咲-Saki- もし咲が家族麻雀で覚醒してたら   作:サイレン

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新年あけまして
おめでとうございます!!!
今年もよろしくお願いします!!!

前置きはこれくらいで、本編をどうぞー
オマケもあるよっ!




6-6

 ──九年前。

 霞が八歳のころ、霞は祖母に連れられ本家の本殿へと訪れていた。

 

「わぁー! とても広い所ですね」

「ここは神境の入り口です。本殿までは、まだ少し歩きますよ」

「はいっ」

 

 現実にある光景とは思えない景色が目の前に広がっている。霞は堪らず興奮してしまうが、祖母とはぐれると大変なことになると理解していたので、祖母の手を離すことなくついて行く。

 長い長い階段を登っている最中、霞は以前から気になっていたことを祖母に尋ねることにした。

 

「あの……祖母上、姫様はどのような方なのでしょうか?」

「あなたによく似ています。分家の中でもあなたが一番姫様に血が近い」

 

 そこで一度区切り、祖母は続けた。

 

「だからこそ、生きた天倪(あまがつ)となるのです」

「……?」

 

 この時の霞はまだ幼く、祖母が何を言っているのかよく理解出来ていなかった。

 本来天倪とは、古代、祓に際して幼児の傍らに置き、形代(かたしろ)として凶事を移し負わせた人形のことである。

 つまり、祖母が言う生きた天倪とは、あまり良い言い方ではないが、身代わりのようなものだ。

 続く祖母の説明は次のようなものだった。

 

「姫が宿し、使う女神は九人ではなく、極稀に恐ろしいものが降りてくる。それを代わりにお前が宿し、手懐けるのです」

 

 ──それが霞の役目。

 

 

****

 

 

(はい、祖母上様。今、それを使います)

 

 天より白く棚引く何かが、人には測ることも不可能な超常的な存在が、会場に、対局室に、霞に降りてきた。

 途端、霞から放たれる圧力が変貌した。

 

(……えっ?)

(……んっ?)

(──遂に来たね、永水!)

 

 その存在感は圧倒的で、霞以外の三人もそれに気付いた。それからの霞は、見えない何かを常に身に纏っているようだ。

 本人は変わらず微笑を浮かべたままだが、雰囲気が、明らかに別人と化していた。

 

(さて、どう来る)

 

 霞の奥の手と思われるその様子に、咲のテンションは昂ぶり始めた。

 

 

****

 

 

「あれは……」

「えぇ、使いましたね」

「久しぶり」

 

 霞の変化の正体をいち早く悟ったのは永水の面々であった。霞のあれは過去にも見たことがあるが、あの状態の霞は言わば奥の手。使わざるを得ない場合でなければ、霞はあれを降ろすことはしない。

 つまり、今霞は追い込まれているのが分かる。

 

「……んんっ」

「姫様? 起きて大丈夫なのですか?」

 

 先鋒戦が終わってから今まで眠っていた小蒔が目を覚ました。眠たげに瞳を擦り、ほんの少しぼぉーとしてようやく覚醒したようだ。

 

「平気です。今、試合はどうなっているのでしょうか?」

「今は点差は殆どありませんが三位ですよ。……ただ」

「どうかしたのですか?」

 

 言い淀む初美に小蒔が首を傾げる。自由奔放な彼女にしては珍しい反応なので、違和感が際立ったのだ。

 そんな初美を慮ったのか、巴が後を引き継ぐように話す。

 

「清澄の宮永咲さんなのですが、少し……いえ大分想定を上回っていまして、霞さんが攻撃モードになったんです」

「……そうですか」

 

(霞ちゃん……)

 

 小蒔は心配そうに霞を見つめる。

 普段の霞は防御型。小蒔と初美で稼ぎ、霞で守りきるというのが永水としての戦術であった。

 だが、今回の対局ではその方法は使えない。守るだけでは二位以上に入り込めそうにないからだ。

 だからこそ霞は勝負に出た。あの状態の霞は一撃の威力は尋常ではないが、その分細かな調整が効かなくなる。

 一度降ろしてしまった以上、対局中に元に戻すのは不可能。もう、この後の対局がどう転ぶかは、正直予測できない。

 

「今は霞ちゃんを信じましょう」

 

 小蒔は難しいことを考えるのは得意ではなかった。だから、一番簡単で、一番良いと思うことをすることにした。

 

「そうですね。霞さんを信じましょう」

「はい」

「ん」

 

