲である』ことを考慮すると、平時のハーキュリー大佐は良識派の軍人なんでしょうね>

 

<しかも、彼をよく知る軍上層部にとっては『密使を派遣して穏便に済ませよう』と思うくらいの人徳があるようです。もしかしたら、『ハーキュリー大佐が怒りを露わにしたくなるのは当然だし、仕方がないことだ』と思っているのでは?>

 

<アロウズに所属している人間の仲にも『自分たちがやっていることは本当に正しいことなのか』と疑問を抱く人もいますからね。……ま、そうやって疑問視したら最後、思考プログラム施されて傀儡にされるか、社会的又は物理的手段で排除されてしまうのですが>

 

 

 絹江の思念波――ハーキュリーに関する見解を読み取ったマツカとシロエが、思念波越しからそれを深めていく。特に後者は世の中のクソっぷりに呆れ果てているかのようだ。

 アロウズのやり方や方針は“正義と良識を胸に抱く人間程辛くなる”ように出来ている。絹江たちが掴んだ情報やデータだけでも大量の被害者が出ている程に。

 ならば、絹江たちが掴めていない情報やデータ――或いは今、こうして囚われの身となっている間――中ではどうなっているのやら。考えるだけで、憤らずにはいられない。

 

 

<――――>

 

 

 外の様子に動きがあった。軍――否、アロウズの機体がアフリカタワーを包囲している。ハーキュリーの元に集った連邦軍人の一派など比べ物にならない程の物量だ。疑似太陽炉搭載型だろうとなかろうと、これほどの火力を並べられたらどうなるか。多勢に無勢の話どころではない。

 おまけに、今回の騒ぎを察知してやって来たカタロンのMSたちに対して、アロウズのMSたちは容赦なく一斉攻撃を仕掛けた。敵パイロットの戦意の有無も気にすることなく、降伏の意を示す行動までもを黙殺し、圧倒的な火力で嬲り殺していく。

 別の区画ではオートマトンがキルモードで投入されていたらしい。軍人も一般人もお構いなしに襲い掛かったが、後者に被害が出る前に片づけることが出来たようだ。尚、軍人たちの多くが負傷し、一部の一般人はその隙にタワーから脱出を図っていた。他の区画や傷ついた軍人たちなど気にも留めずに。

 

 あまりの光景に、絹江は思わず目を見開いた。

 

 本当は目を閉じて耳を塞いでしまいたかったが、ジャーナリストとしての意地と誇りがそれを許さない。真実を探求する者としての責務がそれを拒む。

 義務的に引き金を引く兵士/MSたちの無機質な挙動は、文字通り人形のようだ。この状況を作り上げた人物の嗤い《聲》が響いたように思ったのは気のせいではない。

 

 

(……スミルノフ少尉……)

 

 

 絹江の脳裏に浮かんだのは、真面目で実直なアロウズの軍人――アンドレイの姿だ。絹江にとって――いや、アロウズにとっての数少ない良心の権化とも言える人物である。

 彼は今、どこで何をしているのだろうか? アフリカタワー占拠の報を聞いたなら、きっと彼も動き出すだろう。もしかしたら、もう既にこの場にいてもおかしくはない。

 

 アロウズの方針から考えると、ハーキュリー一派の主義主張を封殺するために手段を厭わないだろう。場合によっては、アフリカタワーを消し飛ばしてでも言論封殺を優先する危険性があった。上の命令に従った場合、アンドレイは“この場にいる全員を皆殺しにする”ことになる。

 

 

(今の彼にとって、アロウズで戦うことは辛いはず)

 

 

 絹江たちの取材が終わる少し前の出来事――或いは、アンドレイと別れる直前のやり取りを思い返す。

 

 アンドレイにとって、絹江たちの所属するコミュニティである悪の組織は戦争幇助団体/スターダスト・トラベラーは反政府組織である。彼が絹江たちに対して疑念を抱いていたことは把握していたし、絹江たちが取材期間を前倒しで終わらせた1番の理由も“危機回避のため”だった。

 反政府組織や戦争幇助団体と思しき人間に対して、アロウズ所属の軍人が取る行動は『アロウズの権限を行使して相手を拘束し、ありとあらゆる手段を用いて情報を吐かせる』一択だ。場合によっては『該当者の命を奪って口封じする』という手段だってあり得る。

 だけれど、アンドレイは踏み止まった。絹江たちに対して直接疑念をぶつけて、こちらの言葉に耳を傾けようとしてくれた。不穏分子として吊るし上げるのではなく、1人の人間として、或いは軍人として、絹江たち/一般市民に対して真正面から向かい合おうとしてくれたのだ。

 

 そんな彼を、絹江は信じた。だからこそ、絹江は彼に手作りの折り鶴チャームを手渡したのだ。

 “アンドレイ・スミルノフの未来が、明るいものでありますように”と。

 

 

(私のしたことは、彼を巻き込んで、苦しめてしまっただけだったのかしら)

 

 

 アロウズに所属している軍人の中で、“自分が所属している団体がおかしいのではないか”と疑問を抱いている人間は何人いるだろう。その疑問を抱き続けていられる人間は、一体何人いるだろう。

 多くの人間が見ないふりをしたり無理矢理目を塞がれたりするのに、それでも抱えた疑念を忘れずにいられる人間はどれ程なのか。――恐らく、ほんの一握りだけ。アンドレイはその一握りなのだ。

 

 

(――どうか、せめて祈らせて。『貴方の進む道が、明るい光で満ち溢れていますように』と)

 

<――――>

 

 

 絹江がひっそりと祈りを捧げたその瞬間、どこからか醜悪な笑い《聲》が響いた。

 背中を駆ける悪意に弾かれるような形で天を仰ぐ。勿論、天井や建造物の骨組みですべてを見通すことは叶わない。

 けれど、今、()()が絹江たちに――いや、アフリカタワーに対して悍ましい悪意を向けているのは確かだ。

 

 その悪意を受け取ったのは絹江だけではなかった。隣に居たシロエとマツカも同じように顔を上げる。

 

 滅びの光が落ちてくる景色(ヴィジョン)が頭に焼き付いてしまったかのようにフラッシュバックした。崩れるタワーと阿鼻叫喚の一般人たち。多くの人々が瓦礫に潰されて命を落とす。

 しかし、被害は軌道エレベーターの利用者だけではない。大気圏近くから降り注いだ数多の残骸が、地上の街目掛けて落ちていく。数多の悲鳴が轟音と炎の爆ぜる音によってかき消された。

 

 

「<今のは、まさか――>」

 

 

 そう零したのはシロエだったのか、或いはマツカだったのか。もしかしたら、絹江だったのかもしれない。思念波だったのか、実際口に出したのかすらも定かではなかった。――それ程までの衝撃。

 

 

<頑張ろうルイス! 僕たちも、出来ることをするんだ!!>

 

<勿論よ沙慈! 私たちが力を会せれば、絶対大丈夫なんだから!!>

 

<――世界の歪みは、俺たちが断ち切る!!>

 

 

 けれど、その光景は一瞬で塗り替えられた。

 気合を入れた弟夫婦と、久々に見かけたご近所さんの《聲》によって。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「あおちゃん、また警察から表彰されたんだってね。今回は何だったの?」

 

「女子生徒に対する露出狂と公然わいせつ」

 

 

 片割れの問いかけに対し、少女は淡々とした調子で答えた。

 

 

「くーちゃんも聞いてるでしょ? “うちの中学校だけじゃなく、近所の小学校や高校の女子生徒を狙って現れる変質者”の話」

 

「話だけは。現物を見たことは一度もないかな。ここ1ヶ月は入院してたし」

 

「ごめん」

 

「土下座する程のこと!? そこまでしなくていいって!」

 

 

 話題の持って生き方がまずかったようで、片割れの地雷をぶち抜いてしまった。少女は即座に最上級の謝罪を示す。少年はおろおろしながら首を振った。

 少年は好きで病院と自宅療養の往復生活をしているわけではない。普通に生きたいと願い、それを叶えようと最大限努力しているだけなのだ。

 それでも現実は何処までも厳しい。誰かに助けて貰わなければ、誰かに何かしらの負担をかけなければ生きられない――その事実に、少年自身が心を痛めていると言うのに。

 

 

「土下座はもういいから、俺、あおちゃんの武勇伝聞きたいなあ」

 

 

 少女の土下座を止めようとしていた少年は、少し考えた後、淡く笑った。それが彼なりのフォローだと理解している。少女はそれに乗ることにした。

 

 ここ最近、少女の通う中学校の近辺では“女子学生にちょっかいを出す露出狂”という不審者情報が飛び交っていた。被害者は小・中・高校生の女子生徒たちで、第一印象が“大人しそうな子”ばかりだという。話を聞く限り、色々な意味で『反撃してこない、あるいは出来ないタイプ』の人間をターゲットにしているクソ野郎だ。

