「ほぉ〜、ここがゲヘナ」
飛行機のタイヤ格納庫にこっそり同乗させてもらって数時間。ようやくゲヘナ学区に着いた。
意外と普通と言うかなんというか。
『ラック様、銃撃音を無視しないでください』
「わかってるって、街並みの事だよ」
ヘイロー持ってる子は銃弾じゃ死なないことは分かっているが、俺の世界の銃弾ならどうなのかを調べてみないとな。後、俺はこの世界の人間じゃねぇから調べてみるまで弾に当たらないようにしねぇと。
「さー、行くぞー!」
「何あれ!?」
「お、大人!?」
「なんでも良い、撃て!」
飛んできた弾に銃弾を合わせると跳ね返った弾が少女の額に当たる。横からの射撃を前転で避けて額に撃ち返す。
「当たらない!?」
銃をホルスターに納め、刀を構えてそこそこで振ると真空刃が発生し、飛んできた銃弾を弾きながら進み、少女達を吹き飛ばした。
「よし、こっちの弾でも問題無さそうだな」
ヘイローを出して気絶した子からアサルトライフルを借りてアーツで反動制御をして的確に撃ち抜く。
『風紀委員が近くに来ています』
「潮時か、撤退するぞ」
『撤退ルートを表示します』
ヘイローを消してゴーグルに表示されたルートを走る。
『検証はどうでした?』
「嬉しくもあり、残念でもあったってところだな」
頬を撫でるように触って、見てみれば血が付着していた。上手い具合にはいかないらしい。
ここに来て数時間しか経っていないが、学生が自治しているにしても余りに酷い。ラテラーノより酷い。なぜ肩がぶつかっただけで銃撃戦に発展するんだ。
「……サヤ、目的地をゲヘナ学園に。とっとと風紀委員長に顔を通しとこう」
『それが宜しいと思います』
サヤの情報ではゲヘナを実質的に自治しているのはトップ組織の万魔殿よりも風紀委員会らしい。
「後はどっかで腹ごしらえでも出来りゃあ良いんだが……」
『お金がありませんね』
「保存食はあんま減らしたくねぇなぁ」
それにしても周囲からの視線を感じる。目だけで周りを見ると、困惑や驚きといった表情が多い。
『恐らく、装備とヘイローのせいかと』
「なるほど……」
思えば刀とホルスターを腰に下げて、大剣とスナイパーにバックパックだもんな。かなりごちゃついてると思う。
「まあいいか」
無視して歩く事にした。
そういえば、俺以外のわかりやすい人の男を見ない。やたらケモケモしたペッローやフェリーン、それにロボットばかりだ。
「マガジンが普通にコンビニに売ってんだから驚きだな」
『それほど普及しているのでしょう。シャーペンの芯みたいなものですね』
「シャーペンの芯ねぇ……」
人を軽く殺せる弾丸がそこらに売ってるのは複雑というかなんというか……
そんなこんなでサヤと話しながら歩いていると、ゲヘナ学園が見えてきた所で良い匂いが胃袋を刺激した。
「うぐっ、足がつい……」
ふらふらと誘われるように匂いの元に歩いていく。もちろん見つからないようにスニーキングをしつつだが。しかし妙に人がいないな。
「ここからだ」
『食堂でしょうか?しかし、お金はありませんよ?』
「……最悪土下座とか」
入ってみると煮込み料理だろうか?良い匂いがぶん殴ってきた。
「ふぐぉっ……!」
やるじゃねぇか!どこのどいつかは知らねぇが、俺にこんな良いもん食らわせてくれるなんてな……!
