問題だらけで草ァ!! -Under the Flag-<2nd Season>   作:白鷺 葵

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【諸注意】
 1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
 2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
 3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
 4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
 5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
 9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。

 10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」、『◆』が「特殊な意味合いが含まれている」場面転換、及び視点切り替えになります。
 11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
 12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。

 13.この小説は2023年の10月時点で明らかになっている情報をベースにして執筆しているため、後の公式作品で発表・開示された情報とは矛盾が発生する可能性があります。

上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。



28.世界が終わる前に

 

 フリット・アスノ総司令――一時は引退したが、此度の戦いの激化や諸々の事情で現総司令官が退いたことが理由で再びその職に就いた――の人生は、ヴェイガン――彼の少年期ではアンノウン・エネミーと称されていた――との戦いで彩られている。ヴェイガンは木連と同盟を結んでいるので、実際はヴェイガンと木連を一緒に相手取って来たとも言えよう。

 幼少期に故郷と母親を失ったことを皮切りに、フリットは大切な人たちを亡くしてきた。恩師も後見人も尊敬できる大人も兄貴分も友人も、教え子も自分を尊敬してついてきてくれた部下たちも志を共にしてくれた上官も、みんなヴェイガン絡みのアレコレで命を落としている。彼が“後陣の憂いなくヴェイガンたちに対抗できる”ように地球連邦を改革してきたのは有名な話だ。

 

 彼が本格的に動き出す直前――いわば、この戦いが始まる少し前まで、クーゴにとってのフリットは“雲の上の人”という印象であった。

 ヴェイガン殲滅を謳う過激派として名が通っていたが、それ以外の部分は融通の利く優秀で理想的な指揮官。

 実際、ブライティクスに合流したクーゴは彼の指揮で戦う機会があったが、経験や実力に裏打ちされた戦術は素晴らしかった。『ヴェイガンさえ絡まなければ』。

 

 本人とお喋りしてみると、家族への愛情の出力の仕方がヴェイガン対策に偏り過ぎているだけで、家庭的で家族愛に溢れた茶目っ気溢れる好好爺だった。そっちが彼の本質なのだと思った程に。

 

 

『フリットさんは、戦いを終わらせたいだけなんです。これ以上、自分の大事な人や誰かの大切な人の命が理不尽に奪われることがないように。これ以上、理不尽に奪ってしまうことのないように』

 

『だから地球連邦軍の軍人になって、大規模な粛清をして、一時は連邦軍の総司令官という立場と権力を得た。……自分の任期中にすべてを終わらせてしまいたかったんだと思うんです』

 

『頑張っても頑張ってもうまくいかなくて、そのせいで余計に犠牲者が増えて、その繰り返し。終わらぬ戦いに憤り、至らぬ自分を責め続けた結果、メビウスの輪に囚われてしまった』

 

 

 クーゴよりも先にブライティクスと行動していた宙継は、友人(キオ)の祖父をそう評した。

 

 自分の無力さや亡くなった人たちを想う心が、ヴェイガンへの憎悪へと置き換えられていく。大規模な戦争や殺し合いを避けたいと願って和平交渉を試みれば、賛同して使者に名乗り出た人々が無残に殺されることの繰り返し。現場では連日連夜攻め込むヴェイガンとの戦いで上司や部下や教え子たちが命を落としていくのだ。

 此度の戦場――ヴェイガンと木連による連合部隊との最終決戦は、今まで積み重なって来た悲嘆が歪んだ形で芽吹きかけたと言えよう。実際、フリットは戦況を顧みずプラズマダイバーミサイルという破壊兵器を撃ち込もうとしていた。仲間たち――特に孫のキオに制止されて踏み止まったものの、あれがなければどうなっていたか。

 

 戦争自体は、終わるだろう。地球連邦軍の勝利によって。

 但し、ヴェイガンや木連側に、莫大な被害を出して。

 嘗てのフリットが味わった地獄を、ヴェイガンや木連に味わわせるという形で。

 

 フリット・アスノにとってのプラズマダイバーミサイルは“今回の戦いを()()()()()ために生み出した兵器”だった。

 孫の制止を受けて一度は使用を止めたフリットが、再びプラズマダイバーミサイルを使ったのも()()()()()()()()ためだろう。

 

 

『“人類(ヒト)新人類(ヒト)を繋ぐ”力を持つキミたちに頼みがある』

 

『力を貸してくれ。この戦いを、最後の戦いにするために』

 

 

 静かな面持ちをした老兵/決意に満ちた少年からの頼みに頷いたのは、彼が何を成そうとしているかを《識った》から。

 先程とは違う用途で『プラズマダイバーミサイルを用いて()()()()()()()()』という意志を《感じた》から。

 今の彼ならば――否、今の彼だからこそ、戦争の終結を成せると信じられたから。

 

 

『――()は誓ったのだ(んだ)。みんなを救う、真の救世主になってみせると!』

 

 

 いつかの少年が抱いた誓いが、老兵を突き動かす。

 この決戦を、地球とヴェイガン・木連の“最後の戦い”にするために。

 

 

「――聞こえるか! 地球圏と火星圏、木星圏のすべての戦士たちよ!!」

 

 

 フリット/AGE1-フルグランザが放ったプラズマダイバーミサイルは、敵味方1人に至るまで、一切の被害を出さなかった。代わりに、この場一帯に展開する機動部隊や戦艦からの注目を釘付けにする。

 

 

「私の声が届いている全機体に告ぐ。戦闘を止めて聞いて欲しい!」

 

 

 フリット・アスノの声は、通信を通してこの場に響き渡る。――否、通信機越しだけではない。この場に居合わせたミュウたちの思念波に乗って、この場一帯に響き渡っているのだ。

 ある意味では“通信を切って戦闘を再開しようとする人間たちに対する嫌がらせ”としても機能しているようで、ヴェイガンと木連の兵士からは困惑の《聲》がひっきりなしに飛び交っている。

 

 

「このままでは、ヴェイガンの移動コロニー“セカンドムーン”は地球へ落下する! そうなれば、母なる大地だけではない。多くの生命が失われる!」

 

<何を……! 自分たちが蒔いた種だろうに!>

 

<やめろ! 武器を向けるな!>

 

<はぁ!? 何言ってるんだお前!>

 

<彼の言う通りだ。いったん武器を置いて、あの男の声を聞くんだ>

 

<聞こえてくる……! あの男の魂が伝わって来る……!>

 

 

 フリットの言葉に憤ったヴェイガンの士官が演説中の彼/AGE1-フルグランザに銃口を向ける。だが、それは別の士官によって阻まれた。

 それを同胞の裏切りと見なしたヴェイガンの士官は噛みつくように声を荒げたが、同盟を組んでいる木連の士官に引き留められる。

 ミュウたちが展開した思念波に乗って、フリットの意志は彼らに届く。寸分の誤解も間違いもなく、正しく真っすぐに。

 

 

(――届け)

 

 

 ミハタテンサイと思念波を展開しながら、クーゴは祈る。恐らくは、思念波を展開している全てのミュウたちも。

 

 

「これを防ぐためには、キミたちの同胞に取りついているシドを倒すしかない! 最早時間はない! ここにいる全ての者たちの協力がなければ間に合わないのだ!」

 

<――届いてくれ。アスノ総司令は、地球圏に生きる人間()()を救おうとしているのではない! ヴェイガンや木連の人々も救いたいと本気で思っているんだ!>

 

 

 フリットに協力していたミュウの1人――グラハムの《聲》が響く。奴の言葉は、この場に居合わせたすべての人々の総意だ。

 ミュウの思念波/祈りとフリットの意志を乗せた思念波を受けたヴェイガンと木連の人々は、誰1人としてフリット/AGE1-フルグランザを攻撃する様子はない。

 

 

<確かに奴は、悪の地球の総大将だ……。だが、俺たちの同胞を救おうとしてくれている。その言葉に――いいや、その魂に、嘘偽りは何1つない!>

 

<その想いくらいには、応えてやってもいいはずだ。同胞を助けたいのは、俺たちだって同じなんだから……!>

 

 

<オクラムド司令。確かにBXは、先程からシドを狙っていました。地球種に与するミュウたちの力もあって、その言葉に嘘偽りがないことが伝わってきます。……ですが――>

 

<『この状況で、ザナルド様と地球種の言葉、どちらの言葉を信用すべきなのか』か……。ミュウの力を知っているとはいえ、奴らは地球種に与する者たち。地球手側にとって都合のいい改竄をしていてもおかしくはないと考えるのが普通だが……>

 

 

 フリットの言葉とミュウたちの祈りは、ヴェイガンと木連の人々に届いている。ヴェイガンと木連の人々も、フリットの言葉とミュウの祈りを受け取ろうとしている。

 末端の士官たちに、或いは指揮官クラスの人間に、それは段々と波及し始めた。思わずクーゴが口元を緩ませたのと、事態が急展開を迎えたのはほぼ同時。

 

 

<草壁中将。……俺はもう、我慢できません>

 

<月臣……? お前、何を――!?>

 

 

 木連の総指揮官・草壁の言葉を振り払うようにして飛び出したのは、彼に付き従っていた士官・月臣元一朗。

 愛機のダイマジンを駆って戦場に降り立った元一朗が、この場一帯への広域通信を開いて宣言した。

 

 

「木連優人部隊全員に告ぐ! これより我々は、BXを援護する!」

 

「血迷ったか、月臣!」

 

