咲-Saki- もし咲が家族麻雀で覚醒してたら   作:サイレン

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7-4

 

 準決勝第一試合、前半戦終了。

 南場に入るまでは千里山の単独トップ、白糸台の一人沈みだったにも関わらず、たったの三局で形勢が逆転。

 終わってみれば一位に君臨したのは白糸台。

 

 この結果に、照はやや不満げだった。

 

(……思ったより時間が掛かった。親を二回流されるなんて、怜と煌にしてやられたな)

 

 席から立ち上がり、気分転換に対局室を出て暫し歩き回る。……決して中にいると気まずいからとかではない。

 しばらく歩を進めていたら自動販売機に辿り着いたので、ついでに好みの銘柄の紅茶を買って一休みすることにした。

 

(やっぱりまだ慣れてない。この《八咫鏡》、性能は良いのに使い勝手が悪い。これじゃあまだ、咲相手には使えないかな)

 

 複数回《照魔鏡》を使用しなければならず、今回のような団体戦なら絶大な効果を持つが、咲と当たるだろう個人戦では使いにくい。

 まぁ、元々の連続和了でも十分以上に戦えるため、そこまで心配いらないだろう。

 後々のことを考えるのも大事だが、今は目の前の対局と切り替える。

 

(……にしても、怜の力は凄いな。分かってはいたけど、ホントに未来が見えるとは。……自分の能力だけど《八咫鏡》おかしくない?)

 

 咲を倒すことを目的に強さを求め、気付いたら手にしたこの能力。対局相手が変わるまでは継続する、模倣の能力だ。しかも良いとこ取りというオマケ付き。

 最初に思ったのはこんなこと。私、鏡好きだなー。

 

(ドラも自然に入るようになったし、これで打点上昇させやすい。おまけに一発自摸。……目指せ17翻!)

 

 ──姉より優れた妹などいない!

 ──咲が衣相手に行った数え役満(オーバーキル)目標に頑張ろう!

 

 これこそ、咲に通ずる麻雀戦闘狂の血。

 意味不明な理論から、恐ろしい決意を密かに固める照だった。

 

 

****

 

 

「ん? なんか今、物凄く不躾なことを言われた気がする」

「何の話?」

「……いや、何にもないよ」

 

 白糸台高校控え室にて、天から聞こえた気がした声にちょっとキレ気味の咲だったが淡の言葉で正気に戻る。

 

「それでそれでサキー。どうなの、さっきの質問の回答は?」

「……そんなの、聞くまでもないでしょ」

 

 決まりきっている答えを言うのは尺だが、面白そうと言って淡の挑発のようなものに乗ったのは自分だ。

 ソファの背凭れに背中を預け、心底面倒そうに答える。

 

「どう考えても新道寺一択だよ。お姉ちゃん相手にあれほど有能な能力者はいない。阿知賀と千里山は能力は優秀だけど、コピーされるとなると話が別。この後の対局、あの三人はお気の毒でならないよ」

「今の照は恐らく今までのなかで最強だろうね。サキなら勝てる?」

「無理。未来が見えて、ドラが集約されて、連続和了? 何それ、絶望でしょ」

 

 言っていて再確認出来るが、本当にどう立ち向かえばいいのか。唯一の希望は飛び終了がないという点だけだ。まぁ、悲惨なことに変わりはないだろうが。

 個人で戦っていてはまず勝ち目はないだろう。前半戦でも自然と行われていたように、二人ないし三人で協力するのが絶対条件である。

 

 だがそれでも、かなりの点数が削り取られるはずだ。

 

「じゃあサキー。一番上がって欲しくないところはー?」

 

 現在、咲の優位に立てている淡はさぞ機嫌が良いのだろう。可愛らしい、嫌らしい、ウザったい笑みで咲をからかう様に問う。

 そんな淡を見て咲は極自然にイラッとしたため、淡の両頬をつねり弄りまくる。

 

「いひゃいいひゃいッ!」

「相手校の研究まで行うようになった今の淡ちゃんならぁ、どこか、なんて言わなくても分かるでしょー?」

阿知賀(あひひぁ)?」

「大・正・解!」

「あうッ⁉︎」

 