さあ、姿を見てやろうとキッチンの中を覗くと、角の生えた女の子が鼻歌交じりに料理を作っていた。
「すんませーん」
「ひゃあ!?え、だ、誰ですか!?」
「腹減って死にそうなんだけど、それ食べさせてもらっても良いかな?ちょっと事情があって金は払えないけど、売ったら金になるもんなら渡せると思うからさ」
「えぇ……う〜ん、どうしよう……」
「そこをなんとか!頼むよ、な?」
「……ん〜、わかりました」
「よっしゃ!な?言ってみるもんだろ?」
『良かったですね』
「あれ?今他の人の声が聞こえましたけど、誰かいるんですか?」
「ああ、俺の刀の鞘のAIだよ。名前もサヤだ」
『初めまして、サポートAIのサヤです。ラック様がご迷惑をお掛けします』
「すごい流暢に喋るんですね……」
「うちのエンジニアが作ってくれた傑作だからな」
話しているうちにも煮物にご飯に小鉢に味噌汁にと、本来煮物だけもらえれば良かったのにどんどん追加されている。
「おいおい、こんなに良いのか?」
「大丈夫ですよ。これは給食じゃなくて練習で作ってただけですから。良かったら意見も聞かせてください」
「そんじゃ、ありがたく。いただきまーす!」
まずは味噌汁を啜る。うっま、何これ、グムにも負けず劣らずなんだけど。
「どうですか?」
「いやー、美味い!こんな美味いもん食ったのはえ〜っと……いつ振りだ?」
最近ハズレの店とか普通くらいの店ばっかだったもんなぁ。
「……数ヶ月くらい?野宿も時々あったし」
「……おかわりいりますか?」
「え、良いのか?ありがとな!」
がっつくのは良くないかと思ってたらまさかあっちからおかわりをさせてくれるとは思わなかった。もしやこの子、物凄く良い子なんじゃあないか?
「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺はラックだ」
「そういえばそうですね。愛清フウカです」
「おー、フウカね。ところでさ」
「はい?」
「俺が異世界から来たって言ったら信じる?」
「……はい!?」
「ってな訳」
「なる、ほど?」
説明を聞いて疑問符を浮かべながらもなんとか納得出来たかの様な顔のフウカに苦笑いを浮かべる。
「まあわかんなくても良いさ。俺だってなんでここに来たのかさっぱりだ。んじゃ、そろそろ行くか。おっと、その前にちょっと手を出してくれ」
「今度はなんですか?もういっぱいいっぱいです……」
差し出された左手を手に取って指を軽く触り、バックパックから取り出した小さな赤い宝石がついた指輪を中指に嵌めた。
「うん、ぴったり。こっちでの価値はわかんねぇけど、いらなかったら売ってくれ。それとこれ俺の連絡先、困ったらなんでも頼ってくれ。
飯、本当に美味かったぜ。今度はちゃんと金持ってくっから」
「は……?」
ぼけっと突っ立ったまま動かなくなってしまったフウカに手を振って食堂を出る。今度こそ風紀委員会に行かねぇと帰っちまうかも。
「こっちで合ってるのか?」
『問題ありません』
「サヤのサポートが無けりゃ迷ってそうだな」
あまりに広過ぎる。そのお陰で人が疎らになっているのは助かる。
「ここか?」
扉に風紀委員会と書いてある。うん、合ってるな。
ノックをして返事が聞こえて中に入る。
「お邪魔しまーす」
「大人……?何の用?」
「まあ、まずは自己紹介かいから、俺はラック。細かい事は資料を見て欲しいんだが、パソコンにデータを移してもいいか?」
「風紀委員長、空崎ヒナ。そっちのパソコンに移して、そっちなら重要なデータはないから」
スムーズに話が進む、この子はなんつーか……なんだろ、雰囲気はしっかりしてそうなんだけど眠そうというかめんどくさそうというか。
『転送が終わりました』
「……テラ?」
「質問は後にして、今は資料を見てくれ」
「そうね」
三十分程掛けて資料を見終えたヒナは疲れた様に目を抑えた。
「つまり、キヴォトスとは別の世界から来たって事でいい?」
「ああ。そんで、仕事をしたいんだが、ここでの身分と実績がない。とりあえず荒事や配達とかをする何でも屋みたいなもんでもやってみようかと思っているんだが、ここでの連絡手段もまだ確立出来てないからヒナとの繋がりを作っておきたい。ついでに連絡手段もくれると助かる。」
「この話は他には?」
「次はトリニティって所に行ってみようと思う」
「…………わかった。でもまだ信用出来ない。それに、どれだけ強いのかも分からないから、依頼も頼みにくいわ」
確かに、自分の戦闘映像でも撮っとけば良かったな。何か、自分の戦力を証明出来れば良いんだが……。
「委員長、戻りました。あら、お客様ですか?」
「アコ、随分早かったね」
やたら横乳の主張が激しい子と銀髪ツインテの子とふわっとした髪の子が入ってきた。委員会の他のメンバーか?にしても、服装やばくない?キヴォトスってそれがデフォなのか?