「聞くんだ、みんな!」

 

 

 草壁の言葉を遮り、元一朗は叫ぶ。その様はまるで、燻っていた火種が激しく燃え上がったかのようだった。

 

 

<――頑張れ>

 

 

 クーゴは思わず、ミハタテンサイに力を籠める。元一朗の言葉や想いが、この場にいる人々に届くように祈りながら。

 

 一瞬、機体越しに元一朗と目が合った。

 彼は暫し瞬きした後、小さく一礼する。

 それに呼応するかのように彼の感情が爆ぜた。

 

「和平交渉を反故にし、白鳥大佐を殺したのは我々の側だ! 遺跡の奪取に目が眩み、平和的な解決を武力で踏み躙ったのは紛れもない! 我々木連……! ――そして、ゼハート殿を誅殺したのも、地球人たちではなく、あの草壁中将とザナルド殿の2人なのだッ!!」

 

 

 フリット・アスノ総司令とこの場に居合わせたミュウたちは地球種側の人間だ。火星と木星の人間たちからすれば、自分たちを迫害した連中の子孫。言葉や想いを信じられないのは当然と言える。

 だが、今こうしてBXとの共闘を宣言して軍部の不正を明らかにした月臣元一朗は、生まれも育ちも木星の人間である。木連優人部隊に所属する人々からすれば同胞だし、ヴェイガンからすれば同盟相手だ。

 軍上層部の人間より権限は低い。けれど、“常日頃から軍上層部と共に行動しているエリート士官”の発言の信憑性と“月臣元一朗という個人の持つ人徳”は、件の同盟の中では上位に位置していた。

 

 木連とヴェイガン内部に動揺が広がっていくのが《分かる》。元一朗の行動は、草壁やザナルドを始めとした木連とヴェイガン同盟軍の上層部へ向けたクーデターだ。有人コロニーが地球へ落下するという極限状態でこんなことをしている状況ではないだろう。

 だが、元一朗にとっては“ずっとずっと我慢して、燻り続けて、ようやく自分の思った通りに行動することが出来た”という状況だ。やっと彼は、自分の考えを口に出すことが出来る。自分が正しいと思ったことを、何の迷いやしがらみもなく成すことが出来るようになったばかりなのだ。()()()()()()()()()()()()

 

 

<――頑張れ>

 

 

 クーゴは思わず、ミハタテンサイに力を籠める。元一朗の言葉や想いが、この場にいる人々に届くように祈りながら。

 

 一瞬、機体越しに元一朗と目が合う。

 彼は暫し瞬きした後、また小さく一礼した。

 それだけでよかった。それだけで充分だった。

 

 

<ええい、通信を切れ!>

 

<で、ですが……>

 

 

 草壁たちは通信を切ろうとしているが、他の士官たちは困惑したままで動きが鈍い。……それは、仕方のないことだろう。

 自分たちの同胞を殺めたのが軍上層部であることを知ってしまい、その張本人の発言を信用していいか否か迷っているのだから。

 

 だが、一士官の僅かな迷いが、元一朗に味方する。回線は広域のまま、完全フルオープンだ。彼の言葉は自軍部隊の闇そのものと化した上層部だけでなく、この場にいる全ての人々に届けられる。

 

 

「草壁中将。俺は、あいつを撃ってから、自分の中のゲキガン魂を裏切った気持ちがありました。……これ以上、俺は自分の心に嘘をつき続けることは出来ません……!」

 

「――その言葉、その魂……! 信じていたぜ、元一朗!」

 

 

 そうしてそれは、元一朗が1番伝わってほしいと願い続けていた人物に届く。寸分の狂いも間違いも誤解もなく。

 それ故に、彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「!? え……その声ッ!?」

 

「木連優人部隊少佐、白鳥九十九! ここに再び見参ッ!!」

 

 

 母艦の1つから勢いよく飛び出してきたのは、つい最近まで生と死の淵を彷徨い続けていた白鳥九十九。木連優人部隊に所属する軍人でありながら、地球人のミナトと恋人同士になったことで和平の道を探し、志半ばで同志に撃たれた男だ。

 元一朗の話からして、この2人は元々仲が良かったらしい。木連側の事情はよく分からないものの、何らかの決定的な亀裂が入り、道を違えることになってしまったようだ。元一朗が九十九を撃ったのもそれが原因だった。

 だが、元一朗はずっと、親友である九十九を撃ったことを後悔していた。彼は彼なりに、上層部のやり方と自分が思い描く正義の在り方に板挟みになって苦しんでいた。悩んで苦しんだ果てに、今この瞬間行動することを選んだのだ。

 

 

「白鳥さん……!」

 

「ご心配をおかけしました、ミナトさん。もう大丈夫ですよ」

 

「よかった……! お兄ちゃん……お兄ちゃん……!」

 

 

 九十九は愛する恋人と大切な妹に微笑みかける。その光景は、木連の士官には劇薬であった。

 何せ、白鳥九十九は“地球人によって謀殺された”――否、“元一朗によって誅殺された”と聞かされていたので。

 

 

「騙されるな! あれは地球側の用意した偽物だ! 僕らの白鳥大佐は死んだ!」

 

 

 草壁にしてみれば、さぞかし肝が冷える光景だ。自分にとって都合の悪い人間が、都合の悪い形で現れたのだから。

 己の動揺を押し隠すようにして、奴は木連の士官たちに激を飛ばす。

 いつものように、いつもの調子で、ゲキガン魂を燃やすよう訴える。

 

 

「熱血とは妄信にあらず!」

 

「むう……っ!?」

 

 

 だが、それを遮る――あるいは切り捨てるが如く、元一朗が叫ぶ。草壁を怯ませたその言葉の意味や威力が如何程のものか、クーゴには分からない。だが、彼らにとってその言葉は重要なモノだというのは伝わって来た。草壁が何も言えなくなってしまったのは、自分たちの行動に対して大なり小なり“後ろめたい部分がある”と自覚していたためかもしれない。

 

 

「熱血とは己を奮い立たせる心ッ! 今一度思い出すべきは己自身の心!」

 

「俺たち1人1人が胸に抱き、心を焦がした“キミだけの英雄(ヒーロー)”だ!」

 

 

 元一朗の言葉を引き継いだのは九十九である。2人の言葉とそれに込められた想いは、この場にいた木連優人部隊の士官たちの心と魂を揺さぶった。尚も戦線/BXへの敵対を維持しようとする草壁に対し、他の士官たちが首を振る。中には愛機共々旗本艦たるかぐらづきから飛び出し、草壁に武器を向けてまで止めようとする者も現れた。

 草壁が名指しした人間たちの中には、将官クラスの軍人もいたらしい。彼らの離反に毒づく草壁だが、離反した者たちは――ゲキガン魂を引き合いに出しているという点を除けば――理路整然とした調子で草壁に「否」を唱えた。彼らがBXへの協力に応じたのを皮切りに、多くの士官や将官が戦闘を止めて非戦闘員の救助へ飛び出した。

 戦線に残ったのは草壁を裏切り元一朗と九十九に与した将校たちである。熱血宣言で事実上のクーデターを成功させた元一朗を筆頭に、シドの鎮圧を名乗り出た。最早、誰1人として草壁に付き従う士官はいない。いるとするなら、旗本艦のかぐらづきのクルーくらいか。……最も、何人かが既に草壁を見限って脱出を図ったようだが。

 

 

「フリットさんの言葉が、巡り巡ってあいつらにも……」

 

「私たちのやり方、間違ってなかったんだね!」

 

「ナイスな展開です!」

 

 

 戦場で成り行きを見守っていたアキトとユリカの言葉に続き、宙継がぱっと表情を輝かせる。彼の言葉は、この場にいない“誰か”――早瀬浩一の口癖の受け譲りだ。

 とある虚憶(きょおく)では、宙継は彼を“先輩”と慕っていたっけ。……もしもこの場に浩一が居合わせたら、きっと同じことを言っていただろう。閑話休題。

 

 

「すまない、九十九。俺は――」

 

「今は何も言うな、親友(とも)よ」

 

「俺をまた親友と呼んでくれるのか……」

 

「正義の味方は、過去にはこだわらない。……だろ?」

 

「――ああ!」

 

 

 どちらの男も、一度は違う方向を向いた。一度は袂を分かった。命を奪おうとまでした。

 けれど――それでも、確かに2人は友達なのだ。過去も、今も。

 

 ……そうして、これからも。

 

 

『……じゃあ、お前はマキナに降ったのではなく、最初から……!』

 

『――だからあのとき、ちゃんと言ったじゃないですか。『安心して待っててください』ってね』

 

 

『還ろう、グラハム』

 

『還るぞ、グラハム』

 

『……ああ、そうだな。――還ろうか』

 

 

<――良かった>

 

 

 思わず思念波を零してしまったのは、彼らの姿に、過去や虚憶(きょおく)()()――或いは、()()()()の関係を当てはめてしまったためだろうか。

 どちらに誰を当てはめたのか、それとも全員の関係性を当てはめたのか、自分でも分からない。クーゴ自身を含んで、思い当たる節は幾らでもあったので。

 ただ、うっかり零した感情は、笑い合う親友同士にも伝わってしまったようだ。彼らは目を瞬かせた後、こちらに意識を向ける。

 

 

<<ありがとうございました、ハガネ少佐>>

 

 