 バチンッと、引っ張りきった頬を放す。

 お陰様で淡は頬を抑え呻き声を上げながら蹲っているが、咲を含めたその場にいる全メンバーはそんな淡に見向きもしない。

 

「咲ちゃん。お茶淹れたから、良かったら飲んで?」

「ありがとうございます、尭深さん」

 

 尭深に淹れてもらったお茶を淡以外の全員で嗜む。

 

「あっ! 尭深先輩、私にもちょーだい!」

「はいはい。待っててね淡ちゃん」

 

 直ぐさま復活した淡もお茶を頂くことに。

 日頃の努力の賜物なのか、尭深の淹れてくれるお茶はとても美味しい。一口飲んで思わず感嘆するくらいに。

 大分気分がほっこりした咲は、淡の質問に丁寧に答えることにした。

 

「さっき言った通り、一番いらないのは阿知賀。前半戦見てれば分かる。あの人には柔軟性が圧倒的に足りない。臨機応変という言葉を知らないのか、ってくらいには。その点でも新道寺は一番魅力的だね。あの人が早くに動いてくれたからこそ、ある意味でお姉ちゃんに一矢報えたんだから」

「確かにー。新道寺と千里山がいなかったら、今頃もっと悲惨な点差になっただろうね」

 

 他人事だから今は呑気に過ごせるが、近い内に対局する羽目になるだろう咲はやはり少しゲッソリしている。

 

(四校合宿でいくら優希ちゃんを鍛えたって言っても、所詮私の連続和了だしなー。速さの点では大分魔改造に成功したとはいえ、《八咫鏡》状態のお姉ちゃんは分が悪すぎる)

 

 優希の東場の爆発力を手に入れた照なら、数え役満もあり得るだろう。

 

(デメリットも反射してくれるならありがたいけど、お姉ちゃんに限ってそれは期待出来ないなー)

 

「とりあえず、後半戦は出来る限り観察しないとね」

「テルの独壇場だよ?」

「知ってる」

 

 否定する必要すら感じなかった。

 

 

****

 

 

 対局室から照が出て行った後、他の三人は動かなかった。いや、正確には動けなかったと言う方が正しいかもしれない。

 怜としてはいつもより疲労はないのだが、そんなのを気にする余裕は全くなく、内心は焦りに焦って焦りまくっていた。

 

(………………どないするどないするどないする⁉︎ アレはヤバ過ぎる……。ウチのように一巡先が見えて、しかもドラまで。後半戦、何かしら対策立てへんとロクな結果にならへんぞ!)

 

 唯一真面に《八咫鏡》を見た怜だからこそ、その恐ろしさを感じ取れた。オカルトなんてものじゃ済まされない。

 

 あれは人では無い、神の領域に達したものだ。

 

(…………一回落ち着こう)

 

 どうやら想像以上に参っていたらしい。だがあまりにも頓珍漢なことを思ったお陰で、自分を立て直すことが出来た。深呼吸をして冷静さを取り戻し、周りを見渡す。直ぐ側には煌と玄の姿があった。

 煌はまだ目に闘志を宿したままの状態なので、心配は要らないだろう。

 

 問題は玄だ。

 目が完全に死んでいる。

 だが、それも仕方ないだろう。

 前半戦、決して悪いというわけでは無かったが良いわけでもない。

 極め付けはドラの支配が照に侵されたことだろう。あれで戦意を喪失してしまったのだ。無理もない。唯一絶対の自身の長所が呆気なく崩されたのだから。

 

(それでも、阿知賀にこのまま退場されたら困るんや)

 

 恐らく煌も気持ちは同じだろう。

 対局中のように顔を見ると、また目が合う。

 アイコンタクトで二人は頷きあい、玄に声を掛けることにした。

 

「あー、阿知賀。大丈夫か? 生きてるか?」

「確かに状況はすばらくないですが、諦めてしまうのはもっとすばらくないですよ!」

 

 なるべく優しく声を掛けた。

 こんな場面で追い討ちするような非道でもないので当たり前だ。きっとテンション上がりきった咲や淡でも、そんなことは自重するだろう。……もしかしたらしないかもしれないが。

