咲-Saki- もし咲が家族麻雀で覚醒してたら   作:サイレン

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6-7

 〜東四局〜

 東 永水 109600 親

 南 宮守 110100

 西 姫松  89200

 北 清澄  91100

 

(宮永さんもこわいけどー、相変わらずの絶一門。この状態は終わらないんだー……)

(一回和了っても終わるわけやないんか。……これずっと続くんか?)

 

 今度は筒子。

 どうやら前々局から続く絶一門に終わりはないようだ。それに対し、幾ら何でも非現実的過ぎると豊音も恭子もややげんなりしていた。

 更に前局の咲の様子から、きっと眠っていた化け物が動き出すと推測出来る。気が重すぎる懸念事項だ。

 

 そして、早速

 

「カン」

 

 咲が動き出した。

 

(清澄のカン……)

(ってことは……)

(嶺上開花?)

 

 三人はそう思っていたが、咲は嶺上牌をツモった後、それを手牌に加えた。どうやら和了り牌ではなかったらしい。

 だが、咲はここでは止まらなかった。

 

「リーチ」

 

(嶺上開花ではなく、リーチ?)

(ここに来てまたリーチやと……どういうつもりや清澄⁉︎)

 

 リーチすれば豊音に追っかけられて、先制リーチ者が豊音に振り込むことはもう証明されている事実だ。

 更に咲はその能力を手に入れていると思われている。逆に言うと、豊音に能力があることを確信しているはずなのだ。

 その状況でリーチするなど、はっきり言って、何を考えているのか全く理解出来ない。

 

 この場面で困るのは豊音であった。

 

(んー〜〜〜? ……とりあえず、まず一つ分かったことは、私の先負は奪われたわけじゃないってことかな?)

 

 豊音は聴牌出来ている。

 最初は、咲に能力が奪われたのだと思っていたため、それにはかなり安心していた。

 

(だけど、問題はこの後だよねー。どうしよう……仕掛けてもいいんだけど、何が起こるか分からないからなー)

 

 こんなことで悩むのは、今までの麻雀経験で初めてのことだ。その理由はこの展開で、自身の能力が通用しなかったことなどなかったから。

 

(……でも、試してみたい。私の《先負》が、本当に宮永さんに通用するのか)

 

 今日対面で対局している相手は、咲は、恐らく格上。あの《牌に愛された子》なのは間違いない。この状況で勝負に出ることはリスクがあり、中々の賭けになるだろうことも承知している。

 

(皆と少しでも一緒に遊んでいたい。この気持ちは本物。でも、自分の力を試してみたいっていう、この気持ちも本物)

 

 リスクと冒険を天秤にかける。

 決断は早かった。、

 

 ──《先負》

 先ずれば負ける。

 

「とおらば!リーチ!」

 

({二}、{五}、{八}、{1}、{4}待ちの五面張! さぁ、来い! 宮永咲!)

 

 豊音は咲を追いかけた。

 これを見て、恭子は冷静に場の状況を分析し始めた。

 

(宮守が追いかけた。今まで通りなら清澄が宮守に振り込むはずや。でも、そんな簡単にことが運ぶとは思えへん)

 

 能力を手に入れるまでしてのけたのだ。今まで通りなど、どうしても考えられない。

 流れに逆らうなどということは出来ないため、恭子と霞は大人しく場がどう動くかを見守ることにする。

 

(さぁ、どうなる?)

 

 咲は山から牌をツモる。

 咲以外からは当然見えないが、ツモった牌は{八}。豊音の和了り牌だ。

 同時に、咲にとっては槓材でもあった。

 

「もう一個、カン」

 

(暗槓っ⁉︎)

(そう来るんか!)

 

 リーチした状態でも暗槓は出来る。

 咲にとっては暗槓でも、明槓でも、加槓でも、槓さえ出来れば問題ない。

 咲が槓すれば、誰の手も届かない遥か高い場所で、嶺上の花は咲く。

 

 嶺上の白い花が舞い吹雪く。

 

(これが、天江さんを倒した、清澄の大将──)

 

 ──宮永咲っ!

 

「ツモ、嶺上開花。2000、4000です」

 

 豊音の《先負》を、無効化もせずに受け流した。

 これで分かったことは一つ。咲にはもう、《先負》は通用しない。

 ここまで綺麗に躱されたことは初めてで、豊音にとって厳しい現状ではあったが、それ以上に咲という実力者の存在に感動していた。

 

「はい!」

 

 大将・後半戦。

 対局は遂に、最後の南場へと突入する。

 

 

 〜南一局〜

 親:豊音

 

「ポン」

 

 咲が{中}をポン。

 普通の打ち手なら特におかしなことはないが、咲がすると違和感しかない。

 

(今度はポン? カンじゃないんだ……)

(何する気や清澄……)

 

「カン」

 

 霞は咲がツモった{中}を重ねて槓するのを見て、表情を硬くする。

 

(……やっぱり加槓もありなのね)

 

 考慮されてはいたが、実際やられるとなるとキツイものがあった。大明槓だけでも恐ろしいのに、ただのポンからも嶺上開花に派生するのは脅威的である。咲の能力の有能性が高さ伺える。

 

 この時点で、三人は嶺上開花で和了られると思っていたが、そうではなかった。

 咲は嶺上牌を手牌に加え、そのまま牌を捨てる。

 

(さっきもそうだったけど、嶺上牌で必ず和了る……というわけではないのね)

 

 当たり前のことなのだが、余りにも咲が異常過ぎてそのことに疑問を挟みこむことが出来ない。

 咲が和了っていないため対局は続くが、ここに来て更に妙なことが起きた。

 

「チー」

 

(宮永さんがチー?)

