ありふれた異世界剣豪は世界最強 作:NOUMINのライバルTUBAME
◇
──『一心。』
──『人生というのは選択の連続じゃ。この長い人生できっと多くの選択を迫られるであろう』
──『……後悔も絶望もあるじゃろう。しかし』
──『だからと言ってそこで思考を辞めてはならない。考え続けるのじゃ。良いか、決して驕るのでは無いぞ?』
──『選択したあとの結果など、誰にもわからんからのぅ』
──『せいぜい悔いのない方を選ぶのじゃ』
◇
──オルクス大迷宮、その攻略の為に冒険者の宿場町【ホルアド】に来ていた。
一心含めた生徒たちは実戦訓練の一環として遠征に来ていたのである。
そも、オルクス大迷宮とは?──それは全百階層からなると言われる大迷宮であり、世界七大迷宮の一つと呼ばれている。大きな特徴として、階層が深くになるにつれてモンスターが強くなっていく。
だが、裏を返せば階層によって出てくるモンスターの強さを測りやすいためか冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気があり、また出現する魔物が地上の生物よりも遥かに良い魔石を体内に抱えているのだ。
つぎに、魔石というのは簡単に言えば、魔物を魔物たらしめる力の核の事を差し、魔法陣を組んだり日常生活用の魔法具にも使うことができるため日常生活においても需要が高い品となっている。
ちなみに、良質な魔石を体内に持つ魔物ほど、強力な【固有魔法】を使う。固有魔法とは、詠唱や魔法陣を使えない魔物が扱う唯一の魔法である。──しかし、その魔法には詠唱も、魔法陣もなしに放つ事が出来るためたかが魔物と一言では侮れない、というわけである。
王国直営の宿として与えられた部屋に二人一部屋与えられ、一心とハジメはそこで本を読みながら寛いでいた。
「……なるほど固有魔法、か」
「たしか……強い魔物が使う唯一の魔法ってやつ?」
「あぁ、俺みたいな前衛職が何を……って思うかもしれねぇが手数があるのはそれだけで強みになる。せっかく異世界に来たんだ魔法の一つや二つくらいは使ってみたいだろ?」
「たしかに。やっぱりロマンだよね、魔法」
「ロマンだよな、魔法」
二人はまるで子供のように目を輝かせながら語る。
男というのはどこまで行ってもロマンに弱いのだ。
やはり使うなら派手な魔法が良いだとか、「これはメラ◯ーマではない!◯ラだ!」というシチュエーションはやってみたいよなだとか、「いや僕はFF派だからメ○オの方が打ちたいな」──と言った、他愛のない会話がゆっくりとした時間が流れていく。
不意に、ノックの音が二人の部屋に響いた。
「俺行くよ」と、寝転がっていた体を起こしつつ一心はドアへと向かう。
──この前みたいに刺客じゃなきゃいいが。
そんな物騒なことを考えながらドアを開けると、そこには香織がいた。一心は内心でほっと息を着きつつ「あの……ハジメくん、いる?」──と、問いかけてくる香織を見て合点が言ったような、ニマニマと気持ち悪い笑みを浮かべると香織を部屋に通した。
「し、白崎さん?!」
まさか学園の女神がこんな夜中に、ましてや男しかいないこんな部屋に来るとは思ってもいなかったのか少し声を裏返えさせながら驚く。
「あー少し風に当たりたくなって来ちゃったなー」
アニメ映画のゲスト声優にされた俳優の演技のような棒読みで一心は素早く部屋を出ていった。なお、ハジメの悲痛な「待ってよ!」という言葉は彼に届かなかったようであった。
──部屋を出た一心は、香織とハジメに気付かれることなく
◇
部屋を出た一心は真っ直ぐ宿のバルコニーへと向かった。
「──悪い予感は当たってたか」
屋根を見てみれば。
月をバックにして立ち、全身を黒装束に身を包んだ──暗殺者がそこにはいた。
この街に入ってからずっと感じていた視線、その正体がわかったところで一心はふと疑問に思う。
「(あの視線の量の割に暗殺者が一人?もっといたはずだが……)」
右手に持った木刀の柄に左手を添えながら周囲を観察するも、あの無数の突き刺さるような視線の主達は見当たらなかった。
「暗殺者のくせに暗殺対象に見つかってたら暗殺の意味ねーじゃん」
「……は、暗殺などただ標的を殺す、これで十分だろう?」
「言えてる」
軽口を互いに叩きながら一心は屋根に飛び乗った。
──そこで、一心は衝撃的な光景を見ることとなる。
「ンだこの量……全員……俺を狙った刺客……ってことか?」
「ふ、はははは!!!そう!我
屋根を埋め尽くすように立つ黒い人、人、人。