「ん?あ、アコちゃん、あの人って!」
「え?……あっ!」
「男性で白髪に赤と青のメッシュ、やたらと多い武装、情報に会った人ですね」
「……俺?」
「委員長、そこの人が先程の通報にあった暴動を止めた人です」
「本当に?」
「いや、まあ俺の世界の銃で子供が死んだら困るし、その検証でちょっとな。」
最初手足とか撃って、どれだけダメージ入るかの確認をしてたからちょっと手間取った。
「世界?銃って、そのハンドガン?でも現場には削った様な痕跡があったけど……」
「この刀でやった」
そう言うと銀髪ツインテが引いた。なんでだ。
「いやいや、できる訳がないだろう!?」
「いやできるんだって、こう、えいやっ!って感じで……」
「じゃあ今やってみろ!」
「つってもここって風紀委員の部屋だろ?傷つけたら怒られるじゃん」
「それは、まあ……」
「もっと他には無いの?」
「他か……あ、いや、一つだけある。でもなぁ……」
「じゃあやって見せて」
「一応、受け手が必要なんだけどどうする?」
無害な技とはいえ、相手に刀を振る技だからな。
「私がやる」
「委員長!?待ってください、それなら私がっ!」
「さっき生徒を傷付けない様に考えていたのなら、多分大丈夫」
アコって子を抑えて、俺の前に少し離れて立つ。
「先に言っとくけど、怒らないでくれよ?」
「怒るような技なの?」
「傷付ける技じゃねぇけど、まあ」
「……今回だけだから」
「言ったな?本当に怒るなよ?昔実験っつってやったら滅茶苦茶怒られたんだかんな?良いな?」
「わ、わかったから、早くして」
「よし」
柄に手を添えて━━━━キンッ、と音が鳴った。
「……まだ?」
「もう振ったぞ」
「でもまだ何も」
次の瞬間、風が吹いてヒナのスカートを捲り上げた。
「え……」
「ふむ……黒は背伸びし過ぎだとお兄さんは思うな」
「っ!?!?」
慌ててヒナがスカートを押さえる。やっぱ短いって……心配になっちゃう。
ふっ、と笑っているとアコと呼ばれた人が詰め寄って来て脛を蹴り上げられた。
「うぐぉ!?」
「委員長になんて事してるんですか!?」
更に追い討ちでビンタも食らった。
「痛ってぇ!?怒んねぇつったじゃね……か?」
抗議しようと顔を見た。……なんでこいつ鼻血出てんだ?顔赤らめてるし……まさかっ!
