「という訳でヒナ委員長にお休みをあげたいんです」
「どういう訳だよ……」
ある日の昼頃、事務所にアコがやって来て開口一番言ってきた。
いや、わかるぞ。働き詰めのヒナの為を思って言っているんだろう。
とはいえ、俺はただのなんでも屋。なんでもやるがあの超多忙なヒナに休みをあげるのは難しいんじゃないか?
「まあ、言いたいことはわかった。だけど、何か方法は思いついているんだろうな?」
「まずラックさんを風紀委員長代理とします」
ふんふん……ん?
「そして委員長にお休みを取ってもらいます」
「……終わり?」
「はい?終わりですよ。わかりやすいですよね?」
ああうん、とってもわかりやすいな。
……いやいやいや、俺部外者だし、無理だろ。どうやって代理に置くんだよ。
「なんとかします」
「そっかぁ……」
なんとかするんだ……。
「いや、でも俺書類とか出来ねぇよ?」
「サヤちゃんにお願いします。正直ラックさんには戦闘力しか期待していませんから」
「……俺とアコは体だけの関係だったのか!?」
「は?」
「すんません」
「早速ですが明日一日お願いしたいのですが、予定はありませんね?」
「ないです」
「それでは明日の七時に風紀委員会まで来てください。ではお願いしますね」
「はい」
パタン、と事務所の扉が閉められた。
「……横乳大魔王」
「何か、言いましたか?」
閉まったはずの扉が開いてアコが顔を出す。
あら〜、笑顔がキュート!もうこのまま写真を撮っちゃいたいくらい、いや食べちゃいたいくらい!
「あ、アコちゃんサイコー!」
「調子が良いんですから……ほら、行きますよ」
「え?」
アコに手を引かれて立ち上がる。
「ちょっ、おい、どこに……?」
「まだお昼ご飯は食べてませんね?」
「え、ああ、これからだけど」
「なら丁度良いですね」
そのまま連れられて、近くの広場のベンチに二人で並んで座ると荷物から弁当箱を取り出して渡された。
「一応。ええ、まあ急に一日がかりの仕事をお願いしましたから、その代わりと言いますか……」
「ほー……」
「……なんですか。らしくないって事くらいわかってますよ」
「いや、お前って良い女だよなぁ」
「な、なんですか急に!?せ、セクハラですよ!?」
「まあまあ、落ち着けよ。で、これは貰ってもいいんだよな?」
「もう……はい、食べちゃってください」
「んじゃ、いただきます」
弁当の中身は定番と言うべきか、俺に合わせてか、卵焼きや唐揚げ、ブロッコリー等、いかにも『弁当』というべき中身だった。
丁度腹が減っていた俺は急ぐように食べだした。
「給食部のフウカさんと比べるとあんまり美味しくはないでしょうがってそんなに掻き込まなくても……」
「ん、んー!?」
「はぁ……はい、どうぞ。お茶です」
飯を喉に詰まらせ、アコのくれたお茶をひったくるように受け取り一気に飲む。
「はー……助かった」
「誰も取りませんから、ゆっくり食べてください」
「いやー、悪い悪い。すげぇ美味かったもんでな」
「いつもフウカさんの作ってくれたものを食べてるじゃないですか」
「いやいや、そりゃあ『味』ってもんだけに焦点を当てりゃあフウカは別格なもんだが、アコの作った料理はこう、アコの味ってのか?人それぞれの違いがあって俺としては好きだぞ」
「なんですか、結局味で言えばフウカさんの方が良いんじゃないですか」
そういうアコを見ると横を向いて弁当を食べていた。
なんだなんだ、照れてんのか?
愛いやつめ、と頭を撫でてやると手を握り潰されて関節が変な方向を向いていた。
やれやれ、俺じゃなかったら大変な事にやっていたぞ。
静かに笑って関節を外して元に戻すとアコが数センチ離れた。なぜ???
