咲-Saki- もし咲が家族麻雀で覚醒してたら   作:サイレン

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あっ、一応。
既にご存知の方が多いはずですが、阿知賀大将戦はマジでスーパー麻雀なので……あしからず。






9-2

 〜東一局〜

 東 千里山  87900 親

 南 新道寺  85300 

 西 阿知賀  93300 

 北 白糸台 133500 

 

 対局開始と同時、周りを押し潰すような威圧感が淡から放たれた。

 その重圧の意味することを三人は身をもって知る。

 

(二回戦で理解してたけど……)

(五向聴……)

(うっわぁ、ホントに酷い。六向聴……)

 

 淡の常時発動型支配系能力。

 対局相手の配牌を五向聴以下にする力──絶対安全圏。

 その後の自摸は衣の『場の支配』と異なり影響は出ないのだが、それでも十分に脅威的な力である。

 この能力がある限り淡と対局する場合和了るには、鳴かないのなら最低でも六巡以上掛かるのだ。

 

 淡以外の面子は改めてそれを理解する。

 

(想像以上にきっついなぁー。なのに大星さんは一人だけ手が軽いとか卑怯!)

 

 当然一巡目でなんとかなるわけなく、穏乃はそのまま牌を捨てる。

 

 直後、淡からの圧力が増大した。

 

「──リーチ」

 

(((なっ……⁉︎ ダブリー⁉︎)))

 

 声には出さないが三人の心中は同様であった。

 只でさえ三人は強制的に五向聴以下にまで手を落とされ、淡には何の制限もないのに、今回はまさかのダブリーである。真面に相手をするなど考えたくもない状況だ。

 竜華は淡の圧力とこのダブリーに、冷や汗が流れてないか不安に思うほど内心驚いていた。

 

(偶然にしても酷い……流石一年にして、白糸台の大将に選抜されただけの豪運やな)

 

 当たり前だが、竜華はこれを淡の運が良かっただけと片付けた。開幕ダブリーも、可能性としてはありえなくはないからだ。

 

(まぁ、やることに変わりはあらへん。聴牌まで持ってくまでや)

 

 例え淡がダブリーを掛けようとそうでなかろうと、麻雀は和了りを目指さなければお話にならない。そんなことは麻雀をやってなくても分かる。

 竜華は乱れた集中を取り戻しいつも通り麻雀を打つ。

 周りを伺うと、どうやら穏乃も姫子も驚いてはいたようだが竜華と同じ結論に至ったようだ。

 三人は黙々と、且つ淡に振り込まないよう最大限警戒しながら手作りに励む。

 

 その中で一人、淡だけが微かな笑みを浮かべいた。

 

「カン」

 

 最後の山の角の直前で淡は暗槓。

 これに他の三人は首を傾げる。

 

(カン……?)

(うちらとしてはありがたいんやけど……)

(トップがわざわざカンするなんて珍しい)

 

 槓をする一番のメリットはドラが増えることだ。あとは嶺上牌が引けることもあるが、咲のような選手でもない限りこれをメリットと考える人は少ない。

 対してデメリットは自身の手牌を晒すことと、ドラが増えるのは何も自分だけでなく対局相手全員だということだろう。

 一般的に考えると、トップは滅多に槓することはない。理由はデメリットが大きいからだ。

 運の要素が大きく関係する麻雀において、点数を引き離すことは確かに重要であるが、それよりも点数を失わないことの方が大事である。

 その点を考えるとトップがわざわざ槓することは、相手に逆転の機会を与えていることに他ならない。

 だからこそ三人は淡の行動を訝しんだのだ。

 

(二回戦まではカンなんて一度も……)

 

 先日対局していたときの淡とは様子も闘牌も異なることに、姫子は何とも言えない不安を覚える。

 

 それが形となったのはその一巡後であった。

 

「ツモ」

 

 開かれた淡の手牌。

 役はダブリーのみ。

 それに安堵する三人だったが、淡が手にした裏ドラを見て目を見開く。

 

(カン裏が……⁉︎)

(槓子に全乗りってことは……)

 

「3000、6000。……さぁ、ゲームスタートだよ」

 

 淡の背後から、万象の悉くを吞み込む暗闇が広がっていた。

 

 

 〜東二局〜

 親:新道寺

 

 開幕ダブリー。

 そんなスタートダッシュを()()に切った淡は、未だに揺らめく髪を意図的に抑えた。

 

(ふぅ……、ダブリーモードは一旦中断。前はこれの切り替えすら面倒だったから練習ではやんなかったなぁ……はぁ、過去の私……)

 

 咲と出会う前の自分の酷さをこんなことで実感するとは。まぁ、改善出来ているのだから良しとする。

 淡は一巡目を普通に捨てる。聴牌してないのだから当然だ。

 

(この時点でスミレの作戦ちょっと破ってるけど、これぐらいなら大丈夫だよね?)

