青春をツマミに酒を飲む   作:黒色エンピツ

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十三話:あんた最高だ!

 

 

 

 

コンコン、と事務所の扉がノックされる。

 

「どうぞー」

 

「おはよう、ラックさん」

 

「シロコか、おはよう」

 

誰かと思えばシロコだった。

しかし、その服装は見慣れた制服ではなく、ピッチリとしたスポーツウェアだった。

体の線や起伏がしっかりと見て取れる。ふむ、これもまた良し。

 

「……そんなに見られると流石に恥ずかしい」

 

「ああ、いや、悪い。それで何の用だ?結構遠いのにこんな所まで来て。おっと、その前にお茶でも飲むか?喉乾いただろ」

 

「ん、大丈夫。スポーツドリンクは持ってきたから」

 

「そうか」

 

「ラックさんって体力あるよね?」

 

「ああ、ドンパチやってる訳だしそれなりにな」

 

「一緒に運動しよう?」

 

「運動か……サヤ、今日の予定は?」

 

『特にありません』

 

「うん、ならいいか。それで運動っつっても何するんだ?」

 

「本当はロードバイクが良かったけど、ラックさんは持ってないよね?」

 

「ロードバイク?ああ、あのなんか丸いハンドルの自転車か。持ってないな」

 

「だよね。じゃあ一緒にランニングしよう?」

 

「ランニングかぁ。そうだな。ただ、折角だから目的地を決めておこう。なんかいい所とかないか?」

 

「いい所……食べ物とか?」

 

「へぇ、どこだ?」

 

「柴関ラーメンの屋台」

 

「ほう……!」

 

柴関ラーメンと言えば、以前行こうとして爆破されてたあの店か!屋台で復活したのか!

 

「よし、行こう。どこにあるんだ?」

 

「アビドスだよ」

 

「……うん、まあ、そうか。元々アビドスにあったもんな」

 

『ラック様、ランニングでアビドスまで行くのは現実的ではないかと』

 

「だよなぁ……」

 

「そっか……」

 

サヤの言葉を聞いたシロコの耳が垂れ下がる。

 

『それに長距離走るとなれば武装がハンドガン程度しか携行出来ないので危険です』

 

「せめて刀は持っときたいもんなぁ」

 

ズズーンとシロコに影が差す。

 

「……あー、わかったよ。走りゃいいんだろ!?」

 

シロコの耳が立つ。

 

『ラック様、どうするのですか?』

 

「別に銃だけで戦えねぇ事もねぇからいい。いざとなりゃアーツを使う。サングラス持ってきゃサヤもいるだろ?」

 

そんだけありゃ十分だ。

 

『ハァ、わかりました。もしもの時はサポートします』

 

「頼りにしてるぞ」

 

「ん、じゃあ早速行こう」

 

「その前にランニングシューズ買いに行くぞ。流石に普段の靴でそんな長距離走りたくない」

 

「なら私が選んであげるね」

 

「はいはい。あ、でも買いに行くのはバイクで行くからな。乗るなら後ろに乗れ」

 

「わかった」

 

外に出てバイクに乗るとシロコが後ろに乗り、控えてに肩を掴む。

 

「もっとぐっと抱きつけ。危ないぞ」

 

「でも、汗が……」

 

はは〜ん?汗かいてるから恥ずかしいってか?

結構乙女な所あるじゃねぇか。

 

「んなもんこれから一緒に走るっつってんだから気にしねぇよ。それよかお前が落ちて怪我した時のが怖い」

 

「……ん、わかった」

 

そういうと観念したのか俺の腹に手を回して抱き着く。

少し汗かいていてその影響か服が肌にぴったりと張り付いていて、俺の背中で胸が形を変えた。

内心でうんうんと頷いていると背中から深呼吸の音が聞こえた。

 

「すぅぅぅぅぅぅ……」

 

「シロコ?シロコさん?ねぇ何してんの!?」

 

「ん、吸ってる」

 

「いくら俺でもそんな良い匂いはしねぇと思うぞ」

 

「そんな事ない」

 

「あ、そう……」

 

まあ、放っておいていいか。

気持ちを切り替えてバイクを走らせた。

 

 

 

 

「ほー、色々あるな」

 

今まで軍用だったり戦闘用の靴ばかりだったからこういうスポーツ用の靴ってのは新鮮だ。

一つ適当に靴を手に取ってみる。

 

「かるっ!?」

 

「でしょ。走るなら軽い方がいいから」

 

「なるほど……試しに履いてみるか。すんませーん!」

 

店員を呼んで俺のサイズの靴を出してもらって履く。

 

「うおっ、すげぇな。全身が軽くなった気分だ」

 

軽くその場で跳ねたりバク宙してみる。

すげぇ!軽々できる!