 

「花田さん、園城寺さん……」

 

 お世辞にも上手いとは言えない二人の励ましで、なんとか復活する玄。

 それでも、状況が好転したわけではない。

 

「ウチのことは怜でええで」

「私のことも煌で構いませんよ」

「……すいません、迷惑掛けて。ありがとうございます、怜さん、煌さん。私のことは玄って呼んでください」

 

 対局前、照と交わした挨拶のように仲を深める。

 対局前はただの自己紹介だったが、今回は目的が違う。

 

 怜はある決意をした。

 

「ホンマはこういうの良くないと思うんやけど、今回は非常事態中の非常事態や」

 

 二人を真摯な瞳で見つめる怜。

 

「照には悪ぅ思うけど、他に手が無い。三人であの魔物を止めよう」

 

 ……反対の声は上がらなかった。

 それほどまでに切羽詰まった状況なのだ。

 

「あの、でも、それっていいんですか?」

「あまりに露骨なのはそりゃダメやろな。まぁ、事前に打ち合わせるくらいなら大丈夫やろ、多分、きっと」

「言い出しっぺの割にそこは適当ですね……」

 

 半眼で見てくる煌を、怜は見なかったことにした……というのもあれなので、自信満々に告げる。

 

「こまけぇこたぁいいんだよ(ドヤ顔)!」

「「………………………………」」

 

 ……………………………………。

 

 …………スベった。しかも無反応だ。

 どうやら、このシリアスな空気の中では大阪人のノリは通用しないらしい。

 怜はちょっとだけ泣きそうになった。

 

「…………とりあえず、まずは状況の確認や。知っとるとは思うんやけど、ウチは一巡先、未来が見える。逆に言うと、それ以外は大したこと出来ひん」

「……私はその、皆さんのような特殊な力などはありません」

「わ、私はその、ドラが沢山来ます。でも、それも照さんに少し取られてしまって……」

 

 怜は今の玄の発言に目敏く食い付いた。

 

「少し? っちゅうことは、玄もドラは持ってるんか?」

「はい。……いつもよりは少ないですが」

 

 これは貴重な情報だった。

 怜の力が失われていないことから推測出来たが、どうやら照は相手の能力を奪うものではないらしい。

 

「……ウチなりの見解やけど、照の力は対局相手の能力をコピーするもんや。だから照は一発自摸も出来るし、ドラも持ってた」

 

 それを聞いて、煌と玄は目を見張っていた。

 ある程度予想出来ることではあったが、そこはやはり信じられない気持ちの方が大きかったのだろう。理由は単純明快、そんなの、あまりにも非常識だからだ。

 しかし、これは只の確認作業である。この程度では状況の打破には繋がらない。

 怜はもう少し情報を集めることにした。

 

「玄、そのドラの支配って言うんか? それは故意にやってるものなんか?」

「……い、いえ。その、集まってきてくれるというか、その、兎に角、意識してやっているというのではないんです」

「そうか。それじゃあもう一個や。なんで玄はドラを捨てないんや? それは意識してやっとるやろ?」

「……ドラを捨てると、その後しばらく来なくなるんです。ある程度の局を重ねれば元通りになるんですが」

「やっぱり、そんなんやったか」

 

 予め調べていた結果から推測出来る内容と一致していた。まぁ、それくらいしか、理由が思い付かないのもあったが。

 

「照もそのデメリットを背負ってたら楽なんやけど、楽観視は出来ひんな」

「そうですね。照さんなら何でもありな気がします」

「煌もそう思うんか?」

「えぇ、一度対局しましたから。照さんの強さなら、この中で私が一番分かっています」

 

 煌は二回戦で照にボコボコにされている。それを踏まえての発言であろう。

 

「そうなると、ロクな対策が思い浮かばへんなぁ」

 

(やっぱ、使うしかなさそうやな……二巡先(ダブル))

 

 この瞬間、怜は倒れる覚悟まで決めた。

 

 今いるこの場所は、夢にまで見た全国の舞台。

 親友の清水谷竜華と江口セーラ、共に歩んできた仲間と競える、高校で最後の舞台。

 こんなところで終わらせるつもりなど、毛頭ない。

 