 

 淡は何の考えもなしにこんなことはしていない。狙いは二つある。

 一つはこのダブリーを偶然だと思わせることだ。もしヤバくなったときは嫌でもダブリーを連発することになるし、そうすると能力の詳細が他校にバレる。ならいっそ、最初に点数を稼ぐべきと判断したのだ。この一局だけなら、恐らく偶然で済む。

 もう一つは完璧に自分勝手な理由で、溜まった鬱憤を発散したかったのだ。ダブリーをする瞬間の淡の気持ちは、「くたばっちまえサキ!」であった。

 

(スミレ、怒るかも……)

 

 でもやっぱり、許可なく仕掛けたことにちょっと後悔する。

 

「ポンッ」

 

 鳴いて速攻したのは姫子。

 それを見て淡はどういうことかを察する。

 

(そっか、そう思えば副将戦前半戦の東二局の一本場に白水哩が和了ってた。コンボがあるのかな?)

 

「チー!」

 

 事前に分かっている姫子の、というより哩と姫子の力。

 

(てかずっこいよね。副将が和了った局で大将がその倍の翻数和了るとか何それ反則!)

 

「ポンッ!」

 

 これで三副露。どうしてもこの局で和了りたいのだと判断出来る。

 

(二回戦ではコンボ掛かってるときは負けたけど、やっぱりもう一回試したいし……今回はほっとこ)

 

「ツモ! 500オール!」

 

 姫子の自摸和了り。

 これで試せるだろう。

 

 新道寺のコンボの力が。

 

 

 〜東二局・一本場〜

 親:新道寺

 

 点棒を卓の隅に置いた姫子は瞳を閉じてイメージする。

 紅く黒ずんだ大地と空。そこに立つ自分は左手を大きく広げる。

 手の先に現れるのは哩から授かった力──数字が書かれた金色の鍵。

 

(満貫、おいでませ!)

 

 書かれている数字は『4』。この数字は翻数を示していて、それに見合った配牌がこの局では現れるのだ。

 姫子はその鍵の力を空に打ち上げる。

 天へと届いたその力は、配牌の雨となって姫子の元へと降り注がれた。

 

 開かれた手牌は、淡の絶対安全圏を跳ね除けた二向聴。

 

(これならっ!)

 

 四巡目。

 

「ロン、12300」

 

 振り込んだのは淡だった。

 四巡目の面前で和了られたということは、新道寺のコンボに敗北したということだ。

 

(やっぱり私の絶対安全圏の上をいくのか……。強いなぁ〜、新道寺のそれ)

 

 想定内ではあったが、自分の力が通じないことを理解して苦虫を噛み潰した表情になる。

 

(本当に勝てないのか試したいけど、流石に()()は使えない。対『宮永』用に生み出したアレをこんなところで使うのはナンセンスだしね。ここはガマン)

 

 切り札は決勝まで取っておく。これは菫の作戦であり、淡の判断でもあった。

 

 そして、姫子の和了りを見て厄介と判断したのは淡だけではない。

 竜華も姫子を盗み見ていた。

 

(これでうちの一人沈みか。……超新星言われとる大星淡もアレやけど、今は新道寺の方が断然危険)

 

 この局で証明されたのは、姫子はこの後何度もデカイのを和了る可能性が非常に高いということだ。

 

(ダブルエースの火力。今の満貫を和了ったんなら、後半には数え役満も……)

 

 副将戦で哩が和了ったのは前半戦の東二局・一本場、東三局、東四局、南一局、後半戦の東二局に東三局、南三局の全部で八つ。

 コンボもあって大将戦では全部が全部が満貫以上で、南三局に至っては最低でも三倍満が降りかかると千里山のブレインは言っていた。

 

(まずいなぁ、ちょっとピンチかも……)

 

 竜華は超強豪校と言われる千里山の部長ではあるが、新道寺のコンボや宮永照のような非常識的な火力は備えていない。

 竜華の武器は正確な手順と精度の高い読み。異能などないデジタルな麻雀なのだ。

 だからこそ現状に危機感を覚える。

 このままでは白糸台を一位から引き摺り堕とすことはおろか、新道寺の高火力もあって二位抜けすら危うい。そのせいで負ける気などは毛頭ないのに、少し弱気になってしまった。

 