 

「そんなに?」

 

「ああ、俺の靴持ってみろよ」

 

シロコが靴を持つと困惑した。

 

「……重くない?」

 

「鉄板仕込んであるからな」

 

「どうして?」

 

「蹴った時に鉄板で蹴った方が痛いだろ」

 

「もしかして戦闘用?」

 

「普段履きだけど兼用だな」

 

でも、こういうのも良いな。

 

「シロコのおすすめはあるか?」

 

「ラックさんが履いているのが最近出たばかりの新作だよ。結構有名なメーカーが作ってるから信頼性もあるし、おすすめ」

 

「んじゃこいつにしよう。軽く慣らすために履いて帰るか。ああ、そうだ。ついでにスポーツウェアも買おう」

 

その後は気に入ったデザインのスポーツウェアを購入して店を出る。

元々履いていた靴は別途で袋を買ってその中に入れた。

 

「なんか歩いてるだけでも感覚狂うな」

 

「でも今までより快適に歩けると思うから」

 

「そりゃあ間違いないな」

 

バイクに乗り込んで事務所に帰ると早速着替える。

 

「男の着替えなんて見てもつまんねぇぞ」

 

「ん、気にしないで」

 

「まあ、好きにすりゃいいけど」

 

着替えている間、シロコが体に穴が開くほど見てきた。そんな面白いもんでもないんだがな。

最後にホルスターに銃を納める。

 

「よし!準備完了!」

 

「ん!じゃあ早速──」

 

「準備運動からだな」

 

「……ん」

 

またしてもシロコの耳が垂れ下がる。

 

「しょうがねぇだろ。俺だって三十代だぞ。急に動いて筋肉痛になったらどうする」

 

「でも普段戦う時はしてないよ」

 

「そりゃあいつ戦うかなんてわかんねぇし」

 

そんな一々準備運動を待ってくれる訳ないだろ。

 

「よし、終わり。行くか」

 

「ん!出発」

 

そうして二人で走り出し──三時間後

 

「うへぇ……」

 

公園のペンチでぶっ倒れていた。

くそぅ、キヴォトスが広すぎる。

俺だってかなり体力あるはずなのに……

横からシロコが自販機で買ってきたスポーツドリンクを差し出してくる。

 

「ラックさんがホシノ先輩みたいになっちゃった……ごめん、嬉しくて飛ばし過ぎた」

 

「いんだよ……悪いけどもうちょっと待ってくれるか?」

 

一気にドリンクを飲み干して、呼吸を整える。

 

「っし、行くぞ」

 

「大丈夫?」

 

「ああ、あんま休み過ぎるのも良くないしな。ただ、ペースは少し落としてくれると助かる」

 

「ん、わかった」

 

タバコの本数減らしたんだがなぁ……

 

 

 

 

「あれ?ラックさんにシロコちゃん、一緒にランニングですか?」

 

「折角のお休みなのによくやるねぇ〜」

 

アビドスに入って少ししてノノミとホシノに出会った。

 

「二人は買い物か?」

 

「はい!一緒にショッピングです☆」

 

「おじさんはお休みを満喫してたんだけど、引き摺り出されちゃったんだ〜。酷くない?」

 

「そんなんじゃ体が鈍っちまうぞ。ホシノも一緒に走るか?」

 

「ん、二人も一緒に走ろ?」

 

「お、おじさんは遠慮しよっかなぁ」

 

「あはは……私も今回は遠慮します。荷物もありますから」

 

「そっか……残念」

 

「そろそろ行こうぜ。じゃあな、ホシノ、ノノミ」

 

「ん、また学校で」

 

「頑張ってねぇ」

 

「頑張ってくださいねー!」

 

二人に手を振って走り出す。

目的地は多分もうすぐそこだ。

 

 

 

 

「そう思ってたんだけどなぁ……」

 

「ラックさんサボッてないで応戦して」

 

「わかってるって」

 

柴関ラーメンの屋台の位置が分からないからあちこち走り回っていると不良を見かけ、あちらも俺達に気が付いて銃を向けてきやがった。

 

「なんで急に銃を向けてきたんだよ……もしや俺の顔か?我ながらイケメン過ぎて悪いな」

 

「ラックさんは渡さない!」

 

……いや、まあ、そう言ってくれるのは嬉しいんだがこう、ツッコミとかさ。

 

『好かれているのは良い事では?』

 

「そうだけども……!!」

 

瓦礫から飛び出し、身を低くして駆ける。

 

「そんなじっくり狙い付けてちゃ当たんねぇぞ!」

 

「あいたぁっ!?」

 

走りながら額を撃ち抜く。

うーむ、やはり火力が足りない。

あっちもそれがわかったのかシロコの方を狙い始める。

……ほーう?俺を無視すると?