 正直な話、件の不審者と少女は縁遠い立場のはずだった。少女の外見と性格は、奴が好むタイプではなかったためだ。このまま何もなければ、その不審者の話は少女にとっても対岸の火事で済む話だった。――仲の良い同級生が被害にあってしまうまでは。

 

 少女の性格は真逆ではあるものの、育ちの良さとお洒落のあれこれを駆使すれば、そいつが好みそうな“大人しそうな子”に擬態することは容易だった。あまり好きではない実家のコネをフル活用し、いざという場面で不審者を捕まえられるような算段を立てて、少女は罠を張ったのだ。

 作戦は上手くいき、不審者は御用となった。少女も露出狂の被害にあったものの、特段おかしな後遺症やトラウマを抱えずに済んでいる。何かあるとするなら、“他者を食い物にするタイプの人間に対して強い嫌悪感を抱く”ようになったくらいか。

 最も、不審者が取っ捕まったのと入れ替わるようにして同級生一家はこの街を去った。夜逃げ同然だったので、殆どの生徒は同級生一家の行く末を知らないらしい。少女は同級生からの電話で別れの挨拶を交わしている。同級生にとっての少女は、それくらいには親しみのある存在だったようだ。

 

 

同級生(あの子)には『元気で過ごしてほしい』と思ってる。機会があればまた会えるかもしれないし」

 

「そっか。あおちゃんは優しいね」

 

「ヴッ」

 

「あおちゃん!?」

 

 

 周囲に花をまき散らさんばかりに微笑む片割れの姿に、少女は胸を押さえて小さくうめいた。少年は今日も可愛らしくて魅力的だ。明日も可愛らしくて魅力的だし、年月が過ぎれば更にカッコよさとスパダリが加算されるであろう。

 

 彼の未来は明るい。例え周囲が『本家筋の男は長生きできない』だの『大人になる前に亡くなる』だの『かわいそうな子』だのと憐れもうが、本人が頻繁に体調を崩して入退院を繰り返そうが、本人の生きる意志及びその主張が控えめであろうが、少女には少年の輝かしい未来図が浮かんでいた。

 身長は180cmを超え、着物が似合うイケメン東洋人になり、“おはなし”をきっかけに夢見るようになった“ユニオン領の精鋭軍人”になって、“おはなし”で出会った軍人たちと一緒にMSを駆って空を飛び回るようになる。その姿を想像するだけで、少女は口元が緩んで止まらなくなるのだ。

 

 

「でも、この前もあおちゃん活躍してたよね。“男子生徒を贔屓するだけでなく、成績と引き換えに下世話なことを迫る女教師”を告発したヤツ」

 

「男子の部長先輩とエース先輩が被害にあってた件ね。エース先輩の自殺未遂現場に居合わせたのがきっかけだったなァ。……昔から、そういう事件に縁があるんだよねー」

 

 

 今まで少女が直面してきた事件を思い出し、思わずため息をつく。周囲にいる大人たちの悪知恵を拝借し、彼らを動かすために必要な手立てを集めようと奔走していた日々が脳裏によぎる。

 この事件もすでに解決済みで、女教師は少女の通う中学校から姿を消していた。噂では教職を辞したと聞くが、奴が受けた社会的制裁の詳細までは把握していない。

 少女は、少女の身内と周辺が無事ならそれでいいタイプである。悪の根源がここから立ち去ったのであれば、それ以上追撃しようとは思わない主義であった。

 

 

(まあ、あの一件は“学校に復帰したくーちゃんが標的にされるかもしれない”と思ったから頑張ったんだけど)

 

「あおちゃん、警察官とか探偵に向いてるんじゃない?」

 

 

 少年の言葉に、少女は目を丸くする。

 少年はたどたどしく持論を述べた。

 

 

「だって、世の中には“誰かを食い物にして、欲望や私腹を肥やす”輩がいっぱいいるだろ? あおちゃんは『そういうの許せない』って思って動くじゃん。被害者や案件を持ち込んできた人の気持ちにもちゃんと寄り添えるし、証拠を挙げるだけの実力もある。……俺が被害者や依頼者だったら、あおちゃんみたいな警察官や探偵がいてくれたら凄く嬉しいって思うな」

 

 

 べた褒めである。ついでに照れ顔だ。食いしばりが発動していなければ、少女は今頃天に召されていたであろう。

 

 少女個人としては「片割れが言うならそういう進路もアリ」だが、自分たちを取り巻く環境がそれを許さないであろうことは予測出来ている。自分たちの中に流れる血脈は、旧い文献に名前が載っているレベルで現代まで続いてきた家だ。夢を見るには、環境が少々厳しい。それを少年も自覚していたのだろう。すぐに申し訳なさそうに謝って来た。

 

 

「ごめんね。俺のせいで、あおちゃんは――」

 

「――くーちゃんは、余計なこと心配しなくていいの!」

 

 

 表情を曇らせた片割れの姿を見ていられなくて、少女はきっぱりと言い放った。驚いた少年に対し、畳みかけるように言葉を続ける。

 

 

「くーちゃんは自分の夢のために頑張ることに集中しなさい! 貴方の夢は、とっても素敵なものなんだから!」

 

「でも、あおちゃん」

 

「あたしには、くーちゃんみたいな素敵な夢なんて無いもの。でも、くーちゃんの素敵な夢が叶ったら嬉しいなって思うんだ。くーちゃんが夢を叶える姿を見たいって思ったんだ! ――だからさ、あたしのことを気にするんだったら、絶対夢を叶えること! いいね?」

 

「……わかったよ、あおちゃん」

 

 

 畳みかけたのが利いたのだろう。少年は――相変わらず控えめではあったものの――淡く微笑み、少女の言葉に頷き返してくれた。

 それを見た少女は満足げに微笑む。自分の本心が弟に伝わっていて欲しいと思いつつ、今日も少女は日々を生きるのだ。

 

 

 

 

 

 

 ソレスタルビーイング、及びスターダスト・トラベラーの次なる目標は『3つ目のメメントモリの破壊』と『テラズ・ナンバー3からの機密情報奪取』だ。本来の計画では“ソレスタルビーイングとスターダスト・トラベラーの共同作業で2基のメメントモリを破壊後、合流して残り1基を叩きに行く”手筈になっていたのだが、世の中はそう上手くはいかない。

 作戦終了直後、プトレマイオスがマザー・ウルリカの悪あがきを受け、甚大な被害を被って地球へ降下せざるを得なくなった。別行動していた刹那との合流が遅れたのも痛手の1つ。だが、悪いことは更に続くらしい。ウルリカの攻撃によって負った被害が思ったより大きかったため、プトレマイオスは再び宇宙へ上がることが出来なくなってしまったのである。

 元から現状は切羽詰まっていた。刃金蒼海一派とマザーコンピューター『テラ』の傀儡と化したアロウズは、今も弾圧を行っている。それに対して反旗を翻した人間たち――アフリカタワーを占拠した地球連邦軍の関係者――に対しても同様だ。つい先日にメメントモリを撃ち込んだスイール王国同様、口封じと反逆者への粛清の欲張りセットを繰り出してもおかしくない。

 

 

『……流石に“メメントモリをアフリカタワーへ直接撃ち込む”なんて真似、しないよね?』

 

『余波だけでも地獄絵図ッスよ。太陽光紛争のテロなんか比にならないレベルの被害は確定だ』

 

 

 メメントモリの引き金が軽くなりつつあるアロウズの様子に嫌な予感を覚えたのか、クリスティナは戦々恐々とした様子で予想を立てる。不安そうな恋人の意見を補強するように、渋い顔したリヒテンダールがため息をついた。

 

 直撃しようがしまいが、地獄絵図であるのは変わらない。アフリカタワーに被害が起きれば、太陽光発電に力を入れている現政府/地球連邦の経済圏に大打撃が起きるのは火を見るより明らかだ。実際、別件のテロで太陽光発電が使えない状況に陥った際の大混乱は相当だったと聞く。この一件で石油燃料が見直されることとなり、中東は一時的に息を吹き返したそうだ。

 それでも、恩恵よりも被害や混乱の方が大きいのは言わずもがな。太陽光発電が安定供給できないという事態が新たな火種を巻き起こす事態に陥ったケースの方が多い。今回の場合、メメントモリの標的に成り得るのは“連邦軍人たちが立てこもっているアフリカタワー”である。もしも、クリスティナの予想をアロウズが軽々と超えてきた――即ち、メメントモリをタワーへ直接撃ち込んだら。

 

 

『軌道エレベーターの保全を優先した場合、アロウズが持ち出すのはオートマトンでしょうね』

 

『見せしめとしてのインパクトは皆無だけど、武装集団の鎮圧や人質への口封じには最適だわ。特に後者』

 

 

 スメラギの見解を聞いたベルフトゥーロが頷く。特に後者は、同族のミュウやS.D.体制下を生きるに不適合と判断された人間の命が摘み取られる世界を知っていた。

 S.D.体制とは無縁だったはずのこの地球にも、当時彼女が生きた世界の歪みが蔓延しつつある――不愉快だろうし、憂いを抱くのは当然と言えよう。

 アロウズがどんな手を打ってくるとして、奴らの暴挙を止める最短にして最良のプランは『メメントモリの破壊』であることは間違いない。

 

