咲-Saki- もし咲が家族麻雀で覚醒してたら 作:サイレン
まぁもう既にオリジナル設定かなり入っているんですが。
〜東一局〜
咲 100000 東:親
菫 100000 南
照 100000 西
監 100000 北
(幸か不幸か私の親からか。お姉ちゃんは多分だけど、この局は和了らない。初っ端に大きいの和了れるはずだけど、お姉ちゃんの親番が二回ある。これはプラマイで言ったらマイナスかなー?)
対局は咲の親番から。
照は東一局ではまず和了らない。それは『照魔鏡』を発動するためだ。なのでこの局は、積極的に攻めることの出来るチャンス。
(一応、菫さんと監督さんにも気を配りつつ、私の最速でなおかつ点数を高めるなら!)
「カンッ!」
(咲ちゃんが暗槓……)
(ということは……)
「ツモ、嶺上開花、中、ドラ4、6000オールです」
開幕パンチに跳ね自摸を和了る。
しかし、本番はここから。
局が終わると共に照の瞳が見開かれ、異様なプレッシャーが背後から襲ってきた。
まるで自身の全てが覗き込まれるようなこの感覚は、懐かしくもあり、一向に慣れる気がしないくらいに不愉快なものだった。
(………来たね。『照魔鏡』)
ここまでは咲の予想通り。
この局でのある程度のリードは、照に勝つためには必須条件。どのくらいレベルが上がってるか咲は詳しくは知らないが、知らなくても警戒を怠ると一瞬で手が付けられなくなるだろうことは分かる。それほどまでに照の連続和了は厄介なものなのだ。
照としても、ここまでは予想通りだった。
(今さら菫と監督はそこまで見る必要はない。問題は咲。点数調整に嶺上開花とドラ爆、このドラ爆は淡のより遥かに高性能だな。それに磨き抜かれた観察眼でコピーした私の連続和了。これの食い合いなら私に分がある。あとはまぁ、オーラの扱い方が自由自在ってところか。ちょっと出し方が特殊だけど荒川憩のような『癒』のオーラも使えたんだ。それは知らなかった。とりあえずこれならなんとかいけると思うけど……)
照は表情こそ変化させないが、内心では呆れ半分驚き半分という心境だった。
(咲……。おそらく自分ではまだ気づいていないと思うけど、まだ上があるなんて。今は大体70%くらいかな? そしてリミッターの外し方が、なんというか簡単過ぎる……全く私の妹は)
改めて自分の妹の力に驚愕する。
今のままでも全国に敵なしと言ってもいいくらいの強さなのに、それでもまだ全力ではないとは。
(だけど今日は私が勝つ。その方法は唯一つ──)
照もこれで準備が完了した。このあとは基本的には照の独壇場になるだろう。
咲も理解している。だからといって、何もせずに終わる気など毛頭ない。
(ここからが本番だね。速さでは太刀打ち出来る気がしないから、私がお姉ちゃんに勝つには方法は唯一つ──)
照と咲はどうやって戦えば勝てる可能性があるか分かっていた。
相手のステージで戦うなど愚の骨頂。
互いに得意分野で凌ぎを削ればいい。
(速さで圧倒する!)
(火力で押しきる!)