「……いや、うん、人それぞれだもんな。俺はそういうのに理解あるから、な?」
痛みに耐えながら微笑んで、ポケットからティッシュを取り出して鼻血を拭い取る。
「はっ!?こ、これは、違いますからね!?」
「うんうん、わかったわかった。
それで、どうだった?」
銀髪ツインテの子に声を掛ける。複雑そうな顔で頷いた。
「やり方はともかく、出来るのは分かったよ」
「そりゃ良かった」
「……こっちに来て」
「へいへい」
ヒナに呼ばれて向かうと手を引かれて、それに合わせてしゃがむと頬を優しく引っ張られた。
「この技はもう使っちゃダメ」
「ふぁい」
ぶっちゃけ顔を赤らめているため怖さは無いが、正座をして素直に受け入れる
「とりあえず、ラックが暴動を抑えられるくらいには強い事はわかったわ」
暴動はともかく刀の腕はスカート捲りしただけだけどな。そう思うとヒナに睨み付けられて背筋をピンッと伸ばす。
「連絡用の端末は明日になるから、また明日来て」
「それと、出来ればこっちでの銃を買う為の金が欲しいんだけど……」
ちらっとヒナの顔を伺うと、目が合って数秒後にため息を吐かれた。
「わかった、先行投資として払うわ。銃の種類は?」
「ハンドガンで。ヘイローを出してない時はハンドガン以外使えねぇんだ」
「ヘイローがあるんですか?」
ふわっとした子が話しかけてきた。そういえば、ヒナには資料を見せたけど、三人は見てないな。
「あるぞ、ほら」
ヘイローを出して、その子にアーツを使ってふわりと浮かべる。
「な、何ですか、これ」
「まあ俺の特殊能力だと思ってくれりゃいい。後の細かいことはヒナに聞いてくれ」
「はぁ……わかりました」
ヘイローを消すと、ヒナが金を手渡してくれた。
「これで銃と数日の宿泊と食事は出来るから」
「え、いや良いのか?銃と弾の分だけで良かったのに」
「泊まる所が無いでしょ」
「ここで一泊させて貰おうかと思ったんだけど」
「ここで……?」
「雨風でも防げれば良いし。あ、流石にこの部屋じゃ不味いか。なら適当な空き部屋とかで良いんだけど」
「一応仮眠室ならあるけど」
「おお、そこで良いぜ」
ベッドがあるならそれだけで天国だろ。
「委員長、部外者を一人で置くのは……」
「なら私が監視役をする」
「委員長自らが!?」
「ラックの個人情報を見せてもらった限りなら、私が最適だから」
「いや、協力したいのに態々敵対行動なんかしねぇよ」
「個人情報……後で見せてもらっても?」
「別に良いし、俺の扱いが難しいからむしろ見てくれ。つーわけで、俺銃買って来るから」
片手を上げて部屋を出て行く。帰った頃には説明も終わってんだろ。
「ツイてたな。でかい学校だから寝泊まりはダメ元だったんだがいけるとは」
『振る舞いは気を付けないといけませんね』
「そうだな」
サヤと話しながら曲がり角を曲がると、少し離れた所に銃を抱えて今にも泣きそうな女の子がいた。随分と立派な帽子とジャケットだな。
「……ここって高校だよな?」
『そのはずですが。それと、服装から見るに恐らく万魔殿に所属している生徒です』
「マジか」
「ぐすっ、どこいったの〜?」
「おいやべぇぞ」
『ここで泣かれると、声を聞いた誰かが来て大変な事になり、信頼も何も無いラック様は捕まってしまうかもしれませんね』
「冗談のはずなのに冗談に聞こえねぇ……!」
脳内では既に号泣→包囲→拘束→BAD END...がみえてしまっている。
泣き止ませねぇと!!
「お嬢ちゃん、どうかしたのか?」
「ふぇ、おじちゃん、誰?」
「おじっ……お兄さんはラックってんだ。なんか探し物か?」
「イブキのバッグがどこかにいっちゃった……」
「どっかに落としたのか。今まで通った場所とか覚えてるか?」
ぶんぶんと首を横に振る。
「しゃーねぇな。俺が一緒に探してやっから泣くんじゃねぇよ」
涙を拭ってやり、ヘイローを出す。
「わっ!?」
「見た目は?」
「えっと、クマさん!」
「ん」
目を閉じて、校内全域に風を流す。
「…………お、これか?」
「何してるの?」
「多分見つけたから、ちょっと待っててくれるか?」
そう言うとジワッと涙が滲んだ。
「……サヤを置いとくから、ちょっと待ってなさい」
サヤを壁に立て掛けて一度頭を撫でると窓から外に飛び出した。
『スズラン様達に重ねましたか?』
「うっせぇぞ。イブキの相手してろ」
ゴーグルからからかう様なサヤの声に言い返す。昔はこんなじゃなかったのに……誰に似たんだか。
「クマのバッグ。これだな」
鎖が外れているから、これが原因か。
「戻るか」
またアーツを使い、窓から戻ってくるとイブキがサヤを抱き抱えて楽しそうに話しを聞いていた。ほんのちょっとしか離れてないはずなんだが。そもそもサヤって結構重いんだけど?キヴォトスのやつらはやっぱおかしいな。
「あ、おじちゃん!」
「いい子にしてたか?」
「うん!」
おじちゃん呼びを直すことに諦めてバッグを渡すと嬉しそうに抱き締めた。
「ありがとうおじちゃん!」
「どういたしまして。んじゃな」
サヤを取ろうとすると腕が動かない。
「……なんだ?」
「どこに行くの?」
「用も終わったし銃を買いに行く所だ」
「イブキも行く!」
「あー……」
まあ、銃も持ってるし、大丈夫なんだろうが。
「行くのガンショップだし、つまんないぞ?」
「ダメ?」
「いやダメって訳じゃ……ああ、わかったわかった。連れてくって」
「わーい!」
嬉しそうに俺に銃を渡して、サヤを抱き抱えたまま隣に立つ。……うん?逆じゃない?