 

『カテドラル貸します? 代打としては充分だと思いますが』

 

『……それもいいけれど、意表を突くという点では、少し違う形になるかしら。協力して貰える?』

 

『――ああ、成程。お任せください。僕らの全てを賭して、みなさんを目的地まで()()()()()()()()

 

 

 宇宙へ()()ための手段は、無いわけではない。宇宙へ向かえないのはプトレマイオスだけで、他のMS――最大戦力たる刹那/ダブルオーを除けば――は健在だった。

 ……最も、その数時間後に合流した刹那/ダブルオーの状態は、こちらが想像するよりも『良い状態』とは言い難かったけれど。

 

 刹那は刹那で色々と事情があったらしい。蒼海の私兵であるサーシェスと遭遇して負傷後、プトレマイオスが身を寄せたカタロンの支部とは別の拠点で介抱されていた。

 だが、彼女の傷が癒えるより、アフリカタワー占領の一報が入る方がはるかに早かった。彼女は傷を癒すことよりもプトレマイオスに合流し、メメントモリを止める方を選んだのである。

 その際再びブシドー/マスラオと一戦交えることになったが、諸々の事情で戦闘は中断。彼と別れた後は、プトレマイオスを探して飛び回っていたと言う。

 

 

『この傷で作戦を決行するなんて無茶だ! ちゃんと治療しないと……』

 

『俺は問題ない』

 

『でも!』

 

『――行かなくてはならないんだ。世界の歪みを断ち切るために』

 

『――っ……』

 

 

 刹那の傷を重く見たユウイと覚悟を固めた刹那のやり取りは作戦開始直前までもつれ込んだものの、最終的には刹那の意志の強さが勝ったようだ。実際、今回の作戦の要は刹那とダブルオー。彼女たちが出撃できなければ、今回のミッションの前提が根底から崩れることになりかねない。

 無茶をして欲しくないと言うユウイの気持ちはよく分かる。だが、無理を通して道理を蹴飛ばさなければ成せないことがあるのも事実だ。ユウイは悔しそうな顔をしたものの、最終的には痛み止めの処方と『絶対生きて帰って来ること』を厳命していた。それが彼なりの譲歩だったようだ。

 

 ……ただ、彼が刹那を送り出すことを選んだのは、彼女の意見に押されただけではないのだろう。

 

 

『僕たちも、出来る限り刹那をサポートします!』

 

『友達を助けるのに理由なんていらないでしょ! その子が頑張ってるなら、猶更!!』

 

『……ありがとう。恩に着る』

 

 

 オーライザーの整備と操作に名乗りを上げたのはクロスロード夫妻だった。

 

 いつぞや襲撃を受けて治療中だったイアンが戦線に復帰したとはいえ、勝手に改造されて複座式にされたオーライザーをどうこうする時間は足りなかったようだ。色々言いたいことを飲み込んだ彼は、『この2人の派遣期間が終わるまでの間』という条件付きでオーライザーの操縦を任せることにしたという。

 オーライザー関連では『ワシは知らん。こんなん知らん』系列の言葉しか発しなかったあたり、製作者の予想を超えて大規模な改造と機能変更が行われていたのだろう。門外漢のクーゴですら、イアンの憔悴っぷりは『これはダメだな』と察する程度には酷かった。閑話休題。

 非戦闘員ながらも戦う意思を示した夫妻の申し出がなければ、ユウイは刹那たちを送り出すという判断を下さなかったかもしれない。刹那は酷く驚いた様子で目を丸くしていたけれど、最終的には淡く笑ってその申し出を受けるに至っている。

 

 

「――それじゃあ、行きますよ!」

 

「了解」

 

 

 ノブレスの号令に応え、クーゴはミハタテンサイを掲げる。ラグエルに乗るトリニティ兄妹やカテドラルのクルーたちの思念波を受けたコンラートがファンネルを展開した。淡い緑の光の向こう側が歪む。爆ぜた青の先には、黒くゆがんだ宇宙(そら)と星々が広がった。――目的地は、3基目のメメントモリ。

 クーゴは改めて周囲を見渡す。刹那/ダブルオー、イデア/パハリア、宙継/ちょうげんぼう、ハーメス/ラトレイア、ヒリング/ガラッゾ、リヴァイヴ/ガデッサ、ブリング/ガラッゾ、デヴァイン/エンプラス――メメントモリ、及びマザー・ベラとダーナの子機やテラズ・ナンバー3との戦いに赴く面々だ。

 

 他の機体は地上に残り、アフリカタワーの経過を見守ることにしたようだ。状況次第ではすぐ武力介入に移れるようにするためだ。

 カテドラルを輸送艦の代打として使わなかったのは前者――アフリカタワーの経過を見守るため――と似たような理由らしい。

 最も、宇宙には作戦開始を待ち構えている面々――クルーガー夫妻やエイミーが率いる部隊もいるワケで。

 

 

「ワープゲート展開。座標固定完了! ミハタテンサイの起動、お願いします!」

 

「――サイオン、フルバースト!」

 

 

 エラのアナウンスに従い、クーゴ/はやぶさは力を行使する。瞬く間に青い光が舞い上がり、蒼穹の旗が翻った。

 

 

「――飛べ、はやぶさ!!」

 

 

 クーゴの叫びに応えるように、はやぶさが《飛んだ》。

 

 世界が青い光に飲まれた直後、眼前に広がったのは宇宙の一角。勢いそのまま旗を薙げば、丁度その場に居合わせたアロウズの機体――アヘッドやジンクスが巻き込まれて弾き飛ばされた。

 彼や彼女らが体勢を立て直したところを、宙継/ちょうげんぼうによって手足を切り落とされて無力化させられる。そこから運良く逃げた者たちも、ハーメス/ラトレイアによって打ち抜かれ沈黙した。

 

 

「こ、こいつら!?」

 

「どこから出てきたんだ!?」

 

 

 アロウズ側からすれば、クーゴたちの出現は文字通りの奇襲。何の前触れもなく出現してきたように見えただろう。地上からワープを使って転移してきた――その技術がS.D.体制由来のものであった――ことはズルと言っても過言ではない。最も、それはS.D.体制の負の遺物を行使しているアロウズ側にも言えることであったが。

 勿論、クーゴたちが動き出したと言うことは、宇宙で待機していたクルーガー夫妻やエイミーたちの部隊が動き出したことを意味している。あちこちから兵士たちの悲鳴が響き渡り、時折爆発音とともに断線した。視界の端で見覚えのあるMAたちが戦闘態勢に入った姿もちらつく。

 

 

<マザー・ベラは私たちが引き受けます!>

 

<ダーナは俺たちが!>

 

 

 エイミーとリチャードの《聲》が聞こえた直後、機動兵器が各々展開してMA――プネウマ・ブルとヒュイオス・スカイを迎え撃つ。前者はプネウマ・ブル、後者はヒュイオス・スカイとのマッチアップだ。

 ウルリカのときはプネウマ・ブルとヒュイオス・スカイのプロトタイプと思しき機体を駆っていたことを考えると、こちらの動きに対策するため、最新型へ改修していたようだ。閑話休題。

 ペールブルーと縹色を基調にしたガンダム――フェニックスゼロを筆頭とした部隊を指揮するのがエイミー、オルフェスとライラスが合体した新型――オデュッセイアを筆頭とした部隊を指揮するのがリチャードなのだろう。

 

 勿論、アロウズ側の指揮官も奇襲に対抗しようと部隊を展開する。特に彼/彼女らが狙ったのは刹那/ダブルオーだ。それを察知していたリヴァイヴ/ガデッサやヒリング/ガラッゾたちが武装を展開した。

 

 

「露払いは任せてくれ!」

 

「メメントモリとテラズ・ナンバー3は任せるよ!」

 

 

 アヘッドやジンクスが次々と撃破されていく。

 それを視界の端に収めつつ、クーゴたちは真っすぐに飛び続けた。

 

 どこへ行くかは既に決めている。刹那/ダブルオーはクーゴ/はやぶさたちの陰に隠れるようにしてこちらから離れて行った。クーゴ/はやぶさはそれを横目に見つつ、ミハタテンサイを掲げる。周囲の視線をこちらに集中させることで、本命である刹那/ダブルオーから強制的に意識を逸らさせた。

 クーゴ/はやぶさの意図は思い通りに働いた。展開していた部隊の大半がこちらに殺到するも、刹那/ダブルオーを追いかける素振りは一切見せない。それで好都合。クーゴ/はやぶさは即座に武装を刀へ持ち換え、敵を迎え撃った。文字通りの切り捨て御免である。

