青春をツマミに酒を飲む   作:黒色エンピツ

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十六話:イケメンだからな

 

 

 

 

「ふんふんふーん」

 

シャーレのオフィスで椅子に乗ったままクルクルと回る。

今何をしているのかって?

それはだな

 

「仕事とかクソ」

 

「コラ、口悪いよ」

 

仕事だ。とはいえ、俺は頭脳労働、特に計算とかする感じの仕事は大の苦手だかやサヤに投げた。

 

「またサヤちゃんにばかり頼って!たまには自分でやったらどうなんですか!?」

 

よくシャーレの当番になるユウカがそう言う。

しゃーねぇなぁ。さーて、いっちょやってみるかと紙をぺらりと捲る。

 

「?????????????」

 

「わー!?ラックさんがショートしかけてる!?」

 

慌てて先生が駆け寄り、俺の頭を胸に抱き抱えて撫でる。

素晴らしい、ここが俺の、桃源郷。

 

「もう!先生も甘やかさないでください!」

 

「え〜、でも人には向き不向きってあると思うし、現状はサヤちゃんのお陰でかなり楽になってるからいいかなって」

 

「それを放っておくとこんなダメ人間になるんですよ!」

 

ユウカが俺を指差すと同時に酒のプルタブを開ける。

カシュッ、という小気味良い音がオフィスに響いた。

 

「没収です!!!」

 

「あ〜、俺の酒ぇ〜……」

 

返して返してと手を伸ばすが片手で押さえられる。

 

「はーっ……こんな人のどこが大人なんだか……」

 

「見た目は大人、アソコも大人だぞ」

 

「セクハラです!」

 

「ごめんって……」

 

先生の後ろに隠れると怒った猫のように威嚇してくる。

 

「俺だって好きで勉強してこなかった訳じゃないんだからしゃーねぇだろ」

 

「でも勉強はいつでも出来ますよね?」

 

「いやほら、訓練とか訓練とか訓練とか訓練とか……」

 

「訓練ばっかりじゃないですか!」

 

「いや、違うんだって……」

 

「何が違うって言うんですか?」

 

「射撃訓練と隠密訓練とピアノのレッスンと多言語学習と演技のレッスンだ」

 

「前半二つはまだしも後ろの三つはなんなんですか……」

 

「おいおい、諜報活動するにはあらゆる所に馴染めるようにならなきゃいけないんだぞ?それ相応の所へ潜入するなら当然相応のマナーがあって当然だろ?」

 

「……急に異世界事情持ち出さないでください。頭が痛くなるので」

 

「まあこんな世界じゃ戦闘技能以外は毛程も役に立たねぇけどな」

 

「ハァ……せめて、大人しくしててくださいね」

 

諦められたのかユウカは頭を痛そうに押さえてそう言う。

やったぜ。

 

「ん……ごめん、ラックさん。ちょっと近くでヘルメット団が暴れてるらしいからお願いしてもいい?」

 

「ご自慢の戦闘技能の出番ですよ」

 

「畜生め……」

 

仕事の出来ない俺は戦場に駆り出されるのである。

 

 

 

 

パパっとヘルメットをかち割ってシャーレに戻る。にしたって、可愛い顔してんのになんで隠す必要があんのかねぇ。勿体無い。

 

「たでーまー」

 

「おかえりー。怪我してない?」

 

「あー、多分?」

 

自己判断では多分してないと思うが。

先生が俺の周りをぐるぐると回る。

 

「うん、怪我はしてないね」

 

そうしてタオルて頬に散ったであろう土を拭ってくれる。

 

「ガキじゃあるまいし、自分の世話は出来るって」

 

「まあまあ、私は戦えないからこのくらいはね?それに美人にお世話されるのは嫌?」

 

「大歓迎」

 

「先生、ラックさんのお世話は私がしておくので仕事をお願いします」

 

「え、え〜と、すぐ終わるから待ってて」

 

「今、すぐ、お願い、します」

 

「は、はぁい……」

 

「ああ〜……」

 

先生が名残惜しそうに離れ、俺も名残惜しく思い手を伸ばしてみる。

 

「大人しくしててください」

 

「へぇい」

 

「全く、先生もなんでこんな人に……」

 