「……もう朝か」
ヒナがスマホのアラームが鳴る前に目を覚ました。
今日も憂鬱だ。めんどくさい。やめたい。そんな気持ちを押さえ込んで準備をしていると、部屋のチャイムが鳴らされた。
「誰……?」
もうすぐ家を出なければいけないのに……そう思いつつも律儀に部屋の扉を開けた。
「おはよぉ、ヒナ〜」
「お、おはようございます」
「……うん、おはよう」
扉の前にはシャーレの先生とフウカがいた。
今日は風紀委員会の仕事がある。というかそもそも自分は人を家に招く事なんて無いのにどうしたんだろうと思っているとヒナよりも眠そうな先生が口を開いた。
「今日はヒナちゃんはお休みで〜す」
ほらほら入った入ったとヒナを押しながら先生が入ってくる。
「お、お休みってどういう事?今日も風紀委員会の仕事がたくさん……」
「ぜ〜んぶ他のみんながやってくれるよ。だから今日はお休み。いい?」
「で、でも、美食研究会や温泉開発部が暴れたら他の子じゃ……」
「そういう戦闘面はラックさんにお願いしたから大丈夫だよ」
「ラックさんに?一体誰が勝手に……」
「まあまあ、みんなヒナの事を想ってやった事なんだから許してあげてほしいな。それよりももう朝ごはんは食べた?」
「……ちょっとだけ」
「育ち盛りなんだからそんなんじゃ足らないでしょ?フウカ!」
「はい!」
テキパキとフウカが持ってきたバッグから食材を取り出して料理を始める。
十数分してテーブルに並べられた朝食を見てヒナのお腹が鳴る。
「あっ……!」
「実は私も食べてないんだよねぇ。一緒に食べない?」
「う、うぅ……」
チラチラと朝食に何度も目をやる。しかし、自分は風紀委員長なのだから勝手に休むのは如何なものかとも思う。
「そんなヒナにこんな動画があるよ」
そう言って先生が動画を見せてきた。
『よぉ、ヒナ。おはよう。今は寝起きか?それとも朝飯食ってる頃か?まあどっちでも良いや。今日は風紀委員長は休みだ。その代わりこの俺が一日風紀委員長として獅子奮迅の活躍をしてやっから安心しな!ただそれでも来るってんなら……恥ずかしい思いしてもらっちまおうかなぁ!ガハハハハハハ──』
『なんて事言うんですかァ!』
『はぺっ……!?』
高笑いするラックの後ろからアコが腰を腕を回して体を思いっきり後ろに反る──ジャーマンスープレックスである。
そこで動画が終わる。
「「「……」」」
少しの沈黙が部屋を包む。
「……はぁ、わかった。今日はお言葉に甘えて休ませてもらうわ」
「やったね!」
「はい!」
先生がフウカと手を合わせて喜ぶ。
「もう、大袈裟よ。それよりもご飯を食べましょう。冷めたら勿体ないわ」
「うん、じゃあいただきます!」
「だらしないですよ。ネクタイくらいしっかりしてください」
「んぐっ、代理するっつったけどなんだってこんなキッチリ着こなさねぇといけねぇんだよ……」
鏡に映る自分を見る。
キッチリとした黒いスーツに紫のネクタイ。上で結んでいた髪も解かれてしっかりと櫛で整えられた。靴や靴下に至っても変えられてしまった。
一応装備だからとサングラスを頭に乗せているが、余計にチンピラ感が増している気がする。
振り返るとアコがうんうんと頷いていた。
「及第点ですね」
「これでかよ」
馴染んでない革靴とか歩きにくくてしゃーねぇ。
アコの後ろを着いて部屋から出ようとするとつまづいてしまった。
「おっと」
「きゃっ……!?ちょ、ちょっと何を──」
丁度目の前にあったアコの肩を掴むとそのまま壁に押し付けてしまい、図らずも壁ドンしたみたいになってしまった。
「おー、悪い悪い。やっぱ歩きにくくてよ。……アコ?」
「ハッ!?い、いえ、なんでもありません!」
「おやおや〜?俺は見逃してねぇぞ。さては、カッコイイ俺に見蕩れてやがったな?はははっ!しゃーねぇなぁ。サービスでもっと見てていいぞ!」
「こ、この……!」
アコが拳を突き出す瞬間に扉がノックされた。
「おー、いいぞ」
許可を出すと扉が開きチナツが顔を覗かせた。
