ありふれた異世界剣豪は世界最強   作:NOUMINのライバルTUBAME

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人気そうなら続きます。
序盤は飛ばし飛ばしの予定。


第一話

 

「はァッッ!!」

 

「まだまだ甘いぞッッッ!!」

 

 二人の剣客が真剣をぶつけあい、火花を散らす。

 その空間は誰にも侵すことの出来ない、()()であり、決別の義でもあった。

 深い紺色の長髪を後ろにゴムでまとめただけの少年──佐々木一心は、目の前の師匠とも呼べる存在に向かい大きく踏み込み、その頭上から一太刀浴びせる。

 しかし、渾身の一撃とも言えるその攻撃をいとも簡単に受け流すとそこから攻めに転じ、高速の突き上げを放った。

 先程の受け流しとは違い、一心の方は危機一髪と言った様子で何とか防ぎきるとこのままでは押し切られると判断し一度後ろへ飛んで距離を取った。

 

「良い判断じゃ」

 

「はァはぁ…伊達に、師匠と試合してませんからね……!」

 

()()はな。じゃが今の──()()は違うぞ?」

 

「分かってますよ」──と、半ば吐き捨てながらも眼前の老人を見る。

 その姿は一本の大樹の様で、揺るがない精神性とブレることの無い剣筋がその全身から()として放出されてるようであった。

 その様子に一心も思わずゴクリ──と喉を鳴らす。

 

「(食らいついてはいる。だが互いに決め手に欠けていてどちらにしろ千日手……いや、相手は奥義があってこっちは無い……あるにはあるが実戦段階では……だがこのままでは………)」

 

 息を吐く。息を吸う。

 刀を握る手が更に強くなる。

 

 周りには誰もおらず、ただ二人の剣戟と呼吸音だけとなっている。

 

「師匠。俺は、俺は──」

 

「皆まで言うな。分かっておる」

 

 一心の零した弱音に否定するでもなくただ頷いて受け止め、その上でニヤリと笑う。

 

「──なれば、この後は剣にて語るしかあるまい」

 

「…………、…………応!」

 

 互いに同じ構えを取る。

 視線が交錯する。これで最後になるだろうと、同じ思いを二人は抱く。

「締まらないな」「全くです」と、目線だけで会話をすると、少しだけ一心は笑っていた。

 

「「秘剣───」」

 

 はて、勝ったのは誰だったか──

 

 

 ■■

 

 

 ──彼の生まれである佐々木家は、一言で表すならば『異常』だ。

 

 佐々木家の元はただの農家であったが、安土桃山時代から江戸初期には実在したとされる剣客、佐々木小次郎が現れたことにより、彼が残した剣術を教える学び舎──剣術道場としての名が広く知られることとなった。

 佐々木家の道場が受け継ぐ「岩流」はかつての開祖である「燕返し」を取得することで免許皆伝となる。

 しかし、今日に至るまで佐々木小次郎が収めたと言われる「燕返し」──開祖である佐々木小次郎以外が──を会得出来た者は居ない。

 では何故、佐々木家はいとも簡単に家業であった農家を捨ててまで、剣の道へと進んだのか。

 

 ──その理由は至って単純なものだった。

 ただ単に──その剣は美しかったのだ。

 どうしようもなく。狂おしいほどに。

 当時の指南書を読んでみれば、そこには計算し尽くされた動きと、型が記されていた。

 実際にその通りに動いて見ると──なるほど、これ程合理的で作り込まれた動きは無い、と感じてしまう。だが、その反面、まだこの書物に記されているような動きは出来ていない──この型は()()()()()と思えて来てしまう。

 

 あぁ、本当ならばこんなに醜く、鈍重で、不格好では無いのに。

 本当なら、もっと、完璧で、美しくて、滑らかなのに。

 求めても求めても、届かない到達点。

 藻掻き、足掻いても、その一端すら掴ませてはくれない。

  

『完璧』というのは劇薬だ。

 眺めるだけならば、ただその素晴らしさを享受するだけでいい。

 しかし、求めるということであれば別だ。

 どんなに剣を振るおうが、児戯のように見えてしまう。まるで満足しないのだ。完成系は既にあると言うのに──嗚呼悲しいかな。全てに満足が出来ない。

 

 佐々木家はそんな魔性に魅入られてしまった一族であり、呪縛から逃れられぬ、憐れで、愚かな一族だ。

 

 そんな一家にとある少年が生まれた。

 念願の長男だ。その名を佐々木一心と言う。異端の家に生まれた異端の子(転生者)

 生まれた瞬間から自我があるとは知らず、齢一歳の頃から五年間ずっと木刀を振り始めた。

 世間から見れば、その行為は異端だろう。

 しかし、佐々木家にとっては手放しで喜ぶべき()()であった。

 

「天才じゃ」

「神童じゃ」

「ひょっしたら開祖様の生まれ変わりなのではなかろうか」

「八重樫の娘と縁談を考えても良いのでは──」

 