 オープンチャンネルで余計なことを口走らない程度の理性はあったのか、元一朗と九十九の《聲》が思念波越しに響いた。

 予期せず言葉を向けられ、クーゴは一瞬面食らう。少し考えた後、もう一度<良かった>とだけ伝えておくに留める。これ以上は無粋だろう。

 

 “ついさっきまで敵対していた相手の説得に成功し、共に戦う仲間となる”――加藤機関との共同戦線で沸き立った浩一の様子を思い返しつつ、クーゴは戦線へと目を向けた。

 

 木連士官はBX及び地球連邦軍との戦いを止め、ヴェイガンのコロニーにいるであろう非戦闘民の救助へ向かっている。草壁を裏切った元一朗やその同僚たちは、BXに協力してシドの鎮圧に手を貸してくれていた草壁と彼に与する者たちは、改めて虫型戦闘機を展開して戦いの意を示した。泥沼の中でも足掻くことを選んだのだろう。草壁は相変わらず「正義は自分たちにある。だから負けるわけにはいかない」と叫んでいた。そちらがその気なら、BXもそれ相応の対処を講じるつもりだ。

 問題は、先程から状況に流されていたヴェイガンの動きである。同盟である木連は事実上のクーデターが起き、多くの士官は元一朗や九十九の側についた。その上で、士官の多くが自分たちのコロニーの救助へ向かってくれている。地球連邦軍と共に戦うと言う意味の同盟は破棄されたようなものだけれど、同じ宇宙棄民という境遇を生きた同胞としてヴェイガンを気にかけ、手を貸してくれているのだ。混乱するのも当然だろう。

 

 

「木連もここまでか……! だが、ヴェイガンの意志はまだ――」

 

「――この場にいる全ての戦士たちに告ぐ! 多くの命を救うため、キミたちの協力を要請するッ!!」

 

 

 尚も抵抗しようとするザナルドの言葉をかき消して、フリットの叫びが木霊する。そして――彼の心からの想いは、ヴェイガンの士官たちに届いた。

 

 

「……了解したっ……!」

 

「我々は木連と協力して、非戦闘員の脱出準備に当たる!」

 

 

 一番最初に返事をしたのは、一体誰だったのか。誰かが繋いだ広域通信から響いた「是」の言葉を皮切りに、ヴェイガン兵が次々と戦線から撤退していく。

 彼らの目的は、最早地球連邦軍とBXの打倒ではない。自分たちの住むコロニーの非戦闘員を救出することだ。先に向かった木連と合流し、救出作業へ赴いた。

 唯一に近い状態で戦場に取り残されたザナルドが、立ち去っていくヴェイガン兵の機体に吠え掛かる。同胞の行動への驚愕と地球人への憎悪が混じった悲嘆の叫びが木霊した。

 

 

「何故だ、お前たち!? ヴェイガンとしての誇りは……! 嘆きを鎮める誓いを忘れたのか!?」

 

「――みんな、選んだのだ。ザナルド」

 

 

 ザナルドの叫びに応えたのは、つい先程元一朗が『誅殺された』と断言した人物の声だった。

 恐らく、ザナルドが今ここで一番会いたくなかった/聞きたくなかった声だろう。

 

 ――何せ、件の人物は、ヴェイガンを地球人と戦わせ続けるための旗印にするために()()()()()()()()のだから。

 

 

「復讐ではなく、人が人らしく生きる当たり前の行い――『人を救う』と言う道を」

 

「ゼハート……!?」

 

「貴方の選んだ道、見せて貰ったぞ。父さん」

 

 

 イゼルカンドから火星の民の未来を託された指揮官、ゼハート・ガレット/ガンダムレギルスが再びこの宙域に降り立つ。いや、彼だけではない。巻き込まれたと思われたキャプテンアッシュ――アセム・アスノ/AGE2-ダークハウンドも、ゼハート/レギルスと共に姿を現した。

 どうやらこの2人は、法術師ニューの転移魔法によって九死に一生を得たらしい。ただ、その際に転移先の座標にずれが生じてしまい、ここまで戻って来るのに時間がかかったという。最も、彼らは“この宇宙域で起きた戦場の変化を見守ることが出来る位置”にいたようで、フリットの演説から始まった一連の流れを把握していた。

 息子の無事を知った父/父の無事を知った息子が安堵の息を吐く。この一族の直系男児は『愛情の出力の仕方が方向音痴なだけで、家族のことは大事に思っている愛情深い人間』たちだ。行動原理はてんでバラバラだが、その根底には深く大きな愛があった。家族バラバラだった三世代の歩みは今、こうして足並みを揃えたのだ。

 

 親友の親子関係を見届けたゼハート/レギルスは、即座に向きを変えた。

 

 通信相手は――彼が信頼する最高の部下たち。

 ザナルドたちとの政治闘争の中で得た数少ない同志にして、文字通りの忠臣たちだ。

 

 

「フラム、レイル! お前たちのことだ。既にザナルドの手の者から脱出し、出撃の準備を整えているのだろう?」

 

「はい!」

 

「よくお分かりで、ゼハート様!」

 

 

 指揮官の信頼に応えるようにして、フラム/フォーンファルシアとレイル/ギラーガ改を駆って馳せ参じた。2人の様子からして、ザナルドの派遣した暗殺者どもを手早く片付けてきたのだろう。

 それが白兵戦だったのかMS戦だったのかは分からないが、フラム/フォーンファルシアもレイル/ギラーガ改も損傷はほぼゼロに等しい。それを見たゼハートは満足気に頷いた。

 

 

「レイルはフラムのフォローに回れ! 私はヴェイガンギアを止める!」

 

「了解!」

 

「オクラムド、我が軍の指揮は任せる。頼めるな?」

 

「はっ。お任せください!」

 

 

 ゼハートからの命を受け、正式に指揮権を委任されたオクラムドが動き出す。彼が下したのは“全戦域でのヴェイガンの戦闘中断”――ゼハートの意志を体現した形となった。

 

 これで木連とヴェイガンの同盟軍は、BXを始めとした地球連邦軍への敵対/攻撃行動を取りやめている。この戦場で“BXや地球連邦軍に対して敵対意志を表明している”のは、草壁一派の旗本艦・かぐらづきとザナルド/ザムドラーグのみ。

 フリットの真摯な言葉と想いが、ヴェイガンと木連の人々の心を動かした。泥沼の戦争を続けることではなく、『命の危機に瀕している人々を救いたい』という原始的な願いを叶える道を――この場にいるみんなで手を取り合い、協力する道を選ばせたのだ。

 

 

「すっごーい! 本当にみんなが協力してるわよ!」

 

「ああ……。確かにあの人は只者じゃない……」

 

 

 はしゃぐエルに続いて、アセムが感嘆の息を漏らす。父親のやり方に反発していたのは事実だけれど、その根底には父への尊敬があったのだろう。

 フリットを心から慕っていたからこそ、彼の行動が『自分に対して無理矢理“ヴェイガンへの憎しみ”を継がせようとする』ように感じ、愛憎が反転してしまったのかもしれない。

 アセム・アスノが穏やかな気持ちで父・フリットを見つめたのは久しぶりなのだろう。過去の思い出を拾い集めるように目を細めたアセムを見たキオもまた、フリットに思いを馳せた。

 

 

「じいちゃんはなれたんだね。みんなを救える、本物の救世主に!」

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

「エイミー! 俺も出る! 許可を出してくれ!!」

 

 

 見知った背中――この艦の指揮官をしている妹の背中を見つけたロックオン(ニール)は、彼女の腕を引く形で引き留めた。振り返った妹の眼差しは険しい。

 

 

「兄さんは、自分の状況を理解した上で言ってるの?」

 

 

 口から発した言葉はそれだけだ。だが、彼女の思念波越しからは、ロックオンが戦線に復帰できない原因が次々と挙げ連ねられている。それら1つ1つを並べたところで情報が完結しないし、自分が覚醒したミュウの特性上ただただ気が滅入るだけだった。

 エイミーが苦言を呈する理由を、ロックオンは重々理解している。人としての尊厳(目隠し亀甲縛り)と戦線復帰を引き換えにしたとて、戦闘時に背負うことになるハンデは大きい。いつぞやのタクマラカン砂漠のように丸1日ぶっ続けで戦ったら命に係わるだろう。

 今回のミッションは降り注ぐピラーの破片の破壊。作戦行動の時間は短時間であろうと、標的となる相手――ピラーの破片は幾らでもある。曲撃ちや乱れ討ちを得意としているロックオン(ライル)とは違い、一発必中型のロックオン(ニール)とは相性が悪かった。

 

 ピラーの破壊活動に参加できたとしても、短時間ですぐガス欠になる。いてもいなくとも変わらない。

 ……分かっている。そんなこと、ロックオン(ニール)自身が一番よく分かっているのだ。

 

 

「分かってる」

 

 

 ――だけど。

 

 

「分かっているんだ、そんなことは」

 

 

 自分が足手纏いであることは、このまま大人しく待機していることへの肯定にはならない。

 古巣の仲間たちが必死になって戦っている姿を、黙って眺めていていいという証明にはならない。

 

 

「だからこそ、行かなきゃいけない。――俺も、ソレスタルビーイングのガンダムマイスターなんだから」

 

 

 それが『悪の組織/スターダスト・トラベラーの一団に身を置く中で、ロックオン(ニール)が出した答え』だ。『ロックオン(ニール)が『還りたい』と思った居場所』だ。

 恩知らずであることは百も承知。イデアが受け入れられなかったらどうしたのかというIFについて思いを巡らせなかったのかと問われたら、口ごもってしまうであろうことも事実。