(それではカン出来ないはずなのに……)

(チーなんて、地区予選でもしてなかったはずや)

 

 三人にとって、不可思議なことばかりだが、咲は止まらない。

 

「カン」

「チー」

 

(おいおい、これは)

(これは宮守の……)

(今度は《友引》⁉︎)

 

「ぼっちじゃないよー」

 

 豊音と同様に、指で最後に残った牌を弄っている。闇の様に黒く、深い、異様なオーラを纏い、不気味な笑みを浮かべていた。

 

「お友達がきたよー」

 

 そのセリフと共に、咲はツモった牌を盲牌もせずに親指で上空へと弾き飛ばし、落ちてきたその牌を卓上へと叩きつけた。

 

「ツモ。2000、3900」

 

 どこかで見たような和了り方。

 それは清澄の中堅、竹井久のダイナミックな和了り方そっくりであった。

 

 この二局で視線はもう咲に釘付けになっている。しかし、それは決して驚き過ぎて見ているわけではなかった。

 

(また和了られた。しかも今度は裸単騎で地獄単騎)

(それにカンが入った分、有効牌を素早く引き入れることも可能になっとる)

(相手の捨て牌を利用して追加ドロー。しかも私の《友引》に地獄単騎まで。……やっぱりこの人、ちょーすごいよー)

 

 遂に、三人は異常過ぎるこの光景を冷静に分析するまでに至っていた。当然驚愕も含まれているが、もう咲はそういうものなんだと開き直ることにしたのだ。……きっと今ならこの三人は和などと仲良くなれるだろう。

 ただし、この成長が吉と出るか凶と出るかはまだ分からないが……。

 

 〜南二局〜

 親:恭子

 

 ──嶺上の花弁は舞い続ける。

 

「カン」

 

(またぁっ⁉︎)

 

 咲の暗槓。

 

「ツモ。2000、4000」

 

(今度は普通に嶺上開花──!)

(やりたい放題やないか……⁉︎)

 

 呼吸するかのように、嶺上開花を和了る咲。

 この大将戦、咲が和了ったのは全部で六回。前半戦は嶺上開花二回、後半戦は嶺上開花二回に豊音の《先負》に《友引》。

 恭子の思う通り、正にやりたい放題であった。

 

(こんの化け物……)

(これ以上は不味いなー)

(どうにかして止めないといけないのに……)

 

 残り二局。

 加えて、次の局の親番は要注意であった。

 

 

 〜南三局〜

 東 清澄 116000 親

 南 永水 101600

 西 宮守 101200

 北 姫松  81200

 

(清澄の親番。字牌での直撃に気を付けなきゃ)

(永水との点差はたったの400。とりあえずまくらないとねー)

(気付けばあと二局。うちは断トツでビリ。本格的にやばくなってきたわ)

 

 三位との点差はジャスト20000点。二位とは三位と400点差しかないため、どちらも点差は殆ど変わりはなかった。

 全員立場は違うが、やるべきことも三者変わらない。

 

 ──とにかく、咲が暴れる前に和了る!

 

(そうは言うても……)

(それが簡単に出来るのなら……)

(苦労しないよねー)

 

 咲の様子を伺う三人。

 当の咲は喜怒哀楽が全くない無表情。それに加え、瞳が閉ざられた目元が、前髪に隠れて影となっているため益々感情が掴めない。

 その表情を見て、豊音はあることを思い浮かべた。

 

(今の宮永さん、チャンピオンの宮永照さんにそっくりだなー)

 

 故郷に住んでいた頃、この舞台に憧れて長い間テレビにかじりついていた豊音は、全国大会で名を連ねる有名人に目がない。その中でも、全中覇者の原村和、《牌に愛された子》と称される永水の神代小蒔、龍門渕の天江衣、白糸台の宮永照などの選手には、完璧にファンとなっていた。それはもう、彼女たちの対局映像は穴が空くほど見てきたと豪語出来るくらいだ。

 そんな豊音だからこそ、今の咲がどれだけ照と似ているかよく分かる。

 

 そして豊音は知っていた。

 このような状態の照が、次にその目を開いたとき、必ず何かしらのアクションが起こることを。

 

 ──咲の瞳が開かれ、妖しく輝く。

 その瞬間、この空間を支配する、圧倒的なオーラが咲から解き放たれた。

 

(なっ……⁉︎ これっ……)

 

「カン」

 

 恭子の捨て牌を大明槓。

 全身から湧き上がる紅く暗く輝く恐ろしいオーラを纏ったまま、咲は嶺上牌へ手を伸ばす。

 その光景を咲以外の三人は、オーラに怯えてか、碌に動けず見守っていた。

 

 そして咲は、その嶺上牌を──盲牌すらすることなく河へと捨てた。

 

(えっ……⁉︎ 嶺上開花じゃなく……)

(ツモ切り──⁉︎)

(今まで感じたこともないようなプレッシャーだったのに、手牌にすら入れないなんて……)

 

 真正面から豊音を見る咲。

 そこにあったのは、もう同じヒトとは思えない化け物の姿。

 

(やっぱり、ちょー怖いんだけどー……)

 

 大将・後半戦は波乱を迎えていた。


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