咲-Saki- もし咲が家族麻雀で覚醒してたら   作:サイレン

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HappyBirthDay 淡ちゃーーーん(≧∇≦)

オマケもあるよ(≧∇≦)


6-4

 

 大将・前半戦

 〜東一局〜

 東 永水 97000 親

 南 宮守 90700

 西 清澄 99100

 北 姫松 113200

 

 

****

 

 

「ツモ、2000、3900」

 

 姫松の恭子のツモ和了り。

 大将戦の立ち上がりとしては静かなものだった。

 

(てっきり清澄が大暴れ、という展開かと思っとったが、案外大人しいな)

 

 恭子は想定した展開と違うことにむず痒い思いを感じた。今日の対局が咲との初めての対局であるが、咲が大人しいというのはなんだが気持ち悪いのだ。少なくとも、映像で見た宮永咲はもっと荒れていた。

 当然のことながら姫松は対局相手全員、事前にブリーフィングは済ませてある。シード校である永水はもちろん、初出場である宮守と清澄についても一通り調査し終わっている状態だ。

 その中でも、咲は個人として最上位要注意人物として名が上がっていた。それもそのはず、咲の今まで残してきた成績は異常過ぎるものだからだ。

 県予選、一・二回戦は三校同時飛ばし。

 県予選決勝は、昨年のMVP、宮永照や神代小蒔と並ぶ《牌に愛された子》である天江衣を圧倒、これを封殺。

 個人戦本戦ではチャンピオンである照以上の総合収支を叩き出し、歴代ハイスコア。

 

 明らかに常軌を逸している。

 

(間違いなく怪物。きっとこいつも《牌に愛された子》とかいう、特殊な打ち手なんやろう)

 

 そのためこの対局でも圧倒的な闘牌を見せ付けてくるかと思っていたが、今のところ特に動きはない。

 表情を伺ってみるも、姿勢正しく瞳を閉じている。静かな佇まいだ。その様子からは、今年初めての全国大会、それも大将を任された一年生とは到底思えない。

 

(とは言うても、まだ始まったばっかやしな。これからが本番か)

 

 恭子は気合を入れ直す。

 そして、咲を警戒しているのは恭子だけではない。

 

 

****

 

 

「いいかい、豊音。明日対局する清澄の大将、宮永咲は真面に相手をしては駄目よ」

「えっ?」

 

 対局前日、監督である熊倉トシに呼び出された豊音が、開口一番に言われたのがその一言だった。

 

「あんたも知ってるだろ。あの龍門渕高校、天江衣を倒した清澄の大将だよ」

「うん、それは知ってるよー。宮永さん、ちょーすごかったもん」

 

 全国レベルで有名な咲は、田舎だからなどというのは関係ない。麻雀に携わる者なら大抵の人が知っているのだ。

 

「あぁ、あれは異常だね。私もあれほどの打ち手は初めて見るよ」

「ホント?」

「あぁ。だからこそ不味い。まさか二回戦で当たるなんて、運がなかったよ」

 

 トシは溜息をつく。彼女からしたら、それ程までに咲の存在は重いものだった。トシのその様子は永水や姫松より、咲だけの方が10倍は厄介だと言わんばかりだ。

 

「出来れば決勝まで隠しておきたかったけど、あの娘相手に手加減なんて不可能だわ。だから豊音、明日は最初から全力で打ってきなさい」

 

 豊音にも厳しい状況であることは分かっている。でもそんな相手と打てるということの方が、豊音にとっては楽しみでもあった。

 豊音はトシの言葉に笑顔で答える

 

「はい!」

 

 

****

 

 

 〜東二局〜

 親:豊音

 

 豊音の親番。

 いくら咲が要注意人物であろうと、ここは逃げる局面ではなく攻めるべきだと判断する。

 

(まだ宮永さんの動きがないとはいえ、うちは最下位。のんびりなんかしてられないし、仕掛けていくよー)

 

「ポン!」

 

 二巡目にして鳴きにいく。

 無くはないがこの順目で鳴くことは、麻雀においてセオリーではない。鳴けばリーチ出来ないし、役の翻数が下がるからだ。

 {白}、{發}、{中}なら通称特急券と言って、速度が欲しいときは鳴きにいくが、それでもまだ対局の序盤。

 

(親やし、そんな変なもんでもないか……?)

