咲-Saki- もし咲が家族麻雀で覚醒してたら   作:サイレン

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この作品はアレですね。
後先考えずに書き続けた結果、咲と照のパワーインフレがヒドイことになっているので、それに伴い周りの面子も引かれるように強くなっていきます(笑)
そうでもしないとこの二人を止められないから仕方ないですね(言い訳)!
あと、個人的にウジウジしたりとか嫌いなせいで、基本俺tueee! がポリシーなのです!
咲さんサイッコー!!

前置きが長くなりました。続きです!


7-6

 

 〜東四局・一本場〜

 白糸台 184000 東

 新道寺  66100 南

 千里山  84800 西

 阿知賀   65100 北

 

 この局が開始されてから、玄はずっと自身を責めて続けていた。

 

(私はなんて情けないんだろう。一回挫いたからってすぐ諦めようとして……!)

 

 照の三倍満を防ぐことが出来なかった先程の局で、また玄は弱気になってしまっていた。もしもそのままであったなら、前半戦終了間際のような悲惨な状態になっていただろう。

 それが元に戻ったのは怜のお陰だった。

 怜があの時こぼした笑みが、玄が再び闘志を燃やすきっかけになったのだ。

 玄にはあれが空元気だとは分かっていた。それでも、あの笑みから怜が何を思っているかくらいは伝わった。

 

 怜はまだ、この対局を諦めても、投げ出してもいないことを。

 

(怜さんがこんなに頑張ってくれているのに、私はまだ何も出来てない……!)

 

 見るからに様子がおかしいことからも、相当無理をしているのだと分かる。それなのに玄は力になってあげることも、自身が照に立ち向かうことも出来ていなかった。

 そんな自分が情けなくて仕方がなかった。

 

(対局前に最後まで全力を尽くそうって約束したのに……!)

 

 ──もう二度と、弱気になんてならない!

 

(……考えなくちゃ。私にも出来ることを。絶対何かあるばすだから)

 

 怜のように何巡か先の未来なんて玄には見えないから、照より先んじて和了ることは実質難しい。

 また玄は照の上家にいるため、鳴くことによるメリットは少ない。その役目は自然と煌が担ってくれている。

 これ以外に玄でも貢献出来ることと言ったら、考えられるのは一つだった。

 

(……やっぱり私には、ドラしかない)

 

 唯一の長所にして、最大の能力。

 

(今までは無意識だった。なら、今度からは意識的にやってみよう)

 

 玄にとってドラは、来てくれるものだった。

 でも、それでは駄目なのだ。

 自分から呼び寄せるくらいしなければ、この場では役に立たない。役に立てない。

 

(照さんからでも奪い取れるくらい、強く!)

 

 玄は巷で言う《牌に愛された子》ではないのだろう。

 でも、ドラになら誰よりも愛されている。それこそ、照よりも愛されているはずである。

 なら後は玄がドラを想えば、きっとドラは応えてくれる。玄の元に集まってくれる。

 

(お願い! 来て!)

 

 ──この時、玄の強固な意志が、玄の能力を昇華させた。場の支配という形で。

 

 その気配を他の三人は感じ取った。

 玄から放たれる気迫にも似たオーラが、徐々にだが確実に増加している。

 今までの玄とは一線を画す存在感を発揮していた。

 

(玄さん、今のあなたはとてもすばらですよ!)

(……玄、踏ん張って……くれたか。照の……打点上昇を抑えるには、玄に……かかってるで)

 

 怜は霞む視界で玄を見詰める。

 能力を酷使し過ぎている代償は確かに大きい。それでも、この土壇場での玄の一段階飛んだ成長は、それを補って余りある価値があった。

 

(次……来るのは、数え役満……絶対にさせへん!)

 

 ──三巡先(トリプル)

 

 加速する未来。

 限界に近いのか、見える翠色の光景にはノイズが混ざり始めていた。もしかしたら、疾うに限界なんて超えているのかもしれない。

 しかし、ここで立ち止まることは許されない。

 

「ポン」

 

(……次は、煌が)

 

「ポン!」

 

 照の自摸番を確実に飛ばす煌。いくら照といえども、牌を引けなければ何も出来ない。

 鳴くことは可能だが、翻数が必要なこの局では鳴くに鳴けないだろう。元から役満である国士無双のようなものなら前提条件として鳴けない。また、鳴いて成立する役満は他家から読み易いことも、照の制約を強くしている。

 だから照は、自力で数え役満を和了にくると推測出来る。

 

「ポン!」

 

(照さんの下家に座ったものですからね……。私に出来ることはこの程度ですが、怜さんなら)

 

 煌は徹底的に鳴きにいく。

 自身の和了りを諦めたわけではないが、今はそれよりも優先すべきことがある。

 煌の狙いを把握している怜と玄は、照に振り込むことなく、且つ煌が鳴けるであろう牌を選んで捨てていく。

 

「ポン!」

 

 これで三副露。

 

「またまたポン!」

 

(……煌に……随分と無茶させてもうた。これが……せめてもの、お礼や……!)