「行政官、そろそろ時間です。……何かありました?」
「……なんでもありませんよ」
「おいこらやめろ。折角着付けてくれたのに崩れるだろうが。」
アコが誤魔化すように笑うが肘で横っ腹をどついてくる。
流石にやめろと注意すると、ジロリと俺を見た後にため息を吐いた。
「それでは行きますよ。代理」
「ああ」
行くと言っても風紀委員会の部屋だ。既に他の生徒達には俺が代理だと言う事を周知させているらしい。
部屋に入るなり、アコにサヤを渡すとそのまま流れるようにソファに座る。するとチナツがコーヒーと軽くつまめる菓子を用意してくれた。美味い。
このまま何も無く菓子食ってるだけならいくらでも風紀委員長代理やってもいいな。
もそもそとスティックケーキを食べているとチナツが通信で誰かと話始めた。
「ラックさん。不良達が暴れているそうです。位置情報は既にサヤさんに伝えているので急行を」
「おー」
サングラスを掛けてサヤの指定しているポイントにアーツを飛ばして不良を補足すると地面に叩きつける。コーヒーうま。
「終わったぞー」
「え?……確かに、急に不良達が倒れたと今連絡が来ました」
これなら楽勝だな。
「ご馳走様でした」
「美味しかったぁ」
ヒナは純和風な朝食を食べて、既に大満足だった。
「お粗末さまでした。では、私は洗い物をしておきますね」
「私もやるわ。してもらってばかりは悪いから」
「だーめ、ヒナはこっちで先生とゆっくりしようね?」
「今日は風紀委員長にゆっくりと休日を過ごしてもらう日ですから、休んでいてください」
「でも……」
「でもじゃないよ〜」
「せ、先生、引っ張らないで。わかったから」
大人しく先生についていき、座って息を吐く。
風紀委員会は大丈夫だろうかと不安に思いながらもみんなを信頼する事にした。
「ヒナ、したい事はある?」
「したい事?……ごめんなさい、思い付かないわ」
「そっかぁ。じゃあ一緒にアニメ見て、後で三人でショッピングに行こっか」
「わかったわ。でも私アニメの録画とかはしてなくて……」
「ふっふっふ、こんな事もあろうかと先生用意してましたー!」
ささっとシッテムの箱とテレビを繋ぐ。
「サブスクに入ってるから結構見れるよ。ヒナは見てみたいものってある?」
「えっと……わからないから先生に選んでもらってもいいかしら?」
「いいよいいよ。じゃあ私のおすすめにしよっか」
そう言って先生が選んだのはどこかで見たことがあるキャンプアニメだった。
オープニングが終わる頃には洗い物を終えたフウカも合流して一緒に見始めた。
楽勝──なんて思っていた時期が俺にもあった。
「ラックさん!」
朝はまだマシだったんだ。
「次はこちらに!」
俺のアーツが使えるという事がわかると次々と仕事が舞い込んできて──
「今度はこのポイントに!」
みるみるうちに時間は減っていき、残り五秒になっていた。
「ラックさん!!」
「バイクで行ってくるぅ……」
サヤから刀だけを抜いてバイクを取りに行く。
ちゃんとサングラスでナビゲートされているから迷うことはない。
「ちっくしょー!多過ぎなんだよバカヤロー!!」
「な、なんだあの大人!?」
「なんで泣いてるんだ!?」
「確か一日風紀委員長代理とか風紀委員会が言ってなかったか?」
飛んでくる弾を斬り払い。進み続ける。
「や、やばいぞ!?なんで弾を刀で斬れるんだ!?」
「俺が良い男だからだ!」
「何言ってるんだ!?!?」
そんな間にも不良達を倒していく。
数が多く時間がかかってしまったが、現地の風紀委員の力も借りて無事に制圧する事ができた。
「た、ただいまぁ……」
「あら、おかえりなさい」
すると、サヤのお陰でいつもよりも仕事がスムーズに進んでいるらしいアコが優雅にコーヒーを飲んでいた。
「こんの……」
「お疲れ様です。こちらをどうぞ」
ぷるぷると震えていると横からチナツがスポーツドリンクを出してくれる。
「ありがとなぁ。チナツは優しい子だねぇ。どこぞの横乳と違って」
「ふふ、それは誰の事を言っているんですか?」
殺気!?