 

「いい度胸だ」

 

周囲に目を向けると鉄パイプを見つけた。こいつで十分だ。

視界の外から不良達に近寄り、一番近くの不良の頭に鉄パイプを振り下ろす。

 

「あぎゃっ!?」

 

「まずは一人」

 

「くそ!いつの間に!?」

 

「いいから早く撃て!」

 

向けられたアサルトライフルを蹴り上げて弾き飛ばし、そのまま脳天にかかと落としをする。

 

「くっ!」

 

「おっと」

 

もう一人が向けてきたアサルトライフルも鉄パイプを振り下ろして銃口をズラす。

そのまま側頭部を掌底で打つ。

 

「う、うぅ……」

 

「コラ、勝手に動くんじゃない」

 

「いだだだだっ!?」

 

先程倒した不良が銃を取ろうとするが肩の関節を踏み付ける。

 

「そ、そいつを放せ!」

 

「む」

 

後ろから銃を突き付けられ、両手を上げる。

 

「いいのか?」

 

「はぁ?何を──」

 

不良の横から銃弾が飛んできて昏倒させる。

 

「お疲れ様、ラックさん」

 

「そっちもな。怪我とかしてないか?」

 

最後に足元の子が取ろうとした銃を蹴り飛ばす。

 

「うん、私は大丈夫だよ。それとさっきセリカに連絡したら柴関ラーメンの場所を教えてくれたから、行こう」

 

「最初からそうすりゃ良かったなぁ」

 

「ん、次からはそうしよう」

 

「……次はロードバイク買うからそっちにしようか」

 

流石に疲れる。

 

「ん!」

 

目をキラキラと光らせちゃって、眩しいったらない。

 

 

 

 

「ふぅー……とうちゃーく!」

 

柴関ラーメンと書かれた暖簾の前で止まる。

ふふ、雰囲気でわかるぜ。この店は間違いなく美味い!

 

「楽しかった……!」

 

「そりゃあ良かったねぇ」

 

「大きな声が聞こえると思えばシロコちゃんじゃねぇか。それとそっちの人は知り合いかい?」

 

「ああ、なんでも屋やってるラックです」

 

「おお、あんたがラックさんかい!先生やアビドスの子達から聞いてるよ!セリカちゃん、シロコちゃんとラックさん来たぞ!」

 

「えっ!?お、思ったよりも早かったですね……」

 

「おじさん年甲斐も無く頑張っちゃった」

 

「一緒にシューズ選んだりして楽しかった」

 

「そ。それならよかったわ。じゃあ、ご注文は?」

 

「柴関ラーメン特盛!」

 

「私は大盛りで」

 

「はい!ラーメン特盛1、大盛り1です!」

 

「あいよ!」

 

少ししてラーメンが届く。

 

「柴関ラーメン特盛と大盛りだ!」

 

なんてこった……!今の俺なら特盛でも食えると思ったがこんなに盛られるとは、カランドの山脈にも劣らない程じゃねぇか……!

だが、俺もここまで走って腹がペコペコだ。相手にとって不足なし。

 

「いざ──尋常に勝負!」

 

「いただきます」

 

気合十分、箸を突っ込んで野菜を掻き分け麺を引きずり出し、啜る。

 

「こ、これは──」

 

う、美味い!細ちぢれ麺にスープがよく絡み、食感もモチモチしつつも歯切れ良い。

す、スープは!?

蓮華を押し込んでスープを掬い、一口飲む。

なんて濃厚なスープだ……何を使っている?鶏ガラか?いや、しかしこの旨味は……!?

 

「おいおい、ラックさんよ」

 

「た、大将!?」

 

カウンターからこちらに回り込んできた大将が俺の背中を叩く。

 

「そんな難しく考える必要なんかねぇさ。美味いもんは美味い、そうだろ?」

 

そうだ……俺は今、どうやって作ったか、どんな出汁を使ったかなんてごちゃごちゃと考えてしまっていた。

なんてこった。俺とした事が目を曇らせていたらしい。

 

「すまん、柴大将……俺はッ!」

 

「いいんだ。今はただ、そいつを食ってやってくんな」

 

「……ああ!」

 

一心不乱にラーメンを食べる。

うめぇ、うめぇよ……!

