咲-Saki- もし咲が家族麻雀で覚醒してたら   作:サイレン

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7-2

 

 〜東一局〜

 東 白糸台 100000 親

 南 新道寺 100000

 西 阿知賀 100000

 北 千里山 100000

 

(親は照さんからですか)

(照の親番からやと、少しだけ気が楽やわ)

 

 宮永照は最初の東一局は和了らない。

 これは全国的にも有名で、ほぼ全ての対局でそうなっていた。

 団体戦だと前半戦だけだが、その一局で照は相手を観察していると言われており、対局経験者は口を揃えてこう言っている。

 曰く、この間で自分の本質的なものを見抜かれている感覚がある、と。

 これこそ、照の全ての基盤となる能力──《照魔鏡》である。

 

 以上のような理由から、照以外の三人にとってこの一局だけが、少し無理してでも攻められる最初で最後のチャンスである。

 それでも、対局前に照が言っていた発言が気になるところではあった。

 

(和了らないって思いたいけど、さっき変なこと言ってたよね?)

(序盤は奇妙な展開になる、でしたっけ?)

 

 照の言う奇妙な展開というのが、どのようなものか定かではないため、どう転ぶかが予想出来ない。そのため玄と煌は自然と様子見状態となっていた。

 加えてこの場には怜もいる。照と比べるとやはり霞んでしまうところではあるが、怜も怜で化け物じみた能力を所有している。

 

 ──一巡先を見る者。

 それが全国2位、千里山女子のエース──園城寺怜だ。

 

(言っとった意味はよく分からんけど……)

 

「リーチ」

 

 リーチ棒を垂直に立てて立直宣言。

 

(──仕掛けんと、勝負にならんしな)

(園城寺さんの先制リーチ!)

(すばら!)

 

 怜のこの特徴的な立直宣言。この際にはあることが起きる。

 それは鳴いてズラすなどをしないとほぼ確実に起こり、これこそ、怜が一巡先を見る者として有名になったきっかけでもある。

 

 一巡後。

 怜の瞳が翠色に輝くと共に、リーチ棒が倒れた。

 

「ツモ。2000、4000」

 

 立直一発自摸。

 これが一巡先を見ることが出来る、怜だからこそ可能な芸当である。

 

(すばら!)

(園城寺さん、やっぱり強い)

 

 二回戦で一度対局経験がある玄にとって、怜の強さは嫌というほど理解していた。それでもやはり、簡単に止めることが出来ない。

 

 そしてこちらも重要だが、東一局、照は和了らなかった。

 ある意味でいつも通りの展開だが、それでも様子が気になる三人は照を盗み見る。

 そこには、不気味に輝くオーラを纏った照の姿。

 照の瞳が、大きく見開かれた。

 

 

****

 

 

「ふーーーん、なるほど。これが予知能力者で、こっちがドラ使いか。ホントにドラが集まるんだね。そしてお姉ちゃんは《照魔鏡》発動っと。ここまではまぁ、予定調和ってやつだね」

「ここまでは、ね」

 

 意味有りげに呟く淡。

 今まで通りの照ならここから連続和了が始まり、平気で六連続くらい和了り続けるはずだが、今回はきっと、何かが違うはずだ。

 それを楽しみに対局を観戦する咲だったが、もう既に知っている淡からすると、観てるだけというのは少し退屈だった。そのため、気になることを咲に聞く。

 

「ねぇねぇサキ」

「何?」

「始まったばっかであれだけど、サキはどこに決勝上がってきて欲しいの? 能力に関してはさっき言った通りだから、それを参考に」

「それを言ったら、上がって欲しくないところを残す気でしょ?」

「それもいいかなとは思ってる。でも残念だけど、私サキみたいに器用じゃないから正直メンドイ」

「うーん……。まぁ、いっか」

 

 咲は自分の考えを教えることに決めたようだ。

 

「はっきり言って、どこでも構わないかな」

「そうなの?」

「うん。まず予知能力者さんに関して言うなら、単純に優秀な能力だからお姉ちゃんを妨害するのに有効そう。ドラ使いさんなら、ドラを抱えてくれるだけでお姉ちゃんの妨害には十分役に立つ。すばらさんに関しては言わなくても分かるでしょ?」

「アハハ、確かにそうだね。この先鋒戦は面白い打ち手が多いから、そうなるか」

 

 淡は満足したように笑う。

 しかし、その笑みはどこかニヤニヤしてる。それは、これから何が起こるかが分かっている者特有の、嫌らしい笑みであった。

 

「サキ。今自分が言ったこと、ちゃんと覚えといてよね。また後で聞くから」

「……いいよ。楽しそうだし」

 

 挑発めいた淡の言葉に、咲も面白そうに笑みを浮かべながら応える。

 次同じ質問をされるのは、照の奥の手披露後だろう。その時、自身の考えがどうなるかは、まだ咲にも分からない。

 唯一つ分かる事といえば、この対局が、咲にとって楽しみなものだということだけだ。

 

 

****

 

 

 〜東二局〜

 親:新道寺

 

(さて、とりあえず和了れたんはええんやけど、問題はこの後や。さっきの感覚はセーラの言うてたやつやろか? ということは、もう見透かされてもうたんかな?)