老若男女問わず、各々の武器を持って一心を取り囲んでいた。その光景を見て漸くあの視線は彼等であったことを理解した。
そこまで、そこまでして己を亡き者にしたいのかと舌を巻くとともに、大方予想通りヘイトを己に向けることに成功してほくそ笑む一心。
量はおそらく百近く。
全員訓練された
──正しく絶体絶命。しかし、だからなんだと言うのだ。
「……何が可笑しい」
「いやなに、異世界流の
一心の口角が上がり、感覚が鋭く研ぎ澄まされて行く。
「──もてなされたらちゃあんとお返し、しなくちゃなぁ?」
「何を──」と、言おうとした男は二の句を話す事が出来ずに、意識を刈り取られた。
そして、それが開戦の合図となった。
刺客の皆、仲間がやられたとしても動揺は無い。何故ならば彼も含めて『暗殺者集団ヤミ一家』なのだ。誰がやられようとも覚悟ができている。たとえ踏みしめるのが仲間の屍であろうと、暗殺にしては過剰すぎる人員を動員しながら進み続けた暗殺者でもあり戦士でもあるのが──ヤミ一家なのである。
──前方。
四方八方から迫りくる黒装束。一心は獰猛な笑みを浮かべながら一番最初に飛びかかってきた身軽そうな黒装束の頭を鷲掴むと固まって動いていた三人に思いっきり投げつけ、腹部を思いっきり木刀で突き刺しつつ吹っ飛ばす。
──背後。
どこからか取り出したのか問いただしたくなるような大きさの大剣を振り下ろす大男。一心はそれを
──左右。
一心の視界は広く、研ぎ澄まされた野生の勘も合わさっている為か──黒塗りされた
ガィィン!!と弾いた音が鈍く響いた音を聴きながらお返しとばかりに左右にほぼ同着の
──天。
音もなく、然し確実に迫り来る投げナイフを僅かな空気の揺らぎから察知した一心は、木刀を空に向かって一度だけ全力で振るった。すると、空を埋め尽くすように飛来してきていた投げナイフたちがたった一振りで巻き起こした風によって一心の足元へ音を立てて撃ち落とされた。
──それは、黒装束達にとって衝撃的な光景だった。
まず、複数人による撹乱と足止め。命を捨てた特攻とも言っていい戦法で相手の動きを止めようとしたが、全て鎧袖一触。触れることすら許されず飛びかかった者たちは地面に倒れた。
……だが、ここ迄ならまだいい。問題はその後だ。
視界を奪い、意識を自分たちへ向けることで、空から飛来する投げナイフでダメージを与える腹積もりだったはずが──ただの一振りでその策略も無に期したのだ。馬鹿げた膂力で、魔法の痕跡すら感じさせなかったことに、驚愕していた。
たった一人だけの暗殺。油断していたと言っていい。
しかし、まだ
たとえ、それが同胞達に巻き添えを食らわすとしたとしても、目標は必ず達成するための致し方ない犠牲であり、ヤミ一家にとってはそれもまた一つの誉でもあるのだ。
「(何かしようとしている──?)」
いきなり黒装束が一点に集まりだしたことに警戒し、一心は警戒を強めつつ、木刀を両手で強く握りしめた。
──舞台は夜。月は隠れ、夜闇のベールが彼らを抱擁する。
「───」
何かを唱え終わった黒装束達。その一番前にいたものの手に黒く
──それは黒く。
──それは妖しく。
──されど灯った。
ヤミ一家が編み出した
「──これは、我らが貴殿を戦士と認めた上での魔法。この炎に抱かれることになる者が現れるのは……実に百年ぶりか」
黒炎、それはヤミ一家相伝の魔法であり──唯一使うことの許された最強の魔法。発動に数十人分の魔力を必要とするが、その効果は絶大であり──音もなく、悲鳴をあげることすら許されずに対象を黒き炎で焼き尽くす。
「……面白い。ならば、こちらも全力で往かせてもらおう」
そんな説明を聞かされては、一心とて手を抜くことはしない。
彼の心に浮かぶは敬意。確実に目的を遂行し、どのような犠牲を払ってでも進み続けようとする彼らに尊敬の念をもって、一心は木刀を構え直す。「ほんと、ウチの奴らに爪を煎じて飲ませてやりたいくらいだ──」とボヤきつつ、一心は己が返せる最高の敬意を持って迎え撃たんと、腰を低く落とした。
一陣の風が吹き──そして、
「──黒炎・」
限界まで引き絞られた炎弓が辛抱たまらぬと言った様子で曲がって、
「獄矢──!!」
放たれた。
一心はその矢が一切の音を立てずに、しかし音速で迫ってきている事に舌を巻いた。なるほど、これは最強の暗殺魔法だ、と。燃え盛る黒炎の矢は闇夜では視認はおろかあるのかどうかすら分からなくなるであろう。これに貫かれればどのような人間でも音を立てずに殺せる。
凄まじい技だ──と一心は素直に賞賛した。
──それでも。
だが、それが己の奥義に
──否、断じて否である!!!!