 その後ろで、宙継/ちょうげんぼうやハーメス/ラトレイアがアロウズの機体を次々と無力化していく。時折、イデア/パハリアがシールドを展開しながら高速移動して砲撃や実弾ごと敵機を弾き飛ばしていた。舞い踊る様なステップと共に、イデアがアメリアスに声をかける。

 

 

「いけそう?」

 

<勿論! ちょっと時間はかかるけど、絶対やり遂げてみせるんだから!>

 

「――荒ぶる青(タイプ・ブルー)の生体反応。最優先抹殺事項の確認完了。攻撃行動に移る」

 

 

 淡々とした機械音が響いた刹那、()()は姿を現した。

 

 黒を基調とした機体の造詣は明らかにガンダムタイプであるが、そいつはツインではなくモノアイだ。地球連邦軍やアロウズにもこんな機体は存在していないし、ソレスタルビーイング製のMSでもない。

 考えられるのは虚憶(きょおく)に関する技術を多く有する悪の組織/スターダスト・トラベラーか、若しくはグランドマザー『テラ』を擁する蒼海たちが独自のルートで生み出したものか。或いは――その複合か。

 

 

「あれは……シスクード!?」

 

「知ってるのかイデア!?」

 

「私の持っている虚憶(きょおく)に出てきた特殊な機体です! ()()()()()宇宙世紀で開発()()()()()()()()()()と言われる機体(モノ)で――」

 

「――ロック解除。オフェンスモード、フェイズ1起動」

 

 

 イデアの解説は最後まで聞けなかった。それより先に、赤味がかった橙色の粒子をまき散らした件の機体――シスクード、及びテラズ・ナンバー3が文字通り突っ込んできたためだ。

 

 件の機体は宇宙世紀――つまり、アムロ・レイやシャア・アズナブルらを筆頭とした面々が生きる世界で生み出される()()()()()()()MSで、本来は疑似太陽炉搭載型の機体ではない。今回テラズ・ナンバー3が使用した『オフェンスモード』なるものは、本来、トランザムとは似て非なるものなのだろう。

 だが、今回ここに降り立ったシスクードの動力部は疑似太陽炉。トランザムの原理を適宜応用したことでオフェンスモードを再現したようだ。橙色の粒子をまき散らしながら高速移動したシスクードは遠距離からこちらに向かってランチャーを撃ち放つ。勿論、クーゴ/はやぶさは即座に回避行動を取った。

 シスクードは防御態勢を取ったイデア/パハリアを標的にしたらしく、ビームサーベルを振りかざして突撃してきた。イデアは即座にコンスティラシオン(ビット兵装)を展開し、至近距離から不規則な機動でビーム攻撃を繰り出す。シスクードはそれを掻い潜りながら迫るが、実体を持つ盾に変形したコンスティラシオンによって阻まれた。

 

 テラズ・ナンバー3/シスクードは切り払うようにしてイデア/パハリアを弾き飛ばす。両者共に体制を立て直しにかかるが、黙って見ているわけもない。

 次に動いたのは宙継/ちょうげんぼうとハーメス/ラトレイア。前者が高速移動で攪乱し、後者がタイミングを見計らって攻撃を仕掛ける。

 

 

「――ロック解除。オフェンスモード、フェイズ1起動」

 

「うおっ!?」

 

「危なっ……!」

 

「行動をキャンセル。Iフィールドランチャー、起動」

 

 

 先程同様、テラズ・ナンバー3/シスクードは急加速しながらこの場を離脱。再び攻撃態勢に以降した。先程イデア/パハリアを標的にして繰り出された攻撃は、しかし、途中で動きが止まった。そのままシームレスにIフィールドランチャーを起動し、宙継/ちょうげんぼうとハーメス/ラトレイアへ砲撃を仕掛けてくる。

 奴の宣言通りであるなら、テラズ・ナンバー3は“プログラムされた攻撃行動及び動作の一部分を状況に応じて中断し、別の攻撃行動へ移行できる”調整が施されているのだろう。ハーメス/ラトレイアが苛立たし気に唸り、宙継/ちょうげんぼうは寸での所で回避した。

 

 2人/2機への追撃を試みてビームサーベルを振り上げた奴の前に、クーゴ/はやぶさが割り込む。ビームサーベルと実体験がぶつかり合った。

 

 

(センチュリオ、マスターフェニックス・フォヤン、ハルファスベーゼ、バルバトロ……それらと比較すると、武装のギミックは単純明快だ。けれどその癖、動きを細かく変化を付けてくる。厄介だな……!)

 

「――ロック解除。オフェンスモード、フェイズ2起動」

 

「おわっ!?」

 

 

 剣戟を繰り広げる最中、テラズ・ナンバー3/シスクードが再びオフェンスモードなる虎の子を起動させる。だが、奴は()()()クーゴ/はやぶさから離れるのではなく突っ込んでいく方を選んだ。凄まじい推進力が発生し、機体の体勢が崩れそうになる。

 どうにかリカバリして立て直すことができたものの、テラズ・ナンバー3/シスクードにとっては“その短時間さえあれば充分”だったらしい。クーゴ/はやぶさから距離を取ったテラズ・ナンバー3/シスクードはこちらへ向かってIランチャーを撃ち放った。

 瞬く間に充填された砲撃が降り注ぐ。そこへ立ちはだかるようにしてクーゴ/はやぶさを庇ったのはイデア/パハリアだ。先程同様、シールドを展開してIランチャーの砲撃を防ぎきる。煙と光膜が晴れたタイミングで強襲を仕掛けてきたテラズ・ナンバー3/シスクード目掛けて飛び出した。

 

 再び繰り広げられる剣戟。ビームサーベルとアマツミソラがぶつかり合う。

 だが、先程のフェイズ1とは違い、奴の攻撃は終わらない。

 

 

「――トランザム」

 

 

 テラズ・ナンバー3/シスクードは一度こちらから距離を取り、一気に加速した。

 

 本来のシスクードは宇宙世紀のMSである――即ち、疑似太陽炉搭載型MSではないためトランザムは使えない。そのため、本来の攻撃方法ではありえないような挙動を行うことが可能だ。具体的に言うなら、トランザムの副次効果で機体のスペックを著しく上昇させることだろうか。

 シスクードの挙動に関して、クーゴは眼前で見た通りの動きしか知らない。挙動に細かく変化を付けることで臨機応変に対応できるというのも含んで、本来のシスクードの戦術に関する情報は殆ど有していないのだ。クーゴが知っている数少ない点は、その動きが所謂“体当たり”と呼ばれる動きに近いところか。

 

 

「ならばこちらも! ――トランザム!」

 

 

 次に動いたのはハーメス/ラトレイアだ。鮮やかな緑色の粒子と青い光が爆ぜた直後、炎を纏ったラトレイアが飛行形態に変化してシスクードの元へと突っ込む!

 トランザムによって推進力が上昇した機体同士が激しくぶつかり合った。凄まじい衝撃波が発生し、ハーメスが苦悶の声が混じる。テラズ・ナンバー3の機械音にもノイズが走った。

 両者共に一歩も引かない。前者は疑似AIのモデルになった人物の性格的な方面で、後者は自らの役目を果たすと言うプログラムに従って、激しいぶつかり合いを繰り広げる!!

 

 

「アメリアス、進捗は!?」

 

<あと少し! このまま負荷をかけ続けて!>

 

「心得た――!」

 

<ハーメス、無理しちゃダメ!>

 

 

 イデアの問いに答えたアメリアスであるが、それを聞いたハーメス/ラトレイアが無理を通そうとするのは別問題らしい。平時であればもうちょっと彼に苦言を呈していただろうが、今のアメリアスはテラズ・ナンバー3をハッキングするので忙しかった。

 

 だが、ハーメス/ラトレイアは決して孤軍奮闘しているわけではない。彼のすぐ傍には宙継/ちょうげんぼうがいる。

 ハーメス/ラトレイア撃破にリソースを割くテラズ・ナンバー3/シスクードは、他の敵機に対して注意力が散漫になりつつあった。

 

 

「こっちだ!」

 

 

 宙継/ちょうげんぼうが投擲したのは、小刀のような形状のビームダガー。それは一分の狂いもなくテラズ・ナンバー3/シスクードの動力部に命中した。小さな爆発音とともに敵機の体勢が崩れる。

 動力部は動力部でも、当たり所は最悪だったらしい。強制的にトランザムが解除されたテラズ・ナンバー3/シスクードが、僅かながらもトランザムが継続していたハーメス/ラトレイアに押し切られた!