 仲間たちと離れて、同胞たちと共に生きる日常に慣れ親しんだ。その中でもロックオン(ニール)の脳裏によぎるのは、ソレスタルビーイングのガンダムマイスターとして戦った日々。

 

 戦線復帰を望んだのも、もう一度立ち上がることを選んだのも、全てはソレスタルビーイングへ『還る』ためだ。

 

 仲間たちを悲しませるような愚行に走ったことも、愛した女を泣かせるような真似をしてしまったことも、取り返しの無い過ちであることは理解している。形はどうあれ、戦いから脱落してしまったロックオン(ニール)の席は空席になり、そこにはもう既にロックオン(ライル)が座っていることも分かっていたのだ。

 だとしても、ロックオン(ニール)にとっての『還りたい』場所はソレスタルビーイングだ。『還る』ことが叶わないと言うなら、せめて仲間たちの力になってやりたかった。良くも悪くも、ロックオン(ニール)もまた戦争根絶を夢見る天上人。4年前の闘いの日々で、既に自分は()()()()()()に成り果てている。

 

 

「……兄さんは、いつだって自分勝手ね」

 

 

 しばしの沈黙の後、エイミーが呆れたようにため息をつく。姿かたちはあの頃と一切変わらないのに、随分と大人びた表情を見せるようになったものだ。

 

 

「何でもかんでも勝手に背負い込んで、挙句の果てには盛大に狙いを外した挙句、みんなにトラウマ植え付けて。……本当、しょうがないんだから」

 

「う゛」

 

「自分より9歳年下――当時まだ14歳の女の子と真剣交際してたんなら、猶更生きて帰らなきゃダメでしょう。不甲斐なさ過ぎ! あーもー、本当に、しょうがないんだから!!」

 

 

 「本当にしょうがない」の部分をやたらと強調していたエイミーであったが、ややあって、苦笑交じりにため息をついた。ロックオン(ニール)たちが知らない間に、妹は大人になってしまったらしい。

 ロックオン(ニール)たちから見たエイミーは『テロにあって以降、被害に会った当時の姿のまま意識不明だった』ようにしか見えなかったが、実際は、彼女の精神は順当に年を重ねていたようだ。

 

 

「そんな不甲斐ない兄さんのために、妹である私が、直々に一肌脱いであげる」

 

「ッ、本当か!?」

 

「あくまでもこの判断は“ニール・ディランディの妹”としてのものよ。艦長として、指揮官としての判断はまた変わってくる。――後者に従うってんなら、出撃許可を出すことは可能だけど」

 

「ありがとうエイミー!」

 

 

 その言質さえ貰えたなら、ロックオン(ニール)は充分だった。彼女が出した条件を全面的に飲み込み許可を勝ち取って早々、ロックオン(ニール)は意気揚々と出撃準備を整える。

 

 悪の組織/スターダスト・トラベラーが嘗ての愛機――ガンダムデュナメスを下地にして生み出した新たな機体。機体の名前は“聴取と従順する導者”の天使・スラオシャの名を冠している。一撃必中というロックオン(ニール)の戦闘スタイルを活かしつつ、銃を鈍器のように振るう等のガン・カタスタイルにも対応していた。

 ガン・カタに走る羽目になったのは、いつぞやのシミュレーター――IB-MA-HAS型/ハシュマルとその子機IB-HAS-Pluma型/プルーマを相手取る羽目になった事件がきっかけである。その後もちょくちょく銃を用いた近接戦闘をする羽目になったか。ビーム兵器がほぼ無力化されて役立たずになったときのことを思えば、対抗手段は1つでも多い方がいい。

 急遽出撃許可が下りたと言うことで、ホワイトベース内は大騒ぎだ。コックピットに乗り込んでロックオン(ニール)が待機している間も、多くの面々がてんやわんやで出撃準備を整えてくれる。彼らに感謝をこめて《聲》をかければ、関係者たちはこぞって<頑張れ>と返してくれた。

 

 

(1つは、ホワイトベース上部に乗ったまま作戦行動に移ること。その際、絶対にホワイトベースから離れてはならない。2つ目は、ソレスタルビーイング関係者とは絶対に顔を会わせないこと)

 

 

 後者の条件に関して、思うところは沢山ある。今すぐ古巣に合流したいという気持ちが無いわけじゃない。

 ただ、ロックオン(ニール)は自分の私情よりも仲間たちの力になることを選んだ。――ただそれだけのこと。

 

 

「――ガンダムスラオシャ。ロックオン・ストラトス、出るぞ!」

 

 

 母艦から飛び出した天使は短時間のフライトの後、ホワイトベースの上部に陣取る。そうして、降り注ぐピラーに照準を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 ソレスタルビーイング再始動やスターダスト・トラベラーの反抗の傍らで、ヴェーダが水面下で進めていた謎のプロジェクト――“6人の仲間探し”。リジェネ・レジェッタは、ひょんなことから件のミッションに関わることになった1人だ。

 リジェネには、ベルフトゥーロやリボンズを始めとした“母や兄弟姉妹(かぞく)”と呼べる間柄の面々がいる。此度のミッションに関わることを選んだのは、それぞれの分野で戦いを繰り広げている母や兄弟姉妹(かぞく)の力になりたいと思ったからだ。

 此度の計画に関わることが母や兄弟姉妹(かぞく)にどのような利益をもたらすかは未知数であったが、僅かでも可能性があるなら踏み込まずにはいられないのが人間のサガであろう。実際、何かしらの研究分野では『役に立つかは分からない』モノの研究が継続的に進められることもあった。

 

 このミッションが片付くまで、本当に色々なことがあった。

 

 自身の能力を悪用してミッションに干渉しようと手を尽くしてきた問題児――ビサイド・ペインの暗躍、“6人の仲間探し”のミッションが下された真相――イノベイドたちで構成された“新たなる監視者”とその理念。イオリア計画が完遂された後のイノベイドたちが、人類や新人類たちと共に生きていけるよう尽力する者たちだ。

 直後、テラズ・ナンバー3/シスクードの悪あがきが原因で傾いてしまったアフリカタワーは制御系がトチ狂い、それを修正するために延々と全自動でピラーをパージし続けるだけになってしまう。これ以上の被害を防ぐため、訳アリイノベイドのレイヴがガンダムを駆って飛び出した。紆余曲折の果てに、レイヴは軌道エレベーターの姿勢制御に成功する。

 

 

『ありがとう、1.5(ボクの)ガンダム』

 

 

 姿勢制御に失敗していたら、今この瞬間も、アフリカタワーはピラーを全自動でパージし続けていたことだろう。そうなれば、更に被害が出ていたに違いない。

 

 新たなる監視者に選ばれた者たちは安堵の顔を浮かべていたけれど、リジェネは例外であった。

 何せ、兄弟姉妹(かぞく)の多くは、今この瞬間も降り注ぐピラーの破壊活動に向かっているはずなので。

 

 

「おい、レイヴ」

 

 

 和気藹々としている周囲や兄弟姉妹(かぞく)に思いを馳せるリジェネの様子など一切気にしていないのか、フォン・スパークが徐に口を開いた。

 

 

「今のお前にはもう()()()()()()()()()。――ソレを、今1番必要としている奴に渡してやれ」

 

 

 フォンが指差したのは、この場で1番浮いているであろう人物――リジェネ・レジェッタ。まさか自分が指差されるとは思わなかったリジェネは目を丸くする。奴は普段通りの――世間一般から見ればかなり特徴的な――笑い声を残してこの場から立ち去ってしまった。

 あの様子だと、ピラーの破壊に向かったわけではなさそうだ。奴は自由奔放な男である。自分の興味関心が赴くまま、元気に武力介入を行うのだろう。そのうちまたどこかで顔を合わせたり助力を乞うことになりそうだが、その予定は未定のままだ。閑話休題。

 

 監視者たちの視線が一斉にこちらへ集中する。リジェネは一瞬躊躇ったが、脳裏に浮かんだのは、やっぱり家族のことだった。

 悪の組織/スターダスト・トラベラーの時代の長として全体の指揮に当たっているリボンズは、本当は自分も現場に駆け付けたいと焦燥を募らせている。

 シスクードとの戦いを終えた兄弟姉妹(リヴァイヴやヒリングたち)だって、大急ぎでピラー破壊へ加わるために行動を始めていた。

 

 

「……空気が読めないこと言うけど、いい?」

 

<何を躊躇う必要がある。家族を想う気持ちを嗤う者などこの場にいない>

 

 

 呆れているのか、それとも怒っているのか。脳量子波を通じて流れ込んできたラーズの発言は語気が強い。

 

 彼は嘗て、ヴェーダから“最愛の妻ピディホープや息子ブリュンと穏やかに暮らす一般家庭の父親”という役目(ロール)を与えられていたイノベイドだ。例え役割(ロール)であっても、彼が妻や息子に抱いた愛情は未だ健在にして不変のものである。

 それに同意を示したのは、ラーズの息子ブリュンとドクターテリシラ。後者は自らの存在を誤魔化すためにスルーを妹呼ばわりしたのがきっかけであるが、今では誰が見ても“仲の良い兄と妹”であった。画面越しのスルーも力強く頷いていた。

 

 

<監視者としての大義名分が必要なら、いい案があります。――ね? レイヴさん>

 