 と、老人たちは喜んだ──が、当然そこによく思わない連中もいた。

 

「餓鬼が調子に乗って──」

「小さい頃から木刀を振り続けてるからなんだ」

「不気味な子──」 

 

 主に道場に通い、岩流の取得に勤しむ若い層であった。

 

 そんな禍福渦巻く感情を向けられている彼──佐々木一心は、転生したと同時に共にいた奇妙な同居人に対して困惑していた。

 

「ぜェ…ぜェ……ちょっと……キッつい……んだけど………?」

 

 ──『四の五の言うでない。その身体を持って()()()()()()んじゃ。ホレ腕が止まっておるぞー』

 

 嗄れた老人の声が一心の中で呑気に響く。

 既に腕を動かすのもキツイというのに、更に動かそうとするこのジジィは鬼畜だ──と恨み言を飲み込みながら素振りを再開する。

 

 佐々木道場の木刀は特殊だ。

 普通の剣道の木刀よりも遥かに長く、それは数字にして約三尺──つまり90cmの太刀である。かの有名な剣豪──佐々木小次郎の持っていた通称物干し竿と呼ばれた刀と同じサイズなのである。

 それを佐々木一心は五歳で軽々と振っていた。

 これで、彼の異様がわかるだろう。

 ただの幼子がこれを振っているのだ。まだ生まれて五年の、幼子が。

 

「そ、ろそろ……(やす)んでも……?」

 

 ──『あと90回じゃが?』

 

「ふざけんなそれだと一万回振(いちまんかいふ)れっていってるようなもんじゃねぇか!!」

 

 ──『儂がお主ぐらいの時はそのくらい余裕じゃったが?』

 

「こわぁ……」

 

 ──『ほい、十秒手が止まったのぅ?それじゃ電流じゃよー』

 

「し、しまっ──あばばばばばば」

 

 たった十秒。されど十秒という教えの元、一心は片時も休むことを許されずに素振りを続けさせられていた。

 

 何故、こんな事になってしまったのか。一心は遠い目をしながら記憶を辿った。

 

 

■■

 

 

 いつ、どうしてこうなったかは覚えてはいない。ただ"自分"という存在が、どこかの世界で死んで、この世界に生まれ変わった──という漠然的な意識があった。

 喉は赤子のように──いや実際には赤子なので、おぎゃあと泣いていた。周りの声はよく聞こえないが、どうやら喜んではいるらしい。良かった。どうやら俺は祝福されて生まれた子のよう──『なんじゃ、随分と辛気臭いのう』誰だ!?!?

 

 ──『儂か?そうじゃのう……儂は主の一族を狂わせてしまった元凶のジジイ、とだけ言っておこうかの』

 

 いやあの……なんかすっげえ不穏なんですけどアンタ。人斬りみたいですね?

 

 ──『いんや。ただ棒振りの真似事をしていた農民にすぎんよ』

 

 ……そんな農民が一族を狂わせる、だなんてことはしないと思うんですけど。

 

 ──『いやー儂は才能があったのか知らんが、ちぃとその棒振りが上手く行き過ぎての。自分でも文句が付けようもないもんだから書に詳しく残しておいたんじゃよ。そしたら……なんか、あとからそれを読んだ奴がなんかすごい拗らせちゃって……』

 

 あーー…何となく察しましたわ……。大変ですね。

 

 ──『じゃろ?死んだ後もこうして幽霊みたいな感じで漂って見守ってたんじゃがずっっと儂の剣を求めてさまよってるこの一族を見てるとなんだか哀れに思えてきてのぉ……それ故、儂は神様にお願いしたんじゃ。"気骨のある魂をこの子に宿してください、とな』

 

 ──『結果はご存知の通りじゃ。まァ本当に来るとは思っておらなんだが……まぁ良い。それでだ。お主にはこの宿業を終わらせて欲しいんじゃ』

 

 ………色々情報量がありすぎて困るんですが……まぁそういうことでしたら。その願い、受け入れましょう。

 貴方のおかげで俺は第二の生を歩むことができるので。それに、前世では病気でろくに運動も出来なかったので今世では病気にも負けないくらい強くなりたいです!

 

 ──『ふン、よく言うわ。じゃが、厳しいぞ儂は』

 

 望むところです!!