 宙に投げ出されるようにして弾き飛ばされたテラズ・ナンバー3/シスクードへ、イデア/パハリアがコンスティラシオンを弓型に変形させ、クーゴ/はやぶさがライフルを構える。

 

 ――「狙い撃つ」という台詞は、クーゴには似合わない。だが、あやかってみるのもいいだろう。

 

 エイミーの部隊にいるであろう初代ロックオン・ストラトスに思いを馳せつつ、クーゴはライフルを撃った。恐らくは、弓を構えていたイデアも。

 放たれた攻撃はテラズ・ナンバー3を見事に撃ちぬいた。けたたましい勢いでノイズが鳴り響く。アメリアスが嬉しそうに笑う声が響いた。

 

 

<よし、ハッキングできた! これで新しい情報が手に入るハズ……!>

 

「それはよかった、レディ・アメリアス。俺も体を張った甲斐があったな」

 

「何もよくはないです! 本当にもう、無茶ばっかりして!!」

 

 

 誇らしそうに笑ったハーメスであるが、彼の言葉はそこで遮られた。珍しく声を荒げた宙継は噛みつくような調子で苦言を呈する。ハーメスは一瞬狼狽えたが、最終的には肩を竦めて沈黙し、宙継の言葉を受け止めることに徹していた。

 

 アメリアスのハッキングの副次効果が合わさったのか、テラズ・ナンバー3/シスクードはまともに動く――こちらに反撃を仕掛けるような素振りは無い。無重力の中を漂う残骸と化した。ひと段落ついたクーゴは視線を巡らせる。周囲の戦況もこちらの優位に傾いていた。

 エイミーが率いる部隊のエース/フェニックスゼロの砲撃を喰らったマザー・ベラ/プネウマ・ブルが航行不能に陥り、リチャードが率いる部隊のエースであるアニエスとサヤ/オデュッセイアの斬撃によってマザー・ダーナ/ヒュイオス・スカイが行動不能に追い込まれた。

 雑兵はヒリング/ガラッゾやリヴァイヴ/ガデッサたちの大暴れによって蹴散らされていた。勿論、プネウマ・ブルとヒュイオス・スカイを撃退した面々が加わる。エクザードやアヴァターラ、ラッシュバードやストレイバード、レギナやトルネードガンダムらが各々の戦術で敵機を倒していく。

 

 しかし、こちらが戦場で優位な立場を取っていたとしても、全てが順調だとは言えない。

 敵はこちらが考えていた手段――その中でも“1番最悪な手段”を行使せんと準備を進めていた。

 

 

<!? こ、これ……!>

 

<頭太陽光紛争通り越してアロウズじゃないスか! クソ過ぎません!?>

 

 

 <予想は出来てたけど>と叫んで頭を抱えたのはリヒテンダールである。尚、敵の動きにいの1番に気づいたクリスティナの顔は真っ青だ。何せ、自分が口に出した最悪な可能性が現実になろうとしていたので。

 クーゴたちがメメントモリの守護者――マザー・ベラ、マザー・ダーナ、テラズ・ナンバー3と戦っている間に、メメントモリの発射体制は整いつつあった。砲門が開き、発射口がゆっくりと角度をつけていく。

 

 その延長線上には、真横に位置する建造物――アフリカタワー。

 

 

<所詮はアロウズに歯向かう旧世代の遺物どもだ>

 

 

 《聴こえてきた》のは、メメントモリの周辺に陣取るアロウズの指揮官。組織の運営方針を隠れ蓑にし、好き勝手していたろくでなしだ。

 奴は自分の勝利を確信している。メメントモリは何の問題もなく発射されるのだと信じて疑わない。あの様子からして、刹那の行方を気にしてはいないようだ。

 クーゴは思念波を展開して刹那/ダブルオーの居場所を探る。案の定、彼女は指定されたポイントでメメントモリを破壊する下準備を終えていた。

 

 放たれたのは、紫苑に輝く極太の光。

 しかしそれは、メメントモリに直撃することはなかった。

 

 ごく僅かなズレで攻撃が外れたことに安堵する指揮官の姿が《視える》。――だが。

 

 

「……あれ、なんか動いてる?」

 

 

 クーゴが思わず呟いたのと、極太の光がゆっくりと傾き始めた――メメントモリの外壁に当たり始めたのはほぼ同時。それを見ていたハーメスが手を叩いた。

 

 

「成程! あれがライザー()()()か。虚憶(きょおく)でなら何度か目にしたが、実物をこの目で見るのは初めてだな」

 

 

 ハーメスの言葉を流しかけ、思わず止まる。彼は今何と言った? 今、()()()とか言わなかったか。砲撃ではなくて?

 それに思い至ったのは、角度を変えて傾いた――メメントモリを一刀両断せんとする極太の光を目の当たりにしていた敵指揮官も同じだった。

 

 

<頑張ろうルイス! 僕たちも、出来ることをするんだ!!>

 

<勿論よ沙慈! 私たちが力を会せれば、絶対大丈夫なんだから!!>

 

<――世界の歪みは、俺たちが断ち切る!!>

 

 

 三者三様の想いを受けて、紫の光が更に光を強めていく。メメントモリの外装は破壊しつくされ、ついに発射口に到達した。中途半端に充填されていたエネルギーが連鎖爆発を引き起こす。どこからか、アロウズの指揮官が悔しがる《聲》が聞こえてきた。

 連鎖爆発は更に誘爆を引き起こして、メメントモリは完全に爆発四散。アロウズの支配を象徴する破壊兵器が更なる標的/犠牲者を狙うことはない。最悪のケースは免れたのだ。クーゴが思わず安堵のため息をついたのと、視界の端に映った残骸が()()()ように見えたのはほぼ同時。

 何の気なしに振り返る。後ろを振り返るコンマの中、レーダーが高エネルギー反応を察知したのがちらついた。振り返った先には、いつの間にか距離を取った――或いは漂っていただけかも知れない――テラズ・ナンバー3/シスクード。死に体の奴が構えるのはIランチャー、既に充填は完了している。

 

 よく見れば、テラズ・ナンバー3/シスクードだけではない。いつの間にか奴の周囲には、マザー・ベラ/プネウマ・ブルとマザー・ダーナ/ヒュイオス・スカイの残骸も漂っている。

 いや、違う。()()()()()()のだ。ベラとダーナ/プネウマ・ブルとヒュイオス・スカイが、Iフィールドランチャーのエネルギー供給源として。

 

 そうして――銃口の先にあったのは、アフリカタワー。

 

 

落伍者(Falls)……処分……!」

 

「――ッ!!」

 

 

 クーゴは咄嗟に、アマツミソラを構える。長さを最大まで引き延ばして、勢いそのまま突きを放った。テラズ・ナンバー3/シスクードがけたたましいノイズ音を響かせながらIフィールドランチャーを撃ったのはほぼ同時。

 

 アマツミソラはシスクードとプネウマ・ブル、ヒュイオス・スカイを串刺しにする。その衝撃でIフィールドランチャーの角度が変わり、エネルギーの一部は砲撃になることなく爆発した。

 間髪入れずに悲痛な《聲》が響き渡る。振り返れば、Iフィールドランチャーの一撃は低軌道ステーションの一角を掠っていた。――それでも、タワーに甚大な被害を出すには充分過ぎる。

 

 

「これは……ピラーをパージしているのか……!? 何故そんなことを!?」

 

「さっきの砲撃が掠ったせいで、バランスを司る部分に異常が生じたんだ……! 人の手や意志によるものじゃない! 全自動(オートメーション)で行われてるんです!!」

 

 

 砲撃が掠った個所を起点にして、軌道エレベーターのピラーが次々とパージされていく。それを見ていたハーメスと宙継が息を飲んだ。バランスを司る制御部がイカれたのか、タワーは延々とピラーをパージし続けた。

 上層部から《聴こえる》《聲》の様子からして『ピラーの落下を止めようと手を尽くしているようだが、人力では処理が追い付かない』状態らしい。成層圏より上の部分は大気圏突入時の熱で燃え尽きる。けれど、それより下のピラーは、燃え尽きる前に地上へ落下する。

 このままピラーが降り注ぐ様を傍観した場合、地上にいる人々や国々に甚大な被害が出るだろう。特に、アフリカタワーの周辺にある都市部の被害は計り知れない。下手をすれば、そんじょそこらのテロなんか比較にもならないレベルでだ。

 

 恐らく、地上付近に展開している部隊はこのことを知らない。すべてを把握しているのは、アフリカタワーの低軌道ステーションや高軌道ステーションにいる人間たちだけだ。

 そこに展開している部隊は、地上に残ったソレスタルビーイングのガンダムマイスター、カテドラルの面々、アロウズやカタロン、地球連邦軍。みんなバラバラである。

 

 

<――地上に展開している部隊のみなさん、有視界通信でデータを転送します>

 

 

 事態を把握しているスメラギは、この場一帯に展開している部隊に状況を報告した。彼女の目的は、ピラーが降り注ぐことで発生するであろう被害を少しでも抑えること。そのために外部へ協力を求めようとしているのだ。

 

 だが、周囲の反応は鈍い。スメラギの所属がソレスタルビーイング――世間一般から見た私設武装組織(テロリスト)、4年前に好き放題武力介入して世界を滅茶苦茶にした張本人、力を持ちながらも自分たちの団体に味方をしてくれない1匹狼――であることが尾を引いてしまっている。言い方は悪いが、“身から出た錆”や“因果応報”の部類に入っていた。

 ソレスタルビーイングの面々はいの1番に飛び立ち、ピラーの破壊を開始する。周りがやらなくとも、自分たちしかいなくとも、最善を尽くそうと動き始めた。カテドラルの面々もそれに続き、部隊を展開した。先に戦う天使たちの元へ、異端審問官が引き連れる天使の看視者が合流する。戦力はこれで7機とプラスαだが、それでも焼け石に水程度。

 

 

「とにかく今は、被害を抑えることを優先しなきゃ!」

 

「地上部隊に合流しないと!」

 

 

 傍に居るはずの人々の声が、やけに遠い。

 

 

<これ、本当なのか……?>

 

<で、でも、この人は一体どこの誰なんだろう? 信用できるの?>

 

<我々を騙すためのガセなのでは?>

 

<なあ、ガンダムたちがどっか行っちまったぜ!?>

 

<今奴らを狙えば、倒すことが出来るんじゃないか?>

 

 

 地上付近に展開している人々の《聲》が、やけに響く。

 

 どうしてか分からないけれど、視界が暗くなったように感じたのは何故?