 カリッと、春がいつもと同じように黒糖を食べる。

 

 結果を神のみぞ知るか、それとも──

 

 

****

 

 

 〜東二局〜

 東 姫松 93200 親

 南 清澄 97100

 西 永水 94600

 北 宮守 115100

 

(さっきの振り込みでラス転落……。というよりなんなんやこの卓。清澄だけかと思っとったら、予想以上に怪物の見本市。てか、清澄は怪物超えとる、最早化け物にしか思えへん。普通の麻雀させてーな……)

 

 恭子、心からの思いであった。

 

(しかも、大将戦まで来て点数ほぼ平らとかおもんないわぁ……もうめげたい、投げたい、つらいつらい……)

 

 豊音も原因の一部であるが、主に咲のせいである。

 だが、恭子はそんな気持ちになる自分を叱咤する。

 

(……いやいや! めげたらあかん! 相手が怪物、もしくは化け物なら、凡人に出来ることは考えることや!)

 

 恭子は自分が一般的な打ち手だと理解している。豊音のような能力も、霞のような奥の手も、咲のような理解不能な闘牌も恭子は持っていないし、出来るわけがない。

 でも、だからこそ、そんな恭子だけにしか出来ないことがきっとあると思っている。

 

(思考停止したら、ホンマの凡人。サイコロ回して、頭も回すで! 親番!)

 

 気合を入れ直す。その瞳は強豪校大将に相応しい負けん気に満ちていた。

 

(さぁて、今度は何を仕出かすんやろうな。この清澄の化け物は)

 

 咲に対する恭子の評価が、それはもう酷いものになっていた。完璧に人外扱いであるが、きっと多くの人が賛同してくれるだろう。

 

(それに、急に雰囲気が一変したこの、永水のオッパイお化けも要注意や)

 

 凡人を名乗っている恭子も、それぐらいを感じ取ることは出来る。対面から感じるこのプレッシャーは、今までに感じたことのないものだから、自然と警戒心も増していた。

 

 それは豊音も同じであった。

 

(地区大会の映像見せてもらったけど、攻めてるシーンなかったし、こっちも下手に動けないかな)

 

 不幸中の幸いというやつか、宮守は現在トップ。しかも三校とも約20000点の差がある。この局を様子見しても、余程のことがない限り致命傷にはならない。

 

 だが、その局が進んでいくうちに、驚くべき光景が河に出来上がってきていた。

 

(わーお!)

(あっ!)

(ちょっとこれ……絶一門か⁉︎)

 

 ──絶一門

 麻雀用語の一つで、手牌もしくは捨て牌から、萬子・索子・筒子のうち、特定の一種をなくした状態や、そのような打法のことを言う。

 絶一門のメリットとしては、一種減らすことにより多面張りが増えたり、捨て牌を偽装しやすくなる点などがあげられる。逆にデメリットとしては、早いうちに絶一門をしてしまうと、減らした種は全て無効牌になるため手の進みが遅くなることや、染め手を疑われるためリーチをかけると相手が降りやすくなる、などがあげられる。

 現在起こっている現象は、咲、恭子、豊音の三人の捨て牌に、一つも索子が含まれていない状態であった。

 

(これは中々だね。まさかここまで強い場の支配なんて、衣ちゃん以来だよ)

 

 表情に出すようなヘマはしなかったが、咲は少なからずこの状況に驚いていた。

 

(別にこれが誰か一人とかなら、全く不思議に思わない)

(けど、三人が三人、索子で絶一門なんて初めて見たよー)

(狙ったわけやない。九巡目まで一枚も索子がきてないんや)

 

 普通この状況を見たら、咲も豊音も恭子も索子で染めてるのでは? という疑惑が出てくるが、それはないだろう。何故そう思うかと言われれば、単純に索子の数が足りないからだ。三人が三人とも索子を抱えているとしたら、確実に足らなくなる。仮にもしそうだとしても、捨て牌から状況を察してすぐに狙いを切り替える。混一色ならまだ可能性はなくはないが、それでもかなり低い。だからこそ奇妙なのだ。

 更にこの状況で気になることがもう一つあった。

 

(永水の捨て牌、索子が四つもある。逆に言うと字牌以外は索子しかない。さて、何が起こるかな?)