いつの間にか後ろにいたアコに首根っこを掴まれて引き摺られる。
そのままソファに連行されると頭を膝に乗せられた。……乗せられた?膝枕?
「私なりの労いです。男性はこういうのが好きなんですよね?」
「おいおい、俺を誰だと思ってやがる。いいか?俺くらいになると膝枕の百や二百、いや五百はしてもらったことがあるね」
「……ではなぜ行政官の腿にベッタリとくっついているのですか?」
「チナツ、それはな。それだけ膝枕されていたとしても良いものは良い!」
あぁ〜〜ハリがあってモッチモチのむっちむちがたまんねぇ〜。
しかもアコのスカートが股下ギリギリくらいだからこれ軽く捲れば中見えるんじゃねぇの?……ちょっとだけ。
寝返りを打ち、腿に顔を押し付けて目を皿のようにしてスカートを見る。
しかしもう少しの所で手で遮られた。
「何をしているんですか?」
恐る恐る上を向くと……なんと豊満なおっぱいで天井が見えなかった!
「これはこれでまた……」
「ラックさん、美食研究会がまた店を爆破したという連絡が来ました。至急現地に急行してください」
「まあ待て、俺はこの絶景をまだもう少しだな……」
「ふふ、わかっていますね」
褒めたからかアコも少し機嫌が直ったようだ。……いや、これで機嫌が直るってマジでチョロいぞ。
するとチナツが耳元にやってきた。
「すぐに向かってくれるなら、行政官よりももっと凄いことをしますよ」
「こんな事している場合じゃねぇ!爆破なんて許せねぇよなぁ!?」
「……後でお仕置ですからね」
後ろから聞こえてきた声を無視して窓から飛び降りた。
「やっぱりヒナは清楚系がよく似合うね〜」
「そうですね。よくお似合いだと思いますよ」
「そうかしら。先生やフウカの方が似合う気がするのだけれど……」
「そんな事ないよ。きっとラックさんだって可愛いって言ってくれるって!ね?フウカ」
「はい!絶対言ってくれると思いますよ!……えぇ、可愛いって言ってくれるでしょうね」
そう断言してからフウカがどこか不機嫌そうに頬を膨らませた。
それを見逃す先生ではなく。
「フウカも選ぼっか?」
「え?」
「おめかししてラックさんを驚かせちゃおうよ」
「で、でも……」
「ね?」
少し悩んで頷くと早速服を選び始めた。
それを楽しそうに眺めているとヒナに手を引かれた。
「ん?どうかした?」
「先生も何か可愛いの選ばないの?」
「え、いやいや、私には似合わないから」
「そんな事ないわ。ね、フウカ」
「そうですよ。似合いますから一緒に着てラックさんを驚かせませんか?」
「驚かせる……うん、わかった。選ぼっか!」
「この店もいま一つでしたわね」
「次はどこに行きましょうか?」
「まだ食べられるよ!」
「うぅ、パッと見は美味しそうだったのに……」
あれが美食研究会か。あの帽子かぶった銀髪がリーダーのハルナだな?