師匠に教わった剣術は、師匠に扱かれた毎日は、経験となり、自信となり一心に染み付いている。
故に彼らには敬意と、傲慢を持ってこの技で返すことを決めたのだ。
「──秘剣・燕返し」
その斬撃は
◆
いやぁ、中々楽しめたね。個人個人で見ればメルド団長の方が強いだろうけど集団で動けば彼以上の力を発揮するのが面白い。集団戦法を暗殺仕様に極めた者達って感じだ。
ふふ、まさか破られるとは思っていなかったんだろうな。みんな惚けてら。まぁね、燕返しを使った以上負けるって訳にも行かないしな。当然の結果よ
「……ふふ、ははは!!!まさか、まさかここまでとはな!今際の際にこのような戦士と戦わせてくれた事に依頼主へ感謝の言葉を送りたいくらいだ!」
「一応聞くが……依頼主は?」
「死んでも言わぬよ。拷問されようともな」
「なーるほどねぇ……」
正直に言おう。俺はこいつらを気に入った。
まぁつまり、だ。
「──もし、お前たちが良ければの話なんだが……俺の仲間にならないのか?」
「……それは、我等を雇うということか?申し訳ないが、依頼を受けている以上、たとえ倍の金を積まれようとも──」
「そういうことじゃねぇよ」
黒炎を放った暗殺者の言葉を遮り、否定する。目の前の彼(または彼女?)は、首を傾げていた。
「俺は
「──ッそれは?!」
月が夜闇の雲から抜け出し、青白く周囲を照らす。
ヤミ一家は俺の言葉に耳を傾けているようだ。
「多くは言わねェ。お前たちが気に入った、だから俺の部下として来い。外野がとやかく言うようであれば俺が黙らせる、邪魔が入れは俺が叩き斬る──だから」
手を差し伸べ、ニィっと笑った。
「──共に世界をひっくり返そう。ヤミ一家」
王国を内部から探るって意味じゃ彼ら以上の適任は居ないだろう。味方を増やし、戦力を整える。
クラスメイトの奴らが信用出来ないと言いたいわけじゃないが……あそこまで論外が多いと信用できるのが南雲、遠藤、雫、愛子ちゃん先生辺りだろうか。うそっ俺のクラスマトモな人間少なすぎ……?
まぁいい。ともかく、俺の感情的な意味でもあり合理的な理由からヤミ一家を引き込みたいのだ。
「…………我らは……我らは……」
「別にいま答えを出せとは言わない。ただ考えてくれるだけでもいい」
まぁ本当は今すぐ頷いて欲しいけど、せっかちな男は嫌われるって師匠が言ってたし期限を設けてその日までに決めてくれたらいいよ。仮に仲間にならないってならはいサヨナラでいいし。また来たとしても返り討ちにできるしな。
「……我等は、群れる。それは弱いからであり、貴方には迷惑を──」
「いや別に特性を活かすのが悪い訳じゃねぇだろ。現にお前らは数で戦うタイプ。暗殺者ってのは目標を暗殺するのが仕事だろ?群れるからなんだ、それでここまでやれてるんだから上出来さ」
目の前の黒装束はハッ、と何かに気付いたように俺を見上げる。
相変わらず顔はよく見えないが、フード越しにきらりと綺麗な翡翠の目が煌めいていた気がした。
──うーん、あと一押しか?……いやぁもうしつこくなってくるところか。
こういう交渉の難しいところだな。押し引きのギリギリを見極めなくちゃならん。
さて、さてさて……どう出てくるかな?