 

 白いオーラに似た霊気を発散させる霞は、柔らかい手付きで牌を置く。

 

「──ツモ」

 

 霞の宣言。

 開かれた手牌は索子で染められていた。

 

「門前、清一色、自摸、ー盃口で4000、8000!」

 

 信じられない光景に恭子と豊音は瞠目する。

 

(ぜ、全部索子⁉︎ 捨て牌に萬子と筒子がないのにか⁉︎)

(対策の仕方が分からないよー……)

 

 これが、霞の奥の手。

 ──自家一色独占・他家強制絶一門

 

 

 〜東三局〜

 親:咲

 

(倍満の親っかぶりで一人沈み。なんとかしないといけへんのに……)

 

 内心の焦りが表情に出ないよう、努めていた恭子だったが、この局も進んでいくうちに異変が起きていた。

 

(……ッ⁉︎ なんやなんやこれは⁉︎ 今度は萬子かっ⁉︎)

 

 先ほどの局と同じように、清澄、宮守、姫松が萬子で絶一門状態。疑いようもない異常事態だ。

 恭子は見開いた目で霞を見つめる。

 

(コイツが永水で一番やばい!)

 

 恭子はこの瞬間に確信した。

 ──この卓、どうかしてる。

 

(めげるわ……どうすればええんや)

 

 追っかけリーチや裸単騎など、複数の能力を扱う怪物──宮守の豊音。

 最後の最後に本性を現した、非現実的な場の支配を用いる怪物──永水の霞。

 嶺上開花を使い熟し、対局相手の能力を手に入れると思われる化け物──清澄の咲。

 

 唯の凡人には、荷が重過ぎた。

 正確に状況を理解出来ている者なら、恭子の勝つ可能性は限りなく低いと判断するだろう。それは本人も自覚していることである。

 

 普通なら諦めてしまう。

 

(…………ここで諦めるんか? 二回戦敗退、それでええんか? それで、納得出来るんか?)

 

 だが、恭子は違った。

 

(そんなわけないやろ!)

 

「チー!」

 

(私は凡人や。それは知っとる)

 

 闘志を宿したその目は、まだ死んでない。

 

(でも、私は大将や。ここまで繋いでくれた、皆の期待を背負ってるんや!)

 

「ポン!」

 

 麻雀が、精神論や感情論でどうにかなるものではないことなど、恭子は理解している。

 それでも、その思いが強ければ、届く願いもきっとある。

 

(それに、私たちは姫松。全国強豪校、姫松の意地を──)

 

「ツモ! 1000、2000!」

 

(──甘く見んな!)

 

 恭子の、意地を見せた和了り。

 これには、霞と豊音も瞳に驚きの色を乗せている。

 

(和了られた……?)

(清澄じゃなくて?)

 

 霞は、自身の場の支配がまさか恭子に突破されるとは思っていなかった。

 それは豊音も同様で、この状況を動かすのはてっきり咲だと思っていたのだ。

 

(さぁ、どう出る清澄!)

 

 能力を手に入れる、などという暴挙を見せた後のこの二局の間、咲は大した動きも見せず、まるで傍観者だと言わんばかりの態度であった。

 だが、今回は二回とも自摸和了りのため、咲の点数は削られている。しかもこの局は咲の親だ。何か反応があってもおかしくない。

 そのため、霞も豊音も、そして恭子も咲の次の行動に注目していた。

 

 そして──

 

 

 

 

 

「あハァ」

 

 

 

 

 

『ッ!!??』

 

 ──ゾワリと。

 俯いたままの咲の、その思わず出てしまったかのような笑い声に、鳥肌が立つのを止められなかった。

 

(なんや今のっ……)

(久しぶりね、悪寒が走ったのは……)

(……ちょー怖いんだけどー……)

 

 三人は直感していた。

 この後、咲が動き出すと。




末原さんの三麻のくだりは面倒だったので、精神論に置き換えました。
咲さんのアレはパフォーマンスなのだよ(白目)
次回は明日のこの時間に、そして2話同時投稿で二回戦を終わらせる予定なので、お楽しみにっ!