「おーい、そこの悪ガキ共」
「?あら、どちら様でしょうか?」
「確か……風紀委員長代理の空崎 ラックさんでしたか?」
「空崎……ヒナさんのご家族ですか」
「風紀委員長代理!?」
「ちょ、ちょっとどうするのよ!?」
美食研究会が臨戦態勢に入る。
「大人しくお縄についてくれたら、飯くらいは奢ってやるぞ」
「それには及びませんわ。自らの手で美食を掴み取る事が大切ですもの」
「食への姿勢は良いんだがなぁ……」
「ヒナじゃないんだったら……!」
赤髪の少女、ジュンコが銃を構える。
「ふむ……なあ、前にトリニティで配られたアップルパイを知ってるか?」
そういうとハルナがピクリと反応した。
「まさか……どこからともなく現れてトリニティ生しか食べる事のできなかったあのアップルパイですか!?」
「え、なに、そんな噂になってんの?」
「あの……!?」
「えっ!?あれが!?」
「私も食べたかった〜!」
「食べ物専門の情報網でもあるのか……?」
一応アビドスや一部のゲヘナ生にも配ったがそっちは知らないらしい。
「もし、あなたがアップルパイの出処を知っているのであれば、このまま見過ごす訳にはいかなくなりましたわ」
「まあ待て。お前達は知りたくないか?」
銃を構えようとするハルナに向けて手を前に出して制す。
「何をよ?売ってる所?」
「……まさかっ!?」
アカリが反応する。
「そのまさかだ。そのアップルパイを誰が作ったか、知りたくはないか?」
「「「「!!!!」」」」
「ここで大人しく捕まるんだったら教えてやっても良い。なんなら食わせてやる。ただし、それが嫌だってんならお前らは俺と戦って捕まるし、アップルパイはずっと食えない。どっちがいい?」
「……少し、時間を頂いても?」
「ああ」
四人が集まってあーだこーだと話し合いを始める。
少し離れた所でタバコを吸っているとハルナがやってきた。
「捕まるのは業腹ですが背に腹はかえられません。そちらの条件を呑みましょう」
「よぉし!よく決断したな!」
ハルナの頭をぐりぐりと撫でる。
これで余計な手間を取らずにすんだ。
「きゃっ!?な、何を……!?」
「出来るだけ早く出られるように伝えとくからよ。我慢してくれよな?」
「コホン……まあ、すぐに出られるのなら……」
「んじゃ、行くぞー」
「え!?手錠とか掛けないの!?銃の没収は!?」
「そんな重いもん持ったら俺が潰れちまうだろ。歩いてついてこい」
「……変な人ですわね」
「痛くないし、すぐに出られるらしいし、美味しいもの食べられるって運が良かったね!」
「おー、いい事言うじゃねぇか。そうそう、お前らが良い子でいてくれると良い事が起こるんだぞ」
「うふふ、楽しみですわ」
……何故だろう。アップルパイ一枚じゃ足りない気がしてきた。
「このお店のケーキが可愛いんだって!」
「あっ、知ってます。動物の形のケーキがあるんですよね?」
「それは、ちょっと食べにくいかも」
ヒナ達は昼食を食べにカフェに来ていた。
それぞれがパスタやサンドイッチを食べて、デザートを頼もうとした。
「あ、この白い猫のケーキ、ラックさんみたい」
「わかります。可愛いですよね」
その言葉を聞いて、先生の思考は空の彼方へと飛んでいった。
可愛い……?むしろ狡猾な狐では……?
「でもそう思うとこれは食べられないかも……」
「でも中に苺のソースが入っているみたいですよ?」
「苺……」
ヒナが頭を悩ませる。
可愛いし、美味しそうだから食べてみたいけど、ちょっと食べるには可哀想かも……
「私はこれにしようかな」
先生はクマの顔をしたチョコレートケーキにした。
「ヒナさんがそれにするなら別のにしようかな……」
「う……じゃあ、これにしてみるわ」
それぞれが1口貰うことを前提に考えると同じのを頼むのは勿体ないという考えに至った。
結局フウカは頬袋いっぱいに食べ物を入れたハムスターのケーキにした。
少ししてケーキが届き、各々がフォークを入れる。
ヒナも躊躇いがちにフォークを入れると、中からドロリと苺のソースが流れ出す。それは白いケーキによく映え、見方によれば血に見えるかもしれない。
思わずヒナの手が止まり『このケーキを考えたバカはどこのどいつだ!』と言いたくなる衝動に駆られるが寸前で堪える。
「うわー、思ったよりもグロテスクな見た目だね」
「なんというか……ショッキングですね」
意を決して1口食べると、甘い中に苺の酸味が絶妙にマッチしていてとても美味しかった。
「……味は美味しいのが余計にムカつく」
「はい!アップルパイ出来上がりィ!次焼くぞ次!」
「ん〜、美味ですわ」
「まだまだ足りませんよ〜」
「もっとちょうだい!」
「今まで食べたアップルパイで一番かも……」
「くそぅ!ちったぁ味わって食いやがれ!」
アカリとイズミめ、どれだけ食べるつもりだチクショー!!見ろ!ハルナとジュンコはお行儀よく食べてるぞ!いや、アカリも行儀はいいけども!!