 

 四副露。裸単騎になるまで鳴き続けた。

 玄の強化された場の支配により、照からドラを奪い返して翻数を上げにくくした。

 煌の尽力により、照の自摸番を複数回に渡って飛ばした。

 そして、怜は未来を見た上でそれを改変した。

 この三人の結束が、

 

「ロンです! 1300の一本場は1600!」

 

 遂に魔王の進撃を止めてみせた。

 

 

****

 

 

『新道寺の花田煌! 遂に! 遂に王者を止めることに成功しましたッ!!!』

 

「おぉ! 止めた止めた! 千里山の振り込みスゴーい!」

「………なるほどね。いくらお姉ちゃんといえども、数えは厳しいってことか」

「まあ、バッチリ染めてるけどね」

 

 淡の言うように照の手牌は既に二向聴。清一にドラを絡めた役作りをしていた。しかし今回はドラの集まりが悪くなったのか、思いのほか翻数が伸びていない。

 兎にも角にも、数え役満という最悪の結末を阻止することが出来たのは喜ばしいことであるだろう。

 

「でも、あと一回お姉ちゃんの親番が残ってるんだよね。……千里山の人、大丈夫かな?」

「なんか今にも倒れそうな感じだよね?」

「うん。ちょっと異常だよ、あの様子は」

 

 画面越しから見ても、怜の容態は相当悪いことが伺える。あれはただ麻雀を打っているだけでなるような状態ではない。明らかに身体に異常をきたしているのが判った。

 

「そのことなら恐らくだが……」

「菫さん、何か知っているんですか?」

「あぁ。千里山の園城寺は元から病弱らしくてな。一度、生死の境を彷徨ったことがあるらしい」

「……それ、大丈夫なんですか?」

「……大丈夫じゃないから、辛そうなんじゃないか」

 

 打つだけで辛いというのなら、いくら実力があろうともレギュラーに据えたりしないだろう。つまり、それだけが直接の原因ではないはず。考えられる理由としては……、

 

(一巡先を、未来を見る能力が原因か)

 

 咲はそう当たりを付けた。

 そして、今までより遥かに疲労しているその様子から、もう一点推測出来ることが存在した。

 

(きっと二巡先以上見れるんだ。但し、その代償に身体に負担が掛かるとかかな?)

 

 数少ない情報だけで的確に正解を導くこの洞察力こそ、咲の真骨頂である。一度対局を観戦した相手の情報なら、隠していない限り100%看過出来るのだから末恐ろしい。

 

「だとするとマズいですね。きっと千里山は、お姉ちゃんを止めるためにかなり無茶をしてるようです」

「だとしても、私たちにはどうしようもないよ?」

 

 淡の言うことは最もである。

 和了るために。勝つために。全力で挑むのは大会なのだから当たり前のことだ。それを止めることは、赤の他人はおろか身内でも許されない。

 

(でも、これで何かあったりしたら、間違いなくお姉ちゃんは責任を感じちゃうだろうな……)

 

 不器用でも優しい姉だ。そんな姉が咲は好きだし、尊敬している。ただ、麻雀のせいによる家族崩壊が、照の重荷になっていないとも限らない。

 だから咲は姉を思って一つ、ある決心をした。

 

(もしもの時は、一肌脱ぎますか)

 

「監督さん」

「何かしら?」

「お願いがあります」

 

 

****

 

 

 〜南一局〜

 新道寺  67700 東

 千里山  83200 南

 阿知賀  65100 西

 白糸台 184000 北

 

「ツモ。2000、4000」

 

(速い……!)

(やはり、この段階では止めることは出来ませんか……)

 

 照の親番を流すことには成功し数え役満の危機は去ったといえるが、それは所詮一時的なものに過ぎない。まだ対局は終わっていないのだから。

 確かに連続和了の性質上、打点上昇はリセットされている。しかし、打点が低くなった分和了りまでが速く、止めるのは容易ではない。事実この局は煌は鳴くことも出来ず、最短で照に和了られていた。

 

(それにしても、また満貫からですか。ありがたいことにはありがたいのですが……)

 

 煌は照の狙いが読めない。

 子で加速し、親番で大きなのを和了る方が確実に効率が良い。照だってそんなこと理解しているはずなのに、後半戦では二回とも満貫から連続和了が始まっている。

 

(………まぁ、分からないことを考えていても仕方ありませんね。今最も心配なのは……)

 

 煌は下家を盗み見る。

 

「……はぁ……、はぁ……すぅ〜、はぁ………」

 

(怜さん。明らかに様子がおかしいです)

(怜さん……)

 

 煌と同様に怜を見ていた玄も心配そうな眼差しをしている。二人がそうなるのも無理はなかった。

 息も絶え絶え。瞳は光を失ったかのように霞れており、生気が感じられない。頑強な意志だけで持ちこたえている、そのようにしか見えないのだ。

 動作にも冴えがなく、南二局を開始するために賽に手を伸ばしているが、その手は重りでも付けているかのようだった。指先は震えており、牌を自摸る際も時々零していることがある。

 局が始まってからも様子は変わらなかった。一つ一つの動作が遅く精密性にも欠ける。

 

 怜はもう、限界だった。

 

「ロン」

 

 それでも対局は止まらない。

 

(……えっ?)

(そんなっ……⁉︎)

 

 手牌を倒したのは照。

 牌を捨てたのは怜。

 

「12000」

 

 無慈悲の和了りが、怜に直撃した。

 

 





一応お知らせです。
いつかに創作した
『友達いない同盟』
が、ネットで4月11日まで公開されているので気になる方は御覧になっては如何ですか?

次で先鋒戦ラストです。
今日の深夜には投稿出来ると思います。

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