 

 恭子はさして深く考えなかったが、その直ぐ後に考えを改めさせられることとなった。

 

「チー!」

「ポン!」

「ポン!」

 

(これは……裸単騎⁉︎)

 

「ぼっちじゃないよー」

 

 裸単騎とは、四副露、つまり四回鳴くことで手牌が一枚になった状態のことだ。博打性が高く、初心者ならやることもあるが、経験者になってくるほどやらない。理由は極単純で、リスキー過ぎるからだ。

 

 だが、豊音にその固定観念は通用しない。

 

「お友達が来たよー、ツモ、2000オール!」

 

(まさか……)

 

 恭子はまだ半信半疑であるが、状況を俯瞰していた咲は確信していた。

 

(この人、能力者か)

 

 とりあえず様子見に徹しようと思っていた咲だが、能力者がいるとなると話は変わる。一気に面倒な事態になり兼ねないからだ。どこかでコントロールを握る必要がある。

 

(まぁ、まだ大丈夫かな?)

 

 

 〜東二局・一本場〜

 親:豊音

 

「ロン、5200の一本場は5500」

「はい」

 

(清澄が姫松に振り込んだ……何かあるのかしら?)

 

 咲が恭子に振り込んだことに霞は違和感を覚える。

 咲の異常性は霞も知っている。身近に同じような性質の小蒔がいるため、自分が一番理解出来ている……と思っていたが、たった数局実際に対局してみて分かった。

 

 咲は何を考えているか分からない、ということが。

 

(これは、先が思いやられるわね)

 

 

 〜東三局〜

 親:咲

 

(まだ宮永さん変な感じしないし、どんどんいくよー)

 

「ポン!」

 

(また初っ端から鳴いてきた……)

 

「チー!」

 

 これで二副露。このままいくとさっきと同じことが起きるのだろう。

 咲はこの席順に少し歯噛みする。

 

(試したいことがあるのに、下家だと出来なくはないけど、ポンしか無理。……まぁ、いいや。この程度なら、なるようになるでしょ)

 

 と、諦めていたが、状況は咲が期待していた通りの動きになった。

 一巡回り、豊音は{⑦}を捨てる。その後、上家である霞が同じ{⑦}を捨てた時、興味深いことが起きたのだ。

 

「チー!」

「あら」

 

(一巡前に自分で捨てた牌を、鳴いて取り戻した……?)

(普通だったら無意味な鳴き。でもこれで分かった。ナイスアシストです、永水のメロンさん)

(これはつまり、鳴くという行為そのものに意味があるのかしら?)

 

 各人思うことは大体同じ。

 咲が試したかったこと、それは豊音が自身で向聴数を落としているのかを確かめることだった。鳴くことに意味があるのなら、態々揃っている手牌を崩す必要がある。それを見極めたかった。

 それは今回のことで判明した。豊音のこの能力は鳴くこと自体に意味がある。

 

「ポン!」

 

 これで四副露。覚えのある光景に恭子は目を見開く。

 

(四副露……また裸単騎⁉︎ ……まさか)

 

「ぼっちじゃないよー」

 

 闇の様に黒く、深い、異様なオーラを纏い、豊音は笑みを浮かべる。

 鳴くことに意味がある、豊音のこの能力。

 その名も《友引》。

 ──裸単騎(ぼっち)上がり牌()を引く。

 

「ツモ、2000、4000!」

 

(全力全開でいくよー!)

 

 

 〜東四局〜

 親:恭子

 

(親番か。いつもほど嬉しいもんやないなー)

 

 そんな気分になっているのは、主に咲と豊音のせいだ。

 

(警戒しとった清澄は未だに動きなし。それやのにノーマークだった宮守が妙な和了り連発。不確定要素多過ぎやろ……)

 

 溜息の一つも零したい気分ではあったが、一々気落ちしている暇もない。それにせっかくの親番だ。大事にしていきたい。

 

「ポン!」

 

(またかいな……)

 

 それでも豊音は止まらない。先ほどと同じように、速攻で鳴きにきた。

 

 だが、今回は上手くいかなかった。

 

「カン」

 

(えっ……⁉︎)

(清澄……⁉︎)

 

 豊音が油断していたわけではない。寧ろトシに言われたように、咲に対しては最大限の注意を払っていた。

 

 だが咲は、その警戒網を易々と潜り抜ける。

 

「ツモ、嶺上開花。8000」

 

 ──稲妻が奔り抜ける。

 三人の緊張度が、一気に膨れ上がった。

 

(大明槓からの嶺上開花で責任払いかー……)

(予想しとったけど、この清澄の大将、条件付きで支配を発揮するタイプか……)

 

 豊音と恭子も、咲の嶺上開花を何よりも警戒している。ただ咲は何処からでもどのタイミングでも槓してくるので対処が難しい。

 

(さて、どうなるかしら……?)