内心で文句は言うが美味しいと言って食べてくれるのは嬉しい。
「ラックさん、今度は温泉開発部が道路に穴を開けています!」
「お、温泉開発部ゥ?」
まだ作ってる最中だぞ!?
「……チナツ!後は頼んだ!」
「え!?」
「レシピはサヤに聞け!んじゃ、いってきまーす!」
バイクに飛び乗り発進する。
飛ばせ飛ばせ!とっととぶっ飛ばすぞ!
「ハーッハッハッハッ!ヒナがいない今がチャンスだ!掘り続けるぞ!」
「よーし!削っちゃうよー!」
「クゥソォガァキィ!!!」
「へ?」
バイクを走らせて勢いそのままに指示を出してたカスミとかいうチビッ子を大剣でぶん殴って吹き飛ばす。
「全員ムショ行きだ!」
「部長が吹き飛ばされちゃった!みんな、応戦するよ!」
「こっちはなぁ……アップルパイ作ってんだよ!!!」
バイクから降りて抜刀する。
「撃て撃て!」
「んなもん効くかよ!」
全て刀で弾く。
「う、うぅーん……あ、あれは確か風紀委員長代理か。むっ、ヘイローが無い?」
カスミが起き上がってこちらを見る。
……なんか、観察されてるな。
「見てんじゃねぇぞ!」
「ま、待った!話し合いをしよう!みんな、一旦止まるんだ!」
その一言で銃弾が止まる。
ほー、大したカリスマだ。
「話し合いィ?まあいい。言ってみろ」
「まずは自己紹介から入ろう。私は温泉開発部の部長、鬼怒川 カスミだ」
「風紀委員長代理、空崎 ラック」
「ひぇっ……そ、空崎……こほん、君は温泉は好きかな?」
「好きか嫌いかなら好きだぞ。温泉に入りながら飲む酒は絶品だからな。良い女がいりゃあ尚更だ」
「ふむふむ、酒に女。なるほどなるほど……それなら話は早い!ここで見逃してくれるのなら全てこちらが用意しようじゃ──」
顔のすぐ横に銃弾を撃ち込む。
「ぴっ……」
「よ〜〜くわかった。お前、厄介だな。今も頭回しているな?」
「ま、待ちたまえよ!」
俺を見ているようで全体を俯瞰して見ているし、俺の装備から何をしてくるかを予測しているな?しかも現状の戦力で勝てるかってのも考えてやがる。
「待たない」
「くっ、仕方ない!」
カスミが手に持っている何かを押すと、足元が爆発した。
地面に爆弾埋めてやがったな!?いつだ!?
「総員囲って捕らえろ!相手はヘイローの無い大人だ!力で押さえ込めば動けない!」
「一番嫌な事を……!」
俺のハンドガンの一発じゃ頭に当てても気絶させられない。刀で斬るにしても同時に攻撃出来る人数には限度がある。アーツの時間が無い今じゃスナイパーも使えない。
「だったら!」
懐から閃光弾を取り出して真上に投げる。
「目を閉じろ!」
チッ、反応が良い!