「そうだね。ボクらの身分じゃ、1.5(アイズ)ガンダムを秘匿できる環境がない。ドクターの家には地下室があるけど、MSを置けるような広さはないし」

 

「二重の意味でステキ! これなら、ガンダムを持ち出しても咎める人はいませんね!」

 

 

 レイヴもハーミヤもいい笑顔だ。そして、リジェネの言葉を待っている。彼や彼女たちの姿に、胸の奥がぎゅうと締まる様な感覚がした。

 だって、似ている。リボンズたちがリジェネを見つめる眼差しに。リジェネの背中を見守る眼差しに。

 だけど、少しだけ違うのだ。もし、彼らの眼差しや関係性を言葉に当てはめるとするなら、それは――

 

 

「僕、みんなを助けに行きたい」

 

 

 リジェネと同じ使命を背負う監視者たちの顔を見つめながら、リジェネは口を開く。

 

 

「――アフリカタワー(あそこ)には、人類(ヒト)新人類(ヒト)を繋ぐために頑張ってる、僕の家族がいるんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 どこかではためく青い旗に導かれるようにして、意識が引き戻される。

 眼前に広がるのは愛機・マスラオのコックピットとカメラアイ越しから臨む景色。

 

 

「軌道エレベーターが、崩壊していく……!?」

 

 

 上部のピラーが次々とパージされていく光景をはっきり《視て》しまったこともあってか、どこかぼんやりとしていた思考回路が一気に覚醒した。

 前後の記憶が曖昧のため、何がどうして軌道エレベーターの崩壊に繋がったのかは分からない。だが、こんな状況を黙って見ていられるわけがなかった。

 刃金蒼海の傀儡/玩具として使い潰されているミスター・ブシドー/グラハム・エーカーであるが、本来の職業は軍人だ。何を成すべきかの優先順位くらい心得ている。

 

 それは『“少女”の好敵手として相応しい自分でありたい』と考えるブシドー/グラハムのささやかな我が儘であり、今となっては最早叶うはずのない願いの1つだ。……だとしても、きっと、それを諦めることは出来ないのだろう。――この命が尽きる瞬間(とき)まで。

 

 

(このような状況を、ソレスタルビーイングが野放しにするはずがない。“少女”もきっと、この事態を収拾するためにやって来る)

 

 

 穴だらけの記憶を必死にかき集めて、そこから“少女”/ダブルオーの動きを予測する。その瞬間、ブシドー/グラハムの視界に飛び込んできたのは相棒が掲げる青い旗だ。どんなに遠く離れていたとしても、決して見失うことのないブシドー/グラハムの標の1つ。

 そのすぐ傍に、“少女”/ダブルオーの姿があった。ピラーを破壊していた他のガンダムたちと合流した“少女”/ダブルオーもまた、自身の武装を展開しながら破片を破壊し始める。その雄姿を、ブシドー/グラハムははっきりとこの目で《視た》のだ。

 

 自分の状況を自覚していても尚、思わず口元が綻んでしまう。あの頃と同じ甘美なときめきと自身の末路への悲嘆が混じり合って、胸の奥が酷く痛んだ。

 

 

(……きっと、これが最期になる)

 

 

 記憶も自我も、挙句の果てには愛した人の名前さえ奪われて壊されていく。そんな中で、ブシドー/グラハムがどうにか“必要最低限の自我と意識”を保てているのは奇跡に等しい。サーシェスの腕を吹き飛ばすという真似をして以降、そのペナルティとして思考プログラムを強化されたのはつい先日のことだ。

 おかげで副作用の中に“前後の記憶が曖昧になり、場合によっては飛び飛びになる”というのが追加された上に、『ブシドー/グラハムが自らの手で“少女”の尊厳を踏み躙るような真似をする』という命令を組み込まれてしまった。今は正気と理性を保っていられるが、いずれは限界を迎えるだろう。

 だから、恐らく、これが最期になる。ミスター・ブシドー/グラハム・エーカーが自らの意志で、“少女”のためにしてやれること。近いうちに“少女”の理想と未来を阻む悍ましいナニカに成り果ててしまうだけの傀儡に許された、“少女”のために示せる/遺せる、たった1つの――

 

 

「――おこがましい、な」

 

 

 前を向いて進む“少女”にとって、死に逝くだけの男の愛など邪魔にしかならないはずだ。

 一目惚れをした“少女”へ一方的に愛を捧げていたときの、心底迷惑がっていた顔が脳裏を過る。

 

 ――ああ、だとしても。

 

 穴だらけになってしまった記憶をかき集める。最早断片的にしか残っていないけれど、確かに心を通わせた瞬間があった。手向けた愛に応えてくれた瞬間があった。歪む世界の中で、分かり合えていた。

 積み重ねてきた日々を想う。愛し愛されていた瞬間があったことを想う。それだけで充分だった。――これは、嘗ての自分が『見ないふり』を続けていたツケを支払う日がやって来ただけに過ぎない。

 

 

「だとしても、私は――」

 

 

 それを口に出す資格は無い。だから、そこから先の言葉を飲み込む。

 代わりに、ブシドー/グラハム/マスラオは飛び立った。

 目的地はアフリカタワー。“少女”と相棒が奮闘する戦場である。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

『地球が駄目になるか、ならないかなんだ!』

 

『やってみる価値はありますぜ!』

 

 

『わかってるよ! だから、世界に人の心の光を見せなけりゃならないんだろ!』

 

『感じろ。これが人の心の光……未来を望む力だ!』

 

 

 ――人の心の光が、広がっていく。

 

 

『熱血とは妄信にあらず!』

 

『熱血とは己を奮い立たせる心ッ! 今一度思い出すべきは己自身の心!』

 

『俺たち1人1人が胸に抱き、心を焦がした“キミだけの英雄(ヒーロー)”だ!』

 

 

『――この場にいる全ての戦士たちに告ぐ! 多くの命を救うため、キミたちの協力を要請するッ!!』

 

 

『――みんな、選んだのだ。ザナルド』

 

『復讐ではなく、人が人らしく生きる当たり前の行い――『人を救う』と言う道を』

 

 

 ――誰もが心の奥底で描き続けた英雄が、今この瞬間に産声を上げている。

 

 

<ソレスタルビーイングやスターダスト・トレイマーに続け!>

 

<世界がダメになるか、ならないかなんだ! ここで動かなきゃ、何のために戦うことを選んだのか分からないじゃないか!>

 

<そうだ……! 私が軍人になったのは、両親の姿に憧れたから……! 『人を救い、守る』という、人が人らしく生きる当たり前の行いを成す両親の姿こそが、私が心に描いた英雄(ヒーロー)の姿だったから! ならば――!!>

 

 

 数多の《聲》が《聴こえる》。爆ぜた光が景色を取り戻す。そこに広がっていたのは――アフリカタワーへ大挙する数多のMS。

 アロウズ、カタロン、一般的な地球連邦軍などなど、所属はみんなバラバラだ。だが、みんな同じ目的のために戦っている。

 

 

<ロックオン・ストラトス! ガンダムスラオシャ――狙い撃つぜ!>

 

 

 ずっと離れた場所から響いた《聲》は、久しく会っていない思念増幅師(タイプ・レッド)の居候仲間。ロックオン(ニール)のスナイパーライフルが、降り注ぐピラーの破片を撃ちぬいていく。

 本来ならば、一撃必中を得意にしている戦闘スタイルと広範囲無作為に降り注ぐピラーの群れは相性が悪い。だが、ロックオン(ニール)とスラオシャはそれをものともせず、標的を次々破壊していた。

 広範囲攻撃として展開していた輪――あれを、クーゴはどこかの虚憶(きょおく)で見たことがある。あれは、揺れる天秤のスフィアリアクター――クロウ・ブルーストの機体に搭載されていた武装だ。

 

 SPIGOT(スピゴット)と称されるリング状の随伴装備は、射撃の際は拡散装置、格闘戦の場合は刀身とカタパルトを形成する役目を担っていた。それを再現したのがスラオシャのライフルだ。確か、元の持ち主の名をもじってリブラスタクロウと呼ばれていたっけ。

 

 ロックオン(ニール)/スラオシャは自身の精密射撃とスピゴットによる拡散攻撃を併用し、広範囲に散らばるピラーの破片を的確に撃ちぬいていった。攻撃の精密性が保障されているのは、ロックオン(ニール)が有する思念増幅師(タイプ・レッド)の広範囲感知能力によるものだ。手動でマルチロックオンが出来るといえば分かりやすいだろう。

 ただ、今の彼は能力を概算度外視でフル活用している。元から思念増幅師(タイプ・レッド)の力によって振り回され気味――感覚が鋭敏化しすぎた結果、心身に過剰なストレスがかかってガス欠に陥りやすい――だったはず。そんな状況でありながらも彼は出撃し、狙撃に専念している。彼をここまで奮い立たせ、突き動かす理由があった。

 

 

<どうしてエイミーが『ソレスタルビーイングとの接触を禁じた(あんなことを言った)』のかは分からねぇ。……けど、そんなことはいい。今は、俺が出来る限りのことをするって決めたんだ。――あそこで戦ってるみんなのために!>

 

 

 天使を駆る男は『還る』べき場所を見出した。未だ己の力だけで羽ばたくことは出来ずとも、いつかはそこへ『還る』のだという決意が燃えている。

 