「煌、玄。実はウチな、やろうと思えば二巡先も見れるんや」

「えっ……⁉︎」

「そうなんですか⁉︎」

 

 怜の発言にこれまた驚く二人。

 一巡先でも十分詐欺っぽいのに、二巡先なんて間違いなく詐欺である。

 

「それはすばらですね! でも、今までどうして使わなかったんですか?」

「それがなぁ、メッチャ疲れんねんソレ」

「……だ、大丈夫なんですか? 怜さん、身体が弱いんじゃ」

「平気平気。仮病やから」

 

 これは嘘である。

 怜は仮病などではなく、正真正銘病弱である。病院に通い詰めの日々もあったし、一度は生死の境を彷徨った程だ。

 だが、ここでそれは言わない。言っても仕方が無いからだ。

 

「だから、予め決めるのは一つや。要するに、どのタイミングで仕掛けるか、や」

 

 これが一番大事であり、且つ難しい注文でもあった。

 今の照は正直おっかないを飛び越えて、最早どうしようもない。

 連続和了にもある程度法則があるのは知っているが、先程満貫から始まったのを見ると、怜たちが知らないこともまだまだありそうで怖い。もう本当に怖い。

 

「煌、二回戦の照の連続和了はどない感じやった?」

「はい。照さんの連続和了はそれはすばらなものでした。私の時は確か、最高八連続で倍満までいきました」

「……マジ引くわぁ〜」

 

 思わず本音が漏れてしまった。

 

「そんなんやから怪物とか言われんやろな」

「……怜さん。さっき自分で照さんのこと魔物って」

「気のせいや、玄。気にしたらあかんねん」

「……は、はい」

 

 大阪人特有の強い気迫に玄は押し負けた。

 

「……よし、決めた」

 

 煌の意見を参考に、怜は作戦を伝える。

 これが今出来る、最善の対策だった。

 

 

****

 

 

「準決勝第一試合先鋒後半戦! 起家は新道寺の花田煌!」

「宮永選手がラス親ですか……。これは後半戦、ちょっと……いや、かなり危険な配置になりましたね」

「と言いますと?」

 

 対局開始前、今は丁度場所決めを終えたところだ。

 その結果を見て、健夜はやや苦い顔をしている。それは白糸台以外の三校に対する、哀れみの表れでもあった。

 

「ラス親は宮永選手の連続和了が、最も効果的に機能すると言いますか」

「あぁ〜。理想的展開だと、三回和了して打点が上がってから親番が来ると」

「はい。しかもラス親ですから、それが二度も」

 

 実際に照は西東京の予選で一回、先鋒戦で対局相手を飛ばして終了させている。

 十万点を半荘二回で飛ばすなんて常識外れもいいところだが、照の連続和了はそれほどまでに強力なものなのだ。

 

(しかも、今の宮永さんは恐らく、一巡先が見えてドラが集まる。これはもう、どうしようもないですね……)

 

 健夜の見解も、殆ど咲と同様のものであった。

 

「小鍛治プロ的には、この対局はどうなると思いますか?」

「……正直に申し上げるなら、どこかが飛んで終わる可能性が高いと思います」

「……そんなに凄いんですか? チャンピオンの実力は? 全国の準決勝ですよ?」

「……可能性としては、の話ですよ」

「……その点も含めて、注目ですね!」

 

 対局選手が席に着いたのを見て、実況へと意識を切り替える。

 この後、健夜の言う通りの展開になるのか。はたまた、他の三校が意地を見せつけるのか。

 

「さぁ! 準決勝第一試合先鋒後半戦! スタートです!」

 

 ──それはまだ、誰にも分からない。

 

 






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まさかのランキング1位(やったー!)

お気に入りも増えてる(ありがとうございます!)

なのにいつも以上に感想数が少ない

……………………………?

衣ーーー…なんか悪いことしたかな……(心当たりならあるwww)?

って気持ちでした。
……ギリギリアウト? でも削除とかされてないし……もうオマケやめた方がいいか? ……ちょー不安だよー……

精神安定剤も兼ねて沢山感想待ってます!……ホント待ってます!
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