◇
──ヤミ一家。その成り立ちはどこまでも
人間族と魔人族の何百年にも渡る戦争。その中で戦火に巻き込まれ消えてしまった地図にもないような村や集落が犠牲になった。そこで何とか生き延びたもの達が、人族と魔人族関係なく身を寄せあい生まれたのが暗殺集団ヤミ一家である。
歴史の
しかし、手元に残ったのはやせ細った大地に奴隷にするために日々襲撃してくる人攫い。どう考えても真っ当な生き方は選べなかった。
──故に牙を研いだ。
弱ければ死に場所すら選べない。必死に鍛え、自己流で技術を身につけ、少ないが魔法を扱えるもの達が知識を振り絞り《黒炎》を編み出した。
技を磨く。戦法を編み出す。
誰にも認められることは無かった。卑怯者とも罵られた。
──それでも、これしかない。
精神をすり減らしながらも彼らは進み続けた。
そこに複数の仲間の犠牲があったとしても。魔族と人族の100年続いた戦争、その
それは、今までも。そしてこれからも変わらぬ事実であるはず……だった。
佐々木一心という、規格外の怪物と出会うまでは。
顔なじみの
……結果は、ご存知の通りだろう。ヤミ一家は一太刀も浴びせることが叶わず、佐々木一心に敗北した。
ああ、我らもこれまでなのだろう。と諦めたように空を見上げた。死にたくは無い。──しかし、心のどこかではこれもまた自業自得なのだ、天罰が下ったのだと思っているところがあった。
当然だ。人を殺す暗殺稼業に手を出した以上、極楽に行けるなんて端から思ってはいない。
そう覚悟していたはずだった。
蓋を開けてみれば、生殺与奪の権を握っているはずの佐々木一心が自分たちの事を気に入り、あまつさえ仲間として迎え入れると言ってきたのだ。
「……その申し出は嬉しい。だが、やはり我らはお前の荷物にしかならんだろう」
「はぁ。何度もいわせるな」
「──誇れ、お前らは強い」
「………………あぁ………」
圧倒的な強者たる佐々木一心に「強い」と認められた彼らの心の中には一筋の光明が差していた。そして、命を狙いにきた自分たちを笑って歓迎しようとしているのだ。そんな一心に心が揺さぶられなかった者など、誰一人としていなかった。
強さに魅せられ、器の大きさに心が震えた。
ならば、答えは一つだろう。
「──承知しました。我ら、命から尊厳に至るまで全て貴方様に捧げると誓いましょう」
「えっ重………うぉっほん!あ、ああ!よろしく頼むよ」
この日、この時彼らは新しく佐々木一心を主君と定めその一族に至るまで尽くすと決めた。
◇
──遠い未来の話。
「あの時はそう、味方を増やそうとかって気軽な気持ちだったんだ。あんな重い過去があるなんて知らなかったんだ。……うん、いま思い返してみたらだいぶカリスマムーブキメてるな。そりゃ脳も焼かれるわ。うん……」
「重い過去と無自覚カリスマが悪魔合体しちゃったのは仕方ないとしよう。……この八重樫家との息のあいよう何?もう家族か何かってくらい意気投合してるじゃん……」
「えっ、ここに明日からくるあのバグ兎も加わるの??」
「……胃薬、あと3ダースくらい注文するか……」
ヤミ一家……言ってしまえば一心版ハウリア族。
100年戦争してたらそりゃあ難民が発生していてもおかしくないよねって言うところでそういう設定にしました。
あとは前話でイシュタルが言っていた「100人の刺客」の伏線回収です。
追記:風の噂で聞いたんですけど、宮本さんちの伊織君ってあの燕返しを二刀流で放つって本当ですか???そんな無体なことしていいならウチの一心くんも盛ろうかな
※投稿期間について。
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5000文字くらいだ更新が遅い
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2000〜3000文字程度だが更新が早い