納刀して目を閉じて、そのままカスミの方へと走る。
「恐らく私の方に来る!私の近くにいる者は構えるんだ!」
一瞬明るくなり、すぐに目を開く。既にカスミの近くには他の部員が何人か集まっていた。
「指揮官を狙うのは定石だ。そいつを読んでいたのは流石だが、その数じゃ無理だ」
居合抜きで全員斬り捨てる。
近くで残っているのはカスミだけだ。
「ひ、ひぇ」
俺を見上げて涙目のカスミの頭を掴みあげる。
「ワ……ァ……!」
遂に泣き出した。
「部長を助けるよ!」
メグが他の部員に呼びかける。
その前にカスミを抱き抱えて首に刀を突きつける。
「うぇっ……ひっく……」
「おーっと、動くなよ!こいつがどうなってもいいのか?」
「ひ、卑怯だよ!」
「卑怯もクソとあるか!もう風紀委員会の子達を呼んだから動くんじゃねぇぞ!てめぇも嘘泣きはそこらへんにしてろ。鬱陶しいぞ!」
「ひぃぃぃぃ!!お、お助けー!!い、命だけは許してくれぇ!!」
「……本当に取られたいのか?」
ヒタリ、と喉に真っ直ぐに刀を突き付けると顔を真っ青にしてぶるぶると震えながら黙り込んだ。
「風紀委員長代理!到着しました!」
「おう、そいつら頼んだぞ。俺はこいつの面倒をみる」
「や、やだー!!あっちがいい!私もあっちがいいー!!この白髪の鬼は怖いからやだー!!」
「じゃあ怖く無けりゃいいんだな?」
納刀して抱き抱えていた腕から少し力を抜き、今度は両腕で抱き締める。
「よしよし、お兄さんと一緒に行こうな〜?」
合間に頭を撫でたりなんかしてやると、ぴしりと固まった。
「や、やだー!!!気持ち悪い!」
「気持ち悪いなんて失礼な。こーんなカッコイイお兄さんが甘やかしてやろうってのに、ん〜」
「ひ、ひぇー!!?」
チークキスをしてやると更に泣き出してしまった。
……ここまで拒否られる事あんまないからちょっと面白いな。
「お〜、カスミちゃんは可愛いねぇ〜」
「だ、誰かァ〜!」
カスミをゲヘナの地下牢へと入れるまで続けてやると、すぐにベッドへと飛び込んで丸まってしまった。
「次またやってると今度はもっと凄い事するからな。いいな?」
「帰れー!!もう来るなー!!」
よし、とっとと帰ろう。チナツはどうなったかな。
キッチンへと戻ると、チナツが床で寝ており、美食研究会、いや、アカリがまだアップルパイを食べていた。
……とりあえずチナツを助けるか。
「ヒナ、今日は楽しめた?」
ショッピングからの帰り道に先生がそう聞くとヒナが笑う。
「楽しかったわ。こんなに楽しい休日は久し振り」
「良かったです。でも、まだ終わってませんよ?」
「?それはどういう……」
「だって、今からヒナの家でパーティだからね!」
うおー、と気合いを入れるように拳を振り上げる。
「パーティ?でも、明日から仕事に復帰しないと……」
「大丈夫大丈夫。ラックさんには事前に明日のお昼まで頑張ってってお願いしてあるから。少しくらい夜更かししても良いんだよ」
「でも、迷惑じゃないかしら……」
「それならハグでもしてあげたらいいんじゃない?すぐに元気出ると思うけど」
「ハグ?」
「あ、フウカも一緒にしてあげたら?」
「私もですか!?……い、いえ、恥ずかしいので遠慮しておきます」
「……それで元気が出るならする」
「うんうん、絶対喜んでくれるよ」
話しながらスーパーへと入り、色々な食材を買い込んで帰った。
「……Zzz」
風紀委員会の業務が終わり、さあ解散かと思われたがラックは夜勤も勤めて明日の昼まで働くという契約をしているため、寝ずの番……いや、風紀委員長の椅子に座って寝ていた。
『ラック様、路地裏で何やらコソコソと準備を進めているヘルメット団を発見しました。どうしますか?』
「ん……ああ、監視を続けてろ。行動を起こすと思ったらすぐにまた知らせろ」
片目を開いてそういうとまた寝た。
それから定期的に来るサヤからの連絡を聞き、時には出動して夜が更けていった。