ぶつくさ言いながらも汚れを拭ってくれる。

ユウカもなんだかんだいい子だよなぁ。普通自分で顔を洗ってこいとでも言われてもおかしくねぇのに。

 

「はい、終わりましたよ。」

 

「ん、あんがと。それとお土産」

 

ポケットからコーヒーを取り出してユウカに渡す。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「せんせー、コーヒーいるかー?」

 

「いるー!すぐに終わらせるからお菓子食べながら飲もー!」

 

そう言うと手を早めてあっという間に終わらせてしまった。

その様子をみたユウカがまた膨れる。

 

「まあまあ……」

 

宥めるも今度は俺が睨まれる。

睨まれつつも机を囲むと先生が冷蔵庫からコンビニスイーツを取り出す。

 

「じゃーん!これならコーヒーにも合うよね〜」

 

クリームをふわふわした生地で挟んだどら焼きみたいなやつだ。

食べながらユウカが話を切り出す。

 

「先生とラックさんって仲良いですよね」

 

「え?そうかなぁ。ねぇ、私達仲良く見えるって」

 

「大人同士だからだろ」

 

「むー……」

 

文句言いたげに俺に後ろから伸し掛る。

 

「おい、頭の上で食うな。カスが落ちる。」

 

「ふ〜ん、おっぱい当たってるんだから良いでしょ」

 

「んな事言ったら……」

 

「風紀が乱れてます!」

 

「ほらぁ……」

 

「え〜、スキンシップだよスキンシップ〜。ほら、ユウカも」

 

「え、あ、ぅ……」

 

カモンと両手を広げて待つとユウカが頬をほんのりと赤くして抱き着いた。

 

「ねー、こういうスキンシップも良いでしょ?知ってる?ハグしたらストレスって減るんだってさ。ユウカ、どう?」

 

「……まあ、はい、減ってるんじゃないですかね」

 

ほら〜、と楽しそうに先生が笑う。

あーあーいい大人が子供を誑かしちゃってまあ。

何?俺はどうなのかって?俺はいいんだよ。

 

「さて、俺も自分に出来る事くらいはやっとくかぁ」

 

近くにあった紙を手に取って内容を読む。

……ふむ。

ぽひゅん、と小さな爆発と共に頭から煙が出た。

 

「ら、ラックさーん!?」

 

「ああもう書類仕事が出来ないのはわかりましたから大人しくしていてください!」

 

「あい」

 

椅子に戻って足を組むとコーヒーを一口飲む。

ふぅ、落ち着いたぜ。

 

「くっ、無駄に様になる……!」

 

「ふ、イケメンだからな。イェイ☆」

 

ピースと共にウインクする。

拳が顔面にめり込んだ。前が見えねぇ。

 

 

 

 

昼になった。

二人はまだ仕事中のようだから俺が昼食を用意しよう。

という訳で取り出したるは食パンと卵とハム、レタス、きゅうりにトマト……チーズも入れるか。シンプルにサンドイッチといこう。

まずはタマゴサンド。卵は〜……四つくらい使っちゃお。それを沸騰したお湯に入れて9分程茹で、取り出して水を張ったボウルに入れる。

冷えるのを待つ間にきゅうりは多めに斜め切りにして、塩を振って置いておく。レタスは洗ってザルに入れる、トマトは薄切りに。

次に卵を流水に当てながら剥く、これでペリペリと殻が取れる。これが気持ちいい。

こいつを綺麗なボウルか器に入れてマヨネーズ、塩、黒胡椒を入れてフォークで粗く潰し、終わったら味見する。……もうちょい?よし。

さて、仕上げ。中火で熱したフライパンにバターを投入し、溶けたら食パンを投入。焼き色が付いたらひっくり返し、裏面にも焼き色を付ける。それを六枚分……いや、3人だし十枚でいいかな。

後は挟む、たまごサンドとミックスサンドとキューカンバーサンドの完成だ。

クッキングシートで包んで重しを乗せて馴染ませる。ちょろっと一服して戻ってきて、シートごと包丁できりゃあ完成だ。

 

「昼飯だぞー」

 

「待ってましたー!良いよね、ユウカ!」

 

「集中も切れてましたし、いいですよ」

 

「やった〜」

 

