ありふれた異世界剣豪は世界最強 作:NOUMINのライバルTUBAME
「…………ヘェ、それはそれはおもしろそうじゃないですか」
緑茶の入った湯呑みを置いて部屋の中央に座る父、宗真へ顔を向ける一心。
何時もの煽りで言ったつもりの言葉だったはずなのに、返ってきた返事は意外にも好戦的なもので一瞬呆気に取られたものの、すぐにその意図を読み解いた宗真はニィっと笑いが顔に浮かんだ。
──『品性の欠片も無いの』
「(はは、今更こんな一族にそんなもん無いですよ)」──と辛辣に返すと師匠も、『それもそうじゃのう』と無感動に返した。仮にも祖先であり自分も同じ血が流れているのにもかかわらず他人事である。
「──で、いつからにします?」
「くはは…!おいおい随分と乗り気じゃねぇか?いいぜ、昼飯が終わってから道場でやろうじゃねぇか」
「りょうかいしました」
既に食べ終わった食器をまとめながら、一心は立ち上がるとそのまま立ち上がり、部屋を後にした。
──『まぁ、実戦の経験を積むいいチャンスじゃろ』
「(いやーそろそろ飽きてきたんですよね。師匠が斬ったって言う燕を
──『ふふ……一心、それがどれほど凄い事かいまいち理解しておらんじゃろ?』
「(凄いことって……いやただ漫画の真似事してるだけなんですけど……)」
──『ぶわっはっはっ!!そうか!!そうか!!読本の真似事か!!!くくく………!!やはりお主を選んだ神様は慧眼と言えるのぅ!!』
何をそこまで面白がるかよく分からなかったが、師匠が喜んでいるのならそれで良いか、と思うと道着に着替えるために自身の部屋へと向かうのであった。
■■
一心が部屋を出てしばらくした後。宗真は他の一族の者に「本当に挑むのか?」と聞かれていた。
「あァ?俺が言葉を違えるわけねぇだろうがよ。ガキだろうと容赦しねぇ。大体ムカついてたんだ、天才だ何だと持て囃されやがって。ここいらで一度、当主は誰か、親父が何なのか分からせてやらねぇといけねぇ」
「それに、彼奴のあの生意気な態度はテメェらも気に食わなかっただろ?」──と、下卑た笑いを浮かべて周りに問うた。
「確かに、兄貴の言う通りだな。彼奴は俺たちを超える可能性がある。そういう芽は摘んどかなきゃいけねぇ」
「僕も女をヤろうとした時に彼奴に妨害されたからねぇ……うん。それがいいね」
「強さに不必要な甘えを持ってる今こそ叩くべき──刀と一緒にだな」
──佐々木家は歪んでいる。致命的に。
もはや修復不可能な程に。
■■
──『この一族は歪んでしまった。儂の剣のせいで』
……否定は出来ない…けど、そこまで思い詰めるほどのことではないと思います。
──『そう言ってくれるのは嬉しいが、やはり後悔しかないんじゃ』
師匠……
──『だってあの書儂が若い頃に書いたからかすっごい厨二臭いんじゃもん!!!』
じゃもん!!じゃねぇよ!!!シリアス返せ!!さっきまでのしんみりとした感情を返せよ!!!ただ恥ずかしかっただけじゃねぇか!!!
──『何が天下無双の剣じゃ!!?武蔵に負けたじゃん??これ即ち無双の剣とか煉獄千剣斬とか何それ!!?!!?』
があああこっちまで恥ずかしくなるからやめろォ!!!
(少年&老人悶々中……)
──『と、言うわけでぶっ潰してくれないかの?』
はああ…………ま、いいですよ。
はァ……最初の頃の「宿業を断ち切ってくれ」とかもなんかそういう感じの言葉に思えてきましたわ。
──『……いや、そっちは本音じゃ』
……………と言うと?
──『儂は何の因果か、死んだ後もこのように幽霊として佐々木家を見てきた。否、見せられてきたのじゃ。
儂の愛した家族が歪んでしまう様を』
それは…………
──『書を書こうと思った時点で分かっておった。コレはきっと人を惑わし、畜生へと落としてしまうと。…分かっておって尚、書いてしまったんじゃよ儂は』
──『神様は罰を与えなさったのじゃ。あんなものを残してしまった儂に。……儂はどうにか止めたかった。……が、こんな身体じゃ意思疎通すら出来ん。どうすれば良いか考えに考えて──思いついたのが、一族に別の人間を入り込ませることじゃ』
……つまり、俺をこの世界、この一族に転生させる事によってこの歪みを正そうとしたってことですか?
