咲-Saki- もし咲が家族麻雀で覚醒してたら   作:サイレン

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いりや2351さん大正解です!
うーん、今まで感想に返信したことなかったからここで言ってますけど、やっぱり感想って返信したほうがいいですかね?けど、ろくな返しが出来ないかなーと思って今までしてないんですが、希望があったらしようかなと思います。



今回は繋ぎ回なのでクオリティ微妙かもです



4-3

「衣様」

 

 黒を基調とした燕尾服を纏う端正な顔立ちの男性が、梯子が取り付けられた自身より高い位置に座する少女に呼びかける。『様』付けなど、現代において珍しいことこの上ないが、彼の立場からすると普通のことであった。

 彼は龍門渕家に仕える執事。家事、料理、裁縫その他何でも熟す万能執事だ。

 龍門渕高校麻雀部の面々からは、ハギヨシと呼ばれ親しまれている。

 

「ハギヨシ。出迎え大義」

 

 少女は大層堅苦しい口調で答えた。

 外見は非常に幼いので、言葉使いと見た目は全く一致していないが。

 黄金色の長髪を靡かせ、頭にはウサ耳に酷似した赤いヘアバンドを装着している彼女は、物憂げに眼下に広がる街並みを俯瞰している。

 

「何故、このようなところに?」

 

 二人が現在いる場所は県予選会場から少し離れた建物の屋上。本来であれば全く用のない場所である。

 

「衣は、人の(ひし)めくところとマスコミを疎む」

「そういえば衣様は、取材も撮影も拒否されていますね」

「父君と母君が黄壌に去った時、群がってきた人間共の陋習(ろうしゅう)な様を思い出す」

 

 梯子を降りながら、彼女は淡々と話す。

 ハギヨシも彼女の心情について、深く触れようとはしなかった。

 

「大将戦なんて、どうせ退屈凌ぎにもならないよ」

 

 彼女は心底つまらない様子である。

 自身と対等の相手など存在するはずが無いと、言外にそう告げているのだ。

 だが、ハギヨシは彼女に笑い掛けた。まるで、新しい玩具をあげる親のように。

 

「いいえ。今年はそうでもなさそうですよ?」

「……本気で言っているのか?」

「はい、恐れながら」

 

 ハギヨシは執事だ。

 基本的には、主従関係にある主に対して物言いなど決してしない。

 その彼が、衣に意見を言う。

 

「そうか、居るのか……。妖異幻怪の気形が‼」

 

 彼女も察したようだ。

 妖異幻怪の気形。つまり、普通ではない者の存在がいることに。

 

「よし、戻るぞハギヨシ。其を玩弄して打ち毀す!!」

 

 外見からは想像も出来ないオーラが迸る。

 瞳には雷光が奔り、絶対的強者の雰囲気を纏っていた。

 

 彼女こそが龍門渕高校の大将──天江衣。

 

 龍門渕高校のエースにして、現チャンピオン宮永照と同じく《牌に愛された子》の一人だ。

 

 

****

 

 

「意外と真っ平らですね」

 

 仮眠から控え室へと戻り、第一に咲が発した言葉はそれだった。

 

「意外だったかしら?」

「はい。優希ちゃんと先輩方は間違っても弱くありません。それこそ全国でも通用する強さだと思います。それでこれということは、流石は決勝ということでしょうか?」

 

 一応清澄は一位でバトンを渡しているが、咲はもう一回り程は点差が付いていると予測していた。

 先鋒はエースが集まるからやや点を取られていても仕方ないが、次鋒、中堅戦で十分以上取り返せていると思っていたのだ。

 

「いやー、恥ずかしながらそりゃあわしの責任じゃよ」

「染谷先輩がミスするなんて珍しいですね?」

「ミスというミスではなかったんだけどね。観てもらった方が早いわ。はい、これ」

 

 手渡されたのは次鋒戦の牌譜。

 ザッと目を通す咲だったが、次第に顔が苦笑いの様相に変化していった。

 

「これは、また、お気の毒って感じですね……」

 

 まこの対局を的確に表す一言であった。

 まこの親番四回中三回ツモられ、しかも一回は役満ときた。しかもそれを和了られた相手が、どう見ても初心者となれば尚更運がなかったとしか言いようがない。

 

「咲が合宿で言っとった懸念が当たってしまいおったわ」

「まぁ、私も決勝でこんな相手が出てくるとは読めませんでしたね」

「確かに同感だじぇ。そいつ、京太郎以上のド素人だったように見えたじぇ」

 

(ド素人なのはホントだろうけど、下手したら能力者でしょ、この人は)

 

 鶴賀学園二年妹尾佳織。

 鶴賀学園自体は、清澄高校と同じく初出場にして決勝進出を成している学校くらいの印象しかなかったが、彼女にだけは少し興味が湧いた。咲はさりげなく名前をチェックしておく。

 佳織は豪運の持ち主だったのかもしれないが、この一点だけで言ったら不幸だったかもしれない。咲に目を付けられるのはある意味で名誉なことだが、ある意味では可哀想なことだからだ。

 

(まぁ、今はどーでもいいかな)

 

 幾ら能力者の可能性があったとしても、これでは話にならないのも事実。

 青い果実をむしり取ってももったいないだけだ。実は熟してから食べる。それは人間でも変わらない。但し、この場合の『食べる』は意味合いがかなり変わっているが。

 

「それで今平らということは、部長が取り返したってことですか?」

「そうだじょ。あのダイナミックなツモであっという間に一位になったじぇ」

「流石部長です」

「私自身は緊張のし過ぎで疲れたけどね」

 