机に並べると紅茶の用意をする。

まあ、本格的なものじゃなくてティーパックだが。

 

「いただきまーす」

 

「いただきます」

 

「おう、食え食え」

 

ユウカはミックスサンド、先生はたまごサンドに手を伸ばした。

じゃあ俺はキューカンバーサンドで。

 

「う〜ん!美味しいねぇ」

 

「料理は出来るんですよね……」

 

「俺は努力家だからな」

 

「それなら勉強もしてください」

 

それとこれとは別だから……

 

「目を逸らさない!私が教えてあげますから。いいですか?」

 

「チッ、はぁい」

 

「舌打ちする悪い口はこれですかっ!」

 

「いっふぇよ!」

 

ユウカが頬を抓る。全く、こちとらキヴォトス人と違って柔らか〜いサンクタなんだぞ。優しく丁寧に扱え。

不機嫌そうなユウカは紅茶を一口飲むと眉間に寄ってきた皺が消え、薄く笑みを浮かべた。

 

「なんだかんだユウカもラックさんのご飯好きだよね」

 

「……まあ、美味しいですから」

 

「ふ〜〜〜〜ん」

 

「……なんですか、美味しいんですから美味しいって言うのはおかしくないでしょう。もう!ニヤニヤ笑わないでください!」

 

「やべっ」

 

ユウカが席を立ってこっちに来る。その前に先生の椅子を引いて盾にする。

 

「先生を壁にしないでください!」

 

「だって追いかけてくるからだろ!」

 

俺とユウカがそんな事をしている間も先生は楽しそうに笑ってサンドイッチを食べていた。

 

「ちょ、ちょっと、壁にするのはいいけど、回さな……うぷ」

 

「ほら!見てください、先生が吐きそうですよ!」

 

「じゃあ追いかけなきゃいいだろ!」

 

「あの、喧嘩は……」

 

「でかもも!」

 

「なっ……!?こ、このっ、人が気にしてる事を……!バカー!」

 

「ら、ラックさん、それはちょっと言い過ぎじゃ……」

 

「バカァ!?へんっ!勉強なんて出来なくっても作戦立案くらい出来ますぅー!」

 

「計算が出来ないのに細やかな作戦を立てられる訳がないでしょ!どーせ、単調な作戦でしょうね!」

 

「なにをー!?」

 

「なんですか!?」

 

「二人共、そこまでです」

 

トン、と頭に手が乗せられる。誰だと思って見るとリンちゃんがいた。

 

「でもリンちゃん、こいつ俺の事バカって言ったー!」

 

「でも代行!この人私の気にしてる事言ってきました!」

 

「ハァ……誰がリンちゃんですか。ラックさん、貴方は大人ですよね?それがこんな事で喧嘩してていいんですか?」

 

「でもよぉ……」

 

「ヒナ委員長を呼びますよ?」

 

「……ごめんなさい」

 

ヒナ呼ばれるのはちょっと……

 

「ユウカさんもこんなくだらない言い争いで暑くならないように」

 

「でも……」

 

「先生の担当日を減らしますよ?」

 

「……すみませんでした」

 

「おー……すごいね!リンちゃん!二人をあっという間に止めちゃった!」

 

「本来は先生がするべき事ですからね?」

 

「……えへ?」

 

「ハァ……」

 

「それでリンちゃんは何しに来たの?あ、リンちゃんもサンドイッチ食べよ?美味しいよ」

 

「昨日が期限の仕事は終わりましたか?」

 

「え、何、忘れてたの?」

 

「せ〜ん〜せ〜い〜?」

 

「……ごめんね?」

 

両手を合わせて首を傾げて言う。可愛らしい仕草で謝った。

けどよぉ、相手はあのリンちゃんだぜ?その程度で許してもらえる訳がねぇや。へっ、先生も俺達と一緒に説教を──

 

「……ハァ、気を付けてくださいね」

 

「うん」

 

「ズルだ!ズルっこだ!」

 

「私達は怒られたのに!?」

 

「贔屓だ贔屓だ!」

 

「これは余りにも露骨な依怙贔屓よ!」

 

俺とユウカで並んでリンちゃんに抗議を訴えかける。すると、ゆっくりと振り向いた。その顔には笑みを浮かべているが、圧を感じた。

 