「……またバッグ落とすかもしんねぇから俺が預かっとく」
バックパックの中に入れときゃ良いだろ。
横目でイブキを見ると片手でサヤを持つにはバランスが悪く、少しふらついていた。
「ん」
手を差し出すと嬉しそうに笑って握られた。
「サヤ、お前も好かれたな」
『その様です』
歩幅を合わせるためにゆったりと歩き出した。
「色々と種類があるんだな」
確認してみた所じゃマガジンはコンビニでも売っているみたいだが、銃はちゃんとした店のみの扱いらしい。マガジンをそんなスナック菓子感覚で売るなよ。
ハンドガンでも数種類あるみたいだ。どれにしようか……。
ちなみにイブキは隣でサヤと話している。
「ぶっちゃけあんま違いとかは無さそうだな」
どれもオーソドックスというかなんというか。
「試射してみますか?」
「いや、いい。もう決めた」
俺が持っていた銃に似た銃を選んでマガジンを五つ購入した。
その後はイブキに強請られてゴーグルを貸してやり、ソフトクリームを食べてる学園に帰った。
「ただいまー」
「あら、おかえりなさい」
風紀委員室に戻ると、みんなが仕事をしていた。もう説明も終わったらしい。
「ちょっとそこの机借りるぞ」
一言だけ言って、買ってきた銃を机の上でバラしてグリップ等のいくつかのパーツをヤスリで削る。
その様子を珍しそうに他の奴らが見に来ていた。名前もその時教えてもらい、横乳ちゃんがアコで銀髪ツインテがイオリ、ゆるふわがチナツらしい。
「こんなもんか」
組み立ててグリップを握る。中々悪くないが、ヴァルカンにやってもらったのと比べると全然だな。
「こいつもこっちに合わせないとな」
どこかに技術者でもいれば、銃をこっちの仕様に合わせられるんだろうけどなぁ。
「さてと」
暇になってしまったから、酒を片手に風紀委員会の仕事を眺める。仕事してるの見ながら酒飲むの最高。
「その飲み物……変わった香りですね。でもどこかで嗅いだ事があるような?」
近くの棚にファイルを納めに来たチナツが呟く。
「酒だからな。多分医療用のアルコールじゃねぇか?」
「なるほど」
「それで、貴方はなんでそんな物をここで飲んでいるんですか?」
「頑張って仕事をしているのを眺めながらの一杯ってのは……格別だぜ?」
ふっ、と顎に手を当てる。
「他所で飲んできてください!」
ぽいっと廊下に投げ捨てられてしまった。……ん?今片手で俺の事投げた?