 ロックオン(ニール)の脳裏に思い描かれていたのは、古巣で共に過ごした仲間たちの笑顔だった。戦いの中で見出した少女と、彼女に捧げた愛だった。

 最愛の人(フェルト)大切な家族(ライル)、そうして親愛なる仲間たち(チーム・プトレマイオスのみんな)へ未来を手渡してやりたいと言う祈りだった。目隠しの向こう側の双瞼は、ただ真っすぐ仲間たちとその未来へ向けられている。

 

 

「――アルヴァアロン砲、発射ァ!!」

 

 

 ピラーの群れを追い抜いて()()()()()機体がくるりと向きを変え、即座に砲撃を撃ち放つ。どこかの虚憶(きょおく)で見かけた金色のMSが脳裏を過ったが、その答えを掴むことは叶わなかった。白と青基調の見知らぬ機体――恐らく、ソレスタルビーイング関係のガンダムだろう――に乗っていたのは、イノベイドのリジェネ・レジェッタだ。

 

 

「リジェネ!? お前、今までどこ行ってたんだ!?」

 

「その機体……()()()()のヤツか!? どこから持ってきたんだそんなもの!?」

 

「引き取った! 元の持ち主たちが『置き場がなくて管理できない』って言ってたから!」

 

 

 ブリングとデヴァインの問いかけに対し、リジェネは険しい顔のまま答える。彼とその搭乗機は即座に別の武装を展開し、降り注ぐピラーを破壊していった。

 

 件の機体は一部関係者から()()()()呼ばわりされるものらしい。どのような経緯があって件の機体がそう呼ばれるようになったかも、リジェネが件の機体を入手したかも不明。そもそもの話、リジェネ・レジェッタがリボンズ一派/悪の組織第一幹部とその配下たちと別行動していた経緯や理由も分からない。

 けれど、リジェネの別行動がこの光景に辿り着いた。()()()()と称されたガンダムを手に入れ、降り注ぐピラーの破片を破壊するために戦う兄弟姉妹(かぞく)の元へと馳せ参じるに至った。巡り巡った結果、彼の行動は兄弟姉妹(かぞく)の助けになったのだ。

 リジェネはマイスターも兼任できる万能型だが、戦闘関連の適性は控えめらしい。そのためか、彼は自分の専用機を持っていなかった。クーゴたちが把握している限り、リジェネがMSを操縦して戦線に出てきた機会や記録は殆ど無い。――そんな彼が、譲り受けた機体を駆って、全力を尽くしている。

 

 戦い向けの調整を施された兄弟姉妹(かぞく)の姿を見てきたリジェネは、色々と思うところがあったのだろう。

 “兄弟姉妹(かぞく)と同じ場所に立って、兄弟姉妹(かぞく)のために戦える”――その喜びと決意が《伝わって》きた。

 

 

「それじゃあ、遠慮なく頼らせてもらうよ! 今は猫の手すら惜しいんだ!」

 

「背中は任せるからね!」

 

「――勿論! 全力を尽くすよ!」

 

 

 リヴァイヴとヒリングの言葉を受けたリジェネは、ほんの一瞬、泣き出しそうな表情を浮かべた。けれど彼はすぐに破願し、ピラーの破壊を再開する。

 リジェネ/()()()()のガンダムは丁度リヴァイヴ/ガデッサとヒリング/ガラッゾの背中を守る位置取りだ。文字通り、背中を任されていると言えよう。

 己の感情を示すが如く、リジェネ/()()()()のガンダムは獅子奮迅の活躍を始める。それに触発されたのか、他の面々も武装を展開して破壊作業を再開した。

 

 仲間たちやこの場に居合わせた――或いは、ピラーの落下範囲内に展開するMS部隊が、同じ目的のために力を合わせて戦っている。いつか見た人の心の光のように、いつか見た英雄たちが示した『熱血』と『救世の意志』が、今ここで生きている人々を突き動かしている。

 立場も地位も関係ない。己の中で息づく英雄(ヒーロー)に恥じぬ行動を、或いは人が人らしく生きるための行い――『人を救う』という当たり前の行動を成すために。それこそが、“人の心の光を世界に示す”行動に繋がっていく。世界と人々を1つに纏めていくのだ。

 

 

<死にたくないって想いが命なら、平和にしたいって想いも命でしょ! 人間には、その想いをカタチにする力があるんだから!>

 

<恐れるな、悲しむなッ! 信じる心が、正義になるんだァァッ!>

 

<悪趣味な奴らに見せてやるんだ! 『正義は必ず勝つ』ってコトを!>

 

 

 ――いつかどこかで、共に戦った仲間の《聲》が木霊する。

 

 それに呼応するが如く飛び出した青い影は、ショウ・ザマが駆るダンバイン。オーラ力によって威力と攻撃範囲が格段に広がった斬撃が、降り注ぐピラーの破片を破壊した。共に飛び出していったのは、早瀬浩一が駆るラインバレル。オーバーライドを駆使した高エネルギー攻撃もまた、数多のピラーを破壊していく。

 彼らの姿を皮切りにして、次々と青い影が現れた。機動兵器も戦艦も現れて、ピラーの残骸を破壊し、近くにいた仲間たちに激励の言葉を残して消えていく。どの攻撃も一騎当千。数多のピラーを手早く破壊していった。彼らの姿に触発されたのか、この世界(げんじつ)を生きる人々も更に奮起する《聲》が響いた。

 彼や彼女らの激励が、どれ程心強かったか。蒼く煌めく光に導かれるように、クーゴは旗を振るった。『どんなに離れていたとしても、どんな場所にいても見えるように』という願いを込めて名付けた、クーゴ・ハガネだけの専用武装。距離も時間も世界さえも飛び越えて、数多の想いがここに集う。

 

 

<――ああよかった。隊長、ちゃんと辿り着けたみたいですね>

 

「え?」

 

「――うおおおおおおおおおッ!」

 

 

 雷張ジョー/轟龍の影が嬉しそうに微笑んだ気配を残して消えたのと、聞き覚えのある男の声が響き渡ったのはほぼ同時。

 赤味を帯びた橙の粒子が、チャクラムのような形状で撃ち放たれた。それらは刹那/ダブルオーがカバーしきれなかったピラーを破壊する。

 

 赤と黒を基調とした、武士を思わせるような機体。いつぞやのメメントモリ破壊作戦で刹那/ダブルオーの前に立ちはだかった新型だ。パイロットは――ミスター・ブシドー/グラハム・エーカー。

 

 

「グラハム!」

 

「グラハム・エーカー!」

 

「ああ、よかった……。間に合ったようだな」

 

 

 ブシドー/マスラオはクーゴ/はやぶさと刹那/ダブルオーを視認し、ふっと気配を緩める。

 ほんの一瞬《視えた》彼の顔色はあまりよろしくない。隠しきれない程追いつめられているのか、疲労と苦痛が色濃く滲み出ていた。

 それでも努めて笑ったブシドーは、クーゴや刹那が何かを言う前に口を開く。酷く儚い微笑が印象的だった。

 

 

「正直、今この場で、私の力が望まれているのかは分からない。……だが、私自身が望んだんだ。『他ならぬキミたちの力になりたい』と」

 

「あんた……」

 

「微力ながら助太刀する。遠距離兵装はあれしかないが、このまま指をくわえて見ているよりかはマシだろう」

 

「そんなことはない。協力、感謝する。――ありがとう」

 

「……ああ」

 

 

 刹那の言葉を聞いたブシドーは、安心したように口元を緩ませた。奴は身も心も限界寸前で、それでもこうして、刹那やクーゴたちの力になるためにここまで駆け付けてくれたのだ。

 感謝こそすれど、奴の心意気や祈りを踏み躙る輩なんているわけがない。そんなクーゴや刹那の想いは確かに彼に届いたようで、ブシドーは力強く頷き返して破片へ向き直る。

 

 

()()()()()()!」

 

()()()()()()!」

 

 

 青く輝く御旗の元に集ったのはブシドー/マスラオだけではなかったようだ。懐かしい肩書で呼ばれて振り返れば、飛び出してきたのは4基のジンクス。通信回線が開き、画面に映し出されたのは――嘗てのオーバーフラッグズ部隊の面々だ。

 ハワード・メイスン、ダリル・ダッジ、アキラ・タケイ、ジョシュア・エドワーズ――4年前より少し年季が入った元部下たちが、満面の笑みを浮かべて馳せ参じた。彼らは何も言わなかったけれど、当たり前のようにクーゴ/はやぶさとブシドー/マスラオの背中を守るように位置取る。

 脳裏によぎったのは、いつぞやの乱戦。暴走したMD相手に切った張ったの大太刀回りを演じたときのこと。あちらもあちらで極限状態ではあったけど、どちらがマシかなんて議題はナンセンスだ。こっちだって極限状態崖っぷちである。勿論、諦めるつもりなんて毛頭ない。

 

 懐かしさと心強さに突き動かされる。相棒に視線を向ければ、彼も力強く笑って頷き返した。

 

 

「行くぞ、フラッグファイター!」

 

「「「「「――了解!」」」」」

 

 

 隊長の宣言に是を返し、嘗てのフラッグファイターたちが空を翔る。搭乗機体でフラッグの系譜を引くのはマスラオとはやぶさのみだが、心はいつだって御旗の中にあった。仲間たちはガンダムや他の機体に助太刀し、手早くピラーを破壊していく。