ただ無言で食べ進める。この間に会話など不要。ただ喰らえ!

そうして気が付いた時には、丼の中はスープも残らず空になっていた。

 

「柴大将……」

 

「おう」

 

「あんた最高だ!」

 

「おうよ!」

 

ガッシリと握手を交わした。

世の中にはこんなにも美味いラーメンがあるんだな!びっくりしたぜ。こりゃあグム達でも越えられねぇ、究極の一だ!

 

「……折角二人で来たのに」

 

「し、シロコ先輩落ち着いて」

 

その後、拗ねたシロコから頬を引っ張られた。

 

 

 

 

屋台を出て少し歩くと、とある事を思い出して立ち止まる。

 

「ラックさん?」

 

「……なあ、サヤ」

 

『はい。どうかしましたか?』

 

「もしかして、帰りはまた走りか?」

 

「恐らくそうなるかと」

 

俺は絶望した。またあの長い道を走って戻るのかと考えると辟易とする。

 

「帰るの明日とか……」

 

『近隣にホテルはありません』

 

「だよなぁ……」

 

どうしよう。そう思っているとシロコが前に出た。

 

「良かったら、私の部屋に泊まる?」

 

「良いのか?あ、いや、そうだアビドス高校に泊まれば」

 

「じゃあ決まり」

 

「え?おい、だから高校に……」

 

そのままズルズルと引っ張られてシロコの家へと連れ去られた。

 

 

 

 

「ここが私の部屋」

 

「意外と整理してるんだな」

 

「意外は余計。先にシャワー浴びてきていいよ」

 

「いやいや、家主が先だろ」

 

「大丈夫、気にしなくていい」

 

「まあ、そういうなら」

 

やたらと押しが強いシロコの言うままに先に洗面所へ入り、服を脱ぐ。

うへぇ、べっちょり。

 

「シロコー、脱いだ服どこに入れりゃいい?」

 

「そこの籠に入れてくれればいいよ」

 

「わかった」

 

籠に服を入れて浴室へと入る。

え〜と、これがシャンプーでこっちがボディソープか。

タオルは……使うのちょっと悪いし手で体洗うか。

 

 

 

 

浴室から出て気付いた。替えの服が、ない。

しまった、元々泊まる予定なんて無かったからある訳ねぇじゃん。どうしよう。

 

「……最悪タオルを全身に巻いて寝るか?」

 

『既にシロコ様にお願いしてコンビニで買ってきてもらいました』

 

「お、マジで?でかした、サヤ」

 

「ラックさん、もう出た?」

 

洗面所の外からノックをされてシロコの声が聞こえた。

 

「ああ、服とか買ってきてくれたんだってな。助かった。後で金とか渡すからな」

 

「ん、気にしなくてもいいよ。ここに着替え置いておくね」

 

「おう」

 

扉の前から気配が無くなった事を確認して扉を開けて服を取る。

キヴォトスのコンビニは下着すらもいい生地を使ってるな。

 

「次は私が行ってくるね」

 

「おー」

 

シャワーを浴びてリラックスしたからか、どっと疲れがやってきた。

……少しくらい横になっても……いや、布団も、まだ……

カクンと意識が落ちた。

 

 

 

 

「……朝か」

 

カーテン越しに入ってくる陽の光で目が覚める。

昨日はあのまま寝ちまったんだっけ。

ん?にしてはちゃんと布団、というかベッドの中にいるな。どうせシロコが運んでくれたんだろ。

この腕の中の温かさ、ははーん?シロコを抱き締めていると見た。

目を下に向けるとシロコの髪と耳が見えた。やはりな。しかし、ここでシロコを起こすのも忍びないな。でも目はしっかり覚めちまったし……よし。

徐に髪に顔を突っ込む。

サラッサラの髪にモッフモフの耳が心地良い。それに良い匂いがする。

気付いた時にはまた落ちていて、起きた時には俺の腕の中でシロコが固まっていた。

 

 

 

 

 






一度は食べてみたい柴関ラーメン
俺の指がダンシング、末尾は下手っぴさ……!

女性先生に決まりましたがどんな人?

  • スーツでキメたポニテ先生。凛々しい
  • ゆるっと女子大生みたいな先生。ポワポワ
  • その他。後で活動報告で枠作るのでそこに
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