「もう気にしないぞ」
すぐ側の窓を開けてタバコを咥えて火をつける。
「……いつもみたいに吸ってるけど、学校内で吸うのは不味かったか?」
まあ、この一本だけ許してもらおう。そう思って酒をまたひと口飲んだ。
「ラック、終わったから入って来てもいいぞ」
「……ん?おう」
やる事もないし、あのまま廊下で横になって寝たんだっけ。外はまだ明るいな
「サヤ、俺が出てどのくらい経った?」
『一時間時間程です』
「サヤさんが手伝ってくれたお陰でいつもより早く終わりました。」
「サヤちゃん、風紀委員会に入らない?」
『どうしましょう。こんなにモテてしまっては困ってしまいます』
「サヤは俺のだっつの!しっしっ!」
えー、とアコとイオリが文句を言う。
「残念。それじゃ、私たちは帰るね」
「お疲れ様でした」
イオリとチナツが部屋から出て行った。
「んで、なんでアコも?」
「委員長が心配ですから」
「そうかい。んじゃ、飯食いに行こうぜ!」
「……お金が無い人が何言ってるんですか?」
「しゃーねぇだろ。あっちの金なんてもう紙くず同然なんだし」
結構稼いでたんだけどなぁ。
「あ、でも金目の物ならあるぜ?」
青い宝石の着いたブレスレットをアコの手首に巻いた。ふふん、宝石自体は探検した遺跡とかから見つけたが装飾は俺が自分で作ったもんだ。
「あの、これ……」
「どうよ?結構自信作なんだけど。あ、ヒナにもあるぞ」
「え、いや、私は……」
ちょっとごめんと一言言って紫色の宝石の着いたネックレスを首にかける。うんうん、目の色とマッチしてんな。
「……いつもこんな事してるんですか?」
「最近はあんまりだな。ロドスに帰ったらちびっ子共にやるか女性陣にプレゼントしてたけど、結構長期の移動をしてる時にこっちに来ちまったし。あ、そうそう、フウカって子にも渡した……え、何、なんで手を構えてブラァッ!?」
アコのビンタが頬に炸裂し、快音を鳴らした。
「え、なんで?なんでぶっ叩かれたんだ?」
「はぁ……」
ヒナにはため息を吐かれた。
わ、わかんねぇ、なんで怒られてんだ!?こんなの普通だろ!?
『ラック様、一般的には女性に頻繁にアクセサリーをプレゼントすることはありませんよ』
「そんな馬鹿な」
いやでも確かによく考えたら高ぇし、作って無けりゃ贈ってねぇな。
「良いから行くよ」
「あ、はい」
ヒナに手を引かれて部屋を出る。
「プレゼント、ありがとう」
「ん?ああ、要らなかったら売っても良いからなぁぁぁあああ手がッ、手が潰れるゥゥ!?」
余りの握力に膝を着くとアコから往復ビンタをお見舞いされた。俺も銃使うから握力には自信があったんだけどなぁ……。
「?そんなに痛い?」
「え、もしかしてあんまり力入れてない?」
「そこそこくらい」
「サンクタさぁ……」
もっと良い感じの種族特性が欲しかった。
「うめ、うめ……」
「誰も取らないからゆっくり食べてください」
「おっと、 悪い。でも、キヴォトスの飯はどこも美味いな。あっちとは大違いだ」
「そんなに?」
「ロドスや都市はそうでもねぇけど、都市から少し離れた所で腐るギリギリくらいの魚を出された時は刀抜きかけたな」
「それは……」
「限界過ぎますね……」
「そうそう、だからこっちの飯は最高だな!」
「……追加で頼みますか?」
「おかわりも良いのか!?」
なんてこった、フウカもそうだったが良い子はほんとに良い子じゃねぇの!ひゃっほう、パーティだ!
「ふぅ、食った食った……」
お会計の時にヒナが払って店員から二度見されたが気にしない。なぜなら今の俺はヒモと言ってもいいからな!