──『そうじゃ。そのために、儂は毎日神様にお願いしておったのじゃよ。どうだ?失望したか?』
いや、そんなことはありませんよ。
師匠、アンタに対しては時々、いや結構ムカついてることが多かったのですが
──『えー……』
でも、それ以上に尊敬してるんですよ。一人の男として。
──『…………』
貴方は一本の太刀のような人だ。
誰よりも誇り高く、誰よりも強い。
自分のしてきたことに責任を持ってる、けれど自分のやってきた事を間違ってるとも思っていない。
貴方の剣術は美しいし、素晴らしい。絶対に後世に残すべき物だ。確かに、今の佐々木家がこうなってしまったのは貴方の遺した剣術のせいかもしれない。──けれど、それはきっと間違ってる。
──『間違って、いる?』
刀は所詮人斬包丁。使い手によってそれは人を殺すか活かすかは変わると、師匠は最初に言っていましたね?
それは技術にも同じことが言えるはずです。
剣術『岩流』だって、誰かを守るための剣にすることだって出来た。だけど、それは叶わなかった。間違った形で、その剣術は使われるようになってしまった。
だから、俺は斬りますよ。この佐々木家の呪いも、因果も、悪習も。全て
そして、0からまた始めるんです。新しい『岩流』を
──『は、は……ははははは!!!!面白い!面白いぞ一心!!!なればやって見せよ!!この程度の
はい!!絶対に……勝ってみせます!!
■■
佐々木宗真には絶対的な自信があった。それは自惚れなんかではなく、自他ともに認める才能があるが故の自信である。
──宗真が生まれて35年余り、その全ての人生を剣に捧げてきた。一応、家業である旅館の運営も携わっているがそれらは全て周りの者に仕事を押し付けて、自身は一切関わることをしなかった。
物心ついた時から『岩流』に魅せられて、木刀を振り続けていた。幸運にも、宗真には才能があった。それも今後数十年は出ないであろうと言われる程の物が。
彼はその事を自覚すると大いに喜び、そして更に鍛錬に打ち込んだ。他を顧みず、ただ愚直にそれを続けた。
気付けば、20歳にして当主だった男を下半身不随になるまで叩きのめし、新しく佐々木家の当主へと成り上がった。
宗真は歓喜し、そしてまた体に鞭を入れ直した。
このままいけば何れは極みに辿り着けるだろうと、期待して。
──しかし、そこから宗真は成長することは一切なかった。
何故だ。何故なんだと、宗真は荒れた。
自分には才能がある、力がある、技術がある。全て揃ってるはずなのに──と。
擦り切れる程指導書は読みなおした。それでもダメだった。
苦しい日々が続いた。
そんな時、佐々木家の老人たちに勧められたお見合いから婚約した女が自身の子供を産んだという話を耳にした。
宗真にとってその時点ではどうでも良かった。元々家族に対して愛なんてないのだ。ただ、当主としての仕事をしただけ、どうでもいい。と名付けはその母親に任せて自身は鍛錬に打ち込んだ。
そこから三年後、宗真は信じられない物を見た。
三歳になっていた自身の息子──一心が素振りをしていたのだ。
自分ですら、その歳の頃はただ遊んでいただけというのに、その息子はそれよりも早く剣に取り組んでいた。
その時だった。興味本位から見ていた佐々木家の老人がポツンとこんな言葉をこぼした。
「そういえば、指南書によると開祖様は齢一歳の頃から素振りを始めていたと言う。あの子もまた一歳の時からこの数年間、ずっと振っておった。──ともすると、あの子は生まれ変わりという可能性かもしれんのう……いや、はは有り得んか」
老人はそんな事を呟いて、その場を去っていったが誰よりもその開祖の剣を追い求めていた宗真にとっては聞き逃せなかった。
それ故に、だろうか。
宗真が自身の息子を──
「ぶち殺してやる」
と決意したのは。
■■
宗真にとってはこの機会はまたとない好機だった。
──前提条件として、佐々木家では決闘は身内同士しか観戦を許されない。秘匿決闘と呼ばれている。
それは如何なる理由があって出来事があったとしてもそれは外への漏洩を禁じられ、また揉み消される。
それはつまり、言葉を返せば
「(飛んで火に入る夏の虫とは正にこの事。ぶちのめしてやる)」
既に道場に入り、道着に着替えた宗真はどっかりと構えて決闘相手である一心を待つ。
しかし、一時間たった今まだ一心は姿を見せなかった。
「怖気付いたのか?」
「有り得る。なんせまだ
「ハッ──所詮は口だけってことか」
「違いない──」
観戦に来た門下生や一族の者達は口さがなく一心を罵るが、宗真だけは不気味さを感じていた。
「(あの顔、あの目──いま思い返しても逃げるような素振りは見えなかった……では何故いま来ない?何をしている?)」