 何も変わらない――否、変わることすら許されない時の牢獄が思い浮かんだのは、何故?

 

 

(――その答えを、俺は知っていた)

 

 

 導かれるようにしてミハタテンサイを握りしめる。自分の持つ荒ぶる青(タイプ・ブルー)の力を注ぎこむ。

 

 

『わかってるよ! だから、世界に人の心の光を見せなけりゃならないんだろ!』

 

 

 ――光が、爆ぜた。

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

<結局、こうなったか>

 

 

 重々しく口を開いたのはシャアの方だった。纏うプレッシャーも、抱えてきた想いも、並大抵のものではない。

 対して、次に口を開いたフロンタルは、どこか飄々とした――がらんどうな調子で返答する。

 

 

<並行世界間の同一人物は、基本的に『同じ世界に存在しない』そうですよ>

 

<だから、私とお前は『“赤い彗星”の座を賭けて戦う』と言うのかね?>

 

<『似た者同士は反発し合う』ということですよ>

 

<不快だな。お前のような男と同じにされるのは>

 

 

 己の感情をそのまま吐き出したシャアは、キッと眦をつり上げた。味方とはいえ、寒気を感じてしまう程のプレッシャーが放たれる。

 

 

<お前の出自の目星はついている……! だが、それとこの戦いは無関係だ! トレーズもゼロも手段はそれぞれだったが、共通しているのは『世界の未来を信じての戦い』だった!>

 

<それは私も変わりませんよ>

 

<違うな、フル・フロンタル。お前は未来など求めていない!>

 

<――だから?>

 

 

 フロンタルが苛立たし気に元祖の方を睨んだ。先程まで軽々しい響きだった男の声に、ジワリと感情が滲み出る。

 他人の感情を詰め込むための器に徹して生きてきた男が見せた、生々しい感情。思わず零れてしまったのか、或いはそれを零した本人すら無自覚なものだったのか。

 それを目の当たりにしたシャアは、意地悪く――けれどどこか安堵したような調子でヤツを挑発した。

 

 

<ようやく生の感情を見せたな>

 

<そうまでして私を怒らせたいか、シャア・アズナブル!>

 

<フル・フロンタル! 人間を導く者は、人間でなくてはならない! お前のような存在に世界は渡せない! 私と共に、時空修復の人柱になって貰うぞ!>

 

 

 片や、世界を救うため、一時的に自分たちの敵になった壮年の男――シャア・アズナブル。

 片や、壮年の男に()()()()ために生み出され、巨大隕石を落とそうとする仮面の男――フル・フロンタル。

 

 2つの赤がぶつかり合い、ビームサーベル同士が火花を散らした。両者共に機体性能・パイロットとしての技能はほぼ互角。勝利を掴めるか否かは、パイロット自身の想いや覚悟にかかっている。

 これはクーゴの個人的な意見だが、想いや覚悟はシャアの方が上だ。破界事変や再世戦争、或いは友軍たちや当人が語っていた“それ以前の戦い”で、人の想いに触れてきたためである。

 心の中に虚無を抱えるフロンタルに、人の想いに触れて数多の奇跡を見てきたシャアが負けるはずがない。敵として、或いは仲間として、共に戦ってきたからこそ知っている。

 

 フロンタルはシャアに対して感情を露わにしており、知らず知らずのうちに、自分自身の振り回されている様子だった。そのためか、動きや言動に精彩を欠いてきている。勿論、それを見逃す程、元祖赤い彗星は甘くは無い。

 

 そうして、勝敗は決した。

 

 負けたのは、フロンタルが駆る機体――ナイチンゲール。どこからどう見ても満身創痍なのだが、奴は諦めるつもりはないらしい。

 ふらふらとした軌跡を描きながら、奴の機体は隕石の中心へ飛んでいく。シャア/ササビーもまた、奴を追いかけて隕石の中心へ向かった。

 ササビーがナイチンゲールに掴みかかる。フロンタル/ナイチンゲールは振りほどこうと藻掻くが、シャア/ササビーによって抑え込まれてしまった。

 

 

「このままお前は、私と時空修復をやってもらう!」

 

「私が同意すると思うか、シャア? 私は人類の未来に対する覚悟がある。――そう、この生命を投げ出すだけの」

 

 

 フル・フロンタルが駆る機体の動きがおかしい。それに気づいた刹那とヒイロが息を飲む。

 

 

「奴はまさか……!」

 

「自爆する気か!」

 

「ダメ! 特異点が揃わないと、時空修復ができない!!」

 

「そうまでして、この地球(ほし)を滅ぼしたいってのか……!!」

 

 

 それを聞いて声を上げたのは、刹那を援護するような形で戦場を飛び回っていたイデアだった。クーゴも思わず眉間に皴を寄せる。

 フロンタルがかたるモノは覚悟ではない。そんな高尚なものなんかじゃない。がらんどうだった器から滲みだしたのは、酷くねばついた感情だ。

 

 

「なんという執念だ……!」

 

 

 ねばついた感情の答えを言語化したのはグラハムだった。彼は苦々しい表情で赤い機体を睨む。再世戦争時代の頃の黒歴史を思い返していたのも、彼の表情が陰った要因なのかもしれない。

 

 周囲には『若気の至り』と弁明していたけれど、それで誤魔化し切れたとは思っていないだろう。勿論、グラハム本人もそれに気づいている。『互いの事情に協力し合うけれど、相手の事情に土足で踏み込む真似はしない』というスタンスがZ-BLUEに浸透しているが故に、誰もそれを掘り返そうとしないだけだ。

 でも、違う。グラハムが抱いていた感情(モノ)は、フロンタルのような狂気的なものではない。滅びに向かって邁進するためだけの、空っぽでがらんどうなものではないのだ。支離滅裂な愚行の奥には、何処までも一途で真っ直ぐな――それ以上に切実な、愛と祈りがあった。

 

 クーゴはそれを口に出そうとしたが、迫ってきた気配によって中断された。

 のっぴきならない状況であるにも関わらず、更に事態を混迷させるような輩が姿を現したためだ。

 

 

「何だよ、シャア・アズナブル。特異点が2人だってのに気づいていたのか」

 

 

 野次馬根性丸出しの調子でちょっかいをかけてきたのは、自分たちと敵対する異星人の総大将――ガドライト・メオンサム。奴は地球人――その中でもとりわけシャアのことを侮っていたらしく、愉快そうに手を叩く。

 ガドライトの見立てでは、シャアの計画は失敗すると予測していたという。「決行したとしても中途半端に終わると思っていた」と語った異星人は、飄々とした調子で――それでも目は一切笑っていなかった――こちらを挑発する。

 Z-BLUEが特異点のことに気づいたのは、ガドライトがヒビキにちょっとしたヒントを与えたためだ。シャアがZ-BLUEを敵に回すような真似をしたのは、ガドライトから情報を開示されたから。奴はこちらに対して「感謝してほしい」などと言うが、それが皮肉であることは予想がつく。

 

 勿論、この場にいる誰1人として、ガドライトに感謝する者はいない。

 全員が厳しい眼差しで奴を睨んだ。一同を代表し、シャアが唸る様に吐き捨てる。

 

 

「ガドライト・メオンサム……! 貴様に感謝することなど、何1つ無い!」

 

「あ、そう……。――だったら、こういうのはどうだ?」

 

 

 ガドライトは一瞬真顔になったが、すぐに笑った。次の瞬間、隕石が恐ろしい勢いで加速し始める。しかも最悪なことに、阻止限界点の突破寸前。これが落ちたら、時空修復どころか地球が滅亡してしまう!!