 

 

 ■■

 

 

「大体こんな感じだった気がする」──と、あやふやな記憶を辿って今の現状を嘆く。もう少し、手心が欲しかった──と更に嘆く。

 

 しかし、幸か不幸か。()()()()とも呼べる身体を持って生まれた一心は師匠でもある佐々木小次郎の特訓メニューに着いていけてしまったのだ。

 故に、こうなることは確定事項だったのである。

 

「っしゃあああ!!おわった!!」

 

 舌足らずの口で吠えながら地面に倒れ込む一心。

 彼の中にいる師匠も素振りの内容には満足したようで何も言わないでいた。

 不意にざり、と庭の砂利が音を立てた。一心は立ち上がる元気はあまり無かったが、何か用事があるのかもしれないと思い首だけ動かして、その音の方へと顔を向ける。

 

「おや、お坊ちゃま。素振りは終えになったんですね」

 

 そこに居たのは自身の身の回りの世話をしている老女で、一心の住む屋敷で代々使用人を務めているという──のを自身の親から聞いていた。

 

「あぁはい」と、生返事をしながらも一心はその老女に対して苦手意識を抱いていた。別に、嫌っている訳では無いのだが──なんというか、慣れないのだ。

 自分に対して()()()()()()()()()()()()()()()姿や、それに対してまるで当然の事だと言うように受け入れている佐々木家に対しても。

 

 ──『昔はこんなことはなかったんじゃがのう…』

 

 師匠の残念そうな声が一心の中でぽつねんと響く。

 

 一心も気になってはいた。何故、こうまでしてこんなジジイの剣術を修めたいのだろうか──と。

 

 ──『ふン』

 

「あばばば!……な、なんでぇ?」

 

 ──『失礼なこと考えとったろ?筒抜けなんじゃよ馬鹿め』

 

「ぐぬぬ…」と恨めしげに唸る一心と先程よりかは楽しそうな師匠。

 

「──では、昼餉にしましょうね」

 

 時折、変に痺れたようになっては虚空に向かって何かを話す一心をスルーして、老女はそう提案した。

 一心も腹は空いているのか「……はい」と小さく返事をして部屋へと入って行く老女の後を着いて行った。

 

「(あの人たちと昼飯か……嫌なんだよなァ……今どき流行らないよ男尊女卑とかさ)」

 

 ギシ、ギシと木の軋む音を聞きながら廊下を歩く。

 そして老女が部屋の前で止まると、「ここでお待ちください」と言った後に襖を開く。部屋はそこそこ広く、4.50人は入れそうであった。

 部屋の中では着物を着て、畳に座っていた一心の家族たちが座って待っていて、開いた瞬間から視線が一心へと集まっていた。

 

「あー……どうもおくれまし──「遅いぞ一心。鍛錬に励むのも良いが間に合うようにしてもらわなくてはな」…はい」

 

 顔には出さなかったが、心の中では心底うんざりしていた。

 どうやら一心の事が気に食わないらしく、顔を合わせるといつも飛んでくるのは嫌味か皮肉。精神が成熟してるのもあって特にノーダメージであったためか適当に流しているのだが、その様子すら彼の家族を腹立たせるには十分であった。

 何を言っても好感度が下がる無理ゲー──と一心は諦めていた。

 しかし悲しいかな。これが佐々木家の日常なのだ。

 究極の一を求める為に、家族、兄弟、友人すら蹴落とすエゴイストの集団という訳だ。

 

「素振りばっかして、肝心の型を全くしてないそうじゃないか」

「棒振りでは無いのだぞ「岩流」は──」

「天才児、とは名ばかりの変人ではないか」

 

 今日も今日とて皮肉が飛び交う。

 叔父、親戚、従兄弟、父親が一心を嘲笑う。

 

 ──『下らんのぅ…』

 

「(全くです)」

 

 一心の師匠にして先祖である佐々木小次郎は、自身の編み出した岩流(それ)をそんなに大したものと捉えておらず、せめて護身術程度になれば良い──なんならただの棒振りの指南書でしかないと、開祖自身がそう思っているのが真の皮肉と言える。

 

 そう師匠自身が断じているのを知ってるし、なんなら一心もそう思っているので、師匠のうんざりとした言葉には深く頷いた。

 

 無表情で、一族の皮肉を受け流していると食事が運ばれてきた。

 今日の献立は米に味噌汁、肉じゃがと筑前煮。そして付け合せの漬物だ。

 

 相変わらず飯だけは豪華だし美味い──と独りごちてから箸を手に取った。

 

 食事が進むにつれて周りは静かになる。誰もが皆箸を動かしている時、現当主である父──佐々木宗真(そうしん)が徐に一心を見ると、鼻で笑いながらこう言った。

 

「そういえば一心。お前はまだ師を付けておらんかったなぁ?どこかしらで付けてやろうかと思ったがすっかり忘れとったわ。そりゃあ師がいなければ素振りしか出来んわなぁ?」

 

 ハッハッハッハ──と心底馬鹿にしたように笑い、くっちゃくっちゃと口を動かしながら──一心は父親の言葉よりもその行儀の悪さからドン引きしてた──のを悔しがっていると勘違いしたのか、こんな提案をしてきたのだった。

 

「どれ、俺が一つ稽古をしてやろう」

 

 

「…………ヘェ、それはそれは面白そうじゃないですか」

 

 口の中のものを熱い緑茶で流し込み、挑戦的に一心は笑った。

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