「自慢出来る事じゃないですよ」
「あれ、口に出してねぇぞ。まさかこの短時間で俺の心を……!?」
「貴方が単純なだけです!」
「二人共、帰るよ」
「はい!」
「うーい」
二人の後ろを着いて歩きながら周囲を見る。こんな時間だが学生が意外といる。それとロボットとペッローやフェリーンが多い。こういう風景は変わらないな。
少し離れているから良いかと思いタバコを咥えて火をつける。ダメだな、どうにも感傷的になっちまう。
「タバコ、吸うんだ」
「ん、まあな。うちのちびっ子共に怒られて一日二本だけって言われたけど」
ラナとポデンコめ……。あの二人がタバコをたくさん吸ったら寿命が縮むってあいつらに教えたせいで一日中密着状態で説得された。
「まあ、ちびっ子っつってもお前らと歳はそんなに変わんねぇけどな。後で写真見せてやるよ」
「楽しみにしてる」
表情はあまり変わらないが、どこか少し楽しそうな雰囲気でそう言った。
……シャマレに似てるかも、そう思って頭に手を置いた。
「……何?」
「知り合いにちょっと似ててな、悪い」
「別に……良いけど……」
ぷいっと反対を向く。なんだなんだこいつめ、堅物ちゃんかと思ったら可愛いじゃあねぇのよ。
「どうして、委員長の頭に手なんて置いているんですか……?」
「へぁ?」
手首が万力で潰された。違った、アコに手首を握られた。
「帰りますよ!」
「……ッ!?……ホウッ!?」
そのまま引き摺られるように連れていかれた。
「あ……もうちょっと、してくれても良かったのに……」
翌朝、ラックとヒナが起きるよりも前にアコは目を覚ました。
「そういえば、泊まっていましたね」
ぐっ、と一度伸びをして昨日スマホを置いた机を見ると見慣れないサングラスが置いてあった。
「ラックさんのでしょうか」
ふむと少し考えて、なんとなくサングラスをかけて鏡を見る。
「……余り似合ってないですね」
ポツリと呟いて外そうとした時、サングラスのレンズに文字列が映し出された。
『システム起動、認証開始……失敗、対象天雨アコをゲストとして認証……成功
おはようございます、アコ様』
「は、はい……?」
『サヤです。こちらのサングラスは昨日ラック様が装備していたゴーグルの別形態です』
「あ、ああ、そうなんですね。勝手に着けてすみません」
『構いません、ラック様も恐らく気にしないでしょう』
「それはそうかもしれませんが……」
『良ければ、お二人が起きるまで写真などを見ては如何でしょう?昨日のラック様の話では分からない事もあったでしょう』
「良いんですか?」
『ロドスの機密に関わる事でなければ問題ありません』
「……機密データも入っているんですか?」
『入っています』
「た、例えば……?」
『概要だけ話しても問題ない範囲で言えばロドスの女性オペレーターのスリーサイズ等です』
「そんなものとっとと消去してください」
アコが呆れた声でそういう。
『写真を表示します』
アコの視界に様々な人達の写真が現れる。全員にヘイローがあるわけでもなく、人によっては傷跡が残ったままの人もいた。
「……大人がたくさんいますね」
『むしろキヴォトスが少なすぎるくらいだと思いますが』
写真の中でのラックはほとんど笑っていたり、誰かと肩を組んで酒を飲んでいた。
「あまり変わらないんですね」
『一応ラック様もこちらに来てからは多少は自重していますよ』
「え?自然体に見えますけど」
『そういうのが得意な方ですから。今も寝ているように見えて起きているかも知れませんよ』
アコが慌ててラックを見ると、まだ寝息を立てていた。
『冗談です』
「……もう」
コンコン、とサヤの本体である鞘を指で叩く。
『ではお詫びに珍しいラック様の写真を』
「珍しい?」
そうして映し出されたのはどこか寂しげ顔でタバコを吸うラックだった。
「……?これのどこが珍しいんですか?」
『私のライブラリ内でラック様が寂しそうな顔をしている写真はこれだけですので』
「なるほど……」
『意外と寂しがり屋なのですよ』
「何余計な事言ってやがる……」
「ッ!?」
『おはようございます』
「おう……さっきの、別にそんなんじゃねぇから」
顔洗ってくるとだけ残して部屋から出て行った。