 

 

「出てくる度に余計なことばかり……!」

 

「……自傷行為の是非は棚上げしとくけど、今は罵倒の方にしてくれよ?」

 

「こんなときまで手厳しくしなくとも良いじゃないか!」

 

「こんなときだからだよ、このおばか!」

 

 

 クーゴの指摘に何の意味が込められていたのかを、グラハムはきちんと《理解(わか)って》いたようだ。むっとした様子でこちらを睨む。後でフォローを入れておかなくては。いや、そもそも後があればの話だが――なんて考えている間にも、隕石と時空修復を取り巻く状況は悪化していった。

 時空修復を行う準備は未だに出来ていないし、隕石は加速を続けている。このペースだと、時の牢獄を破壊するよりも先に地球へ落下するだろう。フロンタルは時空修復を行うつもりはない。どう考えても八方塞がりだ。

 

 

「全ては無駄なのだよ、Z-BLUE。大人しく隕石を見送るがいい」

 

 

 フロンタルが得意げに笑う気配がした。しかし、奴の言葉に「はい分かりました」と答えるような人間などZ-BLUEにはいない。

 

 

「それでもっ! 俺は……俺たちはっ!!」

 

「ブライト!」

 

「……すまんが、みんなの生命をくれ……!」

 

 

 バナージとアムロが叫ぶ。仲間たちもみんな、モニター越しに顔を見合わせ頷き合うのが《視えた》。クーゴもまた、グラハムやプリペンダー・ウィンドらと顔を見合わせ頷き合う。

 それを目の当たりにしたブライトが、重苦しさを滲ませながら指示を出した。真っ先に返事をして飛び出したのはカミーユだ。Z-BLUEの面々も頷いて、即座に隕石の下部へと終結する。

 

 自分たちのすることなんて、とっくに決まっていた。

 

 

「ガドライト・メオンサム! 私もZ-BLUEも……そして、人類もお前の思い通りにはならない!」

 

「お、おい。まさか……」

 

「そのまさかだ!」

 

「――たかが石っころ1つ、ガンダムで押し出してやる!」

 

 

 珍しく狼狽するガドライトに対し、ヒビキとアムロが言い切る。彼らの返答とZ-BLUEの行動に対して混乱したのか、それとも呆れていたのか――ガドライトの真意には触れられない。けれど、ガドライトは何もしなかった。食い入るようにして、大特異点となった隕石の運命を見つめる。

 

 

「無駄だ、Z-BLUE。大特異点は落ちるよ」

 

「そんなの、やってみなけりゃわからないだろ!」

 

 

 「運命は変わらない」と嘲るフロンタルに対して反論したのは、運命(ディスティニー)の名を冠するガンダムを駆るシン・アスカだ。彼の言葉を皮切りに、Z-BLUEは隕石を押し返す。文字通り、魂を燃やし尽くす勢いで。

 摩擦を受けた隕石と自分たちの機体が赤く発光する。Z-BLUEの仲間たちは誰1人として諦めてなどいない。伊達に、多元歴の地球に攻め込んできた侵略者を撃退してきたわけではないのだ。

 

 しかし、待てど暮らせど時空修復が始まる気配はない。しびれを切らしたアムロがシャアに訊ねるが、まだ準備が進まないようだ。

 

 準備ができない原因は、他でもないフロンタルである。奴はこの状況に置かれても尚、「時空修復に手を貸すつもりは一切ない」という持論を曲げなかった。このまま放置すれば自分諸共命を落とすと理解していても、奴にとっては他人事でしかない。何故なら――フル・フロンタルは、自分自身の生死に対し、一切感心がなかったためだ。

 多くの面々からその精神性を糾弾されたフロンタルだが、その精神性故に、彼や彼女らの言葉に心を動かされることはない。奴は自身の意見や見解を曲げることなく、「隕石さえ落ちれば、世界は正しい方向に進む」とまで言い切った。「そうすることで、自分自身の役目も終わる」とさえ。

 

 

「フル・フロンタル!」

 

「!? これは――シャアの意識が流れてくる!?」

 

「互いにサイコ・フレームを搭載した機体に乗っていたのが幸いしたな!」

 

 

 涼しい顔をしていたフロンタルであったが、勝利への確信とその余裕は崩された。シャアが双方の機体に搭載されていたサイコフレームを共振させ始めたためだ。

 

 

「私の意識を抑え込むつもりか! そうして、お前の望む世界に時空を修復するのか!?」

 

「私とお前は、人々の意志を集める器に過ぎない! 未来を決めるのは、この世界に生きる全ての人だ!」

 

 

 シャア・アズナブルの言葉は、フル・フロンタルが生み出された理由そのもの。だけれども、シャアの出した答えは、フロンタルが出した答えとは真逆だった。

 『人の意志を集める器たれ』と望まれて生まれたフロンタルは、人々の意志を集める器――人類の総代として、「自分が世界を管理し、人々を導かなくてはならない」と考えた。

 『人の意志を集める器たれ』と願われていたシャアは、人々の意志を集める器――人々が持つ平和への祈りを体現する存在の1人として、困難に立ち向かう戦士たちの仲間として戦うことを選んだ。

 

 

「聞こえるかい? ミスター赤い彗星」

 

「トライア博士……!」

 

「博士、準備は!?」

 

「OKだ。何とか間に合ったよ」

 

 

 そう言って微笑むトライア博士は、シャアから色々と協力を打診されていたらしい。Z-BLUE陣営に所属しつつも、Z-BLUEを裏切った(ように振る舞った)彼の計画を成就させるため、裏で手を回していたと言うのだ。

 

 

「こちらアスラン・ザラだ。ソレスタルビーイングと悪の組織から提供されたGNドライヴ、及びESP-Psyon搭載型のGNドライヴにより、GN粒子の拡散とサイオン波の出力強化は完了した」

 

「これで各コロニーの間はGN粒子とサイオン波で繋がったも同然だよ!」

 

 

 アスランやルナマリアたちは、嘗てZ-BLUEの前身組織に所属していた者たちである。今回の戦いには同行していなかったけれど、別動隊として飛び回っていたようだ。

 デスティニーに乗っていたシンがぱっと表情を輝かせる。彼の上官、或いは先輩に当たる軍人も、「後はお前たちに任せる」と言って激励してくれた。人類の未来を託してくれたのだ。

 他にも、地上では別の軍部が協力してくれたらしい。あちらもGN粒子の散布、及びサイオン波の出力強化は完了していると言う。所属部隊も組織も何もかもを超越して揃えられた切り札が大盤振る舞いされていた。

 

 

「全ての人の意志を、GN粒子とサイオン波で繋ぐのか!?」

 

「無茶だ……! 幾らGN粒子とて限界がある!」

 

 

 驚愕するストラトス、所属組織上GN粒子の詳細に詳しかったティエリアが、思わずといった調子で苦言を呈した。次の瞬間、トライア博士の通信に割り込みが入る。

 

 

「サイオン波だって万能じゃないよ。でも、未来を望むヒトの意志は――ヒトの心を繋ぐ手段(もの)は、それだけじゃあないはずでしょ?」

 

「グラン・マ……!」

 

「1人や1つじゃ、限界なんてたかが知れている。だからみんなでやるんじゃないか」

「ティエリアー! 頑張ってー!」

「こっちも頑張るから、そっちも頑張ってよね! 僕らの妹分の結婚式がかかってるんだから!!」

「や、やめてください! 恥ずかしいから!!」

「いいじゃん。さっきから『ライルと結婚式挙げられますように』って思念波垂れ流しなんだし」

「そういう問題じゃないんですよ!!」

 

「隕石を押し返しに行くには間に合わなかった分、手助けさせてください!」

「チームトレミー、頑張って!」

「こんな形でしか力になれなくて済まない。だが、我々も出来る限りのことはさせて貰おう!」

「あっずるい! 俺も混ぜてくれよぉ!?」

 

 

 得意げに微笑んだのは、民間企業・悪の組織の女総帥(しゃちょう)・ベルフトゥーロ。Z-BLUE及び私設部隊ソレスタルビーイングに所属しているクーゴの好敵手たるイデア――及び、ミュウにとっての指導者だ。

 彼女の後ろから激励を飛ばしてくるのは、悪の組織に所属する幹部たちだった。ティエリアの同胞に当たる面々と、派遣社員でありソレスタルビーイング公認の2ndチーム。

 

 

「隊長! 副隊長! 頑張ってください!」

「そちらで直接手助けができないことが無念ですが、我々も全力を尽くします!」

「副隊長ー! 戦いがひと段落したら鍋パーティーするって約束ー! 俺、楽しみに待ってますからー!」

「アンタたちならこの程度、すぐに片付けられるでしょ? サクッと終わらせて、さっさと帰って来てくださいね」

 

「みんな……!」

 

 

 次に画面に映し出されたのは、自分たちと別行動をとっていた部下たちだ。Z-BLUEに合流することを選んだクーゴとグラハムの背を押してくれた戦友たち。彼らの中心で手を振るのは、クーゴとグラハムにとっての年上の親友――ビリー・カタギリだ。

 

 

「2人とも、絶対無事に帰って来てよ!」

 

「っ……! ――ああ……、ああ! 当然だ、我が友!」

 

 