 宙継/ちょうげんぼうとハワード/ジンクスの連携も、イデア/パハリアとダリル/ジンクスの共闘も、ハーメス/ラトレイアとアキラ/ジンクスの共演も、ノブレス/コンラートとジョシュア/ジンクスの競演じみた連携も、何一つとして夢ではない。

 

 クーゴが『還りたい』と願った景色そのものが眼前に広がる。勿論、まだ『還れた』わけではない。片付けるべき問題は山積みのままで、暗躍する蒼海も止められていないのだ。

 それでも、今こうして共に戦えることは、クーゴにとって“喜ばしい”ものだった。同じ願いを背負って、同じ理由で集って、背中を預けて戦える――万感の思いで満たされる。

 こんな状況でなければという気持ちが無いわけでもない。だけど、こんな時だからこそという気持ちだってある。なかなか複雑な心境だ。だけど、だとしても、この事実は絶対に無駄ではない。無駄じゃないのだ。

 

 壊す。壊す。ありとあらゆる武装を展開し、出来る限りのピラーを破壊していく。わき目も振らず破壊していく。人が人らしく生きる当たり前の行い――『人を救う』を体現するために。

 

 

<こっちは任せてくれ!>

 

<無理するなよ!>

 

 

 カタロンのMSとアロウズのMSが背中を預け合う。

 地球連邦軍やクーデターを起こした一派のMSも加わって、次々とピラーを破壊していった。

 太陽炉搭載型も疑似太陽炉搭載型も、或いは太陽炉非搭載型もない。

 

 ――そうして、どれ程の時間が経過したのか。

 

 青空は、いつの間にか夕焼け空へと変わっていた。

 息を整えつつ、クーゴは周囲に視線を巡らせる。

 

 

(――出来る限りのことはした)

 

 

 この手が届く範囲のピラーは、出来る限り破壊した。上から新たなピラーが降り注いでくる様子はない。クーゴ/はやぶさはミハタテンサイを下ろし、あたりの様子を見守る。呉越同舟と共闘を終えたMSたちは、戦いを再開する様子はない。

 立場はどうであれ、この場に居合わせた人々――ソレスタルビーイングも、スターダスト・トラベラーも、アロウズも、カタロンも、地球連邦軍も、クーデターを起こした一派も、同じ目的を抱いて戦った者同士。思うところはあるはずだ。

 けれど彼や彼女たちは、相手に攻撃を仕掛ける様子は無かった。何も言わず、何も害さず、この場を立ち去っていく。それはブシドー/マスラオとフラッグファイター/ジンクスたちも同じだった。彼らはこちらを一瞥し、静かに飛び去って行った。

 

 彼らの背中を見送って安心したためか、或いはミハタテンサイに力を注ぎ続けたせいか、体が重い。疲労感に引きずり込まれるようにして瞼を閉じてしまう。

 

 どこからか、誰かの慟哭が響き渡った。その詳細を掴む気力は、もうない。

 誰かがクーゴの名を呼んだ気配がした。それに応える気力も、言わずもがな。

 

 

「――――」

 

 

 ふわふわとした思考の中、まどろみにも似た心地よさに意識が沈んでいく。何もかもが夢心地で、輪郭もおぼろげだ。

 何だか、酷く疲れたような気がする。このまま眠ってしまえば解放されるような気がした。青い光が瞼の裏で瞬く。

 

 

『――成人検査を始めます』

 

『一切の記憶を捨てなさい。貴方はまったく新しい人間――代行者として、“地球(テラ)”の上に生まれ落ちるのです』

 

 

 ――何かが、脳裏を過ったような気がした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

『熱血とは妄信にあらず!』

 

『熱血とは己を奮い立たせる心ッ! 今一度思い出すべきは己自身の心!』

 

『俺たち1人1人が胸に抱き、心を焦がした“キミだけの英雄(ヒーロー)”だ!』

 

 

 いつかどこかで見たような気がする/全く身に覚えのない光景が脳裏を駆け抜けたとき、アンドレイは思い出した。何を思い、誰の背中を見て、どんな理想を抱いて軍人を志したのかを。

 

 真っ先に思い浮かんだのは父、そうして次に思い浮かんだのは母の姿だった。2人は人類革命連合軍に所属する軍人で、『軍人の仕事は市民の安全を守ること』だと常日頃から語って聞かせてくれたのだ。

 職業柄、セルゲイもホリーも多忙でなかなか一緒に過ごせなかった。それに不平不満がなかったワケではない。だけど、人類革命軍絡みのニュースを見る度に、アンドレイは誇らしい気持ちになった。

 人類革命連合軍が活躍していると言うことは、両親が活躍しているのと同義。2人は市民を守るために頑張っているのだ。実際、両親は何度か表彰を受けていたことがある。

 

 

(そんな父と母の姿が、私の憧れだった)

 

 

 大人になる過程で閉じ込めてしまった少年――幼少期のアンドレイと向き合う。少年はじっとこちら――大人になったアンドレイを見返す。

 彼の手に握られていたのは、昔、学校の授業で描いた家族の絵だ。美術的な表現など二の次三の次、思うがままに描かれたそれは、軍服を着た両親と愛機のティエレン。

 

 

(両親の背中を、忘れることは出来なかった)

 

 

 母の殉職を期に、アンドレイは父と疎遠になった。でも、疎遠になったのは父だけではない。父と付き合いのあったことから親交があった軍人たち――特に、ハーキュリーとも疎遠になった。

 

 母は市民の安全を守るために戦った。己の命と引き換えにして。それが正しいことだと信じていたから。父は母を見殺しにする行為だと理解した上で、市民の安全を守ることを優先した。それが正しいことだと信じていたから。

 2人は軍人として正しい判断を下し、それをやってのけた。――そんなこと、色々な人から何度も説明を受けたから理解している。当時は納得できなかったことも、今では――今こうして軍人になったからこそ、納得できるようになった。

 だけど、アンドレイはどうしても父を許せなかった。軍人としても父親としても、彼は母を助けに行かなかった一件に関する説明も弁解も放棄したから。父親としても軍人としても、アンドレイに対する責務を放棄して離れてしまったから。

 

 裏切られた、と、思ったのだ。

 他でもない、アンドレイが憧れた英雄(ヒーロー)に。

 

 

(裏切られたのが悲しくて、向き合う価値がないと切り捨てられたのが悔しくて。……それでも、あの日憧れた英雄(ヒーロー)を、存在しないものとして扱うことは出来なかったんだ)

 

 

 セルゲイに『最低な父親』というレッテルを張り付けたアンドレイは、以降、彼に向き合うことを止めた。

 アンドレイはそれを“先に仕掛けてきたのは父親である”と定義したけれど、“どちらが先か”なんて重要ではなかった。

 アンドレイがセルゲイとの対話を諦め、その上で、セルゲイにアンドレイとの対話を諦めさせてしまったことが問題だった。

 

 

「見ないふりをしていたのも、怠慢を正当化していたのも、()の方だったんだ」

 

 

 コックピットに持ち込んでいたチャームを見つめ、アンドレイは自嘲した。千代紙の折り鶴をレジンで固め、組紐を結んだ手作りのお守り――その製作者、絹江・クロスロードの微笑みが脳裏を過る。

 彼女と出会い、“真実を追い求める”という姿勢を見つめてきたからこそ、アンドレイはこうして新たな気付きを得た。

 

 

『恋はいいぞ! 文字通り、世界が一変するんだ! 何だってできるような気がしてくるし、何だって出来ると信じられるんだからな!』

 

『大佐に会う前の俺は、一度に何人もの女と股掛けしても罪悪感を抱かなかったクソ野郎だった。何人もの女を泣かせてきたし、それ系のトラブルを持ち込んだことだってある』

 

『だけど、大佐にぶちのめされたとき思ったんだ。『なんていい女なんだ』って!!』

 

 

 ここ最近アンドレイにウザ絡みしてきた同僚――コーラサワーの言葉通りだ。彼女に懸想したことがきっかけで、彼女の在り方や姿勢に感化され、己の過ちを顧みようと思ったのだから。

 

 アンドレイ/ジンクスは周囲を見渡す。アンドレイが嘗て憧れた英雄(ヒーロー)――両親と同じ志を持つ軍人だったら、きっと、軌道エレベーターを占拠した首謀者を見逃しはしないだろう。意地でも探し出して、見つけ出して、生きたまま確保して連れて行く。法の裁きを受けさせるために。

 だけど、決して首謀者を一方的に辱めるような真似はしない。大人しく投降して来たのならば、彼らの主義主張にしっかりと耳を傾け、1人の人間として向き合うはずだ。お互いが納得するまで言葉を交わし続けるだろう。無辜の市民たちが、明日、彼らと同じ轍を踏むことのないように。悲劇を()()()()()()()()ために。

 

 

(今のアロウズは、きっと、今回の首謀者を逃がしはしない。十中八九、どさくさに紛れて殺害(しょぶん)しようとするだろう。――そんなこと、させるわけにはいかない!)

 

 

 故に、アロウズに所属する僚機よりも先に、ハーキュリーを始めとした犯人一派を確保しなくてはならない。事態の解決を宣伝しつつ、都合の悪いことを闇に葬り去る様な愚行を断ち切らなければ。

 探して、探して、探して――ようやく見えた。パング・ハーキュリー大佐がアフリカタワーを占拠する直前、行方不明になったジンクス。連邦軍に所属していたときから登場していた愛機。

 その隣には、旧人革連のMSであるティエレンが付き添っている。搭乗者は――セルゲイ・スミルノフ。アンドレイとはずっと疎遠になっていた父その人であった。

 

 

(なぜ、父が首謀者であるハーキュリー大佐と……!?)