 気合い注入と自身への慰めも含め、竜華は太腿を軽くパンパンと叩く。

 太腿を見て思い出すのは親友のことだった。

 

(ここに怜がおってくれれば、少しは安心出来んのになぁ)

 

 先程までずっと乗せていたというのに、もう怜の暖かさを求めている自分。情けないと思うと同時に笑ってしまう。

 

(そう思えば怜、さっき変なこと言っとったなぁ……)

 

 控え室から出る時だ。怜が妙なことを口走ったのは。いや、過去にも同じことを言っていた。

 ちょっと気になったので竜華は思い返すことにする。

 

(えーと確か、怜ちゃんパワーがどーのこーのやったっけ?)

 

 そう、怜ちゃんパワー。

 怜曰く、一巡先が見えるとかいうけったいな力は、竜華みたいに元々強い子にパワーがあった方が良い。だから膝枕をしてもらってるときにその力を、通称怜ちゃんパワーを竜華の太腿に送り込んでいるそうだ。

 一応ガチでマジな理由らしい。竜華からすると、膝枕をしてほしいがための後付けの理由にしか思えなかったが。

 でもさっき見た怜は意外と真剣だった気がする。過去に言っていた時はニヤついていたというのに。

 

(前に言われたときは何それとか思ったけど、今冷静に考えてみても、やっぱり何それって感じやけど……。あと、「今は咲ちゃんのお陰か、ごっつ調子ええからスーパー怜ちゃんパワーや!」ってのがまたアレやけど……)

 

 竜華は太腿を手でさする。

 気持ち的にその怜ちゃんパワーが充満していて、淡く輝き出したように感じた。

 

(ここに怜を感じる……こっちかて、一人やない!)

 

 気概に満ちた竜華の瞳が、中央に収束するように加速し始めた。

 

 

 〜東二局・二本場〜

 親:新道寺

 

 竜華は一人、真っ暗な場所に沈んでいく感覚を覚えていた。

 

(……えっ、なんやこれ?)

 

 人生初めての現象にビックリするが、その後更に驚くことになる。背後から肩を触られた感触がしたからだ。

 咄嗟に振り向くとそこには、本当に淡く輝く怜の姿があった。

 

(「と、怜……?」)

(「怜やない、怜ちゃんや!」)

(「へ、へぇ……」)

 

 同じじゃないの……? というツッコミをギリギリ止めることが出来た。

 このわけの分からない現象に色々と気になることがあるのに、竜華を先んじて怜ちゃんが動き出す。

 

(「竜華、未来を見せたるわ」)

 

 怜ちゃんから手を差し出されたので、竜華はとりあえず繋いでみる。

 すると、怜ちゃんが指差す先に枝分かれする未来の光景が映し出された。

 

(「こ、これって……」)

(「この局の最高点の和了りや。他に到達点があっても、見える形はそれ一つ」)

(「……怜がそう言うなら」)

 

 竜華は瞳を開いて暗い空間から出て対局に戻り、怜ちゃんが見せてくれた未来を辿るように牌を打つ。

 

 結果はすぐに現れた。

 

「ロン、8000の二本場は8600」

「……はい」

 

 竜華は姫子からの直撃を奪えた。

 怜ちゃんが見せてくれた未来と変わらない和了りの形で。

 

(怜が見せてくれた通りになった。これって、見えた形に必ずなるんやろうか?)

(「そうやで」)

(「わぁ⁉︎ ビックリした」)

 

 瞬時に真っ暗空間に戻った竜華は、これまた急に現れた怜ちゃんに驚く。

 

(「怜ちゃんパワーで和了りの形が見えたのなら必ずその形で和了れるで。まぁ、ウチのと違って他人の情報はあんま分からんけどな」)

(「それでも十分過ぎるんやけどな……でも、これなら」)

 

 怜ちゃんが授けてくれた力に竜華は自信を付ける。これでやっと勝ちの芽が出てきただろう。

 

(「次は親番やから和了っておきたいんやけど……」)

 

 思わず怜ちゃんを見ると、諦めたように手と首を振っていた。

 

(「ほななー」)

(「えぇっ⁉︎」)

 

 登場は突然で、退場は呆気なかった。

 怜ちゃんはすぐに見えなくなり、同時に対局へと視界が戻る。

 

 展開が早過ぎて竜華は混乱気味だったが、考えることを止めては碌なことにならないと判断し、さっきの怜ちゃんの行動を考える。

 そこでやっと気付いた。

 

(そうか、次は東三局。つまり……)

 

 ──新道寺の倍満が来る。

 

 

 

 


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