 

 対局は南入する。

 

 

****

 

 

 〜南一局〜

 東 永水 89100 親

 南 宮守 94700

 西 清澄 93600

 北 姫松 122600

 

 

(いくら清澄が怖いとは言え、まだ点差には余裕がある。それにオリだけやったら半荘二回は逃げ切れへん。ここは仕掛ける)

 

「リーチ」

 

 恭子のリーチ。

 姫松は現在二位の宮守と27900点差。守りに入っていくべきか、更に突き離すべきか判断に迷う場面でもあるが、まだ前半戦。

 それに咲と不確定要素の多い豊音相手に、この点差では安心出来ない。霞に関しては今までの対局からは守り型だと分かっているので、そこまで怖くはないが、何が起こるか分からないのが麻雀である。

 ここは攻めるべきと判断した恭子は強気でいく。

 そして、そんな恭子を不敵な瞳で見つめている者が一人いた。対面に座っている豊音だ。

 

「んー、おっかけるけどー」

 

 豊音が牌を横向きに捨てる。

 

「とおらばー、リーチ」

 

(いきなり追っかけリーチ……もしかして)

 

 咲は一瞬だけ豊音を見るが、流石に表情から何かが読み取れるわけではない。せめて分かることと云えば、自信満々な笑顔を浮かべていること位だ。

 その次の恭子のツモ番。

 リーチしたため、和了り牌でなければ捨てるしかない。

 

「ロン。リーチ、一発、ドラ1で5200」

「はい」

 

(四面張で辺張に負けてまうかー。……って言いたくなるけど、こういうことってよくあることやからな)

 

 麻雀は運の要素が強い。

 そのため、明らかに確率が上だろうと、引き負けることなどざらにある。現実的な麻雀に慣れている恭子にしてみれば、この程度のことはおかしいと思わない。

 だが、咲と霞の目には違和感を伴って見えた。

 

(あんな手で追いかける普通? ……私だったら追い掛けない……ということは)

(ふんふむ……)

 

 

 〜南二局〜

 親:豊音

 

「リーチ」

 

(手は落ちてない。まだ攻める)

(これではっきりするね)

 

 恭子が再びリーチ宣言。

 それを聞いて、咲は前の局の疑問を解消出来ると踏んだ。

 もし偶然なら違った展開。

 もし必然なら──。

 

「とおらばー」

 

 豊音が動いた。

 

「おっかけリーチするけどー」

 

(またこの展開……これが当たれば)

 

 咲は見届けるために、とりあえず安牌を捨てる。

 

(親に追われるは嫌やなー……)

 

 恭子は恭子でそんなことを思っていたが、直ぐさま状況が変わった。

 

「ロン。リーチ、一発のみ。3900」

 

 また一発で振り込んだことに、恭子は微かに瞠目する。

 つい先程あったこの既視感ある光景に、恭子も驚きが隠せなかった。

 

(追っかけられて、また一発で振り込んでもうた。偶然やと思いたいけど……)

(確定だね)

 

 恭子と咲の差は、能力者と触れ合ってきた経験の差。何より咲自身が能力者であることが一番大きかっただろう。

 

 豊音の能力は一つじゃない。

 

 

 〜南二局・一本場〜

 親:豊音

 

「あら、ツモだわ。1300、2600に一本ずつ、お願いしますね」

 

 この半荘初めての霞の和了り。

 咲はずっと観察を続けているが、目立った能力は感じられない。これが実力通りなら、注意する必要はないのだが……。

 

(それでも、あの永水の大将。先鋒の神代小蒔のように、とっておきがあるかもしれない)

 

 

 〜南三局〜

 親:咲

 

(さて、ここらで和了っとかないと)

 

 咲は狙いを定める。

 

「カン」

 

(うぇっ⁉︎ またぁっ⁉︎)

 

「ツモ、嶺上開花、ドラ3。12000です」

「……はい」

 

 振り込んだのは豊音。

 この半荘での直撃二回目なので、狙い撃ちされてるのかとも思うが、それだったらもっと悲惨な結末を迎えているだろう。

 そして、この中でも霞は違う点に驚きを感じていた。

 

(和了りに必要なのは嶺上開花のみ。……必ず和了れる自信があるのかしらね)

 

 俄かには信じ難いことだ。

 元々、嶺上開花は出る確率がかなり低い役である。それをこうもあっさりと、しかも複数回次々と和了る咲は、やはり普通じゃない。

 

(何か憑いてるんじゃないかしら?)