一応前以て言っておきます。
このオマケはホントヒドイです(笑)何でもアリです(笑)
感想欄に希望者がいらっしゃったので、急遽書いたやつです。
それでもokな方はどうぞー。





オマケ:謹賀新年

『新年あけまして、おめでとうございます!』

謹賀新年。
初詣へと集まった清澄、白糸台の主要メンバー。清澄のメンバーはわざわざ遥々、長野からここ東京に来ていた。そして元旦、初詣ランキング一番人気と名高い明治神宮に。

「何この人の量……」
「ここは毎年こんなものだよ」

満員電車も目じゃない程の人の量に、顔を青くする咲。それに対しもう何年も見慣れたからか、全く狼狽えていない照。ここに来て長野と東京の違いを改めて実感した咲だった。

「折角気合入れて来たんだから、おみくじくらいは引いてみたいわ」
「そうじゃのう、どのくらいかかるか想像出来んが」
「この中に突入するとなると、着物に皺が出来そうですね」
「それはイヤだじぇ〜」

久の提案に清澄メンバーは少し困り顏だ。
因みに集まっている全員着物を身に纏っている。初詣ということでとりあえず本気で!という、これまた久の提案によって全員本気を出した結果だ。

「こういうのは突っ込んじゃえばなんとかなるんだよ!行こっテル、サキ!」
「そうだね」
「待ってよ淡ちゃん、お姉ちゃん!」
「…………よくあの二人、あそこまで仲良くなれたな」
「あら、この前の菫の説教のおかげじゃない?」

出会いもその後の付き合いも最悪に近かった咲と淡だが、今では照を含めて仲良し姉妹のような気安さになっている。

「どうかこのまま平穏に済めばいいが……」
「菫知ってる?そういうのを『フラグ』って言うのよ?」
「……それは知りたくなかった」

久のその言葉に苦い顔をする菫だった。


****


無事おみくじを終え、その他の出店なども回り、それなりに楽しんだ後一行は近くにある公園へと訪れていた。

「サキ!これで勝負しようよ!」

そう言って淡が取り出したのは羽子板一式。
それを見た咲は、まるでそうなることを予想していたようにある物を取り出す。

「淡ちゃん、気が合うね。私もそうなると思ってこれを持って来たんだよ」

取り出したのは黒の油性マジック。

この瞬間、他のメンバーは思った。

ーーまたか、コイツら。

「ルールは?」
「相手側に打ち続けて落とした方が負け。勝った方は一回につき相手の顔に文字を一文字ずつ書ける。どう?」
「乗った」

そしてこのやり取りを見てまた思った。

ーーコイツら、最初からこれが目的か。

羽子板を持ち合い距離をとる二人。
もう既に戦闘態勢。殺る気充分だった。

「じゃあ、サーブは私からで」
「よし、来い!」

壮絶な争いが始まった。


****


「ハッ!」
「ふっ!」
「セイッ!」
「やぁっ!」
「…………どれだけ打ち合ってるんだあいつら」
「もう10分くらい続いてるんじゃない?」
「咲さん、頑張って下さい!」
「咲ちゃんその調子だじぇー!」
「淡ちゃんがんばれー」
「頑張れ淡ー」

二人の打ち合いは、それはもう凄いものだった。
普通の羽子板の打ち合いにある微笑ましさなど皆無。初めの第一打から本気も本気。着物を着ているにも関わらず、それを苦に感じさせないほどの動きを見せている。
最初は見ている方も夢中になって観戦していたのだが、硬直状態が続き、流石に長引きすぎている。今では咲の応援を和と優希、淡の応援を申し訳程度に尭深と誠子が行っている感じだ。
そして、決めに決め切れず、本人たちも焦燥を感じていた。

(あぁ、もう!しつこいな!神速のインパルスはホント面倒!普通の打ち合いじゃ決まらない、よっ!)
(どんだけ運動神経良いのサキはッ!アドバンテージは私にあるはずなのにッ!)

このまま続くと有利なのは咲。何故なら咲の方が体力があるからだ。

(ここで仕掛ける!)

淡が勝負に出た。
一度力一杯打ち込んだ後、次に咲がとれるだろう判定ギリギリの場所に羽を落とす。

「くっ」

それを咲はなんとか拾うが無理な体勢で打ったため、羽が柔らかい軌道を描き、浮き上がってしまった。

(これを待ってたよ!)

そのチャンスを淡は逃さない。

「はぁぁッ!」

助走を付け、力の限りジャンプする淡。
淡の狙いは唯一つ。

ーー全力全開のダンクスマッシュ!

空中高くに舞い上がった淡。
それを見て、咲は言った。

「淡ちゃん!パンツ丸見えッ!!!(嘘)」
「関係ないねッ!!!」

どうやら、淡は乙女の恥じらいを捨てたようだ。
ーーまぁ嘘だったのだが。
しかし実際問題として、淡のその白く輝く瑞々しい御御足(おみあし)が着物の裾から限界ギリギリまでサービスされている。その時点でも普通にアウトなのだが、vs咲に関しては勝利を優先させる淡であった。
羞恥心と引き換えに得られた僅かな時間を使い、限界まで身体を仰け反らせ全身の力を溜める淡。
そして、

「堕ちろッ!!!」

それを羽子板を振り下ろすと共に解き放った。

ーー勝ったッ!