 大凡の流れは分かった。

 その間にも副将戦は進んでいる。

 和は完璧なデジタル打ちなので、大きく崩れることはまずない。

 まさかの公式戦でのエトペン作戦に咲は笑いそうになっていたが、昨日で慣れたのか今ではそれが普通になっていた。

 それにその方が実力が発揮できるのだから、咲としても大歓迎である。

 付け加えると、元々のアイドル性にこのエトペンが加わったことで、和の注目度が鰻登りなのだ。

 結果、和のお陰で咲の大暴れ振りがやや霞む。

 咲としては和様々であった。

 

(あの龍門渕さんも能力を自由自在に操れるわけではない感じだし)

 

「副将戦は問題なさそうですね」

「そうね、つまり大将戦が勝負よ。頑張りなさい、咲」

「もちろんです」

 

(それにやっと会えるしね)

 

 このあとに控えた大将戦で、遂に合間見えることになるであろう人物。

 

(──天江衣、か)

 

 

****

 

 

「宮永咲、それが名か?」

「はい。清澄高校の大将でございます」

 

 会場に向かいながら、衣とハギヨシは咲の話をしていた。先程ハギヨシが仄めかしたのが、咲のことだったからである。

 

「こちらをご覧下さい」

 

 ハギヨシは画面が取り付けられている電子機器を衣に見せる。最初は背伸びしていた彼女だが、背伸びしている事実に腹が立ったので最終的に分捕ることにした。

 映像には、一・二回戦の清澄高校大将戦の様子が映し出されていた。

 手に取り観ていた衣は無表情から、徐々に愉悦を帯びた表情に変化していく。

 

「ほう、これは」

「恐らくは、去年の全国大会での衣様を意識したものでしょう」

 

 咲が一・二回戦で成したこと。

 それは三校同時飛ばしに他ならない。

 

 実は昨年の全国大会でも、同じようなことが起きていた。

 その出来事こそが、天江衣の名を全国に轟かした偉業であった。

 衣は昨年のインターハイ団体戦では、一回戦で二校、二回戦で三校同時に飛ばしているのだ。

 

 そして、咲の今回のこの所業。

 明らかに衣を意識したものである。

 

 要するに、咲が衣に喧嘩を売っているのだ。

 

「こんな相手は初めてだ。どうやら今度のは金剛不壊に出来てるようだな。麻雀を早く打ちたいと思ったのは初めてかもしれぬ」

「それは何よりです」

 

 会話をしているうちに会場に到着した。

 今の衣は先ほどまでとは違い気概に満ちている。その姿は見た目とはかけ離れた威風堂々としたものだ。

 

「それは衣の莫逆の友となるか、贄か供御となるか」

 

 

****

 

 

『副将戦終了!』

 

「さぁ、和が戻って来るわよ」

「次は咲ちゃんの番だじぇ!」

「頑張りんさい」

「咲!」

 

 全員からエールを貰い咲は立ち上がる。

 緊張からか、それとも期待が混ざった興奮からか、ややピリピリとした雰囲気を醸し出しているが、やる気十分な様子だ。

 

「頼んだわよ」

「はい、行ってきます」

 

 控室を出て試合会場へと向かう。

 その途中戻って来る和と遭遇した。

 

「和ちゃん」

「咲さん!」

 

 互いに名前だけ呼び合う。

 余計な言葉はいらない。

 すれ違いさまに手を上げハイタッチを交わす。

 

「頑張って下さい」

「うん」

 

 

****

 

 

「よろしくー」

「よろしくお願いします」

 

(コイツは風越)

 

「…………」

 

(この人は鶴賀)

 

 対局室入りした咲は、未だ来ない天江衣を今か今かと待っていた。

 やっと好敵手と成り得るかもしれない相手と巡り会えるのだ。ライバルが照と、あとオマケのオマケで淡だけじゃ物足りない。

 暫く待って二人がやって来たが、どうやら本命は重役出勤のようだ。開始時刻残り一分を過ぎてもまだ来ない。

 おや? と思い始めた丁度その時、開きっぱなしの扉から赤いリボンが覗き出てきた。

 

(……ん?)

 

 ひょこっと顔を表したのは、小学生かと見間違うほどのお子様。

 金髪ロングヘアーに特徴的なヘアバンドを装着したお子様。

 完璧に見た目お子様だった。

 

(もしかしなくても、このロリウサ耳リボンが天江衣⁉)

 

 噂だけしか聞き及んでいないので、まさかこんなだとは思っていなかった。だけど集まったメンバー的に、このお子様が衣で決定である。

 目の前まで来てまだ強いオーラは感じないが、おそらく隠しているだけだろう。

 

 その様子に咲は笑みを浮かべる。

 

(ダラダラ進むのも面白くないし、とりあえず──)

 

「「……ッ⁉」」

 

(──ご挨拶かな?)

 

「はじめまして、あなたが天江衣さんですか?」

「そういうお前が清澄の大将、宮永咲か?」

「その通りです。……なるほど噂通り面白そうですね」

「それは衣も同じだ」

 

((……なんだこの二人))

 

 まだ対局すら始まっていないのに、咲と衣から発散される威圧感が異常であった。笑顔の種類も、獲物を見つけた肉食獣のような笑みに変化していってる。

 当事者ではない二人はその様子に引き気味であった。

 

 場を覆う空気は龍虎睨み合う戦場。

 最後に立つことを許されるのは勝者のみ。

 

『大将戦開始です』

 

 全国への出場切符を得るための、運命の対局が始まった。





本当に今更ですけど、原作でも咲さんって反則過ぎません?
主人公補正付きラスボス

……………どうしろと



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