「なにか?」

 

「ユウカが言えって……」

 

「なっ……!?何言ってるんですか!?代行!これはラックさんの陰謀です!」

 

「二人共?」

 

「「ごめんなさい……」」

 

俺達はリンちゃんには勝てねぇんだ。

その後はリンちゃんも交えてこの後の仕事の話をしつつサンドイッチを食べた。

 

「それでは私はこれで失礼します」

 

「うん、ありがとう」

 

「リンちゃん、帰りは?」

 

「電車かバスにでも乗って帰る予定ですが」

 

「じゃあ送ってこうか?ほら、見ての通り俺暇だし。先生もユウカもいいだろ?」

 

「変な事しちゃダメだからねー?」

 

「代理も気を付けてくださいね」

 

「変な事とは失礼な。俺程の紳士はテラ全土を見ても中々いないぜ?」

 

「じゃあテラは蛮族の集まりって事になるけど…」

 

「先生とは一度真面目に話し合った方がいいようだな……!こほん、それでどうする?」

 

「……では、お言葉に甘えて」

 

いやー、酒飲んでなくて良かった。

リンちゃんにヘルメットを渡してバイクに跨ると後ろにリンちゃんが乗り、俺の背に抱き着く。

むぅ……!わかっていたが、これ程とは……!!

軽口を叩きたい所だが、これ以上怒られるとヒナを呼ばれそうだから黙っておこう。俺は学ぶのだ。

 

「……ラックさんは、元の世界の人にまた会いたいと思いますか?」

 

ヘルメット内のマイクを伝って声が届く。

 

「あー?まあ、そりゃあな。当たり前だろ」

 

「そうですか」

 

「なんだ、会いたい人でもいるのか?」

 

「いえ」

 

「当ててやろうか?」

 

「ですから」

 

「連邦生徒会長だろ?」

 

「……」

 

「へっ、あったりぃ」

 

「そんなに、わかりやすかったですか?」

 

「いや、テキトー。リンちゃんの交友関係とか知らねぇし、じゃあ連邦生徒会から考えて今いない人物は誰かって考えただけだ」

 

「……そうですか」

 

「まー、そうだな。俺がテラに戻れてあいつらにまた会えるかどうかなんてわかんねぇけど。あった時にここでの話をたくさんしてやるつもりだ」

 

「帰れるかもわからないのに、楽観的ですね」

 

「難しく考えるよりは全然良いだろ?」

 

「……そう、ですね。確かに気分的にはマシかもしれません」

 

「だからよ、連邦生徒会長が帰ってきた時には俺の大活躍でも語ってやってくれ」

 

「大活躍……?」

 

「前にしたろ!それとこれからすんだよ!これから!」

 

失礼な。失踪時に暴動を治めたの知ってるくせに。

そうこうしているうちに連邦生徒会の建物に着き、リンちゃんが降りる。

 

「送ってくださりありがとうございます。」

 

「おう。リンちゃんはまだ仕事?」

 

「えぇ、まだまだやる事が山積みですから」

 

「うへー、若いのに大変だ」

 

「逆にラックさんは大人なのに暇そうですね」

 

「なんだとぅ!?」

 

怒るように拳を振り上げ、少しして笑うとリンちゃんの頭に手を乗せる。

 

「あんま抱え込むなよ。もし抱え切れなくなったら俺を頼れ」

 

「ラックさん……」

 

「ま、書類仕事なんて出来ねぇけど。それでも多少は力になれるはずだぜ?」

 

「台無しですよ。……でも、その時はお願いします」

 

そういうと一度頭を下げて建物へ入っていった。

さて、俺も帰るか。

 

『まだ仕事は終わってませんよ』

 

「……俺役に立たねぇしいなくてもよくね?」

 

『一応そういう契約ですので』

 

……そっかぁ。

大きなため息を吐いてシャーレへと戻った。

 

 

 

 

 






たまごサンド、良いよね。
実際に作ったよ。美味しかった。

女性先生に決まりましたがどんな人?

  • スーツでキメたポニテ先生。凛々しい
  • ゆるっと女子大生みたいな先生。ポワポワ
  • その他。後で活動報告で枠作るのでそこに
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