淡はそう確信していた。
数瞬後には、淡が撃ち放った羽と地面が甲高い音を立てて接触する、そう思っていた。

だがその時、淡は見た。

咲が、ニヤリと笑うのを。

「ーーーーーふっ!」

ーーカラン

淡が気が付いた時には、羽は淡の背後に落ちていた。咲は淡に背を向けた状態で真横に両手を広げたままの姿勢で停止している。
外野から見ていたメンバーには、何が起きたのかよく分かった。

「なんですか今の⁉︎」
「咲ちゃん凄かったじぇ!」

そう、咲はあのダンクスマッシュを返してみせたのだ。それも遠心力を利用してスマッシュそのものを無効化。そして、スマッシュを打った直後の者が反応出来ないのを見越してのロブショット。それを淡の方を見ることもなくやってのけた。

「あ、あれは⁉︎」
「照、お前なんか知ってるのか?」
「うん。あれは宮永家秘伝の書、『テニスの王女様』に収録されている伝説の技、『()落とし』!!!」
『な、なんだってー!』
「おい!いくらオマケだからって巫山戯過ぎだろ!勝手に変な設定加えるんじゃない!」
「菫、意味不明なこと言わないで」
「お前が意味不明なこと言ってるんだろッ⁉︎」

菫のツッコミが虚しく響き渡った。

とりあえず決着が付いたことには変わりない。
呆然と固まった淡に、今まで見たことがないくらいニヤニヤした咲が、油性マジック片手に近づいている。

「さって〜♪淡ちゃ〜〜ん♪お顔塗り塗りしましょうね〜〜〜〜〜♪」
「……くっ」

屈辱を受け入れる覚悟が決まったようだ。
それを見て咲はマジックのキャップを開け、淡の右頬に一文字書き始めた。

「塗〜〜り塗り〜っ♪塗〜〜り塗り〜っ♪」

超楽しそうだった。
咲は、繰り返し形作るように文字を書いているため、出来上がった文字はまるで筆で書いたかのようになっている。

「出来たーっ!」

一声上げて完成。

「お姉ちゃん鏡だしてー」
「んっ」

淡の前に照魔鏡が現れた。

「なんでお前の鏡普通に出てきてるんだよッ⁉︎」
「今日は元日だから」
「なんでもアリだなおいっ!」

映し出された淡の顔。
そこには右頬に達筆で『泡』の一文字が書いてあった。
淡の額に青筋が浮かんだのは言うまでもない。

「次は左頬に『姫』だねっ♪」
「コロス」

キレた淡は止まらない。
その後も、勝負を重ねていった。


****


一言で言えば、悲惨だった。

ーーーーー淡が。

咲はあの後も、照曰く伝説の技を繰り出しまくっていた。

()返し!」
○○(白龍)!」
○○○○(ヘカトンケイル)の門番!」
()花火!」
「破滅への○○○(ロンド)!」
○○○○○(サイクロン)スマッシュ!」
○○○○(サムライ)ドライブ!」

一回目を含めて計八回。
淡は全て負けていた。
六回目くらいから、淡は半泣き状態だったが、咲の「自分から挑んで逃げるなんて、淡ちゃんは泣き虫で弱虫なんだねっ♪」という挑発を受け流すことが出来ず、ダラダラと続けた結果こうなっていた。
そして、淡の顔に刻まれた文字も計八文字。
おでこに『泣』『き』『虫』の三文字。
右頬に『泡』、左頬に『姫』。
右頬下に『ち』、口下に『ゃ』、左頬下に『ん』。

全部合わせて『泣き虫泡姫ちゃん』。

鬼畜の所業だった。

「あっハハハハハハはははははっ!!!淡ちゃんちょー可愛いよーっ(笑)写メ撮っておこっ。ねぇ、今どんな気持ちー?ねぇねぇどんな気持ちー?アハハハハハハッ!!!」
「……ぅ、うえっ……ぐす……」

悪魔がそこにいた。

「……照、お前はあの悪魔の形をした妹をなんとかしろ。それ以外のメンバーは私含めて全力で淡を慰めろ。いいな?」
『……異議なし』
「……じゃあ、取りかかれ」

ーー謹賀新年

皆さんは心地よいスタートを切ってください。

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