悶々と悩む中、勢いよく道場の戸は開かれた。
「いやァどうもすみません──少しばかり迷いまして。……いやマジで。広すぎこの屋敷」
「……フン、白々しい」
「マジなんですけどねー…」とヘラヘラ笑いながら一心は宗真の前までゆったりと歩み始めた。
「(──ブラフだ。動揺を誘いたいんだろう)」
などと宗真は考え、食えない奴だと皮肉げに笑うが──違う。本当に一心は迷っていたのである。
ここで彼の為に弁明しておくが、決して方向音痴という訳では無い。ただ、屋敷が広すぎて迷っていただけである。……まぁ五年も暮らしておいて家の構造把握してないのはどうなのか、と言われると弱いのではあるが。
閑話休題。
「随分と遅い登場だな。主役気取りか?」──厳しい視線を一心に向ける宗真。
「いんや。そんなたいしたモンじゃないですよおれは」
「──フン。そういう事にしておいてやろう。……では始めるぞ」
「……
「──あぁ、
「(絶妙にニュアンスが違う。やっぱりとは思っていたが嵌められたか。──ま、そっちの方が好都合だけど)」──一心はそのまま背負っていた袋から八尺(約80cm)の木刀をスラリと抜き放つ。
宗真も同じように木刀を構えると、観戦していた者の中から一人出てくると「それでは両者向き合ってください」と、審判を自ら買ってでてきた。
「準備は良いですね?では──始めッ!!」
審判の号令が道場に響いた瞬間、宗真は床がめり込むのでは無いかと思うほどの踏み込みの後、高速で一心との距離を詰めた。
そして、自身の間合いに入ったと確信すると両の手で持っていた木刀を頭目掛けて振り下ろした。
「(人一人殺すには頭か首をぶっ飛ばすだけで十分!!)」
明確なまでの殺意を持って、宗真の一撃は自身もその観戦していた者達ですら、確実に避けきれないと確信していた。
脱力したように構えていた一心の腕が
「──痛ッ!!?」
声にならない悲鳴が宗真からこぼれる。痛みで取り落としてしまいそうな木刀を確りと握りしめながら、危険を察知した宗真はそのまま後ろへ飛んだ。
「(な、なんなんだ!!?アレは!!?)」
既に顔から余裕は消えている。渾身の一撃だと思っていたモノが児戯にすらならず、
宗真が振り下ろした一撃。一心はただ、
「──あれ?今のが渾身の一撃だったりしますか?」
「…………ンな訳ねぇだろ」
ヘラヘラと煽る一心と、強がる宗真。
185cmに鍛え抜かれた恵体を持ってしても掠りもしなかったという事実に自身のプライドは粉々になりそうなのを必死に堪えて、痛む手の甲を少しさすると木刀を構え直した。
「じゃァ、今度はこっちから──疾っ!!」
「な、ァ!!?」
目を見開く宗真。しかし、慌てて周囲を探すが一心の姿どころか影すら見当たらない。
「──…影すらも…?ッは!!?」
気付いたのが遅すぎた。
一心は最初の踏み込みでしゃがんで詰めた事により、宗真にまだ地上にいる、と勘違いさせたのだ。
とは言え──
「──
そんな呟きを宗真が聞きとったと同時に、彼の意識は刈り取られた。
■■
「………………は?」──などと間の抜けた声を漏らしたのは一体誰だったのだろうか。まぁ、その後すぐに訪れる混乱と悲鳴に比べれば蟻と象程の差があるのだが、いま現在道場にいる全員の心の中を代弁しているという意味ではピッタリであろう。
なんせ、
誰も彼もが宗真の勝利を疑わなかっただけに、事実を呑み込むのに時間が掛かった。
そして、
「嘘だろ嘘だろ嘘だろ!!?宗真様、いや宗真が負けた?は?」
「じゃあ当主交代?あのガキが?有り得ねぇって!!」
「ガキに負けるやつが当主だったんなら俺があん時挑んでりゃあ俺が当主の可能性もあったってことかよ!!?」
「ふざけんなよクソガキ!!何かイカサマしてたんだろ!!」
瞬殺、という言葉が相応しい試合だっただけにその混乱は激しく燃える炎のように門下生に広がって行った。その様子に一心はウザったく感じできたのだろうか、こんなことを言い放った。
「めんどくせェなぁ。そんなに騒ぐなら俺と戦うか?ん?」
その言葉は新たなる火種にしかならないだろう。だが、一心は
反抗の意志は叩き潰せばすぐに鎮火出来るだろうと考えたからだ。
──そしてその判断は正しかったと言える。
混乱から数時間後、一心の言葉をきっかけとし100人あまりの門下生が、一心に挑んできたが──その全てを圧倒。なんなら複数人同時に相手にしても変わらず叩きのめして見せた。
仔細は語ることはないが、以降一心が佐々木家の当主であると認めないものは誰一人としていなくなった、とだけ語っておこう。
次はなんとお見合い回。
一体誰が来るんだろうなー(棒)
あらすじを追加しました(2023/10/10 17:22:10)