 

 

 アンドレイの脳裏に浮かんだ可能性は2つ。1つはセルゲイがハーキュリーの共犯者、もう1つは何らかの密命を受けたセルゲイがハーキュリーに接触していたという可能性だ。

 傍目から見れば、どちらの可能性が正しいかは分からない。もしかしたら、両名が並んでいたのはアンドレイが予測したものとは違う理由であることも在り得る。

 

 アロウズの権限であれば、2人の言い分を無視して両名を討ち果たしても問題ないだろう。――否、アロウズの方針から考えると、そうすることは推奨されているだろうし、きっと組織全体が揉み消しを図るはずだ。何せ、ハーキュリーがやろうとしたことはアロウズの恥部を晒すことと同義なので。

 

 嘗てのアンドレイだったら、多分、そうしたのだと思う。逆賊とその共犯者を討ち果たすことが軍人の務めだと信じ、彼らに襲い掛かったのだと思う。

 だけど、それを踏み止まる。脳裏によぎったのは、懸想する相手。お守りの作り主で、アンドレイの武運長久を祈ってくれた女性(ひと)の笑顔と、彼女の言葉。

 

 

『世界は不都合なことで溢れています。誰かが“自分にとって都合の悪いことを隠蔽する”ために、沢山の理不尽をばら撒いている。それで発生する利益を受け取ったが故に、甘んじて目を逸らす人の、なんと多いことか』

 

『でも、少尉は私たちの言葉に耳を傾けてくれました。アロウズの軍人であったなら、その権限で私たちを亡き者にすることだって可能だったはず』

 

『少尉と出会えて、本当に良かった。貴方がいてくれて、本当に心強いと思ったんです。『貴方がいてくれるなら大丈夫』だって信じられたんです。だから――』

 

 

 絹江はアンドレイを信じてくれている。“軍人としても、人間としても、彼女の信頼に応えられる自分でありたい”――その想いが、アンドレイを突き動かす。

 

 

『お父さんとお母さんは、この国で生きる人たちを守るために戦っているの』

 

『市民を守るのが軍人のお仕事なのよ。勿論、この街で生きてる人たちやアンドレイだって含まれているわ』

 

 

 いつか母が聞かせてくれた話が脳裏を過る。あの日憧れた英雄(ヒーロー)と、英雄(ヒーロー)を尊敬していた自分の心に従った。

 あの日憧れた英雄(ヒーロー)だったら――アンドレイが憧れた父/軍人たるセルゲイ・スミルノフなら、きっと何か理由があるはずだから。

 だからアンドレイは、彼らに投降を呼び掛けようと近づいた。通信回線を開き、此度の首謀者たるハーキュリーの名前を呼ぶ。

 

 

「パング・ハーキュリー大佐」

 

 

 「貴方のクーデターは失敗した。大人しく投降し、市民を解放するんだ」――そう続けようとしたはずの言葉は紡がれない。

 アンドレイの口から飛び出した言葉は、アンドレイ自身が一切意図しないものだった。

 

 

「――連邦軍人の恥晒し。軍人の風上にも置けない、卑劣なテロリストめ」

<え>

 

 

 自分が何を言ったのか――アンドレイは一瞬、理解が遅れた。一歩遅れて、大量の情報が叩き込まれる。

 

 

「――これが、身勝手なやり方で、市民を危機に晒した……愚か者の末路か……」

 

 

 アンドレイのジンクスは、いつの間にかハーキュリーのジンクスとの距離を詰めていた。胸部のコックピットにはジンクスの武装であるビームサーベルが突き刺さっている。状況を理解できずにいたアンドレイであったが、次の瞬間に響いた通信によって混乱の渦に叩き込まれた。

 ハーキュリーは、『アンドレイがハーキュリーをテロの首謀者とみなし、アロウズの正義に則って殺害した』と思っている。アンドレイがこちらに近づいてきたのは()()()()()と信じていた。彼は諦めたように笑う。手が届くはずなのに、脱出装置を起動するようなそぶりは見せなかった。

 愕然とするアンドレイの心境は完全に無視された。アンドレイの手は操縦桿を勝手に動かし、ハーキュリーのジンクスを容赦なく蹴飛ばす。蹴り飛ばされたジンクスは落下するも、地面に叩きつけられるより先に爆発四散してしまった。

 

 

「ハーキュリー!」

 

<ハーキュリー大佐ァァ!!>

 

 

 セルゲイの絶叫が響き渡る。叫びたかったのはアンドレイだって同じだった。なのに、声が出てこない。

 

 

<違う。違う違う違う! 私は、こんなつもりじゃ――>

 

「アンドレイ、お前……!」

 

<違うんだ、父さん! ()は、()は、あの日憧れた貴方の様に――>

 

 

 通信越しから、セルゲイの驚愕の声が響く。アンドレイの暴挙を咎めるようなそれに、必死になって弁解を試みた。

 だけれど、アンドレイが言いたかった言葉は一言どころか一音も音にならなかった。代わりに紡がれたのは――

 

 

「――貴方も貴方だ。テロリストに与した裏切り者」

<あ>

 

 

 先程の焼き直しだ。唯一の変化は、アンドレイ/ジンクスのビームサーベルが貫いた相手がセルゲイ/ティエレンのコックピットだっただけ。

 

 あの日憧れたアンドレイの英雄(ヒーロー)を、他ならぬアンドレイが傷つけた。あの日の理想を、己の手で傷つけた。

 軍人としてのアンドレイは、どこか他人事のような調子で相手の機体を分析する。そうして、一瞬で答えを出した。

 もうだめだ。助からない。もう無理だ。どうしようもない。――アンドレイに出来ることは、何1つなかった。

 

 

<あ、あああ……ッ!? 嘘だ。なんで、どうして……!?>

 

「軍紀に従って母さんを見殺しにしたくせに、反乱分子に与するとは。今の貴様は軍人などではない。――母さんの仇だ」

<違う! ()は、()は――>

 

「……アンドレイ、……すまなかった」

 

<――!>

 

「心を閉ざしたお前に……、どう接すればいいか、努力を怠っていた……」

 

 

 通信越しから響くのは、死に体の父の声。“冷徹な言葉をぶつけ、挙句の果てには命を奪おうとしている息子”に向けるには、あまりにも優しすぎる。けれどそれ以上に――彼の言葉の隅々からは、静かな諦観と悲しみだけがあった。

 

 

<謝るべきは()なんだ。勝手に裏切られたと思って、勝手に反抗して、勝手に恨んで、貴方に向かい合おうとしなかった! どれ程都合が悪くとも、逃げずに向かい合うべきだったのに……!>

 

「……ッ、……離れるんだ」

 

<え?>

 

 

 アンドレイ/ジンクスに、ほんのわずかな衝撃が走る。一歩遅れて、突き飛ばされたのだと気づいた。セルゲイ/ティエレンも先程のハーキュリー/ティエレン同様、ゆっくりと落下していく。

 父もまた、『アンドレイがセルゲイをテロの共犯とみなし、アロウズの正義に則って殺害した』と思っている。アンドレイがこちらに近づいてきたのは()()()()()と信じていた。

 

 

<ま、待って。待ってくれ父さん! 話、話を――!!>

 

 

 程なくして、父の機体が爆発する。彼もまた、ハーキュリー同様、()()()()()()()()()()()()()()()。伝えたい言葉は音にならず、伝えたかった人の命は爆炎に飲まれて吹き消された。

 手を伸ばすことも、弁明することも、助けに行くことも、最早何も叶わない。意思の有無など関係なく、残ったのは“アンドレイがセルゲイとハーキュリーを討った”という事実のみ。

 茫然と眺めることしかできなかったアンドレイの耳に、聞き覚えのある女性の声が木霊する。通信は一切開いていないのに、その声の主をソーマ・ピーリス中尉だと思ったのは何故だろう。

 

 ゆっくり顔を上げた先には、白とオレンジを基調としたガンダムとその支援機。――そこから、アンドレイの記憶は途切れている。

 

 

 

***

 

 

 

 次に意識が戻った時、アンドレイは表彰式を受けている真っ最中だった。

 連邦軍を裏切り、アフリカタワーを占拠して市民を裏切ったテロリストを討った英雄として。

 

 鳴りやまない喝采。授与された勲章と地位。誰もがみんな、アンドレイの行動を褒め称えている。それを否定しようとして口を開いても、アンドレイは一切の言葉を紡げない。

 

 お偉いさんの向こう側で、見覚えのある人影がこちらを見返している。すべてを諦めたような眼差しを向けている。アンドレイが殺してしまった、ハーキュリーとセルゲイ。

 弁明しようと口を開く。けれど、伝えたいことは何1つすら言葉にならない。手を伸ばすことも出来なかった。ただ、手渡された勲章と出世の話に頷くだけのナニカに成り果てる。

 そうして、2人の姿は消えてしまった。――最後まで、『アンドレイはアロウズの正義に則って2人を殺した』と思い込み、信じ抜いたまま。

 

 

(行かないでくれ! 話を聞いてくれ! 大佐、父さん――!!)

 

 

 ――最早、消えてしまった背中に縋りつくことも、弁明することも叶わない。

 

 

 

 クーゴ・ハガネ、只今、明日を探して迷走中。

 

 




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