 

 その手の専門家に近い霞にそう思わせるほど、咲は異常なのだ。

 

 

 〜南三局・一本場〜

 親:咲

 

 恭子はツモった後、少しだけ動きが止まる。

 

(聴牌。でも役がない。リーチすればいいけど……さぁ、どうする)

 

 先ほど二回連続で追いかけられ、振り込んだ。それが偶然なのか必然なのか、恭子にはまだ判断が付いていなかったのだ。だからこそ、次にどう手を打つのが最善なのか分からなかった。

 勝負にいくべきか、いかざるべきか。

 数瞬迷った後、恭子は決めたようだ。

 

「リーチ」

 

(えっ? いいのかしら?)

 

 それを見て、霞は相手ながら心配してしまう。霞はもう、先ほどまでのが豊音の能力だと分かっているからだ。

 案の定、豊音は捨て牌を横向きにした。

 

「とおらばー、リーチ」

 

 霞の想像通り、動いてきた。

 

(ぐっ……)

 

 それを見て苦い顔をする恭子。

 そのまま牌をツモるが和了り牌ではない。仕方無く捨てるが、

 

「ロン、2900だよー」

 

(また……⁉︎ これで三回目……)

 

 二度あることは三度ある、というやつなのか。同じような展開がまた起きてしまった。

 

(地区予選や一回戦では、裸単騎や追っかけリーチなんてしてなかったはずや……)

 

 事前の調べでは、豊音は特に注意する必要のない打ち手であった。

 だが、蓋を開けてみればこの通り。今のところ一番厄介な打ち手であることは間違いない。

 咲に注意を割き過ぎたせいで、豊音という伏兵の存在に気づけなかったのである。

 

(追っかけリーチを掛けると、先制リーチ者から直撃を取れる。そんな不思議があったりなかったりするのかしら……?)

 

 霞も同様に豊音のことを警戒し始める。

 

(今までの試合では、あまり目立ってなかったけど……)

(この人が一番、宮守で面白いね)

 

 そんななかでも、咲はご機嫌だった。

 

 

 〜南四局〜

 親:恭子

 

(とは言え、もう一回試したい!)

 

「リーチ!」

 

(これであかんかったら、後はダマで通す)

 

 三度目ならず、四度目の正直。

 オーラスの親番ということもあって、攻めの姿勢を続けた恭子。

 

 そして、この選択は──

 

「じゃあー、わたしもー」

 

 ──間違いだった。

 

「とおらば、リーチ」

 

 豊音の故郷での渾名は“背向(そがい)のトヨネ”。

 ──先制した者を、後ろから(わな)く。

 

 恭子の手から牌が溢れ落ちた。

 

「ロン、5200」

 

 これが、豊音の二つ目の能力。

 その名も《先負》。

 先んずれば──負ける。

 

 

 前半戦終了

 清澄 104200 (+5100)

 宮守 101200 (+10500)

 姫松 100000 (-13200)

 永水  94600 (-2400)






オマケ:淡ちゃん誕生日記念

照「今日は12月15日」
淡「私の誕生日だよ!祝って祝って!」
照「知ってる。じゃあ私“たち”からはこれ」
淡「……私“たち”?」
咲「お姉ちゃん伏せて!!!」伏せた照の背後から思いっきりパイを投げつける
ベッチャァッ
淡「」顔面真っ白
咲「っし!パイ命中ッ!!
せーのっ
照咲「誕生日おめでとう!!!」

……………………このあと、淡ちゃんはマジギレしながらマジ泣きしました。
そして、私とお姉ちゃんは菫さんにそりゃあもう怒られました。二人揃って三時間正座もとい土下座は脚が痺れて辛かったです。

菫「大体、どうしてお前が止めなかったんだ⁉︎」
照「咲の頼みだったし……それに絶対淡が喜ぶからって」
菫「喜ぶわけないだろ‼︎」

お姉ちゃん私にマジダダ甘!

ーーーーーー咲日記より







次はクリスマスパーティ編に続くかも(笑)
25日の0時目標にします
全く関係ないけど、デジモン新作のキービジュアルヒド過ぎワロタwwwwwwwwww

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