長い時を経て再戦した姉妹対決は、嵐の到来を予感させるほどに騒ついていた。
****
「大星、落ち着いたか?」
「淡ちゃん、深呼吸だよ?」
「ひっく、……すー、はー……うん。もう大丈夫。ありがとう亦野先輩、尭深先輩」
相変わらず先輩に対しての敬語があやふやだったが、こんなにも素直に謝意を示す淡も珍しい。同じチームということで誠子と尭深はそれなりに交流もあったが、淡はそれでもどこかでこの二人も見下していたのだろう。
二人はそれほど気にしていないし、淡に対してもそれなりに優しいが、やはりまだどこか壁があったのかもしれない。これはその壁を取り払ういい機会だった。
「それにしても、お前があそこまでコテンパンにやられるとは……。宮永先輩の妹さん、咲ちゃんは恐ろしいな」
「それは私も思ったけど、今言うことじゃないよ、誠子ちゃん」
「あっ……!」
気が抜けたためか、口に出してすぐ後悔する。今の今までそれで淡が泣いていたというのに配慮が足らなかった。
だが淡はそんな二人を心配させないように、笑顔を見せた。
「大丈夫。もう大丈夫だから」
「そうか、それはよかった」
「でもやっぱ腹立つ! なによ私が弱いって!」
「でも淡ちゃん、結構ボコボコに……」
「それは言わないで! これでも結構傷ついてるんだから!」
「……ふふっ」
「なんで笑うのよ、尭深!」
急に尭深が笑い出した。
それにつられたのか誠子も笑い出す。
わけが分からない淡は、笑われてるのが自分なんだと思って文句ばっかり言っていたが、やがてそういうのではないと思ったのか不思議そうに二人を見ていた。
「ごめんね淡ちゃん。ただ淡ちゃんとこんなに普通に話したの始めてだったから。淡ちゃん普段は照先輩と一緒で私たちとはあまり話さないし」
「あぁ、同じチームだっていうのにな」
「そ、それはその……なんか、ごめん」
「ふふっ、淡ちゃん、結構可愛いところあるんだね」
「なっ……⁉」
そんなこと言われたのは始めてだったため、思わず赤面する淡。そんな様子も含めて二人のツボに入ったらしく、しばらくの間、二人は赤面しアタフタする後輩を先輩らしくいじっていた。
「さて、落ち着いたところでどうする?」
誠子が言いたいことは淡にも分かった。
練習場に戻って照と咲の対局を見るのか。それとも見ないのか。
「……見に行く。このまま引き下がるなんて私じゃない」
「そうだな。なーに心配いらないさ。宮永先輩が淡の仇をとってくれるって言ってたからな」
「淡ちゃんのためじゃないとも言ってたよ?」
「……尭深先輩、意外と毒舌なんだね。さっきから微妙に私のこと傷つけてるよね?」
「? そんなことないよ?」
「無自覚!!?」
平然と首を傾げる尭深に驚愕する淡。
知らなかった先輩の一面を見て、でもそれも悪くないと思い始めた淡も、徐々にだが良い方に変わってきているのかもしれない。
「まぁ、行くなら早く行こう。もうそれなりに時間経ってるしな」
「そうだね、行こっか淡ちゃん」
「うん」
三人は再び練習場へと足を向ける。
その足取りは出た時とは違い、とても軽く、そして三人の距離も心なしか近づいていた。
****
〜南三局 二本場〜
咲 109500 西
菫 63000 北
照 163300 東:親
監 64200 南
(お姉ちゃんホント速すぎる。満貫までのアベレージが四・五巡とかふざけてるでしょ!)
照は咲の予想を遥かに超える速さだった。咲ですら、満貫まではまるで手を出せない。
その気持ちは他二人も同様だった。
(なんというか、今の宮永さんはいつも以上に速いわ……)
(今まで本気じゃなかったのか……? いや、それは違うか)
菫は今まで照と対局したことは何度もあったが、照が手を抜いているところは見たことはない。
だがそれは手を抜いていないだけで、本気ではなかったのだろう。
恐らく、長年待ち望んだ咲との対局で、今まで無意識にかかっていたリミッターが外れたのだ。そう思えるくらい今の照は強かった。
(だけど、このままじゃ終われないよね。次は跳満。ここまでくるとお姉ちゃんも速度が落ちるしリスクも背負う。……ここで直撃奪う!)
リスクとはリーチをすること。
満貫までは闇聴が基本。だが、それ以降は翻数を上げるためリーチすることが多くなる。咲にとっては最大のチャンスなのである。
照もそれは百も承知。だが咲相手にこの点差じゃ安心出来ないのも事実。そのためここで手を緩めるわけにはいかなかった。
(これで)
「リーチ」
「カンッ!」
(大明槓……これはやられたかな)
嶺上牌を引く咲。
この局から観戦を始めた淡たちは咲の後ろにいるため、咲の手牌が見えている。
引いた牌は和了り牌。嶺上開花である。
(嶺上開花……。サキはホントに嶺上開花を自由自在にできるんだ)
だが、咲はそこでは終わらなかった。
「もう一個、カンッ!」
「えっ……⁉」
てっきり和了るとばかり思っていたため、声に出して驚いてしまった。照の連荘を止められるのだから、止めるのが第一のはず。その選択肢以外、淡には考えられなかった。
それでも咲は止まらない。そのまま引いた嶺上牌はまたしても咲の和了り牌。
(また嶺上開花……あれ? でもこれじゃさっきと結局点数が変わらない……)
「もう一個、カンッ!」
(…………嶺上開花見逃してまたカン……。ありえない……)
目を疑う光景に、もう声も出なかった。
(これが、サキの力……)
能力としての完成度が違う。槓を武器にした咲の麻雀は、美しかった。
淡の目の前で、嶺上の花が咲き誇る。
「ツモ、嶺上開花、対々、三暗刻、三槓子、ドラ4、24000の二本場は24600」
「「「なっ……⁉」」」
(あの照が……)
(振り込んだ……⁉︎)
(しかも三倍満……)
場は騒然となった。
普段から振り込むこと自体が珍しい照が、こんな大きいのに振り込むのは始めて見たからだ。公式戦で一昨年一回あったが、それでも満貫止まり。これはまさしく異常事態だった。
同時に淡は悟ってしまった。
今のままではこの二人には逆立ちしても勝てないということを。現段階では格が違うということを。
(でも負けない! いつか絶対倒す!)