 一瞬感極まったように息を詰まらせたグラハムだが、すぐに不敵な笑みを浮かべて頷き返した。

 

 

「敢えて言わせてもらおう! 『必ず帰還する』と!!」

 

 

 そう宣言した彼は、隕石へと向き直った。

 クーゴもそれに倣い、隕石へ向き直る。

 

 

「弟夫婦の結婚式を賭けられちゃ、ますます引くわけにはいかないな……! ヤンチャな義妹の願いを叶えてやるのも義兄さんの務めだ!」

 

「それでやる気になるのはどうかと思うなァ!」

 

 

 ロックオンに対しストラトスがツッコミを入れた。双子の兄弟漫才は通常運転のようだ。話していることは場違いだけれども、そんな馬鹿話が出来る世の中を平和と呼ぶ。――それこそが、Z-BLUEが守ろうとしているものだった。

 「ヒトの心を繋ぐ手段(もの)は1つではない」と語ったベルフトゥーロの言葉を肯定したトライア博士が微笑む。彼女はGN粒子やサイオン波だけでなく、他の手段も用いたようだ。数多の世界が多元的に結びついたからこそできる、異世界同士の技術交流。その真髄が示される。

 フォールドクォーツを用いて作られたGN粒子の中継ステーション、AGがため込んでいたZチップ――超高純度のDECによって生み出された精神波の領域、先の大戦で火星に残されていたZONEを用いた増幅アンプとスピーカー……文字通り、この世界の人類が持ちうる限りの手札が切られていた。

 

 集めた意志は、大特異点である隕石へと送られる。

 ここからが正念場だ。隕石を押し戻しながら、クーゴは仲間たちを見回す。

 

 

「刹那!」

 

「わかっている! ■■■■バーストを使う!」

 

 

 アムロに名前を呼ばれた刹那が、間髪入れず■■■■の力を解放した。緑の粒子が吹き上がり、人々の意識をつなぐ空間が広がる。

 

 

「アルト、フォールドウェーブシステムを作動させろ! バナージ、カミーユ、俺についてこい!」

 

 

 アムロの指示を受けたアルトがシステムを起動し、カミーユが先陣を切ってアムロの元へと向かおうとする。

 だが、名前を呼ばれた2人の機体は体勢の制御に不安があるらしく、バナージが躊躇いを見せた。

 

 そのとき、アクエリオンを駆っていたアマタとガンバスターを駆っていたノリコが声をあげる。

 

 

「バナージ、EVOLの腕に捕まれ! 無限拳でユニコーンを支える!」

 

「カミーユくんはガンバスターに捕まって!」

 

 

 それを皮切りに、他の仲間たちも次々と動き出した。文字通りの総力戦。

 

 

「EVAのA.T.フィールドで壁を作ります! その間なら移動できるはずです!」

「ラムダ・ドライバも作動させる!」

「ヒビキくん!」「分かっています! ジェニオンのD・フォルトも全開で行きます!」

「蜃気楼のドルイドシステムで状況を分析し、最適なルートを算出する!」

「ゼロ、データを俺にも回せ。お前の計算とゼロシステムの予測を組み合わせれば、更に精度が上がるはずだ」

 

「みんな!」

 

「見てください! ネオ・ジオンのモビルスーツも隕石を支えようとしています!」

 

 

 ぱっと表情を輝かせたカミーユの傍にいたバナージが驚きの声をあげた。先程まで敵対していた量産型モビルスーツが、隕石を押し返そうとするZ-BLUEを手助けしに来たのだ。未来を諦めなかったZ-BLUEに感化されたのだろう。

 

 

「しかし、彼らの機体では、これ以上は……」

 

「地球が駄目になるか、ならないかなんだ!」

 

「やってみる価値はありますぜ!」

 

「お前たち……」

 

 

 しかし、援軍に加わった面々の様子を見てアムロが表情を曇らせた。そんなアムロに対して、ネオ・ジオンのパイロットたちは力強く笑い返す。

 呆気にとられたような声を漏らしたシャアへも、同じように笑い返していた。

 

 

「『自分のやってきたことを棚に上げて』って言うのはナシですぜ、総帥」

 

「今なら俺たちも、総帥のやろうとしたことが分かります! だから……!」

 

「……すまん」

 

「――謝るくらいなら、最初から、こんなやり方をしなけりゃいいんですよ!」

 

 

 シャアの謝罪にクーゴが既視感を抱いたとき、割り込むように響いた声があった。シャアへ喝を飛ばしたのは若々しい青年士官・ギュネイで、彼の言い分(ド正論)も既視感がある。

 

 脳裏に浮かんだのは、再世戦争の頃に迷走していた相棒の姿。事実上の孤立無援状態で戦い続けていた仮面の男が、必死になって抗っていたときのことだ。精神的に追い込まれていた彼にとって『それしか選択肢が無かった』のは事実だが、それはそれとして当時の頃を『若気の至り』や『黒歴史』として認識している。

 クーゴや刹那たちの奔走によって相棒は“還ってこれた”。その当初も、時間が経過した今も、彼は当時のことを申し訳なさそうに謝ることがある。その度に、彼の関係者がこぞって口にする言い分(ド正論)とほぼ同じだった。クーゴがそれに思い当たるのと、ギュネイと同年代の面々が表情を輝かせて彼の名前を呼んだのはほぼ同時。

 

 

「お前も来てくれたのか!」

 

「当然だ! 総帥の無茶を止めるのは俺の役目だからな!」

 

「……そうだったな」

 

 

 ギュネイは誇りと自負を持って堂々と言い切った。

 力強く微笑み返す副官の姿に感極まったのか、シャアの声が震えている。

 深い感動と感謝の念を感じたのは、きっと気のせいではないのだろう。

 

 

「…………ふ」

 

「こんな状況で何笑ってるんだ」

 

「大したことではないよ。――シャア・アズナブルも、私と同じ果報者だと思っただけさ」

 

 

 柔らかな微笑を浮かべたグラハムの言葉に、思わずクーゴは面食らった。何か言い返そうとして口を開くが、結局言葉は出てこない。グラハムは上機嫌に笑うと、再び隕石へ向き直る。

 

 敵も味方も関係ない。永遠の停滞よりも、無限の未来を選んだ人々による総力戦。見ていると胸が熱くなる。クーゴはコックピットを仰いだ。隕石の表面が視界を占めていたが、視界の切れ目からわずかに宇宙が見える。自分の背中には地球があるのだと考えると、負けていられない。

 人々の心が大特異点へと集まっていく。このチャンスを逃すまいとするかのように、アムロがカミーユとバナージに呼びかけた。2人は頷き、サイコ・ウェーブでシャアをフォローする。次の瞬間、大特異点である隕石の周囲に緑の光が漂い始めた。光に触れたとき、たくさんの声が耳を打つ。頑張れ、負けるな、未来を、明日を――聞いているだけで力がみなぎってきた。

 

 

「感じる……。これが、全ての人たちの意志か……」

 

「不思議だ……。こんな状況なのに恐怖は感じない。むしろ温かくて、安心を感じるとは……」

 

「だが、この温かさを持った人間が感情を制御しきれず、自滅の道を歩んでいる……! ならば、より良き世界に導く指導者が必要になる!」

 

 

 感嘆の息を漏らすアムロとシャアを横目に、フロンタルは尚も抵抗する。しかし。

 

 

「わかってるよ! だから、世界に人の心の光を見せなけりゃならないんだろ!」

 

 

 アムロが語気を強めて叫ぶ。より一層、緑色の光が眩く輝いた気がした。

 

 

「感じろ。これが人の心の光……未来を望む力だ!」

 

「ぐっ!!」

 

「ララァ! 私を……世界を導いてくれっ!!」

 

 

 シャアの叫びに呼応するように、彼の機体が白い光に包まれる。

 まるで、機体の背中に白鳥の羽が生えたかのようだ。

 

 

『――世界を』

 

 

 誰かが微笑む気配がしたと思った瞬間、この場は緑色の光に飲み込まれた。

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

<――人の心の光……>

 

<世界がダメになるかならないかの、瀬戸際……>

 

 

 たくさんの《聲》が聞こえる。

 心に光を灯された人々の《聲》。

 

 

<でも、なんで今、こんなのが……?>

 

<誰かが何かやってるんじゃないのか!? 俺たちを惑わせるために>

 

<騙されるもんか! とにかく今は、敵を全部倒さないと――>

 

 

 それでも尚、光に目を向けない人々がいる。

 変わろうとしない人々がいる。

 

 ――ならば。

 

 

(――どうすればいいのかを、俺は知っている)

 

 

 導かれるようにしてミハタテンサイを握りしめる。自分の持つ荒ぶる青(タイプ・ブルー)の力を注ぎこむ。

 

 

 

『――聞こえるか! 地球圏と火星圏、木星圏のすべての戦士たちよ!!』

 

 

 ――光が、爆ぜた。

 

 

 

 クーゴ・ハガネ、只今、明日を探して迷走中。

 

 




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