「サヤめ……」
俺は別に寂しがり屋じゃねぇっての、それなら一人で旅しつつトランスポーターなんかやってねぇし。まあ?たまにモスティマ達に会いたくなる事だってあるけど、別に電話でもすれば話せるし。……今は電話も出来ねぇけど。
「……髪、伸びたな」
ため息を吐いて鏡を見ると、かなり髪が伸びていた。まあ、長い間切ってないからな。
顔を洗ったらアコにゴムか紐があるか聞いてみるか
「ゴムですか?私が持っている余りならありますけど」
「それでいいから貰ってもいいか?髪が思ったより伸びててな」
「構いませんけど」
ゴムを受け取ると髪を結ぼうとして止まる。上か下か、どっちで結ぼうか……。
「やり方が分からないんですか?なら貸してください、やってあげますから」
「え、ああ、じゃあ頼む」
悩んでいたらアコにゴムを取られ、慣れた手つきで髪をポニーテールに結ばれた。
「どうですか?」
「ふむ……アコはポニテが好きなんだな?」
「なんでそうなるんですか!?」
「……アコ、うるさい」
アコの声に反応して、ヒナが目を覚ました。
「よう、おはよう」
「おはよう」
眠そうに目を擦って顔を洗いに行った。
多分素は結構ズボラというかめんどくさがりなんだろうな。
「どうぞ」
「お、サンキュ」
アコからコーヒーを受け取って飲む。う〜ん、こんな秘書が俺も欲しい。
「子供の頃のラックさんって、可愛かったんですね」
「んっぐ……!?さ、サヤ、お前まだやってたのか」
『折角なので』
「あ〜、わかったわかった。好きにしろ」
「子供の頃のラック?」
多少スッキリした顔でヒナが戻ってきた。
「委員長もどうぞ」
「ありがとう。それで、さっきのは?」
「サヤさんに見せてもらったんです」
そう言ってヒナにサングラスが渡される。
『ヒナ様をゲストとして認証しました』
「小さい頃のラックのヘイローは白かったのね」
「ん、まあ、堕天使はちょっと条件があってな」
アコの用意してくれた惣菜パンを齧る。コンビニのパンも中々……。
「詳しい条件はわかってねぇけど、罪の意識とかだな。一番わかりやすいのは同族殺しとかだ。特に俺は故郷を飛び出して好き勝手やってたからな」
「殺し……」
「こっちじゃ殺しはする気はないから安心しな。つってもそう信じらんねぇか」
あっちじゃ殺し殺されなんて当たり前だったからなぁ。子供にはショッキングな内容か。
「朝から血生臭い会話はやめてもらえますか?」
「あ〜、悪ぃな」
「全く……」
「あ、そうだった。ラック、食べて少ししたらスマホを買いに行くから」
「それは良いけど、授業は?」
「今日は休日よ。とはいえ風紀委員会としての仕事はあるけれど」
「学生なのに大変な事で……」
俺ならやりたくねぇわ。
「住所や口座は一旦私と同じ所で良い?」
「それしかないだろ、悪ぃな」
「気にしないで。でも、ちゃんと返す事」
「おう」
店員が俺とヒナを交互に見る。気になるんだろうが当然無視だ。
そんなこんなで契約が終わり、スマホが渡される。
「連絡する時はモモトークってアプリがあるからそれを使って」
「え〜、これか」
随分可愛らしいアイコンだ。出会い系のアプリと勘違いしてしまいそうだな。
開いてみると、連絡先にはヒナだけが登録されていた。なるほど、目に見える形で知り合いの数が分かるんだな。つまり目指せ友達百人って事か。
「ん、バッチリだ。んじゃ、ここでお別れか?」
「そうね。私も仕事が残ってるから、すぐに戻らないと」
「体に気をつけてな」
最後に一度撫でて背を向ける。
「うん、ラックも気をつけてね」
背を向けたまま手だけで返事をした。
『それで、やっぱりこうなるんですね』
「だって金ねぇし……」
数時間後、俺はまた飛行機のタイヤ格納庫に入っていた。
本当はゲヘナに不法侵入して咎められるし、風紀委員室には泊まれないし、そうそう生活基盤が揃わない事なんたわかってる━━━━ただ、展開的にそうした方が後々楽なのと仕事を眺めながら酒を飲む描写を入れたかっただけなんだ。
女性先生に決まりましたがどんな人?
-
スーツでキメたポニテ先生。凛々しい
-
ゆるっと女子大生みたいな先生。ポワポワ
-
その他。後で活動報告で枠作るのでそこに