コンコンとノックの音で意識が戻る。体感としては一時間くらい寝ていたか。
流石にアコ達が来たら起きていようと思っていたが、朝方来たアコ達に通報が入るまでは寝てても良いと言われて仮眠を取っていた。
扉が開くとヒナがいつもの服装で入ってくる。
「おはよう」
「おー、おはよう」
「おはようございます。ヒナ委員長」
「おはようございます」
「おはよう、委員長」
あくびをしてぐぐっと体を伸ばすと体からパキパキと音が鳴る。
「……大丈夫?」
「大丈夫だ。徹夜は久し振りだけど仮眠は取ってたしな」
「昨日はありがとう。お陰でよく休めたわ」
「そりゃ良かった。先生とフウカと出かけたみたいだけど楽しかったか?」
「ええ、とっても」
「それじゃ、俺の依頼はこれで終わりだな。お疲れ〜」
帰ろう帰ろうと思って立ち上がるとヒナに袖を掴まれた。
「ラック、しゃがんで」
「んぇ?ああ、いいぞ」
言われた通り、その場でしゃがむとヒナが首に腕を回して抱き着きてきた。
あ、アコがやばい顔してる。何その顔。こわ。
「……ありがとう」
「お?おお、どういたしまして。……なんかあったのか?」
「先生がこうすればラックが喜ぶって。どう?」
先生め……わかってるじゃあねぇかよ。
「いやー!めっちゃくちゃ嬉しい!可愛い可愛いヒナからご褒美のハグが貰えちゃうなんて俺ってば幸せ者〜!」
「目線で人を殺せたならば……!!」
アコからの醜い呟きをスルーして、ヒナを抱き返して頭を撫でてやる。
あ、やば、マジで収まりが良い。すっぽり腕の中に入るし、いい匂いするし、寝そう。
「……Zzz」
「ラック、寝たの?……動けない」
起きた時には夕方で、ソファに寝かされていた。
ん、イオリがいない。制圧に向かったか?
「あ、おはよう。ソファだったけれど、眠れたかしら?」
「ぐっすりだ」
首を傾けるとバキボキと音が鳴る。
「……大人って大変ね」
「さて、そろそろ俺は帰るぞ」
「あ、待って。もうすぐ来ると思うから」
「来る?何が──」
「お待たせしました!」
部屋の扉が開くとフウカとアコが入ってきた。それと何かいい匂いがする。
「アコ先輩」
「……どうぞ。フウカさん程上手には出来ませんでしたが」
アコが皿をソファ前のテーブルに置く。
やや形は崩れているがこれは……
「……オムライス?」
「お礼ですからね。勘違いしないでください」
「お礼って、金もらう訳だし」
「つべこべ言わずに食べてください!」
「んごっ!?」
乱暴にスプーンで1口掬うと口に突っ込まれる。
うん、うん……美味いな。
「フウカに教えてもらったのか?」
「えぇ、フウカさんのレシピの方が美味しく作れるでしょうから」
「最初は私に作るようにってお願いされてたんですけど、お礼ですからアコ先輩が作った方が良いと思ったんです」
「そうだったのか……」
「やはり私よりもフウカさんが作った方が──」
「そんな事言うなよ。美味いぞ、これ」
「……そうですか?」
「でも、そうだな。我儘を言うなら次はアコのレシピで作って欲しいな」
「ふん、考えておきます」
にしてもどこで俺の好物がオムライスだって知ったんだ?多分、またサヤだろうな。
「ふぅ、ごっそさん。んじゃ、今度こそ帰るわ」
「うん、お疲れ様」
「お疲れ様でした。またお願いしますね」
「お疲れ様です。……ううん、まだアップルパイが頭の中を……」
「さようなら、ラックさん」
どうやら、俺の昨日の仕事はチナツに大きな傷を残してしまったようだった。
同時進行だったからかべらぼうに長くなってしまった。長くすると最後綺麗に締めらんないのがもにょる。
それと前話で書いていたパヴァーヌよりも先に不忍の心が先になります。ぶっちゃけ登場時間くっそ短い予定だから一、二話で終わると思います。
ちなみにパヴァーヌも一話で終わる予定です。
女性先生に決まりましたがどんな人?
-
スーツでキメたポニテ先生。凛々しい
-
ゆるっと女子大生みたいな先生。ポワポワ
-
その他。後で活動報告で枠作るのでそこに