 

 照の様子見は東一局だけ、というのが全国的な共通認識である。

 そのため怜の思う通り、問題はここから。この後、如何にして照の連続和了を止めるかが勝負の鍵となるだろう。

 

(でもそうなると、あの発言が凄く気になりますね)

 

 一度二回戦で対局している煌からすると、対局前の照の言葉は妙に気にかかる。

 

(二回戦と同様の展開なら、このあとはあの連続和了が始まるはずです。ですが照さんは、奇妙な展開になると仰りました)

 

 決して良いというわけではない頭で、照の言葉の真意を煌になりに考えてみる。

 

(こういうときは逆を考えれば分かるものです。なので奇妙ではない展開とは何か。それはズバリ、連続和了でしょう)

 

 照の代名詞と言える能力。そして、照を最強たらしめる能力でもある。

 煌からすると、奇妙でない展開はこれぐらいしか思い付かない。

 

(つまり奇妙な展開とは、照さんは連続和了をしないこと! もしこれが本当なら、私的にはすばらです!)

 

 煌の推測通りなら、それはもう都合が良い。自身が和了れなければ点数は増えないものの、削り取られる心配もなくなるからだ。

 煌のチームでの役割は点数をどれだけ多く残せるかである。

 

 煌は知っているのだ。

 部長は自分が照に対して勝てると思って送り出されたわけではないことを。元々負けることを前提にされていることを。

 

(しかし、そんなことは関係ありません!)

 

 ──捨てゴマ上等!

 ──チームの役に立てるのなら、何だってしてやりますよ!

 

(でしたらここは、攻めあるのみです!)

 

「リーチ!」

 

 煌が仕掛ける。

 

 これに対し、玄はどう動いていいか分からない。

 

(どうしよう……。ドラはちゃんと来てくれてるけど、まだ聴牌出来てないし。園城寺さんだけでも大変なのに、今日はもっと凄い照さんまで。鳴いて仕掛けた方がいいのかな……)

 

 一巡先を見る怜もそうだが、照の聴牌速度も異常であり、満貫までの平均は五・六巡。

 運の要素が強い麻雀でこの聴牌率はそれだけで脅威的である。玄がこの状況で和了りにいくとなると、鳴いて速攻を仕掛けるしかない。

 しかし鳴くのもリスクがある。手牌の数が減ればそれだけ振り込む可能性も増えるし、現に先日行われた二回戦では、ドラを捨てられないという弱点を怜に狙い撃ちにされている。

 

(……本当にどうしよう⁉︎)

 

 早くも切羽詰まっていた。

 

 そんな葛藤があることを知らない怜は、玄ではなく照の様子を伺っている。

 

(お手並み拝見といきたいんやけど、あの宣言も気になるなぁ。……とりあえず、無理のない程度に一巡先を見ながらやるしかないかぁ)

 

 自分の武器はそれしかない。ならばそれを最大限活用するまでだ。

 瞳を翠色に輝かせて一巡先の未来を見る。

 

(……えっ⁉︎)

 

 映し出されたその衝撃的未来に、思わず照の方を振り向いてしまった。

 

(嘘やろ⁉︎ あの照が……)

 

 怜にとってこの力が手に入ってから、見えた未来が嘘だと思ったのはこれが初めてのことだった。それ程までに見えた光景が信じられないものだったのだ。

 思うことは色々あったが、今見えた未来が本当なら怜に出来ることは無い。適当に振り込まない牌を捨てる。

 そして、怜の下家にいる照は牌を自摸り、その牌を盲牌すらせずに捨てた。

 

「ロ、ロンです! 立直一発で3900」

「……えっ⁉︎」

 

 慌てて和了ったのは煌、驚きの声を出したのは玄である。

 怜は予め見て知っていたので声を出すことはなかったが、心情としては玄や煌と同様のものだった。

 

 ──照が振り込んだ⁉︎

 

 準決勝第一試合先鋒戦は、早くも波乱の展開を広げていた。





アンケート沢山集まってちょーうれしいよー^_^
ただ一つ思いました。
みんな、姫松好きじゃないの……?
ここまで誰一人としていないという……。てっきり末原さん末原さんなると思っていたのですが、意外でした。
そしてそれに反比例するように、みんな豊音大好きですね!一番名指しが多いですから!
……《仏滅》
……《赤口》
…………………思い浮かばないよぉ。

あと、咲in問題児はリクエストがあったので、これとは別に連載として投稿しました!
続きも書いたので、興味がある方は是非ご覧になって下さい。この作品の咲さんの性格に慣れていると更に楽しめるかもです(笑)

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