新たな決意と新たな目標。
淡の高校麻雀は今、始まったのかもしれない。
対局はオーラスへと突入する。
****
〜南四局〜
咲 134100 南
菫 63000 西
照 138700 北
監 64200 東:親
(これで照と咲ちゃんの点差は……)
(4600点……)
(これで射程圏内。捉えたよ、お姉ちゃん!)
既に観客と大して変わりない菫と監督だったが、この展開は読めなかった。ゴミ手以外なら許容範囲内。ついに咲はオーラスで照に追いついたのだ。
おそらくだが、照がここまで追い込まれたのを見たのは咲以外は初めてだろう。白糸台麻雀部員の皆は手に汗握る思いで対局を観戦している。
だが心配している者は少ない。
それは絶対的エースの信頼の強さでもあった。
一方の照は、表情に笑みが出るのを抑えるくらいに高揚していた。
(この勝つか負けるかの瀬戸際の対局。やっぱり麻雀はこうでないと!)
普通の人なら勝ち続けられるのなら、それはさぞ気分がいいだろう、と思うかもしれない。
だが勝ち続けている本人に言わせればそんなことはない。むしろ逆である。
どんな状況でも負けることがないなどというのは、勝利ではなくただの作業と変わらない。いくら勝ち続けられるとしても全く楽しくない。だからこそ、そういう者達は好敵手の存在を待ち望んでいるのだ。
だからこそ今の照は、咲に感謝していた。ここまで強くなれたきっかけである咲を。全力を出させてくれる咲を。
(そして咲。あなたはまだ本当の敗北を知らない。だからこそここで今、私がそれを教えてあげる!)
照の瞳から雷が轟き、咲ですら思わず身を竦ませる重圧が伸し掛る。
(……うわぁ。ここにきてお姉ちゃんの気迫が増したよ。我が姉ながらおっかない)
どっちもおっかないんだよ! という菫のツッコミは二人には届かなかった。それも今更ではあるのだが。
周りからは「カ、カ、カメラが一台大破しましたー!」「だ、だ、大丈夫、こ、こっちも撮ってるから!」「ピ○コロさんですか……」などという震え声が飛び交っていたが、それも照と咲には届かない。
(さて、ここまできたら勝負は単純明快だね。先に和了った方が勝つ。なら……)
「ポンッ」
咲が仕掛ける。
単純なスピード勝負では咲に勝ち目はない。なら鳴きを混ぜて照のツモを減らし、なおかつ自身の手を進める、この方法が最善策。咲は槓さえ出来ればドラ4で満貫確定なのだから。
(聴牌。次で槓して決める!)
五巡目。
もうすでに照の速度なら危険域。この一巡で勝負が決まる。
──そして、この一巡で照は上がらなかった。
(これで……!)
「カンッ!」
嶺上牌に手を伸ばそうとした咲だったが、
「能力を過信しているのは咲も同じだよ」
照のそんな一言に動きを止めざるを得なかった。
(げっ……⁉ まさか……)
「ロン」
照の和了り宣言。
今回の咲の槓は暗槓ではなく加槓。
加槓に対しては、それ自体を無効にして上がれる役が麻雀には存在する。
その役は嶺上開花よりレアだとされていた。
「槍槓、1300。これで終わりだね」
〜終局〜
照 140000
咲 132800
監 64200
菫 63000
……あれ?主人公淡ちゃんだったっけ?
恒例の言い訳タイムです
荒川さんは、まぁ、いつもナース服着てるし、そういう能力でもあるのかなと。
あと尭深のキャラは完璧にオリジナルです。だって原作でもあまり話さないからよく分からなかったので、はい。
それで勝敗ですが、ここで咲さんが勝つと話が進まないため、このようになりました。
何年もブランクあって、照に勝てるというのもまぁ無理があると思うし、リミッターも解除してないしということで。
ちなみに今の咲さんは70%。ということは某有名な台詞を言わせることが出来る!
まぁ咲さんには圧倒的な力(パワー)はもう必要ないかと思いますが(笑)